家族信託の費用完全ガイド|手続開始から終了までの費用相場を解説

家族信託は、認知症対策や相続対策として注目されていますが、その導入を考える際に多くの人が気にするのが「費用」です。家族信託を専門家に依頼する場合、信託財産の約1.5%の費用がかかることが一般的です。また、契約後も毎年の管理費用が発生することがあります。

「具体的にどんなことに費用がかかるの?」「信託開始だけでなく期間中や終了時の費用は?」「費用を節約する方法はあるの?」などの疑問を抱えている方も多いでしょう。記事のポイントは下記のとおりです。

  • 家族信託を実施するのに、専門家に依頼しないで自分で手続きするのであれば、手続き費用として20万円前後になる。
  • 家族信託は自分で実施するのは様々な観点でリスクが高く、専門家に依頼しようとすると手続き費用に加えて30万円~60万円がかかる。
  • 家族信託費用を見る上で、費用に作用する要素として①専門家に依頼するか、②信託の難易度、③信託財産の規模と内容、④手続きの範囲がある。
  • 家族信託の構造や税金が発生してしまうポイントを押さえておかないと、余計な税金を支払うはめになるので注意が必要である。

本記事では、家族信託にかかる費用を「実費」と「専門家への報酬」に分けて詳しく解説します。実費だけで済ませたい方から、専門家に任せたい方まで、家族信託の費用相場をわかりやすく説明します。

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1.家族信託とは?費用の相場について

家族信託は、高齢化社会において財産管理や相続対策として注目されている手法です。認知症などにより自分で財産管理が難しくなった場合でも、信頼できる家族に財産を託して管理・運用してもらうことができます。家族信託の主な目的は、財産を効率的に管理し、将来的なトラブルを避けることです。

家族信託の費用は、公正証書化や信託登記の手続き費用が基本となりますが、専門家に依頼する場合には加えてコンサルティング報酬(信託財産の合計額の1.1%程度)がかかります。また、それぞれの手続き代行費用も発生するため、合わせると最低でも50万円を超えることが一般的です。

費用は専門家の選定や手続きの複雑さ、信託財産の規模によって変動しますので、家族信託の目的に合わせて契約内容を調整する必要があります。もちろん、自分で手続きを行うことも可能ですが、家族信託は手続きが難しいため、基本的には専門家に依頼することをお勧めします。

 ① 自分で手続きする場合の費用相場:20万円前後

家族信託を自分で手続きする場合、費用を抑えることができますが、いくつかの重要な項目に対する費用は避けられません。以下では、主な費用項目について解説します。

信託契約書を公正証書化する際の費用:3.3~11万円

信託契約書を公正証書として作成することで、法的に強固な契約となります。また、信託した金銭を管理するための正式な信託口座を金融機関で開設する場合には、信託契約書を公正証書化する必要があります。この公正証書化には、公証人の手数料が必要です。信託財産の内容や評価額によって手数料は変動しますが、相場は3.3万円から11万円程度です。費用は日本公証人連合のHPで確認できます。

信託金額 手数料
100万円以下 5,000円
100万円超200万円以下 7,000円
200万円超500万円以下 11,000円
500万円超1,000万円以下 17,000円
1,000万円超3,000万円以下 23,000円
3,000万円超5,000万円以下 29,000円
5,000万円超1億円以下 43,000円
1億円超3億円以下 43,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円を追加
3億円超10億円以下 95,000円に超過額5,000万円までごとに11,000円を追加
10億円超 249,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を追加

引用元:日本公証人連合会HP

不動産の信託登記にかかる登録免許税:固定資産評価額の0.3~0.4%

不動産を信託財産に含める場合、不動産の名義を委託者から受託者に変更する「信託登記」が必要です。この登記にかかる登録免許税は、不動産の固定資産税評価額の0.4%(土地は0.3%:令和8年3月31日まで)が相場です。例えば、2000万円の土地と1000万円の建物を信託登記する場合、土地は6万円(2000万円×0.3%)、建物は4万円(1000万円×0.4%)、合計で10万円の登録免許税がかかるということです。

手続きに必要な書類収集費用:5,000~1万円

家族信託を始めるためには、手続きごとに必要な書類を収集する必要があります。公証役場や信託口口座を作る銀行での手続き、信託登記のための登記手続きに必要な書類として、戸籍や印鑑証明書、不動産がある場合は固定資産評価証明書などが求められます。

