任意後見制度は、判断力が低下したときに備えて、あらかじめ信頼できる人に財産管理や生活のサポートを依頼する制度です。この制度を利用することで、自分の意向に沿った支援を受けることが可能となります。
しかし、任意後見人にはできることとできないことがあり、その役割や制限を理解することが重要です。今回は、任意後見制度の基礎からメリット、デメリットまで詳しく解説していきます。ぜひ参考にしてみてください。
今回の記事のポイントは以下のとおりです。
- 任意後見制度は、将来の判断能力低下に備え、信頼できる人に財産管理や生活支援を依頼する制度である
- 任意後見人は、本人の希望を尊重し、財産管理や身上監護を行う
- 後見契約には、即効型、移行型、将来型の3種類がある
- 家族・友人・専門家など、ほとんどの人が任意後見人になれるが、未成年者などはなれない
- メリットは、後見人を自分で選べて、契約内容も自由に決められることである
- デメリットは、監督人への報酬が必要であり、後見人に取消権がなく、死後事務は委任できないことである
目次
1.そもそも任意後見制度とは
任意後見制度とは、認知症や精神障害などで判断力が低下してきた人が、自分の意思を尊重しながら法的に保護されるための制度です。
任意後見制度により、将来財産の管理や身上監護が必要になった際に、あらかじめ信頼できる人を任意後見人として選び、適切なサポートを受けられるようになります。
高齢になった親の財産管理や生活支援を考えている人にとって、重要な選択肢となるでしょう。
2.任意後見人ができること・職務の対象
任意後見人が主に行う職務は、財産管理と身上監護に関する法律行為です。財産管理では、日常の金銭管理や契約の締結、資産の維持・運用などが含まれます。
一方、身上監護では、医療や介護サービスの手配、生活環境の整備など本人の生活全般にわたるサポートを行います。身上監護により、高齢の親が適切な支援を受けつつ、安心して生活できる環境を整えられるでしょう。
2-1.財産管理
財産管理とは、本人の資産や収入を適切に管理し、必要な支出や投資を行うことです。任意後見人が行う具体的な職務は以下の通りです。
- 本人の銀行口座の管理
- 定期的な収入と支出の確認
- 不動産や株式などの資産の管理
- 光熱費や医療費などの支払い手続き
任意後見人は、これらの財産管理を通じて本人の生活を支えます。高齢者の場合は、判断力が低下することで財産を適切に管理することが難しくなることも多いです。任意後見人の支援により、資産が無駄に減少するリスクを避け、安心して生活できる環境を整えられます。
2-2.身上監護
身上監護は、本人の生活環境や医療・介護サービスを選び、必要な契約や手続きを代行することです。その具体的な職務は、以下のとおりです。
- 医療機関への入院手続き
- 介護サービスの利用契約
- 施設入所の手続き
- 日常生活での支援サービスの選定
これらの職務を通して、任意後見人は本人が安心して生活できるようにサポートします。その際には、本人の希望や生活スタイルを尊重して最適な選択肢を選択します。このように、医療や介護の選択肢を検討し、快適な生活を実現することが任意後見人の重要な任務です。
3.任意後見人ができないこと・職務でないこと
任意後見制度は、本人の健康状態や生活状況に応じて最適な形で利用できるよう、3つの種類が用意されています。これにより、個々のニーズに合わせた柔軟な契約が可能です。以下では、その特徴と活用方法について詳しく解説します。
3-1.即効型契約
即効型契約は、任意後見契約を締結した直後に、任意後見監督人の選任申立てを行える契約形態です。この契約は、特に高齢者の判断力が急激に低下する可能性がある場合に有効です。
契約を締結すると、すぐに任意後見人が職務を開始できるため、緊急の対応が求められる状況に適しています。親の財産管理や生活サポートを迅速に整えたい場合、この即効型契約を利用することで、スムーズに支援体制を構築できます。
任意後見監督人が選任されることで、後見人の職務が適切に行われているかが監督されるため、安心して任意後見制度を活用できます。
3-2.移行型契約
移行型契約では、任意後見契約と同時に見守り契約や財産管理委任契約を締結しておきます。この契約により、まだ判断能力が十分にある段階から、信頼できる人が見守りや財産管理のサポートを実施できます。
そして、判断能力が低下した際には、自動的に任意後見契約に移行する仕組みです。この契約は、高齢の親の判断力が徐々に低下している場合に、スムーズに生活サポートや財産管理を開始するための有効な手段です。
移行型契約を利用することで、将来的な不安を軽減したうえで安心して生活を続けられます。
3-3.将来型契約
将来型契約は、任意後見契約を締結した後、本人の判断能力が低下した時点で後見を開始するという本来的な類型です。
将来型契約は、将来的に判断能力が低下する可能性を考慮し、あらかじめ後見人を指定しておくためのものです。そのため、現在は判断能力に問題はないものの、将来の変化に備えたいという人に適しています。
契約が発動するのは、本人の判断能力が明らかに低下したときです。この判断は、通常、医師の診断や家庭裁判所の決定をもとに行われます。
4.任意後見人にはどんな人がなる?
