家族信託において、「甥や姪を受託者にできるのか?」という疑問をお持ちの方は、結構多いのではないでしょうか。実は、家族信託の受託者は血縁関係の有無に関係なく、信頼できる人物であれば受託者になれます。
本記事では、受託者の選任に関する注意点や家族信託以外の選択肢、契約時のトラブルとその対策について解説します。
今回の記事のポイントは以下のとおりです。
- 家族信託の受託者は血縁関係の有無に関わらず誰でもなれるが、判断能力が必要である
- 破産者も受託者になれるが、受託者になった後で破産すると任務終了となる
- 家族信託以外にも、成年後見制度や商事信託などの選択肢がある
- 家族信託は、遺留分や想定外の税金発生などに留意し、専門家に相談しながら慎重に設計することが望まれる
目次
1.甥や姪は家族信託の受託者になれる?
家族信託の受託者は、甥や姪を含め、血縁関係の有無に関わらず誰でもなれる可能性があります。ただし、未成年者など判断能力が不十分な方は受託者になれません。ここでは、受託者になれる人物となれない人物について、さまざまなケースを想定して解説します。
1-1.血縁関係がなくとも受託者にはなれる
家族信託の受託者には、血縁関係に制限はありません。信託法上、受託者に求められる要件は、未成年者でないことだけです。そのため、甥や姪、さらには家族以外の人でも受託者になれます。信託は、特定の人に財産を託すための手段であるため、受託者が信頼できる人物であるかどうかが重要です。
家族信託の「家族」という名称が示す通り、一般的に家族間での信託を想像しがちですが、必ずしも家族内で行わなければならないわけではありません。信託契約の目的に照らして、信頼できる人物を受託者に選ぶことが重要です。
1-2.破産者でも復権すれば、受託者になれる
家族信託の受託者として過去に破産した者を選ぶことに制限はありません。
破産手続き開始決定を受けると受託者の退任事由に該当するものの、その後復権すれば、受託者となることができます。
ただし、受託者として適切に職務を果たせるかどうか、慎重に見極める必要があります。
一方で、受託者になった後に破産すると、原則としてその任務は終了します。破産によって財産管理に支障が出る可能性もあるためです。ただし、信託契約に「破産後も受託者として継続する」旨の条項を設ければ、任務の終了を避けられます。
1-3.未成年者は受託者になれない
家族信託では、受託者に財産の管理や処分の権限が与えられているため、適切に判断し権利を行使できる人物であることが求められます。判断能力が不十分な場合、適切な財産管理ができず、信託の目的が達成されないおそれもあります。
未成年者は親権者のサポートを受けますが、自らの判断で受託者としての責務を果たすことはできません。そのため、信託法上、未成年者は受託者にはなれません。
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2.甥・姪を家族信託の受託者にする場合の注意点
甥や姪を家族信託の受託者にする場合、親族間であるがゆえに、注意すべき点がいくつか存在します。安易に決めてしまうと、後々トラブルに発展したり、希望通りの財産管理・承継ができなかったりする可能性もあるため注意が必要です。ここでは、受託者を甥や姪にする際に注意すべき点について解説します。
2-1.家族トラブルに注意する
家族信託において、代襲以外に相続権のない甥や姪を受託者にすると、責任に見合う見返りがないため、不満が生じやすく家族間の摩擦を引き起こす可能性があります。
また、受託者の権限が大きい場合や、信託財産の管理状況に関する情報共有が不十分な場合、他の家族が不公平感や不信感を抱きやすくなります。信託契約の内容についても、十分な理解がないまま進めると、誤解や対立の原因となりかねません。
家族信託は、法的には他の家族の同意を必要としませんが、合意のないまま進めることで紛争に発展するリスクがあります。特に信託の仕組みに不満を持つ家族がいる場合、裁判沙汰となり、長期的な対立にいたる可能性もあります。
