家族信託は、認知症対策や空き家問題への解決策として注目されています。多くの方が「家族信託の手続きややり方」について疑問を持っていることでしょう。
相談の際に、よく質問される内容も含めてこれから明確にしていきたいと思います。
記事のポイントは下記のとおりです。
- 家族信託の手続きは、大きく分けると①家族信託の開始、②家族信託の期間中、③家族信託の終了手続きの3つがある
- 家族信託を開始する場合、すべての手続きが終わるまでに1ヵ月半~3ヵ月ほどかかる
- 家族信託の目的、信託財産、およびその管理権限など、家族全員で合意した上で信託契約書を作成する
- 信託契約書は、信託口口座開設のためにも「公正証書」での作成が有効である
- 不動産がある場合は、別途信託登記手続きも必要であるため、必要な書類や費用は追加でかかる
今回の記事では、家族信託の開始から終了にいたるまでの手続きの流れと注意点について解説します。
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目次
1.家族信託で事前に検討しておくこと
家族信託は、家族である委託者、受託者、そして受益者の間で「委託者の財産に関するさまざまな権利を受託者へ任せる」という契約を結びます。
資産を持つ人(委託者)が、老後の生活や介護に必要な資金管理や不動産の管理を、信頼できる家族(受託者)に託して、本人(受益者)の利益のために管理や処分を行います。
家族信託を始めるにあたり、以下の6つの項目を家族や関係者と一緒に考えておくことが大切です。
1-1.家族信託を行う目的「何のために」
家族信託を始める際には、まず「何のために信託をするのか」をはっきりさせることが大切です。具体的な目的があると、信託契約もスムーズに進みます。以下のような目的が考えられます。
- 生活費の管理:老後の生活費を安心して使えるようにする
- 自宅の売却準備:将来の施設入居に備えて、自宅を売却する
- 資産承継計画:家族間の争いを避けスムーズに資産を受け継ぐ
- 生活保障:配偶者や障害を持つ子どもの将来を安心させる
目的がはっきりしないと、信託契約の内容が曖昧になり、具体的な目標を見失うリスクがあります。目的を明確にすることで、適切な専門家を選び、契約内容をしっかり設計できるので、余計な手間を省くことができます。
1-2.財産管理を任せる「誰が、誰に」
家族信託では、「委託者」、「受託者」、「受益者」という三つの主要な役割を決めます。特に、財産管理を任せる受託者は慎重に選ぶ必要があります。
主要な役割が決まった後は、委託者兼受益者のサポート役や、受託者に何かあったときに代わりに引き受ける人をしっかり考えておくことで、家族信託がスムーズに進みます。
1-3.信託をする財産「どの財産を」
家族信託は、信託契約で指定された財産のみを対象とします。そのため、財産を「信託財産=受託者が管理・運用するもの」と「信託財産以外=委託者本人が管理するもの」に分けて考えます。
信託の目的が「老後の生活費を管理するため」であれば、預貯金や金融資産を信託財産として指定します。「施設入居のために自宅を売る予定がある」場合は、自宅も信託財産に含める必要があります。
信託できる財産には現金、預金、株式、不動産がありますが、年金や特定の農地は信託できません。年これは、年金は受給者が限定されており、農地には法的制約があるためです。
1-4.受託者に任せる権限
受託者の具体的な役割や権限は信託契約によって決まります。信頼できる人であれば、幅広く任せても問題ありませんが、不安がある場合は、権限に制限を加えることもできます。
信託の目的に応じて、自宅の売却を任せるのか、修繕や管理・運用だけにするのかは家族の状況によって異なりますので、十分に検討する必要があります。
1-5.家族信託の終了「いつまで」
家族信託は、あらかじめ決めた時点で終了します。多くの場合、「委託者兼受益者(親)の死亡時」が終了時期として設定されますが、「両親が亡くなった時」など、家族の状況に合わせて柔軟に決めることができます。
1-6.財産の帰属先:「誰が承継するか」
「家族信託が終了する時に信託財産を誰に引き継ぐか」は事前に契約書に記載します。一般的な家族信託は、委託者兼受益者(親)の死亡で終了するため、相続とあわせて考えていきます。
信託財産の帰属先は自由に指定することができます。例えば「自宅は長男に、金銭は次男に」といった具体的な分配指定も可能ですし、「終了時に相談して決める」と記載することもできます。
財産の承継計画を事前に決めておくことで、家族が安心して暮らせるようになります。
2.家族信託手続きに必要な書類
