相続は、多くの人にとって一生に一度の大きな出来事です。しかし、その中でも「相続放棄」は特に注意が必要な複雑な手続きの一つであるため、多くの人が迷いや不安を感じることでしょう。
相続放棄とは、相続財産を受け取る権利を放棄する行為ですが、この手続きには多くの落とし穴が存在します。特に、自分で手続きを行う場合には、法的な知識や手続きの流れをしっかりと理解しておく必要があります。
今回の記事のポイントは下記のとおりです。
- 相続放棄をやるなら、財産調査や相続人を事前に確認しておくと効果的
- 相続放棄は、問題なくいけば1か月半ほどで手続きできるため、それを逆算して準備する
- 相続放棄をするためには、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で手続きを行う
- 相続放棄をできるのは原則3ヶ月以内で、手続き期限を延長できるケースは限られる
- 相続放棄をした場合でも、引き続き遺産の管理責任が生じることがある
- 遺産の売却や故人の借金の返済を行うと、相続放棄ができなくなる可能性がある
この記事では、相続放棄の手続きを自分で行う方向けに、具体的なステップと注意点を解説します。相続放棄の手続きは一度きりの重要な選択です。そのため、事前にしっかりと準備をして、後悔のない選択をするためのガイドとしてお役立てください。
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目次
1.自分で相続放棄をするかどうかの判断基準
2000年に約11.2万件だった相続放棄の件数(受理総数)は、2019年には約23.7万件になり2倍以上に増えました。相続放棄をすべきケースが増え続けており、相続放棄に関する知識が今まで以上に重要になっています。
1-1.そもそも相続放棄を検討すべきケースとは?
相続放棄をするかどうかは個々の事案ごとに判断が必要ですが、相続放棄をするケースとは例えば以下のような場合です。
- 亡くなった方に借金がある場合
- 相続トラブルに巻き込まれたくない場合
- 不動産を相続しても負動産になりそうな場合
まず、相続の対象になる財産には故人の借金などマイナスの遺産も含まれます。現預金などのプラスの遺産だけではありません。遺産に借金が含まれてプラスの遺産額を上回る場合、相続人が負債を背負わないためには相続放棄の検討が必要です。
また、相続トラブルに巻き込まれたくない場合に、相続放棄を選択する人もいます。相続放棄をすれば遺産分割協議の参加対象者ではなくなり、他の相続人と関わらずに済むからです。
相続しても困るだけの財産が遺産に含まれる場合も、相続放棄の検討が必要になります。例えば、不動産を相続しても使い道がなく、固定資産税などの税金や維持費だけがかかる負動産になりそうなケースがその一例です。
1-2.自分で行っても問題がないケース
相続放棄の手続きは、基本的には家庭裁判所で行いますが、特に複雑な状況やトラブルがない場合は、自分で手続きを行っても問題ありません。具体的には、故人の財産状況が明確で、負債が少ない場合、または相続人が全員で相続放棄に同意している場合などが該当します。ただし、手続きには期限があるので、その点は注意が必要です。
1-3.専門家に任せた方がいいケース
一方で、以下のような状況では専門家に相談することをおすすめします。
- 財産状況が不明確で、負債が存在する可能性がある。
- 複数の相続人がいて、その意見が分かれている。
- 相続税の計算や遺産分割が複雑な場合。
専門家に相談することで、法的な問題をクリアにしながら、最も適切な手続きを行うことができます。
2.自分で相続放棄を行うメリットとデメリット
相続放棄の手続きは、専門家に依頼することが一般的ですが、自分で行う選択肢も十分に考慮する価値があります。この章では、自分で手を動かして相続放棄の手続きを行いたい方は、是非、この章をチェックしてください。
自分で行う場合のコスト面でのメリット、手続きの自由度、そしてその反面で考慮すべきリスクや手続きの難易度など、自分で手続きを進める際の貴重な参考になれば幸いです。
2-1.自分で相続放棄するメリット
専門家への依頼費用の節約
相続放棄の手続きを専門家、特に弁護士や司法書士に依頼する場合、その費用は数万円から十数万円にも上ることがあります。相続放棄は、基本的に相続財産では賄えず、相続人個人の支出になります。ですから、自分で手続きができるのであれば、主に書類作成や裁判所への申請料などの最低限の費用しかかからないため、メリットが高いと言えるでしょう。
費用については別の章で書いてあるのでご確認ください。
臨機応変な対応が可能