 ② 専門家へ依頼した場合の報酬相場:30〜60万円前後

家族信託・民事信託の契約書は、ひな型に沿って作成することはできますが、実務における金融機関での取り扱い、不動産取引や税金関係の考え方は日々変化しています。将来のあらゆる場面を想定して組成しないと、思わぬトラブルの原因となります。そのリスクを排除するために存在するのが専門家(司法書士、弁護士等)です。

専門家に依頼した場合、上記で解説した費用に加え、専門家への報酬が発生します。報酬は専門家ごとに異なりますが、以下のような形態が一般的です。

コンサルティング報酬:信託財産評価の1.1%程度(最低33万円)

お客様から情報をヒアリングし、最適な信託契約書を作成するための費用です。報酬は信託財産評価額の1.1%(最低33万円)程度から始まることが多いです。

財産の価格 費用(税込)
1億円以下の部分 1.1% (最低33万円)
1億円超3億円以下の部分 0.55%
3億円超5億円以下の部分 0.33%
5億円超10億円以下の部分 0.22%
10億円超の部分 0.11%

信託契約書作成報酬:11~16.5万円

コンサルティングした内容を元に公正証書の原案となる信託契約書を作成する費用です。専門家によっては、コンサルティング報酬に契約書作成報酬を含めて計算しているところもあります。この費用も専門家によって異なりますが、1契約書あたり11~16.5万円としているところが多いです。

信託登記報酬:11~16.5万円

不動産を信託財産とした場合に、不動産の名義変更を司法書士が行うための費用です。概ね信託登記1件あたり11~16.5万円かかります。

なお、弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、一人ひとりの事情を聴きどのくらいの費用感で家族信託ができるのか、無料相談を実施しています。家族信託やそれ以外の手続きについて、費用感とメリットデメリットを見て、よりよい選択ができるようにサポートさせていただきますので、お気軽にお問合せください。

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2.家族信託手続きの流れから見る費用

家族信託を行うにあたって知っておきたいのは、手続きの流れとそれぞれのステップで必要となる費用を理解することが重要です。この章では、家族信託の手続きを段階ごとに解説し、どのタイミングで何の費用が発生するのかを詳しく説明します。

2-1.信託契約の作成・締結

家族信託の手続きは、まず信託契約書の作成と締結から始まります。この段階では、信託の目的や内容、信託財産、受託者・受益者の役割などを明確にし、ご家族としっかり話し合っておくことが重要です。家族信託は委託者の財産を受託者が管理するため、後々のトラブルを避けるためには家族全員の同意と理解が欠かせません。

しかし、家族信託の仕組みや契約内容を理解し、調整するのは一筋縄ではいきません。家族が少ない場合でも、信託契約書の作成は専門家に依頼するのが賢明です。専門家は複雑な法律や実務に精通しており、家族信託の内容を的確にまとめてくれます。

自分で手続きをする場合 専門家に依頼する場合
費用はかからない コンサルティング報酬:
信託財産評価の1.1%程度(最低33万円)

信託契約書作成報酬:11~16.5万円

一番費用が押さえられるステップではありますが、条項一つないだけで無駄な税金を支払ったり、公証役場や銀行との調整がうまくいかず、契約までに時間がかかったりすることもあります。様々なケースに携わった経験のある専門家であれば、時間的な負担も少なくなりますので、専門家に依頼することご検討ください。

2-2.公正証書作成

家族信託の手続きを進めるうえで、公正証書の作成は重要なステップです。信託契約を法的に強固にし、相続人同士のトラブルを防ぐためにも、家族信託契約書は公正証書にしておくことをお勧めします。

専門家に依頼すれば、公証役場との調整はすべて任せられ、当日行くだけで済みます。しかし、自分で手続きを行う場合は、最寄りの公証役場で面談予約をし、契約内容を事前に公証人と共有する必要があります。これには時間がとられることを知っておきましょう。

公証人が契約書内容を読み上げて内容に問題がなければ署名・押印を行い、公正証書の原案が完成。最後に、公正証書作成の費用を支払い、正本・謄本を受け取ります。

自分で手続きをする場合 専門家に依頼する場合
公証人手数料:3.3万円~11万円程度 公証人手数料:3.3万円~11万円程度
※家族信託手続きを依頼したらコンサル報酬に含まれます

2-3.信託用口座の開設

信託した金銭を効果的に管理するためには、受託者名義で専用の管理口座を開設する必要があります。これは、委託者の口座を直接管理することができないためです。受託者名義の口座に信託金を移すことで、適切な管理が可能となります。基本的に管理口座開設は、通常の普通預金口座と同じように費用はかかりません。

