2相続放棄の手続きで失敗しないために、正確な情報が欠かせません。この手続きは、亡くなった家族や親戚からの遺産を受け継ぐ権利を放棄するもので、慎重に進める必要があります。失敗すれば、法的問題や経済的負担が生じる可能性があるからです。
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一方で、相続放棄の手続き自体は家庭裁判所に必要書類を提出し、書類のやり取りを行うことで比較的簡単に進めることができます。しかし、申立てが一度しかできないため、慎重に手続きを進める必要があります。
今回の記事のポイントは下記のとおりです。
- 相続放棄は一度しか申立てできない手続きなので、3カ月という期限内に不備なく書類作成をする必要がある
- 相続放棄をするかどうか、また、自分で手続きをするのか専門家に依頼するのかを検討する場合、時間に余裕があるか、複雑な案件かどうかがポイントになる
- 相続放棄は、提出先や必要書類を正確に準備することが重要。特に誰の相続財産を放棄するかで、用意する書類が異なるので要注意
- 手続きをするのに他の相続人との調整が必要であり、また、利益相反の問題にならないように気を付ける必要がある
このブログでは、相続放棄の手続きにおいて成功するための方法、期限、注意点を詳しく解説します。相続放棄を検討する際に出てくるデメリットやリスク、専門家のアドバイスの重要性などを解説していきます。
1.相続放棄は一度しか申立てできない手続き
相続放棄は、一度しか申立てできない重要な手続きです。家庭裁判所の決定に不服がある場合、高等裁判所への不服申し立てができますが、新たな相続放棄の申述は認められないのです。この一度きりの相続放棄が認められない場合、相続したくないと考えていた借金などのマイナスの財産も含めて法定相続分通りに引き継ぐ責任が生じます。
そのため、書類作成や期日までの提出など手続きを慎重に行う必要があり、注意が必要です。
1-1.相続放棄の手続き期間は3カ月
相続放棄の手続き期間は極めて重要です。「被相続人が亡くなってから(相続の開始を知ってから)3カ月以内」に、申述書を家庭裁判所に提出する必要があります。この期間を超えてしまうと、相続放棄の手続きが原則的に認められなくなります。しかし、期間内に手続きが完了しない場合や、手続きが複雑で時間がかかる場合も考えられます。そのため、以下のようにケースに分けて対処方法をご紹介します。
3カ月以内に終わりそうな場合
初めて相続放棄の手続きを行う場合、3か月の期限内に手続きを終えることができます。ただし、手続きには書類の収集や手間がかかることがあるため、早めに行動することが重要です。
3カ月以上かかりそうな場合
財産の調査が難航して、相続放棄が迷いやすい状況や、戸籍謄本などの必要書類の収集に時間がかかる場合など、3カ月以内に手続きを完了できない場合があります。こうしたケースに対処するためには、「相続放棄のための申述期間伸長の申立て」を家庭裁判所に提出し、相続放棄の手続き期間を延長することができます。
ただし、必ずしも延長が認められるわけではありませんが、この申立てを行うことで、さらに3カ月、あるいは事情に応じて1年など、熟慮期間が延長される可能性があるのです。要するに、ゆっくりと十分な考慮期間を確保し、相続放棄の判断を慎重に行うための手続きができるのです。
3カ月を過ぎてしまった場合
3カ月を過ぎてしまった場合、相続放棄は原則的に認められません。しかし、特定の事情によっては放棄が認められる可能性もあります。
ただし、期限を過ぎてからの相続放棄申し立ては非常に難易度が高く、基本的には専門家に相談することが必要です。期限内に手続きを進めるか、または期限を過ぎてしまった場合の具体的なケースに応じて適切な行動を取ることが大切です。
1-2.書類作成は厳密に
手続き上、相続放棄を行う際には、戸籍謄本などの必要書類をしっかり収集し、相続放棄の申述書に正確に記載することが求められます。書類の不備や記載漏れがあると、手続きが却下される可能性が高まります。そのため、書類の整備には細心の注意が必要です。
しかし、必要書類を提出したから安心というわけではありません。家庭裁判所からは後日、相続放棄の照会書と回答書が届きます。回答書には、相続放棄の理由や相続財産の状況について詳細な情報を提供する必要があります。特に、単純承認といった相続の形態になる行為がないかどうか、家庭裁判所が確認します。
回答書を作成する際には、慎重に内容を考える必要があります。回答内容次第で、家庭裁判所が相続放棄を認めないことがあるためです。回答書で不備があった場合、やり直しは許されず、大きなトラブルとなります。したがって、回答内容を確実に検討し、誠実に回答することが大切です。
書き方などは以降のブログで解説していますので気になる方はチェックしてください。また相続放棄について受理されないケースについて書いたブログもあるので、そのことを詳しく知りたい方は以下のリンクをクリックしてください。
2.失敗しないための相続放棄のスケジュール
前述の通り、相続放棄はたった一度きりのチャンスです。しかも、そのチャンスは短い「3カ月」という期間に限られます。ですから、書類の不備や手続きのミスが許されないことを理解しておく必要があります。
相続放棄を成功させるためには、計画的なスケジュールが不可欠です。この章では、相続放棄の検討方法や、専門家に相談するべきかどうか、書類の正しい書き方など、すべてを解説しています。相続放棄を考えている皆さんは要チェックです。
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2-1.相続放棄をするか検討する
相続放棄を検討する上で肝心なのは、「マイナスの財産を相続しないこと」です。要するに、負債を返済できるだけの財産があるかどうかがカギとなります。同時に、相続放棄だけでなく、限定承認という選択肢も存在することを頭に入れておきましょう。相続放棄の判断においては、相続放棄をするための材料を収集し、メリットとデメリットを考慮して検討することがポイントです。
相続放棄を検討するための材料とは?
