遺言信託とは、信託銀行などの金融機関に遺言書の作成や保管、遺言執行などをまとめて依頼することを指すことが一般的です。資産管理や運用のアドバイスも得られるので、遺言だけでなく財産についてサポートが必要なときにも利用できます。
メリットの多い遺言信託サービスですが、利用する際には注意が必要です。例えば、利用料金が想定以上に高額になったり、委託先が倒産したりするなどのトラブルが生じることもあるでしょう。
今回の記事のポイントは以下のとおりです。
- 遺言信託は法律上のものと信託銀行などで提供しているサービスの2つの種類がある
- 遺言信託サービスでは、遺言書の作成から遺言執行までのサポートを受けられる
- 相続トラブルが生じたときは、遺言信託サービスでは対応できないことがある
- 遺言信託を司法書士など専門家に相談することもできる
本記事では、遺言信託サービスを利用することで想定されるトラブルについて詳しく解説します。また、遺言信託サービスの利用を検討できるケース、司法書士に遺言信託について相談するメリットなどについても解説します。
1.遺言信託とは?
遺言信託とは、法的なものと信託銀行で提供しているサービスの2つの種類があります。法的な遺言信託とは、財産の委託先や管理運用方法などについて決めておくことです。
例えば、遺言信託の1つとして家族信託が挙げられます。家族信託とは不動産や預金などの財産を家族に託し、管理や処分などを任せる財産管理法のことです。遺言書で家族信託をスタートすることができます。自分の死後に遺した財産を信頼できる人(受託者)に管理を任せ、特定の人(受益者)のために財産を使ってもらうといったように、遺言で家族信託をスタートできます。
一方、信託銀行で提供している遺言信託サービスとは、遺言書の作成や保管、遺言執行をトータルで請け負うサービスです。信託という名称を使っていますが、上記で説明した家族信託ではありません。遺言書の作成、保管、相続後の手続きのサポートするサービスです。遺言書の見直しにも対応しており、状況の変化に応じて遺言書を書き換えることもできます。
一般的に遺言信託というと、信託銀行の遺言信託サービスを指すことが多いです。任意で利用できるサービスのため、必ずしも利用する必要はありませんが、遺言や相続について不安や悩みがあるときは信託銀行に一度相談してみることができるでしょう。
2.遺言信託の手続きの流れ
信託銀行などの遺言信託サービスを利用するときは、以下の流れに沿って手続きを行います。
- 信託銀行などに相談をする
- 遺言書を作成する
- 信託銀行などと契約を結ぶ
- 死亡通知人から信託銀行などに連絡する
- 執行業務を開始する
- 財産目録を作成する
- 相続税などの申告・納付などの手続きを行う
- 遺産分割を執行する
それぞれの段階でどのような手続きが必要なのか、また、どのようなサービスを受けられるのかについて解説します。
2-1.信託銀行などに相談をする
遺言信託サービスを利用したい方は、信託銀行などの遺言信託サービスを提供している金融機関に相談します。いずれの金融機関の遺言信託サービスも、遺言書の作成や保管、遺言執行をトータルで請け負うという点は共通していますが、利用料金やオプションとなるサービスなどが異なります。いくつかの遺言信託サービスを比較し、依頼先を決めましょう。
弁護士や税理士などの専門家による手続きやサポートが必要なときは、専門家も交えて相談します。相続人や遺言の対象となる財産などについて詳しく説明し、どのようなサービスが必要か決定していきましょう。
2-2.遺言書を作成する
遺言信託サービスには、遺言書の作成サポートも含まれています。どのような遺言書にしたいのか担当者に詳しく希望を伝え、公正証書として作成します。
なお、遺言書は作成し直すことが可能です。何らかの事情で遺言書の内容を変えたいときは、担当者に相談して作成し直します。新しい遺言書も公正証書として作成し、法的に有効な遺言書として認められるようにしておきます。
2-3.信託銀行などと契約を結ぶ
遺言書の作成後、信託銀行などに遺言書の管理と遺言執行を正式に申し込みます。
なお、遺言書の作成サポートも遺言信託サービスに含まれますが、遺言書を正式に作成してから遺言信託サービスへ正式に申し込み、契約を締結することが一般的です。利用の流れについては信託銀行ごとに異なる点もあるので、事前に確認しておきましょう。
また、遺言信託サービスを契約するときは、次の書類の提出が求められます。
- 遺言書の正本
- 遺言信託サービスの申込書
- 財産目録
- 遺言者の戸籍謄本
- 印鑑証明書
信託銀行によっては、他の書類も求められることがあります。
2-4.死亡通知人から信託銀行などに連絡する
