親の死後、銀行口座はいつ凍結?パニックにならないための解除手続き・引き出し・生前対策を専門家が解説

大切な方が亡くなられ、銀行口座がどうなるのか、ご不安な気持ちでいらっしゃるのではないでしょうか。

親の口座はいつ凍結されてしまうのか、葬儀費用や当面の生活費は引き出せるのか、凍結されたら、どんな手続きが必要になるのか
――突然のことで、何から手をつけていいか分からず、パニックになってしまう方も少なくありません。

記事のポイントは下記のとおりです。

  • 預金口座の凍結は口座名義人が死亡したことを銀行が知ったタイミングで行われる
  • 銀行預金の相続手続きの流れや必要書類は銀行ごとに異なるので個別に確認が必要
  • 債権の消滅時効は5年または10年だが、期間経過後でも預金の相続手続きに銀行が応じてくれる場合がある
  • 生活費などに充てるためであれば遺産分割前でも預金を引き出せる制度がある
  • 複数の銀行に口座を持っている場合は、①金融機関一覧を作成する②生前に口座を整理しておく③遺言や家族信託契約書を作成しておくことで相続後の手続き負担を減らせる

この記事では、銀行口座が凍結される正確なタイミングや「仮払い制度」の賢い使い方、困らないための生前対策の仕方等を解説します。

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1.死亡で口座凍結!銀行の理由とタイミング

大切な方が亡くなられた後、多くの方が直面するのが銀行口座の「口座凍結」という事態です。この章では、まず、なぜ故人の銀行口座が凍結されるのか、その本当の理由と、銀行が口座を凍結する具体的なタイミングについて、分かりやすく解説します。

1-1.そもそも「口座凍結」とは?具体的に何ができなくなる?

口座凍結とは、その名の通り、銀行口座の取引が一時的に停止されることです。具体的には、以下のことが一切できなくなります。

つまり、口座内のお金が完全に動かせない状態になる、ということです。ただし、これは口座が解約されてしまうわけではなく、所定の手続きを踏めば凍結は解除され、再び利用できるようになります。

1-2.なぜ銀行は「死亡」によって口座を凍結する?

銀行が故人の死亡によって口座を凍結するのには、主に2つの大切な理由があります。

  • 相続財産を安全に守るため
    故人の預金は、法律に基づいて相続人に引き継がれるべき大切な「相続財産」です。銀行には、相続手続きが正式に完了するまで、この財産を勝手に動かされないように安全に保全する責任があります。
  • 相続人間の無用なトラブルを防ぐため
    故人の預金は、原則として相続人全員の共有財産となります。もし、相続人の一人が他の相続人の同意なしに預金を引き出してしまうと、後々「何に使ったのか」「なぜ勝手に引き出したのか」といった深刻なトラブルに発展する可能性があります。

簡単に言えば、故人の大切な財産を守り、相続人同士が円満に遺産を分けられるようにするための措置なのです。

1-3.【重要】銀行はいつ「死亡」を知り「口座凍結」を実行するのか?

多くの方が「役所に死亡届を出したら、すぐに銀行に伝わって口座が凍結されるのでは?」と心配されますが、通常、市区町村の役所に死亡届を提出したという事実だけで、自動的に銀行口座が凍結されることはありません。公的な役所と民間の金融機関である銀行は、相続手続きにおいて直接的に情報が連携しているわけではないのです。

銀行が口座凍結する最も一般的なタイミングは、ご遺族(相続人)の方が銀行に連絡し、口座名義人が亡くなったことを伝えたときです。相続手続きを進めるにあたり、ご遺族が銀行の窓口や電話でその旨を申し出た時点で、銀行は口座凍結の手続きを開始します。

つまり、銀行が「口座名義人の死亡の事実を知った時点」で口座は凍結される、と覚えておきましょう。裏を返せば、銀行がその事実を把握するまでは、口座は凍結されず、キャッシュカードと暗証番号が分かっていればATMでの引き出しや、各種引き落としも継続される可能性があります。

しかし、だからといって銀行に連絡せずに預金を引き出し続けることには、大きなリスクが伴います。その他口座凍結は以下のタイミングでされる可能性があります。

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2.【要注意】口座凍結前後に絶対やってはいけないNG行動

