認知症になったとき、あなたの財産は誰が管理するのでしょうか?
家族信託と任意後見制度は、どちらも認知症に備える重要な制度ですが、その違いを理解していないと、将来大きな後悔につながる可能性があります。
多くの方が「家族に任せておけば大丈夫」と考えがちですが、実は認知症発症後、法的な準備がないと家族でも財産管理ができなくなります。銀行口座が凍結され、不動産の売却もできなくなるのです。
記事のポイントは下記の通りです。
- 積極的な財産管理を行いたいのであれば「家族信託」がお勧め
- 身上監護が必要なら「任意後見」「成年後見」がお勧め
- 認知症発症後は選択肢が法定後見制度に限られてしまうため、早めの対策が重要
- 家族信託ではできない身上監護をカバーするため、家族信託と任意後見の併用もできる
- 初期費用やランニングコストが各制度で異なるため、長期的な視点での費用比較が重要
本記事では、「家族信託」と「任意後見制度」の5つの決定的な違いをわかりやすく解説。あなたの状況に最適な選択肢がすぐにわかります。
目次
1.家族信託と任意後見制度の基本的な違い
家族信託と任意後見制度は、どちらも将来の認知症に備える制度ですが、その仕組みや特徴には重要な違いがあります。適切な選択をするためには、これらの違いを正確に理解することが不可欠です。
1-1.家族信託とは何か?メリット・デメリット
家族信託は、認知症や高齢化に備えるための新しい財産管理の仕組みです。この制度では、財産の所有者(委託者)が信頼できる家族(受託者)に財産の管理や処分を任せることができます。
具体的には、委託者が自身の不動産や預貯金などの財産を信託財産として受託者に移し、その管理・運用を委ねます。これにより、委託者が認知症になったり判断能力が低下したりしても、受託者が委託者の意思を尊重しながら財産を管理し続けることが可能になります。
家族信託のメリット
– 認知症発症後も柔軟な財産管理が可能
– 不動産売却や新たな投資など幅広い対応ができる
– 信託契約で細かい管理方法を定められ、委託者の意思を反映しやすい
– 裁判所の関与がなく、迅速な対応が可能
– 初期費用は高いがランニングコストは低い
– 相続対策としても活用できる
家族信託のデメリット
– 身上監護(医療や介護サービスの契約など)には対応できない
– 私的契約のため、適切な契約設計と信頼できる受託者選定が重要
– 法的な裏付けが成年後見制度より弱い
– 受託者が不適切な管理をした場合のリスクがある
1-2.任意後見制度とは何か?メリット・デメリット
任意後見制度は、将来の判断能力低下に備えて、本人が判断能力のあるうちに後見人となるべき人(任意後見人)を自ら選び、委任する内容を公正証書で契約しておく制度です。本人の判断能力が低下した時点で家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、制度が発効します。
任意後見制度のメリット
– 本人が信頼する人を後見人に選べる
– 将来の判断能力低下に備えて事前に契約できる
– 契約内容を柔軟に設定できる
– 法的な裏付けがあり、公的機関の監督があるため安全性が高い
– 身上監護(医療や介護サービスの契約など)に対応できる
– 本人の意思をより反映しやすい
任意後見制度のデメリット
– 家庭裁判所の関与が必要で、手続きに時間がかかる
– 任意後見監督人への報酬など定期的なコストが発生する
– 家庭裁判所の監督があるため、柔軟な対応が制限される場合がある
– 原則として本人が亡くなるまで継続するため、終了が難しい
– 相続対策としての活用には制限がある
【比較表】家族信託と任意後見制度
家族信託、任意後見は、高齢者や障害者の財産管理と身上保護を目的とした制度ですが、それぞれに特徴があります。ここでは、各制度の主要な違いを比較し、それぞれの特徴を明確にしてみましょう。
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2.家族信託と任意後見制度の詳細比較
多くの方は考えたくないかもしれませんが、日本では高齢化に伴い認知症患者が増加し続けています。認知症発症後に慌てて対応すると、選択肢が限られ、家族に大きな負担がかかることになります。
家族信託と任意後見制度の違いを正確に理解し、あなたの状況に最適な選択をするために、5つの重要な観点から詳細に比較していきましょう。
① 財産管理開始のタイミング
