【認知症と遺言】有効な遺言書作成のポイントと無効ケース、相続トラブル回避策を専門家が解説

「親が認知症と診断されたけれど、遺言書は作れるのだろうか?」「以前作成した遺言書は、認知症と診断された今でも法的に有効なのだろうか?」――大切なご家族が認知症と診断されると、将来の相続についてこうした不安や疑問が頭をよぎるかもしれません。

万が一、遺言書が無効になってしまうと、相続人間で思わぬトラブルに発展する可能性もあります。

記事のポイントは以下のとおりです。

  • 認知症と診断されても、遺言作成時に「遺言能力(遺言内容を理解し判断できる能力)」があれば遺言は有効。
  • 遺言作成時に十分な判断能力がなかったり遺言内容が不自然・不合理な場合など、無効になるケースがある。
  • 判断能力があるうちに、①できるだけ早く作成に着手し、②信頼性の高い「公正証書遺言」を選び③医師の診断書や検査記録を残し、④作成時の状況を記録し、⑤遺言執行者を指定することが重要です。
  • 遺言の有効性に疑問がある場合、法律専門家に相談しながら他の相続人と話し合いで解決しなければ、最終的に「遺言無効確認調停・訴訟」となってしまう

この記事では、認知症と診断された方の遺言書について対策や手続き、ポイントを専門家が分かりやすく解説します。

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1.「認知症だから遺言は無効」とは限らない

「認知症と診断されたら、もう有効な遺言書は残せないのでは…」と心配される方は少なくありません。しかし、認知症と診断されたからといって、直ちに作成した遺言書が無効になるわけではありません。重要なのは、遺言書を作成した時点で、遺言者に「遺言能力」があったかどうかです。

1-1.遺言能力とは?

遺言能力とは、簡単に言うと「遺言の内容をきちんと理解し、その遺言によってどのような法的な結果が生じるのかを判断できる能力」のことです。民法では、有効な遺言をするためには、遺言作成時にこの遺言能力が必要であると定められています(民法963条)。

具体的には、以下の2つの条件を満たしている必要があります。

  • 満15歳以上であること(民法961条)
  • 遺言の内容やその結果を理解・判断できる意思能力があること

この意思能力は、遺言書を作成するまさにその時点で備わっている必要があり、遺言能力がない状態で作成された遺言は法的に無効とされてしまいます。

1-2.認知症=即遺言能力なし、ではない!

「認知症」と一口に言っても、その症状や進行度合いは人によって様々です。医学的に認知症と診断されたことと、法律的に遺言能力がないと判断されることは、必ずしもイコールではありません。

例えば、認知症の症状が軽度で、遺言の内容を十分に理解し、自らの意思で財産の行方を決定できる状態であれば、有効な遺言書を作成することは可能です。実際に、民法では、成年被後見人(判断能力が著しく不十分なため後見人がついている方)であっても、一時的に判断能力を回復した状態であれば、医師2人以上の立ち会いのもとで遺言をすることができると定められています(民法973条)。

つまり、「認知症だから遺言は絶対に無理」と諦める必要はないのです。

1-3.遺言能力の有無はどう判断される?

では、具体的に遺言能力の有無はどのように判断されるのでしょうか。これは非常に専門的な判断となり、最終的には相続人間で争いが生じた場合、裁判所が様々な事情を総合的に考慮して判断することになります。

主な判断材料としては、以下のような点が挙げられます。

医学的な観点(精神状態)
・遺言作成時の認知症の進行度(軽度、中等度、重度など)
・医師の診断書やカルテ、検査結果(長谷川式認知症スケールやMMSEなど)
ただし、長谷川式スケールの点数などが絶対的な基準となるわけではなく、あくまで参考の一つとされます。
遺言の内容
遺言の内容が単純明快か、それとも複雑か。一般的に、内容がシンプルであるほど、判断能力が多少低下していても遺言能力が認められやすい傾向があります。
遺言作成時の状況や本人の言動
・遺言者本人が自らの意思で遺言を残そうとしたのか
・遺言の内容をどの程度理解していたか
・遺言作成時の会話の状況(公証人や専門家とのやり取りなど)
・遺言作成の動機や理由に合理性があるか
・特定の人に不当に誘導されていないか
遺言者と相続人・受遺者との関係性
遺言の内容が、遺言者と財産を受け取る人との生前の関係性と照らして自然かどうか。
遺言書の種類
例えば公正証書遺言の場合、公証人という法律の専門家と証人2名が立ち会って作成されるため、自筆証書遺言に比べて遺言者の意思や能力が確認されやすい側面がありますが、公正証書遺言だからといって必ず有効性が保証されるわけではありません。

