自分の両親など大切な家族が高齢となり認知症などで判断能力が低下した時、本人を支援する公的な仕組みとして成年後見制度があります。この制度は一定の役割を果たしていると評価できますが、実際は使い勝手が悪く積極的な利用は避けられる傾向にあります。
その理由の一つに、成年後見監督人の存在やその費用面などで不安や心配を覚える親族の方が非常に多いということが挙げられます。
今回の記事のポイントは下記の通りです。
- 成年後見監督人は金融資産やアパート、駐車場など財産状況が多岐にわたる、親族関係に対立があるなど複雑な事案について家庭裁判所の判断で選任されることが多い
- 成年後見監督人が選任された場合、多くの場合には司法書士や弁護士など専門家が選任される
- 第三者後見監督人には報酬の支払いが必要
- 成年後見監督人は自由に解任できない
- 基本的には被後見人が生存中ずっと報酬の支払いが必要
- 任意後見は任意後見監督人が選任されたときから効力が生じるため、必ず任意後見監督人が選任される
この回では成年後見監督人の権限や費用、監督人が選任される場合の判断基準と実際の動向、選任された場合にどのようなデメリットがあるか詳しく解説していきますので、ぜひ参考になさってください。
目次
1.家庭裁判所が「必要があると認めるとき」に選任される成年後見監督人とは?
まずは成年後見監督人がどのような役職か、どんな人が選ばれるのか、また選任される目的などについて見ていきます。
1-1.成年後見監督人は専門家しかなれない?なぜ必要とされるのか
成年後見制度では判断能力が落ちた本人を成年後見人が支援しますが、もし成年後見人が財産の横領を考えたり、本人の支援を適切に行わなかった場合、要支援者である成年被後見人の保護がなされず、財産面、身体面で危険にさらされる恐れがあります。
そのような事態に備え、成年後見人を監督する役割を担うのが成年後見監督人です。
成年後見監督人は、被後見人、その親族又は後見人から申し立てからのほか、家庭裁判所が必要があると認めるときは職権で選任することができます。個別の事案や裁判所にもよりますが、成年後見監督人は司法書士や弁護士などの職業専門家が選ばれることがほとんどです。
具体的にどのような人物が選任されるかは最終的には裁判所の裁量で決められますが、金融資産やアパート、駐車場など財産状況が多岐にわたる、親族関係に対立があるなど複雑な事案について選任される傾向が高い状況です。最高裁判所事務総局家庭局の令和2年1月~12月の成年後見関係事件の概況によると後見開始,保佐開始及び補助開始事件(34,520件)のうち,成年後見監督人等(成年後見監督人,保佐監督人及び補助監督人)が選任されたものは1,138件であり,全体の約3.3%について選任されています。
成年後見監督人が選任されるのか否か、選任されるとしたら誰になるのかは決まってみないと分からず、このため親族の方は強い不安を覚えることになります。
1-2.成年後見監督人の欠格事由とは?
民法では成年後見監督人となることができない人物として以下の者が規定されています。
(民法852条、847条)
・未成年者
・家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
・破産者
・被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
・行方の知れない者
上記は成年後見人になれない人物について成年後見監督人に準用したものですが、加えて以下の者も監督人になることができません。
(民法第850条)
・後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹
特に民法850条の方に注目してもらいたいのですが、成年後見人を監督するのが役目ですので、これに近しい人物は排除する必要性が見て取れます。家族とは近しくない第三者を選任する必要があると考えられ、結果として身近な家族(後見人)vs見知らぬ第三者(監督人)という構図ができてしまいます。
2.成年後見監督人が任される仕事・役割とは?
