自分の親が認知症になってしまった場合、家族としては、親自身の安全を確保するためにも、しかるべき施設への入所を決断することがあります。
その時一番始めに直面する壁は、「親のための入所費用をどうしようか?」といったお金の問題ではないでしょうか。豊富な預貯金があればよいですが、目立った財産は、親の住んでいる「家と土地」だけという方も多いと思います。
その場合、最後の切り札として「実家を売却して親のための介護費用として使おう!」と考えるご家族もいらっしゃるのではないでしょうか?
しかし、現行の法制度では、親が認知症になってしまった後では、不動産の売却は簡単ではありません。
今回の記事のポイントは以下のとおりです。
- 親名義の不動産は、親が認知症になってしまった後では、親自身で売却することはできない。ただし、大前提として、不動産の名義と認知症の度合いはを要チェック。
- 成年後見制度を利用すれば、認知症の親名義の不動産も売却可能。しかし、成年後見制度の目的は、親の財産を守ることなので、注意。
- 親が完全に判断能力を失う前であれば、選択肢の幅が格段と広がる。少しでも不安な方は、お近くの専門家へのご相談を。
今回は、実家を売却して親の介護費用に充てようと考えているご家族向けに、その方法と注意点をご紹介していきます。
目次
1.親が認知症になると不動産は売却できなくなる!
結論から言うと、親が認知症になると、親名義の実家は、親自身で売却することはできなくなります。
なぜなら、認知症の方は、法律的に、 「(実家売却を)判断する能力はない」とみなされるからです。そして、判断能力が無い方が締結した売買契約は当然に無効となります。
でも、ちょっと待ってください。
結論を出す前に、まず大前提となる2つのポイントをチェックしていきましょう。
1-1.チェックポイント① 売却予定の実家は親名義のものか?
実家の(所有権)の名義が、認知症の親以外のものであれば、全く問題なく売却することができます。まずは、実家の名義を登記簿謄本や法務局に出向いて調べてみましょう。
例)「母親(認知症)、父親(健在)、子供(健在)」というご家族の場合。
1-2.チェックポイント② 親の認知症の度合いはどのくらいか?
一言で「認知症」と言っても、その度合いはいろいろです。
不動産売却において、当事者(認知症の親)の本人確認及び意思確認は司法書士が行います。司法書士によって、その判断基準に多少のバラつきはありますが、一般的には、下記が確認できれば、売却は可能と判断されることが多いです。
・自分の氏名・住所・生年月日を言える
・「実家を売却する」という行為の意味を理解している
判断に迷うようであれば、ぜひお近くの司法書士又は不動産会社にご相談ください。
2.家族でも代理人にはなれないのか?
不動産を売却できるのは、その不動産を所有している方のみです。たとえ家族であっても、所有していない不動産に関しては所有者の同意を得ずに売却できません。
また、認知症などの理由で意思能力がない方は、同意を与えることも不可能となります。そのため、家族が勝手に意思を汲み取って不動産を売却することはできません。
3.売却できるケースに該当するか確認してみよう
親が認知症になり、意思決定能力がなくなったときは、親自身の判断で不動産売却することは難しくなります。また、所有者以外が売却することも原則として不可能です。
しかし、特定のケースに該当するときは、認知症の親が所有している不動産を売却できることがあります。売却できるケースに該当するかどうか、確認するための方法について見ていきましょう。
3-1.親の認知症の度合いはどれくらいか
一言で「認知症」と言っても、その度合いはいろいろです。
不動産売却において、当事者(認知症の親)の本人確認及び意思確認は司法書士が行います。司法書士によって、その判断基準に多少のバラつきはありますが、一般的には、下記が確認できれば、売却は可能と判断されることが多いです。
- 自分の氏名・住所・生年月日を言える
- 「実家を売却する」という行為の意味を理解している
判断に迷うようであれば、ぜひお近くの司法書士又は不動産会社にご相談ください。
3-2.そもそも実家は親名義のものかどうか
実家の(所有権)の名義が、認知症の親以外のものであれば、全く問題なく売却することができます。まずは、実家の名義を登記簿謄本や法務局に出向いて調べてみましょう。