管理口座には「信託口口座」「信託専用口座」の二つの選択肢がありますが、基本的には、家族信託に特化した金融機関提供の特別な口座である「信託口口座」をおすすめします。信託口口座は、受託者の破産や死亡時にも信託財産が保護されるため、より安全です。

ただし、どちらの選択肢にせよ、銀行との調整は必要不可欠です。口座を運用するにあたって必要な条文などもあるため、契約書を事前に共有したりチェックしたりする必要があります。これらの手続きを自分で行うのは時間と手間がかかります。

自分で手続きをする場合 専門家に依頼する場合
費用はかからない ※家族信託手続きを依頼したらコンサル報酬に含まれています

2-4.信託登記手続き

不動産を信託財産にする場合「信託登記」が必要になります。この登記は、不動産所在地の法務局で行い、不動産の名義を受託者に変更し、管理権限の移転を公にします。

自分で信託登記を行う場合登録免許税のみでできますが、手続き自体非常に複雑です。通常の登記とは異なり、信託実務はまだまだ運用が定まっていないため、法務局ごとに対応が異なるケースもあります。名義変更を適切に行い、今後売却などもスムーズに行うためのであれば専門家に依頼しましょう。

自分で手続きをする場合 専門家に依頼する場合
登録免許税:固定資産評価額の0.3~0.4% 信託登記報酬:11~16.5万円
登録免許税:固定資産評価額の0.3~0.4%

2-5.家族信託開始

専門家に依頼した場合、家族信託の開始を確認したら報酬の支払いとなります。専門家への報酬と実費を含めた金額が請求されることになります。

また、信託の開始と同時に委託者の財産管理が実際に始まります。受託者には、家族といえども他人の財産を管理するための相応の責任と義務が求められます。そのため、信託開始後の運用に不安がある場合は、専門家にサポートを依頼するのも効果的です。

3.家族信託に関わる税金

家族信託を検討する際に重要なのが税金です。贈与税、相続税、所得税、法人税、登録免許税、固定資産税など、信託の設計次第でさまざまな税金が発生する可能性がありますので、注意が必要です。

受益者課税の原則

家族信託は原則、受益者が支払うことになります。というのも、委託者は受託者に対し財産管理の権限を託しているだけで、その利益を得ることがないため、利益を受ける「受益者」に課せられるからです。

3-1.贈与税

贈与税は、自分が持っている財産を無償で人にあげることを言い、ある一定の金額以上を受け取った人に課せられます。

受益者が委託者と同一人物(委託者=受益者)であれば、財産は他者に移っていないとみなされ、贈与税は発生しません。これを自益信託といい、ほとんどの家族信託はこれに当たるので、家族信託の場合、その仕組上、基本的には贈与税はかからないと思って問題ありません。

しかし、まれに委託者以外の第三者が受益者となるケースもあります(他益信託)。その場合、委託者が持っている財産を他人に渡したとみなされるため、その第三者に贈与税が課せられることになるので、注意が必要です。

3-2.相続税

信託を締結した時点では、相続税は発生しません。相続税が課せられるのは、財産の所有権を持つ「受益者」が亡くなり、相続が発生した時点です。

受益者の死亡により信託契約を終了する場合、信託財産の権利を引き継ぐ人に対して相続税が課せられます。また、受益者が死亡しても信託を継続する(連続型信託)場合、新たに受益権を引き継いだ人(第二受益者、第三受益者など)に相続税がかかります。

3-3.所得税、法人税

家族信託は「受益者課税の原則」から所得税はすべて受益者が税金を納めます。委託者・受託者には課税されません。

また、受益権を売却した場合にも、その受益権を売却した際の利益に対して所得税が課税されます。法人が受益者ならそれは法人税となります。

3-4.登録免許税

家族信託を行う場合、所有権移転登記の登記をする必要があります。信託登記を行う際に法務局に以下の登録免許税を支払う必要があります。

  • 土地=固定資産税評価額×0.3%(令和8年3月31日まで、以後は0.4%)
  • 建物=固定資産税評価額×0.4%

3-5.固定資産税

基本的に課税は「受益者」にされるのが家族信託ですが、固定資産税は例外となります。家族信託契約後の毎年の納税通知書は、管理を任されている受託者に送られてくるようになります。

