親や身近な家族が高齢になり、判断能力が低下してきたとき、「成年後見人」という言葉を耳にすることが増えるかもしれません。成年後見人は、本人の財産や生活を守るために選ばれる重要な役割です。
しかし、その選任には家庭裁判所の判断や法律上の条件が関わり、誰でも簡単になれるわけではありません。また、「親族だから当然なれる」と思われがちですが、実際にはそうとも限らないケースもあります。
記事のポイントは下記のとおりです。
- 成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度の2種類がある
- 成年後見人となる資格はないが、未成年者、過去に後見人等を解任された者、訴訟関係にあった者などはなれない
- 成年後見を利用にあたっては、今まで通りの財産管理ができなくなるといった注意点を理解した上で手続きを行うべき
- 最高裁判所の運用見直しにより、親族後見人を後見候補者とした場合に認められる割合が約8割となっている
- 親族が後見人に選任されるポイントとして、①管理が難しくない、②監督人又は成年後見制度支援信託・預貯金を活用すること、③親族の反対がない、④候補者に問題がない、がある
- 親が元気な時に財産管理を行う親族を定める制度として「任意後見制度」「家族信託」がある
この記事では、成年後見人になれる人・なれない人の条件や具体的な手続きについて詳しく解説します。これを読めば、成年後見制度の基本から実際の運用まで、必要な知識をしっかりと理解できるはずです。
目次
1.成年後見人とは?役割と基本知識
人生の中で、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が低下してしまうことがあります。そのような状況で、本人が不利益を被らないように支援する仕組みが「成年後見制度」です。この制度の中心的な役割を担うのが「成年後見人」です。
1-1.成年後見制度が必要となるケース
成年後見制度は、以下のような場合に活用されます。
- 財産管理が困難になった場合
認知症などによる判断能力の低下で、預貯金や不動産の管理ができなくなる - 詐欺被害から守る必要がある場合
不適切な契約や悪質商法から本人を保護する - 健康や生活環境を維持するためのサポートが必要な場合
介護施設への入所契約や医療サービスの利用契約を代行する
成年後見人とは、家庭裁判所によって選任され、本人(被後見人)の財産管理や生活支援を行う人のことを指します。具体的には、日常生活に必要な契約(例: 介護施設への入所契約)や財産管理(例: 預貯金、不動産の管理)を代行し、本人が安心して生活できる環境を整える役割を果たします。
1-2.「法定後見人」と「任意後見人」
成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があり、それぞれ選任方法と適用場面が異なります。
法定後見人|既に判断能力が低下している場合の「事後的対応」
本人の判断能力が低下している場合、家庭裁判所が選任します。申立人が後見開始の申し立てをすると、家庭裁判所が選任を行います。候補者を提示することも可能ですが、裁判所がその候補者を必ずしも選ぶわけではありません。
任意後見人|将来に備えて準備する「事前対応」
本人が判断能力を持っているうちに、自分で選任します。信頼できる親族や、専門知識を持つ人(例:司法書士、弁護士)を選ぶことができます。この制度では、選任過程について、家庭裁判所の介入はなく、被後見人が希望する人を選べます。
ただし、任意後見人が実際に活動を開始するためには、本人の判断能力喪失後に、任意後見監督人の選任が必要となります。監督人は家庭裁判所が選任し、任意後見人の活動を監督します。
2.成年後見人になれる人・なれない人
成年後見人は、判断能力が不十分な本人を法的に保護し、支援する重要な役割を担います。しかし、誰でも成年後見人になれるわけではありません。この章では、成年後見人になれる条件や資格、また成年後見人になれないケースについて詳しく解説します。
2‐1.成年後見人となるための資格は不要
成年後見人になるために特別な資格は必要ありません。以下のような人物や団体が成年後見人として選任される可能性があります。
また、財産管理が複雑でない場合や本人との関係性が良好な場合、親族が選ばれる可能性が高くなります。
2‐2.成年後見人になれない人
一方で、特定の条件に該当する人は成年後見人になる資格を持ちません。これらは「欠格事由」と呼ばれ、以下のような条件があります(民法847条)。
