自分の老後や介護に備え、財産の管理や処分を第三者に任せるのが家族信託です。
委託者が万が一認知症になった場合でも、自身の財産管理を受託者が行えるため安心して老後に備えることができます。その反面、家族信託では法務や税務など広範囲にわたる専門知識が必要なため、専門家の手を借りなくてはなりません。
家族信託を誰に相談したり依頼したりすればいいのか、悩む方も多いかもしれません。十分検討せずに家族信託に着手すると、かかった手間や費用に見合ったメリットが得られないケースも起こりえます。
家族信託の依頼先として司法書士や弁護士などが挙げられますが、誰に依頼するのがいいのでしょうか。今回の記事のポイントは下記のとおりです。
- 家族信託の依頼先として、行政書士や弁護士、司法書士など士業が挙げられる
- 業務の経験が豊富で、弁護士ほど費用がかからない司法書士がおすすめ
- 専門外のネットワークをもっているかや契約後のアフターフォローがあるかどうかが依頼のポイント
- 家族信託の相談から信託契約書の作成、信託用の口座開設までワンストップで可能
- 専門家に依頼する前に目的や誰を受託者にするかを明確にすべき
今回の記事では、家族信託の依頼から完了までの流れや、依頼する際の注意点を解説していきます。
目次
1.誰に家族信託の相談や依頼をすればいいの?
家族信託の依頼先として、司法書士や弁護士、行政書士や税理士など士業が挙げられます。各士業で専門分野が異なる点に注意しながら、家族信託の相談や依頼に適格かどうかを確認していきましょう。
1-1.行政書士の場合には法務局へは自分で行く
行政手続きを専門としているのが行政書士です。
遺言や相続、成年後見や契約書類の作成、内容証明の書類作成など、ほかの資格で独占していない業務全般を行えるのが行政書士の特徴だといえます。ただし、行政書士は信託契約書など届出のための書類を作成できますが、法務局に出向いて登記を行うような代理権はありません。
委託者本人が手続きを行う必要があり、この点で弁護士や司法書士と異なります。また、公正証書の保管や不動産登記の手続きといった煩わしい作業も、委託者自身が行うことが必要です。信託の登記はどの部分を登記するかなど専門的な知見を要求されるため、間違った登記手続きを行うと将来問題が生じる可能性があります。
信託登記手続きについては、別の記事で詳しく解説していますので確認してみてください。
相続専門の行政書士が少なく、結果として優れた信託契約書を作成できる行政書士も多くありません。もっとも書類の作成業務だけを任せるため、コスト面は行政書士に依頼するメリットといえます。
1-2.税理士は家族信託の法務に対応しにくい
家族信託は相続対策にもなることから、依頼先として真っ先に思い浮かべるのは税理士かもしれません。
たしかに税理士は、税金の負担が少なくなる相続財産の分割方法の提案や相続税の申告を得意としています。事実、相続に特化した税理士事務所もあり、家族信託などの相談にも対応しているケースもあります。
ただし、税理士は税金の取り扱いが主な業務であって、法律の専門家ではありません。家族信託には信託契約書の作成や不動産の登記などの手続きが必要であるため、法律に詳しい士業でないと相談するのが難しいといえるでしょう。
つまり、仮に税理士に家族信託を依頼したとしても、結局は司法書士や弁護士のお世話になる可能性が高いというわけです。よって、委託者や受益者にとって優良な信託契約書を作成したい場合には、法律の専門家である士業に頼むのがベターだといえます。
1-3.弁護士への依頼は報酬が高く専門家も少ない
弁護士もまた司法書士と同じように、法律を専門としています。
司法書士は登記や供託、行政書士は文書作成、税理士は税務申告など、一定の法律業務だけが許されています。これに対して、弁護士は法律業務範囲に制限がありません。そのため、信託契約書の作成も不動産登記も弁護士が行えます。
だからといって、弁護士が家族信託の依頼に最適とはいえない部分もあります。行政書士同様に相続専門の弁護士が少ないため、優れた信託契約書を作成してもらえるとは限りません。
報酬の高さも、弁護士に家族信託を依頼することへのネックになっています。例えば、相続財産が3,000万円の家族信託の場合、司法書士なら約40万円の報酬で済むところを、弁護士の場合、60~70万円程度は必要です。
優れた信託契約書を作成してもらえない可能性が高いにもかかわらず、高額の報酬を支払うことはよい選択といえないかもしれません。報酬についての比較は以下の記事でもお伝えしています。チェックしてみてください。
また、信託不動産の登記手続きについても専門としている司法書士よりも実務経験が乏しい可能性があります。もちろん、争族に発展し裁判になった場合には弁護士に依頼するのがいいでしょう。
そのため、信託契約書の作成や不動産の登記に関しては最善の選択とはいえないかもしれません。
1-4.司法書士が依頼先では一般的
家族信託の依頼先として一般的なのが、司法書士です。司法書士が行える主な業務に登記や信託監督人になることが挙げられます。特に不動産の登記が必要な信託財産では名義が委託者から受託者に変更させるのは難易度が高く、専門家である司法書士が適格だといえるでしょう。
また、受託者が信託契約書に基づき財産管理を適切に行われているかをチェックする信託監督人を司法書士に委託することも可能です。ただし、司法書士はもちろん弁護士も受託者にはなれません。
司法書士は信託契約書の作成や登記を行うことは可能ですが、税務の内容確認など高度な専門知識を要しますので、税理士とも協力しながら進めることになるでしょう。
各士業事の業務や特徴や比較ポイントについて詳しく知りたい方は、以下の記事もチェックしてみてください。
2.家族信託の依頼は司法書士がオススメされる理由とは?