財産管理開始のタイミングは、各制度を比較検討する際の重要なポイントです。このタイミングが本人の意思をどれだけ反映できるか、財産管理の自由度がどの程度確保できるか、そして将来の不測の事態にどれだけ備えられるかを左右します。
家族信託は、判断能力があるうちから契約を締結し、即時に財産管理を開始できる制度です。契約締結と同時に効力が発生するため、認知症発症前から財産管理の仕組みを整えることができます。
任意後見制度も判断能力があるうちに契約を締結しますが、効力の発生は判断能力低下後となります。つまり、契約は早期に結んでおくものの、実際に任意後見人が活動を開始するのは本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任してからです。
一方、法定後見制度は、判断能力が低下した後(認知症発症後)にしか利用できません。認知症発症後に口座が凍結してしまい、やむを得ず利用されるケースが多く見られます。判断能力があるうちに適切な制度を選択し、準備することで、自身の意思を最大限反映させた財産管理を実現できます。
② 財産管理の自由度と柔軟性
財産管理の自由度は、家族信託と後見制度では全く異なります。
家族信託では、本人が信頼できる人(多くの場合は家族)を受託者として選び、契約で定めた範囲内で自由度の高い財産管理を任せることができます。例えば、不動産の売却や新規購入、積極的な資産運用なども、契約内容次第で可能となります。状況の変化に応じて柔軟に対応できるのが大きな特徴です。
一方、任意後見制度では、本人の財産を適切に管理・保護することが目的のため、財産管理の範囲が契約で限定されています。家庭裁判所の監督があるため、積極的な資産運用や大きな財産処分には制限がかかる場合が多いです。
財産管理の自由度を重視するなら家族信託、保全性を重視するなら後見制度が適しているといえます。
③ 身上監護機能の有無と範囲
身上監護とは、本人の生活、療養看護、介護に関する法律行為を行うことを指します。具体的には、医療契約の締結、介護サービスの手配、施設入所の手続きなどが含まれます。
任意後見を含む後見制度は、身上監護に対応可能です。後見人は本人の意思を尊重しながら、医療や介護に関する決定、生活環境の整備などを行うことができます。これにより、本人の生活の質を維持・向上させるための包括的な支援が可能となります。
一方、家族信託は原則として身上監護に対応できません。家族信託は主に財産管理に特化した制度であるため、医療や介護に関する契約行為などは含まれません。財産管理の自由度は高いものの、生活全般をサポートする機能は限定的です。
したがって、財産管理だけでなく、医療や介護面でのサポートも必要と考える場合は、成年後見制度の利用を検討するのが適切でしょう。ただし、家族信託と後見制度を組み合わせて利用することで、両方の利点を活かすこともできます。財産管理は家族信託で行い、身上監護は後見制度で対応するといった方法をとることも可能ですから、専門家に相談しながら、総合的に判断することをお勧めします。
④ 裁判所関与・監督者の必要性
裁判所の関与や監督者の有無は、家族信託と後見制度を比較する上で重要な違いの一つです。
家族信託では、原則として裁判所の関与がありません。信託契約に基づいて、受託者(多くの場合は家族)が自由に財産管理を行うことができます。これにより、迅速かつ柔軟な対応が可能となり、状況の変化に応じた臨機応変な財産運用ができます。
一方、任意後見含む後見制度では、裁判所の監督があります。成年後見制度の場合、家庭裁判所が後見人を選任し、定期的な報告義務が課されます。任意後見制度でも、任意後見監督人が選任され、後見人の職務を監督します。
この裁判所の関与は、財産管理の適正さを担保し、本人の権利を守る役割を果たします。しかし同時に、手続きの煩雑さや時間的制約をもたらす可能性もあります。したがって、より自由度の高い財産管理を望む場合は家族信託が、第三者による客観的な監督を重視する場合は後見制度が適しているといえるでしょう。
⑤ 費用比較(初期費用・ランニングコスト)
平均寿命の延伸や認知症リスクの増加により、高齢期の財産管理期間が長期化する傾向にあるため、初期費用だけでなくランニングコストも含めた長期的な視点でのコスト比較が重要となります。
家族信託の場合、初期費用は比較的高額になります。信託契約の作成や登記などの手続きに、通常50~100万円程度のコストがかかります。ただし、一度設定すれば、その後のランニングコストは低く抑えられます。定期的な管理料などは基本的に発生しません。