- 未成年者
- 破産して復権を得ていない人
- 過去に家庭裁判所から後見人等の職を解任された人
- 被後見人に対して訴訟を起こしている、または起こしたことがある人、その配偶者及び親子
- 行方不明者
これらの制約は、成年後見人が適切に職務を遂行できるよう設けられています。
3.成年後見人の選び方と家庭裁判所の判断ポイント
成年後見人を選ぶ際には、家庭裁判所が最終的な決定を行います。そのため、候補者を立てる場合でも、裁判所が重視する基準や選任プロセスについて理解しておくことが重要です。
3-1.専門職が成年後見人になるケースが約8割
法定後見制度においては、成年後見人として弁護士や司法書士などの専門職が選任されるケースが全体の約80%を占めています。この傾向は2012年から続いており、専門家が選任されるケースが親族よりも多いという現状があります(成年後見関係事件の概況―令和4年1月~12月―から引用)。
成年後見の申立人として、親族ではなく市区町村長からの申し立てが増加しています。全体の約23.3%を占めており、申立人として最も多いのは市区町村長、次に多いのは本人です。この状況から、親族が財産管理に関与しない、または申し立てに協力する親族がいないケースが増えていると解釈できます。
3-2.家庭裁判所が重視する基準とは
家庭裁判所は、成年後見人を選任する際に以下の基準を総合的に評価します。
① 本人の利益を最優先
成年後見人の選任は、被後見人(本人)の生活や財産管理が最善となるよう配慮されます。例えば、財産管理が複雑な場合には弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることがあります。
② 候補者の適性
候補者が成年後見人として適切かどうかは、候補者の職業・経歴(例: 法律や福祉分野での経験)や本人との信頼関係、候補者自身の健康状態や居住環境で判断されます:
③ 財産管理能力
被後見人が多額の財産を所有している場合、高い管理能力が求められます。必要に応じて成年後見監督人や信託制度を併用することもあります。
④ 親族間の状況
親族間に争いや意見の対立がある場合、家庭裁判所は中立的な第三者(弁護士や司法書士など)を成年後見人として選任する傾向があります。
親族が成年後見人になるには?
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4.親族が成年後見人になるケースは?
成年後見人として親族が選ばれるケースは一定数存在しますが、近年では専門職が選任される割合が増加しています。この章では、親族が成年後見人になる場合の状況や家庭裁判所の判断基準について解説し、さらに親族と第三者(専門職)のメリット・デメリットを比較します。
4-1.親族後見人の運用状況と認容率約8割超
家庭裁判所による統計データによれば、親族が成年後見人候補として申立書に記載された場合、その認容率は約88%と非常に高い割合で認められています。
家庭裁判所の基本方針 |
2019年に最高裁から「身近な親族を選任することが望ましい」との指針が示されており、親族後見人選任への理解が進んでいます。 |
申立状況 |
親族を候補者として記載した事案は全体の約23%ですが、そのうち約88%が実際に認められています。 |
条 件 |
財産状況や家族関係に特段の問題がない場合、希望した親族が成年後見人として選任される可能性が高いです。 |
ただし、財産管理が複雑であったり、親族間で意見の対立がある場合には、中立的な第三者(弁護士や司法書士など)が選ばれる傾向があります。
4‐2.親族 vs 第三者のメリット・デメリット
成年後見人として親族を選ぶか専門職を選ぶかは、それぞれにメリットとデメリットがあります。以下に比較表を示します。
親族後見人の特徴
- メリット
経済的負担が少なく、報酬を発生させない選択も可能。
被後見人の生活環境や性格を熟知しているため、スムーズな支援が期待できる。 - デメリット
財産管理に不慣れな場合、不適切な運用や使い込みリスクあり。
年1回の家庭裁判所への報告義務など手続き負担が大きい。
専門職後見人の特徴
- メリット
中立的かつ安全な財産管理や法的手続きが可能。
報告手続きもスムーズで、家族の負担軽減につながる。 - デメリット
報酬発生による経済的負担(2~6万円/月)。
柔軟性に欠ける場合もあり、小さな決定でも確認を要することがある。
どちらを選ぶかは、被後見人の財産状況や家族間の関係性、支援ニーズなどを総合的に考慮して決定する必要があります。