相続放棄は、一人の相続人が手続きをすると、その相続権は次の順位の相続人に移ります。そのため、家族構成や財産の状況によっては複雑な問題が生じることもあり、その場合にはご自身で手続きを行っておくと柔軟な対応が可能になります。専門家に依頼していると、その都度相談し、指示を仰ぐ必要があり、手続きが煩雑になり負担になることもあります。
このように、自分で手続きを行う場合は、家族間でのコミュニケーションが密で、状況に応じて素早く行動できるというメリットがあります。
デリケートな事情などのプライバシーを保護する
相続放棄の理由は非常に個人的でデリケートな場合が多く、特に借金や家族間の不和など、第三者に知られたくない情報が関わっている場合があります。このような状況では、専門家に詳細を開示すること自体が精神的な負担になることが考えられます。
自分で手続きを行うメリットとして、このようなプライバシーの保護が挙げられます。専門家に依頼する場合はその費用や手続きの透明性も考慮する必要がありますが、自分で手続きを行うことで、これらの情報を第三者に開示することなく、自分自身でコントロールできる点は、精神的な安堵感につながるでしょう。
ただし、法的な手続きは複雑であり、専門的な知識が必要な場合もあるため、プライバシーを保ちつつも正確な手続きを行うバランスが求められます。
2-2.自分で相続放棄するデメリット
期限注意!「放棄期限3ヶ月」のリスク
相続放棄の手続きは、相続開始からわずか3ヶ月の短期間で完了させる必要があります。この期限があるため時間的なプレッシャーを感じてしまう方も少なくありません。必要な情報収集や正確な判断が困難になったり、短期間での多くの手続きをすると、ミスをしてしまう可能性も高いです。
これらのリスクを不安に思うなら、専門家に依頼するといいと思います。そうすることで、大幅にストレスやリスクの軽減ができます。専門家は法的手続きに精通しており、短い期限内でも効率よく進める方法を知っています。また、専門家の協力で、手続きのミスや不備を未然に防ぐことができ、安心して進められます。
修正の余地がない「一度きりの申請」に注意
相続放棄の手続きは、一度しか申請できません。もし不備があれば、その修正をすることができない手続きです。このような状況では、全ての責任が自分に降りかかり、最悪の場合、相続放棄ができなくなる可能性もあります。
このリスクは、専門家に依頼することで大幅に軽減できます。専門家は手続きに精通しており、不備やミスを未然に防ぐサポートを提供できます。
相続人間のトラブル調整が大変
相続放棄を行うと、相続順位が変わることで他の相続人との間にトラブルが起こる可能性が高まります。例えば、相続財産の分配に不満がある場合や、未知の借金が発覚した際に家族間で意見が分かれることが考えられます。このような状況で自分で手続きをする場合、家族内でのこのような問題を自分で解決しなければならず、それは非常に手間と時間がかかる作業になるので、トラブルがないご家庭であれば、ご自身で手続きするのもいいでしょう。
専門家に依頼すると、家族間での意見対立をスムーズに解決するためのアドバイスやサポートが得られ、事前に問題を防ぐことができます。
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3.自分で相続放棄する際の手続き方法
相続放棄は前章でもお伝えした通り、相続の開始があったことを知った日から「3か月以内」という期限があります。ですから、手続きにかかる時間を逆算した上で、相続放棄をするかどうかを検討する時間を確保する必要があります。
問題なくいけば1か月程度で手続きは完了しますが、多くの人は仕事をしながらの手続きとなりますので、1か月半くらいを想定しておくとよいでしょう。3か月ギリギリで申立てをするのも怖いと思うので、相続から1か月以内には財産調査などを終えられると理想的です。
3‐1.財産調査後、相続放棄をするか検討する
相続開始後に相続人がやるべきことのひとつが、故人の遺産にどんな財産が含まれるのかを調べる「相続財産調査」です。遺産にどんな財産が含まれるのかを確認し、多額の借金が含まれるようなケースでは相続放棄を検討することになります。
遺言書が残されている場合
遺言書が残されているとその後の手続きの流れが変わる場合があり、また財産目録を確認できれば遺産を把握しやすくなるので、まずは遺言書が残されていないか確認しましょう。公証役場や法務局で照会を行い、自宅などに遺言書がないかどうかも確認してください。(自宅などで遺言書が見つかった場合は検認が必要なので勝手に開封してはいけません)
定期的な引き落としがある場合