一方、後見制度は、初期費用は家族信託より低めですが、継続的な費用が発生します。後見人に対する報酬として、毎月2~6万円程度の費用がかかることが一般的です。この金額は本人の財産規模や後見事務の内容によって変動します。
したがって、短期的には後見制度の方が費用負担が少なくて済みますが、長期的に見ると家族信託の方がコスト面で有利になる可能性があります。例えば、10年以上の長期にわたって財産管理が必要な場合、家族信託の方が総コストが低くなる可能性が高いでしょう。
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3.成年後見制度との違い
「認知症になってから対策を考える」という方は多いですが、実は認知症発症後の選択肢は非常に限られています。多くの方が知らないのは、認知症発症後には家族信託が利用できず、成年後見制度しか選択肢がないという事実です。
成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な方を法律的に保護し支援する制度です。この制度は大きく分けて「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つがあります。
成年後見・任意後見制度は、家族信託と比べて法的な裏付けが強く、公的機関の監督があるため安全性が高いという特徴があります。ただし、家庭裁判所の関与が必要なため、手続きに時間がかかったり、柔軟な対応が難しかったりする場合もあります。
3-1.法定後見制度とは?
法定後見制度は、すでに判断能力がない状態の人を対象としています。本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があります。家庭裁判所が選任した成年後見人等が、本人の財産管理や身上保護を行います。
原則として、家庭裁判所が後見人を選任し、本人の判断能力に応じて支援の範囲が決まります。また、本人の行為能力が制限されることで、本人の権利を守りつつ、適切な支援を提供することが可能となります。
法定後見制度の特徴と制限
– 家庭裁判所に申立てをして後見人を選任する
– 後見人の選任は裁判所が行うため、家族がいても専門職後見人が選任されることもある
– 家族が後見人になった場合でも、多くは成年後見監督人が任命される
– 後見人に選ばれなかった家族は、財産状況を把握できなくなる
– 本人の財産保護が目的のため、家族の生活費や教育資金などへの支出は難しい場合がある
– 専門職が後見人や監督人を務める場合、月額報酬が発生する
– 一度利用すると本人が亡くなるまで終了できない
4.家族信託と成年後見・任意後見の判断基準
財産管理の方法を選ぶ際には、個人の状況や家族環境、財産の規模や内容、将来の見通しなど、様々な要素を考慮する必要があります。一つの制度が全ての人に適しているわけではなく、それぞれの特性を理解した上で、自分に最適な選択をすることが重要です。
以下、5つの判断基準を参考にしながら、自身の状況に最も適した財産管理の方法を見つけていきましょう。
4-1.判断能力があるか?
まず最初に考慮すべきは、本人の現在の判断能力です。家族信託と任意後見は、将来の認知症リスクに備えるための制度であり、判断能力がある間に設定する必要があります。既に認知症を発症している場合は、成年後見制度の利用が唯一の選択肢となります。
4-2.財産をどう守りたいか?
次に、財産の管理や活用方法について考えます。
以下のような不動産の積極的な活用や売却を考えている場合は、家族信託が適しています。家族信託では、信託契約の条項に基づいて柔軟な財産管理が可能です。
・不動産の買い替え(組み替え)を考えている
・不動産を担保にして、銀行から融資を受け、新賃貸ビルの建築を考えている
・古いアパートの建て替えを考えている
一方、成年後見や任意後見では、本人の財産を減らさないという原則があり、リスクのある財産処分は制限されます。
例えば、「主な不動産は自宅だけだが、将来の施設費用を捻出するために売却を考えている」という場合は注意が必要です。もちろん、「施設に行ったきりで自宅に戻る目途はない」「売却しないと施設費用が支払えない」というような状況であれば、「成年後見」「任意後見」でも売却は認められるでしょう。
ただ、どのような場合にせよ、売却時は、家庭裁判所や任意後見監督人への説明は必須です。一方、家族信託では、家族の判断した必要なタイミングで自宅売却を行うことができます。
4-3.身上監護が必要か?