しかし、実質、受託者は管理・運営を任せられているだけですから、信託契約上で支払いを受益者が負担すると明記すれば、信託財産の中から支払うことができます。

4.家族信託費用のシミュレーション

家族信託の費用は、信託財産として何を対象にするのかという点と、その資産構成と財産額に応じて費用がかわります。以下、報酬相場をもとに一般的に想定される資産例の費用を紹介します。

4-1.現金3,000万円を信託するケース

  • コンサルティング費用
    3,000万円に対して1.1%の報酬利率で計算 
    33万円
  • 信託契約書作成費用
    専門家報酬11万円 
    公証役場の手数料約5万円
  • 総費用
    33万円+11万円+5万円=49万円

4-2.土地2,000万円、建物500万円、現金1,000万円を信託するケース

  • コンサルティング費用
    合計3,500万円に対して1.1%の報酬利率で計算 
    38.5万円
  • 信託契約書作成費用
    専門家報酬11万円 
    公証役場の手数料約5万円
  • 信託登記費用
    土地の登録免許税は6万円、建物の登録免許税は2万円、合計8万円
    司法書士手数料は11万円
  • 総費用
    38.5万円+11万円+5万円+8万円+11万円=73.5万円

4-3.土地5,000万円、建物1,000万円、現金1億円を信託するケース

  • コンサルティング費用
    合計1億1,060万円に対して1%の報酬利率で計算 
    約116万円
  • 信託契約書作成費用
    専門家報酬11万円 
    公証役場の手数料約5万円
  • 信託登記費用
    土地の登録免許税は15万円、建物の登録免許税は4万円、合計19万円
    司法書士手数料は11万円。
  • 総費用
    116万円+11万円+5万円+19万円+11万円=162万円

当サイトでは、我が家の場合、家族信託の費用がどれくらいかかるのか、お知りになりたい方は、無料相談でご説明しております。是非、ご利用ください。

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5. 相続・家族信託ガイドを利用した場合の初期費用

家族信託を検討する際の参考として、弊社の相続・家族信託ガイドサービスをご紹介します。

弊社では、初期費用の透明性を重視した定額サービス「家族信託ラボ」を提供しています。このサービスでは、信託する財産の価格に関わらず料金は一定で、シンプルなプランとなっています。

相続・家族信託ガイドサービスの特徴

他社では初期費用を低く設定し、信託開始後に月額や年額の継続費用を設定することがありますが、長期的に見ると総額が高くなる可能性があります。「家族信託ラボ」は一括払いで安心して利用でき、認知症などの長期的リスクを考慮している方には特におすすめです。

依頼いただくと、司法書士が全て対応し、ネットでの打ち合わせや必要書類の収集、金融機関や公証役場との交渉も代行します。依頼いただく方が行うことは以下の3つのみです。

  • 当事者の印鑑証明書を取得
  • 公証役場で信託契約書に署名捺印
  • 金融機関で金銭管理用の信託口座を開設

これにより、手続きが簡便で安心して家族信託を進めることができます。

6.家族信託費用を決定づける4つのポイント

家族信託の費用は多くの要因によって変動します。家族信託を効果的に利用するためには、どのような費用がかかるのかを明確に理解することが大切です。この章では、費用を決定づける4つのポイントについて詳しく解説します。

6-1.専門家に依頼するか

専門家へのコンサルティング費用を安く抑えたいと考える方も少なくありません。そのため、自分で手続きを行おうとする人もいますが、家族信託は非常に慎重な検討が求められるため、自分一人で対応するのはリスクが高くなります。また、家族信託は常に最新事情が変わるため、失敗なく実施するには専門家に依頼することをお勧めします。

依頼先としては、司法書士、弁護士、税理士などの士業に加えて、金融機関や不動産会社の民間企業も考えられます。依頼先ごとに家族信託の費用相場は異なり、例えば弁護士に依頼すると費用が高くなる傾向があります。ご家族の状況と問題となりそうなポイントを考慮して、その専門分野に長けた依頼先を選ぶことが重要です。

6-2.家族信託の難易度

家族信託は、ご家族ごとの要望に応じて契約書をカスタマイズできるため、要望が多岐にわたったり複雑であるほど費用が増加します。

たとえば、認知症対策のために親が施設に入所した後の自宅や口座管理を目的とする家族信託は一般的なケースです。このような場合、専門家も多くの経験を持っているため、難易度は低く、費用も比較的抑えられます。