故人の銀行口座が凍結される前、あるいは凍結された後でも、「葬儀費用が必要だから」「生活費が足りないから」といった理由で、つい預金を引き出したくなることがあるかもしれません。しかし、焦って行動すると、後々大きなトラブルに発展したり、法的に不利な状況に陥ったりする可能性があります。

NG
行動❶
ほかの相続人に知らせず勝手に引き出す
NG
行動❷
領収書なしでの安易な引き出し
NG
行動❸
「うっかり引き出し」で相続放棄ができなくなる

NG行動1:ほかの相続人に知らせず勝手に引き出す

故人のキャッシュカードと暗証番号を知っているからといって、他の相続人の同意なしにATMなどで預金を引き出すのは非常に危険です。たとえそれが正当な目的(例えば、立て替えた医療費の精算など)であっても、以下のリスクが生じます。

他の相続人とのトラブル

故人の預金は相続人全員の共有財産です。勝手な引き出しは、他の相続人から「何に使ったのか」「なぜ相談もなしに引き出したのか」と疑念を抱かれ、深刻な相続トラブル(「争続」)の原因となり得ます。最悪の場合、不当利得返還請求や損害賠償請求といった法的な問題に発展する可能性も否定できません。

使途不明金問題

引き出したお金の使い道を明確に説明できない場合、「使途不明金」として扱われ、遺産分割協議が難航する原因になります。

NG行動2:領収書なしでの安易な引き出し

「葬儀費用や病院代に充てるためなら大丈夫だろう」と考える方もいるかもしれません。確かに、社会通念上相当と認められる範囲の葬儀費用は、相続財産から支出することが許容される場合が多いです。

しかし、その場合でも、引き出した金額や使途を証明するための領収書や明細書を必ず保管しておくことが極めて重要です。

領収書がない場合のリスク

領収書がないと、本当に葬儀費用として使われたのか、その金額は妥当だったのかを客観的に証明できません。これにより、他の相続人から「使い込みではないか」と疑われたり、税務署から相続税の計算においてその支出が認められなかったりするリスクがあります。お布施のように領収書が出ない場合でも、支払った日時、金額、相手先などを詳細にメモしておくことが推奨されます。

税務上の問題

相続税の申告では、葬儀費用を相続財産から控除できますが、そのためには支出を証明する書類が必要です。

NG行動3:「うっかり引き出し」で相続放棄ができなくなる

故人に多額の借金がある場合など、相続放棄を検討している状況で、うっかり故人の預金を引き出して自分のために使ってしまうと、法的に「単純承認」したとみなされ、原則として相続放棄ができなくなる可能性があります。

単純承認とは、故人のプラスの財産(預貯金や不動産など)もマイナスの財産(借金など)も全て無条件で引き継ぐ意思表示のことです。問題となるのは、相続人が故人の財産を自分のために使ったり、売ったりする行為(これを「処分」といいます)をすると、法律上「あなたは単純承認しましたね」と自動的に決まってしまうことがある点です(これを「法定単純承認」といいます)。例えば、故人の預金を引き出してご自身の生活費に充てるようなケースがこれに当たります。

そうなると、後から「やっぱり借金が多いから相続放棄したい」と思っても、もう手遅れになる可能性が高いのです。

ただし、故人の財産から社会一般的に見て妥当な範囲の葬儀費用を支払う場合や、ほとんど価値のない形見分けなどは、必ずしもこの「処分」とは見なされないこともあります。しかし、その判断はとても難しく、ケースバイケースです。

もし故人に借金があるかもしれないなど、少しでも相続放棄を考えているのであれば、故人の預金には一切手を付けず、すぐに弁護士や司法書士などの専門家に相談するのが最も安全な方法です。

3.凍結口座の相続手続きと解除までの最短ステップ

故人の銀行口座が凍結されてしまうと、預金の引き出しや各種引き落としができなくなり、何かと不便が生じます。ここでは、凍結された銀行口座の相続手続きを行い、凍結を解除するまでの具体的なステップを、最短で進めるためのポイントと合わせて解説します。

預金の相続手続きの流れは金融機関ごとに異なりますが、口座の凍結を解除するために必要書類を提出してから預金の払戻しを受けるまでにかかる期間は通常1~2週間程度です。(ただし金融機関によっては公式HPで1ヶ月程度などと記載している場合があります)

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STEP0:故人の取引銀行と口座情報を確認(全店照会の活用)