信託を円滑に運用するには、事前に目的や管理方法を明確にし、関係者全員が理解・納得できる環境を整えることが重要です。また、透明性を確保し定期的に情報を共有することで、家族間の信頼関係を維持しやすくなります。
2-2.希望を叶えられるかを確認する
甥や姪を家族信託の受託者にする場合、まずは自分たちが実現したい希望を明確にすることが重要です。家族信託は財産管理や承継の有効な手段ですが、必ずしも適した選択とは限りません。希望を叶えるために、家族信託が本当に必要なのかを慎重に検討する必要があります。
次に、家族信託以外の選択肢も考慮しましょう。成年後見制度や遺言、生前贈与など、他の制度を活用することで、甥や姪の負担を軽減できる場合があります。例えば、成年後見制度を利用すれば、財産管理の負担が軽くなり関係性を維持しやすくなるかもしれません。
最後に、どの制度を選択するか組み合わせるかを検討します。家族信託だけに固執せず、複数の制度を組み合わせることで、より柔軟な解決策を見つけられます。専門家と相談しながら適切な方法を選ぶことが、家族全員が笑顔でいられる秘訣といえるでしょう。
2-3.受託者が公務員の場合、信託報酬を得ると副業禁止に抵触することがある
家族信託の受託者が公務員の場合、副業禁止規定に抵触する可能性があります。信託契約により、受託者に対して信託報酬を支払う定めを設けることができます。受託者が信託報酬を得ることにより得られる収益が、副業とみなされる場合があるためです。
信託報酬を得る場合には、信託報酬を受け取ることが副業にあたるか、事前に職場に相談し、承認を得るようにしましょう。承認の可否は個別の状況によりますが、副業に当たる場合には、信託報酬を無報酬とするなど、承認が不要な範囲で信託を設計することが重要です。
2-4.受託者の職務に長期間縛られる可能性がある
家族信託契約においては、受託者としての責任が長期間にわたって続くことがあります。信託の目的が達成されるまで、受託者は信託財産の管理や運用に関する責任を全うする必要があります。これは、信託契約が長期にわたることも多いためです。
特に、契約内容や財産の種類によっては、受託者としての役割が数年から数十年にも及ぶことがあります。そのため、受託者を選任する際には、その長期的な負担を十分に考慮することが重要です。
2-5.信託財産の総額を超える弁済義務を負う可能性がある
甥や姪を家族信託の受託者にする場合、信託財産の総額を超える分まで弁済義務を負う可能性がある点に注意が必要です。
受託者は信託財産の管理・運用において無限責任を負います。信託財産で負債を返済しきれない場合、受託者は自身の財産で不足分を補填しなければなりません。
例えば、信託不動産が隣家に損害を与えた場合、損害賠償金の不足分は受託者の個人財産で補う必要があります。このように、受託者は信託契約終了まで、信託財産の管理に関する一切の責任を負うことになる点について、委託者として把握しておきましょう。
2-6.身上保護まではサポートされない
家族信託は主に財産の管理や運用に焦点を当てた仕組みであり、受託者が被信託者の生活全般をサポートする身上保護までは含まれていません。これは、家族信託が財産の管理や運営に特化しているためです。
したがって、信託を通じて財産の管理を行いつつ生活面でのサポートが必要な場合には、成年後見制度や任意後見制度などの併用が推奨されます。甥や姪を受託者にする際も、この点を理解し、必要に応じて他の制度を活用することが重要です。
3.財産を託せる人がいない場合の家族信託以外の選択肢
家族信託を検討する際、受託者として信頼できる人が見つからない場合もあります。そのような場合、家族信託以外の選択肢として、成年後見制度や商事信託があります。以下で、それぞれについて見ていきましょう。
3-1.成年後見制度・任意後見人制度
判断能力が不十分な人を保護・支援するための制度として、成年後見制度と任意後見制度があります。これらの後見制度は法的裏付けが強く、公的機関の監督を受けるため、安全性が高いといえるでしょう。
成年後見制度は、判断能力がない人を対象に、「家庭裁判所が選任した後見人等」が財産管理や身上保護を行います。支援内容は後見・保佐・補助の3つの類型に分かれ、本人の判断能力に応じて適用されることが特徴です。成年後見制度の実施により、本人の行為能力が制限され、権利の保護と適切な支援が得られます。
