離婚・再婚がかかわる相続は、「前配偶者と現配偶者」「実子と連れ子」などの人的要因が絡むため、相続権の所在が複雑になります。「再婚したあとの相続関係のトラブルをどう回避すればよいのだろうか」と頭を抱える方も多いのではないでしょうか。
わかりにくい関係性にはなるものの、一度理解すればある程度全体図が見えてきます。「離婚するとパートナーとの関係はなくなるけど、子どもとの血縁関係は消えない=相続権が失われない」という図式を覚えておくと便利です。
今回の記事のポイントは下記のとおりです。
- 離婚した相手には相続権はないが子どもには存在する
- 民法上は養子縁組の人数に制限はなく、実子・養子は同じ扱いになる。相続税法上は基礎控除の算定にあたって法定相続人として算入できる養子の数は最大2人までになる
- 離婚や再婚がかかわるときの子どもへの相続は遺言書や生前贈与も視野に入れるべき
- トラブルも多い再婚時の相続は専門家のサポートを受けることをおすすめする
この記事では連れ子・実子・再婚相手・養子縁組の相続権や、再婚が絡む相続の注意点について解説しています。
目次
1.再婚したときの相続で確認すべき点まとめ!
離婚して婚姻関係を解消した夫婦は、親族関係も完全に断ち切られます。しかし、子どもは実子か養子かに関わらず、離婚後も親族関係が残ることをご存じでしょうか。たとえ親権を持たない親側で相続が発生しても、子どもはその相続権を擁しています。
再婚したときによく見られる相続人の扱いについて、以下で確認していきましょう。
離婚・再婚時の相続人の扱い
婚姻関係を解消した夫婦は親族関係でなくなり、法律上の扱いも赤の他人になります。また、夫婦の婚姻期間の長さも影響しません。どれだけ婚姻期間が長くとも遺言書に「前のパートナーにも相続させる」という記述がない限り、前の配偶者が相続財産を受け取ることはできません。
対して再婚して新しいパートナーとなった人は、婚姻期間の長さにかかわらず配偶者として必ず相続人になります。例えば「最初の結婚相手との婚姻期間が10年」で「再婚相手との婚姻期間が1年未満」だったとしても、相続権を持つのは再婚相手のみです。
ただし、前の配偶者との間に授かった子どもは、たとえ離婚によって数十年以上離れて暮らしていても相続権を持ちます。法律上、離婚が成立しても親子の関係は継続になるためです。再婚相手との間にできた子どもにも相続権は当然発生します。
遺産分割協議中に再婚した場合、相続権はどうなる?
「離婚したあとは赤の他人」と前述しましたが、配偶者と死別したあとに再婚する場合は話が別です。相続は被相続人(亡き配偶者)の死亡時から開始されるため、被相続人(亡き配偶者)が死亡した時点での親族関係が適用されます。つまり配偶者が亡くなった後、その相続財産についての遺産分割協議中にほかの人と再婚した場合でも、死亡した配偶者の相続人として、その財産の相続権は消滅しません。、再婚後もそのまま亡き配偶者の相続人として遺産分割協議に参加できます。
少しわかりにくいと思うので、ケース別で相続権の有無を以下でまとめてみました。
・夫(妻)が死亡してから再婚
⇒ 相続権あり
・夫(妻)との離婚調停中もしくは離婚訴訟中に相手が死亡
⇒ 相続権あり
・夫(妻)と離婚してから相手が死亡
⇒ 相続権なし
・夫(妻)と離婚したあと再婚を前提に元夫(妻)と付き合いを進めていた最中に死亡
⇒ 相続権なし
万が一、被相続人を殺害または殺害しようと試みた、あるいは他の相続人による殺害を黙認していた場合は「相続欠格事由」に当てはまり、相続権は永久的に失われます。また、前パートナーからの虐待や重大な侮辱行為が認められると、相続廃除となってその対象者の相続権を剥奪できる可能性もあります。
過去には離婚前に駆け落ちした相手への廃除が認められた判例が出ました。とはいえ、よほど重大な過失が認められなければ、廃除申請が受理されることは難しいでしょう。
実子と養子縁組の子どもで相続の扱いは変わらない
相続税法・民法の両方において、実子と養子(養子縁組とした子ども)は同じ扱いなると規定されています。どちらも常に第一順位の相続人です。
(縁組による親族関係の発生)
第七百二十七条 養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる。(引用:e-Gov|民法)
民法上は、養子縁組に制限はありません。何人でも、何十人でも養子とすることができます。
