相続で失敗しない遺言書の作り方|種類・効力・費用・注意点を専門家が徹底解説

遺言書が、相続をめぐる無用な争いを防ぐために極めて有効な手段であることは、多くの方がご存知のことでしょう。ご自身の死後、残された大切なご家族が円満に財産を承継できるよう、その作成を検討されている方も少なくないはずです。

しかし、その「円満な承継」の本質が、に争いを防ぐだけでなく、「残された家族の貴重な時間と心労を、法的な仕組みでいかに守るか」という点にあることまで、思いを巡らせている方は多くはないかもしれません。

記事のポイントは以下のとおりです。

  • 遺言書はトラブル原因になる可能性の高い「遺産分割協議」を省略できる
  • 確実性なら「公正証書」が最適、手軽さなら「自筆証書」。法務局の「保管制度」を利用することで、無効になるリスクを大幅に減らせる。
  • 遺言書は形式不備や遺言能力の問題で「無効」になるリスクがある
  • 兄弟姉妹以外の相続人に対しては、法律で最低限の取り分「遺留分」への配慮が重要
  • 「遺言執行者」を指定すると相続人全員の協力を得ずとも手続きがスムーズに進められる

この記事では、まず「遺言書のメリット」を分かりやすく解き明かし、その上で、そのメリットを台無しにしないための、絶対に必要な知識と具体的な作り方をご案内します。

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1.遺言書がないと相続はこうなる

多くの人が「うちは家族仲が良いから大丈夫」と考えがちですが、法的な準備がなければ、その想いとは裏腹に、ご家族に大きな負担と争いの種を残してしまう可能性があります。まず、遺言書がない場合に法律上何が起こるのか、その現実を知ることから始めましょう。

 遺言書がない相続は「遺産分割協議」が必須

遺言書がない相続では、法律で定められた相続人全員で「誰が、どの財産を、どれだけ相続するか」を話し合って決めなければなりません。この全員参加の話し合いを「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」と呼びます。

この協議が、相続トラブルの最大の火種です。逆に言えば、法的に有効な遺言書があれば、この最も揉めやすい「遺産分割協議」を原則として省略できるのです。これが遺言書の持つ最も強力な効果の一つです。

【図解】遺言書の有無による手続きの“本質的な”違い

一目でわかるように、遺言書が「ない場合」と「ある場合」の相続手続きについて、その目的や負担、リスクの違いを表にまとめました。

手続き  【遺言書がない場合】
全員で分け方をゼロから決める
【遺言書がある場合】
故人が決めた通りに分ける
STEP❶
調査
目的: 協議の参加者(誰が)と対象財産(何を)を確定させるため。
負担: 調査結果がそのまま権利主張の根拠となり、紛争の前提となるため、極めて重要かつ慎重さが求められる。
目的: 遺言内容の実現と、遺留分権利者(※)の確認のため。
負担: 目的が手続き的な確認に限定されるため、精神的負担は比較的小さい。
STEP❷
分け方
の決定

【最大の難関:遺産分割協議】
内容: 相続人全員で、感情論や過去の経緯も絡めながら、合意形成を目指す。
リスク: 話し合いがまとまらず、長期化・泥沼化するリスクが常に伴う。
【協議は原則不要】
内容: 遺言書に書かれた内容が絶対的な指針となる。
リスク: そもそも話し合いがないため、合意形成に関するリスクは発生しない。
STEP❸
公式書類
の作成
【遺産分割協議書】
必要なもの: 相続人全員の署名と実印
リスク: 一人でも署名・押印を拒否すれば、書類は完成せず、手続きが完全にストップする。
【遺言書そのもの】
必要なもの: 故人が生前に作成した、法的に有効な遺言書。
リスク: 遺言書の形式不備(無効リスク)や、そもそも発見されない(紛失リスク)がある。
STEP❹
名義変更
・解約
【全員の協力が必須】
進め方: 金融機関や法務局に、遺産分割協議書と全員分の印鑑証明書などを提出。
負担: 全員の書類が揃うまで待つ必要があり、非常に時間がかかる。
【遺言執行者が単独で可能】
進め方: 遺言執行者が、遺言書を根拠に単独で手続きを行う。
負担: 遺言執行者の権限で進められるため、迅速かつスムーズ。