相続放棄をするかどうかを判断するためには、情報収集し整理することが重要です。
積極財産(資産)に関する情報
- 不動産の有無と評価額
- 預金・預貯金の金額
- 有価証券や投資に関する情報
- 所有する自動車や他の財産の評価額
- 貸付金や受けている貸金についての情報
消極財産(負債)に関する情報
- 借入金や貸付金についての詳細情報
- 保証債務に関する情報
- 損害賠償債務の有無と金額
- 未払いの税金やその詳細
相続人に関する情報
- 共同相続人が誰であるか
- 各相続人が相続に関してどのような意見を持っているか
- 相続人間での合意や協力が期待できるかどうか
その他の情報
- 生前贈与がある場合、その金額や内容
- 相続財産の維持・管理に必要なコストや費用に関する情報
個別の事案に応じて必要な情報は異なりますが、これらのポイントを確認することで、相続放棄が適切な選択肢であるかどうかを評価する手助けになるでしょう。
相続放棄を行うメリット
相続放棄を行うメリットは次の通りです。
①相続債務を回避できる
相続債務を背負うことなく、経済的な安心感を得られます。
②遺産分割の煩わしさから解放される
複雑な遺産分割手続きの手間やストレスを回避できます。
③トラブルのない平和な相続になる
家族間のトラブルや紛争を避け、平和な相続手続きを実現できます。
④事業や家を特定の人に継承させられる
特定の相続人に事業や家を効果的に受け継ぐための選択肢として、相続放棄が役立ちます。
⑤相続放棄しても「相続税控除」は損なわない
相続放棄をしても、相続税の基礎控除額に変化はありません。
相続放棄を行うデメリット
逆に相続放棄をすることで想定されるデメリットは次のものがあります。
①相続財産がもらえない
相続財産を受け継ぐ権利を喪失し、資産を手に入れることができません。
② 後続の相続人に悪影響を及ぼす可能性がある
相続放棄を決断することで、後続の相続人に悪影響を及ぼすリスクが考えられます。例えば、亡くなった人の子供たち全員が相続放棄を選択した場合、亡くなった人の親や兄弟姉妹などに、相続財産に対する債権者からの借金請求が起こる可能性があります。
相続放棄の意志があらかじめ伝えられていない場合、債権者からの急な請求によって、相続人たちは驚き、家族関係に不和をもたらす可能性があるでしょう。
③ 先祖代々の資産が喪失する可能性がある
相続放棄が全員によって選択された場合、家族の歴史に深く関わる先祖代々の財産が失われる可能性が考えられます。そして、最終的にはその財産が国庫に移転することになります(民法959条)。
④相続財産の管理義務が生じることもある
相続放棄をした場合、民法(第九百四十条第一項)には、「相続放棄者は相続人が相続財産の管理を引き継ぐまで、自身の財産と同様の注意をもって、相続財産の管理を続けならない」という規定があります。このため、相続放棄をしても新たな相続人になったことに気付かない限り、相続放棄者は遺産の管理責任を負い続けます。
また、全ての相続人が相続放棄し遺産の管理者が不在となると、相続財産管理人の選任が必要となり、選任までの間は相続放棄者が引き続き財産管理を行わなければならないので要注意です。
相続放棄を検討すべきケースとは?