ただし相続税法上は、養子縁組の場合、被相続人に実子がいない場合は2人、実子がいる場合は1人までしか法定相続人に含められないという決まりがあります。なぜなら養子を無理やり増やすことで、さまざまな税法上の軽減措置を不正に利用される危険があるためです。
・相続税の基礎控除額の引き上げ(法定相続人×600万円+3,000万円)
・保険金や退職引当金の非課税限度額の引き上げ(法定相続人×500万円)
・相続財産の分配による一人ひとりの税率引き下げ(相続税は累進課税制度で税率が決まるため、受け取る額が小さいほど税率も下がる)
「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の相続権の扱い
また養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類が存在しますが、それぞれで相続権の扱いが変わります。
・普通養子縁組:
実親と養親の両方に親子関係を残す。養親は子どもを養子として扱う。
・特別養子縁組:
実親との親子関係をなくし、養親のみと親子関係を結ぶ。養親は子どもを実子として扱う。
普通養子縁組の場合は「実親と養親の両方と親族関係を継続している」ので、両方からの相続を受けることか可能です。対して特別養子縁組は「実親との親族関係を断ち切っている」ため、養親からの相続しか受けられません。
ちなみに「前婚と後婚それぞれに子どもを授かった」というパターンはどうでしょうか。結論をいえば、前婚と後婚の子どものどちらも相続権や相続分の扱いに違いはありません。
もし、もう少し詳しく養子縁組ついて知りたい、普通養子と特別養子で何が違うのか理解したいという方は、以下の記事を参考にしてみてください。
1‐1.再婚相手の連れ子に相続させたい場合は養子にする必要がある
もし再婚相手に連れ子がいた場合、そのままだと連れ子の相続権は再婚相手からのみになります。再婚は婚姻関係を結ぶだけであり、連れ子とは再婚時点で血縁関係が結ばれていないためです。「良好な家族関係を築いているか」や「長い間一緒に暮らしていた」などの環境は関係ありません。
再婚相手の連れ子に相続権を与えたい場合は、その連れ子を養子縁組(養子)にしましょう。ただし、養子縁組にしなくても、遺言書で連れ子への財産相続について指示している場合は、連れ子へ財産を残すことができます。
もし3人以上の連れ子がいて全員分の相続権確保が不可能な場合は、遺言書や生前贈与などの対策を考えておきましょう。
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2.再婚時の相続トラブルは多い!回避するには?
再婚が絡む相続が発生した場合、前の配偶者や子ども、親族の間でトラブルになることは珍しくありません。
・実は相続権を持つ隠し子がいた
・前の子どもへの相続を現配偶者やその親族が認めてくれない
・再婚後の配偶者と他の相続人に確執がある
など上記のような非常にデリケートな問題も多いです。いわゆる「争族」に発展する可能性もあります。
争族を回避するには、まず「正式な相続人は誰であるのか」をはっきりさせましょう。前述のとおり、「前の配偶者およびその親族(姻族)には相続権がない」「養子も実子も相続権は同じ」などの知識を蓄えておき、正しい法律知識を持って物事を判断する必要があります。
相続人(もしくは相続人になると見込んだ者)を確定させたあとは、「生前贈与を行う」「遺言書(自筆証書遺言や公正証書遺言など)を残しておく」などで、法的に問題のない正しい分配を行います。
とはいえ相続関係の判断は難しいことが多く、実務経験やある程度の知識がないとうまく対応できないのが実情です。金銭だけでなく、不動産の相続に関する判断や名義変更なども必要になってきます。離婚によって複雑になった相続人を確定させるもの骨が折れる作業です。
もし再婚時の相続トラブルを確実に避けたい場合は、士業の専門家に手続きをお願いしたり、相続人調査を依頼したりすることをおすすめします。
なお、弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、連れ子・実子・再婚相手への相続問題など、遺言や生前贈与などを活用した相続対策をサポートしています。どんな手続きが必要か、必要な書類はどのように集めればいいのかなど、無料相談をさせていただいております。必要な手続きのサポートをさせていただきますので、お気軽にお問合せください。
3.再婚時に子どもへ相続させるときの注意点は?