※遺留分:兄弟姉妹以外の相続人に法律で保障された最低限の財産の取り分のこと

遺言書がない場合は、「合意形成」という、人の感情に左右される不確定な要素が必要となり、時間も精神的負担も大きくなります。相続人一人ひとりの協力がなければ、一歩も前に進めません。

一方、有効な遺言書がある場合は、その不確定要素が根本から排除され、「故人が定めた願い通りに、手続きを粛々と進める」という確実な手続きができます。

これが、遺言書が単なる紙切れではなく、残されたご家族を未来のトラブルから守る「強力な防波堤」となる最大の理由なのです。

 遺言書がない場合に発生するトラブル例

【例①】遺産分割協議が泥沼化するケース

普段は良好な関係の家族でも、いざ財産を前にすると、それぞれの立場や感情が複雑に絡み合い、協議が難航することは珍しくありません。

  • 「長男なのだから多くもらうのが当然だ」(感情論)
  • 「私は親の介護を一身に背負ってきた。その分を考慮してほしい」(寄与分の主張)
  • 「親から生前に資金援助を受けていたはずだ」(特別受益の主張)

このような主張がぶつかり合い、一度こじれると、家庭裁判所での調停や審判へと発展します。解決までに数年を要し、多額の弁護士費用がかかるだけでなく、家族関係に修復不可能な亀裂を残すことになります。

【例②】残された家族に膨大な手続き負担がかかるケース

遺産分割協議は、相続人“全員”の合意がなければ成立しません。もし、相続人の中に以下のような方が一人でもいると、手続きは完全にストップします。

  • 行方不明、音信不通の相続人がいる
    家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てる必要があり、時間と費用がかかる
  • 認知症などで判断能力が不十分な相続人がいる
    「成年後見人」の選任を申し立てる必要があり、手続きが終わるまでは協議を進められない
  • 海外に住んでいる相続人がいる
    国際郵便での書類のやり取りや、在外公館でのサイン証明の取得など、手続きが非常に煩雑
  • 協力する気がない、非協力的な相続人がいる
    話し合いに応じてもらえない、実印を押してもらえない、というだけで手続きは塩漬け状態に

これらの結果、預貯金は引き出せず、不動産は売却もできず、残された家族が経済的に困窮してしまうという悲劇も起こり得るのです。

2.遺言書を作ると相続はこう変わる

遺言書が一枚あるだけで、なぜあれほど複雑で揉めやすい相続が、驚くほどスムーズに進むのでしょうか。その力の源泉は、民法が定める画一的な「法定相続」のルールよりも、親(遺言者)自身の意思が最優先されるという、遺言書だけが持つ大原則にあります。

 遺言書の「3つの効力」とは?

有効な遺言書は、相続手続きを根本から変え、ご家族の負担を大きく軽減する3つの効力を持っています。

① 相続トラブル最大の原因、「遺産分割協議」そのものを省略

相続トラブルの多くは、相続人全員で行う「遺産分割協議」から生まれます。遺言書は、誰に、どの財産を渡すかを親(遺言者)が最終決定者として明確に指定することで、相続人同士が財産の分け方を話し合うという、最も意見が対立しやすい段階そのものを、原則として発生させません。

これにより、深刻な対立に繋がりかねない話し合いを、未然に防ぐことができるのです。

②「相続人全員の協力」という高いハードルを越える

遺言書がない場合、預貯金の解約から不動産の名義変更まで、あらゆる手続きに「相続人全員の署名と実印」が必要となります。これは、残されたご家族にとって非常に大きな負担です。

しかし、遺言書で「遺言執行者」を指定しておくことで、その執行者が単独で相続手続きを進める法的な権限を持ちます。 これにより、相続人全員の同意や署名・押印を取り付けるという、時間と多大な労力がかかるプロセスを大幅に簡略化できます。

③ 公的機関での手続きを円滑に進める「証明」

金融機関や法務局といった組織は、手続きの根拠となる「公式な書類」を何よりも重視します。有効な遺言書(特に公正証書遺言)は、それ自体が「親(遺言者)の最終意思」を証明する、極めて信頼性の高い公的書類となります。

そのため、金融機関などはこの遺言書を主な根拠として手続きを進めることができ、相続人全員の同意を示す複雑な書類の提出を省略できる場合が多くなります。結果として、手続き全体が迅速かつ円滑に進むのです。