任意後見人は、本人が信頼できる人を選べる制度です。そのため、家族や親しい友人、または専門家である弁護士や司法書士などが任意後見人として選ばれることが一般的です。
任意後見人を選ぶ際には、本人の生活や財産の管理をしっかりと行えるか、本人の意思や希望を尊重できるかなどを確認しておくことが重要です。
4-1.任意後見人になれる人
任意後見人になるために特別な資格は必要ありません。選任される人は、親子や兄弟姉妹といった家族に限らず、叔父や叔母、甥や姪などの親族も含まれます。
また、友人や知人などの第三者や、弁護士や司法書士といった法律の専門家、法人も任意後見人になれます。
このように幅広い選択肢があるため、信頼できる人を選べることも任意後見制度の一つのメリットです。
4-2.任意後見人になれない人
任意後見人になるために特別な資格は必要ありませんが、以下のような人は任意後見人になれません。
- 未成年者
- 家庭裁判所によって解任された法定代理人や保佐人、補助人
- 破産者
- 本人に対して訴訟をした人、およびその配偶者並びに直系血族
- 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある人
これらの制限は、任意後見人に選ばれる人が信頼性を持ち、本人の利益を第一に考えられるようにするためです。
特に、未成年者や破産者については、法律上の能力や財産に関する適切な判断を行うことが難しいと考えられます。
また、過去に不正行為を行った者や訴訟経験がある者は、本人との信頼関係を築くことが難しいため、任意後見人としての適性が問われます。
4-3.任意後見人に向いている人
任意後見人に向いている人は、他人の財産を管理しているという重要な責任を自覚し、誠実に事務を行なえる人です。
具体的には、細かい気配りができ、相手の意向を尊重しながら柔軟に対応できる人が適しています。また、コミュニケーション能力が高く、関係者との円滑な意思疎通を図れることも重要です。
さらに、法律や財務の基本的な知識を持っていると、よりスムーズに職務を遂行できるでしょう。
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5.任意後見制度のメリット
任意後見制度には、本人が自分の意思で未来の後見人を選任できるという大きなメリットがあります。信頼できる人に自分の財産管理や生活のサポートを任せられるのです。
また、契約内容の自由度が高いため、個々の希望に合わせた柔軟な対応が可能です。さらに、任意後見監督人が職務を監視してくれるため、不正行為のリスクを軽減し、安心して生活を送れます。
5-1.自分で任意後見人を指名できる
任意後見制度の大きなメリットは、自分で任意後見人を指名できる点です。法定後見制度とは異なり、任意後見制度では、欠格事由がない限り、成人であれば誰でも任意後見人として選べます。
信頼できる家族や友人を任意後見人に選ぶことで、自分の意向や生活スタイルを理解してもらったうえで支援を受けられます。
高齢の親の判断力が低下してきた場合、あらかじめ信頼できる人を選定しておくことで、財産管理や生活サポートを円滑に行えるでしょう。任意後見制度を利用することで、安心して将来の生活設計を立てられます。
5-2.契約内容の自由度が高い
任意後見契約は、当事者の合意に基づいて内容を自由に決められます。そのため、契約内容に本人の意思を反映できるのです。
たとえば、財産管理において特定の銀行口座の管理を任意後見人に任せたい場合や、生活サポートとして特定の医療機関との連携を強化したい場合など、具体的な希望を契約に盛り込めます。
このように、本人のニーズやライフスタイルに応じたカスタマイズができるため、個々の状況に最適なサポート体制を整えられます。契約内容を自由に設定できることで、より安心して任意後見制度を利用できるでしょう。