遺品整理を行って金融機関の通帳やカードが見つかれば、どこの金融機関に口座があるのかが分かります。通帳の履歴に定期的な引き落としがあって借金の返済をしていた形跡があれば、未返済分が残されている可能性があるので注意が必要です。信用情報機関へ照会手続きを行い、金融機関などからの借り入れの有無や未返済額を確認してください。
例えば、遺品整理をする中で固定資産税の納税通知書が見つかれば、故人が所有している不動産が分かります。相続財産調査には手間も時間もかかりますが、遺産の把握漏れがないように確認作業を丁寧に進めることが大切です。
3‐2.費用を準備する
相続放棄を自分で行う場合、いくつかの費用が発生します。まず基本となるのは、相続放棄申述人一人につき800円の収入印紙が必要です。この印紙は、申述書に貼り付けて裁判所に提出するためのものです。
次に、連絡用の郵便切手も必要です。この郵便切手の額面は、裁判所によって異なる場合があります。一般的には400~500円程度とされていますが、具体的な額は管轄の家庭裁判所に確認が必要でしょう。
さらに、以下のような必要書類の取得費用も考慮する必要があります。
亡くなった方の死亡の記載のある戸籍謄本:約750円
亡くなった方の住民票除票(または戸籍の附票):約300円
申述する人(相続放棄を申し込む人)の戸籍謄本:約450円
これらを合計すると、自分で手続きを行う場合の費用は大体3,000~5,000円程度になります。
3‐3.相続放棄に必要な必要書類の収集・作成【最低1日~数週間】
後述の【相続放棄申述書に添付する書類】という表でも記載がある通り、相続放棄手続きでは戸籍謄本を集める必要があります。兄弟の借金を相続放棄する場合など、一定の場合には被相続人の出生から死亡までを集める必要があります。
一つの役所で収集できれば1日ですみますが、本籍地を転々と移転をしている場合、様々な地域の役所に戸籍の請求をする必要があるため、場合によっては想定以上に時間がかかるということを知っておきましょう。必要書類については第4章で詳しくお伝えしています。
3‐4.申述書を裁判所に提出【1日】
相続放棄の申述書を作成し、必要書類と一緒に被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。
3‐5.回答書を返送する【2週間程度】
申立てをすると、約10日後に照会書・回答書が家庭裁判所から送られてきます。
回答書は相続放棄が本当に申請者本人の意思によるものなのかを確認するための書類です。本当に自分の意思で行っているのか確認のために尋ねられる事項がいくつかあるので、その書類に記入したうえで返送してください。
3-6.相続放棄申述受理通知書の確認【10日程度】
家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送付され、こちらが届けば正式に相続放棄が認められたことになります。この通知書は相続放棄したことを証明する大切な書類です。紛失した場合でも再発行はできません。なくさないように保管してください。
「相続放棄申述受理通知書」と「相続放棄申述受理証明書」の違い
なお、相続放棄申述受理通知書と似た名前の書類に、相続放棄申述受理証明書という書類があります。相続放棄したことを証明する点では通知書も証明書も同じですが、証明書を取得するには発行手続きが必要です。証明書は故人の債権者から提示を求められたときなどに使いますが、通知書のように発行申請をしなくても裁判所から届くわけではありません。
3‐7.相続放棄後に必要になる手続きもある
「相続放棄をすれば相続に一切関わらずに済む」と考えがちですが、実は相続放棄をした後でも一定の手続きが必要になる場合があります。
故人にお金を貸していた債権者から返済を求められても、相続放棄をしていれば返済の義務はありません。しかし、債権者からすれば、その人が本当に相続放棄をしているのか、相続放棄をしておらず借金の返済を請求できる人なのか、しっかりと確認する必要があります。
銀行など故人の債権者から相続放棄申述受理証明書の提出を求められることがあるので、その場合には裁判所で発行手続きを行いましょう。手続きを行う裁判所は、相続放棄の手続きをした家庭裁判所(故人の最後の住所地の家庭裁判所)です。
また、他の相続人が遺産相続の手続きをする際、相続放棄をした人がいると相続放棄申述受理証明書が必要になることがあります。他の相続人から証明書の提出を求められた場合も、裁判所で発行手続きを行って渡すようにしてください。(ただし相続放棄申述受理証明書は相続放棄者本人だけでなく、他の相続人や債権者などの利害関係人でも発行できます)