一方で、家族信託を用いて事業承継の対策をしたり、信託財産を担保に融資を受けたいといったケースでは、銀行との調整が必要だったり、専門的な知識が求められるため、難易度が高くなり費用も高額になることが多いです。

6-3.信託財産の規模と内容

家族信託のコンサルティング費用や公正証書費用、登記における登録免許税は、信託財産額に応じて計算されることが一般的です。そのため、信託財産が増えれば増えるほど、費用も増加します。

信託財産に含めない場合、その財産は委託者本人の所有のままになりますが、本人が認知症になった場合はその財産は凍結され、自由に引き出したりできなくなります。したがって、信託を行う目的を達成するための最低限必要な財産のみを信託財産に含める必要があります。

どの財産を信託財産とするかは、今後のことを見据えて慎重に選択する必要があります。これは非常に重要な決断であり、専門家の助言を受けることが望ましいです。

6-4.手続きの範囲

家族信託の基本的な流れは、信託契約の作成、公正証書化、そして信託登記です。しかし、不動産を信託財産としない場合は信託登記の必要がなく、公正証書にしないことで費用を抑えることも可能です。手続きの各段階をどう進めるかは、依頼者の選択に委ねられます。ただし、公正証書にしない場合、信託で受託者が運用する専用口座の開設が難しくなり、後々の争いごとの防止や信頼性が不十分になるリスクがあります。

信託契約を確実に履行するためには、必要な手続きを適切に行うことが重要です。また、専門家に手続きの一部または全てを依頼することで、手続きの効率化と正確性が高まり、後々のトラブルを避けることができます。手続きの範囲とその選択が費用に直結するため、自身の状況と目的を考慮し、適切な手続きを選ぶことが求められます。

7.家族信託の費用を節約する方法

これまで見てきた通り、家族信託は専門家に依頼するとコンサルティング費用や報酬を支払う必要があるため、費用が高くなります。もし、費用を抑えるとしたら、個人で家族信託を設計し、書面にした上で手続きをすれば最小限の費用に抑えることは可能です。

7-1.節約できる費用項目

家族信託の費用を節約できる項目としては、下記の4つがあります。

  • 家族信託の契約を自分でする
  • 家族信託の契約書を私文書で作成する
  • 家族信託の信託財産を必要最低限にする
  • 信託登記の手続きを自分でする

以下、解説します。

家族信託の契約を自分でする

専門家に依頼しないで家族信託の契約を自分で行うことも可能です。
この方法で最も節約できるのは、専門家への報酬です。ただし、自分で行う場合には、信託契約の設計や契約書の作成、登記、信託口座の開設など、全ての手続きを自分で行う必要があります。

家族信託の契約書をパソコンで作成する

家族信託の契約書は、公正証書でなくても有効です。
私文書で作成することで、公証人の手数料を節約できます。ただし、私文書は公正証書よりも証拠力が弱く、信託口口座は開設できない、自分でパソコンで作成した契約書の場合には、第三者との取引において提示しても受け付けてもらえない可能性があります。

信託財産を必要最低限にする

信託財産の額が多いほど、家族信託の設定にかかる公正証書作成手数料や登録免許税などの費用が増加します。また、専門家の依頼する場合もコンサルティング報酬が増えてしまいます。したがって、これだけは管理したいという財産のみを信託財産とし、必要最小限に抑えることで、費用を節約できます。

信託登記の手続きを自分でする

信託登記の手続きは、一般的には司法書士に依頼されることが多いですが、自分で行うことで司法書士手数料を抑えることも可能です。ただし、手続きは複雑であり、専門的な知識が必要で、法務局へも何度も足を運ぶ必要があります。

7-2.専門家に依頼しないリスク

費用を抑えて家族信託を行うことは可能ですが、専門家に依頼しない場合のリスクも考慮して判断する必要があります。

最適な制度選択ができない可能性がある

家族信託にもデメリットがあります。そのため、ご家族の希望や家族関係、状況をみて、家族信託よりも任意後見制度や他の制度を利用した方が効果的で、費用を抑えられるケースもあります。これらの選択肢を見極めるためには、専門的な知識が不可欠です。

オンラインテンプレートでは対応できない法的な不確実性

家族信託はまだ判例が少ない制度であり、今後の運用が変わる可能性があります。現時点で有効な契約書でも、将来の判例次第では問題が生じる可能性があるため、これを踏まえた契約書作成が必要です。自分で契約書を作るためにオンライン上のひな形を使用する場合は注意してください。