遺言信託サービスの契約を締結する際に、遺言者が死亡したときに信託銀行に知らせる「死亡通知人」を指定しておきます。遺言者が死亡したときは、死亡通知人が速やかに信託銀行に死亡の事実を伝えます。
2-5.執行業務を開始する
信託銀行は、死亡通知人の連絡を受けるとすぐに執行業務を開始します。遺言書を相続人などに公開し、信託銀行が遺言執行者として依頼を受け、執行業務を担当することを説明します。
2-6.財産目録を作成する
まずは相続対象となる財産の目録を作成します。遺言信託サービスの契約をするときにも遺言者から財産目録を受け取っていますが、時間が経過していることで対象財産が変わっている可能性もあるので、新たに作成することが必要です。相続人からも協力を得て、財産や債務などを表にまとめます。
2-7.相続税などの申告・納付などの手続きを行う
遺産分割の終了後、相続人は各自、相続税の申告や納付の手続きを行います。ただし、遺言信託サービスには相続人の相続税申告・納付の手続きは含まれていないため、サポートを受けるときは別途で費用が必要です。
2-8.遺言内容に基づいて財産を分配する
信託銀行では、遺言者から遺産の管理・処分、不動産の名義変更などについて依頼を受けている場合には、それぞれの手続きを実行します。遺言者の意思に従って遺産を相続人に引き渡し、遺言執行を完了します。
3.遺言信託で考えられるトラブルとは
遺言信託サービスは、本来、遺言の執行をスムーズに行い、相続人の間でのトラブルを回避する目的で利用するサービスです。しかし、遺言信託サービスを利用することで、トラブルに巻き込まれることもあります。遺言信託サービスに契約する前に、次の3点を確認しておきましょう。
- 依頼先の銀行が倒産する可能性もある
- 依頼費用が想定以上の高額となってしまう
- 銀行では対応できない相続トラブルがある
それぞれのトラブルについて解説します。
3-1.依頼先の銀行が倒産する可能性もある
依頼先の信託銀行や財産を預けている銀行が倒産する可能性はあります。信託した財産は受託者の倒産の影響を受けませんが、契約していた信託サービスを受けられなくなることがあるので注意が必要です。財産の預け先を決めるときは、金融機関の安定性や健全性についても考慮するようにしましょう。
3-2.依頼費用が想定以上の高額となってしまう
遺言信託サービスの利用料金は、高額な傾向にあります。信託銀行によっても異なりますが、遺言書の保管開始時に数十万円以上かかるだけでなく、毎年の保管手数料や遺言書を書き換えたときの手数料なども必要です。
また、遺言執行時には対象となる財産額に応じて一定割合の手数料を請求されます。さらに、遺言書を公正証書として作成するときの費用や、相続人が相続税の申告・納付のサポートを受けたときの費用なども必要になることがあるでしょう。
そのため、財産があまり多くないときに遺言信託サービスを利用すると、手数料が割高に感じることもあります。その分、相続人が相続できる財産は減るので、利用するかどうかは慎重に検討するようにしましょう。
3-3.銀行では対応できない相続トラブルがある
遺言信託サービスは、基本的には遺言書の作成と保管、遺言執行の3つの業務を請け負うサービスです。遺言者の依頼に応じて財産管理などのアドバイスを行うこともありますが、あくまでも銀行で対応できる範囲内で実施されます。
例えば、遺言執行の際に相続人や関係者の間で相続トラブルが生じたときなどは、銀行の業務範囲を逸脱するため、対応することはできません。その場合は、遺言執行も実現できなくなるので注意が必要です。
また、相続人や相続対象の財産などから将来的にトラブルが起こりそうだと判断されるときには、信託銀行は遺言信託サービスの依頼そのものを受け付けない可能性もあります。遺言信託サービスに依頼するときは、信託銀行が対応可能な案件かどうか判断しやすいように、相続人や相続財産などの状況を可能な限り正確に伝えるようにしましょう。
4.遺言信託をおすすめできるケース
遺言信託サービスを利用するほうがよい状況もあります。特に次の状況に該当するときは、遺言信託サービスの利用を検討できるでしょう。
- 財産規模が大きい
- 家族構成がシンプルである
それぞれのケースでなぜ遺言信託サービスが適しているのか解説します。
4-1.財産規模が大きい
相続の手続きは、財産の種類や金額が多いときは複雑になる傾向にあります。集める書類が増えるだけでなく、それぞれの財産を誰がどのように相続すればよいのか決める必要も生じ、手間と時間がかかります。