まず最初に行うべきことは、故人がどの銀行に口座を持っていたのか、そしてその口座情報を正確に把握することです。通帳やキャッシュカード、銀行からの郵便物などが手がかりになります。

もし、故人が複数の銀行に口座を持っていた可能性がある場合や、全ての口座を把握しきれない場合は、銀行の「全店照会」というサービスを利用することも検討しましょう。これは、特定の銀行に対し、故人名義の口座がその銀行の全支店に存在するかどうかを調査してもらう手続きです。これにより、見落としていた口座を発見できる可能性があります。

この段階では、慌てずに情報を整理することが大切です。

STEP1:銀行へ死亡連絡と凍結解除依頼

故人の取引銀行が特定できたら、次にその銀行の窓口、または相続専門の部署(相続センターなどと呼ばれることもあります)に連絡し、口座名義人が死亡した旨を伝え、口座凍結の解除(相続手続き)を進めたい旨を申し出ます。電話で連絡するか、直接窓口へ訪問するかは銀行によって対応が異なりますので、事前に確認しておくといいです。

この時、銀行側から今後の手続きの流れや、必要となる書類について詳しい案内があります。銀行によって必要書類が異なる場合があるため、しっかりとメモを取るか、書面で案内をもらうようにしましょう。

なお、銀行への相続手続き(凍結解除の依頼)を行えるのは、原則として以下のいずれかに該当する方です。

■ 相続人: 
法定相続人または遺言で指定された受遺者
■ 遺言執行者:
遺言書で指定されている場合
■ 相続財産管理人:
家庭裁判所から選任されている場合
■ 弁護士や司法書士など:
上記の方々から正式に依頼を受けた代理人

STEP2:必要書類の案内受領と収集準備

銀行から相続手続きに必要な書類のリストを受け取ったら、その収集準備を開始します。必要書類は、遺言書の有無や相続人の状況、銀行ごとの規定によって異なります。複数の銀行で手続きが必要な場合は、それぞれの銀行から個別に必要書類の案内を受ける必要があります。

この段階で、どのような書類が必要になるのか全体像を把握し、効率的に収集計画を立てることが重要です。

STEP3:遺言書の有無を確認する

相続手続きを進める上で、故人が遺言書を残しているかどうかは非常に重要なポイントです。遺言書の有無によって、その後の手続きや必要書類が大きく変わってきます。

遺言書がある場合の手続きと必要書類

公正証書遺言であれば、そのまま銀行手続きに使用できます。自筆証書遺言の場合は、原則として家庭裁判所での「検認」という手続きが必要になります。遺言書の内容に従って預金を相続する人が特定されているため、遺産分割協議は基本的に不要です。

銀行には、遺言書のほか、検認済証明書(自筆証書遺言の場合)、遺言執行者がいればその選任に関する書類、預金を受け取る方の印鑑証明書などが必要になります。

遺言書がない場合の手続きと必要書類(遺産分割協議へ)

遺言書がない場合は、法定相続人全員で遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」を行う必要があります。その結果をまとめた「遺産分割協議書」を作成し、銀行に提出することになります。この場合、相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明書など、より多くの書類が必要となります。

STEP4:相続人の確定(戸籍謄本等の収集)

遺言書の有無にかかわらず、誰が法的な相続人となるのかを確定させるために、戸籍謄本の収集が必要になります。具体的には、故人の出生から死亡までの一連の戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本も含む)と、相続人全員の現在の戸籍謄本が必要となるのが一般的です。

戸籍謄本の収集は、本籍地が複数の市区町村にまたがっている場合など、手間と時間がかかることがあります。

STEP5:遺産分割協議の実施と遺産分割協議書の作成(必要な場合)

遺言書がない場合や、遺言書があっても全ての財産の分け方が指定されていない場合などには、相続人全員で遺産分割協議を行います。協議がまとまったら、その内容を明確にするために「遺産分割協議書」を作成します。この書類には、相続人全員が実印を押し、印鑑証明書を添付するのが一般的です。

遺産分割協議が調っていることが、銀行口座の凍結解除手続きを進める上での前提となります。

STEP6:銀行へ必要書類を提出

STEP2で案内された必要書類が全て揃ったら、銀行の窓口に提出します。書類に不備がないか、事前にしっかりと確認しましょう。銀行によっては、郵送での手続きを受け付けている場合もあります。

