相続というと被相続人の方が残した遺産を遺族がどのように分けるか、という面が取り上げられることが多いですね。遺産は残された遺族が引き継ぐものというイメージが強いと思いますが、中には遺族以外の第三者に財産を寄付したいという希望を持たれる方もいます。例えば、遺産の一部を世話になった社会福祉法人寄付したい、子供がいない方で自分が亡き後、特定の福祉団体などに寄付をしたいという場合、遺言で寄付を行うことも可能です。
遺言で寄付を行うことを「遺贈寄付」といいますが、高齢になって何か社会の役に立ちたいとお考えの方は、社会貢献として遺贈寄付を検討することができます。ただ、遺贈寄付には気を付けるべき点もありますから、気軽に行えるものではありません。
今回の記事では、遺贈寄付について法務、税務で気を付けるべき点を解説していきます。
目次
1.遺贈寄付とは?
通常、遺言書を作る時は相続人となる遺族に向けて相続財産の取り分などを指示します。例えば「配偶者〇〇に自宅を相続させる」などですね。実際には上記の自宅については正確な地番を記載しなければなりませんが、遺産を分け与える相手方は必ずしも自分の血の繋がった子などの法定相続人でなくても構いません。
法定相続人以外の相手に遺産を分けたい場合は「〇〇に財産△△を遺贈する」という具合に記載します。遺贈を受ける相手(受遺者)がこれを受け入れれば、被相続人の願いどおり対象の財産を相手に受け取ってもらえます。
そして、その相手は個人でなく法人などの団体を指定することも可能です。
特定の団体に相続財産の全部または一部を遺贈することを「遺贈寄付」と呼びます。「寄付」という言葉から一般の方が想像する構図としては、単純に相手に財産を譲ってお互いが満足、というイメージだと思いますが、実際に遺贈寄付を検討する場合は法務、税務両面で気を付けるべき点があります。
次の項ではまず法務面で気を付けるべき点を確認してみましょう。
2.遺贈寄付をする場合に法務面で気を付けるべき3つのポイント
まずは、法務面からの注意点をしっかり見ていきましょう。
2‐1.遺留分を配慮する
自分の財産を誰にどれだけ承継させるかは被相続人となる人が自由に決めることができます。遺言書への記載も自分の自由意思に従うのが基本ですが、遺留分への配慮は必要です。
遺留分は一定の相続人に認められた遺産の最低取り分です。
そのため、例えば、特定の団体に対して全財産を遺贈寄付する旨の遺言書を作ることはできますが、遺留分権利者が自分の遺留分を取り戻したいと思えば、遺贈寄付を受けた相手方に遺留分侵害請求を行い、自らの遺留分を取り戻す手続きを行うことができるのです。
遺留分についてはこれまで「遺留分減殺請求」と呼ばれていましたが、このルールにも法改正があり、すでに施行されています。遺留分を請求された側は、これを遺留分権利者に金銭で支払う必要があります。
遺贈寄付を受けた相手からすれば、予想もしない請求を受ける形になり、しかもその額は高額になることも多いので、もし遺贈を受けた財産が売却が難しい財産である場合には、資金の準備に苦労するかもしれません。
さらに以前は現物での遺留分返還が原則でしたが、これからは金銭での支払いが必要ですので、例えば不動産の寄付を受けた場合でも、返還資金として現金が必要になります遺留分の請求を受けること自体だけでなく、遺留分の返還資金の面でも受遺者側に大きな負担を強いる可能性があるということです。
遺留分のリスクを考えた時には、遺贈寄付によって遺留分が侵害される相続人が出ないように遺産の分配を調整するか、事前に遺留分権利者となる者の了承をとるなどの工夫が必要です。
遺留分と2019年7月に改正された改正後の相続での取り扱いについては、下記の記事に詳しくまとめていますので、興味ある方は是非確認ください。
2‐2.遺贈の形式は特定遺贈で行う
遺贈は「包括遺贈」と「特定遺贈」の二種類が存在します。
包括遺贈というのは、例えば「全財産の三分の一を法人〇〇に遺贈する」というように、財産の割合を指示して遺贈を行うものです。対して特定遺贈は、「〇〇法人〇〇に金一千万円を遺贈する」というように、遺贈したい財産を具体的に特定して行うものです。
包括遺贈の場合、法律上は受遺者が相続人と同等の地位を持つことになります。ですから、相続人と同じように被相続人の負債も引き継ぐ義務が生じてきますし、他の相続人と一緒に遺産分割協議への参加も求められる立場になります。受遺者側としては、寄付を受けるのはありがたいとしても面倒な遺産分割協議に巻き込まれたくないでしょうし、被相続人の借金があれば負債まで引き継がなければならないリスクが発生することになるので、寄付の受け取りを拒否される可能性も出てきます。
特定遺贈ではそうした心配が無いので、遺贈寄付は特定遺贈の形で行うようにしましょう。
なお、弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、遺贈寄付を行うにあたってどのような形で遺言書作成の手続きを進めていけばよいのか、円滑な寄付手続きを行うための無料相談をさせていただいております。どのような対策が今ならできるのかアドバイスと手続きのサポートをさせていただきますので、お気軽にお問合せください。
2‐3.遺贈寄付の実効性を確保するには、遺言執行者を定める