例)「母親(認知症)、父親(健在)、子供(健在)」というご家族の場合。
4.親が認知症になった時に起こりがちな不動産売買トラブル
親が認知症になることで、不動産売買に関するトラブルが起こることは珍しくありません。よくあるケースとしては、次のものが挙げられます。
- 介護費用を工面するために不動産を売却したケース
- 認知症の親に物件を買わせたケース
具体的に解説します。
4-1.介護費用を工面するために勝手に不動産を売却したケース
介護費用が必要だからと、親の不動産を勝手に売却するケースがあります。しかし、不動産を売却できるのは、所有権がある親だけです。親以外による売却は実施できません。
4-2.認知症の親に物件を買わせたケース
認知症の親に物件を買わせることも、トラブルを招きます。そもそも認知能力がない方が結んだ契約は無効のため、物件の売買はできません。
また、親が認知症であることを分かっていながら、財産を使い込むこともトラブルの原因になります。不動産を購入する必要があるときは、まずは遺産相続権のある兄弟や親に相談しましょう。
5.「成年後見制度」を利用すれば認知症の方の財産を管理できる
親が認知症になると、親の判断で不動産を売却することは難しくなります。しかし、名義人以外が売却することもできません。
とはいえ、親の不動産には誰も手が付けられなくなるということではありません。「成年後見制度」を利用すれば、認知症の親の不動産管理が可能になります。成年後見制度とは何か、法定後見人になれる人の条件や法定後見人ができることについて紹介します。
5-1.成年後見制度の「法定後見制度」とは
法定後見制度とは、認知症を含む精神的障害などの理由で判断能力が十分ではなくなった人の法律行為を成年後見人がサポートする制度です。
不動産を売却する行為などは法律行為のため、成年後見人に選任された方は、判断能力が十分ではない方の不動産売却が可能になります。また、財産管理や遺産分割協議なども行えるようになります。
5-2.法定後見人になれる人
法定後見人には、基本的には誰でもなれます。しかし、次のいずれかに該当するときは、裁判所が認めない可能性もあるため、法定後見人になることは難しいと考えられます。
- 未成年者
- 成年後見人などを解任された方
- 破産をし、復権していない方
- 認知症の方本人に対して訴訟をしたことがある方、あるいはその配偶者や直系血族
- 行方不明者
5-3.法定後見人ができること
法定後見人は、本人に代わって次のことを行えます。
- 不動産売却などの法律行為
- 財産管理
法定後見人が行えるのは、本人の利益になることのみです。例えば、不動産売却により本人が介護施設に入居する資金を得る場合は、本人の利益になるため、認められることがあります。
ただし、本人が居住している不動産を売却するときには、本人にとって重要な財産と考えられるので、法定後見人の一存では売却できません。家庭裁判所で許可を得てからの売却となります。
6.成年後見制度を活用するメリット
成年後見制度を利用することには、次のメリットがあります。
- 認知症などの理由で意思能力がない、あるいは疑わしい場合でも不動産を売却できる
- 本人の利益になる方法で財産が管理される
成年後見制度を利用することで、意思能力がない、あるいは疑わしいとされる場合でも不動産売却が可能になります。また、原則として本人の利益につながる行為のみ可能なため、財産を守ることができます。
7.成年後見制度を活用するデメリット
成年後見制度にはメリットもありますが、デメリットもあります。主なデメリットは次の通りです。
- 家庭裁判所への申し立てが必要
- 審判の取り消しができない
成年後見制度を利用するには、家庭裁判所への申し立てが必要です。数週間から2カ月程度の日数がかかる点に注意しておきましょう。
また、家庭裁判所で成年後見制度の開始が決まったときには、原則として取り消せません。不動産の売却のためだけに成年後見人を立てるということはできないので注意が必要です。
8.実家売却を目的として、成年後見人を選任した場合の注意点
8-1.成年後見人又は裁判所が売却を許可しない場合がある
居住用不動産の場合、「成年後見人」と「裁判所」の双方が「相応の理由」があると認めた場合のみ売却することができます。
それでは、「相応の理由」とは、どの様なものでしょうか?