遺言信託サービスに契約しておけば、遺言執行に関わる手続きを信託銀行に一任することが可能です。弁護士や司法書士などの専門家が必要になったときは、その場で依頼してもらうこともできるため、相続人だけで手続きを進めるよりははるかに手間がかからず、相続人の負担も減るでしょう。
4-2.家族構成がシンプルである
信託銀行の遺言信託サービスでは、銀行ができる範囲内でのサービスが提供されます。信託銀行経由で弁護士や司法書士などの専門家に依頼して、不動産登記や相続税の申告・納付などのサービスが提供されることもありますが、相続トラブルに関しては管轄外となるため、遺言執行が実行できない可能性はあります。
遺言書の作成から遺言執行までトータルでサービスを受けるためにも、相続トラブルが起こりにくい場合に遺言信託サービスを利用するほうがよいでしょう。例えば、相続人が配偶者と子どもしかいない場合や、子ども同士の仲が良く遺言書どおりの相続が実行されそうな場合であれば、遺言信託サービスに契約し、遺言執行まで一任しやすいと考えられます。
5.遺言信託は司法書士に相談することもできる
遺言信託は信託銀行などの金融機関に依頼することもありますが、司法書士や弁護士などに相談して進めることも可能です。司法書士や弁護士などの専門家に相談して遺言信託することには、次のメリットがあります。
- 必要なサービスだけを依頼できる
- 仲介手数料などがかからない
- 専門家のサポートをスムーズに受けられる
信託銀行の遺言信託サービスは、基本的にはパッケージでの提供となります。遺言書の作成と管理、遺言執行がすべてセットになっているため、「遺言執行だけを依頼したい」「遺言書の管理だけを任せたい」といったニーズには対応できないことがあります。
しかし、司法書士や弁護士などの専門家に個別に依頼するときは、必要なサービスだけを依頼し、そのサービスにかかる費用だけ支払うことが可能です。遺言信託にかかる費用も抑えられるため、より多くの資産を遺せる可能性もあります。
また、信託銀行を通して司法書士や弁護士などの専門家のサポートを受けるときは、専門家報酬に加え、仲介手数料に相当する費用が上乗せされるかもしれません。専門家に直接依頼すれば費用の上乗せは発生しないため、遺言信託にかかる費用を抑えやすくなります。
司法書士や弁護士などに直接遺言信託を依頼すると、専門家のサポートをスムーズに受けられるというメリットもあります。信託銀行の遺言信託サービスを利用するときは、専門家のサポートが必要かどうかを信託銀行側が判断してからの依頼となるため、サポートを受けるまでに時間がかかる可能性もあるでしょう。
相続税の申告・納税は相続を知ったときから10か月以内、相続放棄は相続を知ったときから3か月以内に実施しなくてはいけないため、あまりゆっくりとしていては手続きが進められません。相続人がスムーズに相続関連の手続きを完了するためにも、前もって司法書士や弁護士などの専門家に依頼しておくことも1つの方法です。
遺言信託サービスを利用するかお悩みのときは、ぜひ当事務所にご相談ください。遺言や相続の経験豊富な専門家が、お客様の状況やご希望を丁寧にうかがい、遺言信託サービスと専門家への直接依頼のどちらが適しているのか診断いたします。診断料や相談料は無料です。お気軽にお問い合わせください。
6.まとめ
本記事では、信託銀行の遺言信託サービスを利用するときに生じる可能性があるトラブルについて解説しました。内容をまとめると以下のようになります。
- 遺言信託は法律上のものと信託銀行などで提供しているサービスの2つの種類がある
- 遺言信託サービスでは、遺言書の作成から遺言執行までのサポートを受けられる
- 相続トラブルが生じたときは、遺言信託サービスでは対応できないことがある
- 遺言信託を司法書士など専門家に相談することもできる
信託銀行の遺言信託サービスは、遺言や相続に関連する手続きを一任できるサービスです。遺言や相続に不安を抱えている方であれば、利用を検討できるでしょう。
しかし、手数料が高額な傾向にあることや、銀行の業務範囲を超えることには対応できないことなど、事前に注意するポイントもいくつかあります。各信託銀行の利用料金やサービス内容を詳しくチェックしてから契約を締結するようにしましょう。
特に追加料金についてはしっかりと把握しておくことが大切です。司法書士や弁護士などの専門家のサポートが必要になるときや、遺言書を書き換えるときなどには、追加費用が発生することもあります。
遺言信託は、司法書士や弁護士などの専門家に直接依頼することもできます。必要なサービスだけを選んで依頼できるため、費用を抑えて遺言信託を実行することが可能です。遺言信託については、ぜひ当事務所にご相談ください。お客様のご希望から、どのようなサービスが必要かを丁寧に解説いたします。お気軽に無料相談をご利用ください。