以上が一般的な相続放棄の一連の手続きの流れですが、家庭裁判所によっては変わる場合がありますので、詳細は家庭裁判所にご確認ください。
4.【重要】相続放棄の期限とその前の準備
相続放棄の手続き、簡単そうに思えますが、実は期限が厳しく、準備も必要です。この記事では、自分で手続きを行いたいと考えているあなたに、相続放棄の期限とその前に必要な準備について詳しく解説します。期限を逃さないよう、しっかりと事前準備をしておきましょう。
4-1.相続人は誰か確認しておく
相続放棄を考える前に、まずは相続人が誰なのかを確認しておくことが重要です。なぜなら、相続放棄をするとその相続人は法的に「存在しなかったもの」とみなされ、次順位の相続人に相続が引き継がれるからです。このような状況が生じた場合、次の相続人にその事実を伝えないと、家族間でのトラブルが起こる可能性が高まります。
さらに、もし相続人全員が相続放棄をした場合、遺産の管理責任が問題になることも考えられます。このようなリスクを回避するためには、事前に相続人が誰なのかを確認し、影響を受けそうな人にその情報を共有しておくことが有用です。
事前に相続人を確認しておくことで、後で起こる可能性のあるトラブルを未然に防ぐことができます。また、相続人間での調整や共有もスムーズに行えるでしょう。
4-2.借金や預貯金などの財産調査をする
相続放棄を検討する場合、事前に財産状況をしっかりと把握しておくことが非常に重要です。特に、相続が始まってからでは、財産調査に時間がかかる可能性があり、その結果、相続放棄の期限内に適切な判断と手続きを行うことが難しくなる場合があります。
事前に財産状況を調査しておくことで、相続財産がどれだけの価値を持っているのか、または借金がある場合その規模がどれほどかを明確に知ることができます。このように事前に体像を把握することで、後悔なく相続放棄をするかどうか考えられます。
銀行・証券会社:通帳の記帳または残高証明書の発行
銀行や証券会社には、通帳の記帳や残高証明書の発行を依頼することで、現金資産の状況を確認できます。これは相続財産の一部となるため、その価値を把握するためには欠かせない手続きです。
不動産:固定資産税課税明細書の確認または固定資産評価証明書の取得
不動産の価値を知るためには、固定資産税課税明細書や固定資産評価証明書を確認することが必要です。これにより、不動産の市場価格や評価額を把握することができます。
貴金属や宝飾品等:精通者意見価格等の取得
貴金属や宝飾品などの価値を正確に知るためには、専門家の意見を求めることが有用です。これにより、相続財産の全体像をより正確に把握することができます。
信用情報機関に開示請求
信用情報機関に開示請求を行うことで、故人が持っていた借金やローンの状況を確認できます。これは、相続放棄を考慮する際に非常に重要な情報となります。
その他郵便物・メールの確認(電気や水道の請求書など)
故人の郵便物やメールを確認することで、電気や水道などの継続的な支出も把握できます。これも相続放棄の判断に影響を与える可能性があります。
4-3.相続放棄の期限を確認する
相続放棄には厳格な期限があるため、その期限を事前に確認しておきましょう。特に相続放棄は短い期間内に多くの手続きを完了させる必要があるため、期限を把握することで計画的に進められます。
期限を明確にしておくと、手続きの順序や進捗状況を効率的に管理できます。例えば、自分で相続放棄の手続きを行う場合、進捗を確認しながら「予定より進んでいるのか、遅れているのか」を判断できます。これにより、手続きがスムーズに進むか、追加の対応が必要かを早めに知ることができます。
総じて、期限を事前に確認しておくことで、焦りなくかつ確実に相続放棄の手続きを進めることが可能となります。
期限ぎりぎりだったら、相続放棄期限の延長をする
もし相続放棄の期限が近いけれど、財産の調査に時間がかかると感じたら、裁判所に期限を延ばしてもらう申請ができます。ただ、この申請をするにはしっかりとした理由が必要です。
単に「迷っているから」ではダメです。新型コロナウイルスの影響で遅れが出た場合は、期限延長が認められる可能性もあります。詳しくは法務省のウェブサイトで最新情報をチェックしてください。
例外的に、期限が過ぎても相続放棄ができる特別なケースもありますが、それはかなりレアなケースです。だからこそ、期限内にしっかり手続きを進めることが大切です。
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5.相続放棄手続きで必要な書類
5-1.相続放棄で基本的に必要な書類とは?