ここでは成年後見監督人が行う仕事や権限について見ていきます。
2-1.成年後見監督人の仕事
民法に規定されている成年後見監督人の職務について、解説を加えながら見ていきます。
①後見人の事務を監督すること
後見人は被後見人の財産管理を行うために財産目録を作成するなどの仕事をしますが、後見監督人はその資料を確認して不正がないか、正しく後見業務が行われているかなどチェックします。
②後見人が欠けた場合に遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること
後見人が死亡するなどして本人の支援者が不在となった場合、家庭裁判所に対して新しい成年後見人の選任申し立てを行います。
③後見人が被後見人に代わって営業若しくは第十三条第一項各号に掲げる行為をする際に同意をすること
後見監督人がいる場合に、後見人が被後見人に代わって例えば借入、贈与、不動産の売買、新築、改築、大修繕など重要な財産を処分するには後見監督人の同意が必要です。
④急迫の事情がある場合に必要な処分をすること
後見人が病気などで一時的に後見業務を担えない事態となった場合や、後見人が一時不在などで職務を行えないときに、後見監督人が自ら必要な対応をします。
⑤後見人又はその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表すること
例えば本人の不動産を後見人が購入するような場面では、不当に安く購入すると本人の財産が減らされることになります。また、亡くなった方の遺産を誰が相続するか決める遺産分割協議において、相続人に該当する方が本人と後見人である場面では、遺産分割協議を後見人が自分に有利な協議を行うことができてしまいます。
このように本人と後見人の利害が相反する場面では、後見監督人が本人を代表して契約の適否を考えることになります。
2-2.成年後見監督人にはどんな権限があるの?
後見監督人は、必要があると認める時は後見人に対し、後見業務に関する報告を求めることができます。またもし後見人が不正を行っていると認めた場合は、家庭裁判所に対して後見人の解任を請求することもできます。
3.成年後見監督人が選ばれるケースとは?
後見監督人は必ず選任されるとは限りません。どんな場合に選任されるのか、選任された場合に拒否できるかどうか見ていきます。
3-1.後見監督人が選ばれるケース
以下のような事由があると後見監督人が選任されることが多くなります。
- 本人の流動資産が多い(概ね1000万円以上)
- 管理する財産のなかにアパートや駐車場、貸しビルなど収益不動産が多岐にわたる
- 後見人となる人物について親族内に不満や反対意見がある
- 遺産分割などで被後見人と後見人に利益相反が起きることが想定される
- 後見人が後見事務の遂行について不安がある
- その他家庭裁判所が必要と認める事由がある Etc
ただし選任されるか否か、どのような事由があれば選任されるかは最終的に家庭裁判所の判断に委ねられます。
3-2.後見監督人の選任理由は確認できる?
後見監督人が選任された場合、その理由を裁判所の方から示すことはありません。
「私はしっかり後見事務をやるつもりなのに、なんで監督されなきゃいけないの?」という疑問や怒りを感じる方が多いですが、どうしても理由を知りたいのであれば裁判所の担当官に直接聞いてみるしかありません。
3-3.後見監督人が合わなかったら解任できるか?
