認知症の人が作成する遺言書は無効?有効?判断ポイントや対策方法を詳しく解説

この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに400件以上の家族信託をはじめ、相続・生前対策を取り組んでいる。年間60件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

認知症の人が書いた遺言書は無効になることがあります。遺言書の有効性は遺言者本人の心身の状況で判断されることもあるため、場合によっては後日調停や訴訟などに発展することもあります。認知症と遺言書について知っておきたいポイントをまとめました。

今回の記事のポイントは以下のとおりです。

  • 遺言者の心身の状況や遺言の内容によっては遺言書が無効になることがある
  • 遺言書の有効性でトラブルになったときは、調停や訴訟に発展することもある
  • 相続発生後に遺言が無効と主張されそうなときは事前に認知症検査を受ける、本人の意向をメモにする、遺言書作成の録音、録画、経緯を残すなどの対策が必要になる
  • 遺言書が無効にならないためにも専門家に相談しておくことがおすすめ

本記事では、認知症の人の遺言能力や無効になりそうなときの対策について詳しく解説します。

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1.認知症の人が書いた遺言書は無効?

認知症の人が書いた遺言書であっても、直ちに無効になるわけではありません。しかし、遺言書の有効性について相続人の間で問題になったときは、遺言者本人に遺言が作成できる能力があったのか検証されることがあります。検証の結果、遺言能力がないと判断されたときは遺言書が無効になることもあります。

2.遺言能力とは?

遺言能力とは、有効な遺言を遺すことができる能力のことです。民法963条では遺言者は遺言をする時点においてその能力を有していなくてはいけないと定められており、遺言書を遺す時点で適切な能力を有していないときには遺言が無効になることがあります。

第963条
遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。

参考: e-Gov法令検索/民法

なお、遺言能力には年齢と意思能力の2つが関わる点に注意しましょう。民法961条では自分の意思で遺言できるのは15歳以上と定められています。また、意思能力については、遺言の内容や作成する際の経緯、やり取りのほか、診療記録などから判断することがあります。

3.遺言書の有効性を判断するポイント

遺言書の有効性は次の4つのポイントで判断します。

  • 遺言者の心身の状況
  • 遺言書の内容
  • 遺言内容の合理性
  • 遺言書作成の経緯

それぞれについて解説します。

3-1.遺言者の心身の状況

遺言者が心身ともに遺言書を遺すのにふさわしい状態であったのかという点が問われます。
例えば、次のようなポイントから心身の状況を判断することがあります。

  • 遺言者に精神医学的疾患があったか
  • 精神医学的疾患に罹患していたのであれば、どの程度の頻度で症状が発現していたか
  • 遺言作成時やその前後の発言や精神状態

3-2.遺言書の内容

遺言書の内容を遺言者本人が理解していたかという点も判断のポイントになります。

全財産を長男に相続させる、自宅を長男、預貯金全てを二男など内容がシンプルであれば、本人が高齢者でも内容を理解したうえで遺言書を作成していると判断されやすいです。しかし、相続人ごとに相続する財産の指定が複雑など、内容が複雑な遺言書であれば、遺言書作成時点において適切な判断ができる能力が求められます。

3-3.遺言内容の合理性

遺言内容が合理的かどうかも判断のポイントとなります。生前、遺言者と相続人が築いてきた関係と遺言内容に大きな乖離があるときは、遺言者が内容を理解していない状態で遺言書が作成された可能性が考えられるでしょう。

また、何度も遺言書の内容を書き換えているときも合理的ではないと考えられ、有効性が疑われることがあります。

3-4.遺言書作成の経緯

遺言作成の経緯も判断のポイントとなります。

司法書士や弁護士、公証人など法律の専門家との遺言書作成にあたって相談を積み重ねてきた経緯や、本人が遺言書に記載したい事項のメモなどがあれば、遺言が本人の適切な遺言能力のもと作成されたものであると判断されやすいです。逆に、本人が遺言書作成の打ち合わせに全く関与せず、相続人だけで遺言書の内容を決めて遺言書作成時に初めて本人が立ち会ったといった状況では、本人の理解のもとに遺言書は作成されたものではないと判断されてしまう可能性があります