余計な税金負担のリスク

知識が不十分なまま信託を設計すると、余計な税金がかかる、不動産の売却ができないなどのリスクがあります。しかし、専門家に依頼すれば、家族信託の設計が確実に行われ、ご自身の希望を実現できる保証が得られます。

これらを防ぐためにも、専門家に依頼するかどうかを検討するべきです。

8.頼りになる家族信託専門家の見つけ方

さて、どのみち報酬を支払うのであれば、できるだけ頼りになる専門家を選びたいですよね。実績、提案力、ネットワーク、サポート体制の4つのポイントに注目して、信頼できる家族信託専門家を見つける方法を解説します。

8-1.家族信託を組成した実績数

優秀な専門家を選ぶ際には、家族信託の実際の組成実績数を確認することが重要です。

単に「家族信託について知識がある」だけでは不十分です。専門家が持つ知識には、最新の制度動向、実務での失敗事例とその回避方法、そしてメリットとデメリットを正確に伝える能力が含まれます。これらは書籍やインターネットでは学べない、実践に基づいた知識です。

特に新しい制度である家族信託では、法務、税務、会計上の解釈や運用がまだ確定していない部分が多いため、最新の法改正や判例、行政機関の通達などを注視し、適切に対応することが求められます。

例えば、司法書士の中には不動産登記を専門としながらも信託業務の経験が少ない事務所もあります。無料相談の際には、「家族信託・民事信託の実績がどの程度あるのか」「所長以外のスタッフも信託について相談できるか」「専門性がどの程度あるのか」を確認することが大切です。

8-2.家族信託以外の制度も合わせて提案できるか

家族信託は、生前対策の一つに過ぎません。単に家族信託を組成するだけでは不十分です。
優れた専門家は、家族信託以外の後見制度、生前贈与、遺言などの選択肢にも精通しており、それぞれのメリット・デメリットを比較して提案できます。また、ご家族が対策をしたい目的と費用感とで納得のいく選択をできるよう、分かりやすく説明する能力も重要です。

家族で検討しやすい「提案書」や図解で説明できる事務所を探し、家族信託以外の制度についても詳しく説明できる専門家を選びましょう。

8-3.専門領域外の専門家とのネットワーク

家族信託を組成するにあたっては、法律・税務・保険・金融手続き等々、幅広い知識が求められます。それら全ての領域を1人で深いところまでカバーすることは不可能と言っても良いでしょう。その為、その専門家が、自分の専門領域以外で協力・提携できる司法書士、弁護士、税理士等々のネットワークを持っているかが大事になってきます。
無料相談で、実際にどこの専門家と連携して業務を取り扱っているのか確認をしてみてください。

8-4.家族信託専門家のサービス内容と費用を比較

下記は、弊社を含めた家族信託サービスを提供している専門家、企業の比較表です。専門家ごとに提供するサービス内容や費用が異なるため、相談先を検討する際に確認してみてください。

リーガルエステート(相続・家族信託ガイド)

A社(家族信託を扱う士業母体の企業)

B社(家族信託を扱う民間企業)

サポート体制

相続・家族信託にの知識や経験が豊富なスタッフが全国多数の専門家と連携・税務、不動産、保険などをトータルサポートの提供。相談方法も来所やチャット、オンライン等柔軟に対応する。

金融機関が株主のため安心感がある一方で、その金融機関にメリットがある提案になる可能性も。資格者以外の者が顧客担当につくケースもある。専用アプリで信託後の帳簿作成等の機能を提供。

民間のスタートアップ企業が経営。内部に司法書士や行政書士がおらず、外部の弁護士や司法書士などの専門家に外注のため、コーディネートが中心。信託後は信託監督人に就任し顧客サポートをする。

費用

初期費用382,800

登記や公正証書作成費用は別途かかるが、家族信託スタート後の費用負担はないため、認知症の期間が何年であっても初期費用のみで対策をすることができる。

×

初期費用55,000円〜
月額費用2,728円~

初期費用は安く見えがちだが、実際は信託財産の1%~のほか毎月の月額費用がかかる。年間3万円超のため、トータルの費用が高額の可能性も。登記や公正証書作成費用は別途かかる。

×

初期費用55,000円〜
月額費用1,078円〜

比較的導入しやすい費用体系に見えるが、他2社と異なるのは信託契約書作成も別途費用がかかる点。コンサルティング以外の実務的なものは他士業に外部委託するため、その分費用がかさむ。

