親の借金が発覚しても、子供には基本的に返済義務はありません。ただし、相続した借金や連帯保証人になっていた場合、親が子供の名義で借りていた場合などは例外です。本記事では、返済義務の有無や肩代わりを避ける方法、借金調査の手段などを解説し、適切な対処法を紹介します。
今回の記事のポイントは、以下のとおりです。
- 親の借金が判明しても、子供には基本的に返済義務はない
- ただし、「親の借金を相続した」「親の借金の連帯保証人になっていた」「親が子供の名義で借金をしていた」場合には、返済義務が生じる可能性もある
- 相続放棄・限定承認は相続開始から3ヶ月以内に行う
- 親の借金の肩代わりを回避または軽減する方法として、「自己破産」「相続放棄」「限定承認」「時効援用」の4つの選択肢がある
目次
1.親の借金の返済義務はない
親の借金が判明した際、子供たちは返済義務があるのかと不安になることがあります。実際のところ、親の借金が判明しても、基本的には子供に返済義務はありません。それは、親の債務は親自身の責任であり、法律上、子供が負担する必要がないためです。
2.親の借金の返済義務があるケース
親の借金が判明しても、子供には基本的に返済義務はありませんが、以下の3つのケースでは、例外的に子供に返済義務が生じる可能性もあります。
- 親の借金を相続した
- 親の借金の連帯保証人になっていた
- 親が子供の名義で借金をしていた
それぞれについて解説します。
2-1.親の借金を相続した
親の借金を相続した場合、子供にはその返済義務が生じます。相続には、不動産や預貯金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれるためです。
相続放棄が可能な期間内であれば、相続放棄を選択することにより負担を避けられます。ただし、一度遺産を受け取ってしまうと、相続を取り消して相続放棄することは難しくなります。また、相続放棄の手続きを行う前に遺産に手を付けると、相続の意思があると見なされるため注意が必要です。
2-2.親の借金の連帯保証人になっていた
子供が親の借金の保証人や連帯保証人である場合、親が返済できなくなると子供が返済義務を負わなければなりません。その場合、子供が「保証人」か「連帯保証人」かによって、主張できる権利も異なるため注意が必要です。
保証人は、債権者から返済を求められた際に、まず親に請求するよう求める権利(催告の抗弁権)や、親に返済能力があることを証明して返済を親に要求する権利(検索の抗弁権)があります。また、保証人が複数いる場合、負担額を分割する権利(分別の利益)も認められます。
一方、連帯保証人にはこれらの権利がなく、親が健在であろうと亡くなっていようと、全額を返済しなければなりません。このため、連帯保証人は実質的に自分が借金を負っているのと状況は同じです。
2-3.親が子供の名義で借金をしていた
保護者が子供の名義を用いて負債を抱えた場合、その返済の責任所在は状況に応じて変わってきます。成人した子供が親に対して代理の権限を付与していた場合、その子供に返済の義務が生じます。しかし、そのような権限を与えていないにもかかわらず、無断で借り入れが行われた場合は、子供に返済の義務は生じません。
一方、18歳に満たない未成年の子供の場合、親には子の財産を管理する権限が認められています。そのため、親が子供の利益を目的として子供の名義で借り入れを行った場合、その返済の責任は子供に帰属するため注意が必要です。
3.親の借金の肩代わりをしないための方法
親の借金を肩代わりすることは、子供にとって大きな負担です。 この負担を回避または軽減できる方法として、下表の4つが考えられます。
自己破産 | 裁判所の承認を得て、全ての債務が免除される手続 |
相続放棄 | 被相続人から受ける予定の財産全てを放棄する手続 |
限定承認 | 相続する資産を一部に限定する手続 |
時効援用 | 債務の時効成立を主張することにより、債権者の請求から解放されるための手段 |
以下で、それぞれについて解説します。
3-1.自己破産
自己破産は、債務返済が困難な状況に陥った際の最終的な解決策の一つです。手続きを進めるには、弁護士や司法書士に相談し、裁判所への申立てることが必要です。裁判所の承認を得られれば、全ての債務が免除されます。
ただし、日常生活に不可欠な最低限の財産を除き、ほぼ全ての資産が差し押さえの対象となり、一定の期間は新たな借入やローンの利用が制限されます。自己破産は慎重に検討すべき選択肢であり、その影響を十分に理解した上で判断しなければなりません。
3-2.相続放棄