 遺言書がある場合の相続手続きの流れ

遺言は、遺言者が死亡した時にその効力が生じます。発見から完了までの全体の流れを、ステップごとに見ていきましょう。公正証書遺言など、確実性の高い遺言書がある場合の相続手続きは、驚くほどシンプルになります。

STEP 1:ご逝去・遺言書の確認

遺言者が亡くなられた後、まずは遺言書を探します。遺品整理の中や、貸金庫、信託銀行、あるいは生前に依頼した専門家などが保管している可能性があります。

遺言書を発見したら、その場で封を開けず、まずはどの種類の遺言書なのかを確認します。

  • 自筆証書遺言か? → 封筒に入っていることが多い。手書きで作成されている。
  • 公正証書遺言か? → 公証役場の印章がある、立派な「正本」または「謄本」。
  • 法務局の保管制度を利用しているか? → 生前に「保管証」を受け取っているはずです。

STEP 2:家庭裁判所での「検認」(※必要な場合のみ)

検認とは、遺言書の偽造・変造を防ぎ、その存在を相続人全員に知らせるために、家庭裁判所で行われる手続きです。遺言書の有効・無効を判断するものではありません。手続きには通常1〜2ヶ月かかります。

自筆証書遺言の場合、家庭裁判所での「検認」が法律で義務付けられています。公正証書遺言や保管制度を利用した自筆証書遺言の場合は、この手続きが一切不要です。

STEP 3:相続人と相続財産の調査

遺言執行者は、遺言の内容を正確に実現する責任を負っています。そのため、相続財産や相続人の調査を行います。

そして、その調査結果に基づき、遺言執行者は遅滞なく「財産目録」を作成し、全ての相続人に交付しなければなりません。 これは法律で定められた執行者の重要な義務であり、これにより相続人は、これから手続きが行われる相続財産の全体像を正確に把握することができます。

STEP 4:遺言執行者の就任・通知

遺言書で指定された「遺言執行者」が、その役職に就くことを引き受けた後(就任承諾)、全ての相続人に対し、自分が執行者に就任したことと遺言の内容を通知します。

💡 遺言執行者とは?
遺言の内容をスムーズに実現するため、相続財産の管理や各種手続きを行う権限を与えられた人のこと。相続人の代表として、単独で銀行口座の解約や不動産の名義変更ができます。予め遺言書で指定しておくのが一般的です。

STEP 5:遺言内容の執行(名義変更・解約・分配)

相続人への報告が終わった後、いよいよ具体的な財産の移転手続きに入ります。遺言執行者は、その権限に基づき、単独で以下の手続きを進めます。

不動産 法務局で、遺言書の内容に従った所有権移転登記を申請
預貯金
金融機関で、口座を解約し、払い戻しを受ける
株式など 証券会社で、名義の書き換え手続きを行う
分配
払い戻した預貯金などを、遺言書で指定された受遺者(財産を受け取る人)へ引き渡す

STEP 6:手続き完了の報告

全ての遺言執行手続きが完了したら、遺言執行者は相続人に対し、その経過と結果を報告します。財産の収支をまとめた計算書などを添付するのが一般的です。この報告をもって、遺言執行者の任務は完了となります。

3.遺言書が特に必要になる6つのケース

相続はすべての家庭で発生しますが、特に以下のようなケースでは、遺言書がないと深刻なトラブルに発展する可能性が極めて高くなります。ご自身の状況と照らし合わせ、セルフチェックしてみてください。

ケース①:お子さんがいないご夫婦

遺言書がない場合、亡くなった夫の財産は、妻がすべてを相続できるわけではありません。亡き夫の親が存命であれば「妻2/3、親1/3」親がすでに亡くなっている場合は「妻3/4、夫の兄弟姉妹1/4」の割合で遺産を分けることになります。

