独身の兄弟が亡くなった時の相続は、兄弟に子や養子がいるかによって異なります。相続税の申告・納付は相続が生じた翌日から10か月以内に済ませなくてはいけません。期限に遅れて延滞税や無申告加算税などを課せられることにならないためにも、あらかじめ流れや相続人について理解しておき、スムーズに手続きを進めていきましょう。
- 兄弟に子や養子がいるときは、子・養子のみが法定相続人になる
- 兄弟に子や養子がいないときは、親が法定相続人になる
- 兄弟に子・養子・親などの直系尊属がいないときは、兄弟姉妹が法定相続人になる
- 内縁関係には相続は発生しないが、遺言書で指定した場合は相続が可能
本記事では、独身の兄弟が亡くなった時の相続について知っておきたいことを解説します。また、兄弟の財産を相続するときの注意点や手順もまとめました。
なお、兄弟に借金などのマイナスの財産が多いときは、相続放棄や限定承認などの相続方法も検討できますが、実施できるのは相続発生後3か月までです。ぜひ本記事を参考に、トラブルのない相続を実現してください。
1.独身の兄弟の法定相続人は?
遺言書があるときは、遺言に沿った相続が基本です。一方、遺言書がないときは、法定相続人が遺産を相続します。また、遺言書がある場合でも、遺留分を請求できる法定相続人がいるときは、遺言とは異なる方法で相続が実施されることはあります。
このような事情から、まずは法定相続人を理解しておくことが大切です。独身の兄弟の法定相続人について見ていきましょう。
1-1.子や養子がいる場合
兄弟が独身でも、子や養子がいる可能性があります。たとえば、離婚や死別により別れた配偶者との間に子がいる場合や、一度も婚姻関係は結ばなかったけれども認知している子がいる場合、養子を迎えている場合などもあるでしょう。
兄弟に子や養子がいるときは、法定相続人は子・養子のみです。なお、子・養子に上下関係はなく、遺言書で遺産分割方法について指定がない限りは、財産は等分されます。
また、遺言書に第三者や特定の子がすべての遺産を相続すると記載されている場合でも、子や養子は「遺産全体の半分÷子・養子の人数」を遺留分として請求できる権利があります。たとえば、子が2人、養子が1人いる場合であれば、それぞれが遺産の1/6を遺留分として請求することが可能です。
子・養子が亡くなっているときは、孫が代襲相続します。代襲相続では元々の相続人と同じ相続権を有するため、ほかの子・養子と同じ相続や遺留分の請求が可能です。
たとえば、養子はなく子が3人いて、そのうちの1人が死亡し、死亡した子の子(被相続人の孫)が2人いる場合について考えてみましょう。遺言がない場合であれば、子は1/3ずつ、死亡した子の子(被相続人の孫)は1/6ずつ遺産を相続できます。また、特定の子に財産をすべて相続させるという遺言書があった場合でも、もう片方の子は遺産全体の1/6、死亡した子の子(被相続人の孫)はそれぞれ1/12ずつ遺留分を請求できます。
1-2.子や養子がいない場合
独身の兄弟に子や養子がいない場合は、親のみが法定相続人です。遺言書がなくなおかつ両親ともに存命であれば、それぞれ遺産の1/2ずつ、片親のみ存命であればその親がすべての遺産を相続します。両親ともに亡くなっている場合は、祖父母が相続権を持ち、祖父母が複数存命の場合は遺産を等分して相続します。
遺言書などで第三者が遺産を相続する場合は、親は遺留分の請求が可能です。親の遺留分は遺産全体の1/3のため、両親ともに存命のときはそれぞれ1/6の遺産を遺留分として請求できます。
親や祖父母などの直系尊属がいない場合は、兄弟姉妹がすべての遺産を相続します。遺言書がないときは、兄弟姉妹は遺産を等分して相続することが基本です。兄弟姉妹が死亡している場合は、その子(被相続人にとっての甥姪)が代襲相続し、ほかの兄弟姉妹と同等の遺産を相続できます。ただし、兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言書に第三者が遺産すべてを相続する旨が記載されている時は、相続権を主張できません。