4-3.成年後見申立時に希望する候補者を伝える方法
家庭裁判所への申立時に、「この人物を成年後見人として希望する」という意思を申立書に記載できます。裁判所は候補者の信用性と専門知識、被後見人や家族との関係性、財産管理能力を総合的に判断します。家庭裁判所は本人の利益を最優先し、中立的な視点で最適な人物を選任します。
多額の金融資産を管理する場合、成年後見監督人による監督を受けるか、特定の信託や預貯金制度を利用することが推奨されます。これにより、後見人が不適切な管理をするリスクを低減できます。
成年後見監督人
家庭裁判所によって選任され、成年後見人の活動を監督します。特に多額の財産を管理する場合、適切な運用と管理を確保するために設置されることが一般的です。
成年後見制度支援信託・預貯金
成年後見人が管理する財産に制限を設ける仕組みです。例えば、一部の金融資産は家庭裁判所の許可なしには引き出せない設定にすることで、不正使用や横領を防ぎます。
4‐4.家庭裁判所より親族後見人が認められた事例
高齢の母親(認知症)と父親を持つ長男からの相談です。母親は施設で生活しており、父親も同じ施設に入所予定でした。施設入所に伴う資金確保のため、両親が共有名義で所有する実家(時価3,000万円)の売却を希望。しかし、母親には判断能力がなく、不動産取引ができない状態でした。
現状、不動産が父と母の二人の名義となっているため、実家の売買取引を行うには母が売買契約の当事者となり売買契約など不動産取引を行うことが必要です。しかしながら、母には、不動産取引を理解できる判断能力がないため、その手続きを行うことができません。そのため、成年後見制度の活用を提案しました。
親族後見人と認めるための家庭裁判所からの要望
ただし、金融資産(約2,000万円)があるため、長男が単独で後見人に選任されるには条件が必要でした。そのために、家庭裁判所は以下の選択肢を提示しました。
提案内容 | 詳 細 | 結 果 |
---|---|---|
成年後見監督人を選任 | 長男に加え、第三者専門職(弁護士など)を監督人として選任する方法 | 長男のみで管理したい希望があったため不採用 |
成年後見制度支援信託を活用 | 専門職と共同で財産管理を行い、信託銀行に金銭を預ける方法 | 手続き費用や報酬負担が大きいため不採用 |
成年後見制度支援預貯金を活用 | 長男が単独で財産管理を行い、日常生活に必要な金額以外は預貯金に預ける方法 | 費用負担が少なく、長男のみで管理可能なため採用 |
家庭裁判所への申立書類(上申書や財産目録など)を精査し提出した結果、長男が成年後見人として選任されました。また、「成年後見制度支援預貯金」を活用することで、不動産売却や財産管理もスムーズに進められることとなりました。
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5.成年後見人の具体的な職務内容
成年後見人は、判断能力が不十分な方(被後見人)を法的に支援する重要な役割を担います。その主な職務は財産管理、身上監護、そして家庭裁判所への報告の3つに分けられます。それぞれの職務内容について詳しく見ていきましょう。
5‐1.財産管理業務
成年後見人の最も基本的な職務は、被後見人の財産を適切に管理することです。
後見開始後1ヶ月以内に「財産目録」を作成しなければならず、財産目録作成前は、急迫の必要がある行為以外はできません。また、被後見人の利益を最優先に考えた管理を行う義務があり、成年後見人個人の財産と被後見人の財産は厳格に分離して管理する必要があります。
5‐2.身上監護業務(生活や医療契約など)
身上監護とは、被後見人の生活、治療、療養、介護などに関する法律行為を行うことです。被後見人の生活の質を維持・向上させるための重要な職務です。
身上監護は法律行為に限られ、実際の介護行為(食事、入浴介助など)は含まれませんが、被後見人の意思を尊重し、心身の状態や生活状況に配慮する「身上配慮義務」があります。医療行為への同意権はなく、身元保証人や連帯保証人になることはできません。
5-3.家庭裁判所への報告義務
成年後見人は、適切に職務を遂行していることを証明するため、定期的に家庭裁判所へ報告する義務があります。
報告期限を守らない場合、裁判所は調査人を選任したり、後見人を解任することもあります。後見監督人が選任されている場合は、監督人への報告も必要になります。
6.成年後見人になる手続きの流れ
