自筆証書遺言保管制度の注意点とメリット・デメリットを詳しく解説

この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに400件以上の家族信託をはじめ、相続・生前対策を取り組んでいる。年間60件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

2019年民法大改正では相続分野のルールの中で、遺言制度について大きな変更がありました。

財産目録について、自筆証書遺言作成の方式緩和変更は既に2019年1月13日より施行されています。こちらの内容は、下記の記事でわかりやすく解説していますので、詳細は下記を確認してみてください。

今回は2020年7月10日から制度が開始される遺言書作成後の保管に関する制度について主に取り上げます。

今回の記事のポイントは下記の通りです。

  • 遺言書は原本と画像データが保管され、画像データは遠隔地でも閲覧できる
  • 自筆証書保管制度を活用することで、家庭裁判所での検認手続きが不要になる
  • 保管前にチェックされるのは形式面だけ
  • 制度の活用にあたっては、必ず本人が出向く必要がある
  • 財産目録はコピー等でも良いが署名押印が必要
  • 遺言書本体はこれまで通り全文自筆で書く
  • 相続発生後の法務局からの相続人への通知制度があるため、何も知らない相続人へ突然通知がされることから家族に対する根回しが必要
  • 相続発生後は、法務局から発行される遺言書情報証明書を活用して各種名義変更ができる(家庭裁判所の検認手続きは不要)

遺言については、2019年1月、2020年7月と大きなルール変更がありますので、新しいルールを踏まえて今後の遺言書作成、そして保管制度のポイントを確認していきましょう。

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1.遺言書の保管制度が開始される

遺言書の保管

相続に関してはルール変更というよりも制度自体に改正が入ります。2020年7月10日からは法務局による自筆証書遺言の保管制度が開始される予定です。
今回の相続法改正で自筆証書遺言の保管制度が新設され(法務局における遺言書の保管等に関する法律 以下、「法」といいます。)、自筆証書遺言を法務局で保管できるようになります。遺言書の原本と画像データが法務局で保管されます。

遺言書の作成の仕方はいくつかありますが、国内で作成される遺言書のほとんどは自筆証書遺言か公正証書遺言のどちらかです。

公正証書遺言は、法律の専門家である公証人関与の元に公証役場で作成するため、安全性が高く人気がありますが、作成に手間や費用がかかることなどがネックになります。

自筆証書遺言は、自分一人だけで作成手続きを進めることができ、自分の意思で作成することができるので、誰でも気軽に作成に取り組めます。また、筆記用具代など実費以外は一切費用がかからないのが大きなメリットでもあります。
その反面、公正証書のように公証役場に保管されることはないので、自筆証書遺言は自分で保管・管理するのが基本です。誰かにすぐ見つかってしまうような保管方法では偽造や改ざんのリスクがありますし、誰にも見つからないような場所に保管してしまうと今度はいざ相続が発生した時に遺族に見つけてもらえない可能性があります。銀行の貸金庫などに保管するという方法もありますが、これには費用がかかりますから、自筆証書遺言の良さが半減してしまいます。

気軽に作成できる良さを維持しながら、保管にかかる安全性も高めることを狙って作られたのが遺言書保管制度というわけです。

2.自筆証書遺言の保管方法とは?

遺言書の保管方法

具体的に遺言書がどのように保管されるのかというと、遺言書の原本を物理的に預かるだけでなく、遺言書をデータ化した記録が保管されることになります。

遺言書の原本は物理的に一か所の法務局でしか閲覧できませんが、画像データにすることで原本を預かる法務局以外の局からも閲覧が可能になります。
つまり、どこの法務局でも閲覧が可能となるということです。

遺言書の原本もデータも、閲覧できるのは本人のみですが、本人が死亡した後であれば、本人の相続人、遺言により財産の遺贈を受ける受遺者、遺言執行者など一定の人間に限られ、閲覧することができます。
例えば引越しなどで遺言書原本を預かる法務局から遠く離れて所在していても、他県の法務局から遺言の中身を確認することができるので利便性はかなり高いと言えます。