遺言書の作成について不安がある場合は、ぜひ当事務所にご相談ください。豊富な実績を有する専門家が、適切な遺言作成のお手伝いをいたします。

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4.認知症に関する遺言書の有効性で揉めているときの解決法

遺言書の有効性について相続人間で揉めているときは、第三者による判断が必要になります。次の2つの方法でトラブルを解決しましょう。

  • 調停
  • 遺言無効確認請求訴訟

それぞれの方法について解説します。

4-1.調停

有効かどうかで意見が対立したときは、まず家庭裁判所に調停を申し立てます。調停では、当事者同士による話し合いで解決を目指します。相続人全員が合意しないときは、調停は成立しません。

4-2.訴訟

調停で合意が見込めないときは、遺言無効確認請求訴訟に進みます。訴訟では、当事者の主張や診断書などの証拠を踏まえて、裁判官が判決を下します。

なお、訴訟で判断できるのは遺言の有効性のみです。相続についてはまた別の問題となるため、判決に従って相続人全員により遺産分割を進めます。

5.相続発生後に遺言が無効だと主張されそうな場合の対策

遺言者の心身の状態などを理由に、相続発生後に他の相続人から遺言が無効だと主張されることがあるかもしれません。無効を主張される前に、次の方法で対策を実施しておきましょう。

  • 認知症検査
  • 遺言作成時の状況を録画などで記録する
  • 遺言書本人に遺言の概要を覚書に書いてもらう
  • 専門家への相談

できれば、全ての方法をとっておくことがよいですが、難しい場合は、できるものだけでも対策をとっておくと後日無効を主張された際の対策として活用できます。

以下、それぞれの方法を解説します。

5-1.認知症検査

遺言者の意思能力を判断する材料として、医学的な検査結果を確認することがあります。遺言を作成する前後に認知症検査を受け、認知症ではないことが判明していれば無効の主張に対して反論することができます。

5-2.遺言作成時の状況を録画、録音などで記録する

遺言作成時の状況を録画、録音などで記録することも検討してみましょう。遺言者が自分の意思で遺言を作成したことを示す証拠として、録画の内容を活用できることもあります。

5-3.遺言者本人に遺言の概要を覚書に書いてもらう

公正証書遺言の場合、法的な用語が多く記載されているため、遺言者本人に内容をそのまま書き残してもらうことは困難です。自宅は長男に相続させる、その他は均等など、遺言の要旨と本人が遺言をつくった理由などの概要を簡単に遺言者本人に覚書に書いてもらい、遺言どおりの内容を本人が希望していたことを示せるようにしておきましょう。

5-4.専門家への相談

遺言者本人に意思能力があったことを適切に示すためにも、遺言者本人関与のもと、遺言作成時に専門家に相談しましょう。作成の経緯に本人を交えることで遺言者の理解のもと遺言書を作成したという状況証拠をつくことができます。遺言を有効なものにするためにも、ぜひ専門家の力を借りましょう。

認知症の人が、家族信託契約を作成する際の注意点については下記に記事において詳しく解説しています。

6.認知症に関する相続のお悩みは専門家への無料相談がおすすめ

遺言者が認知症のとき、あるいは認知症の可能性があるときは、相続後にトラブルが発生することもあります。相続をスムーズに進めるためにも、専門家に相談してみてはいかがでしょうか。当事務所は豊富な経験をもとに、認知症に関する相続のお悩みにお答えします。ぜひ無料診断をご利用ください。

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7.まとめ

本記事では、認知症と遺言書について解説しました。内容をまとめると以下のようになります。

  • 遺言者の心身の状況や遺言の内容によっては遺言書が無効になることがある
  • 遺言書の有効性でトラブルになったときは、調停や訴訟に発展することもある
  • 相続発生後に遺言が無効と主張されそうなときは事前に認知症検査を受ける、本人の意向をメモにする、遺言書作成の録音、録画、経緯を残すなどの対策が必要になる
  • 遺言書が無効にならないためにも専門家に相談しておくことがおすすめ

遺言作成時に意思能力がなかったと判断されるときは、遺言が無効になる可能性があります。事前に対策を行い、反証できるようにしておきましょう。

また、遺言の内容によっては相続登記の必要も生じるかもしれません。相続登記に関する多くの事案を扱ってきた当事務所では、手続きをスムーズに行うためのご提案やサポートを実施しています。ぜひお気軽にご相談ください。

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