STEP7:預金の払い戻し・名義変更(解約)手続き(約10日~2週間、長ければ1ヶ月)

銀行が必要書類を受理し、内容に問題がなければ、口座凍結の解除手続きが進められます。手続きが完了すると、預金の払い戻しを受けるか、相続人の誰かの名義に口座を書き換える(名義変更)かを選択できるのが一般的です。

書類提出から実際に払い戻しや名義変更が完了するまでの期間は、銀行や手続きの混雑状況、書類の複雑さなどによって異なりますが、一般的には約10営業日~2週間程度とされています。場合によっては1ヶ月以上かかることもあります。

4.相続パターン別・口座凍結解除の必要書類一覧表

凍結された銀行口座の相続手続きを進めるにあたり、最も重要かつ手間がかかるのが「必要書類の収集」です。どのような書類が必要になるかは、故人の遺言書の有無や、遺産分割協議の状況によって大きく異なります。また、金融機関ごとに独自の書式(相続手続依頼書など)の提出を求められるのが一般的です。

ここでは、代表的な相続パターン別に、銀行口座の凍結解除(相続手続き)に必要となる主な書類を一覧でご紹介します。ただし、実際に手続きを行う際は、必ず事前に取引銀行に確認し、指示された書類を準備するようにしてください。

4-1.全ての相続パターンで共通して必要となることが多い書類

まずは、どの相続パターンであっても、多くの場合で提出を求められる基本的な書類です。

被相続人(故人)の預金通帳・証書・キャッシュカード等 故人が保管していたもの。見当たらない場合は銀行に相談。
銀行所定の相続手続依頼書
(相続届など)
銀行の窓口で入手、または銀行のウェブサイトからダウンロードできる場合もある。相続人全員の署名・実印が必要なことが多い。
被相続人(故人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本 故人の本籍地の市区町村役場。相続人を確定するために必要。(除籍謄本、改製原戸籍謄本も含む)

4-2.遺言書がある場合

故人が遺言書を残しており、その内容に従って預金を相続する場合です。

遺言書(原本) 公正証書遺言の場合はそのまま提出。自筆証書遺言の場合は原則として「検認」が必要。
(自筆証書遺言の場合)
検認調書または検認済証明書
家庭裁判所。法務局の自筆証書遺言保管制度を利用している場合は不要なことも。
預金を受け取る相続人
(または遺言執行者)の印鑑証明書
預金を受け取る方(または遺言執行者)の住所地の市区町村役場。発行後3ヶ月または6ヶ月以内など有効期限がある場合が多い。
預金を受け取る相続人
(遺言執行者)の実印
銀行の書類に押印するために必要。
(遺言執行者がいる場合)
遺言執行者の選任審判書謄本
家庭裁判所で選任された場合。
(場合により)相続人全員の戸籍謄本 遺言書の内容や銀行の判断により求められることがある。

4-3.遺産分割協議書がある場合

遺言書がない、または遺言書で全ての財産の分け方が指定されておらず、相続人全員で話し合い(遺産分割協議)を行い、その結果を「遺産分割協議書」として作成した場合です。

遺産分割協議書
(相続人全員の実印押印)
相続人全員で作成・合意したもの(原本)。
相続人全員の印鑑証明書 各相続人の住所地の市区町村役場。発行後3ヶ月または6ヶ月以内など有効期限がある場合が多い。
相続人全員の戸籍謄本
または全部事項証明書
各相続人の本籍地の市区町村役場。
預金を受け取る
相続人の実印・銀行印
銀行の書類に押印、または新規口座開設のために必要。

4-4.遺言書も遺産分割協議書もない場合(法定相続分で分ける場合など)

遺言書がなく、かつ遺産分割協議書も作成せずに、法定相続分に従って預金を分ける場合や、相続人の一人が代表して手続きを行う場合などです。このケースでは、金融機関が用意する「相続関係届出書」などに相続人全員が署名・捺印することで、遺産分割協議書に代わる書類として扱われることがあります。

ただし、この方法で手続きが可能かどうか、また必要書類は金融機関によって大きく異なるため、必ず事前に確認が必要です。

相続人全員の印鑑証明書 各相続人の住所地の市区町村役場。
相続人全員の戸籍謄本
または全部事項証明書
各相続人の住所地の市区町村役場。
預金を受け取る
相続人の実印・銀行印
銀行の書類に押印、または新規口座開設のために必要。

法定相続情報証明制度の活用で戸籍収集の手間を軽減!