一度選任された後見監督人は、そりが合わないという理由で解任することはできません。不正行為や後見監督人としてふさわしくない行いがあるなどの理由があれば、被後見人本人やその親族が家庭裁判所に解任を請求することができます。
後見人は請求権限がありませんが、本人の親族であればその身分で請求が可能です。
不正行為等がなければ基本的には本人の生存中はずっと監督人の職にあるため、その間は以下で見る報酬の支払いも続くことになります。
4.成年後見監督人の手続き・報酬について
ここでは成年後見監督人の選任手続きや報酬について見ていきます。
4-1.成年後見監督人の選任された場合の手続き
家庭裁判所が必要と判断して後見監督人を選任する場合、被後見人やその家族、あるいは後見人等は特段なにかの手続きを取る必要はありません。
もし本人やその親族などが必要と感じて自ら後見監督人の選任を申し立てる場合、家事審判申立書という書類を用いて家庭裁判所に申し立てます。
【成年後見監督人(保佐監督人,補助監督人)選任の申立書】
https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_44/index.html
4-2成年後見監督人へ支払う報酬
後見監督人の報酬は、同人が家庭裁判所に報酬付与の申し立てを行うことで、成年被後見人の財産から支払われることになっています。つまり後見監督人が報酬付与の申し立てをしなければ実質的に無償となるわけですが、専門家がその職に就けば当然報酬を請求することになります。
後見監督人の報酬額については法律で特に決まっておらず、被後見人の財産の額や後見監督人が行った監督事務の内容に応じ、裁判所が適宜判断にして報酬額を決定します。
それでもある程度の目安があり、後見監督人が通常の職務を行った場合は管理財産額が5000万円以下の場合には月額1万円~2万円,管理財産額が5000万円を超える場合には月額2万5000円~3万円が目安になります。
ただし、後見人の事務に不正がありこれに対応するために監督事務の手間が特別増えたような場合や、その他監督事務が困難になる要因がある場合は報酬が増額されることがあります。
5.任意後見監督人との違いとは
似ているようで全く違う任意後見制度にも任意後見監督人という職務が存在します。双方の制度における監督人の違いについて見てみましょう。
5-1.任意後見とは?
成年後見制度(法定後見)は支援を要する本人の「保護」の目的を有し、家庭裁判所が成年後見人を選任します。
対して任意後見制度は要支援者が自らの意思で任意後見人となる人を指定し、必要な支援内容を決定、要請できる「契約」ベースの支援制度です。
任意後見制度は要支援者自らの意思が反映されやすく、自分が信頼できる人に、自分が必要とする支援を、必要になった時期にお願いできるのが特徴で、法定後見と比べてかなり融通を利かせた運用が可能です。
任意後見は契約ベースで運用されるため、有効な契約ができる状態でなければならないことから、本人の判断能力が落ちる前に必要な準備をしておきます。任意後見制度では契約によって身近な家族を任意後見人に指定でき、また本人の自己選択権を重視した柔軟な運用が可能なことから近年利用を考える人が増えています。
なお、弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、ご家族ごとにどのような形で任意後見を設計し、活用すればいいのか、無料相談をさせていただいております。任意後見契約書の作成、その後の運用の相談などトータルでサポートさせていただきますので、お気軽にお問合せください。
5-2.任意後見につく「監督人」の役割
任意後見制度においても任意後見監督人という職が存在し、こちらは制度上必ず選任されることになっています。
役割としては任意後見人の後見事務を監督し、適正に支援が行われているかどうかをチェックして、定期的に家庭裁判所に報告するのが主な任務です。他にも、急迫の事情がある場合に任意後見人に代わって必要な対応を行うなど、法定後見の監督人と似た職務を担います。
任意後見制度においては家庭裁判所が任意後見人を直接監督することは無く、任意後見監督人を介して間接的に監督するシステムとなっています。
要支援者本人←任意後見人←任意後見監督人←家庭裁判所
上記のような関係となり、例えば家庭裁判所は直接任意後見人を解任することはできません。
任意後見監督人の業務報告を受けて解任理由があることを把握した場合に、さらに任意後見監督人から出された任意後見人の解任請求に応じる形で解任の是非を検討することになります。
5-3.任意後見制度の手続き・報酬
任意後見制度においては、将来自分の判断能力が低下した時にどんな支援をして欲しいか本人が自分で考え、あらかじめその支援事務をお願いする人と契約を結ぶことになります。