成年後見人になるためには、家庭裁判所での申立てを中心に、いくつかの重要な手続きが必要です。以下は、その流れを8つのステップに分けて解説します。
6-1. 対象となる家庭裁判所と申立人の確認
申立ては、被後見人が居住する地域を管轄する家庭裁判所で行います。申立人には以下が該当します。
- 被後見人本人
- 配偶者
- 四親等以内の親族
- 市区町村長(必要な場合)
6-2.必要な書類の収集
診断書以外にも、申立てに必要な書類がいくつかあります。これには、被後見人の財産状況や家族構成などが含まれる場合があります。
- 後見開始申立書
- 医師による診断書(発行から3ヶ月以内)
- 財産目録、収支予定表
- 親族関係図と同意書
- 戸籍謄本や住民票(発行から3ヶ月以内)
各書類の詳細な説明と取り寄せ方法は、下記の記事で詳しく解説していますので、確認してみてください。
6-3.申立書類の作成と提出
必要書類が整ったら、それらを添付して家庭裁判所へ申立書を提出します。申立書には被後見人や申立人の情報、後見開始理由などを記載します。
6-4.面接日の予約と審理の開始
申立書提出後、家庭裁判所で面接日を予約します。通常、提出から2週間~1ヶ月以内に面接が設定されます。その後、裁判官による審理が開始されます。
6-5.関係者との面接
家庭裁判所で申立人や後見人候補者との面接が行われます。この際、以下について質問されることがあります。
- 申立てに至る経緯
- 被後見人の生活状況
- 親族間の意向
場合によっては被後見人本人とも面接が実施されます。
6-6.親族の意向確認
家庭裁判所は、親族間で意見が一致しているか確認するために意向照会を行います。親族間で反対意見がある場合、中立的な第三者が成年後見人として選任される可能性があります。
6-7.鑑定と家庭裁判所の判断
必要に応じて、専門医による鑑定が実施されます。鑑定結果や提出された書類を基に裁判官が判断し、審判を下します。この審判では成年後見人が正式に選任されます。
6-8.成年後見人の登記と業務開始
審判確定後、法務局で成年後見人として登記が行われます。この登記完了後、成年後見人は財産管理や身上監護などの業務を正式に開始します。最初に財産目録を作成し、家庭裁判所へ提出することが求められます。
7.成年後見人選任申立をする際にかかる費用
成年後見制度を活用するためには、家庭裁判所に申立てを行い、多くの手続きを経る必要があります。その手続きには時間と費用がかかる場合があります。以下では、成年後見人になるための手続きの流れと、それにかかる費用について詳しく解説します。
7-1.成年後見申立にかかる実費
成年後見人になるためには、まず家庭裁判所に申立てを行う必要があります。この際にかかる費用は以下の通りです。
- 申立手数料:約800円
- 診断書作成料:数千円程度
- 戸籍謄本や住民票の発行費用:数百円程度/通
- 郵便切手代:3,000~5,000円程度
これらの費用は基本的に避けられないものであり、合計で数万円程度が必要になる場合があります。
7-2.成年後見申立を専門家に依頼した場合にかかる報酬
成年後見人の選任手続きは専門的な知識が求められるため、弁護士や司法書士に依頼する場合もあります。この場合、報酬として10~30万円前後が一般的です。専門家に依頼する場合の費用は、依頼する事務所や専門家によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
8.成年後見制度利用時の注意点
成年後見制度は、判断能力が不十分な高齢者や障害者の財産管理をサポートするための有効な手段です。しかし、その利用には様々な注意点が伴います。以下では、成年後見制度の利用時に知っておくべき主要なポイントを詳しく解説します。
8-1. 家族による資産運用の制約
成年後見制度を利用すると、家族がこれまでのように自由に財産を管理することが難しくなります。例えば、子供への贈与や不動産の取引などが制限される場合があります。成年後見人が選任されると、その人が財産管理の主体となり、家族の役割は変わることを理解する必要があります。
8-2. 望む成年後見人が選任されないリスク
家族が後見人になることを望んでも、それが必ずしも実現するわけではありません。裁判所は多くの要素を考慮して後見人を選びます。その結果、専門家が後見人に選ばれるケースも少なくありません。
8-3.専門家の成年後見人には費用が発生
専門家が後見人になる場合、その報酬が必要です。この費用は継続的に発生するため、長期間の後見が必要な場合は、費用が積み重なる可能性があります。
8-4. 親族が後見人でも負担は少なくない
