家族が亡くなって相続が開始したとき、遺産に預金が含まれれば銀行で口座の解約手続きを、不動産が含まれれば法務局で相続登記を行います。いずれの手続きも期限は特に決まっていませんが、遺産を相続するために必要な手続きなので早めに終えることが大切です。なお、2023年以降は相続登記の期限と義務化が予定されており、登記については3年以内という期限が設けられる予定です。
自分で手続きをする場合は慣れない相続手続きに戸惑う方もいますが、手続き方法を事前に確認しておけば、書類不備などのミスが起きにくくなりスムーズに手続きを進められます。
今回の記事のポイントは下記のとおりです。
- 相続では多くの手続きが必要になるので、手続きの種類や期限を確認することが大切
- 名義人の死亡を銀行が知ると口座が凍結されるので、預金の引き出しはできなくなる
- 土地や家の名義を変更する手続きが相続登記で、不動産の所在地の法務局で手続きを行う
- 相続税の申告期限は10か月だが、遺産を相続しても相続税がかからないことがある
この記事では、様々な相続手続きの中でも実際に必要になることが多い「預金口座の解約」と「不動産の相続登記」について、相続人が自分でやる方法を徹底解説していきます。
目次
1.相続発生後10か月以内に必要な手続きを確認して漏れなく対応する
家族が亡くなり相続が開始すると、死亡届の提出や葬儀、遺産の名義変更など様々な手続きが必要になります。手続き漏れを起こさないためにも、どんな手続きを自分が行うのかを確認して把握しておかなければいけません。相続発生後10か月以内に行わなければならない主な手続きとしては以下のものが挙げられます。
家族が亡くなったときに行う手続きの中には、期限が決まっているものと決まっていないものがあります。例えば死亡届の提出は7日以内(ただし国外にいる場合は3か月以内)、健康保険や年金など社会保険に関する手続きの多くは14日以内が手続き期限です。(遺族年金は5年以内、寡婦年金や死亡一時金は2年以内であれば請求できます)
そして故人に借金があるなどの理由で相続放棄や限定承認をする場合は、原則3か月以内に手続きをしなければいけません。遺言書の有無の確認や相続人調査、相続財産調査に期限はありませんが、相続放棄や限定承認の期限を考慮して基本的には3か月以内に行います。
また遺産分割協議に期限はなく、いつまでも遺産の名義変更手続きを行わなくても罰則を受けることはありません。ただし相続税の計算に影響することがあるので注意が必要です。相続税の申告期限である10か月までに遺産分割協議が終わらないと、相続税の特例が適用できず、税負担が増える場合や一旦高額な相続税の納税が必要になる場合があります。
2.預金の相続方法|口座の解約手続きを行う
遺産の中に銀行預金がある場合、一般的に銀行に連絡して口座の解約手続き・預金の払戻し手続きを行います。亡くなった方が銀行に預金口座を開設していることが多いため、相続が開始すると多くのケースで必要になる手続きです。以下では、預金の相続で押さえておくべきポイントや手続きで必要になる書類について解説します。
2‐1.口座凍結後は入出金ができなくなる点に注意
口座の名義人が亡くなったことを銀行が知ると、預金口座は凍結されて取引が一切できなくなります。相続人の方が手続きをするために銀行に連絡したタイミングで、口座名義人の死亡を銀行が知って口座の凍結が行われるのが一般的です。
口座が凍結されると預金を引き出せなくなり、公共料金などの引落口座として使っている場合でも引き落としができません。そのため公共料金などが引き落とされていないかを預金通帳の履歴などから確認して、必要であれば引落元に連絡して手続きを行ってください。
なお口座凍結によってお金を引き出せないと、葬式費用やご遺族の生活費に充てる資金が不足して困ることがあります。この場合に活用できるのが預金の仮払い制度で、金融機関で手続きをすれば「150万円」と「残高×1/3×法定相続割合」のいずれか低い額を上限として預金の引き出しが可能です。
預金の仮払い制度では相続人が単独で手続きをして払戻しを受けられるので、他の相続人の同意を得る必要はありません。ただしこの制度を利用するには一定の手続きが必要なため、葬儀費用などの支払いに間に合わないことがあります。また払戻された預金を生活費などとして使うと、遺産の相続を認めたことになり、相続放棄ができなくなる可能性がある点には注意が必要です。
こちらに関してもう少し詳しく知りたい方はこちらの記事をチェックしてください。
2‐2.手続き方法は金融機関ごとに確認が必要
預金口座の解約手続きの流れや必要な書類は金融機関によって異なる場合があります。実際に手続きをする際には各金融機関に個別に確認が必要ですが、例えば遺言や遺産分割協議に基づく相続であれば、手続きの際に以下の書類の提出を求められるのが一般的です。
<遺言書がある場合>
- 遺言書
- 亡くなった方の戸籍謄本または全部事項証明証
- その預金を相続する方(遺言執行者がいる場合は遺言執行者)の印鑑証明書
<遺言書がなく遺産分割協議書がある場合>
- 遺産分割協議書
- 亡くなった方の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)
- 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
- 相続人全員の印鑑証明書
※金融機関で用意している独自の手続き書類への記入・提出を求められる場合があります
