家族信託は公正証書で作るべき?必要性や手続き方法を詳しく解説

自分で財産を管理できなくなったときのために、家族信託を検討する方もいます。家族信託を選択することで、特定の財産の管理を家族に委託でき、万が一、認知症などに罹患して財産管理ができなくなったときにも安心です。

今回の記事のポイントは以下のとおりです。

  • 家族信託をするときは契約書を作成する必要がある
  • 家族信託契約書私文書もしくは公正証書として作成する
  • 公正証書のほうがトラブルを回避しやすい
  • 公正証書として家族信託契約書を作成するときは費用が発生する

本記事では、家族信託の契約書について知っておきたいことを解説します。契約書を私文書として作成するときと、公正証書として作成するときのメリットやデメリットも比較しながら説明します。

契約書の種類によって、将来起こり得るトラブルを回避することも可能です。大切な財産を適切に管理するためにも、ぜひご覧ください。

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1.家族信託には契約書が必要

家族信託とは、将来、自分で財産を管理することが難しくなったときのために、家族に財産管理の権限を与えておくことです。権限は財産ごとに決定できるため、特定の不動産のみ家族信託を実施することもできます。

家族信託では、次の三者が登場します。

委託者:財産の所有者。受託者に財産管理の権限を委託する
受託者:財産の管理者。委託者から財産管理の権限を委託される
受益者:受託者による財産管理によって発生した利益を得る人。委託者=受益者が一般的

家族信託の契約は、委託者と受託者間で結びますが、契約が成立したことを証明するため契約書の作成が必要です。個人的に作成する私文書でも問題はありませんが、公証役場で公正証書として作成することもできます。いずれにしても契約内容を明確にすることが大切です。

契約書の書き方についてしっかりとチェックされたい方はこちらのブログをご参考にされてください。ひな型もついているので、参考になると思います。

2.家族信託契約書を公正証書にするメリット

家族信託契約書は私文書として作成できますが、公正証書として作成するほうがメリットが多いといえます。主なメリットとしては、次のものが挙げられます。

  • 本人の意思に基づく契約であることを主張しやすい
  • 紛失・盗難時は公証役場で再発行できる
  • 信託口口座を開設できる

それぞれどのようなメリットなのか見ていきましょう。

2-1.本人の意思に基づく契約であることを主張しやすい

公正証書を作成するときは、契約者本人の意思に基づく契約書であることを公証人が確認します。また、契約者自身が契約内容について理解していること、納得していることも確認します。そのため、公正証書として家族信託契約書を作成しておくと、契約者本人の意思に基づく書類であると主張することが可能です。

一方、私文書として作成した場合、公証人の関与の元で契約者の意思に基づくことを証明できません。第三者から「受託者から強制されて作成したのでは?」と疑われる可能性もあり、書類の有効性について訴訟などに発展するケースも考えられます。

2-2.紛失・盗難時は公証役場で再発行できる

公正証書を作成すると、契約当事者に正本が渡されます。正本は大切に管理するべきですが、紛失や盗難の可能性がないわけではありません。また、災害などにより失われてしまう可能性もあります。

正本が失われたときは、公証役場に伝えれば簡単に再発行できます。公正証書の原本は作成した公証役場で管理されるため、何度失くしても再発行でき安心です。

2-3.信託口口座を開設できる

財産を信託管理するときは、次のいずれかの口座を利用することが一般的です。

  • 信託口口座
  • 信託専用口座

信託口口座とは、信託法に基づいて受託者が委託者から委託された金銭を管理するための専用口座です。口座名義は委託者と受託者の連名となり、信託口座であることがひと目でわかるようになっています。

信託口口座を利用することで、口座内の資産は信託財産の一部であることが明白になり、受託者個人の財産とは完全に分別して管理できます。また、受託者が破産・差押された場合でも、信託口口座は強制執行の対象となりませんし、受託者が委託者・受益者より先に死亡した場合でも受託者個人の相続財産とはなりません。

一方、信託専用口座とは、委託を受けた金銭を受託者自身の名義で管理する普通口座です。見た目は普通の口座と同じですが、信託契約書のなかに口座番号を記すことで信託専用の口座であることを示せます。

しかし、信託専用口座はあくまで受託者個人の口座に過ぎないため、金融機関では信託財産として預金口座を管理していません。そのため、受託者の破産や差押があった場合、または受託者の相続が発生した場合には口座は凍結されてしまうというリスクがあります。

ほとんどの金融機関において、私文書による契約では信託口口座を開設できません。信託財産をほかの財産と明確に区分けするためにも、家族信託契約書を公正証書で作成し、信託口口座を開設するようにしましょう。

信託口口座の作り方や手続き方法について詳しくは別の記事でまとめてあります。気になる方はチェックしてください。

3.家族信託契約書を公正証書にしないとどうなる?