任意後見制度は、将来的な判断能力の低下に備え本人が信頼する後見人を選び、その委任内容を公正証書で契約しておく制度です。特に、信頼する人を後見人として選べる点が大きな特徴となります。本人の意思を反映しやすく、契約内容も柔軟に設定できる一方で、判断能力が低下した際には家庭裁判所が任意後見監督人を選任し制度が発効する仕組みです。
ただし、これらの後見制度は家庭裁判所の関与が必要であるため、手続きに時間がかかることや、柔軟な対応が難しい場合もあることに留意する必要があります。
3-2.商事信託
商事信託は、金融機関や専門事業者が資産管理を受託するサービスです。専門家による管理が行われるため、安全性が高く、長期的な財産管理に適しています。特に、資産の使い込みリスクを低減できる点が大きなメリットです。
近年では、金融機関が手数料の低い金銭信託を提供し、手続きも簡単に行えるサービスを提供しており、大手ハウスメーカーにおいては顧客の不動産管理を受託するケースも増えています。
ただし、商事信託には家族信託と比較して管理コストが高く、財産管理の自由度が低いというデメリットもあります。しかし、将来の資産管理に不安を感じる人にとっては、有効な選択肢となり得るでしょう。また、金銭と不動産で異なる信託方法を組み合わせて利用できます。
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4.甥・姪と家族信託契約を結ぶ際に注意するべきトラブル
家族信託契約を結ぶ際には、いくつかのトラブルに注意する必要があります。特に、親族間の関係が悪化する可能性や、信託法による制約などが考えられます。ここでは、家族信託に関する主要な注意点を解説し、トラブルを避けるための注意点を紹介します。
4-1.親族仲の悪化
家族信託では、受託者を誰にするか慎重に判断することが重要です。親族と十分に相談せずに決めると、他の親族が不満を抱く可能性もあります。特に、家族信託は将来の相続にも関わるため、「自分の相続分が減るのではないか」と考える親族が出てくるかもしれません。
また、特定の親族を受託者に選んだ場合も、不公平だと感じる人がいると、関係がぎくしゃくする原因になります。このような状況が続くと、相続時に争いが生じるリスクも高まり、受託者が親族間の対立に巻き込まれることで財産管理が円滑に進まなくなる可能性もあります。
こうしたトラブルを防ぐには、信託契約を結ぶ前に親族全員で十分に話し合うことが大切です。受託者を決める際は、関係者の理解を得ながら、公平性を意識することが求められます。家族全体で意見を調整しながら受益者の利益を守る仕組みづくりが、円満な財産管理につながるでしょう。
4-2.信託できない財産の対象設定
家族信託契約は、柔軟な財産管理を可能にする一方で、信託法に基づく法的な制度です。そのため、契約を結ぶ際は、信託できない財産に注意し、無効となるリスクを避けなければなりません。
信託において、農地や預貯金口座は信託の対象外とされています。農地は農地法の規制により信託できず、預貯金口座についても銀行との譲渡禁止特約があるため、契約書に記載しても効力は生じません。
金融機関は、家族信託を理由に受託者による預金引き出しを認めていないため、注意が必要です。ただし、預貯金口座内の金銭自体は信託が可能です。その場合、委託者が、契約後に受託者名義の信託口口座へ送金します。
家族信託契約を有効に機能させるためには、事前に信託法について十分に理解し、無効な契約とならないよう注意深く検討することが大切です。専門家に相談することも確実な手段の一つです。
4-3.信託法の規定による信託契約の強制終了
家族信託契約は、信託法の規定によって強制的に終了するケースがあるため十分な注意が必要です。
まず、受益者連続型信託には「30年ルール」が適用されます。信託開始から30年が経過した後、新たに受益権を引き継げるのは1回限りとされています。そのため、二次・三次の受益者を指定しても、計画通りに承継が続くとは限りません。