上記の判断材料を集め、負債状況や相続人の状況、メリットとデメリットを見て、以下のケースであれば相続放棄を選択肢として考えた方がいいでしょう。
資産の価値が負債を上回らない場合
負債が資産を大幅に上回ると判断されると、相続放棄は遺産を受け継がずに相続債務を回避できる選択肢となるため、相続放棄をするべきです。ただし、連帯保証などの責任がある場合は注意が必要です。
資産の価値はあるが、維持コストが高い場合
例えば、被相続人の負債はないが、主要な遺産が売却が難しい空き家だけである場合、その空き家の保有には固定資産税や老朽化に伴う事故リスクなどの高い維持コストとリスクが伴います。相続放棄を選ぶことで、これらのコストとリスクを回避することができます。
相続に関する紛争が予想される場合
相続にはトラブルがつきもので、家族や相続人間での紛争が予想される場合、相続放棄は紛争を回避するための有力な選択肢となります。兄弟や親族間での利害対立が起き、遺産分割協議が難航する可能性が高い場合、相続放棄は家庭裁判所の調停や審判に巻き込まれるリスクから逃れる方法として検討されます。
相続放棄を選ぶことで、面倒な紛争の手続きを回避し、スムーズな解決へ向かうことができます。
特定の相続人に遺産を集中させたい場合
相続において特定の相続人に遺産を重点的に受け継がせたい場合、相続放棄が戦略的な選択肢として重要です。相続放棄を行うことで、残りの相続人が遺産を受け継ぐため、特定の相続人に相続財産を集中させる戦略的な決定が可能です。
たとえば、家業を継ぐ相続人に農地などの必要な財産を集中させるため、他の相続人が相続放棄を選択する場合もあります。ただし、遺産に債務が含まれている場合、相続分の譲渡と相続放棄の選択肢を比較し、リスクを検討することが肝要です。
2-2.専門家に依頼するか検討する
相続放棄の決定は、慎重に考えるべき重要なステップです。家族や財産に関わる大きな選択であり、専門家のアドバイスやサポートが役に立つ場合があります。一方で自分で手続きするという選択肢もありますので、どちらの選択がいいのかを検討していきましょう。
自分で手続きしても問題がないケース
自分で相続放棄手続きを進める際、下記のようなケースであれば、専門家に依頼せずに自分で手続きを進めても問題ないでしょう。
- 相続財産の債務が明らかに超過しているケース
- 明らかに相続放棄の期限3カ月以内に手続きが出来そうなケース
- 自身で被相続人の口座の残高照会や不動産の費用、借金などの負債額を調査できるケース
- 相続放棄の手続きを調べて、期限内に申立てや家庭裁判所に対応する時間を確保できるケース
これらのことが不明瞭な場合は、期限もあるので専門家に依頼するのが確実です。相続放棄は一度しか申立てができない手続きです。自分でやろうとする場合は、失敗しないことが確実な状態でのみ手続きするようにしましょう。
専門家に任せた方がいいケース
相続放棄は、法的な手続きと複雑な財務問題が絡む場合が多いため、以下のようなケースでは専門家に依頼する方が賢明です。
- 相続税の計算や遺産分割が複雑なケース
- 財産状況が不明確で、負債が存在するケース
- 相続放棄の期限が迫っているケース
- 複数の相続人がいて、各々の意見が分かれているケース
財産や相続人について複雑だったり、期限が迫っている場合、知識を有した専門家が、正確かつ迅速に相続放棄の手続きを進める方が良いでしょう。また、家族同士で仲が悪かったりすると、間に入って専門家が話した方がいい場面がありますので、是非上記のようなケースでは、専門家に依頼してください。
専門家に任せる場合の選択肢
専門家に任せる場合、選択肢は大きく2つに分かれます。「司法書士」と「弁護士」です。
弁護士は、法的な専門家であり、相続放棄に関連する法的手続きや問題に対処するのに適しており、法的トラブルや法的な疑義が生じた場合にも対処できます。一方で、司法書士は、法務省に登録された法的専門家であり、公正な手続きを確保するための専門知識を持っているため、法的文書の作成や提出、登記業務に精通しており、相続放棄の手続きに特に適しています。
なんでもできる弁護士に依頼すればいいだろうと思うかもしれませんが、その分費用がかかります。5万円~10万円が相場になっています。しかし、司法書士に依頼すると、争いごとには対処できませんが、費用は安く抑えることができ、だいたい3万円~6万円です。
どちらの専門家を選択するかは、個々の状況とニーズによって異なります。法的なアドバイスと代理人の必要性、予算、手続きの複雑さなどを考慮し、相続放棄の手続きを円滑に進めるために最適な選択を検討しましょう。法的なアドバイスを必要としない場合でも、司法書士は手続きの正確性を確保するのに役立つ専門家です。