自分で相続放棄の手続きを行う場合、以下の書類が基本的に必要です。各書類の用途と入手方法も併せて説明します。
(1)相続放棄申述書
この書類は、申述人が相続放棄を行うために家庭裁判所に提出するものです。被相続人や相続人の基本情報、放棄する理由、相続財産の概要などが記載されます。書式は最高裁判所のホームページからダウンロード可能です。
出典:裁判所HP
相続放棄に必要な書類は、誰が相続放棄をするかによって異なる!
手続きを行う家庭裁判所を特定するために必要な書類です。住民票除票は、被相続人が亡くなった場合や転出した場合に発行されるものです。戸籍の附票は、本籍地の市区町村が保管している、被相続人の住所変更履歴が記載された書類です。
(3)申述人の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
申述人(手続きを行う人)と被相続人との関係を証明するために必要です。この書類は、申述人の本籍地の市区町村で取得できます。手数料は一通450円程度です。
(4)収入印紙 800円
申述書に貼り付けるための収入印紙です。一人につき800円が必要です。
(5)郵便切手
家庭裁判所からの通知に使用する郵便切手を同封する必要があります。額は裁判所によって異なるため、事前に確認が必要です。
これらの書類は、自分で相続放棄の手続きをする際に必須です。手続きは複雑で失敗が許されないので、各書類をしっかりと確認しながら進めることが大切です。
5-2.誰が相続放棄するかで異なる書類一覧
誰が相続放棄を行うのかによって必要な書類が異なるため、自分で手続きをするということは、このように、添付する書類の判断をご自身で行う必要があります。そのため、各書類が正確であるかをしっかりとチェックすることが重要です。
【相続放棄申述書に添付する書類】 |
◇ 被相続人の配偶者が相続放棄する場合 |
・被相続人の住民票除票又は戸籍附票 ・相続放棄をする人の戸籍謄本 ・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
◇ 被相続人の子又はその代襲者(孫、曾孫等)が相続放棄する場合 |
・被相続人の住民票除票又は戸籍附票 ・相続放棄をする人の戸籍謄本 ・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・申述人が代襲相続人(孫、曾孫等)の場合は、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
◇ 被相続人の父母・祖父母等(直系尊属)が相続放棄する場合 |
・被相続人の住民票除票又は戸籍附票 ・相続放棄をする人の戸籍謄本 ・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している人がいる場合は、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被相続人の直系尊属に死亡している人(相続人より下の代の直系尊属に限る)がいる場合は、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
◇ 被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(甥、姪)が相続放棄する場合 |
・被相続人の住民票除票又は戸籍附票 ・相続放棄をする人の戸籍謄本 ・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している人がいる場合は、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・申述人が代襲相続人(甥、姪)の場合は、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
5-3.状況によっては上申書を求められることも
一般的に、相続放棄の手続きには上申書は必要ないとされています。裁判所のホームページで提供されているフォーマットに従い、相続放棄申述書を作成して提出すれば、通常はそれで十分です。
しかし、特別な事情がある場合には、上申書が求められることがあります。具体的には以下のような状況です。
- 3ヶ月の期間が経過してからの相続放棄
3ヶ月以上経過した後に相続放棄をする場合、その理由を詳細に説明する必要があります。 - 被相続人との関係が疎遠であった等、特別な事情がある場合
例えば、被相続人が亡くなったことを遅く知った場合、その理由(疎遠だった、情報が届かなかった等)を上申書で説明する必要があります。 - 最後の住民票が廃棄され取得できない、再転相続人による相続放棄など
もし、上申書もご自身で提出しようと考えているのであれば、上記についてより具体的かつ明確に理由や根拠を書く必要があります。例えば、「生活保護を受けていた」や「財産が見つからなかった」などが該当します。A4サイズ1枚でOKです。
ただし、上申書が不十分だと申述は受理されませんし、再提出もできません。不受理の場合、即時抗告が唯一の救済措置です。だから、上申書は慎重に作成する必要があるものなので、自分で作成するのが難しい場合は、専門家に依頼することを強くお勧めします。