さらに、受託者と受益者が、同じ人物である状態が1年以上続くと信託契約は終了します。これらの法的ルールを十分に理解していないと、意図しない形で信託が終了する可能性もあるため、慎重に設計することが大切です。
4-4.想定外の税金の発生
家族信託契約を結ぶ際には、想定外の税金が発生するリスクを考慮することが重要です。
信託の設計や契約書の内容によっては、予期しない税金が課せられる場合もあります。例えば、贈与税や不動産所得税が発生することもあります。
税金の支払いに関して、当事者が課税対象に気づかずにいると、納税資金を準備できない場合や延滞税が課せられるリスクも生じるため注意が必要です。
4-5.遺留分に関するトラブル
家族信託は相続対策として有効ですが、遺留分に関するトラブルに注意が必要です。遺留分とは、特定の相続人が遺産を相続する際の最低限の取り分を指します。
家族信託で財産の承継を偏った割合で設定した場合、遺産を受け取れなかった相続人から遺留分を請求される可能性があるので注意しましょう。
遺留分を請求されると、金銭での支払いが求められます。そのため、家族信託を設計する際は、遺留分請求に備えた資金準備が重要です。例えば、遺留分相当額を想定し、確保しておくことで、請求が発生した際に円滑に対応できます。
遺留分請求を防ぐためには、相続人間で十分な話し合いを行い、公平性を確保することが望まれます。また、専門家の助言を受けながら、遺留分に配慮した信託契約を設計することでトラブルを未然に防げるでしょう。
4-6.専門家選びの失敗
家族信託契約は締結後の管理が重要であり、専門家選びに失敗すると後々のトラブルにつながるリスクがあります。そのため、家族信託に関する十分な知識と経験を有した専門家の選択が不可欠です。
家族信託は比較的新しい制度であり、経験が少ない専門家では予期しない事態に適切に対処できないことがあります。一方、経験豊富な専門家は契約書に工夫を凝らし、柔軟な対応が可能です。
また、家族信託契約は長期間にわたるため、当初の計画通りに進まないことがあります。このような変化に対応できない場合、契約内容を大幅に変更する必要が生じ、無駄に費用や時間を費やすリスクが高くなります。
したがって、家族信託を検討する際には、専門家の経験と知識を慎重に見極めるようにしましょう。
5.家族信託は専門家への相談がおすすめ
家族信託を検討する際は、まず現在の状況と希望を整理し、司法書士や弁護士などの専門家に相談することが大切です。家族信託が最適な手段とは限らず、場合によっては他の方法がより適していることもあります。
適切な検討を欠くと、受託者に過度な負担がかかり、結果として関係者全体に不利益をもたらすおそれがあるため、専門家の目線からのアドバイスを得ることが望ましいでしょう。
多くの司法書士事務所では、初回相談を無料で行っています。まずは専門家に相談し、家族の状況に最適な解決策について探ることをおすすめします。専門家の客観的な助言を参考に、家族全員が納得できる方法を見つけましょう。
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6.まとめ
本記事では、甥や姪を家族信託の受託者にできるかについて解説しました。内容をまとめると、以下のとおりです。
- 家族信託の受託者は血縁関係の有無に関わらず誰でもなれるが、判断能力が必要である
- 破産者も受託者になれるが、受託者になった後で破産すると任務終了となる
- 家族信託以外にも、成年後見制度や商事信託などの選択肢がある
- 家族信託は、遺留分や想定外の税金発生などに留意し、専門家に相談しながら慎重に設計することが望まれる
家族信託は、甥や姪を含め、信頼できる人に財産管理を託せる柔軟な制度です。しかし、信託法の規定や税金、親族間のトラブルなど、注意すべき点も多く存在します。
大切な財産を守り、円満な相続を実現するためには、専門家への相談が不可欠です。家族の状況や希望を丁寧に整理し、専門家と共に最適な方法を検討することで将来への不安を解消し、安心して暮らしていけるように今から準備を始めましょう。