夫の兄弟姉妹とは疎遠であるケースも多く、遺産分割協議が難航しがちです。「全財産を愛する配偶者に」と願うなら、その旨を記した遺言書が絶対に必要です。

ケース②:再婚していて、前の配偶者との間に子供がいる

現在の配偶者と、前の配偶者との間にいる子供は、どちらも法律上の相続人です。心情的に複雑な関係にある当事者同士が、円満に遺産分割協議を行うのは至難の業です。

誰にどの財産を承継させたいのか、遺言書で明確な意思表示をしておくことが、無用な争いを避ける唯一の道と言えます。

ケース③:相続人以外に財産を渡したい人がいる

長年連れ添ったパートナーでも、法的な婚姻届を出していない「内縁関係」の場合、相続権は一切ありません。また、息子の妻(嫁)など、法定相続人ではないけれど身の回りの世話をしてくれた人に財産を遺したい場合も同様です。

こうした方々に財産を遺すには、「遺贈(いぞう)」という形で遺言書に記載する以外に方法はありません。

ケース④:相続人同士の仲が良くない、連絡が取れない相続人がいる

相続発生前から相続人間の関係が良好でない場合、感情的な対立から遺産分割協議がまとまらない可能性は極めて高いでしょう。さらに深刻なのが、相続人の中に行方不明や音信不通の方がいるケースです。

この場合、遺産分割協議を開くこと自体ができず、預貯金の解約や不動産の売却など、全ての相続手続きが完全にストップしてしまいます。 遺言書があれば、そもそも遺産分割協議が不要になるため、こうした人間関係のしがらみや物理的な障壁に左右されることなく、スムーズに財産承継を進めることが可能になります。

ケース⑤:個人で事業を経営している、または不動産を多く所有している

自社の株式や事業用資産、アパートなどの収益不動産は、安易に共有状態にすべきではありません。株式が分散すれば経営権が不安定になり、不動産が共有になれば、売却や大規模修繕といった重要な意思決定に共有者全員の同意が必要となり、経営が停滞します。

後継者に事業資産を集中させる旨の遺言書は、事業承継において不可欠です。

ケース⑥:海外に相続人がいる場合

日本国内での手続きに、海外在住の相続人の協力が必要になると、書類のやり取りだけで数ヶ月単位の時間がかかることもあります。時差や言語の壁もあり、手続きの負担は計り知れません。

遺言執行者を指定した遺言書を作成しておくことで、国内で手続きを完結させることができ、負担を大幅に軽減できます。

4.自筆と公正、何が違う?遺言書の種類と選び方

遺言書にはいくつか種類がありますが、実務上、重要なのは「自筆証書遺言」「公正証書遺言」の2つです。それぞれのメリット・デメリットを正しく理解し、ご自身の目的や状況に合った最適な方法を選びましょう。

比較項目 自筆証書遺言 公正証書遺言
信頼性・
確実性
△ 要件不備で無効になるリスクがある  公証人が作成するため、無効リスクがほぼ無い
作成費用
 自分で書けば0円。保管制度利用で3,900円 △ 財産額に応じて数万円~数十万円
作成の
手間
 いつでも一人で作成・修正できる  専門家や公証人との打ち合わせが必要
死後の
手続き
△ 家庭裁判所での「検認」が必要※ 「検認」が不要で、すぐに手続きを開始できる
保管の
安全性
 紛失・隠匿・改ざんのリスクがある  原本が公証役場で厳重に保管される

※2020年から始まった法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用した場合、検認は不要になります。

 手軽さと費用で選ぶなら「自筆証書遺言」

遺言者本人が、全文、日付、氏名を自書し、押印することで作成する遺言書です。費用をほとんどかけずに、思い立った時に一人で手軽に作成できるのが最大のメリットです。

しかし、その手軽さの裏返しとして、法律で定められた厳格な形式を守らないと無効になってしまうリスクや、紛失・改ざんの危険性、そして亡くなった後に家庭裁判所での「検認」という手続きが必要になるというデメリットがありました。

ですが、これらのデメリットの多くは、2020年から始まった法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用することで、大幅に軽減できるようになりましたこの制度を利用すると、法務局が遺言書の形式をチェックしてくれる上、原本を安全に保管してくれます。そして最も大きなメリットが「家庭裁判所での検認が不要になる」ことです。これにより、残されたご家族の負担は格段に軽くなります。