再婚時の相続に関しては、実子・養子に関わらず子どもの存在が非常に大きくなります。もし再婚したあとに子どもへの相続を考える際は、以下の点を確認しておきましょう。
・遺言書を残す際は内容・影響力を考慮する
・遺留分も計算に入れておく
・欠格・廃除・相続放棄がないか確認する
遺言書の効力は非常に大きく、被相続人が遺言書を残していた場合は遺留分(法定相続人が最低限保証される財産)を考慮しつつ、遺言内容にしたがって相続されるのが原則です。
もし「前の配偶者との子どもとうまくいっていない」「今の家庭の子どもに財産を残したい」などの理由で相続させたくないと考えた場合は、遺言書によって遺留分以外の相続財産を渡さないという選択肢もあります。
ただし、内容次第では親族関係に大きなヒビが入るかもしれません。とくに遺留分を侵害するような内容の場合は、遺留分侵害額請求権(2019年6月30日以前は遺留分減殺請求)によって、争いの長期化も予想されます。遺言書を残したい場合は、後の影響力の高さを考えつつ専門家を交えて作成を進めましょう。
もし離婚後に子どもによる著しい非行行為等で被相続人に重大な損害を与えていたときは、廃除の申請が認められるかもしれません。
逆に子どもが相続放棄を選択していた場合だと相続は基本的に不可能です。ただし、遺言による財産を受け取れる「受遺者」の権利は放棄されないため、遺言による特定遺贈を受け取ることができます(受遺者の権利も別途で放棄可能)。
離婚によって子どもとの関係が良好になるか疎遠になるかは、それぞれの家庭の事情や付き合い方次第になります。個々に合った相続の方法を選択してください。遺留分や相続放棄について、どのようなものなのか、または、扱う際の注意点やポイントを解説しているブログもあるのでこちらも参考になさってください。
4.どんな形で連れ子・実子・再婚相手への相続問題の対策ができるか、無料相談受付中
当サイトでは、どんな形で連れ子・実子・再婚相手への相続問題の対策ができるか、そして生前贈与や遺言、家族信託など家族に必要な仕組みを作ることができるか、無料相談が可能です。累計4000件を超える相続・家族信託相談実績をもとに、専門の司法書士・行政書士がご連絡いたします。
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5.再婚時の相続は事前の話し合い・対策が重要!
この回では再婚時の相続についての注意点を見てきました。本章の内容をまとめてみましょう。
- 離婚した相手には相続権はないが子どもには存在する
- 民法上は養子縁組の人数に制限はなく、実子・養子は同じ扱いになる。相続税法上は基礎控除の算定にあたって法定相続人として算入できる養子の数は最大2人までになる
- 離婚や再婚がかかわるときの子どもへの相続は遺言書や生前贈与も視野に入れるべき
- トラブルも多い再婚時の相続は専門家のサポートを受けることをおすすめする
離婚と再婚というデリケートな部分にかかわってくる相続の場合は、子どもの存在がとくに大きくなります。「誰が相続人になるのか」をしっかり確定させることが、トラブル回避のための最重要項目です。
長年相続問題に携わってきた当事務所であれば、ご相談者様の婚姻歴や現在の状況から親族関係を明確にする、間違いのない相続人調査を実施できます。不動産の名義変更の対応も可能です。もし再婚後の相続に関してご相談があれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。