相続放棄とは、被相続人から受ける予定の財産全てを放棄する手続きです。相続放棄をすると、親の借金を肩代わりする必要がなくなる一方で、プラスの資産も受け取れません。したがって、負債が資産を上回る場合に有効な手段といえます。
通常、親が亡くなり、相続人として承継されることが判明した後、3ヶ月以内に手続きをしなければなりません。注意点としては、十分な財産調査を怠ると、後で高額な資産が発見された場合に不利益を被る可能性があります。また相続放棄により、次順位の相続人に権利が移ることで争いの種になるケースもあります。
弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、相続放棄のご相談を随時承っております。ご相談をお考えの方はぜひ無料相談をご利用ください。
3-3.限定承認
限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続する方法です。これにより、形見など特定の品物を手元に残しつつ、過大な債務負担を回避できます。
この手続きは、多額の債務が予想される場合や、将来的な債務発覚のリスクがある場合に有効です。ただし、清算完了までは財産処分に制限がかかり、複数の相続人がいる場合は、全員の合意が必要です。
限定承認にも期限があり、相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に手続きを完了する必要があります。そのため、早期の情報収集と慎重な判断が求められます。
3-4.時効援用
時効援用は、債務の時効成立を主張することにより、債権者の請求から解放される法的手段です。この手続きは、一定期間経過後に債務者が債権者に対して時効の成立を明確に伝えることで効力を持ちます。
時効の期間は債務の種類によって異なり、貸金業者からの借入れは5年、個人間の借金は10年です。ただし、これらの期間は2020年3月31日以前に開始した取引に適用されるため、2020年4月1日以降に発生した債務については、改正後の民法(「権利を行使できることを知った時から5年」「 権利を行使できる時から10年」のどちらか早い方)が適用されます。
4.親に借金があるか調べる方法
親の借金をあらかじめ知っておくことは、将来の相続問題を回避するために重要です。しかし、親が生存中に借金状況を確認することは、容易ではありません。ここでは、親の借金を調べるための方法について下記の4つを紹介します。
- 親本人や親戚・親の知人などに聞き取り調査する
- 信用情報機関に開示請求する
- 親の郵便物や通帳などを調査する
- 不動産の登記事項証明書や抵当権を確認する
これらの中から、状況に応じた調査を進めていきましょう。
4-1.親本人や親戚・親の知人などに聞き取り調査する
金融業者や信用情報機関に親の借金状況を確認することは、親が生きている間は基本的に困難です。金融機関や信用情報機関は、個人情報保護の観点から本人以外からの問い合わせには応じてくれません。
親の借金の実態を知るには、親に直接確認することが最も確実な方法です。
また、親の知人や親族に「親が誰かからお金を借りていたか」や「誰かの保証人になっていないか」をさりげなく尋ねてみることも一つの方法です。こうした情報が、親の借金状況を把握する手がかりになるかもしれません。
4-2.信用情報機関に開示請求する
亡くなった親の借金を把握する方法の一つとして、信用情報機関に情報開示請求をする方法があります。なお、この方法は親が存命中には利用できません。
代表的な機関としては、「株式会社シー・アイ・シー(CIC)」「株式会社日本信用情報機構(JICC)」「一般社団法人全国銀行協会」があり、各機関で情報開示請求の手続きが異なります。情報開示請求には、開示申込書や手数料、開示請求者と本人の関係を証明する確認書類などが必要です。
4-3.親の郵便物や通帳などを調査する
郵便物・通帳を確認することで、発見できるケースもあります。まず、銀行の通帳の入出金履歴を確認しましょう。そこに銀行や消費者金融の名前が記載されている場合、借金の可能性が高いと考えられます。次に、借用書や契約書などの書類も探してみましょう。
また、親に届く郵便物の中には、借金の証拠となるものが含まれていることもあります。例えば、金銭消費貸借契約書が見つかれば、借金の可能性が高いといえるでしょう。さらに、貸金業者からの督促メールや督促状、裁判所からの書類が届いていないかも注意深く確認することが重要です。
4-4.不動産の登記事項証明書や抵当権を確認する