もしどちらがいいか困ったら、まずは弊所司法書士・行政書士事務所リーガルエステートの無料相談をご活用ください。司法書士がいいのか、弁護士の方が効果的なのかをご案内いたします。また、相続放棄に必要な一連の手続きのアドバイスと手続きのサポートをさせていただきますので、お気軽にお問合せください。
2-3費用を準備する
相続放棄手続きを進めるには、一定の費用がかかることを理解しておくことが大切です。手続きの方法によって費用が異なり、以下に示す3つの選択肢があります。
自分で手続きをする場合【約5,000円程度】
自分で相続放棄手続きを進める場合、主に以下の費用がかかります。
- 印紙代:手続きに必要な書類に貼る印紙代がかかります。相続財産の価値によって金額が変わりますが、一般的には約5,000円程度が目安です。
- 郵送費用:書類の提出や受け取りに関連して、郵送費用が発生することがあります。
自分で手続きを進める場合、相続財産の評価や手続きの複雑さによっては追加の費用がかかることもあるため、慎重に計画しましょう。
司法書士に依頼する場合【約3~6万円】
司法書士に相続放棄手続きを依頼する場合、費用は約3万円から6万円程度が一般的です。司法書士は手続きの専門家であり、手続きの正確性を確保します。手続きの複雑さや地域によって費用が異なる場合がありますので、事前に相談し、費用の詳細を確認しましょう。
弁護士に依頼する場合【約5~10万円】
相続放棄手続きを弁護士に依頼する場合、費用は約5万円から10万円程度が一般的です。弁護士は法的なアドバイスと代理人としての役割を果たします。手続きの複雑さや争いごとが予想される場合に適しています。費用は弁護士の経験や地域によって異なることがありますので、事前に相談し、費用の詳細を明確にしましょう。
費用のことについては別記事に書いていますので、詳細が気になる方はそちらをチェックしてください。
相続放棄手続きにかかる費用は、選択した手続き方法によって異なります。自分で手続きを進める場合、費用を最小限に抑えることができますが、手続きの複雑さなどで失敗する可能性が高くなることもあります。
一方で、司法書士や弁護士に依頼する場合は、専門家のサポートと手続きの正確性を得る代わりに、一定の費用が発生します。自身の状況や予算に合わせて、最適な選択を検討しましょう。
2-4.相続放棄への必要書類収集・作成
相続放棄手続きを進めるには、様々な書類が必要です。ここでは、基本的に用意する書類と、ケース別に必要な書類について説明します。
基本的に用意する書類
相続放棄手続きを進めるには、以下の6つの書類が必要です。これらの書類は、相続放棄をする人がだれであっても、準備する必要がある書類です。
- 申述書:相続放棄をする旨を記載した申述書で、正確に記入することが重要です。
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続放棄する相続人本人の戸籍謄本
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
- 収入印紙(800円分)
- 切手:家庭裁判所から郵便で通知を送る時に必要になりますが、各裁判所によって提出の有無が異なります。
これらの書類を正確に収集・作成し、手続きに備えましょう。手続きがスムーズに進行するために、書類の不備や不足を事前に確認し、修正することが大切です。
ケース別必要書類
相続放棄手続きでは、亡くなった方と相続放棄する方(申述人)の関係に応じて、さまざまな書類が必要です。この書類を用意することは、スムーズな手続きに欠かせない要素です。
【相続放棄申述書に添付する書類】 |
◇配偶者の財産を相続放棄する場合 |
・被相続人の住民票除票又は戸籍附票 ・相続放棄をする人の戸籍謄本 ・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
◇子供の財産を相続放棄する場合 |
・被相続人の住民票除票又は戸籍附票 ・相続放棄をする人の戸籍謄本 ・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・申述人が代襲相続人(孫、曾孫等)の場合は、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
◇親の財産を相続放棄する場合 |