1-3.内縁関係には相続権は発生しない
内縁関係には相続権がありません。内縁の夫・妻がいる独身の兄弟が死亡した場合は、遺産はすべて子や養子、子や養子がいないときは親などの直系尊属、子・養子・直系尊属がいないときは兄弟姉妹が相続します。
内縁の夫・妻が財産を相続するためには、有効な遺言書が必要です。もしくは生前に入籍しておくなら、遺言書がなくても配偶者として相続権を主張できるようになります。
2.独身の兄弟が亡くなった時の相続手順
独身の兄弟に子・養子がいない場合は、親が遺産を相続します。親などの直系尊属がすべて亡くなっているときは、兄弟姉妹が相続権を有します。法に則った正しい相続を実施するためにも、次の流れに沿って手続きを進めていきましょう。
- 遺言書を探して相続人を特定する
- 財産と負債を確認する
- 遺産分割協議をする
- 相続税の申告・納付をする
それぞれの手続きを説明します。
2-1.遺言書を探して相続人を特定する
兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言書の有無で相続権そのものが変わります。まずは遺言書がないか探してみましょう。
遺言書が見つかったときは、公正証書遺言かどうか確認してください。公正証書遺言なら検認手続きは不要ですが、公正証書遺言以外のときは家庭裁判所で検認してもらうことが必要です。検認前に勝手に開封すると過料が課せられることもあるため、慎重に行動しましょう。
有効な遺言書であることが判明した場合は、記載されている内容に沿って相続手続きを進めていきます。遺言書に特定の人物や団体を相続人として指定している場合は、その人物・団体が相続人となります。
ただし、被相続人に子や養子、親がいる場合は、遺留分が請求される可能性があるため注意は必要です。また、子や養子が亡くなっており孫がいる場合は、孫に代襲相続権があり、遺留分の請求も可能です。
遺言書がない場合は、子と養子がすべての財産を相続します。子・養子がない場合は、親などの直系尊属、直系尊属もいない場合は兄弟姉妹が法定相続人になります。
2-2.財産と負債を確認する
相続人を特定した後で、相続財産を調べます。遺産には預金や債券などのプラスの財産もありますが、借金などのマイナスの財産もあります。マイナスの財産がプラスの財産を上回る場合は、兄弟が亡くなってから3か月以内に相続放棄の手続きを家庭裁判所でしましょう。
現状ではプラスの財産が多いけれども、将来的にマイナスの財産が上回る可能性があるときは、プラスの財産の範囲内で負債を受け継ぐ限定承認も選択できます。ただし、限定承認も兄弟が亡くなってから3か月以内に家庭裁判所に申し立てることが必要です。また、期限内に財産・負債の確認ができないときは、3か月以内に家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立ましょう。
2-2-1.預金通帳や郵便物を確認する
財産や負債についてあらかじめ兄弟から知らされている場合は、スムーズに相続放棄や限定承認の判断ができます。しかし、一緒に暮らしている場合などを除き、兄弟の財産・負債について詳しくは知らないケースも多いでしょう。
相続が発生したら早めに財産・負債の調査を開始しましょう。とりわけ負債がある場合は、長期間放置することで利息がかさみ、プラスの財産が目減りすることにもなりかねません。まずは預金通帳を探してみましょう。毎月定期的に同額ずつ引き落としされている場合は、保険などに加入しているか、借金の返済をしている可能性が考えられます。
また、郵便物もチェックしてみてください。返済や支払いを滞納している場合は、督促状などが送付されている可能性はあります。
2-2-2.銀行や証券会社に問い合わせる
通帳やキャッシュカードが見つかったときは、発行元の金融機関に問い合わせてみましょう。死亡した事実を伝えることで口座を凍結できるため、相続人や第三者による勝手な引き出しを防げます。