こんな方に向いています

  • とにかく費用をかけずに第一歩を踏み出したい方
  • 財産構成が預貯金のみなど、非常にシンプルで分かりやすい方
  • 内容を秘密にしておきたい方

 確実性と安心を最優先するなら「公正証書遺言」

遺言者が公証役場に出向き、証人2名の立会いのもと、遺言の内容を公証人に伝えて作成してもらう、最も信頼性の高い遺言書です。

法律の専門家である公証人が作成に全面的に関与するため、形式の不備で無効になる心配はまずありません。また、原本が公証役場で厳重に保管されるため、紛失や改ざんのリスクもゼロです。そして、自筆証書遺言と違い、家庭裁判所での「検認」手続きは一切不要なため、亡くなった後、最もスムーズに相続手続きを開始できます。

費用や手間はかかりますが、親の想いを最も確実に実現し、残されたご家族の負担を最小限にできる、まさに「安心」を最優先するための最善の方法と言えます。

こんな方に向いています

  • 相続トラブルの可能性を限りなくゼロにしたい方
  • 財産が高額、または不動産や株式など種類が複雑な方
  • ご自身の想いを法的に万全な形で確実に残したい方
  • 字を書くのが苦手な方、手続きの手間を省きたい方
家族への想い、確実な遺言で

遺言書の種類選びは、相続対策の重要な第一歩です。ご家庭の状況や財産内容によって、最適な選択は異なります。相談実績6000件超の専門家がご家族に最適な資産管理の解決策をご提案いたします。

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5.失敗しない遺言書の作り方|書き方見本と手順を解説

【費用を抑える】自筆証書遺言の書き方と新・保管制度

自筆証書遺言を有効なものにするには、以下の5つの絶対的なルールを守る必要があります。

全文を自書する

遺本文は必ず自分で手書きします。パソコンやワープロで作成したものは無効です。

日付を正確に記載する

「令和7年7月30日」のように、作成した年月日を特定できるように書きます。「吉日」などは無効です。

氏名を自書する

戸籍上の氏名を正確に書きます。

押印する

署名の横に印鑑を押します。認印でも構いませんが、実印の方が望ましいです。

財産目録の全ページに署名・押印する

2019年の法改正により、財産の一覧である「財産目録」はパソコンでの作成や、通帳のコピー、不動産登記簿謄本の添付が認められました。ただし、その目録のすべてのページに、自筆で署名し、押印しなければなりません。

書き方見本:自筆証書遺言

遺言書

 遺言者 佐藤 太郎(昭和25年1月1日生)は、以下のとおり遺言する。
(不動産の表示)
所 在  東京都〇〇区〇町
地 番  〇番〇
地 目  宅地
地 積  150.00平方メートル

 第2条 長男 佐藤 一郎(昭和55年3月3日生)に、下記の預金債権を相続させる。
(1)〇〇銀行 中野支店 普通預金
口座番号 1234567
(2)△△銀行 本店営業部 定期預金
口座番号 7654321

第3条 遺言執行者として、長男 佐藤 一郎を指定する。

付言事項
花子、今までありがとう。一郎、お母さんを頼んだぞ。家族みんなで助け合って、これからも仲良く暮らしてください。

 令和7年7月30日 東京都〇〇区〇町〇番〇号において 遺言者 中野 太郎 ㊞

💡 自筆証書遺言書保管制度の活用
自筆証書遺言を作成した場合は、法務局で遺言書を預かってくれる「自筆証書遺言書保管制度」の利用を強く推奨します。手数料3,900円で、法務局が形式面の不備をチェックしてくれる上、原本を安全に保管してくれ、死後の面倒な「検認」手続きも不要になります。

【安心確実】公正証書遺言の作成手順と専門家への依頼

ご自身の想いを最も確実に、そして残されたご家族の負担を最小限にする形で実現したいと願うなら、「公正証書遺言」が最善の選択肢となります。その作成は、以下のステップで進められます。

STEP1:専門家への相談と遺言内容の確定

まず初めに、「誰に、どの財産を、どのように遺したいのか」という、親(遺言者)の意思を整理し、固めることから始まります。この段階で、ご家族の状況や財産内容をよく理解している司法書士や弁護士などの専門家へ相談し、法的に最適な実現方法についてアドバイスを受けるのが一般的です。

専門家は、単に話を聞くだけでなく、将来起こりうる相続トラブルを予測し、それを回避するための遺言内容を一緒に検討してくれます。

STEP2:必要書類の収集と財産の調査

遺言内容の方向性が固まったら、次は公証役場に提出するための必要書類を収集します。具体的には、遺言者ご本人の印鑑証明書や戸籍謄本、財産を受け取る方の戸籍謄本、不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)や預貯金の残高がわかるものなど、財産の種類に応じて多岐にわたります。