まずは後見事務をお願いする人物を決定し、支援内容などを記した契約書を作成することになりますが、任意後見契約書は必ず公正証書によって作成する必要がある点に留意します。事前に結んでおいた任意後見契約の効力を有効化するには、本人の支援が必要になった時期に家庭裁判所で任意後見監督人の選任申し立て手続きが必要です。
任意後見事務を委任された人など一定の申し立て権利者が家庭裁判所で手続きを取り、任意後見監督人が選任されたことをもって、任意後見契約の効力が発動し、本人の支援事務が開始されることになります。
任意後見監督人については、任意後見人の配偶者など任意後見人となれない一定の人物を除き、申し立てる側が任意の人物を指定することができます。ただし実際に誰が選ばれるかは裁判所の裁量となります。任意後見人に親族が指定されていることが多いため、第三者の専門家が選任されることがほとんどです。
任意後見人の報酬については任意後見契約で自由に取り決めることができるので、契約当事者の話し合いで無報酬とすることもできますし、一定の報酬を支払うこともできます。任意後見監督人の報酬については法定後見の成年後見監督人の規制が準用されるため、同人が家庭裁判所で報酬付与の申し立てを行うことで支払われる仕組みです。
専門家が任意後見監督人に選任された場合、報酬の額も要支援者本人の財産の額、あるいは任意後見人の報酬額などを勘案し、無理のない範囲で裁判所が金額を決定します。管理財産額が5000万円以下の場合には月額1万円~2万円,管理財産額が5000万円を超える場合には月額2万5000円~3万円程度です。
6.親族が成年後見人になる際、成年後見監督人に期待されていること
法定後見制度の方に改めて視点を移すと、近年は成年後見監督人に期待される資質に変化が生じているとされています。法定後見においては多少誤った認識を持たれる方が多いようで、成年後見人を親族にしたいのに、家庭裁判所に認められないことが多いという情報も出回っています。
実際のところは少し違い、後見事務が面倒だったり、財産管理を行う信頼できる親族が周りにいないといった状況で最初から第三者の専門家を後見人として希望する事案が増えていることから、親族後見人の選任事案が減少しているように見えるだけのようです。令和2年2月から12月までの 後見開始、保佐開始及び補助開始の各審判事件のうち、親族が成年後見人等の候補者として申し立てられたものは、全体の約23.6%というデータが公表されています。
そのため、実際には親族後見人を希望すれば、財産が多岐にわたる、親族の反対があるなど特段の事情が無ければ親族後見人が選任されるケースの方が多いので、この点は一つ安心できます。ただし、財産規模や親族の反対などがある場合には親族後見人を第三者的目線で監督する必要があり、そのために成年後見監督人に司法書士、弁護士などの第三者が選任されることが多くなります。
これは、本来の仕事である「監督」だけでなく、指導や助言、相談対応などの実務が期待されるようになってきたことも大きく関係しています。
例えば要支援者の財産調査の方法、後見人として必要な届出、保険金請求の仕方、家庭裁判所に対する報告書の作成方法など実務的なアドバイスに対応できる人材が求められるようになってきています。
こうした実務手続きに詳しいのは、やはり普段から仕事としてそのような職務を継続して行っている専門家です。そのため、そうした実務に詳しい司法書士や弁護士が監督人に選ばれることが多くなるわけです。
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8.まとめ
この回では成年後見監督人について取り上げ、その仕事や権限、費用などについて見てきました。本章のポイントまとめると以下のようになります。
- 成年後見監督人は金融資産やアパート、駐車場など財産状況が多岐にわたる、親族関係に対立があるなど複雑な事案について家庭裁判所の判断で選任されることが多い
- 成年後見監督人が選任された場合、多くの場合には司法書士や弁護士など専門家が選任される
- 第三者後見監督人には報酬の支払いが必要
- 成年後見監督人は自由に解任できない
- 基本的には被後見人が生存中ずっと報酬の支払いが必要
- 任意後見は任意後見監督人が選任されたときから効力が生じるため、必ず任意後見監督人が選任される
成年後見制度は本人やその家族の意思が反映されにくいため、利用勝手はよくありません。本人の判断能力が低下する前であれば任意後見制度を使って柔軟な支援を運用することができるので、こちらの方がお勧めできます。
ただし任意後見も専門家のアドバイスの元で進めないと不利益を被ることがあるので、利用を検討する場合は必ず専門家の意見を聞きながら進めるようにしてください。