家族信託の手続きを進めるためには、いくつかの書類が必要です。信託内容によって必要な書類が変わるので、以下の基本的な書類を参考にして、準備しましょう。
- 信託契約書案
- 委託者および受託者の印鑑証明書(有効期限3か月以内)
- 委託者および受託者の実印
- 身分証明書(委託者、受託者)
- 信託関係者の戸籍謄本/抄本、住民票(信託に関わる当事者すべて)
- 信託財産の資料(信託する金銭や有価証券の一覧など)
特に不動産を信託財産に含める場合、不動産を特定する書類「登記事項証明書(登記簿謄本)」や価格を証明する「固定資産税評価証明書」が必要です。これらの書類は管轄法務局や市区町村の窓口で取得できます。
また、信託の当事者を確定するための戸籍謄本と住民票は、委託者、受託者、受益者、信託監督人など、信託に関わる全員分の用意が必要です。
3.家族信託の開始手続き
家族信託を始める際のスケジュールや進め方、必要な書類について説明します。基本的な手続きは以下の5つの工程に分かれます。
これらの工程は、資産や不動産の状況、本人の認知症の進行度合いによって異なりますが、通常は1か月半から3か月程度かかります。
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3-1.家族信託の内容を決める
家族信託の成功は、しっかりとした計画にかかっています。家族信託は自由度が高いため、家族の関係や財産の状況に合わせた慎重な設計が必要です。そのため、本人と受託者だけでなく、家族全員や関係者と以下の項目についてしっかり話し合うことが大切です。
家族全員が家族信託の仕組みを理解し、それぞれの希望を共有することで、スムーズで安心できる財産管理が可能になります。
- 家族信託を行う目的「何のために」
- 財産管理を任せる「誰が、誰に」
- 信託をする財産「どの財産を」
- 受託者に任せる権限
- 家族信託の終了「いつまで」
- 財産の帰属先「誰が承継するか」
3‐2.家族信託の依頼先を決める
家族信託の手続きは複雑で専門的です。自分で行うと、契約書に必要な条項を入れ忘れて受託者が適切に財産を管理できなかったり、税制の変更に対応できず余計な税金を支払うことになったりする可能性があります。
専門家に依頼すれば、こうしたリスクを事前に指摘し、トラブルを防ぐ手助けをしてくれます。また、アフターケアも受けられるため、安全かつ効率的に手続きを進めることができます。信託法に詳しく、法務や税務の知識も豊富な司法書士や弁護士、税理士などの専門家に依頼することをおすすめします。
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3-3.信託契約書を作成する
信託契約書作成手続きの工程を具体的にみていきましょう。
①信託契約書の内容を決める
家族全員で合意した家族信託の目的、信託財産、およびその管理権限などを、専門家に伝えて信託契約書に反映させます。専門家の助言を取り入れ、信託の内容を最適化する過程で、家族のニーズに合った契約書ができあがります。
最終的に、委託者と受託者が印鑑を押して契約書が完成します。
②信託契約書の様式を選択する
信託契約書は「公正証書」と「私文書(パソコン)」の二つの方法があります。
3-4.信託財産の管理体制の準備(口座開設/登記)
家族信託を始めるためには、受託者(子供)が信託財産を管理するための体制を整える必要があります。金銭を信託するのであれば受託者名義の管理用口座を開設する必要がありますし、不動産を信託するのであれば名義を受託者に変更する登記をする必要があります。
①金銭管理用口座を用意する
信託した金銭を効果的に管理するため、受託者名義で専用の管理口座を設定する必要があります。直接、委託者の口座を管理することはできないため、受託者名義の口座に信託金を移すことで管理が可能になります。
管理口座には「信託口座」と「信託専用口座」の二つの選択肢があります。
②信託した不動産を信託登記する
不動産を信託財産にする場合、「所有権移転登記」と「信託登記」が必要になります。これらの登記は不動産所在地の法務局で行い、不動産の名義を受託者に変更し、管理権限の移転を公にします。
信託登記をする際には、信託の目的や財産管理方法などが公開されます。信託契約書で定める帰属権利者や後継受益者などの情報も含まれるため、登記する個人情報の範囲については慎重に検討する必要があります。
信託登記に必要な書類
信託登記に必要な書類には、下記の書類が必要です。詳細は登記を依頼する司法書士又は法務局で確認します。
- 固定資産評価証明書
- 不動産の権利書(登記済証)または登記識別情報
- 登記原因証明情報(信託契約書の内容をまとめたもの)
- 信託目録に記載する情報