複数の銀行に故人が口座を持っていた場合、それぞれの銀行に連絡をして手続きをしなければならず手間がかかります。戸籍謄本を取得するために市区町村役場に行こうとしても、役場が開いている平日の日中に行くのは仕事の関係で難しいという人もいるはずです。
預金の相続手続きを自分でやれば費用は安く済みますが、それ以上に手間や時間がかかり苦労することが少なくありません。相続に強い弁護士や司法書士、行政書士などは預金の解約手続きの代行を引き受けていることも多いので、自分でやるのが難しそうであれば、専門家へ依頼することを検討してみてください。
なお、弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、相続による預貯金の解約や不動産の名義変更手続きなど相続後の手続きをサポートしています。どんな手続きが必要か、必要な書類はどのように集めればいいのかなど、無料相談をさせていただいております。必要な手続きのサポートをさせていただきますので、お気軽にお問合せください。
3.不動産の相続方法|法務局で相続登記を行う
土地や建物などの不動産が誰のものなのか、名義人は登記簿という書類に記載されて管理されています。不動産の名義変更の手続きが登記で、相続に伴う登記が相続登記です。不動産の名義を故人から相続人に変更するには、法務局で相続登記を行う必要があります。
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3‐1.手続き場所は「不動産の所在地の法務局」
登記の手続きは次の3つのいずれかの方法で行います。
- 法務局の窓口で書類を提出して申請する
- 書類を郵送して申請する
- オンラインで申請する
このうちオンライン申請は事前に電子証明書の取得などが必要であり、郵送申請も専門的な知識が必要なことから訂正等を行うことが難しいなど一般の方が活用するには難しく、登記の専門家である司法書士が主に使う申請方法です。そのため一般の方が自分で相続登記をする場合には、基本的に法務局での窓口申請によって手続きを行います。
不動産の登記は全国どこの法務局でもできるわけではなく、手続き場所は「不動産の所在地の法務局」です。相続登記は次のような流れで手続きを進めます。
- 戸籍謄本などの必要書類を集める
- 登録免許税の税額を計算して登記申請書を作成する
- 書類を法務局に提出して登録免許税を納付する
相続登記では基本的に以下の書類が必要になりますが、手続きの流れや必要書類は、管轄の法務局にあらかじめ確認するようにしてください。
<遺言に基づく登記>
- 固定資産評価証明書
- 遺言書(検認を受けた場合は検認済証明書も必要)
- 被相続人の死亡時の戸籍謄本、住民票の除票
- 不動産を相続する人の戸籍謄本と住民票
<遺産分割協議に基づく登記>
- 固定資産評価証明書
- 遺産分割協議書
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、住民票の除票
- すべての相続人の戸籍謄本と印鑑証明書
- 不動産を相続する相続人の住民票
<法定相続分に基づく登記>
- 固定資産評価証明書
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、住民票の除票
- すべての相続人の戸籍謄本、住民票
固定資産評価証明書は市区町村役場で取得でき、記載された不動産の価格をもとに登録免許税を計算します。固定資産評価証明書に記載された額の1,000円未満を切捨てて税率0.4%を掛け、100円未満を切捨てた額が登録免許税の税額です。
登記申請書の用紙は以下のサイトからダウンロードできるので、被相続人や相続人、不動産に関する情報、登録免許税の税額を記入してください。なお不動産に関する情報が分からない場合は、法務局であらかじめ登記事項証明書を取得する必要があります。
特に問題がなければ、書類を提出してから登記が完了するまでにかかる日数は1週間~10日程度です。登記完了予定日以降に登記完了証や登記識別情報通知書を受け取りに行くか、これらの書類を郵送してもらって手続きは完了となります。
3‐2.相続登記の期限はないが早めに手続きすることが大切
相続登記には手続き期限はないため、仮にいつまでも手続きをせず放置しても罰則を受けることはありません。ただし登記がされない状態が続くと、不都合が生じたり不利益を被ったりすることがあります。
例えば不動産の売却や抵当権の設定をする場合でも、登記がされておらずその不動産の名義人になっていなければ、基本的に相手先は売買や抵当権の設定に応じてくれません。本当にその土地や建物の所有者なのか分からず、そのような人と取引をすべきではないからです。
また相続登記をしないうちに次の相続が発生すると、関係者の数が増えてしまい手続きが複雑になる場合があります。相続登記は不動産の名義を相続人に変更して権利者として登録する重要な手続きなので、期限の有無に関わらず早めに終えるようにしてください。
なお登記がされない不動産が増えて問題となる中で、相続登記義務化法案が成立しました。今後相続登記が義務化され、期限が設けられます。詳しい改正内容は下記の記事で詳しく解説していますので確認してみてください。
4.相続税はかかる場合とかからない場合がある
亡くなった方から遺産を相続した場合、その取得した財産には相続税が課されます。ただし1円でも遺産を取得すると相続税がかかるわけではありません。相続税がかからず申告不要のケースも少なくないので、相続税の課税条件を正しく理解しておくことが大切です。