このように、遺言能力の有無は、単純な一つの基準で判断されるのではなく、様々な角度から慎重に検討されます。もしご自身やご家族の遺言能力について少しでも不安がある場合は、早めに弁護士や司法書士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることが大切です。

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2. 【要注意】認知症の方の遺言が無効になる可能性が高いケース

認知症の方が作成した遺言書が、法的に無効と判断されてしまうのはどのような場合なのでしょうか。ここでは、特に注意が必要な3つのケースについて解説します。

ケース1:遺言作成時に十分な判断能力がなかったと認められる場合

遺言書を作成した時点で、遺言者本人に十分な判断能力(遺言能力)がなかったと客観的に判断される場合、その遺言書は無効となる可能性が非常に高くなります。具体的には、以下のような状況が考えられます。

重度の認知症と診断されていた

医師の診断書やカルテ、介護記録などから、遺言作成時にすでに認知症が高度に進行しており、遺言の内容やその結果を理解できる状態ではなかったと判断される場合です。例えば、長谷川式認知症スケールで極めて低い点数(例:10点以下など)だった場合や、MRI検査で脳の萎縮が顕著であった場合などがこれに該当します。

遺言作成前後の言動に著しい問題があった

遺言作成の時期と近い時期に、時間や場所の認識ができない見当識障害がみられたり、幻覚・妄想、徘徊といった認知症特有の症状が頻繁に現れていたりした場合です。日常会話は可能でも、重要な判断ができない状態だったと推認されることがあります。

意思能力の欠如が明白な状態

薬物の影響や他の重篤な疾患により、一時的または継続的に意識レベルが低下し、意思表示が困難な状態であった場合も、遺言能力がなかったと判断される可能性があります。

ケース2:遺言の内容が不自然・不合理である場合

遺言書の内容自体が、遺言者本人の意思や状況に照らして不自然であったり、合理的な説明がつかなかったりする場合も、遺言の有効性が疑われることがあります。

遺言内容が複雑すぎる

遺言者が理解するには複雑すぎる財産分与の方法や、細かすぎる条件が付されているような場合、本当に本人が内容を理解して作成したのか疑問視されることがあります。特に、認知機能の低下が見られる方の場合、単純明快な内容である方が遺言能力が認められやすい傾向にあります。

生前の遺言者の意思や人間関係と矛盾する

生前の遺言者の言動や、相続人・受遺者との関係性から見て、あまりにもかけ離れた内容の遺言である場合です。例えば、長年疎遠だった人に全財産を譲る、あるいは献身的に介護をしてくれた家族に全く財産を残さないといった内容で、その理由が合理的に説明できない場合などが該当します。

遺言作成の動機が不自然

遺言を作成するに至った動機や理由が、客観的に見て不自然であったり、遺言者の状況とそぐわない場合も、遺言能力が疑われる一因となることがあります。

ケース3:遺言作成の経緯に問題がある場合

遺言書作成の経緯において、遺言者の自由な意思決定を妨げるような問題が認められる場合、その遺言書は無効と判断されることがあります。

公正証書遺言は、法律の専門家である公証人が作成に関与するため、一般的に他の遺言方式に比べて信頼性が高いとされています。しかしながら、仮に作成過程で遺言者の意思が不当に歪められるなどの問題があれば、公正証書遺言であってもその効力が否定される可能性は残ります。

特定の人物による不当な誘導や干渉

特定の相続人や第三者が、遺言者に不当な影響力を行使し、その意のままに遺言書を作成させたと疑われる場合です。遺言者がその人に強く依存していたり、抵抗できない状況にあったりした場合などが考えられます。

本人の意思に基づかない作成

遺言者本人が遺言内容の決定にほとんど関与せず、実質的に他の誰かが内容を決めて書かせたような場合です。公正証書遺言であっても、遺言者が公証人に対して自らの言葉で遺言の趣旨を伝える「口授」が適切に行われなかったと判断されれば、無効となることがあります。