- 委託者の印鑑証明書(3ヶ月以内に発行されたもの)
- 受託者の住民票
- 委託者の実印と受託者の認印
3‐5.家族信託開始の事務手続きをする
信託契約書を作成後は、以下の手続を行うと受託者としての財産管理業務が始まります。一つひとつチェックしていきましょう。
①信託金銭の振込み
開設した管理用の信託口口座に信託金銭を入金します。このステップが完了することで、信託の管理が正式にスタートします。
②公共料金の口座振替
信託口口座から水道料金や固定資産税などの公共料金を支払うため、サービス提供者に口座振替を設定します。
③火災保険の名義変更
不動産が信託財産に含まれる場合、火災保険の名義人変更が必要になることがあります。保険会社に確認し、必要な手続きを行います。
④収益物件の入居者通知
収益物件が信託財産に含まれる場合、入居者に新しい管理者(受託者)と振込先を通知します。
4.家族信託手続きでの注意点
家族信託を考えるとき、多くの人は認知症対策としての財産管理を思い浮かべるでしょう。しかし、信託契約を作成する際に最も重要なのは「長期的な視点で考えること」です。
認知症の発症から委託者が亡くなるまでの期間が10年か、それとも20年以上続くかは予測できません。そのため、家族信託が長期間にわたって効果的に機能するよう、事前に以下の重要なポイントに注意することが大切です。
4-1.信託契約書は公正証書で作成
家族信託契約書を公正証書ではなく私文書として作成すると、次のような事態が起こる可能性があります。
- 紛失・盗難時に契約内容を証明できない
- 親族から訴訟を起こされる可能性がある
- 金融取引などの契約時に公正証書での提示を求められる可能性がある
公正証書は公証人が作成するため、偽造や改ざんのリスクが非常に低く、契約の有効性を巡るトラブルを避けることができます。さらに、公正証書は公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの心配がなく、必要なときに再発行も可能であるため、安心して家族信託を進めることができます。
4-2.受託者1年不在で信託強制終了
家族信託では、受託者が1年以上不在になると、自動的に信託が終了することになっています(信託法第163条第3号)。これは、受託者が受益者より先に亡くなったり、信託期間中に判断能力を失った場合に起こります。
このような状況が起きると家族信託の目的が果たせなくなってしまうため、長期の家族信託では「予備の受託者(後継受託者)」を必ず指名しておきます。選任する際は、委託者の意向を尊重しつつ、家族全員の合意のもとで適切な方に依頼しましょう。
また、「信託監督人」を設けて受託者の業務をチェックしたり、「受益者代理人」を通じて信託契約の変更や受託者の解任ができるようにするなどの対策を講じることで、安全に財産管理を続けることができます。
4-3.家族信託では施設入居の手続きはできない
家族信託は財産を守るための強力な手段ですが、できることには限りがあります。特に、日常生活のサポートや健康管理など「身上監護」に関しては家族信託の範囲外です。これは、信託契約で受託者が管理できるのは財産のみだからです。
身上監護が必要な場合、受託者が近親者であれば、施設や医療機関も協力してくれることが多いですが、遠い親戚や血縁関係のない人が受託者の場合、問題が生じることがあります。
このようなリスクを避けるためには、家族信託と併せて任意後見制度や成年後見制度の利用を検討することが賢明です。これらの制度を利用することで、後見人が生活全般の法的手続きを代行でき、家族信託の限界を補うことができます。
4-4.信託成功のカギは受託者選びと権限の設定
家族信託を成功させるには、信頼できる受託者を選び、その権限を明確にすることが重要です。受託者には信頼性と経験が必要です。日々の生活費管理を任せるなら、委託者の生活に詳しい家族が適していますが、収益物件がある場合や法的手続きが必要な場合は、専門知識と経験を持つ人物を選ぶべきです。
受託者にどこまでの権限を与えるかも明確にしておく必要があります。信託契約書には、受託者が行う具体的な業務や制限、特定の行為については他の家族の同意が必要である旨を詳しく記載します。「受託者を誰にするか」と「受託者の権限」は、家族信託がスムーズに機能させるためのポイントになります。十分に考えて設定しましょう。
5.家族信託手続きにかかる費用
家族信託を始めるための最低限必要な実費と専門家に依頼する費用についてそれぞれ見ていきましょう。
5-1.実費|公正証書作成費用
前述した通り、リスクなく家族信託を行い信託した金銭について信託口口座で管理するためには、契約書を公正証書で作成する必要があります。公正証書化のための公証人への手数料は、一般的に3.3万円~11万円となります。信託財産の内容や価格によって費用の増減があることを知っておきましょう。