親が土地や建物を所有している場合、その不動産に抵当権が設定されているかを確認することで、借金の有無を調べる方法があります。抵当権とは、銀行や金融機関が貸付をする際に、土地や建物に担保として設定する権利です。この権利を有する銀行や金融機関は、借金の返済が滞った際に抵当権が設定された不動産を売却して貸付金を回収します。
こうした抵当権などは、不動産の登記事項証明書によって確認が可能です。登記事項証明書は、インターネットの「登記情報提供サービス」や「登記・供託オンライン申請システム」で調べられます。
抵当権が設定されている場合、親に借金があると推測できます。ただし、建物に設定された抵当権は住宅ローンである場合も多く、親の死亡時に団体信用保険によって支払いが免除されているかもしれません。住宅ローンを組んでいるかどうかについて、契約書等で確認しておきましょう。
5.認知症の親が借金をしていたケースの注意点
親が借金をしていた場合、対処方法として債務整理や時効援用が考えられます。ただし、親が認知症を患っている場合には、これらの手続きは成年後見人が行わなければなりません。ここでは、親が認知症である場合のリスクを減らす方法や、成年後見人について解説します。
5-1.債務整理か時効で借金が減額や免除となる可能性がある
親が認知症を患うと、借金の管理や返済に支障が生じてきます。そのため、遅延損害金が増加し、債権者が子供に返済を迫ってくる可能性も考えられます。こうした際には、「債務整理」を検討してみましょう。
債務整理とは、借金の減額や免除、支払猶予を求める手続きです。具体的には、下表の4種類があり、状況に応じて適切な手段を選択します。
任意整理 | 裁判所などの公的機関を通さずに、直接業者と交渉して債務の支払い方法について合意を目指す方法です。弁護士や司法書士が債権者と話し合い、毎月の支払い額の減額を目指します。 |
自己破産 | 債務者が裁判所に申立てを行い、最終的に借金の返済義務を免除してもらう法的手続きです。この方法は、利息制限法に基づいて債務を圧縮してもなお多額の負債が残り、返済が不可能な状況に陥った際に検討されます。 |
個人再生 | 債務者が裁判所に再生計画を提出し、その認可を得ることで借金を減額できる法的手続きです。この方法は自己破産とは異なり、債務を完全に免除するのではなく返済可能な金額まで減額し、一定期間で返済することを目指します。 |
特定調停 | 簡易裁判所が仲介し、債務者と債権者が返済条件の緩和などを話し合いで合意する手続きです。特定調停では、任意整理と同様に債権者から取引履歴を開示してもらった後に、利息制限法に基づいて利息の引き直し計算を行い、減額された元本をもとに分割返済する形で返済計画を進めます。 |
親が認知症を患っていても、子供が勝手に親の債務整理や時効の援用を行うことは法律上認められていません。このような状況に対処するためには、成年後見制度の活用が不可欠です。成年後見制度については、以下で詳しく解説します。
5-2.債務整理や時効援用を行うには成年後見人が必要になる
成年後見人制度は、判断能力が低下した人を支援するための法的な仕組みです。知的障害、精神障害、認知症などにより、契約や手続きが困難な人を対象としています。
成年後見人制度を利用するには、家庭裁判所への申立てが必要です。審判を経て、成年後見人が選任されます。成年後見人には、家族や弁護士、司法書士などの専門家がなることもあります。
選任された成年後見人は、財産管理や身上保護を担当し、不利益な契約の取り消しも可能です。認知症の親の借金問題に関しても、成年後見人が代理として債務整理や時効の援用を行えます。
5-3.成年後見人の手続きの流れ
成年後見の申立ては、本人の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。この手続きには、いくつかの必要書類があり、まず医師の診断書が必要です。この診断書は、本人の判断能力に問題があることを証明するものです。
申立ての流れとしては、診断書の取得後に申立書を作成し、家庭裁判所に提出します。裁判所では、提出された書類の審理により申立ての正当性がチェックされ、裁判所は後見人の選任を決定します。
後見人は、本人や家族からの提案に基づいて選ばれることが一般的です。ただし提案がない場合は、裁判所が適任者を選びます。手続きには時間がかかるため、早めに対処するようにしましょう。
6.親の借金で困った際のポイント・注意点
親の借金で困った際の主なポイントと注意点は、以下のとおりです。
- 相続放棄までは親の財産に手を付けない
- 相続放棄は親が存命のときはできない
- 相続放棄・限定承認は相続開始から3ヶ月以内に行う
- 相続放棄の期限は延長できる
- 限定承認は相続人全員で行わなければならない
- 過払い金請求は返済してから10年以内に行う