なお、弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、相続放棄に必要な書類の収集、書類の作成、申立書の提出代行など、無料相談をさせていただいております。相続放棄に必要な一連の手続きのアドバイスと手続きのサポートをさせていただきますので、お気軽にお問合せください。
6.自分で相続放棄をする際の注意点
6-1.財産処分行為に要注意!相続放棄が不可能に
売却など遺産を処分する行為をしてしまうと、遺産を相続して自分のものにすることを認めたことになります。この場合は3ヶ月以内であっても相続放棄はできなくなり、遺産を相続しなければいけません。
財産処分行為に含まれる行為には、一般の方がイメージするよりも多くの行為が該当するので注意が必要です。例えば遺品整理をする中で見つかった財産を持ち帰っただけで該当する場合がありますし、借金を一部でも返済する行為も遺産の処分行為にあたります。
そのため相続放棄をする可能性が少しでもある場合には、遺品には手を付けないほうが良いでしょう。遺産の取扱いでは専門的な知識が必要になるので、迷った場合は弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。また、相続放棄と費用の支払いについて以下の記事で解説しているので、ぜひ参考にしてください。
6-2.相続放棄後の撤回は原則としてできない
相続放棄ができる期間は3ヶ月ですが、この期間内であれば相続放棄の撤回まで自由にできるという意味ではない点に注意が必要です。相続放棄の申請が裁判所で受理されると原則として撤回ができず、3ヶ月以内であっても撤回はできません。撤回ができるのは他人から脅迫されて相続放棄をした場合などに限られます。
相続放棄が相続関係に影響する重要な手続きであることは既に解説した通りですが、その撤回もまた権利関係に影響を及ぼしかねず、原則として認めるべきではないからです。
なお、相続放棄の申請をして受理されるまでの間であれば、申請自体を取り下げることはできます。裁判所に受理される前であれば、単なる取り下げであって撤回にはあたりません。
6-3.他の相続人の相続放棄にも注意が必要
相続が開始した際には、他の相続人の相続放棄にも注意が必要です。例えば、元々自分が相続人ではなくても、本来の相続人が相続放棄をして自分が相続人になることがあります。そのため、相続開始後には相続権の順位を把握して「本来の相続人が相続放棄をした場合に自分が相続人になる可能性はないか」や「借金の相続権が自分に来ることはないか」を確認したほうが良いでしょう。
また、自分が本来の相続人にあたり相続放棄をする場合も、他の相続人の相続放棄の有無に注意が必要です。他の相続人が遺産を相続する場合は良いのですが、実は自分以外の相続人もすべて相続放棄をしていると、前述のとおり相続放棄後でも財産管理責任が生じます。
例えば、老朽化した実家の建物を相続しないために相続放棄をした場合でも、財産管理義務が生じていれば、倒壊や害虫被害、火災などが発生した際には責任を問われかねません。相続放棄によって相続と無縁になるとは限らない点は押さえておくようにしてください。
6-4.放棄しても財産管理責任が生じることがある
相続放棄をした者の財産管理責任について、民法では以下のように規定されています。
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条第一項相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
つまり、相続放棄をして他の人が新たに相続人になった場合でも、自分が相続人になったことを新たな相続人が気付いていなければ相続放棄者が遺産の管理責任を負い続けます。
また、すべての相続人が相続放棄をしたケースも注意が必要です。相続人全員が相続放棄をして遺産の管理者が不在になると相続財産管理人を選任することになり、選任されるまでの間は相続放棄者が引き続き財産管理を行わなければいけません。
相続財産管理人を選任するためには家庭裁判所で手続きが必要で、選任の申立てをできるのは利害関係人や検察官です。被相続人の債権者などが申立てをする場合もありますが、他の利害関係者が誰も申立てをしなければ、相続放棄者自身が申立てを行うことになります。
相続財産管理人の費用について
申立ての際には官報公告料などいくつかの費用がかかり、その中でも高額になることがあるのが予納金です。予納金は財産管理のための費用に充てられるもので、かからない場合もありますが100万円程度かかることもあります。相続放棄をして借金などを相続せずに済んだとしても、相続放棄自体で費用負担が生じる可能性がある点には注意してください。
6-5.未成年者、被後見人の相続放棄では利益相反に注意
相続放棄を考えているけど、未成年や被後見人が関わる場合、注意が必要です。特に、その法定代理人が他の相続人だと、利益がぶつかる(=利益相反)可能性があります。たとえば、親が自分と未成年の子供の代理をする場合、子供の利益と親の利益が対立することがあるのです。
このような場合、法定代理人だけで相続放棄はできません。家庭裁判所の許可が必要です。この許可を取るのは時間と手間がかかることが多く、許可が出ない場合もあります。
未成年や被後見人がいた場合の相続放棄手続きとは?