遺贈寄付が確実に実行されるためには、遺言内で実際に遺言の内容通りに財産承継を実現をしてもらう遺言執行者を指定して遺贈寄付の実務行為が確実に行われるように手配が必要です。
もし遺言執行者を指定しないと、相続人が遺贈の指示を無視して勝手に遺産を使い込んでしまうかもしれません。遺言執行者は相続人の一人を指定することもできますが、それでは上記のリスクを避けられないので、弁護士や司法書士など相続の専門家を指定しておくのがベストです。
同時に、遺言執行者をお願いする専門家と一緒に、寄付先となる団体に出向いて話し合いを持っておくことをお勧めします。寄付先によってはお金の寄付は受け付けるけれども不動産は受け付けできないなど、条件や制限が出ることも多いので、被相続人となる方の希望とすり合わせを行っておくことで、希望する遺贈寄付の実効性を確保することができます。
さらに実効性を高めるには、専門家の支援を得て遺言書を公正証書の形にしておくと良いでしょう。遺言書の有効性を争う余地を失くして、寄付の実効性を担保することができます。
3.遺贈寄付をする場合に税務面で気を付けるべき3つのポイント
一方で、税務面からみる注意点としては下記3つが挙げられます。しっかりと確認してから遺贈寄付を進めていきましょう。
3‐1.寄付先に相続税・法人税が課税される
寄付先が個人の場合には、その財産の寄付を受ける個人に対して相続税が課税されます。相続税は財産を受け取った個人に対して課税されるからです。ただし、寄付先である個人が、公益事業(社会福祉、学校運営事業等)を行っている場合で、事業用に活用する場合には、相続税は課税されません。
寄付先が法人の場合には、相続税は課税されず、法人税が課税されます。相続税は個人に対して課税されるものだからです。ただし、先ほどの個人の場合と同様に、一定の公益法人等が寄付を受ける場合には、その公益法人では法人税はかかりません。
そのため、寄付先が公益事業、公益法人等の要件を満たしているのか、満たしていないのか事前の確認が必要です。
3‐2.不動産を寄付する場合には譲渡所得税が課税される
遺言により寄付をした場合に、寄付先が個人の場合には、原則として譲渡所得税は課税されず、相続税のみかかります。しかし、寄付先が法人の場合に、注意をしなければならないのが譲渡所得税(みなし譲渡課税)です。
遺贈寄付の対象財産が現金であれば、譲渡所属税は課税されません。遺贈寄付の対象財産が不動産や株式など有価証券の現物である場合、思わぬ譲渡所得税の税負担が生じることがあるので注意が必要です。
不動産を例に挙げると、法人に対して不動産を遺贈寄付した場合、税務上は遺贈寄付をした不動産について時価による譲渡があったものとみなされ、譲渡益に対して譲渡所得税が課税されます(みなし譲渡課税)。例えば、時価5000万円、購入時の価格2500万円(諸経費込み)の不動産を遺言でお世話になった法人に寄付しようとすると、時価5000万円から購入時価格2500万円の差額(譲渡所得)2500万円に対して所定の税率に応じて譲渡所得税が課税されてしまうわけです。
譲渡所得税の詳しい計算方法等は下記の記事に掲載していますので、興味ある方は確認してみてください。
この譲渡所得税の申告は、相続発生後に亡くなった遺言者の準確定申告により処理が行われますが、その納付する義務がある者は相続人となります。そのため、相続人としては、寄付対象となる不動産は法人に寄付されてしまい、自身の財産にならないのに、その不動産の遺贈寄付にかかる譲渡所得税の負担は相続人が負わなければならないので、気持ちの面でわだかまりが生じることが予想できます。
遺言の有効性を争う姿勢を見せたり、遺留分の請求を行うなどで寄付先とトラブルになる可能性があるので、不動産など現物の遺贈寄付は避け、現金を寄付するのが安全です。また、寄付先も事前に寄付を受にけ入れる意向があるかどうかの確認も必要です。
3‐3.公益法人への寄付は非課税特例が利用できることも
上記で述べたみなし譲渡課税は、寄付する先が公益法人等である場合、国税庁長官の承認を受けて非課税とすることができるので、どうしても現物による寄付をしたい場合は見逃さないようにしましょう。
具体的には、公益社団法人、公益財団法人、社会福祉法人、NPO法人、宗教法人、学校法人などへの寄付が対象になります。ちなみに、国や地方自体への寄付は上記承認を得なくとも最初から非課税扱いです。また町内会などの法人格の無い社団の場合は、非課税の特例は利用できません。
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5.まとめ
今回の記事では、では相続財産を特定の団体に寄付したい場合に検討できる「遺贈寄付」について取り上げ、法務と税務の両面で気を付けるべき点を見てきました。遺贈寄付では以下のポイントを押さえておきましょう。
- 相続人の遺留分に配慮する
- 遺贈寄付について、遺言書は特定遺贈の形で現金など譲渡所得税がかからない財産を対象財産とする
- 遺贈寄付を実現してもらうために、遺言執行者を活用する
- 寄付先が遺贈寄付を受け入れる意向があるか、非課税適用の余地があるかなど確認が必要
- 現物を寄付する場合はみなし譲渡課税に注意し、できれば金銭を対象財産とした方がベター
一般的な「寄付」のイメージと比べると、色々と配慮が必要だったり注意すべき点があったりするので、遺贈寄付をお考えの方は必ず相続の専門家と共に計画を進めるようにしてくださいね。