信託金額 | 手数料 |
100万円以下 | 5,000円 |
100万円超200万円以下 | 7,000円 |
200万円超500万円以下 | 11,000円 |
500万円超1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円超3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円超5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円超1億円以下 | 43,000円 |
1億円超3億円以下 | 43,000円に、超過額5,000万円までごとに13,000円を追加 |
3億円超10億円以下 | 95,000円に、超過額5,000万円までごとに11,000円を追加 |
10億円超 | 249,000円に、超過額5,000万円までごとに8,000円を追加 |
引用元:日本公証人連合会HP
5-2.専門家依頼|コンサルティング報酬
家族信託は、その自由度の高い契約関係から失敗のない契約をしたい場合は専門家に依頼することをお勧めします。ネットにある「ひな型」を使って誰でも作成は可能ですが、実務の取扱は日々変わっており、それが反映されていなければ、契約書に不備が生じ、信託口口座が開設できなかったり余計な税金がかかることになります。
専門家へ依頼する場合にかかる報酬費用は、①コンサルティング報酬(報酬相場:信託財産評価の1.1%程度)と②信託契約書作成報酬(報酬相場:11~16.5万円)、③信託登記報酬(報酬相場:11~16.5万円)の3つがあります。
コンサルティング報酬は、下記のように信託財産評価額の1.1%(最低33万円)程度から始まる従量課金としているところが多いようです。
財産の価格 | 費用(税込) |
1億円以下の部分 1.1% | (最低33万円) |
1億円超3億円以下の部分 | 0.55% |
3億円超5億円以下の部分 | 0.33% |
5億円超10億円以下の部分 | 0.22% |
10億円超の部分 | 0.11% |
費用について詳しくは下記の記事で解説していますので確認してみてください。
6.家族信託手続きで気を付けたい税金
家族信託を始める際に注意したい税金について解説します。
6-1.登録免許税
不動産を信託財産に含める場合、法務局で「所有権移転登記」を行うため、登録免許税が発生します。しかし、金銭や株式などの金融資産を信託財産にする場合は、登記手続きが不要なため、登録免許税はかかりません。
不動産を信託財産に含める場合、所有権移転登記が必要であり、その際には固定資産税評価額に基づく登録免許税を支払います。登録免許税の費用は以下のとおり計算できます。
土地=固定資産税評価額×0.3%(令和8年3月31日まで/以後は0.4%)
建物=固定資産税評価額×0.4%
6-2.贈与税
家族信託では、受益者を誰にするかによって、贈与税が課される場合があるため注意が必要です。
自益信託
自益信託とは、財産管理を託す委託者と受益者を同一人とした場合の家族信託を指します。財産管理を託した委託者自らが受益者となり、自分のための財産の利用にあたるので自益信託では贈与税などの税務の負担はありません。
他益信託
他益信託では、委託者以外の第三者が受益者となるため、贈与税が課税される可能性があります。これは、信託財産を配偶者や障害を持つ子など、他の家族メンバーのために管理する場合に該当します。この場合、信託財産からの利益(受益権)が委託者以外に移ると、その価値に対して贈与税が課税されることがあります。そのため、受益権の価格(信託財産の評価額)に対して贈与税が課税されてしまいます。
このように委託者と受益者を同一人にするか、第三者にするかによって家族信託契約開始時にかかる税務の取り扱いが異なるので、気を付けて家族信託を設計する必要があります。
7.家族信託手続きを自分でするメリット・デメリット
家族信託の手続きは、専門家に依頼するのが一般的ですが、自分で行うことも可能です。ここでは、自分で家族信託を行う際のメリットとデメリットについて詳しく見ていきます。
7-1.自分で家族信託をするメリット
自分で家族信託を行うメリットは、専門家が入らないことで費用の節約でき、プライバシーを保護できることです。専門家に依頼すると、相談料や契約書作成手数料、コンサルティング料などがかかりますが、自分で手続きをすれば実費だけになります。また、家族構成や財産内容、財産管理方法などを詳細に伝える必要がなくなります。