3.遺言書保管制度のメリット

遺言書保管のメリット

法務局が自筆証書遺言を預かってくれる保管制度のメリット面をまとめてみましょう。

3‐1. 形式的なチェックを受けることができる

自筆証書遺言作成にあっては、財産目録以外の部分については、全文自筆で作成すること、日付、氏名を記載し、押印するなどといったルールがあります。これらの要件を満たさない自筆証書遺言は無効となります。
その形式的なチェックを法務局で受けることができるため、要式が整っていない無効な遺言作成を防止することができます。

3‐2. 家庭裁判所での遺言検認手続きが要らなくなる

遺言書保管制度の大きなメリットの一つが、「検認」の手続きが要らなくなるという点です。
通常、相続発生後に自筆証書遺言が発見されると、遺族はすぐに開封することはできず、家庭裁判所に持ち込んで検認手続きを受けなければなりません。実際の検認手続きは実務的に手間と時間がかかる作業となりますが、遺言書保管制度では保管前に法務局で形式上のチェックが行われるため、相続発生後の検認が不要になります。

3‐3.改ざん等のリスクを避けられる

自宅ではなく法務局で遺言書の原本を預かってくれるわけですから、誰かに書き換えられたり、隠ぺいされたりといったリスクを避けることができます。厳重な保管場所で保全されるというメリットはこれまで公正証書遺言でしか得られませんでしたが、自筆証書遺言でも同じようなメリットが得られることになります。

3‐4.遺言書の未発見リスクが減る

自宅で保管する場合、簡単に見つからない場所すると遺族が遺言書を見つけられないこともあります。かといって保管場所を教えてしまうのでは意味がありませんね。
保管制度を利用できれば、「遺言書は作ってあるから、私に万が一のことがあれば法務局に問い合わせるように」と言っておくだけで遺族に遺言書があることと、その場所までを伝えることができます。場所を知られても改ざんすることはできませんから、安全を担保したうえで遺言書の存在を知らせることができます。

4.遺言書保管制度のデメリットや問題点

遺言保管のデメリット

次に遺言書保管制度のデメリット面を見てみます。

4‐1.秘密性が緩む

遺言書保管制度は検認の手続きが不要になるというメリットがありますが、裏を返せば法務局員に遺言の中身を見られるということになります。自筆証書遺言は誰にも知られずに自分の気持ちを残すことができるのが利点の一つですので、例え公務員でも誰かに見られることに抵抗を感じる人もいるかもしれません。
見られたところで内容を他人に漏れるようなことは考えにくいですが、遺言の秘密性が緩んでしまうということは否めません。

4‐2.チェックは形式面だけ

法務局では保管前に遺言書をチェックされますが、これは氏名や日付の記載など形式面での漏れが無いかどうかをチェックするだけで、法的に問題があるかどうかまではチェックされません。公正証書遺言であれば公証人からアドバイスを貰うこともできますが、法務局での保管制度ではこうしたアドバイスは受けられないので、将来的に問題が起き得る遺言書が作成される可能性があります。

現場で遺言書をチェックするのは遺言書保管官に指定された法務事務官です。

4‐3.本人が出向かなければならない

遺言書保管制度は厳格な運用が求められることから、本人確認も厳格に行われます。手続きにおいては遺言者本人が直接法務局に出向かなければならず、代理人による手続きも認められていません。
単純に手間がかかることはもちろんですが、病気や怪我等で出向けないといった理由でも代理が認められませんので、本人が何らかの理由で出向けない場合は、遺言書保管制度を利用することができないということになります。

4‐4.若干の費用がかかる

遺言書保管制度は全く無料で利用できるわけではなく若干ですが費用面で負担が生じます

手数料については、令和2年4月20日に公表されました。
遺言書1件当たり3900円遺言保管手数料がかかります。その他、遺言書の閲覧、遺言情報証明書の交付請求など各種手続きについて手数料がかかります。