相続手続きでは、多くの戸籍謄本を何度も提出する必要があります。この手間を軽減するために、「法定相続情報証明制度」を利用することができます。

これは、法務局に戸籍謄本一式と相続関係を一覧図にした「法定相続情報一覧図」を提出することで、登記官がその内容を認証し、写しを交付してくれる制度です。この写しを銀行や他の相続手続きで使用することで、戸籍謄本一式の提出を省略できる場合があります。ただし、利用できるかどうかは提出先の金融機関等にご確認ください。

5.【緊急時】遺産分割前でも預金を引き出せる「仮払い制度」とは?

故人の銀行口座が凍結されると、遺産分割協議が完了するまでは原則として預金を引き出すことができません。しかし、「葬儀費用を支払いたい」「当面の生活費が足りない」といった緊急の資金需要が生じることもあります。

そのような場合に備えて、2019年の民法(相続法)改正により、遺産分割前でも一定額の預金を引き出すことができる「相続預金の仮払い制度」が創設されました。

5-1.仮払い制度を利用できる主なケース

この制度は、主に以下のような資金需要に対応するために利用が想定されています。

  • 葬儀費用の支払い
  • 相続債務(故人の借金など)の弁済
  • 相続人の当面の生活費

ただし、遺言によって特定の相続人が預金を相続することになっている場合など、この制度を利用できないケースもあります。

5-2.引き出せる金額の上限は?2つの方法

相続預金の仮払いを受ける方法は、大きく分けて2つあります。

家庭裁判所の判断を経る方法

家庭裁判所に遺産分割の調停または審判を申し立てている場合に、仮払いの必要性を認めてもらう方法です。この場合、家庭裁判所が個別の事情を考慮して、払い戻しを認める金額を決定します。

金融機関で直接手続きする方法

家庭裁判所の判断を経ずに、各相続人が金融機関の窓口で直接払い戻しを請求する方法です。この場合、引き出せる金額には上限が設けられています。

相続開始時の預金額×1/3×払戻しを行う相続人の法定相続分

上記の計算式で算出された金額が上限となりますが、さらに同一の金融機関からは最大150万円までという制限があります。複数の金融機関に口座がある場合は、それぞれの金融機関でこの計算式と上限額が適用されます。

金融機関で直接仮払いを受ける場合、一般的に以下のような書類が必要となりますが、詳細は各金融機関にご確認ください。

  • 被相続人(故人)の除籍謄本、戸籍謄本など(死亡の事実と相続関係が分かるもの)
  • 払戻しを請求する相続人の本人確認書類(運転免許証など)
  • 払戻しを請求する相続人の印鑑証明書
  • 金融機関所定の払戻請求書

5-3.相続放棄を検討している場合は特に要注意

相続預金の仮払い制度は便利な制度ですが、利用する際には非常に重要な注意点があります。それは、相続放棄との関係です。

預金の仮払いを受けて生活費などに充当すると、原則として「相続財産を処分した」とみなされ、単純承認(全ての財産と債務を相続すること)をしたことになり、その後に相続放棄ができなくなる可能性が高まります。

もし、故人に借金があることが分かっている場合や、借金の有無が不明で相続放棄を検討している可能性がある場合は、この制度の利用は慎重に判断しなければなりません。場合によっては、預金の仮払いを受ける前に、信用情報機関に照会して故人の借金の有無を確認することも検討すべきでしょう。

相続預金の仮払い制度は、相続発生後の遺族の生活を支えるためのものですが、安易な利用は思わぬ結果を招くこともあります。利用を検討する際は、そのメリットとデメリットをよく理解し、必要に応じて専門家にも相談しながら進めることが大切です。

6.銀行預金の相続手続きに期限はある?時効は?