身上監護(生活、医療、介護に関する法律行為)の必要性も重要な判断基準です。ご家族が近くに住んでいて身上監護ができるのであれば、何の心配もいりません。大抵の医療施設や介護施設では、本人の「家族」であれば、上記の手続きを行うことが可能だからです。
しかし、ご家族とも遠方に住んでおり、自分たち家族の代わりに近所の方や専門家など第三者に身上監護を頼みたい場合は成年後見や任意後見が適しています。また、子供や親がおらず、姪や甥の方が契約する場合は、身上監護が認められないケースもあります。家族信託では身上監護は対象外となるため、注意が必要です。
4-4.第三者が関与することを許容できるか?
財産管理に第三者や家庭裁判所の関与をどこまで許容できるかも考慮すべきポイントです。家族だけで管理したい場合は家族信託が適していますが、成年後見や任意後見では第三者の監督が入ります。
また、後見制度は原則として本人が亡くなるまで継続します。つまり、原則は、本人が亡くなるまで、その財産は、裁判所の監視・監督下におかれるということになります。そのため、財産についてを家族以外に開示したくないと考えるご家族には、家族信託をお勧めしています。
4-5.詐欺や悪徳商法対策としての利用目的はあるか?
「母親が悪徳商法に合ってしまった場合、後から取消しができるか?」という心配事もよくあるご相談です。残念なら、任意後見、家族信託とも、長男には契約の「取消権」がないため、詐欺対策としては無力です。この場合は、成年後見の利用を検討することになります。
これらの判断基準を総合的に検討し、専門家のアドバイスも得ながら、最適な制度を選択することが重要です。個々の状況に応じて、それぞれの制度の特徴を活かした選択をすることで、より安心できる財産管理と生活支援が実現できるでしょう。
5.家族信託を利用すべきケース
家族信託と後見制度のメリット・デメリットを見たところで、ここからはまず家族信託を利用すべきケースについて具体的に解説していきたいと思います。
5-1.より柔軟に財産管理を任せたい
家族信託では、前段落(4-2.後見人制度のデメリット)でも記載したように、成年後見制度では行えない資産の有効活用ができるようになります。資産の有効活用とは具体的には、株式投資や資産の組み換え、不動産の活用などのことを指します。
また、成年後見制度のように家庭裁判所で手続きをする必要はありません。
認知症発症後に申立ての手続きで手間や費用がかかることがなく、時間と費用の負担が少なくなるので、融通の利く財産管理を望むのであれば、家族信託を利用するのがよいでしょう。
5-2.死後の相続について指定したい
「4-1.家族信託のメリット」でも解説した通り、家族信託は本人に代わって財産管理を行う、「財産管理機能」と、家族信託で管理している財産(=信託財産)の承継先を事前に決めておくことができる「遺言的機能」を兼ね備えています。
家族信託は、契約締結をもって効力が発生するので、生前においても受託者が信託財産とした財産を管理することができ、かつ本人死亡後には本人の財産を誰に、どのように承継させるのか指定することもできます。
生前の財産管理もしつつ、「自分が死亡したら妻へ、妻が死亡したら息子へ承継させる」というように数次に渡って承継先を定めたい場合には家族信託を選択するのが良いでしょう。
5-3.ランニングコストを安く抑えたい
成年後見制度、任意後見制度を利用すると、成年後見制度では成年後見人や成年後見監督人に、任意後見制度では任意後見監督人には、ほぼ必ず報酬を支払う必要があります。
先述のように、後見制度は後見が始まると、基本的には被後見人が亡くなるまで継続して利用を続けるようになります。そのため、報酬の支払いも被後見人が亡くなるまでずっと続きます。
一方で家族信託では、継続した報酬の支払いは必要ないので、ランニングコストをおさえたい場合には家族信託を選択するのが良いでしょう。
5-4.裁判所や第三者に関与されたくない
成年後見制度、任意後見制度共に、制度を利用する場合には、家庭裁判所での手続きが必要になります。
特に成年後見制度では、成年後見人選任の決定権が家庭裁判所にあり、本人とはあまり馴染みのない弁護士や司法書士が成年後見人となり、財産管理を行うケースも多々あります。