7-2.自分で家族信託をするデメリット
自分で家族信託を行う際には、リスクやトラブルの可能性もあります。以下に詳しく見てみましょう。
①記載ミスが招く契約書無効のリスク
家族信託の手続きには専門的視野と最新の実務知識が必要です。不慣れなまま進めると、契約書に不備が生じ、受託者が財産管理ができなくなったり、余計な税金がかかったりとリスクがあるため注意が必要です。
②信託契約で家族間トラブルになる
家族信託の手続きを自分で行うと、家族間の不信感を招くリスクがあります。例えば、委託者と受託者だけで信託内容を決めてしまうと、他の家族が納得せず、トラブルに発展することがあります。
③複雑な手続きに対処できない
家族信託の手続きは複雑で、法律や税務に関する知識が必要です。専門家に依頼しない場合、これらの知識が不足していると、信託契約が適切に機能しない可能性があります。
将来的なリスクを回避するためにも、専門知識を持つ専門家に依頼することを検討するべきです。専門家は、リスクを事前に指摘し、適切なアドバイスを提供してくれます。
8.家族信託期間中の手続きと注意点
家族信託がスタートし、受託者が財産管理を始めると、信託期間中にもさまざまな手続きが必要になるため、知識として知っておきましょう。
8‐1.信託財産に関する契約
家族信託を運用していく中で、信託財産である不動産を売却する、修繕するなどが起こった場合の契約方法についてです。
受託者の肩書を明記し契約を行う
信託財産である不動産を売却する際には、受託者が行う契約が個人間の取引ではなく、信託財産に関するものであることを明確にする必要があります。契約書やその他の書類には、受託者の名前の隣にその肩書を記載し、「受益者△△、受託者○○ ㊞」という形で、契約が信託財産に関するものであることをはっきり示します。
肩書の明記が求められるケース
肩書の記載は、不動産の売買や賃貸契約、金融商品の取引など、信託財産に影響を及ぼす可能性のあるすべての取引において必要です。この措置により、万が一トラブルが発生した際にも、受託者の個人財産と信託財産を明確に区別することができます。
8‐2.信託財産を追加する
家族信託を進めていく中で、信託財産を追加する必要が出てくるケースがあります。最初に信託契約を結んだときには考えていなかったものでも、状況の変化に応じて、後から信託財産に資産を含めることができます。
特に、信託期間中に当初の信託財産では生活費を賄えない場合や、管理したい財産を増やしたい場合に「追加信託」が役立ちます。追加信託とは、新たな資産を信託財産に加えることを指し、信託契約の柔軟性を示しています。
追加信託の方法
追加信託を行うには、委託者と受託者の両方の合意が必要です。信託契約書に追加信託の手続きが定められている場合は、その指示に従って進めます。もし定めがなければ、新たに追加信託契約書を作成して実施します。
ただし、委託者が認知症などで判断能力を失っている場合は、追加信託を行うことができません。追加信託は双方の合意に基づく契約行為であるため、委託者の健康状態や判断能力に注意しながら、適切なタイミングで手続きを進めることが重要です。
8‐3.信託書類の作成保管と受益者への報告
家族信託では裁判所への報告は必要ありませんが、信託財産の管理状況を受益者に報告する義務があります。これを果たすために、受託者は以下の書類をきちんと作成し、保管する必要があります。
信託財産を使って何かを購入した場合は、その取引の契約書や領収書、レシートなどをきちんと保管しましょう。これらの書類は、受益者が管理状況を確認したいときに、すぐに提示やコピーを提供できるようにしておくことが大切です。
8‐4.家賃収入のあるアパート運営をする場合
家族信託を利用する際、親の認知症期間中に収益性の高い賃貸物件を効率的に管理したいと考えるケースはよくあります。この場合、賃貸借契約の締結や修繕の手配など、賃貸物件の運営に必要なすべての手続きは受託者に委ねられます。
特に重要なのは、アパートからの収益に関する「計算書類の作成」が受託者の大事な役割となることです。これまで委託者が行っていた収支計算も、家族信託が成立すると受託者がその責任を負います。信託においては、毎年1月31日までに税務署へ「信託の計算書」を提出する義務があります。ただし、収益が3万円未満の場合は、この計算書の提出は必要ありません。
9.信託終了後の手続きと注意点
信託契約が終了した後もまだ完全には終わりません。信託終了後には、清算受託者が遂行すべき業務があり、特に不動産を含む信託財産の場合、適切な登記手続きが必要となります。
9‐1.清算受託者が行う業務
家族信託が終了するとき、清算受託者の役割が非常に重要になります。清算受託者は、信託の終了に伴う一連の業務を適切に行う責任を負います。これには以下のような業務が含まれます。