5-3.職務を監督してくれる人が存在する
任意後見制度を利用する際には、任意後見監督人が必ず選任されます。この監督人は、任意後見人が適切に職務を遂行しているかについて監視する役割を担っています。
そのため、財産管理や生活サポートに関する不安を軽減できるでしょう。高齢の親の判断力が低下している場合、任意後見監督人の存在は安心材料となります。信頼できる第三者が監督することで、後見人による不正のリスクを減らし、制度を安心して利用できます。
6.任意後見制度のデメリット
任意後見制度には多くのメリットがある一方、デメリットも考慮する必要があります。まず、任意後見監督人の報酬を用意する必要があり、その費用負担が生じます。
また、任意後見人には取消権がないため、本人が不利益な契約を結んだ場合でも、その契約を取り消すことはできません。さらに、本人が亡くなった後の財産管理や事務処理は任意後見人に委任できないため、別途対応が必要となります。
6-1.任意後見監督人の報酬を用意する必要がある
任意後見制度を利用する際には、任意後見監督人の報酬が毎年発生することを念頭に置く必要があります。
任意後見監督人は、任意後見人の職務を適切に監督する役割を担っており、その報酬は制度の維持に不可欠なランニングコストです。
報酬の額は、監督人の職務内容や地域によって異なりますが、一般的には毎年数万円から数十万円程度とされています。
したがって、制度を利用する際には、事前にこれらの費用をしっかりと計画し、予算に組み込むことが重要です。
6-2.後見人に取消権がない
任意後見制度では、任意後見人に対して同意権や取消権が認められていません。これは法定後見制度と異なる点です。
法定後見の場合、本人が自ら行った法律行為について取消可能ですが、任意後見ではその権限がありません。
任意後見人は、本人の意思を尊重しつつ、代理権を行使して財産管理や生活支援を行います。しかし、本人が自ら行った行為に対しては、任意後見人は介入できないため、事前に十分な話し合いと契約内容の確認が重要です。
6-3.本人の死後は処理は委任できない
任意後見契約は、本人が亡くなると自動的に終了する仕組みです。つまり、本人の死後の事務管理や財産管理は、任意後見人ではなく相続人が行うことになります。
そのため、任意後見人に死後の手続きを任せることはできません。任意後見契約を考える際には、死後の手続きについても別途、相続人と話し合っておくことが望ましいでしょう。
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7.まとめ
本記事では、任意後見人ができること・できないことについて解説しました。内容をまとめると、以下のとおりです。
- 任意後見制度は、将来の判断能力低下に備え、信頼できる人に財産管理や生活支援を依頼する制度である
- 任意後見人は、本人の希望を尊重し、財産管理や身上監護を行う
- 後見契約には、即効型、移行型、将来型の3種類がある
- 家族・友人・専門家など、ほとんどの人が任意後見人になれるが、未成年者などはなれない
- メリットは、後見人を自分で選べて、契約内容も自由に決められることである
- デメリットは、監督人への報酬が必要であり、後見人に取消権がなく、死後事務は委任できないことである
任意後見制度は、高齢者自身が信頼する人を任意後見人として指名し、将来の財産管理や生活のサポートを契約で決定できる制度です。
任意後見制度により、家族間でのトラブルを未然に防ぎ、安心した老後を迎えるための準備が整います。ただし、制度の利用には監督人の報酬や契約内容の詳細な検討が必要です。
任意後見制度を理解し、適切な準備を進めることで、大切な家族の未来をしっかりと支えられるでしょう。