大切なご家族の財産を守るための任意後見制度ですが、その費用、特に任意後見監督人の報酬については、分かりにくい点が多く不安に感じていらっしゃる方も少なくありません。
報酬についての知識が曖昧なまま手続きを進めてしまうと、「思ったより高額な費用が毎年かかってしまう…」といった失敗にも繋がりかねません。
記事のポイントは以下のとおりです。
- 報酬は「家庭裁判所」が決定する公的な費用であり、交渉はできない。
- 相場は月額1〜3万円だが、財産の複雑さで変動する。
- 費用を抑える鍵は「財産のシンプル化」と「後見人の選び方」。
- 不安があれば「家族信託」という別のパワフルな選択肢もある。
本記事で、費用相場から具体的な節約術まで、順を追って見ていきましょう。
目次
1.任意後見監督人はいくらかかる?
ご家族のために任意後見制度の準備を進め、いざ、任意後見業務がスタートすると「任意後見監督人(にんいこうけんかんとくにん)」が必ず家庭裁判所によって選任されます。
これは、ご家族などである任意後見人が、ご本人の財産を適切に管理しているかをチェックするために、家庭裁判所によって選ばれる法律や福祉の専門家です。いわば、大切な財産管理が正しく行われるよう見守る「公的なパートナー」とも言えます。
この専門的な役割を担ってもらうため、監督人にはその対価として報酬を支払う必要があります。そして、多くの方が「その報酬は、一体いくらくらいかかるのだろう?」と最も気にされるのが、この費用問題です。
任意後見監督人の報酬相場は月額1〜3万円
では、その気になる報酬相場はどのくらいなのでしょうか。管理する財産の額によっても異なりますが、一般的には月額1万円〜3万円(年額12万円〜36万円)がひとつの目安となります。
| 管理財産額 | 報酬月額の目安 |
| 5,000万円以下 | 1万円~2万円 |
| 5,000万円超 | 2万5千円~3万円 |
※上記はあくまで基本報酬の目安です。特別な業務が発生した場合は、追加の報酬(付加報酬)が認められることがあります。
参考:成年後見人等の報酬額のめやす
(出典:裁判所|申立てにかかる費用・後見人等の報酬について 東京家庭裁判所後見センター)
【要注意】報酬は生涯続くランニングコスト
ここで非常に重要なことをお伝えします。任意後見監督人への報酬は、一度支払って終わりではありません。ご本人がお亡くなりになるまで、原則として毎年発生し続ける「ランニングコスト」なのです。
ご指摘の通り、任意後見制度は一度スタートすると(監督人が選任されると)、ご本人の意思だけで途中でやめることは、原則としてできません。そのため、長期的な視点で総額がいくらになるのかをイメージしておくことが極めて重要です。
仮に、月額2万円(年額24万円)の報酬がかかると仮定して、経過年数ごとの累計額を見てみましょう。
| 経過年数 | 累計報酬額 |
| 1年後 | 24万円 |
| 5年後 | 120万円 |
| 10年後 | 240万円 |
| 20年後 | 480万円 |
月々の負担は小さく感じられても、10年、20年という単位で見ると、数百万円もの大きな支出になることがお分かりいただけると思います。
なぜ報酬が必要なのか(監督人の役割と重要性)
「そもそも、なぜ家族が後見人になるのに、わざわざ監督人をつけて費用を払う必要があるの?」これは、多くの方が抱くもっともな疑問です。
その答えは、任意後見制度が「ご本人の財産を、未来永劫、確実に守り抜く」ことを最大の目的としているからです。
任意後見人に信頼する家族が就いたとしても、
- 他の親族から「財産を使い込んでいるのでは?」と疑われるリスク
- 本人のために良かれと思った支出が、本当に適切かどうかの判断に迷う場面
- 万が一、後見人自身が認知症などになった場合のチェック機能の不在
といった問題が生じる可能性があります。
そこで、法律と財産の専門家である任意後見監督人が、公平な第三者の目で任意後見人の仕事ぶりを定期的にチェックするのです。
💡 監督人への報酬は、単なる「監視料」ではありません。
それは、あなたとご家族を将来の金銭トラブルから守り、
任意後見人の精神的な負担を軽くするための「安心保険料」なのです。
2.誰がどう決める?任意後見監督人の報酬決定プロセス
任意後見監督人の報酬は、ご本人の大切な財産から継続的に支出されるものです。だからこそ、その金額がどのようにして決まるのかという「報酬決定の仕組み」は、この制度を利用する上で最も重要です。
2-1.報酬額を決めるのは「家庭裁判所」
任意後見監督人の報酬額について、その決定権は監督人自身にはなく、中立・公平な公的機関である「家庭裁判所」が唯一の権限を持っています。 監督人が一方的に金額を定めたり、ご家族に請求したりすることは制度上あり得ません。
報酬は、法律の専門家である裁判官が客観的な基準で審査・決定するため、本人のご家族側の事情にて個人的に決めることはできません。しかし、それは同時に、不当に高額な請求を受ける心配がないという大きなメリットに繋がります。
2-2.報酬額の算定基準とは?