ポイントとなるのは、成年後見人の役割です。成年後見人(及び裁判所)の使命は、判断能力が失われた「親」の為に、親の財産を「守ること」です。彼らは、「今の親自身の財産を極力減らさせない!」という思考で物事を判断します。
その為、本来であれば、成年後見制度の元でも、実家の売却は簡単には認められません。「実家を売却しないと、どうしても親の保護を図れない」という切実な理由がある場合のみ、売却が認められることになります。
ここで、「あれ?」と感じる方がいらっしゃるかもしれません。
実家を売却したからと言って、売買代金が入ってくれば、親の財産が「減ること」にはならないからです。しかし、成年後見制度の下では、不動産を流動性の高い現金に変える行為は、財産を「減らしやすいものに変えてしまう」という意味で、「親の財産を減らす」ことと、ほとんど同意味で捉えられてしまいます。
そして、ご家族として最も苦しい点は、成年後見人(及び裁判所)が売却の必要性を判断する際、「家族」の都合はほとんど考慮されないことです。
例えば、「空き家となった実家を兄弟で管理・維持していくことが難しいから売却したい」「将来の兄弟同士のもめごとをなくすために、今の内に売却してスッキリさせたい」等の理由では、「相応の理由」とはならない場合が多いです。
逆に、「預貯金はゼロに近い。今実家を売却して現金を工面しないと、親が必要な介護をどうしても受けられない」
という理由であれば、売却許可がおりる可能性は高いです。
8-2.実際に実家を売却できる様になるまで時間がかかってしまう
裁判所への申し立ての準備から成年後見人が実際に売買契約を締結できる様になるまで、一般的に、3~6か月程度かかります。「タイミング」が重要な不動産売買においては、好機を逃してしまう危険性があるでしょう。
8-3.認知症の親がお亡くなりになるまで、報酬(費用)が発生し続ける
専門家(弁護士・司法書士等)が成年後見人に選任された場合は、毎月報酬(相場は約3~5万円程度)を支払う必要があります。そして、無事に実家が売却できたとしても、成年後見人を途中で解任することはできない為、この報酬の支払いは親がお亡くなりになるまで続きます。
9.親が完全に認知症になる前に行いたい3つの対策
親が判断能力を失ってしまった「後」では、選べるカードは1つしかありませんが、親が判断能力のある内であれば、選択肢の幅は格段と増えます。すぐに実家を売却することに抵抗があるのであれば、「生前贈与」「任意後見制度」「家族信託」を検討することができます。
それぞれの概要について簡単にについて説明します。詳しくは以下のブログに書かれているので気になる方はクリックしてみてください。
どの方法が良いか迷ったときは、特定の家族とつながりのない中立的な立場の専門家に相談するようにしましょう。
9-1.生前贈与
認知症が軽度なときであれば、意思決定能力を備えている可能性があります。不動産を生前贈与してもらい、施設に入所するときなどに不動産を売却するようにしましょう。
生前贈与を受けると、不動産は子ども自身のものとなるため、好きなタイミングで売却できるようになります。ただし、贈与税のほか、不動産取得税、登録免許税が発生する点には注意が必要です。
9-2.任意後見制度
法定後見制度は認知症になってから利用できる制度ですが、任意後見制度は認知症になる前に利用できる制度です。本人が成年後見人を選べるので、より満足度の高い財産の使い方ができます。
なお、任意後見制度を利用するには、公証人役場で任意後見契約を結ぶことが必要です。また、任意後見契約後、本人が意思決定能力を失ったときは、家庭裁判所で法定後見制度を利用する手続きが必要になります。
9-3.家族信託
家族信託とは、信頼できる家族に不動産などの財産の管理を任せることです。成年後見制度とは異なり、家庭裁判所の許可を求めることなく自宅などの不動産を売却できるようになります。
ただし、家族信託を行うときは、最初に不動産の変更登記や公正証書の作成などが必要なため、費用がかかります。また、手続きを専門家に依頼することでも、コストが発生するので注意しましょう。
10.「親の不動産を売却したいのに…」とお困りのあなたへ
弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、親が認知症発症後、介護施設に移住して空き家になった実家を売却したいというお客様に対して様々な提案をこれまでにしてきました。また、事前に対策としての成年後見制度と家族信託、どちらを活用したほうがよいか無料診断することが可能です。
累計4000件を超える相続・家族信託相談実績をもとに、専門知識が豊富な司法書士・行政書士が相談いたします。ご家族にとってどんな対策が必要か、何ができるのかをご説明いたします。自分の家族の場合は何が必要なのか気になるという方は、ぜひ無料相談をお試しください。
11.まとめ
- 親名義の不動産は、親が認知症になってしまった後では、親自身で売却することはできない。ただし、大前提として、不動産の名義と認知症の度合いはを要チェック。
- 成年後見制度を利用すれば、認知症の親名義の不動産も売却可能。しかし、成年後見制度の目的は、親の財産を守ることなので、注意。
- 親が完全に判断能力を失う前であれば、選択肢の幅が格段と広がる。少しでも不安な方は、お近くの専門家へのご相談を。
ここまでご紹介した通り、認知症を発症していたとしても、その度合いや状況によっては不動産売却を行うことができます。ただ、状況をしっかりと把握する必要があるので、専門家と相談しながら進めていくことをお勧めします。