脅迫や詐欺によって作成された

明らかに脅迫されたり、騙されたりして遺言書を作成した場合は、その遺言は取り消すことができます(民法96条)。

3.【生前対策】認知症でも有効な遺言書を残すための5つの鉄則

認知症と診断された後でも、適切な手順を踏めば法的に有効な遺言書を作成することは可能です。しかし、将来の相続トラブルを未然に防ぎ、ご自身の意思を確実に実現するためには、事前の対策が何よりも重要です。ここでは、認知症の不安があっても「有効な」遺言書を残すために押さえておきたい5つの鉄則をご紹介します。

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鉄則1:判断能力が確かなうちに作成に着手する

最も基本的な鉄則は、判断能力(遺言能力)がはっきりしているうちに、できる限り早めに遺言書の作成に着手することです。認知症は進行性の疾患であり、症状が進むと遺言能力が失われてしまう可能性があります。遺言能力がないと判断されれば、いくら立派な遺言書を作成しても無効になってしまいます。

「まだ大丈夫」と思っているうちから、ご自身の意思を明確に残しておくことが、将来の安心に繋がります。相続対策は、思い立ったが吉日です。

鉄則2:「公正証書遺言」を選ぶ

公正証書遺言は、遺言者が公証役場に出向くか、公証人に自宅や病院に来てもらい、証人2名以上の立ち会いのもとで、遺言の内容を公証人に口授し、公証人がそれを筆記して作成する遺言書です。公正証書で作成することのメリットは以下のようなものが挙げられます。

  • 公証人が関与する高い信頼性
  • 形式不備による無効のリスクがない
  • 原本が公証役場に保管される

法律の専門家である公証人が、遺言者の意思確認や遺言能力の確認を慎重に行いながら作成するため、遺言の有効性が争われにくいという大きなメリットがあります。また、認知症の人が遺言書を作成する場合、公証人が遺言者の判断能力を確認し、意思確認ができなければ遺言書を作成しないため、信頼性がばっちりです。

鉄則3:遺言作成時に医師の診断書を取得する

遺言書を作成する際に、医師に遺言能力に関する診断書を作成してもらい、認知機能検査(長谷川式認知症スケールやMMSEなど)の結果を記録として残しておくことは、将来の紛争予防に非常に有効です。

特に、すでに認知症の初期症状が見られる場合や、将来的に遺言能力が争われる可能性が少しでもある場合には、客観的な医学的証拠が大きな意味を持ちます。裁判所も、遺言能力の判断において専門医の医学的評価を重視する傾向にあります。遺言書に専門医の鑑定書を添付することで、トラブルを未然に防ぐ効果も期待できます。

鉄則4:遺言書作成時の状況を記録しておく

遺言書、特に公正証書遺言を作成する際の本人の様子や公証人とのやり取りを動画や音声で記録しておくことも、遺言能力があったことの有力な証拠となり得ます。遺言者が理路整然と自分の希望を話す様子が記録されていれば、後から「判断能力がなかった」という主張が出た際に、有効な反証材料になります。

また、弁護士や司法書士などの専門家が遺言書作成に立ち会い、その際の状況を記録として残しておくことも、遺言の有効性を補強する一助となります。

鉄則4:遺言執行者を指定しておく

遺言執行者とは、相続開始後、遺言書の内容に沿って不動産の名義変更や預貯金の解約・分配など、具体的な相続手続きを進める権限を持つ人のことで、あらかじめ作成時に指定しておくことを強くお勧めします。

  • 相続手続きの円滑化
  • 相続人の負担軽減
  • 専門家を指定すればより安心

遺言執行者を指定しておけば、相続人が複数いる場合や、相続人間で意見が対立する可能性がある場合でも、遺言執行者が単独で手続きを進められるため、スムーズな遺産分割が期待できます。

さらに、相続手続きに詳しい弁護士や司法書士などの専門家を遺言執行者に指定すれば、法的に正確かつ迅速に手続きができ、相続人間のトラブル防止にも繋がります。

以下、遺言書の書き方については別のブログでご紹介しています。

4.「この遺言、無効?」と思ったら取るべき3ステップ

「認知症だった親が遺したこの遺言書、本当に有効なのだろうか…」もし、あなたや他の相続人がそのような疑問を抱いた場合、どのように対処すれば良いのでしょうか。ここでは、遺言書の有効性に疑いが生じた場合に取るべき3つのステップを解説します。

STEP1:他の相続人と遺言書の有効性を話合う

最初に試みるべきは、他の相続人全員と遺言書の有効性について話し合うことです。

相続人全員の合意があれば、遺言と異なる遺産分割も可能

遺言書が存在していても、相続人全員がその内容に同意せず、別の方法で遺産を分割することに合意すれば、遺言書とは異なる内容の遺産分割協議を行うことができます。この場合、必ずしも遺言書の有効性を法的に争う必要はありません。