詳細は、法務省のホームページに掲載されていますので、下記をご確認してみてください。

>>法務省:自筆証書遺言書保管制度の手数料一覧・遺言書保管所一覧・遺言書保管所管轄一覧

4‐5.相続後に相続人等による遺言書の原本の閲覧請求があると、他の相続人に通知が届く

遺言者の死亡後に相続人が法務局に対して遺言書の閲覧や画像データ(遺言書情報証明書)の交付請求の申請が行われると、法務局から遺言者の相続人、受遺者、遺言執行者に対して遺言書を保管していることが通知されます。
そのため、事前に遺言作成したことを他の相続人に話をしておかないと突然遺言があることが他の相続人に通知されてしまうため、家族間におけるいらぬ不信感を生じさせる可能性があります。

5.遺言書保管制度の手続きの仕方

遺言書保管の方法

5‐1.自筆証書遺言を作成する

定められた要件に従い、遺言者本人が自筆で遺言書を作成します。

改正後の自筆証書遺言作成のルールについては、下記の記事でわかりやすく解説していますので、詳細は確認してみてください。

5‐2.自筆証書遺言を保管する法務局を決める

自筆証書遺言を預けるには、遺言者本人が封をしていない状態の遺言書を持って法務局に出向く必要があります。手続きは以下の法務局で行うことができます。

・遺言書を書いた本人の住所地を管轄する法務局
・遺言書を書いた本人の本籍地を管轄する法務局
・遺言書を書いた本人が所有している不動産の所在地を管轄する法務局
※管轄する法務局の所在地は下記を参考にしてみてください。
>>法務省HP【全国の法務局(遺言書保管所)一覧】

この遺言保管の申し出は、遺言者自ら法務局に出頭して行わなければならず、遺言者の子供など第三者が行うことはできません。

なお、遺言書の保管の申請手続きを行うにあたっては、遺言保管申請をする法務局に予めて予約をして訪問することをお勧めします。予約をせずに、法務局に出向いた場合には、予約が優先されるため、その日に手続きができない場合があります。

予約方法など、詳細は法務省のホームページに掲載されていますので、下記をご確認してみてください。

>>法務局における自筆証書遺言書保管制度について

5‐3.保管を行う法務局に必要書類を持参して遺言書保管申請を行う

遺言を作成した本人が、法務局に下記書類を持参して遺言書保管申請を行います。(以下、法務省HPからの引用です)

必要書類
・遺言書
 ※ホッチキス止めはしないで持参します。封筒は不要です

・申請書
 ※法務局窓口でもらえます。また、法務省HPからもダウンロード可能です。

・本籍の記載のある住民票等(作成後3か月以内のもの)
 ※遺言書が外国語で記載されているときは、日本語による翻訳文
・本人確認書類(有効期限内のものをいずれか1点)
 マイナンバーカード、運転免許証、旅券、在留カードなど
・収入印紙3900円分

5‐4.保管証を受け取る

遺言保管手続き完了後、提出した自筆証書遺言の原本は法務局で保管されます。(原本やコピーは返却されませんので、事前にコピーを取っておいてください。作った自筆用証書遺言の内容を確認する際にコピーをとっておかないとできません。法務局で原本又は画像データの閲覧請求をすることはできます。

法務局から、遺言の保管番号が記載された保管証を交付されます。この保管番号は、将来、遺言書の閲覧や、変更、相続人等が遺言書を検索するときなどにあると便利なので、保管をしておきます。

法務省HP:法務局における自筆証書遺言書保管制度についてより引用

6.今後の自筆証書遺言書作成はどうなる?