自分の家族だけで財産管理をすることができないので、信頼のおける家族・親族だけで財産管理の仕組みを作りたい場合には、家族信託の利用をおすすめします。
6.成年後見・任意後見を利用すべきケース
続けて、後見制度を利用すべきケースについて具体的に見ていきましょう。
6-1.認知症や障害などを理由とする生涯のサポートが必要な方
成年後見制度は、認知症や知的障害などで判断能力が不十分な人を保護することが目的の制度です。
判断能力が無いために間違えて結んでしまった契約を無効にしたり、日常生活で起こる必要な手続きや契約を行ったりと、本人の代わりに法律行為を行うための制度が成年後見制度です。
既に認知症を発症している場合や、知的障害などで判断能力がない方の場合には、本人が亡くなるまで日常生活のさまざまな契約行為や契約の取り消しを成年後見人が担うことができ、本人の生活を手厚くサポートできる成年後見制度を選択するのが良いでしょう。
6-2.頼れる身内がいない方
これまで比較してきた家族信託では、受託者である家族・親族が幅広い権限を持ちます。
受託者は信託財産の管理・運用をするだけでなく、信託契約に基づいた行為を原則行うことができる一方で、受託者による権利濫用を防ぐために、様々な義務を課されることになります。
そして、受託者は、信託目的の実現のために善良なる管理者としての注意義務をもって財産の管理をしなければなりません。
家族・親族を管理者として相応しいかという視点で見て、もし財産をきちんと任せられるほどの信頼のおける家族・親族がいない場合には、プロである弁護士や司法書士に成年後見人や任意後見人になってもらい、財産管理をしてもらう方が安心でしょう。
6-3.財産管理以外にも身上監護が必要
先ほども少し触れましたが、例えば子供が本人と同居している、または本人の近くに住んでいて日常生活の支援ができるのであれば、家族信託も選択肢のうちの1つとなります。
しかし、本人の近くに子供をはじめとする家族や親族がいない場合には、身上監護権のない家族信託は選択肢から外し、後見制度を利用して後見人に身上監護をしてもらう方が望ましいでしょう。
7.家族信託と任意後見の併用するケース
家族信託と任意後見制度は、それぞれ独自の特徴を持つ財産管理の仕組みですが、これらを併用することで、より包括的な資産管理と身上監護を実現できる場合があります。
7-1.信託財産以外に管理が必要な財産がある場合
法律上、年金や農地は信託財産にすることができません。年金は本人の口座でのみ手続きできるため、家族信託の対象外となります。また、農地は農地法の制限により、原則として信託財産にすることができません。
もし、それらの資産も適切に管理する必要がある場合、家族信託と任意後見制度を併用することで、それぞれの資産を適切に管理することができます。例えば、実家などの不動産は家族信託で管理し、年金の管理は任意後見制度で行うといった組み合わせが可能です。
7-2.受託者が甥、姪、知人など本人と血縁が遠い場合
多くの医療施設や介護施設では、本人の「家族」であれば、入院や入所の手続き、医療や介護サービスの契約などを行うことができます。しかし、甥や姪、知人などが契約しようとする場合、身上監護が認められないケースがあります。
このような状況で、家族信託と任意後見制度を併用することで、財産管理と身上監護の両面をカバーすることができます。家族信託では、信頼できる甥や姪、知人を受託者として財産管理を任せることができます。一方で、任意後見制度を利用することで、医療や介護に関する決定、施設入所の手続きなどの身上監護を確実に行うことができます。
8.動画解説|任意後見と家族信託
9.まとめ
- 積極的な財産管理を行いたいのであれば「家族信託」がお勧め
- 身上監護が必要なら「任意後見」「成年後見」がお勧め
- 認知症発症後は選択肢が法定後見制度に限られてしまうため、早めの対策が重要
- 家族信託ではできない身上監護をカバーするため、家族信託と任意後見の併用もできる
- 初期費用やランニングコストが各制度で異なるため、長期的な視点での費用比較が重要
これらのポイントは、自身の状況に最適な財産管理方法を選択する際の重要な判断基準となります。個々の状況に応じて、専門家のアドバイスを受けながら、最適な選択や組み合わせを検討することが大切です。