家族信託契約書を公正証書ではなく私文書として作成すると、次のような事態が起こる可能性があります。

  • 紛失・盗難時に契約内容を証明できない
  • 親族から訴訟を起こされる可能性がある
  • 金融取引などの契約時に公正証書での提示を求められる可能性がある

それぞれどのようなケースなのか、具体的に見ていきましょう。

3-1.紛失・盗難時に契約内容を証明できない

私文書として家族信託契約書を作成した場合、紛失・盗難時には契約内容を証明できません。契約当事者が契約書に記載した内容を一字一句正確に記憶していたとしても、その記憶が正しいことは証明できないため、契約は無効になってしまいます。

私文書として作成した家族信託契約書を紛失・盗難した場合は、新しく家族信託契約を締結することになります。しかし、失われた契約書を作成した時点とは状況が変わっている可能性もあり、同じ内容での契約は難しいかもしれません。

3-2.親族から訴訟を起こされる可能性がある

信託する財産によっては、受託者が一方的に利益を得ているように見えることがあるかもしれません。親族から「委託者に強制したのではないか」「契約時に委託者は判断能力があったのか」などと疑われ、信託契約を無効とする訴訟に発展する可能性もあります。

私文書として家族信託契約書を作成している場合は、将来紛争になった場合には、委託者の意思に基づいて契約がおこなわれたのかが争われる可能性があります。公正証書として家族信託契約書を作成している場合は、公証人によって契約当事者の意思が確認されているため、訴訟を起こされても契約の有効性を示すことが可能です。

私文書で作成する場合において、将来委託者の判断能力について争いになる可能性があるようであれば、別途、契約締結時点に本人の判断能力があったことを証明できるよう医師の診断書を取り付ける、信託契約締結の過程を委託者本人の音声、動画で記録を残しておくなどの対応をしておくとよいでしょう。

3-3.金融取引などの契約時に公正証書での提示を求められる可能性がある

信託口口座を開設するときは、私文書による信託契約では受け付けてもらえない可能性が高い状況です。また、信託不動産を担保とする融資を受ける場合も、信託契約書が公正証書によって作成されていないときは受け付けてもらえないかもしれません。信託不動産を売却するなど、第三者に信託契約書を提示する場合もあります。その際、私文書では受け付けてくれない買主もいるかもしれません。

信託口口座の開設などの金融機関での手続きには、信託契約を示す証拠書類が必要になることが一般的です。私文書では証拠書類とならないため、公正証書の提示を求められるケースも多いでしょう。

4.家族信託契約書を公正証書にするデメリット

メリットの多い公正証書ですが、いくつか注意すべき点もあります。家族信託契約書を公正証書として作成する場合、次の点はデメリットになり得るかもしれません。

  • 契約に時間がかかる
  • 公正証書の作成費用がかかる
  • 希望通りの柔軟な契約内容とすること

それぞれの注意点について説明します。

4-1.契約に時間がかかる

公証役場は予約して利用するため、いつでもすぐに公正証書を作成できるわけではありません。また、依頼してから公正証書案ができあがるまでには、2週間程度かかることがあります。公証役場の混み具合にもよりますが、家族信託契約書を作成しようと決意してから完成までに、1ヶ月ほどかかることも珍しくありません。

一方、私文書なら曜日や時間を問わずいつでも作成可能です。今すぐ作成したいときや、契約までにあまり待てない場合は、私文書での作成も検討できます。

4-2.公正証書の作成費用がかかる

公正証書を作成するには作成費用がかかります。また、司法書士などに手続きの代行を依頼する場合は、作成費用に加えて専門家報酬も必要です。なお、詳しい費用については後述します。

一方、私文書を作成するときは、費用は一切かかりません。コストをかけずに家族信託契約書を作成したいときは、私文書も検討できます。

4-3.希望通りの柔軟な契約内容にならない可能性がある

公正証書として家族信託契約書を作成するときは、委託者・受託者で話し合って決めた契約内容を公証人に伝え、公証人が文章としてまとめていきます。公証人の意向によっては、公証役場指定の雛形を使用するなど、依頼者が望む契約内容に反映してくれない可能性があります。また、信託口口座開設にあたり、金融機関から契約書の内容の一部について変更をしなければ対応できないと言われる可能性もあります。

私文書として作成する場合であれば、契約当事者さえ納得していればよいため、自由度の高い契約を締結できます。

5.家族信託契約書を公正証書として作成する手順

家族信託契約書を公正証書として作成するときは、以下の流れで手続きを進めていきます。

  1. 当事者で契約内容を話し合う
  2. 公証人との面談を予約する
  3. 公証役場で必要書類を提出する
  4. 公正証書に間違いがないか確認する
  5. 費用を払って正本・謄本を受け取る

それぞれの段階で必要なものなども紹介します。

5-1.当事者で契約内容を話し合う

公証役場に行く前に、まずは委託者と受託者、受益者の間で契約内容を話し合います。信託財産の範囲や財産管理の方針など、細部まで決めておきましょう。

話し合った内容を紙にまとめておくと、誤認がなくなり、当事者間でトラブルが起こりにくくなります。また、公証役場でも、契約内容を抜け漏れなく公証人に伝えられるようになります。