遺言 今後

2020年7月からは法務局で厳重に保管してもらうことができるようになるので、安全性が増した自筆証書遺言で遺言を作成したいと思う人が多くなるでしょう。自筆証書遺言は2019年1月にも作成のルールが一部変わっていますから、この点も意識して作る必要があります。

従来、遺言書に記載する項目は全て自筆でなければなりませんでしたが、改正により遺言書に添付する財産目録については自筆でないものも認められることになりました。例えば財産目録をパソコンで作成しプリントアウトしたものや、通帳のコピー、不動産の登記簿などをそのまま添付することができるようになったので、手間の大きな削減につながりました。

遺言書 例 遺言 別紙目録

   

引用:法制審議会民法(相続関係)部会第11回会議参考資料5より引用

ただし、自筆でない添付書類には全て署名と押印が必要ですから、これを絶対に忘れないようにしなければなりません。また、遺言書本体はこれまで通り全文を自筆で作成しなければならないこと、そして氏名や日付等を正確に記載しなければならないこと、押印も必要であることに変更はないので、この点も勘違いのないようにしてください。

遺言書保管制度を利用する場合、こうした形式面はチェックされることになりますが、不備があれば作り直して再度持ち込まなければならないので二度手間になります。また、遺言を法務局で保管している事実を家族に伝えないと、気づかれないまま相続手続きがされてしまう可能性もあります。

遺言の効力と間違いがない遺言の作成方法については下記の記事で詳しく解説していますので興味ある方は是非確認してみてください。

6.遺言書保管制度を活用した場合の相続発生後の手続き

遺言者の相続人等は、法務局に対し保管している自筆証書遺言書についての遺言書情報証明書の交付を請求することができます。

遺言書情報証明書遺言書情報証明書遺言書情報証明書の遺言部分

遺言書情報証明書の不動産部分遺言書情報証明書の預貯金部分遺言書情報証明書の証明部分

法務省HP:遺言書情報証明書及び遺言書保管事実証明書の見本についてより引用

自筆証書遺言については、家庭裁判所による遺言書の検認手続きを経ないと不動産の名義変更や金融機関での手続きを行うことはできませんでしたが、法務局に保管されている遺言書については家庭裁判所における検認手続きは不要とされているため、検認手続きを経ずに法務局から発行された遺言書情報証明書を活用して法務局や金融機関での各種名義変更手続きを行うことができます。

ただし、遺言者(本人)の死亡時の戸籍謄本など相続が発生したことがわかる資料等は別途取り揃える必要があるので、遺言書情報証明書のほかにどんな資料が必要かは手続きをする際に専門家や法務局、金融機関に確認をしてみてください。

7.まとめ

2020年遺言書保管制度

今回の記事では自筆証書遺言と遺言書の保管制度の改正のポイントについて主に取り上げました。

2020年7月10日以降から法務局での保管実務がスタートすることになります。
遺言書作成ルールと合わせて、遺言書保管制度を利用する場合のポイントを押さえておきましょう。

  • 遺言書は原本と画像データが保管され、画像データは遠隔地でも閲覧できる
  • 自筆証書保管制度を活用することで、家庭裁判所での検認手続きが不要になる
  • 保管前にチェックされるのは形式面だけ
  • 制度の活用にあたっては、必ず本人が出向く必要がある
  • 財産目録はコピー等でも良いが署名押印が必要
  • 遺言書本体はこれまで通り全文自筆で書く
  • 相続発生後の法務局からの相続人への通知制度があるため、何も知らない相続人へ突然通知がされることから家族に対する根回しが必要
  • 相続発生後は、法務局から発行される遺言書情報証明書を活用して各種名義変更ができる(家庭裁判所の検認手続きは不要)

相続法の改正により自筆証書遺言が作成しやすくなりました。
ですが、遺言書保管制度は自筆証書遺言の形式面のチェックはされるものの、遺言内容のチェックはされません。
遺言を安全に保管するという目的は達成することはできますが、ご家族の現状と将来を想定した法的に安全な遺言の作成をしたいという場合は、相続に詳しい専門家に一度チェックを受けて作成することも一案です。

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