なぜ司法書士に家族信託の相談や依頼するのがおすすめなのでしょうか。
2-1.家族信託に特化した専門家が多い
家族信託を設計するためには、成年後見制度や遺言、登記など、幅広い民事手続きの知識が必要です。行政書士や弁護士と違い、司法書士はこれらの業務をメインで扱うケースが多くなります。
家族信託に関する専門知識もほかの士業と比べて多いため、委託者や受益者にとって優良な信託契約書を作成してもらえる可能性は、司法書士が一番高いといえるでしょう。
2-2.司法書士であれば全ての信託手続きを依頼できる
扱える業務範囲や各士業の報酬の相場によって、家族信託の依頼に支払う報酬も変わってきます。行政書士は信託契約書や公証役場に届出をする信託契約公正証書の作成を行えますが、委託者の代理で登記を行えません。
これに対して弁護士や司法書士は、信託契約書や公証役場に届出をする信託契約公正証書の作成、届出や登記まで行えます。ただし、弁護士は信託登記については専門的な知識を持っていることが少なく、登記手続きについては司法書士が専門的な知識を持っています。遺言や成年後見、生前贈与などほかの相続対策と比較し、家族信託が委託者や受益者にとって最良の選択かどうかや家族信託の設計に関するコンサルティングまで可能です。
なお、弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、ご家族ごとにどのような形で家族信託を設計し、信託契約書を作成すればよいのか、無料相談をさせていただいております。信託契約書の作成をはじめ、信託登記手続き、信託口口座の開設、その後の相談などトータルでサポートさせていただきますので、お気軽にお問合せください。
3.家族信託を依頼するときのポイント
司法書士であれば誰でも家族信託を依頼できるわけではありません。どのような司法書士に家族信託の相談や依頼を行えばよいのでしょうか。
3-1.専門外のネットワークをもっているか
先述したように、家族信託の設計には民法や信託法など法律の知識や、不動産の登記、相続税など税金の知識など、広範囲で高度な知識が必要になってきます。また、成年後見制度や遺言、生前贈与などとの比較も行えないといけません。
司法書士は基本的には信託契約書の作成と登記を得意としていますが、幅広い知識が必要なため、家族信託のコンサルティングから設計、手続き完了までひとりで行うには限界があるでしょう。そのため、税理士や弁護士、信託財産に不動産が含まれている場合には不動産会社など、外部とのネットワークがあるかが重要になってきます。
3-2.契約後もフォローしてくるか
家族信託を専門家に依頼する場合、家族信託の設計や契約書の作成、登記が大きなウェイトを占めますが、それだけではありません。
家族信託が開始してから事情が変わり信託契約書で定めた内容を変更するケースも起こりえます。また、信託監督人を専門家に依頼した場合、信託契約書の内容に則り受託者が適切に財産管理を行われているかを監督することが必要です。
不動産が信託財産に含まれている場合には、信託契約書が期間満了で終了すると受益者が所有者になるため、信託の抹消登記や移転登記を行わないといけません。このため、契約後もフォローしてくれる司法書士に依頼すれば、家族信託が開始後してから終了するまで安心できます。
4.家族信託を依頼してから完了までの流れ
家族信託を司法書士に依頼してから完了するまで、平均で2~3ヶ月程度かかるといわれています。依頼から完了までの流れを見ていきましょう。
①司法書士に相談や依頼
家族信託について知りたいという理由で、司法書士などに相談します。初回であれば無料で相談できるケースも多いでしょう。
成年後見や生前贈与と比べて家族信託が適格と判断されることで、実際に司法書士に依頼する場合は、報酬やどこまでサポートするかを確認が必要になってくるでしょう。
②家族信託の設計や提案
委託者の家族の構成や財産状況に応じて、家族信託の設計や提案を司法書士が行います。
このとき手続きの流れやスケジュール、費用などが提示されます。司法書士は委託者や受益者にあった家族信託のプランを複数提案し、どのプランがよいかを依頼者のニーズに合わせて選択します。
③信託契約書案の作成