相続に関する手続きの中には、相続放棄(3ヶ月以内)や相続税の申告(10ヶ月以内)のように、法律で厳格な期限が定められているものがあります。では、銀行預金の相続手続きについてはどうなのでしょうか。

「いつまでに手続きをしないと預金が引き出せなくなるのでは?」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。銀行預金の相続手続きの期限と、関連して知っておくべき「休眠預金」「預金債権の消滅時効」について解説します。

6-1.銀行預金の相続手続きに法律上の明確な「期限」はない

結論から申し上げますと、銀行預金の相続手続き(口座凍結の解除や払い戻し手続き)自体には、法律で定められた明確な期限は特にありません。

そのため、口座名義人の死亡後すぐに銀行に連絡しなかったり、口座が凍結された後に長期間手続きをしないまま放置したりしても、直接的な罰則が科されることはありませんし、金融機関から手続きを催促されることも通常はありません。

ただし、法的な期限はないものの、相続手続きをしないまま放置することには、以下のようなリスクやデメリットが伴います。

預金を引き出せない

当然ながら、手続きを完了しなければ故人の預金を引き出すことはできません。

相続関係の複雑化

時間が経過するうちに、当初の相続人が亡くなってしまい、さらにその相続人(数次相続人)が手続きに関わる必要が出てくるなど、関係者が増えて手続きが複雑化する可能性があります。

相続放棄や相続税申告への影響

手続きを後回しにしていると、相続放棄の期限(相続開始を知った時から3ヶ月以内)や相続税の申告・納付期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)に間に合わなくなり、不利益を被る可能性があります。特に相続税の納付は原則現金であり、故人の預金から支払うためには期限内の手続き完了が望ましいです。

不正な出金のリスク

銀行が死亡の事実を知らず口座が凍結されていない場合、キャッシュカードや暗証番号を知る第三者によって不正に預金が引き出されてしまうリスクも考えられます。

6-2.最後の取引から10年が経つと「休眠預金」になる可能性

銀行口座で最後の入出金などの取引があった日から10年間、一度も取引がない状態が続くと、その預金口座(一部対象外あり)は「休眠預金(睡眠預金とも呼ばれます)」として扱われる可能性があります。

これは「休眠預金等活用法」という法律に基づくもので、休眠預金となったお金は、預金保険機構に移管され、民間の公益活動などに活用されることになっています。2009年1月1日以降の取引が対象です。

(引用:金融庁|休眠預金等活用法 Q&A)

ただし、休眠預金になったからといって、預金を引き出せなくなるわけではありません。口座を開設している金融機関で所定の手続きを行えば、原則として預金を引き出すことは可能です。

既に休眠預金となっている預金を相続した場合でも、相続人が手続きをすれば引き出せますので、「10年経ったからもうダメだろう」と諦めずに、まずは金融機関に確認してみましょう。

6-3.「預金債権の消滅時効」は5年または10年

法律上、預金を引き出す権利(預金債権)には「消滅時効」が定められています。民法の規定によれば、債権は、以下のいずれかの期間が経過すると時効によって消滅します。

  • 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
  • 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき

つまり、理論上は5年または10年で預金を引き出す権利が消滅する可能性があります。

しかし、実際には金融機関が時効の成立を主張(時効の援用)することは稀です。多くの金融機関では、時効期間が経過した後でも、預金の払い戻しに応じています。そのため、「時効で預金が国のものになってしまう」といった話は必ずしも正しくありません。

とはいえ、前述の通り、長期間放置することにメリットはありません。法的な期限がないとしても、相続が発生したら、できるだけ早く相続手続きに着手することをお勧めします。

7.相続手続きを専門家に依頼するメリットと費用

銀行預金の相続手続きは、必要書類の収集や金融機関とのやり取りなど、煩雑で時間のかかる作業が伴います。ご自身で全ての手続きを行うことも可能ですが、相続に詳しい専門家(弁護士、司法書士、行政書士など)に依頼するという選択肢もあります。

7-1.専門家に依頼する主なメリット

相続手続きを専門家に依頼することで、以下のようなメリットが期待できます。

煩雑な手続きから解放される

戸籍謄本の収集、相続関係説明図の作成、遺産分割協議書の作成、金融機関への書類提出や問い合わせなど、多岐にわたる手続きを代行してもらえます。これにより、時間的・精神的な負担を大幅に軽減できます。特に、平日の日中は仕事で時間が取れない方や、手続きに慣れていない方にとっては大きな助けとなるでしょう。

法的な視点での正確な手続きが期待できる

相続に関する法律や手続きは複雑です。専門家は法的な知識に基づいて正確に手続きを進めてくれるため、書類の不備による手戻りや、後々のトラブルを防ぐことができます。例えば、相続人の調査や財産の調査を正確に行い、遺産分割協議書も法的に有効な形で作成してくれます。

