【司法書士監修】配偶者居住権の登記手続の方法と今からできる3つの対策を解説

この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに400件以上の家族信託をはじめ、相続・生前対策を取り組んでいる。年間60件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

約40年ぶりに改正された相続法のうち、「配偶者居住権」に関する部分が、2020年4月1日に施行となりました。

残された配偶者がこれらのメリットを確実に享受し、せっかく得た配偶者居住権という権利を失うことがないようにするため、必要となるのが「登記」です!!(具体的には「配偶者居住権の設定登記」とそしてその前提となる建物の負担つき所有者への名義変更「相続登記」が必要です)

「登記には期限なんてないみたいだし、放っといていいのよね」という方、要注意です!
登記をしないと、せっかく手に入れた「住み慣れた自宅に一生無償で住み続ける権利」を失ってしまうかもしれません。
今回の記事のポイントは下記のとおりです。

  • 配偶者居住権を失ってから後悔しないために、配偶者居住権を取得したら必ず設定登記をする必要がある
  • 配偶者居住権の設定登記がない場合、その存在を知らない他人には主張できない!
  • 遺産分割協議書や公正証書遺言があっとしても、登記を行わなければ配偶者居住権を主張できない。
  • 建物の負担つき所有権者が協力してくれる見込みがない場合にも、判決、遺言、死因贈与による対策方法がある

今回の記事では、「登記」が必要になる理由と登記の手順をわかりやすい例で解説していきます。

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1.配偶者居住権を取得したら必ず設定登記をしよう!!

1‐1.配偶者居住権とは?

配偶者居住権とは、一言でいうと、残された配偶者が、住み慣れた自宅を離れることなく、老後の資金も確保するために考えられた新しい権利です。遺産分割の新しい選択肢として、また配偶者のために遺言での遺贈死因贈与契約によって遺していける権利として生み出されました。

この権利を取得することで考えられる主なメリットは、以下の通りです。

・残された配偶者の老後を守る!
・住み慣れた自宅と老後の資金の両方を確保する!
・相続税の節税対策にも使えるかも!?

配偶者居住権の詳しい内容については、下記の記事で詳しく解説していますので、こちらを確認してみてください。

1‐2.配偶者居住権の活用事例

夫Aの死後、配偶者(B)と前妻の子(C)が相続人だった場合を例にとりましょう。あまり関係が良くない場合を想像していただけるとよいでしょう 。配偶者Bが生涯住み続けることができる自宅を確保するため、配偶者居住権を設定することができます。

遺産分割協議で、妻Bは「配偶者居住権」を取得、前妻の子Cが「負担つきの所有権」を相続することで話がまとまりました。配偶者居住権を一生失うことのないように、妻Bが次に必ずすべきことは何でしょうか?

それが 「配偶者居住権の設定登記」です。

1‐3.配偶者居住権の設定登記がない場合、その存在を知らない他人には、配偶者居住権を主張できない

配偶者Bが配偶者居住権を登記していなかった場合、他人から見ると、前妻の子Cに完全な「所有権」があるように見えます。(もちろん登記上の問題ではありますが)

そこで、配偶者Bが配偶者居住権を設定したにもかかわらず、前妻の子Cが自宅を売るために買主D(第三者)との間で売買の話がまとまり、Dへの所有権移転登記を申請されてしまうと、登記簿からは配偶者居住権が設定されていることが買主Dからはわからないため、買主Dが保護され、配偶者Bはもう配偶者居住権をDに主張(対抗)することができなくなるのです。
(もちろん、Cに対して、損害賠償請求をすることは出来るでしょうが、ずっと住むはずだった自宅は戻ってきません。)

このように、残された配偶者が配偶者居住権(長期配偶者居住権)を、建物の「所有権」を取得した相続人以外に主張(対抗)するには、登記を申請することが不可欠となります。

単にその建物に「住んでいる」という事実だけでは、他人に「居住権」を主張することができないのです。せっかく、「亡くなるまでずっと無償で住み続けることができる権利」を手に入れていたにも関わらず、登記をしなかったことで、この権利を失い、自宅を出ていかなければいけないことになるのです。

(令和2年3月30日付法務省民二第324号通達より引用)

配偶者居住権を取得したら、必ず、法務局で「登記」をしましょう。
上記のように登記をすることで、第三者からも配偶者居住権が存在することがわかるようになり、配偶者Bが配偶者居住権という権利を守ることができるようになります。

なお、弊社リーガルエステートでは配偶者居住権等の登記についてのご相談を承っております。初回の相談は無料ですので、どのような対策をすればよいか迷われている方は、ぜひ無料相談をご利用ください。

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2.配偶者居住権の登記の申請は誰がするの?