5-2.公証人との面談を予約する

最寄りの公証役場で面談の予約をします。予約をする際に、必要な書類についても確認しておきましょう。

司法書士などの専門家に公正証書の手続き代行を依頼する場合は、公証人との面談を予約する必要はありません。公証人との対応もすべて司法書士などに任せられるため、公証役場に行かずに公正証書を作成できます。

5-3.公証役場で必要書類を提出する

専門家に依頼せずに公正証書を作成するときは、約束した日に公証役場に出向き、次の必要書類などを提出します。

公証役場で公正証書を依頼するときに持っていくもの

  • 本人確認書類
  • 印鑑
  • 信託する不動産の登記事項証明書
  • 信託する不動産の固定資産税評価証明書

依頼する内容を確認した後、公正証書の受取日時を予約します。

5-4.公正証書に間違いがないか確認する

依頼してから証書の作成までに2週間ほどかかります。予約した受取日時に再度公証役場に出向き、公証人が作成した公正証書に間違いがないか確認します。

5-5.費用を払って正本・謄本を受け取る

公正証書に間違いがないときは、費用を支払って正本と謄本を受け取ります。公正証書の原本は公証役場が保管します。

6.家族信託契約書を公正証書として作成する費用

家族信託契約書を公正証書として作成するときは、次の費用がかかります。

  • 公正証書の作成にかかる費用
  • 司法書士などに手続き代行を依頼するときの費用

それぞれの目安を紹介します。なお、契約当事者が公証役場に出向いて手続きをするときは、司法書士などへの専門家報酬は発生しません。

6-1.公正証書の作成にかかる費用

公正証書の作成にかかる費用は、信託金額によって異なります。以下をご覧ください。

信託金額 手数料
100万円以下 5,000円
100万円超200万円以下 7,000円
200万円超500万円以下 11,000円
500万円超1,000万円以下 17,000円
1,000万円超3,000万円以下 23,000円
3,000万円超5,000万円以下 29,000円
5,000万円超1億円以下 43,000円
1億円超3億円以下 43,000円に、超過額5,000万円までごとに13,000円を追加
3億円超10億円以下 95,000円に、超過額5,000万円までごとに11,000円を追加
10億円超 249,000円に、超過額5,000万円までごとに8,000円を追加

なお、別途、謄本費用や追加費用がかかることがあります。

出典:手数料|日本公証人連合会

6-2.司法書士などに手続き代行を依頼するときの費用

司法書士に手続きの代行を依頼するときは、10~15万円程度の専門家報酬が必要です。ただし、委託する内容によってはさらに高額になることもあります。

7.公正証書を作成しない場合の対処法

公正証書を作成しないで家族信託を実施するときは、次の方法で契約締結と財産管理をおこないます。

  • 私文書で作成する
  • 信託専用口座で信託財産を管理する

各方法を説明します。

7-1.私文書で作成する

公正証書を作成しないときは、私文書で家族信託契約書を作成します。親しい間柄でも口約束では誤解が生じ、トラブルに発展することがあります。少なくとも私文書として、契約書を作成しておきましょう。

ただし私文書として作成すると、紛失や盗難時に備えられないだけでなく、委託者・受託者・受益者以外の親族などから訴訟を起こされる可能性があります。また、私文書では信託口口座を開設することは難しいため、万が一、受託者が自己破産したときなどには信託財産を失うことにもなりかねません。

7-2.信託専用口座で信託財産を管理する

信託財産を管理する口座を開設しますが、公正証書がないときは信託口口座の開設が難しいため、信託専用口座を選択することが一般的です。信託専用口座は受託者の名義で開設するため、場合によっては正しく財産が管理されない可能性もあります。また、受託者が自己破産したときなどには、信託専用口座の資産も整理の対象となる可能性があるため注意しましょう。

ただし、信託専用口座にもメリットはいくつかあります。信託口口座を開設できる金融機関は多くはありませんが、信託専用口座なら普通口座のためどこでも開設できます。

また、信託口口座を開設するときには審査が必要なため、時間や費用がかかることも珍しくありません。一方、信託専用口座であれば特に時間や費用もかからず、すぐに開設できます。

8.【動画解説】家族信託契約書を公正証書または私文書で作成する際のメリット・デメリット

9.まとめ

本記事では、家族信託の契約書について解説しました。内容をまとめると、以下のとおりです。

  • 家族信託をするときは契約書を作成する必要がある
  • 家族信託契約書私文書もしくは公正証書として作成する
  • 公正証書のほうがトラブルを回避しやすい
  • 公正証書として家族信託契約書を作成するときは費用が発生する

認知症は誰もが発症する可能性を秘めた病気です。万が一に備えるためにも、判断能力が衰えたときのための対策を練っておく必要があります。

なお、家族信託は財産を適正に管理するためのよい方法ですが、財産管理の方法は家族信託だけではありません。任意後見制度や民事信託など、ほかの方法も比較してから決めるようにしましょう。

弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、ご家族に合わせた家族信託や後見制度について、無料相談を承っております。ぜひ、お気軽にお問合せください。

この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに400件以上の家族信託をはじめ、相続・生前対策を取り組んでいる。年間60件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

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