これらの注意点を把握し、あらかじめ準備しておくことが重要です。
6-1.相続放棄までは親の財産に手を付けない
相続放棄を検討している場合、熟慮期間中および期間延長中は親の財産に関与しないことが重要です。借金の一部返済や預金の解約をした場合、それが単純承認とみなされ相続放棄の権利を失う可能性があります。
債権者に返済の猶予を求めるだけでも、単純承認と判断されるリスクがあるため注意しましょう。例外(生命保険、葬儀代など)はありますが、原則として相続放棄が確定するまでは相続財産に触れないことが賢明です。
うっかりミスで財産を扱ってしまい、相続放棄の機会を逃すことのないよう、細心の注意を払いましょう。相続に関する行動を起こす前に、専門家に相談することをおすすめします。
6-2.相続放棄は親が存命のときはできない
親の借金を回避する際の注意点として、生前の相続放棄はできないことを理解しておく必要があります。親に多額の借金があり、相続すればマイナスの資産が多いと予想される場合であっても、生前に相続放棄を行うことはできません。
相続放棄の手続きは家庭裁判所で行いますが、親が生きている間は受け付けてもらえない点に留意しておきましょう。
6-3.相続放棄・限定承認は相続開始から3ヶ月以内に行う
相続放棄や限定承認の手続きは、自分が関係する相続があることを知ってから3ヶ月以内に行わなければなりません。この期限を逃すと、法律上「単純承認」となり、親の資産と負債の全てを引き継ぐことになります。
相続が発生した際には迅速に財産状況を精査し、必要に応じて相続放棄や限定承認の手続きを検討するようにしましょう。
6-4.相続放棄の期限は延長できる
相続放棄の熟慮期間が3ヶ月では足りない場合、期間内に裁判所へ「相続放棄の期間伸長の申立て」をすることで延長が可能です。ただし、認められるには正当な理由が必要です。
被相続人との関係が疎遠な場合や他の相続人との連絡が困難、財産調査の長期化などの場合に認められます。ただし、仕事が忙しいなどの個人的な都合によっては却下されることもあるため注意が必要です。
6-5.限定承認は相続人全員で行わなければならない
限定承認は、相続人全員の合意が必要となる手続きです。この手続きを進めるには、全ての相続人が家庭裁判所での手続きに参加する必要があります。そのため、たった一人でも反対する相続人がいれば、限定承認はできません。
さらに、相続人の誰か一人でも単純承認をしてしまうと、他の相続人が望んでいたとしても限定承認はできません。このリスクを避けるためには、相続人間で事前に十分な話し合いを行うことが重要です。
6-6.過払い金請求は返済してから10年以内に行う
過払い金請求には時効があり、最後に取引した日から10年以内に請求しなければなりません。完済した借金の場合は「借金を完済した日」、返済中の借金の場合は「最後に返済をした日」が消滅時効の起算点となります。
時効を過ぎると、過払い金が発生していても回収できません。最後の取引日を確認するには、貸金業者から取引履歴を取り寄せる必要があります。これには時間がかかることもあるため、早めに準備をしておきましょう。
7.まとめ
本記事では親の借金について、返済義務の有無や肩代わりを避ける方法を解説しました。内容をまとめると、以下のとおりです。
- 親の借金が判明しても、子供には基本的に返済義務はない
- ただし、「親の借金を相続した」「親の借金の連帯保証人になっていた」「親が子供の名義で借金をしていた」場合には、返済義務が生じる可能性もある
- 相続放棄・限定承認は相続開始から3ヶ月以内に行う
- 親の借金の肩代わりを回避または軽減する方法として、「自己破産」「相続放棄」「限定承認」「時効援用」の4つの選択肢がある
親の借金に対する返済義務は、ケースによって異なります。親の借金を相続した場合、連帯保証人になっていた場合、または親が子供の名義で借金をしていた場合は、返済義務が発生することもあります。
肩代わりを避ける方法としては、自己破産・相続放棄・限定承認・時効援用などが有効です。親の借金の有無を調べるためには、「親本人や親戚への聞き取り」「信用情報機関への開示請求」「郵便物や通帳の調査」「不動産の登記事項証明書」「抵当権の確認」が役立ちます。
認知症の親が借金をしていた場合、債務整理や時効援用が可能です。ただし、成年後見人でなければ手続きができません。相続放棄や限定承認は、相続開始から3ヶ月以内に行う必要があり、その間は親の財産に手を付けないようにします。
これらの手続きは専門的で複雑なため、自分で行うのは難しいかもしれません。困難に感じる場合には、専門家である司法書士に依頼することをおすすめします。