未成年や被後見人が相続人の場合、特別代理人が必要になることがあります。特に、親権者が他の相続人である場合、利益相反の可能性が高いです。この特別代理人は、裁判所に請求して選任します。
手続きは、子の住所地の家庭裁判所で行い、800円の手数料と関係者の戸籍謄本、遺産分割協議書案などが必要です。裁判所は、未成年者の利益を最優先に考え、適切な特別代理人を選びます。多くの場合、親権者が推薦する人が選ばれます。
特別代理人は、選任後に未成年者の代理として遺産分割協議を行い、署名と押印をします。ただし、特別代理人は未成年者の利益を守る責任があり、不適切な行動には法的責任が伴います。
未成年や被後見人がいる場合の相続放棄は、いくつかの注意点があります。自分で手続きをするなら、これらのポイントを理解しておく必要があります。わからないことがあれば、専門家に相談するのも一つの方法です。確実な手続きをするためには、しっかりとした知識と注意が必要です。
6-6.相続放棄をしてもは生命保険金は受け取りができる
相続放棄を選択すると、一般的には被相続人が所有していた財産を全て放棄することになります。しかし、生命保険金や遺族年金については、この一般的なルールからは例外です。なぜなら、これらは相続財産に含まれず、受取人や受給権者の「固有財産」として扱われるからです。
この特別扱いの背景には、生命保険金や遺族年金が相続人に直接支払われるため、相続財産とは別に管理されるという点があります。例えば、夫が契約した生命保険の受取人が妻であれば、その保険金は妻の固有財産となります。
さらに、もし亡くなった人が借金を抱えていたとしても、相続放棄を行うことでその借金を引き継ぐリスクを避けつつ、生命保険金だけは受け取ることができます。そして、その保険金を借金返済に使う義務もありません。
このような知識を持っておくことで、自分で相続放棄の手続きを行う際にも安心感が増します。生命保険金や遺族年金は、相続放棄をしても失われない貴重な資産です。この点を理解しておくことで、手続きがよりスムーズに進むでしょう。
7.自分で相続放棄ができるか知りたい方は、まず無料相談へ
当サイトでは、どんな形で相続放棄の手続きができるのか、ご家庭の状況に応じて相続放棄の受理されるかどうかの可能性も含めて、無料相談が可能です。累計4000件を超える相続・家族信託相談実績をもとに、専門の司法書士・行政書士がご連絡いたします。
相続放棄を進めていくにあたって、どんな対策が必要か、何ができるのかをご説明いたします。自分の家族の場合は何が必要なのか気になるという方は、ぜひこちらから無料相談をお試しください。
8.専門家に依頼する場合と自分で行う場合の比較
相続放棄、自分で手続きするメリットは確かにありますが、専門家に依頼する場合の安心感も無視できません。費用、手間、リスクをどう評価するのか、専門家の力を借りる選択肢を総合的に比較することができます。
8-1.専門家に依頼する場合の費用
専門家に依頼する場合の費用は、司法書士と弁護士で異なります。
司法書士の場合
一般的に基本費用として5万円程度が相場です。さらに、戸籍などの必要書類の取得代行には1通あたり約2000円の手数料がかかることが一般的です。ただし、司法書士には家事事件の代理権がないため、一部の手続きは自分で行う必要があります。
弁護士の場合
基本費用が10万円程度となることが多いです。この費用には、法的アドバイスや相談料も含まれる場合があります。特に、訴訟が起きる可能性がある場合は、弁護士を選ぶことをおすすめします。
専門家に依頼する場合は費用がかかりますが、手続きがスムーズに進む可能性が高いです。自分で行う場合は費用を節約できますが、手続きの複雑さやリスクも自分で管理する必要があります。どちらの選択も一長一短がありますので、自分の状況に合った方法を選ぶことが重要です。
8-2.専門家に依頼する場合のメリット
専門家に依頼する場合の費用は、司法書士と弁護士で異なります。
戸籍収集や裁判所提出書類の作成を任せられる
相続放棄をする際には、多くの書類が必要です。それぞれの書類は異なる場所で取得する必要があり、さらには3カ月という短い期限内に手続きを完了しなければなりません。この期限を過ぎると、借金も含めてすべてを引き継いでしまうリスクがあります。