他の相続人の意見を確認

まずは、他の相続人が遺言書についてどのように考えているのか、有効性に疑問を持っているのかなどを確認し、冷静に意見交換をすることが大切です。感情的にならず、客観的な事実に基づいて話し合いを進めましょう。

ただし、相続人の一人でも遺言書の有効性を主張し、その内容通りの遺産分割を求めた場合は、話し合いだけでの解決は難しくなります。その場合は、次のステップに進むことになります。

STEP2:弁護士に相談、法的な助言を求める

相続人間の話し合いで解決の糸口が見えない場合や、遺言書の有効性について法的な観点から専門的な判断が必要だと感じた場合は、弁護士などの法律の専門家に相談し、具体的な助言を求めることを強くお勧めします。

遺言書の有効性の判断

遺言書が法的に有効か無効かの判断は、非常に専門的な知識を要します。特に認知症が関わるケースでは、医学的な知見も考慮に入れる必要があり、一般の方だけで判断するのは困難です。

弁護士に相談することで、遺言書の記載内容、作成時の状況、遺言者の状態などを踏まえ、法的な有効性について客観的な見通しを得ることができます。

証拠収集のアドバイス

遺言の無効を主張するためには、それを裏付ける客観的な証拠(医師の診断書、カルテ、介護記録、遺言作成時の状況を示す資料など)が不可欠です。弁護士は、どのような証拠が有効か、どのように収集すればよいかといった具体的なアドバイスを提供してくれます。

交渉の代理や法的サポート

弁護士に依頼すれば、他の相続人との交渉を代理してもらったり、法的な手続きをサポートしてもらったりすることも可能です。当事者同士では感情的になりがちな話し合いも、弁護士が間に入ることで冷静かつ建設的に進められる場合があります。

STEP3:「遺言無効確認調停・訴訟」を検討する

相続人間の話し合いや専門家を介した交渉でも遺言書の有効性について合意に至らない場合は、最終的に家庭裁判所の手続き(遺言無効確認調停または遺言無効確認訴訟)によって解決を図ることになります。

遺言無効確認調停

調停では、裁判官と調停委員(民間から選ばれた有識者)が間に入り、当事者双方の意見を聴きながら、話し合いによる解決を目指します。調停委員は、法的な観点も踏まえつつ、公平な立場から解決策を提示したり、助言を与えたりします。

調停はあくまで話し合いの場であり、強制力はありません。相続人全員が合意に至れば調停成立となり、その合意内容に従って遺産分割が行われます。

遺言無効確認調停

調停で相続人全員の合意が得られず不成立となった場合、または調停を経ずに、地方裁判所に「遺言無効確認訴訟」を提起することになります。

訴訟では、遺言の無効を主張する側が、遺言能力の欠如や遺言作成時の瑕疵などを証拠に基づいて立証する必要があります。相手方となる他の相続人も、遺言の有効性を主張し、反論や証拠提出を行います。最終的には、裁判官が双方の主張や証拠を総合的に審査し、遺言が有効か無効かについて判決を下します。

訴訟は専門的な知識や手続きが必要となるため、弁護士への依頼が不可欠と言えるでしょう。また、判決が出るまでに長い時間と費用がかかることも覚悟しておく必要があります。

【参考】遺言が無効にならなかった場合の選択肢

もし遺言書が無効と判断されなかった場合でも、遺言の内容によってご自身の法定相続分よりも少ない取り分しか受け取れない場合には、「遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)」という権利を行使できる可能性があります。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に法律上保障されている最低限の遺産の取り分のことです。詳細は以下のブログからチェックしてください。

5.認知症と遺言に関するよくあるご質問(Q&A)

ここでは、認知症と遺言に関して多く寄せられるご質問とその回答をまとめました。

Q1.軽度の認知症と診断されたが、遺言を書いてもらえる?

はい、可能です。
医学的に認知症と診断されたからといって、直ちに遺言能力がないと判断されるわけではありません。認知症の症状が軽度で、ご本人が遺言の内容やその結果を理解し、自らの意思で判断できる状態(遺言能力がある状態)であれば、有効な遺言書を作成することができます。

ただし、将来的に遺言の有効性が争われる可能性に備え、遺言書作成時に医師の診断書を取得したり、公正証書遺言を選択したりするなど、慎重な対応が推奨されます。

Q2.公正証書遺言の作成後で認知症が進行した場合は無効になる?