親族が後見人になった場合でも、その業務は多岐にわたります。年に一度の裁判所への報告はもちろん、日々の財産管理や身上監護も求められます。
8-5.成年後見制度の解除は容易ではない
一度成年後見制度が始まると、基本的には解除することはできません。後見人が不適切な行動をしたため、解任した場合でも、新しい後見人が選ばれて制度は続きます。
8-6.成年後見監督人が選任される可能性がある
成年後見人の行動を監視する「成年後見監督人」が選任されることがあります。特に、管理する財産が多額であったり、複雑なケースでは、成年後見監督人が選ばれる可能性が高まります。
8-7. 成年後見人の解任は困難
成年後見人を解任するためには、相当な理由が必要です。裁判所が客観的に後見人が不適切であると判断した場合のみ、解任が可能です。
8-8. 成年後見人の辞任には手続きが必要
後見人が辞任する場合、その理由としては病気や高齢などが考えられます。この場合、家庭裁判所に辞任の許可を得る必要があります。また、後見人が辞任や解任された場合、新たな後見人の選任が必要です。この過程で遅れが生じると、被後見人の生活や財産に影響が出る可能性があります。
9.成年後見制度と他制度の違い
成年後見制度は、判断能力が低下した方を法的に支援するための仕組みですが、状況によっては他の制度(任意後見制度や家族信託)を選択・併用することも可能です。
9-1.どの制度がどんな場合に向いているか
各制度は、利用できるタイミングや目的が異なります。以下に主要な特徴をまとめます。
このように、判断能力喪失後の対応方法は1つしかありませんが、親が判断能力のある内であれば、選択肢の幅は格段と増えます。成年後見制度では家庭裁判所が職権で成年後見人等を選任するのに対して、元気な時に財産管理を行う親族を定める制度として、「任意後見制度」「家族信託」を検討することができます。
9-2.併用の可能性
成年後見制度と他の制度(任意後見・家族信託)を併用することで、それぞれのメリットを活かし、デメリットを補うことができます。併用することで手続きが複雑化するため、専門家への相談しながら進めましょう。
任意後見 + 家族信託
家族信託で財産管理や相続対策を行い、判断能力喪失時には任意後見で身上監護を補完。不動産売却は家族信託で対応し、介護施設入所契約は任意後見で対応など。
法定後見 + 家族信託
家族信託で柔軟な資産運用を行いつつ、法定後見で法律行為や身上監護を補う。例えば、 信託財産以外の資産管理や医療契約は法定後見で対応するなど
家族・親族が親の財産管理できる?
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10.解説|親族が後見人になれる選任のポイントは?
11.まとめ
本記事は、親族が成年後見人になるための流れを解説しました。内容をまとめると以下のようになります。
- 成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度の2種類がある
- 成年後見人となる資格はないが、未成年者、過去に後見人等を解任された者、訴訟関係にあった者などはなれない
- 成年後見を利用にあたっては、今まで通りの財産管理ができなくなるといった注意点を理解した上で手続きを行うべき
- 最高裁判所の運用見直しにより、親族後見人を後見候補者とした場合に認められる割合が約8割となっている
- 親族が後見人に選任されるポイントとして、①管理が難しくない、②監督人又は成年後見制度支援信託・預貯金を活用すること、③親族の反対がない、④候補者に問題がない、がある
- 親が元気な時に財産管理を行う親族を定める制度として「任意後見制度」「家族信託」がある
上記の通り、最高裁判所による運用方針が変わり、以前であれば金融資産が2,000万円ある場合など、「全て親族のみが後見人となる」ことを認めることは難しかったのですが、条件付きではありますが、運用は見直されつつあります。
ただし、成年後見制度の原則である“本人のための財産管理”という部分については厳格な運用は変わらないため、家族のために両親の財産を活用したい、今まで通り柔軟な財産管理をしたい、積極的な相続対策をしたいというニーズを満たすことはできません。やはり、できることであれば、両親が元気なうちに将来の財産管理、資産承継の道筋を作ることができる、家族信託・民事信託での財産管理の方法も含めて、対策を検討すべきです。
是非、上記も踏まえて、家族で一度将来のことについて話してみてくださいね。