スムーズかつ迅速な手続き完了が見込める

専門家は相続手続きに精通しているため、ご自身で行うよりもスムーズかつ迅速に手続きを完了できる可能性が高まります。金融機関とのやり取りも代行してくれるため、何度も窓口に足を運ぶ手間も省けます。

相続全般に関するアドバイスを受けられる

銀行預金の手続きだけでなく、不動産の相続登記(司法書士の場合)や、遺産分割に関する相談、場合によっては相続税に関する税理士の紹介など、相続全般に関する幅広いサポートやアドバイスを受けられることがあります。将来的な相続争いを防ぐための遺言書作成の相談なども可能です。

相続人間の調整役としての役割も期待できる

相続人間で意見の対立があるような場合には、専門家が間に入ることで、法的な観点から公平な解決策を提示し、円滑な話し合いをサポートしてくれることがあります。

7-2.専門家に依頼する場合の費用相場

専門家に依頼する場合、当然ながら費用が発生します。費用は、依頼する専門家の種類(弁護士、司法書士、行政書士)、依頼する業務の範囲、相続財産の内容や相続人の数などによって異なります。

行政書士 金融機関の預貯金の相続手続き: 1金融機関あたり約3万円~
行政書士は、相続手続きにおける書類作成の専門家ですが、不動産の登記申請や法的な紛争解決は業務範囲外となります。
司法書士 金融機関の預貯金の相続手続き: 1金融機関あたり約3万円~
司法書士は、不動産の相続登記の専門家であり、その他にも遺産承継業務(遺産整理業務)として、預貯金や株式を含む相続財産全体の手続きを包括的に依頼することができます。
弁護士 弁護士は、相続に関するあらゆる法律問題に対応でき、特に相続人間での紛争(遺産分割協議がまとまらない、遺留分侵害額請求など)の解決や、代理人としての交渉・調停・訴訟手続きを得意とします。相続人間で争いがある場合や、法的な交渉・訴訟が必要な場合には弁護士への依頼が不可欠となります。

※相続財産調査・財産目録の作成や遺産分割協議書の作成は別途費用が掛かります。

相続手続きを専門家に依頼するかどうか、またどの専門家に依頼するかは、ご自身の状況や予算、そして何を最も重視するか(費用、手間、スピード、紛争解決など)を総合的に考慮して判断しましょう。

8.【生前対策】将来の口座凍結と相続トラブルを防ぐために今できること

ご家族が亡くなり相続が発生すると、残されたご家族は悲しみに暮れる間もなく、銀行預金の相続手続きをはじめ、さまざまな手続きに追われることになります。少しでも将来の負担を軽減し、円満な相続を迎えるためには、元気なうちからの「生前対策」が非常に重要です。

故人の口座が凍結されると、葬儀費用や当面の生活費の引き出しもままならず、遺族が困窮するケースがあります。また、誰がどの財産を相続するのかで揉めてしまうと、手続きが長期化し、精神的な負担も大きくなります。生前対策は、こうした事態を未然に防ぎ、残された家族がスムーズに新しい生活をスタートできるようにするための準備なのです。

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「家族に迷惑をかけたくない」その想いを形に。遺言書作成や家族信託など、あなたに合った生前対策をご提案。将来の不安を今すぐ解消しましょう。

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8‐1.取引のある金融機関と口座情報を一覧化し、家族と共有する

まず基本的なことですが、ご自身がどの金融機関に口座を持っているのかどのような種類の口座(普通預金、定期預金、投資信託など)があるのかを一覧表にまとめておきましょう。そして、その情報を信頼できる家族と共有しておくことが大切です。

これにより、万が一の際に相続人が故人の財産を探し回る手間を省き、財産調査の時間を大幅に短縮できます。エンディングノートなどを活用するのも良いでしょう。

8‐2.不要な預金口座を整理し、口座数を減らしておく

複数の金融機関に多くの口座を持っていると、それだけ相続手続きの手間が増えます。相続手続きは金融機関ごとに行う必要があり、専門家に依頼する場合も1金融機関ごとに費用がかかるのが一般的です。