・被相続人の住民票除票又は戸籍附票 ・相続放棄をする人の戸籍謄本 ・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している人がいる場合は、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被相続人の直系尊属に死亡している人(相続人より下の代の直系尊属に限る)がいる場合は、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
◇兄弟姉妹・叔父・叔母の財産を相続放棄する場合 |
・被相続人の住民票除票又は戸籍附票 ・相続放棄をする人の戸籍謄本 ・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している人がいる場合は、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・申述人が代襲相続人(甥、姪)の場合は、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
しかし、兄弟姉妹や叔父・叔母の財産を相続放棄する場合、必要な書類の数が多く、3カ月以内の期限内に手続きを完了させることが難しくなることがあります。必要な書類の多さにより、「自分で手続きを進めるのは複雑そうだ」と感じることがあるかもしれません。
そのような場合、相続放棄に特化した司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。専門家のアドバイスとサポートを受けることで、手続きをスムーズに進め、期限を守ることができます。
2-5.相続放棄申述書を提出
相続放棄申述書(そうぞくほうきしんじゅつしょ)は、相続放棄手続きを進めるために提出する重要な申請書類です。相続財産の放棄を希望する場合、家庭裁判所にこの申述書を提出することで、相続放棄の認可を得ることができます。ただし、相続放棄手続きは「相続開始を知ってから3カ月以内」に行う必要があるので、期限に注意が必要です。
提出後、家庭裁判所で申述書の審査が行われ、その結果、「相続放棄を認めてもかまわない」と判断された場合、相続放棄が正式に承認されます。このプロセスを経て、相続財産の放棄が効力を持つのです。
相続放棄申述書は、相続放棄手続きにおいて欠かせない文書であり、正確かつ適切に作成することが不可欠です。手続きのスムーズな進行を保つために、この申述書の作成について詳しく解説します。
申述書の入手方法
相続放棄申述書は、家庭裁判所が指定する特定の書式が存在し、これは裁判所の公式ウェブサイトから入手可能です。さらに、全国の家庭裁判所の窓口でも入手することができます。
これにより、正確かつ適切な書式を使用して、相続放棄申述書を準備することができます。必要な書類を手に入れるには、公式ウェブサイトを利用するか窓口で相続放棄申述書を取得すると良いでしょう。
出典:裁判所HP
申述書の書き方
相続放棄の申述書をダウンロードしたら、以下の点に注意しながら作成しましょう。
相続放棄申述書は手書きだけでなく、パソコン入力や代筆も認められています。手続きがしやすい方法を選んで作成できます。
申述人情報
申述人の情報を入力します。本籍地、住所、氏名、生年月日、平日の日中に連絡が取れる電話番号、被相続人との続柄を正確に記載しましょう。本籍地と住所については、自身の戸籍謄本と住民票を確認して記入します。
被相続人情報
被相続人の本籍地、最後の住所、氏名、死亡年月日を記入します。本籍地については被相続人の最後の戸籍謄本や住民票を参照してください。最後の住所は被相続人が亡くなった際の住民票上の登録住所です。死亡年月日は被相続人の戸籍謄本に記載されています。
相続の開始を知った日
「相続の開始を知った日」は相続放棄の期限と関連があります。相続開始を知った日は、一般的には、被相続人の死亡日を記載します。ただし、相続の事実を遅れて郵便や電話などで知った場合には異なる日とすることも可能です。3カ月の相続放棄の期限とも密接に関連する事項であり、死亡日以外の日を記載する際は、専門家と相談して、いつの日付を記載すればよいか慎重に検討したうえで記載しましょう。
相続財産の概略
「相続財産の概略」欄には、把握している相続財産の内容を正確に書き込みます。不正確でもかまいませんが、虚偽の情報を書いてはいけません。
放棄の理由
「放棄の理由」は選択式です。近い理由を選んでください。特別な理由がある場合、「その他」を選び、具体的な理由を記入します。理由に制約はありません。
書類提出場所について
相続放棄申述書は、被相続人が亡くなった際の住所を管轄する家庭裁判所に提出します。相続人の住所の管轄する家庭裁判所ではありませんので、提出先を正確に把握しましょう。提出先の家庭裁判所の住所や連絡先は、事前に調べておくことをおすすめします。
提出方法について