遺産分割が調ったから、または遺言(公正証書遺言であっても)があったからと言って他人に主張出来るものではありません。また、登記は法務局のほうで勝手に登記をしてくれるものでもありません。必ず、当事者からの申請手続を行う必要があります。遺産分割協議書を作成しただけ、公正証書遺言があるだけでは足りません。

登記さえしておけば、仮に「負担つき所有者」である他の相続人子Cが建物を売却し、所有者が入れ替わったとしても、新しい所有者D(負担つき所有権権利者)に「配偶者居住権」を主張することができ、その結果、安心して住み続けることができます。

2‐1.配偶居住権は配偶者と建物を相続した相続人の共同で行う

配偶者居住権の登記は、配偶者居住権者である配偶者Bと、建物を相続した(配偶者居住権負担つき)所有権者である子Cとの共同で申請手続きを行います。後掲する配偶者居住権の設定登記申請書を見るとわかる通り、この登記は配偶者1人で申請できるものではありません。基本的には、配偶者Bと子Cが共同で、協力して登記申請するのです。

前提として、自宅(土地建物)について亡き夫Aから負担付所有権を相続した子Cへの相続による名義変更を経たうえで(子Cが申請)、配偶者Bと子Cが共同で配偶者居住権の登記を申請する必要があり、手続きに当たっては子Cの協力が不可欠です。

「建物の所有者(子C)は、長期配偶者居住権を取得した配偶者(B)に対して、長期配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う(改正相続法1031条1項)」と定められていますので、配偶者Bは子Cに対して、登記の協力を要請できますが、子Cが協力してくれない場合には、登記手続きを進めることができず、裁判手続きを経ないと登記をすることができないのです。

なぜ登記が必要なのか。負担つき所有権を取得した子C側の気持ちから考えてみましょう。
配偶者Bが権利を失ってしまう可能性が見えてきます。

2‐2.なぜ、負担つき所有権を相続した相続人が協力してくれない可能性があるのか?

負担付所有権を相続した子Cの気持ちはこうです。

・「自分が住んでるわけでもない自宅の固定資産税を払い続けるのが嫌だ!」
・「自ら利用できない自宅を売ってお金に変えたいな…でも、売却ができない…」

固定資産税問題

まずは、固定資産税の支払い問題です。固定資産税は、基本的に(負担つき)所有者Cに課税されます。

ただし、改正相続法では、配偶者居住権を取得した配偶者は、建物の管理費などの「通常の必要費」を負担することとされており、固定資産税などの税金はこの「通常の必要費」に含まれると考えられます(民法第1034条1項)ので、固定資産税はいったんCが支払い、Bに請求することは出来るでしょう。

売却が難しくなる問題

次に、売りにくくなる、という問題があります。
配偶者居住権が成立すると、「負担つき所有権」を相続した子Cが、自宅を売却する事は非常に難しくなります。配偶者居住権は売却した後も残るため、「知らない誰かが住んでいて、自分が住むことができないのであれば買いたくない」という人が多いでしょう。

上記の理由から、固定資産税など税金の負担をしなければならない、自ら自宅を利用できない、という子Cから見ると、やっかいな負担を受ける配偶者居住権の設定登記に協力してくれないという可能性があるのです!!

3.配偶者居住権を円滑に登記するための3つの方法

先ほどの事例で建物の負担つき所有者(子C)が協力してくれそうもなかったらどうすればいいのか?せっかく設定した配偶者居住権を子Cの協力を得なくても、登記手続きを行う手段はあります。具体的には下記の3つです。

1)裁判手続きを経て、判決による単独申請を行う
2)Aが亡くなる前に、配偶者居住権を配偶者Bに遺贈する遺言を作成する
3)夫Aが亡くなる前に、夫Aと配偶者Bで配偶者居住権の死因贈与契約をし、仮登記を申請しておく

以下、それぞれ解説していきます。

3‐1.裁判手続きを経て、判決による単独申請を行う

子Cは民法上、配偶者居住権の設定登記の申請の協力を断ることはできませんが、どうしても応じてくれない場合には、配偶者Bは判決による登記申請を単独でするための訴訟を提起することを考えることになるでしょう 。協力してくれない場合には、裁判手続きが必要になってしまいます。

(令和2年3月30日付法務省民二第324号通達より引用)

3‐2.配偶者居住権を配偶者に遺贈する遺言を作成する

配偶者居住権は、夫Aが配偶者居住権を配偶者Bに遺贈するという内容の遺言を作成することによっても設定することができます。

遺言で遺言執行者を定めなければ、原則通り、子Cの協力がなければ自宅の相続による名義変更と配偶者居住権の設定登記を申請することはできませんが(その場合は、上記の判決を裁判手続きが必要です)、遺言執行者を別途定めることにより、相続による名義変更と配偶者居住権の設定登記手続きを子Cに代わり、遺言執行者が代わりに手続きを行うことができます。

遺言執行者は第三者のみならず、配偶者Bを指定することもできますが、遺言執行者として相続人への通知、財産目録の作成、各種名義変更手続きなど登記手続き以外の職務もあるので、配偶者の権利を守るという意味でも、司法書士など外部の専門家を指定しておいたほうがよいでしょう。