生前に使っていない口座や残高の少ない口座を解約・整理し、取引のある金融機関の数を絞っておくだけで、将来の相続手続きの負担と費用を軽減できます。

8‐3.当面の生活費や葬儀費用に充てる現金を準備しておく(タンス預金)

口座凍結に備え、ある程度の現金を自宅で保管しておく(いわゆるタンス預金)ことも、一時的な資金不足を回避する有効な手段の一つです。ただし、この場合、その現金の存在と金額、目的(葬儀費用など)を相続人となる家族全員で共有しておくことが重要です。

これにより、特定の相続人による不正な使い込みを防ぐことができます。もちろん、タンス預金も相続財産として相続税の対象となる点は忘れてはいけません。

8‐4.生命保険を活用して、受取人固有の資金を確保する

生命保険の死亡保険金は、契約時に指定された受取人の固有の財産となり、原則として遺産分割協議の対象にはなりません。そのため、受取人は他の相続人の同意なしに、比較的速やかに保険金を受け取ることができます。

これは、口座凍結期間中の生活費や葬儀費用の支払いに充てることができる大きなメリットです。また、死亡保険金には「法定相続人の数 × 500万円」という非課税枠があるため、相続税対策としても有効です。

8‐5.遺言書を作成し、財産の分け方を明確にしておく

遺言書は、ご自身の財産を誰にどのように残したいかという最終意思を明確に示すものです。遺言書を作成しておくことで、主に以下のメリットがあります。

  • ご自身の意思を尊重した財産承継ができる
  • 相続人間の無用な争い(「争続」)を予防できる
  • 相続手続きを大幅に簡略化できる

遺言書で遺言執行者を定めておけば、原則として遺言執行者一人の権限で預金の解約などの相続手続きを進めることができます。これにより、相続人全員の実印や印鑑証明書の提出が不要になるケースが多く、手続きの時間と手間を大幅に削減できます。

自筆証書遺言は手軽に作成できますが、紛失や改ざんのリスク、家庭裁判所での検認手続きが必要といったデメリットもあります。より確実性を求めるなら、公正証書遺言の作成を検討しましょう。

8‐6.家族信託で柔軟な財産管理と円滑な資産承継を実現する

近年、認知症対策や円滑な資産承継の手段として注目されているのが「家族信託」です。家族信託とは、ご自身の財産(預貯金、不動産など)の管理・運用・処分を、信頼できる家族(受託者)に託す契約です。

家族信託を活用することで、以下のような大きなメリットが期待できます。

  • 認知症による口座凍結リスクの回避
  • 委託者(本人)や受託者の死亡による口座凍結がない
  • 相続手続きの簡略化

家族信託は、単なる相続対策だけでなく、ご自身の老後の安心な生活を守るための強力なツールとなり得ます。ただし、制度設計が複雑なため、専門家(司法書士など)とよく相談しながら進めることが重要です。

9.動画解説|死亡による口座凍結手続き

10.まとめ

この記事では銀行預金の相続手続きについて見てきました。本章の内容をまとめてみましょう。

  • 預金口座の凍結は口座名義人が死亡したことを銀行が知ったタイミングで行われる
  • 銀行預金の相続手続きの流れや必要書類は銀行ごとに異なるので個別に確認が必要
  • 債権の消滅時効は5年または10年だが、期間経過後でも預金の相続手続きに銀行が応じてくれる場合がある
  • 生活費などに充てるためであれば遺産分割前でも預金を引き出せる制度がある
  • 複数の銀行に口座を持っている場合は、①金融機関一覧を作成する②生前に口座を整理しておく③遺言や家族信託契約書を作成しておくことで相続後の手続き負担を減らせる

亡くなった方が銀行に口座を持っていることが多く、銀行預金の相続手続きは相続人になった方の多くが関わることになります。自分で手続きを行う場合は、まず口座のある金融機関に連絡して手続き方法や必要書類を確認するようにしてください。

また、手続きをする金融機関の数が多くて手間や時間がかかりそうであれば、手続き負担を減らすために最初から専門家に依頼してすべて任せてしまうのもひとつの方法です。

長年相続問題に取り組み多くの事案を扱ってきた当事務所では、相続人の方の置かれた状況にあわせたサポートを行っています。預金の相続手続きの方法がよく分からずお困りの場合や生前対策を検討したい場合など、相続でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに400件以上の家族信託をはじめ、相続・生前対策を取り組んでいる。年間60件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

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