①現務の終了
家族信託に関わる全ての活動を終了させることから始めます。
②債権・債務の清算
信託財産に関連する債務を清算し、必要に応じて信託管理用口座を解約します。口座解約の手続きは金融機関によって異なるため、事前の確認が必須です。
③残余財産の給付
清算後の残余財産を信託契約で定められた受益者や帰属権利者に引き渡します。
④清算事務の計算書類作成と承認
全ての清算業務が完了した後、計算書類を作成し、関係者からの承認を得ます。承認のためには、計算書類を受益者や帰属権利者に提示し、異議申し立てがない限り、1か月以内に承認されたと見なされます。
9‐2.信託終了時に不動産がある場合
家族信託が終了する際、信託財産に不動産が含まれているケースでは、所有権の移転と信託の抹消登記が必須となります。具体的には、信託契約に基づき、不動産の所有権を帰属権利者に正式に引き渡すために、受託者から帰属権利者への名義変更登記と、信託関係を終了させるための信託抹消登記を行う必要があります。
例えば、受託者が長男で、信託終了の事由が「受益者である父の死亡」、帰属権利者が母と定められている場合、長男(受託者)と母(帰属権利者)は共同で所有権移転登記を申請します。そして、信託登記の抹消は、長男単独で行います。これにより、不動産は母の名義に正式に移り、信託は清算されます。
特殊なケース:受託者と帰属権利者が同一人の場合
受託者と帰属権利者が同一人である場合、2024年1月10日からは、受託者(兼帰属権利者)自身が信託財産を固有財産として登記するようになりました(令和6年(2024年)1月10日法務省民二第17号文書)。
以前は全国の法務局で取り扱いが統一されていなかった問題を解決するための改善策で、弊社がこの解決に尽力させていただきました。この新しい手続きにより、受託者はより簡単に、自己の固有財産として不動産の登記を行うことができるようになったのです。
信託終了後の不動産登記は、帰属権利者が誰であるかによって手続きの内容が変わります。そのため、正確な手続きを進めるためには、家族信託に精通した司法書士との相談が不可欠です。適切なアドバイスを受けながら、スムーズな信託清算と不動産の移転を実現しましょう。詳しくは、下記の記事で解説しています。
9‐3.注意点:実績のある専門家のサポートを受ける
家族信託が終了する際、特に不動産の名義変更に関する手続きは、2023年12月時点でまだ一部が不明瞭です。法務局によって取り扱いにばらつきがあるため、受託者が不動産の権利帰属者となる場合の登記手続きには特に注意が必要です。
さらに、2022年12月に東京国税局が示した文書回答により、家族信託終了後の不動産が「相続空き家特例」の適用外となることが判明しました。この特例は、相続や遺贈で得た空き家をリフォームや解体後に売却する際、売却収入から最大3,000万円を控除できる制度ですが、家族信託終了後の不動産には適用されないというのです。
家族信託に関わる手続きは、信託終了を迎えた案件がまだ少なく、一部の手続きが確立されていない状況です。このような状況では、信託開始だけでなく終了後の手続きについても、経験豊富な専門家のアドバイスが不可欠です。
当サイトでは、家族信託の設立がご家族にとって最適か、または他の生前対策が適しているかについて、無料で相談を受け付けています。6000件以上の相続・家族信託相談実績を持つ専門の司法書士・行政書士が、ご家族に合ったプランを提案します。
ご興味のある方は、ぜひ無料相談をご利用ください。専門家のサポートを受けながら、家族信託を成功に導きましょう。
10.動画解説|家族信託の進め方とスケジュール
11.まとめ
- 家族信託の手続きは、大きく分けると①家族信託の開始、②家族信託の期間中、③家族信託の終了手続きの3つがある
- 家族信託を開始する場合、すべての手続きが終わるまでに1ヵ月半~3ヵ月ほどかかる
- 家族信託の目的、信託財産、およびその管理権限など、家族全員で合意した上で信託契約書を作成する
- 信託契約書は、信託口口座開設のためにも「公正証書」での作成が有効である
- 不動産がある場合は、別途信託登記手続きも必要であるため、必要な書類や費用は追加でかかる
家族信託の進め方やスケジュール感、手続きのイメージは以上の通りです。家族信託を実際に行おうと考えている方は、しっかりと設計を行う事。ここで、終わり方や終わった時の財産の引き継ぎ方についてを家族信託はすべて決められる制度です。
そのために家族会議の場をセッティングして、生前に家族で話し合いをし、両親からの想いや子供の想いを共有してストレスのない相続にしていきましょう。