いいえ、原則として無効にはなりません。

遺言の有効性は、あくまで遺言書を作成した時点での遺言能力の有無で判断されます。したがって、公正証書遺言を作成した時点でご本人に十分な遺言能力があり、法的に有効に遺言書が作成されていれば、その後に認知症が進行したとしても、作成済みの遺言書の効力に影響はありません。

Q3.家族が認知症の親に無理やり遺言を書かせようとしています。どうすれば止められますか?

まずは冷静に状況を把握し、専門家へ相談することをおすすめします。認知症の方に無理やり遺言を書かせることは、本人の自由な意思に基づかない遺言として、後に無効と判断される可能性があります。具体的な対応としては、以下の方法が考えられます。

  • 本人の意思を確認し、本当にそのような遺言を望んでいるのか、誰かに強要されていないかなどを尋ねてみましょう。
  • 他の兄弟姉妹や信頼できる親族に状況を伝え、協力して対応できないか相談する
  • 弁護士に相談し、法的な観点からどのような対応が可能かアドバイスを受ける
  • ご本人の判断能力が著しく低下している場合は、家庭裁判所に成年後見の申立てをすることも一つの方法

Q4.遺言能力の判断に、医師の診断書はどの程度影響しますか?

医師の診断書は、遺言能力を判断する上で非常に重要な客観的証拠の一つとなります。特に、遺言作成時の認知症の進行度合いや判断能力の程度を示す診断書やカルテ、認知機能検査(長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やMMSEなど)の結果は、裁判所が遺言能力の有無を判断する際に重視される傾向にあります。

例えば、主治医が「認知症は軽度で判断能力は十分」と診断していれば、その遺言が有効と認められる可能性が高まります。ただし、診断書だけで全てが決まるわけではなく、遺言の内容の複雑さ、遺言作成時の本人の言動、公証人とのやり取りなど、様々な要素が総合的に考慮されて判断されます。

Q5. 認知症の人が作成した自筆証書遺言が出てきました。注意点はありますか?

認知症の方が作成した自筆証書遺言の場合、特に以下の点に注意が必要です。

  • 遺言能力の有無:
    遺言書が作成された日付を確認し、その当時のご本人の認知症の進行状況や判断能力がどの程度だったかを慎重に検証する必要があります。
  • 形式的な不備:
    自筆証書遺言は、全文、日付、氏名が自書され、押印されているかなど、法律で定められた形式を全て満たしている必要があります。
  • 内容の合理性・明確性:
    遺言の内容が極端に不自然であったり、複雑で理解が困難であったりする場合、本人の真意に基づくものか疑問が生じることがあります。
  • 偽造・変造の可能性:
    筆跡や内容に不審な点がないか確認も必要です。
  • 検認手続き:
    自筆証書遺言(法務局の遺言書保管制度を利用していない場合)は、開封前に家庭裁判所で「検認」という手続きを経る必要があります。

もし自筆証書遺言の有効性に疑問がある場合は、早めに弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

6.動画視聴|認知症の方の遺言能力

7.まとめ

  • 認知症と診断されても、遺言作成時に「遺言能力(遺言内容を理解し判断できる能力)」があれば遺言は有効。
  • 遺言作成時に十分な判断能力がなかったり遺言内容が不自然・不合理な場合など、無効になるケースがある。
  • 判断能力があるうちに、①できるだけ早く作成に着手し、②信頼性の高い「公正証書遺言」を選び③医師の診断書や検査記録を残し、④作成時の状況を記録し、⑤遺言執行者を指定することが重要です。
  • 遺言の有効性に疑問がある場合、法律専門家に相談しながら他の相続人と話し合いで解決しなければ、最終的に「遺言無効確認調停・訴訟」となってしまう

遺言作成時に意思能力がなかったと判断されるときは、遺言が無効になる可能性があります。事前に対策を行い、反証できるようにしておきましょう。

また、遺言の内容によっては相続登記の必要も生じるかもしれません。相続登記に関する多くの事案を扱ってきた当事務所では、手続きをスムーズに行うためのご提案やサポートを実施しています。ぜひお気軽にご相談ください。

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この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに400件以上の家族信託をはじめ、相続・生前対策を取り組んでいる。年間60件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

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