これらの書類をご自身で集めることも可能ですが、平日の日中に役所へ行く必要があるなど、手間と時間がかかります。多くの場合、相談した専門家に依頼すれば、こうした煩雑な書類の収集もすべて代行してもらうことができます。

STEP3:公証人との打ち合わせと文案の確定

集めた書類と確定した遺言内容に基づき、専門家が法的に完璧な遺言書の「文案」を作成します。

そして、その文案を公証役場の公証人に事前に提出し、内容に不備がないか、遺言者の意思が正しく反映されているかといった点について、綿密な打ち合わせを行います。この事前の調整により、作成日当日の手続きが非常にスムーズに進むのです。

STEP4:証人の手配

公正証書遺言の作成には、法律上、証人2名の立会いが必要です。この証人には、将来財産を受け取る可能性がある相続人やその配偶者、直系血族などはなることができません。

誰に頼めばよいか分からない場合でも、心配は無用です。通常、依頼した専門家やその事務所の職員が、守秘義務を守る中立な立場で証人となってくれますので、ご自身で探す必要はありません。

STEP5:公証役場での作成・完成

予約した日時に、遺言者と証人2名が公証役場へ向かいます(多くの場合、依頼した専門家も同席します)。公証人が、最終確定した遺言書の文案を遺言者本人に読み聞かせ、その内容に間違いがないか最終確認を行います。

遺言者の意思に相違がなければ、遺言者、証人、そして公証人がそれぞれ署名・押印し、公正証書遺言は法的に完成します。完成した遺言書の原本は公証役場で厳重に保管され、遺言者にはその写しである「正本」と「謄本」が交付されます。

6.遺言書作成にかかる費用はいくら?

遺言書作成にかかる費用は、大きく分けて「①ご自身で作成を頑張る場合の費用」「②専門家のサポートを得て、確実性を重視する場合の費用」に分かれます。

どの方法を選ぶかで金額は大きく変わりますので、それぞれの内訳と特徴を理解し、親やご自身の目的に合ったプランを検討しましょう。

【費用重視プラン】自筆証書遺言の場合

ご自身で作成する自筆証書遺言は、費用を最も安く抑えることができます。

内訳①:自分だけで作成・保管【費用:0円】

紙とペン、印鑑さえあれば作成できるため、費用は実質かかりません。ただし、紛失や法的な不備のリスクはご自身で負うことになります。

内訳②:法務局の「保管制度」を利用【費用:1通あたり 3,900円】

わずかな手数料で、法務局が遺言書の形式をチェックし、原本を安全に保管してくれます。さらに、死後の面倒な「検認」も不要になるなど、メリットは絶大です。

【確実性重視プラン】公正証書遺言の場合

公正証書遺言を作成する場合、その内容や財産額に応じて、公証役場に支払う「公証人手数料」が必要となります。これは法律で定められた全国一律の料金です。

公証人手数料の基本料金表

遺言書に記載する財産の価額 手数料
100万円以下 5,000円
100万円超 ~ 500万円以下 11,000円
500万円超 ~ 1,000万円以下  17,000円
1,000万円超 ~ 3,000万円以下 23,000円
3,000万円超 ~ 5,000万円以下 29,000円
5,000万円超 ~ 1億円以下 43,000円

※この基本手数料に加え、全体の財産額に応じた遺言加算(11,000円~)や、証人の日当、出張費などが別途かかります。

モデルケースで見る計算例

「財産総額5,000万円を、妻に3,000万円、長男に2,000万円相続させる」という遺言の場合

  • 妻の分(3,000万円)の手数料:23,000円
  • 長男の分(2,000万円)の手数料:23,000円
  • 手数料の合計: 23,000円 + 23,000円 = 46,000円
  • 遺言加算:11,000円 (※財産総額が1億円以下の場合)
  • 公証人手数料の合計額(目安): 46,000円 + 11,000円 = 57,000円