必要な書類には、亡くなった人の住民票、自分の戸籍謄本、そして特定の申請書が含まれます。特に戸籍謄本は、出生地の自治体でしか取得できないため、遠くに住んでいる場合は手間がかかります。
専門家に依頼すると、これらの書類の収集や申請書の作成を代行してもらえます。3カ月という限られた期間内で、手続きの手間や失敗のリスクを減らすことができるのは、非常に大きなメリットです。
期限が過ぎたり複雑な状況でも安心の対応
相続の状況は単純でないことが多く、特に財産が複雑だったり、相続人が多数いる場合は、手続きが一層複雑になります。さらに、相続放棄の期限(3カ月)が過ぎた場合でも、一度しか申請ができない相続放棄では、慎重に手続を行う必要があります。これらの状況では、法的なリスクも高まるため、適切な対策が必要です。
専門家に依頼することで、これらの複雑な状況にも柔軟に対応してもらえます。専門家は財産の詳細な評価を行い、法的なリスクを最小限に抑える対策を提案してくれます。また、期限が過ぎた場合でも、どのように対処すればよいかのアドバイスがもらえます。複雑な状況でも安心して手続きを進められるのは、大きなメリットと言えるでしょう。
相続放棄が解決策ではない!最適なアドバイスがもらえる
相続放棄を考える際、多くの人が借金や負債だけに捉われがちですが、その背後にはさまざまな要素が影響しています。専門家は、相続放棄だけでなく、それに関連する多くの側面(例えば、相続税、法的リスク、家族間の関係など)についても総合的なアドバイスを提供できます。
このような総合的なアドバイスにより、相続放棄が最適な選択なのか、それとも他に良い方法があるのかを明確にすることができます。
裁判所からの書類のチェックから回答方法をサポート
相続放棄の手続きは、家庭裁判所から照会書が届くことがあります。この照会書には、被相続人の死亡日や財産に関する質問があり、その回答が相続放棄が認められるかどうかに影響します。回答書の内容によっては、相続放棄が認められない可能性もあるため、専門的な知識が必要です。
専門家に依頼すると、回答書の正確な書き方についてアドバイスを受けられます。また、手続きが成功すれば「相続放棄申述受理通知書」を受け取り、手続きがスムーズに終了します。
費用についても、全ての手続きを専門家に任せる場合はそれなりの費用がかかりますが、書類のチェックだけを依頼するような柔軟なサービスもあります。このように、自分の状況や予算に合わせてサービスを選べるのも、専門家に依頼するメリットの一つです。
9.動画視聴|相続放棄を自分でやるためのポイントとは?
動画でも、解説しております。音声で聞けるので、こちらのほうが良い方は、是非動画にてご視聴ください。
10.まとめ
この記事では相続放棄の手続き方法や期限、必要書類について見てきました。本章の内容をまとめてみましょう。
- 相続放棄をやるなら、財産調査や相続人を事前に確認しておくと効果的
- 相続放棄は、問題なくいけば1か月半ほどで手続きできるため、それを逆算して準備する
- 相続放棄をするためには、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で手続きを行う
- 相続放棄をできるのは原則3ヶ月以内で、手続き期限を延長できるケースは限られる
- 相続放棄をした場合でも、引き続き遺産の管理責任が生じることがある
- 遺産の売却や故人の借金の返済を行うと、相続放棄ができなくなる可能性がある
相続放棄の手続き期限は「相続の開始を知ってから3ヶ月後」です。相続が開始すると色々な手続きで忙しくなり、3ヶ月という期間はあっという間に経過してしまいます。相続放棄をする場合には必要書類の準備などを早めに行うようにしてください。
一方で、相続放棄をすると原則撤回ができないので、慌てて相続放棄の手続きをすることは決して良くありません。長年相続問題に取り組み様々な事案を扱ってきた当事務所であれば、相続人の方の置かれた状況にあわせたサポートが可能です。生前の相続対策から相続開始後の手続きまで、相続でお悩みの方はお気軽にご相談ください。
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