3‐3.配偶者居住権の死因贈与契約をし、仮登記を申請しておく

配偶者居住権は夫Aと配偶者B間の死因贈与契約によって設定することもできるため、夫Aの生前に「配偶者居住権の仮登記」を申請しておくことも一つの手です。

配偶者居住権の死因贈与契約とは「夫が亡くなったら配偶者居住権という権利を妻に贈与します」という契約です。始期(契約の効力発生時)は夫の死亡時です。夫Aと妻BがAの生前に配偶者居住権について死因贈与契約を締結し、建物に「始期付配偶者居住権設定仮登記」を申請することができます。

(令和2年3月30日付法務省民二第324号通達より引用)

あくまで予備的な仮登記であるため、完全な権利を主張できるわけではないのですが、配偶者居住権の仮登記が建物の登記簿に記載されていれば、通常、買い手は警戒するため売却は極めて難しくなり、実質上、配偶者Bのあずかり知れないところで勝手に売却することはできなくなります。

遺言で配偶者居住権を設定した場合には、夫Aの相続発生後でなければその登記手続きはできませんが、死因贈与契約であれば生前から仮登記という形で登記手続きを行うことができます。そのため、夫Aの相続が発生した後でも、配偶者居住権の仮登記があれば、暫定的ですが、配偶者Bの住まいは、夫Aの相続発生前~相続発生後という形で長期にわたって守ることができるので、安心できる仕組みをつくることができます。

夫Aの他界後に、配偶者居住権の仮登記を本登記とする登記手続きを行うことにより、配偶者Bは配偶者居住権の権利を主張できるようになります。

(令和2年3月30日付法務省民二第324号通達より引用)

なお、本登記を行うにあたっては、原則通り、子Cの協力がなければ自宅の相続による名義変更と配偶者居住権の設定登記を申請することはできませんが(その場合は、上記の判決を裁判手続きが必要です)、遺言で子Cに負担付所有権である自宅を相続させ(遺言執行者の定めを設ける)と同時に、死因贈与契約で死因贈与における執行者を別途定めることにより、相続による名義変更と配偶者居住権の本登記手続きを子Cに代わり、執行者が代わりに手続きを行うことができます。

4.配偶者居住権の登記申請書を見てみよう

以下に、配偶者居住権の登記申請書の例を掲載しますが、登記は専門的な部分も多いですので、司法書士に登記の申請の代理をお願いすることをお勧めいたします。

存続期間

必ず登記すべき事項(改正不登法第81条の2第1号)。別段の定めがなければ配偶者の終身の間(配偶者が死亡するまで)が存続期間になります。

特約

配偶者居住権を取得した配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ第三者に使用・収益させる(例.賃料収入を得るため入居者と賃貸借契約をする)ことは出来ない(相続法1032条第3項)とされているところ、第三者の使用・収益を許す旨の定めがあるときはその定めを予め登記できます(不登法第81条の2第2号)。

申請人(登記手続きに関与する人)

基本的に配偶者Bと子(負担付所有権を有する者)Cの共同申請(前述の判決による登記、遺言執行者等がいる場合は除く)のため、前提として、亡夫Aから子Bへ建物の名義変更手続き(相続登記)をすることが必要です。相続登記は、子Bが単独で申請できます。前提として、1.亡夫からBへの相続による所有権移転登記→2.BとAの間での配偶者居住権設定の登記 と二つの登記手続き申請が必要です。

登録免許税

配偶者居住権の登記を申請するために登録免許税の納付を行います。
登録免許税の計算方法は、自宅の固定資産税評価額の0.2%です。例えば、建物の評価額が500万円だった場合には、1万円(500万円×0.2%)となります。

5.まとめ

  • 配偶者居住権を失ってから後悔しないために、配偶者居住権を取得したら必ず設定登記をする必要がある
  • 配偶者居住権の設定登記がない場合、その存在を知らない他人には主張できない!
  • 遺産分割協議書や公正証書遺言があっとしても、登記を行わなければ配偶者居住権を主張できない。
  • 建物の負担つき所有権者が協力してくれる見込みがない場合にも、判決、遺言、死因贈与による対策方法がある

ここまでは、配偶者居住権を選択した場合、その権利を失い、後悔することがないよう注意すべき点が設定登記をすることであることを説明してきました。

登記をしなければ、配偶者居住権を主張することはできません。登記手続きを行うためには、配偶者だけでは手続きをすることはできず、建物所有者の協力を得る必要があります。協力を得られる見込みがない場合には、その対策も必要です。

配偶者居住権を設定してもその権利が守られなければ意味がありません。その権利が円滑にできるような対策方法をお伝えしましたが、いずれも登記手続きなど専門的な知識が必要です。司法書士など専門家と相談しながらどのように配偶者居住権を設定し、登記をすればいいのか、対策をきちんと取れるようにしておきましょう。

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