このように、財産の内容を公証人に伝えれば、正確な手数料を計算してもらうことができます。

【安心・おまかせプラン】専門家に依頼する場合

司法書士や弁護士に公正証書遺言の作成をトータルで依頼する場合の費用です。「専門家への報酬」と、上記「公証人手数料などの実費」の合計額が必要となります。

専門家への報酬目安【費用:15万円 ~ 30万円程度】

これは、遺言書作成に関するコンサルティング、相続人や財産の調査、法的に最適な文案の作成、公証人との打ち合わせ、必要書類の収集代行、証人の手配など、煩雑で専門的な作業をすべて任せるための対価です。

家族への想い、確実な遺言で

遺言書の種類選びは、相続対策の重要な第一歩です。ご家庭の状況や財産内容によって、最適な選択は異なります。相談実績6000件超の専門家がご家族に最適な資産管理の解決策をご提案いたします。

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7.その遺言書、無効かも?注意点とよくある失敗

せっかく作成した遺言書が、法的な効力を持たなければ意味がありません。実務でよく見られる失敗例と、その対策を知っておきましょう。

落とし穴①:厳格すぎる「形式」の不備

自筆証書遺言は、法律で定められた形式が一つでも欠けていると、それだけで無効になります。「日付の記載漏れ」「押印忘れ」といった基本的なミスのほか、「夫婦が連名で1枚の紙に書く(共同遺言)」ことも法律で禁止されており、無効です。また、内容を訂正する際も、法律で定められた厳格な方法(二重線を引いて押印し、どこをどう直したか付記する)に従わないと、訂正そのものが認められません。

対策

自筆で作成する場合は、必ず法務局の「保管制度」を利用しましょう。申請時に法務局の職員が形式面のチェックをしてくれるため、こうした初歩的なミスによる無効リスクを大幅に減らすことができます。

落とし穴②:曖昧な「内容」の記載

「自宅不動産を長男に」という記載だけでは、法務局で名義変更ができません。不動産は登記事項証明書(登記簿謄本)の通りに、預貯金は金融機関名・支店名・口座番号まで正確に特定して記載しないと、手続きが滞ってしまいます。また、「すべての財産を妻に」と書いた場合、後から多額の借金が見つかると、その借金も妻が引き継ぐことになりかねません。

対策

財産を記載する際は、必ず公的な資料(登記簿謄本や通帳など)を手元に置き、一言一句正確に書き写すことが重要です。どの財産を指すのか、誰が見ても客観的に特定できるように記述する必要があります。

落とし穴③:作成時の「遺言能力」への疑い

遺言書は、その内容を理解し、判断できる能力(遺言能力)がある時に作成しなければ有効となりません。特に、認知症と診断された後に作成された遺言書は、他の相続人から「本人の正常な意思判断のもとで作られたものではない」として、後から遺言の有効性そのものを争われるリスクが非常に高くなります。裁判では、作成当時の医療記録(カルテ)などが重要な証拠となります。

対策

遺言書は、心身ともに健康で、判断能力がはっきりしているうちに作成しておくことが何よりも重要です。もし少しでも不安がある場合は、作成時に医師の診断書を取得しておく、あるいは確実性を期して公正証書遺言を選択する、といった対策が考えられます。

落とし穴④:相続人の「遺留分」への無配慮

兄弟姉妹以外の相続人には、法律で最低限保障された財産の取り分である「遺留分」があります。例えば「全財産を長男に」という遺言は有効ですが、他の子供は長男に対して遺留分に相当する金銭の支払いを請求できます。

この請求が、新たな金銭トラブルの火種となるのです。不動産しか遺されなかった長男が、代償金を支払うために、相続した実家を売却せざるを得なくなる、という悲劇も起こり得ます。

対策

遺言書を作成する際は、できるだけ各相続人の遺留分を侵害しない内容に配慮するのが、円満相続の秘訣です。どうしても特定の相続人に多く財産を遺したい場合は、なぜそうするのか、その想いや理由を「付言事項」として書き残しておくことで、他の相続人の理解を得やすくなることがあります。

落とし穴⑤:「遺言執行者」の不在または不適格

遺言書に遺言執行者が指定されていないと、結局、相続人が家庭裁判所に選任を申し立てる必要が生じ、余計な手間と時間がかかってしまいます。また、相続人の一人を執行者に指定した場合、その人が他の相続人と対立関係にあると、手続きへの協力を得られず、かえって執行が困難になるケースもあります。