品質

家族信託業界の先駆者として実績は400件超。所長は家族信託専門書籍の出版のほか、全国の相続・家族信託に取り組む士業研究会で年間MVPを受賞。現在は、家族信託を手掛ける専門家の養成も行っている。

家族信託に詳しい司法書士が創業した企業であり、家族信託経験も豊富。担当するスタッフ、資格者の力量によって、品質にばらつきがあることも。

×

自社に司法書士、行政書士、弁護士などの資格者を抱えていないため、外部の専門家の監修したシステムに依存しがち。専門家でなければできない業務は、自ら対応できない。

リーガルエステート(相続・家族信託ガイド)

サポート体制

相続・家族信託にの知識や経験が豊富なスタッフが全国多数の専門家と連携・税務、不動産、保険などをトータルサポートの提供。相談方法も来所やチャット、オンライン等柔軟に対応する。

費用

初期費用382,800円~

登記や公正証書作成費用は別途かかるが、家族信託スタート後の費用負担はないため、認知症の期間が何年であっても初期費用のみで対策をすることができる。

品質

家族信託業界の先駆者として実績は400件超。所長は家族信託専門書籍の出版のほか、全国の相続・家族信託に取り組む士業研究会で年間MVPを受賞。現在は、家族信託を手掛ける専門家の養成も行っている。

A社(家族信託を扱う士業母体の企業)

サポート体制

金融機関が株主のため安心感がある一方で、その金融機関にメリットがある提案になる可能性も。資格者以外の者が顧客担当につくケースもある。専用アプリで信託後の帳簿作成等の機能を提供。

×費用

初期費用55,000円〜
月額費用2,728円~

初期費用は安く見えがちだが、実際は信託財産の1%~のほか毎月の月額費用がかかる。年間3万円超のため、トータルの費用が高額の可能性も。登記や公正証書作成費用は別途かかる。

品質

家族信託に詳しい司法書士が創業した企業であり、家族信託経験も豊富。担当するスタッフ、資格者の力量によって、品質にばらつきがあることも。

B社(家族信託を扱う民間企業)

サポート体制

民間のスタートアップ企業が経営。内部に司法書士や行政書士がおらず、外部の弁護士や司法書士などの専門家に外注のため、コーディネートが中心。信託後は信託監督人に就任し顧客サポートをする。

×費用

初期費用55,000円〜
月額費用1,078円〜

比較的導入しやすい費用体系に見えるが、他2社と異なるのは信託契約書作成も別途費用がかかる点。コンサルティング以外の実務的なものは他士業に外部委託するため、その分費用がかさむ。

×品質

自社に司法書士、行政書士、弁護士などの資格者を抱えていないため、外部の専門家の監修したシステムに依存しがち。専門家でなければできない業務は、自ら対応できない。

9.家族信託開始後にかかる費用

家族信託には初期費用がかかりますが、信託開始後の継続的な費用は一般的に発生しません。ただし、信託契約の変更や終了時には費用がかかることがあります。家族信託開始後に発生する可能性がある費用について解説します。

9-1.家族信託の終了時

家族信託が終了すると、信託契約書で定められた「帰属権利者」が受託者による清算手続きを経て、残った帰属権利者が信託財産を取得します。

信託終了後の税金

一般的な認知症対策として家族信託を考える場合、受益者の死亡を信託終了事由と定めるケースが多いです。この場合、受益者が死亡すると信託終了により財産が「帰属権利者」に移転します。これは相続が発生したことになるため、相続税がかかります。

一方、信託契約期間中に信託契約を受託者と受益者の合意で終了させ、信託財産を受益者に戻す場合、所有者が変わらないため特別な税金は発生しません。

信託不動産の登記費用

家族信託の終了に伴い信託不動産がある場合、「信託登記の抹消」「所有権移転登記」が必要です。

登記の種類 帰属権利者 登録免許税
信託抹消登記 不動産1筆あたり1,000円
所有権移転登記 委託者本人 かからない
相続人 不動産の課税標準額の0.4%
相続人以外 不動産の課税標準額の2%
※別途、不動産取得税(不動産の課税標準額3〜4%)もかかります。

専門家の報酬

家族信託の終了に伴う清算手続き、相続税、登記手続きなどを司法書士や税理士などの専門家に依頼した場合、報酬が発生します。報酬額は財産の額や手続きの複雑さによって変わります。