4‐1.基礎控除額以下であれば相続税はかからない
相続税の計算では、遺産額から基礎控除額を引いて税率を掛けて税額を求めます。そのため遺産額が基礎控除額以下であれば、相続税はかからず申告や納税は不要です。
- 相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × (法定相続人の数)
法定相続人の数はケースごとに異なりますが、少なくとも3,600万円の遺産までは相続税はかかりません。遺産は遺族の生活に欠かせない財産であり、税金を課す際に一定の配慮をする必要があるため、基礎控除額までは相続税が課税されない仕組みになっています。
なお、相続税では税負担を軽減できる特例制度がいくつか用意されていますが、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用して相続税がゼロになる場合は申告が必要です。
- 配偶者の税額軽減:配偶者が相続する場合、少なくとも1億6,000万円の遺産まで相続税がかからない
- 小規模宅地等の特例:一定の条件を満たす場合、土地の価格を最大80%減額してから相続税を計算できる
4‐2.相続税の申告・納税は10か月以内に行う
相続税の申告期限は「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月後」で、納税が必要な場合は納税も10か月以内に行います。期限を過ぎると延滞税などの罰金を科されてしまうので、相続税の申告・納税を行う場合は期限までに終えるようにしてください。
なお自分で手続きする場合、相続税の申告書は税務署の窓口や国税庁HPで取得できますが、相続税の計算は一般の方には難しく、自分で手続きするのはおすすめできません。
不動産や株式など遺産に含まれる財産の相続税評価額を計算する際や、特例制度の適用の可否を判断する際には専門的な知識が必要になります。税負担の軽減につながる特例制度の適用を忘れると、税額が高く算出されて余計な税金を払うことになりかねません。
また遺産分割協議で揉めて10か月の申告期限に間に合わないと特例の一部が適用できず、後々に遺産分割が完了したときに特例を適用するためには分割見込書の提出が必要です。相続税の計算や個々の手続きを一般の方が自分でやるのは簡単ではないので、相続税に強い税理士に依頼することをおすすめします。
5.どんな形で預金や不動産を相続できるか、無料相談受付中
当サイトでは、どのような遺産分割をしたらよいのか、かかる相続税はどの程度で税金はどのように節税ができるのかなど提携する税理士と連携し、必要な手続きの無料相談が可能です。累計4000件を超える相続・家族信託相談実績をもとに、専門の司法書士・行政書士がご連絡いたします。
ご家族にとってどんな対策が必要か、何ができるのかをご説明いたします。自分の家族の場合は何が必要なのか気になるという方は、ぜひこちらから無料相談をお試しください。
6.法定相続情報証明制度で手続き負担を減らす
法定相続情報証明制度とは、戸籍謄本などの一定の書類を法務局に提出すると法定相続情報一覧図の写しを発行してもらえる制度です。法定相続情報一覧図の写しは5年以内であれば何度でも無料で発行でき、不動産の相続登記をはじめとした遺産の相続手続きで使えます。
この制度が始まる以前は、戸籍謄本などの書類を相続手続きを行う度に提出しなければならず手間がかかっていました。遺産相続の手続きの数だけ戸籍謄本などを発行すると費用がかかりましたが、法定相続情報一覧図の写しを使える今では費用がかさむ心配はありません。
なお法定相続情報証明制度を利用するには、法定相続情報一覧図を作成して提出する必要があり、一覧図の用紙は以下のサイトからダウンロードできます。
主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例(法務省ホームページ)
また法務局で手続きをする際、被相続人の戸籍謄本や住民票の除票、相続人の戸籍謄本などを揃える必要があるので、必要書類について事前に法務局に確認するようにしてください。
7.まとめ
この記事では相続手続きを自分でやる方法について、預金口座の解約手続きと不動産の相続登記のやり方を中心に見てきました。本章の内容をまとめてみましょう。
- 相続では多くの手続きが必要になるので、手続きの種類や期限を確認することが大切
- 名義人の死亡を銀行が知ると口座が凍結されるので、預金の引き出しはできなくなる
- 土地や家の名義を変更する手続きが相続登記で、不動産の所在地の法務局で手続きを行う
- 相続税の申告期限は10か月だが、遺産を相続しても相続税がかからないことがある
相続開始後に行う手続きの種類は遺産にどんな財産が含まれるのかで異なりますが、ご家族が亡くなると様々な手続きが必要になります。専門家に依頼せずに自分でできる手続きもあるので、相続に伴う各種手続きを早めに進めて終えるようにしましょう。
また手続きの方法がよく分からない場合や、仕事などで忙しくて手続きをする時間が取れない場合には、相続の専門家に手続きを依頼するのもひとつの方法です。専門家に依頼すれば自分でやる手間や時間がかからず、ミスなくスムーズに手続きを終えられます。
長年相続問題に取り組み様々な事案を扱ってきた当事務所であれば、相続開始後に必要になる様々な手続きのサポートが可能です。生前の相続対策から相続開始後の手続きまで、相続でお悩みの方はお気軽にご相談ください。