対策

遺言書を作成する際には、必ず信頼できる遺言執行者を指定しておきましょう。相続人間で公平性を保つのが難しい場合は、司法書士や弁護士などの専門家を遺言執行者に指定しておくことで、中立な立場で、迅速かつ円滑に手続きを進めてもらうことができます。

8.【2025年最新】知っておきたい遺言書の法改正と今後の動向

近年、遺言制度は大きな変革期を迎えています。ご自身やご家族が、「知らなかった」ために損をしたり、より便利な制度を使いこなせなかったりすることのないよう、ここでは2025年7月現在の最新情報と、今後の動向についてポイントを絞って解説します。

8-1.自筆証書遺言保管制度の活用法

2020年にスタートしたこの制度は、自筆証書遺言のデメリット(無効リスク、紛失リスク、検認の手間)の多くを解消する画期的なものです。費用も3,900円と低廉で、利用者は年々増加しています。自筆で作成する場合は、もはやこの制度の利用がスタンダードであるとご理解ください。予約が必要なため、管轄の法務局のウェブサイトで確認しましょう。

8-2.デジタル遺言(検討中)など今後の動向

現在、法務省の法制審議会では、パソコンやスマートフォン等で作成・保管できる「デジタル遺言」の創設が検討されています。現時点(2025年7月)では、まだ法制化には至っておらず、デジタルデータのみの遺言は法的に無効です。

しかし、将来的には、より利便性が高く、安全な遺言制度が導入される可能性があります。常に最新の法改正情報を注視しておくことが重要です。

9.【相続・遺言書のQ&A】よくあるご質問

Q1.認知症になった後でも遺言書は作れますか?

遺言書を作成するには、「遺言能力(遺言の内容を理解し、その結果を判断できる能力)」が必要です。認知症と診断されても、症状が軽度で遺言能力が認められれば作成は可能ですが、後にその能力の有無をめぐって相続人が争うリスクが高まります。

医師の診断書を取得しておくなどの対策が考えられますが、基本的には、心身ともに健康で、判断能力が明確なうちに作成しておくことが最も重要です。

Q2.遺言書で指定した内容と違う遺産分割を、相続人全員の合意で行うことはできますか?

はい、可能です。遺言書の内容があったとしても、相続人全員と受遺者全員が合意すれば、遺言書とは異なる内容で遺産分割協議を成立させることができます。ただし、遺言執行者がいる場合は、その執行者の同意も必要になる場合があります。

Q3.公証役場に遺言書を預けていることを、家族に秘密にしておきたいのですが。

可能です。公正証書遺言を作成したことや、その内容について、公証役場からご家族に連絡がいくことはありません。ただし、ご自身の死後、相続人が遺言書の存在に気づけなければ意味がありません。信頼できる一人(遺言執行者に指定した人など)にだけは、遺言書を作成し、公証役場に原本があることを伝えておくのが一般的です。

10.まとめ

  • 遺言書はトラブル原因になる可能性の高い「遺産分割協議」を省略できる
  • 確実性なら「公正証書」が最適、手軽さなら「自筆証書」。法務局の「保管制度」を利用することで、無効になるリスクを大幅に減らせる。
  • 遺言書は形式不備や遺言能力の問題で「無効」になるリスクがある
  • 兄弟姉妹以外の相続人に対しては、法律で最低限の取り分「遺留分」への配慮が重要
  • 「遺言執行者」を指定すると相続人全員の協力を得ずとも手続きがスムーズに進められる

最も重要なのは、遺言書が単なる手続き書類ではなく、親の大切な想いを法的に保護し、残されたご家族の未来を争いから守るための、極めて重要な法的ツールだということです。

しかし、その大切な遺言書も、形式の不備や作成時の状況(遺言能力など)によっては、その効力が争われ、無効になる可能性があることもまた事実です。そうなれば、かえってご家族に大きな負担を強いることになりかねません。

この記事をお読みになり、ご自身のケースではどの方法が最適なのか、あるいは具体的な手続きに不安を感じる際は、一人で抱え込まず専門家へ相談することが、後悔しないための最も確実な一歩です。ぜひお気軽にご相談ください。

この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに400件以上の家族信託をはじめ、相続・生前対策を取り組んでいる。年間60件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

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