申立ては、相続放棄したい相続人またはその法定代理人が手続きを行います。相続放棄手続きには、収入印紙800円と郵便の場合のみ約1,000円程度の費用がかかります。「2-4.相続放棄への必要書類収集・作成」でも書いてある通り、誰の財産を放棄するかによって提出書類が変わります。それに注意しながら、過不足なく書類を用意しましょう。
相続放棄申述書の提出方法については、家庭裁判所への直接持参と郵送の両方が選択肢として利用できます。申述書を家庭裁判所に直接提出する場合も、郵送で提出する場合も問題ありません。
郵送で提出する際には、到着確認が可能なサービスを提供しているレターパックなどの封筒を利用することをお勧めします。なぜなら、期限内に相続放棄手続きを行えなかった場合でも、郵送中の事故などによって遅延が生じた場合、裁判所はそのような事情を考慮してくれないことがあるためです。
相続放棄手続きは、提出先や必要書類の正確な準備が重要です。提出の際には期限内に行うことと、正確な情報を提供することがポイントです。また、相続放棄に関して不安や疑問がある場合は、専門家に相談することを検討しましょう。手続きがスムーズに進むよう、しっかりと準備しましょう。
2-6.照会書と回答書のやり取り
相続放棄手続きにおいて、照会書・回答書のやり取りは非常に重要です。相続放棄の申請が受理されると、概ね10日後相続放棄照会書と回答書が関係者に送付されます。こちらでは、その照会書・回答書の詳細な内容とやり取りのポイントについて解説します。
回答書の書き方
相続放棄に関する回答書は、相続放棄の申請が本人の意思に基づくものであるかどうかを確認するための書類です。この回答書には以下のような内容が記載されています。
- 本人の意思確認:相続放棄が本人の自由な意思に基づいて行われているかどうかがチェックされます。
- 相続開始日の確認:被相続人の死亡を知った日付を記入し、相続放棄の期限に関連する情報です。
- 相続放棄の理解:相続放棄の意味や、手続き後に財産を相続する権利が一切なくなることを理解しているかどうかを確認します。
- 財産使用の有無: 相続財産を一部でも使用していないかどうかが問われます。
回答する際には、相続放棄申述書に記載した内容と同じものを正確に記入するよう心がけましょう。照会書・回答書が届いた段階では相続放棄は完了していないため、相続放棄に関連する行動を慎重に選択しましょう。
返送期限が過ぎそうな場合
相続放棄の照会書・回答書が送付されてきたら、返送期限に注意が必要です。通常、照会書・回答書の受け取りから3カ月以内に回答書を提出する必要があります。期限を過ぎると相続放棄申し立てが停止される可能性があるため、時間内に対応することが大切です。
もしも、仕事の都合や特別な事情で期限内に回答書を返送できない場合は、家庭裁判所に早めに連絡をしましょう。正直に事情を説明することで、期限を延長してもらえる可能性があります。家庭裁判所はやむを得ない事情を理解し、柔軟に対応してくれることがあります。
まとめると、相続放棄手続きにおいては、回答書のやり取りがスムーズに進むよう慎重に対応することが必要です。期限内に回答書を提出し、正確な情報を提供することで、相続放棄手続きを成功させましょう。そして、期限が厳しい場合や特別な事情がある場合は、家庭裁判所に早めに連絡して柔軟な対応を受けることも大切です。
2-7.相続放棄申述受理通知書の受け取り
相続放棄手続きが正式に受理されたことを通知する書類が「相続放棄申述受理通知書」です。この通知書は、手続きが完了し、相続財産の権利を放棄したことを証明する重要な証拠となります。相続放棄が受理されると、この通知書が発行され、相続放棄手続きの最終段階となります。
この通知書は手続き完了の証拠であり、大切に保管しなければなりません。
紛失注意|再発行はできません
相続放棄申述受理通知書は非常に重要な書類であり、一度紛失してしまうと再発行が不可能です。したがって、相続放棄申述受理通知書を紛失しないように注意が必要です。通常、相続放棄申述受理通知書は家庭裁判所から送付されるため、届いたらすぐに確認し、安全な場所に保管しましょう。また、複製やスキャンコピーを作成し、必要な場面で使用できるようにしておくことをお勧めします。
相続放棄申述受理通知書が必要なケース
相続放棄申述受理通知書が必要となるケースについてご説明しましょう。
相続放棄者以外の者が相続放棄を証明する場合
相続放棄者本人以外の者が相続放棄を証明する場合、通常は相続放棄申述受理通知書が必要となります。例えば、相続債権者から支払い請求された場合、債権者は相続放棄が本当に行われたことを確認するためにこの通知書を求めることがあります。
不動産の相続登記