また、証券会社も確認が必要です。株式や投資信託、債券などの財産が保管されている可能性はあります。ただし、オンラインで資産管理するケースも多いため、すぐには見つからないかもしれません。自宅の金庫などに口座開設時の書類がないか探してみましょう。
2-3.遺産分割協議をする
相続人が複数いる場合は、遺産分割協議を実施します。相続人すべてが納得できる場合は、相続の割合が不公平でも問題ありません。しかし、後日揉め事に発展する可能性があるため、法定相続分を目安に分けるほうがよいでしょう。
遺産分割協議により相続する財産が決まったら、各相続人が相続する財産を記した遺産分割協議書に署名・実印の押印をし、すべての相続人の印鑑登録証明書を添付します。遺産分割協議書は相続登記や株式の名義変更などでも使用するため、大切に保管しておきましょう。
2-4.相続税の申告・納付をする
遺産分割後、各自の相続分に応じて相続税の申告・納付をします。相続税の申告・納付は被相続人の死亡の翌日から10か月以内です。期限内に手続きを完了しましょう。
3.兄弟の遺産を相続するときの注意点
兄弟姉妹の遺産を相続するときは、次の点に注意が必要です。
- 相続税が2割加算される
- 相続放棄は3か月以内に手続きが必要
- 相続人がいない場合は国庫帰属となる
それぞれの注意点を見ていきましょう。
3-1.相続税が2割加算される
一親等の血族と配偶者以外が相続する場合は、相続税は2割加算されます。独身の兄弟であれば、子・養子・親以外が相続するときは2割加算の対象です。
3-2.相続放棄は3か月以内に手続きが必要
相続放棄は、相続が発生してから3か月以内に家庭裁判所で手続きをします。手続きをしない状態で3か月が過ぎると、負債の返済義務も引き継ぐことになってしまいます。早めに財産・負債を調べ、相続するかどうか決めるようにしましょう。
3-2-1.相続財産管理人が相続を取り仕切る
相続放棄をした後は、債権者が相続財産管理人を立てて手続きをすることがあります。相続財産管理人を弁護士が務めることは一般的です。
3-3.相続人がいない場合は国庫帰属となる
亡くなった人に相続人がいない場合は、債権者や特別縁故者が相続します。債権者や特別縁故者が相続しない場合は、国庫帰属となります。
4.兄弟姉妹の相続は専門家に相談しよう
亡くなった兄弟に子や養子・直系尊属がない場合は、兄弟姉妹が相続人として正しく相続の手続きをしなくてはいけません。何もせずに放置していると、莫大な債務を相続することや、反対に財産を受け取れないことになる可能性があります。
ただし、兄弟姉妹と一緒に暮らしていなかった場合は、財産確定から相続人探しまでいろいろと複雑な問題が山積みです。専門家に相談することで、相続手続きをスムーズに進めるようにしましょう。
また、普段から兄弟姉妹と相続について話し合うことも大切です。遺言書や財産を管理している方法などについて事前に知っていると、万が一のときでも慌てずに対応できます。
司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、独身の兄弟が亡くなった時の相続や遺産分割について、無料相談を承っております。ぜひ、お気軽にお問合せください。
5.まとめ
本記事では、独身の兄弟が亡くなった時の相続について解説しました。内容をまとめると、以下のとおりです。
- 兄弟に子や養子がいるときは、子・養子のみが法定相続人になる
- 兄弟に子や養子がいないときは、親が法定相続人になる
- 兄弟に子・養子・親などの直系尊属がいないときは、兄弟姉妹が法定相続人になる
- 内縁関係には相続は発生しないが、遺言書で指定した場合は相続が可能
相続権のある方が相続手続きをしないまま放置すると、延滞税や無申告加算税などが課せられることはあります。スムーズに手続きをするためにも、法定相続人について理解しておくことが必要です。
また、こまめに兄弟と連絡を取り、相続について話し合うことも大切です。万が一のときに兄弟の意思を尊重するためにも、遺言書の有無や内容、おおよその相続財産を知っておくとよいでしょう。