依頼者が選択した家族信託のプランに沿って、司法書士が信託契約書案を作成します。金融機関や公証役場、不動産会社など関係当事者と調整することが一般的です。
④公証役場で信託契約書の作成
信託契約書案が完成すると、司法書士が公証役場と打ち合わせをして、信託契約書を作成します。司法書士とともに公証役場へと足を運んで公正証書を作成しますが、公証役場に行けない場合には委託者と受託者の実印押印の委任状で代理人が対応することも可能です。
⑤不動産が信託財産に含まれる場合は登記の作成
家族信託する財産の中に不動産が含まれている場合には、委託者から受託者へと名義変更登記が必要です。通常法務局に信託の申請をしますが、委任状に署名点押印すれば司法書士が登記の手続きを代行できます。
⑥家族信託専用の口座開設
受託者には信託財産と個人の財産を分けて管理する義務があります。そのため、家族信託専用の口座を開設しなくてはいけません。
ただし、信任法に沿った口座を開設する必要があり、信託口口座が開設できる銀行は限られているので注意が必要です。
手続について詳しく知りたい方は、以下からチェックしてください。
5.どんな形で家族信託の仕組みをつくることができるか、無料相談受付中
当サイトでは、どんな形で預金や不動産を家族だけで管理できる仕組みを作ることができるか、無料相談が可能です。累計4000件を超える相続・家族信託相談実績をもとに、専門の司法書士・行政書士がご連絡いたします。
家族信託、任意後見、生前贈与の活用など、ご家族にとってどんな対策が必要か、何ができるのかをご説明いたします。自分の家族の場合は何が必要なのか気になるという方は、ぜひこちらから無料相談をお試しください。
6.家族信託を依頼する前に明確にすべきことは?
家族信託を専門家に依頼する前に、明確にするべきことは何でしょうか。
6-1.家族信託の目的は何か?
認知症対策や介護用の老後財産の管理、体に障害があるなど自立の困難な子のために財産管理するなど、家族信託の目的は委託者によって異なります。また、受託者にどの財産を信託するかによっても、その内訳は変わってくるでしょう。
場合によっては、生前贈与や遺言、成年後見を活用するほうがよい可能性もあるかもしれません。よって、なぜ家族信託を行い、それによって相続人や受益者にどんなメリットやデメリットがあるのかを共有しておく必要があるでしょう。
相続人に知らせることなく勝手に信託契約を結んでしまうと、トラブルに発展するリスクがあります。
6-2.誰を受託者にするか
誰に受託者になってもらい財産管理をしてもらうのかなど、専門家に依頼する前に信託の内容が明確に決まっている必要があります。不動産や株式、あるいは事業承継に家族信託を利用する場合も考えられるでしょう。
また、信託を開始する時期についても、あらかじめ決めておきましょう。
その上で、受託者が委託者の財産管理を適切に行ってもらえる信頼できる人なのかも確認しましょう。委託者の認知能力が衰えた場合でも信託契約は効力を発揮します。
そのため、トラブルに発展することのないように、家族信託の設計は慎重を期するべきでしょう。
7.まとめ
この回では、家族信託の相談や依頼する先、依頼してから家族信託の手続きが完了するまでの流れを確認していきました。内容をまとめてみましょう。
- 家族信託の依頼先として、行政書士や弁護士、司法書士など士業が挙げられる
- 業務の経験が豊富で、弁護士ほど費用がかからない司法書士がおすすめ
- 専門外のネットワークをもっているかや契約後のアフターフォローがあるかどうかが依頼のポイント
- 家族信託の相談から信託契約書の作成、信託用の口座開設までワンストップで可能
- 専門家に依頼する前に目的や誰を受託者にするかを明確にすべき
家族信託は、行政的な手続きから法務、相続税など税務にも関わるため、専門的な知識のハードルが高いといえます。その中でも実績が豊富なケースが多い司法書士に家族信託を相談・依頼すれば、信託契約書の作成から信託登記、信託口口座の開設までワンストップで実施可能です。
もちろん、専門家に依頼する前に家族信託の目的は何なのかや受託者に管理してもらう信託財産の範囲、誰を受託者にするかなどを明確にしておく必要があるでしょう。