相続財産に不動産が含まれている場合、相続放棄者がいる場合でも、不動産の相続登記を行う際に相続放棄申述受理通知書が必要となることがあります。以前までは相続放棄受理証明書が必要でしたが、現在では相続放棄申述受理通知書でも可能です。
金融機関での手続き
銀行などの金融機関で相続財産に関する手続きを行う際、相続放棄者以外の相続人がいる場合、相続放棄申述受理通知書の提出が求められることがあります。この場合、他の相続人も利害関係者と見なされ、自身で申請手続きを行うことができます。
相続放棄手続きがスムーズに進むよう、正確な情報提供と大切な書類の保管を心がけましょう。また、家庭裁判所によって手続きが異なる場合があるため、詳細は該当の家庭裁判所にご確認ください。
3.失敗が許されない相続放棄の注意点
相続放棄手続きは慎重に行わなければならない重要なプロセスです。一度相続放棄を行うと取り消すことが難しく、様々な注意点が存在します。以下に、失敗が許されない相続放棄の注意点を詳しく解説します。
3-1.生前に相続放棄はできない
生前に相続放棄を行うことは法的にはできません。相続放棄は、相続開始後に家庭裁判所に対して申述を行うことで成立する手続きです。この理由は、民法において「相続は、死亡によって開始する」と規定されているためで、相続が発生する前に相続放棄を行うことは法的に認められていません。
したがって、どうしても生前に相続放棄を行いたい場合は、その目的に応じて代替手段を検討する必要があります。相続人間で「自分は相続しない」という意思表明をすることはあるかもしれませんが、これは単なる相続分の譲渡であり、相続放棄とは異なるものですので、注意が必要です。
3-2.相続放棄すると撤回はできない
一旦家庭裁判所によって相続放棄が認められると、通常の状況では撤回が難しいです。たとえば、「相続放棄をしたのにプラスの財産があることが分かった」といった理由や「なんとなく気が変わった」という理由では、基本的には撤回は認められません。相続放棄の手続きは慎重に判断しましょう。
ただし、詐欺や強迫によって相続放棄をした場合には、相続放棄の撤回が認められることがあります。また、財産に関して勘違いがあった場合にも撤回が認められるケースは、ごくわずかながら存在します。このような例外的なケースでは、相当な法的知識が必要ですので、専門家に相談することが賢明です。
また、相続放棄が認められる前であれば、通常の手続きで取り下げることは可能です。気が変わった場合や、適切な情報が得られた場合には、早めに家庭裁判所に申し出ましょう。特に、脅迫や詐欺といった不正な手段で相続放棄をさせられた場合や、未成年者が法定代理人の同意なしに相続放棄した場合は、撤回が認められる可能性が高まります。
3-3.相続放棄前に遺産を処分すると相続放棄できない
相続放棄は、財産の相続権を放棄する手続きです。この際、相続放棄者は相続財産を受け取らず、その権利を放棄します。一方、遺産処分は故人の財産を処理する行為で、これらの行為が相反することは避けなければなりません。
たとえば、故人の不動産を自分の名義に変更する行為は、相続放棄と矛盾し、相続放棄を行うことが難しくなります。相続放棄を検討する場合、遺産の管理や処分には特に慎重さが求められます。
3-4.次順位の相続人とトラブルになる可能性も
相続放棄をすると、その人は当該相続に関しては初めから相続人とはみなされなかったものとされ、次順位の相続人に相続権が移転します。そのため、相続放棄を決断した場合、次順位の相続人にその旨を伝えなかった場合、突然亡くなった方の債権者から次順位の相続人に連絡が行く可能性があるのです。
ですから、相続放棄を検討する際には、以下のポイントに留意し、トラブルを避けるための対策を講じましょう。
ポイント1:順位を確認する
相続人には順位があり、子が第1順位、親や祖父母が第2順位、兄弟姉妹が第3順位となります。自分の順位と、自分が相続放棄した場合に影響を与える相続人を確認しましょう。
ポイント2:連絡を取る
相続放棄をする際、次順位の相続人には事前に相続放棄の旨を伝えることが大切です。コミュニケーションをとり、誤解やトラブルの回避に努めましょう。
ポイント3:専門家の助言を受ける
相続放棄は複雑な手続きを伴うことがあります。特に連絡が取れないご家族がいたり、仲の悪い兄弟がいる場合に相続放棄をすると揉める可能性もあります。その際は、専門家である司法書士や弁護士を仲介し、適切なアドバイスをもらいながら進めるのがよいでしょう。
相続放棄を検討する際には、次順位の相続人とのトラブルを避けるために、慎重な準備とコミュニケーションが重要です。
3-5.放棄しても財産管理責任が生じることがある