9-2.家族信託の変更

家族信託が開始した後、受託者が先に亡くなったり、信託関係者が責任を負えなくなったり、受託者の権限を一部変更したりと、状況の変化で契約内容を見直す必要があります。ここでは、そうした際にかかる費用について解説します。

信託契約の変更費用

信託契約は一度締結された後でも、当事者間の合意によって契約内容を変更することが可能です。この場合、信託変更契約書を作成する必要があります。専門家に依頼する場合、一般的に約10万円程度の信託契約書作成費用が発生します。

開始時と同様に、公正証書での作成や信託不動産について信託登記の内容に変更が生じる場合には変更登記も必要です。特に信託口座を開設している場合には、変更後の公正証書の契約書を金融機関に提出することが求められることもあります。それぞれ費用は開始時と同様です。

9-3.信託監督人・受益者代理人に専門家が就任した場合

家族信託において、受益者の高齢化や判断能力の低下によって監督能力が不足する場合、信託監督人受益者代理人を設定することがあります。基本的にはご家族の中で選任されますが、信託終了まで専門家のサポートをもらい安心感を得るために、専門家を信託監督人や受益者代理人に選任するケースもあります。

ただし、家族信託の初期費用のほかに、継続的に毎月、毎年の費用が発生し、成年後見制度と同様に、定期的に専門家に対して信託財産の管理状況や運用について報告・相談する必要がありますので、全体を見て判断しましょう。

信託監督人・受益者代理人の報酬

信託監督人や受益者代理人として専門家に就任してもらう場合、その報酬は専門家によって異なります。信託財産の規模、受益者の年齢、信託監督人が担当する業務の内容によって変動します。また、支払い方法も毎月払いや年払いという形があり、年払いで換算すると最低年間1万円~数十万円といった形で毎年費用がかかります。

専門家の就任が必須条件となるケースも…

専門家によっては、受託者による不正を防ぐ目的で、専門家が信託監督人になることを、家族信託を依頼するための必須条件としていることがあります。初期の相談段階で、信託監督人や受益者代理人の指名について規約があるか確認しておきましょう。

9-4.受託者に報酬を支払う場合の信託報酬

家族信託の多くでは、家族が受託者となるため、受託者の報酬は基本的に発生しません。しかし、信託契約書の中で受託者に対して報酬を支払う旨を定めることができます。これは、受託者を担う家族の負担を軽減するために設定されるケースがあります。

信託報酬が設定された場合、その支払いは通常、定期的に行われます。支払いの頻度や金額は信託契約によって異なるため、契約を締結する際には報酬の上限や支払方法を契約に明記しておくことが重要です。

9-5.家族信託スタート後の専門家への相談費用

家族信託契約の締結後も、財産管理や手続きについて疑問や不明点が生じることがあります。専門家への相談は、これらの疑問を解消し、信託運用をスムーズにするために不可欠です。専門家によっては、簡単な質問や相談については無料で対応する場合もありますが、具体的な手続きや詳細な相談をする場合には、通常1時間あたり約5,500~11,000円の費用がかかります。

10.動画解説|家族信託に係る費用・報酬・相場とは?

11.まとめ

  • 家族信託を実施するのに、専門家に依頼しないで自分で手続きするのであれば、手続き費用として20万円前後になる。
  • 家族信託は自分で実施するのは様々な観点でリスクが高く、専門家に依頼しようとすると手続き費用に加えて30万円~60万円がかかる。
  • 家族信託費用を見る上で、費用に作用する要素として①専門家に依頼するか、②信託の難易度、③信託財産の規模と内容、④手続きの範囲がある。
  • 家族信託の構造や税金が発生してしまうポイントを押さえておかないと、余計な税金を支払うはめになるので注意が必要である。

実際にご家庭で、家族信託を検討する際にかかる費用の相場感と優秀な専門家の見分け方をお伝えしました。家族信託・民事信託はご自分でもできる手続きですが、まだ実務が確立していない部分も多く、専門家も実務動向を調べながらそれぞれの家族に最適な家族信託・民事信託の設計をしています。

専門家に支払う費用はそれなりにかかりますが、その費用分の安心感を得られるというメリットもあります。この記事がみなさまの最適な選択の手助けとなれば幸いです。私たちの事務所でも、初回面談は無料にてご相談を受け付けておりますので、ご興味にある方は是非ご連絡ください。

この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに400件以上の家族信託をはじめ、相続・生前対策を取り組んでいる。年間60件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

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