相続放棄をしても、財産を「現に占有している」者は、相続財産の清算人に引き渡すまでの間、その財産を管理する義務を負います。2023年4月から施行された改正民法により、管理義務の対象者が明確にされました。
具体的には、民法940条に以下の一文が明記されました。
「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」
これにより、相続財産を「現に占有」している相続人は、財産の管理と保存に注意を払い、法的な責任を果たす必要があるのです。よって、もしその占有している相続人が放置したままにすると、第三者に迷惑をかけることにつながり、法的な責任を問われる可能性があります。
すべての相続人が相続放棄をした場合も注意が必要です。相続人全員が相続放棄をした場合、遺産の管理者が不在となり、その際には相続財産管理人を選任しなければなりません。そして、相続財産管理人が選任されるまでの間、相続放棄者が引き続き財産管理を行う責任が生じます。
そのため、相続放棄を考える際には、財産管理責任についても慎重に考えることが大切です。
3-6.相続人全員が相続放棄したら財産は国のモノになる
相続人がいなくなる状況では、家庭裁判所が選任した相続財産管理人が財産の評価や処分、精算などを行います。特別縁故者がいる場合、その特別縁故者に財産の一部が分与されることもあります。
しかし、特別縁故者への分与や借金の精算が終了しても、残った財産に引き取り手が現れない場合、最終的にはその財産は国に帰属することになります。このように、相続放棄が行われ、特別縁故者もいない場合、財産は国の所有となります。
一方で、被相続人の財産が最終的にマイナスである場合、マイナスの財産は債務者の消滅とともに消滅します。したがって、相続放棄により負債だけが残る場合、その債務は相続人に転嫁されることはありません。
3-7.未成年者、被後見人の相続放棄では利益相反に注意
未成年者や被後見人が相続放棄する場合、その法定代理人である親権者や後見人との間の利益相反の問題に注意が必要です。
親権者と未成年者の利益相反
親権者が相続人であり、同時に未成年者も相続人である場合、親権者が相続放棄しないまま未成年者が相続放棄をすると、親権者と未成年者の利益が相反する状況が生じます。未成年者のみに相続放棄をすることによって法定相続人が減る結果、親の相続分が増えてしまうことが想定されるからです。このような場合、未成年者のために特別代理人を家庭裁判所に請求し、代理人を選任しなければなりません。
同様に、親権者が複数の未成年者の法定代理人である場合でも、未成年者間で利益相反が生じる可能性があるため、特別代理人の選任が必要です。親が複数の未成年の子供の法定代理人を務める場合、特定の子のみ相続放棄をしてしまうと、他の子の相続分が増えてしまいます。そのため、複数の子の相続放棄をする場合でも特別代理人の選任は避けられません。
後見人と被後見人の利益相反
後見人と被後見人が相続放棄する場合においても、親権者と未成年者と同様に、後見人と被後見人が法定相続人に該当する場合には、利益相反の問題が生じます。被後見人のみ相続放棄することによって、後見人の相続分が増える可能性があるからです。相続放棄で利益相反となる場合には、被後見人のために特別代理人を選任する必要があります。なお、元々、後見監督人が別途選任されているケースでは、後見監督人が相続放棄の代理人となるため、特別代理人の選任は不要です。
このように、利益相反が想定されるケースでは、特別代理人の選任が必要など、時間と手間がかかることがあり、慎重に検討する必要があります。
4.まとめ
この記事では、相続放棄の手続きについて、流れを詳しく見てきました。本章の内容を改めてまとめたいと思います。
- 相続放棄は一度しか申立てできない手続きなので、3カ月という期限内に不備なく書類作成をする必要がある
- 相続放棄をするかどうか、また、自分で手続きをするのか専門家に依頼するのかを検討する場合、時間に余裕があるか、複雑な案件かどうかがポイントになる
- 相続放棄は、提出先や必要書類を正確に準備することが重要。特に誰の相続財産を放棄するかで、用意する書類が異なるので要注意
- 手続きをするのに他の相続人との調整が必要であり、また、利益相反の問題にならないように気を付ける必要がある
相続放棄の手続きは自分で行うことも可能ですが、専門的な知識や経験が必要であり、一度失敗すると修復が難しい場合もあります。相続放棄には法的なリスクや期限に関する注意が必要です。
一度しか申立てのできない相続放棄の失敗を避けるためには専門家の協力が頼りになります。自信がない場合や時間的に余裕がない場合は、専門家に相談して、相続放棄を安心・確実に進めましょう。