家庭裁判所は、主に以下の2つの報酬を基準に金額を決定します。
① 基本報酬
通常の監督業務(財産目録の確認、後見人からの定期報告のチェックなど)に対する報酬です。前の章で示した月額1〜3万円がこれにあたります。原則として、管理する財産の額に比例して高くなります。
② 付加報酬
基本報酬だけではカバーしきれない、特別な業務が発生した場合に上乗せされる報酬です。付加報酬の額は基本報酬額の50%以内と定められています。
- 本人の代理人として、遺産分割協議に参加した
- 収益不動産の管理や売却手続きを行った
- 本人に不利な契約を取り消すための訴訟を起こした
付加報酬は、予期せぬ出費に繋がりやすいポイントです。将来的に不動産の売却や相続問題が発生する可能性が高い場合は、あらかじめ任意後見契約書の内容を工夫したり、家族信託など別の選択肢を検討したりすることで、付加報酬の発生を抑えられる可能性があります。詳しくは専門家にご相談ください。
3.いつ・誰が払う?報酬の支払いタイミングと支払い元
報酬の出所と支払いタイミングも、トラブルを避けるために正確に理解しておきましょう。
3-1.支払うのは「本人(被後見人)」の財産から
任意後見監督人の報酬は、任意後見人であるご家族がポケットマネーで支払うものではありません。
あくまで、任意後見契約を結んだご本人(将来、被後見人となる方)の預貯金や不動産といったご自身の財産の中から支払われます。
3-2.支払い時期と方法
報酬の支払い手続きは、一般的に以下の流れで進みます。このプロセス全体を家庭裁判所が監督しているため、不正な支払いが起こる心配はありません。
Step① 監督人が家庭裁判所へ「報酬付与の申立て」
任意後見監督人が、1年間(または半年間)の監督業務の内容を詳細に記した報告書を作成し、家庭裁判所に提出します。
「この業務内容に見合った報酬を与えてください」という許可を申請します。
Step② 家庭裁判所が報酬額を決定
家庭裁判所は、提出された報告書を厳格に審査します。財産状況や業務の難易度を考慮し、妥当な報酬額を決定し、「審判書」という公的な決定書を発行します。
Step③ 任意後見人が、本人の財産から報酬を支払う
任意後見人は、家庭裁判所から届いた審判書に基づき、記載された金額を、ご本人名義の預金口座から任意後見監督人の指定口座へ振り込みます。
4.任意後見制度の総費用
任意後見制度の利用には、監督人の報酬以外にもいくつかの費用がかかります。ここでは、制度の開始から終了までにかかる費用の全体像を掴んでいきましょう。
費用は大きく分けて、契約時や申立時にかかる「初期費用」と、制度が続いている間ずっと発生する「維持費用(ランニングコスト)」の2種類があります。
ご自身で手続きをすれば、初期費用はもっと安くなります。ご自身のケースで、より正確な費用を知りたい場合は、一度専門家に見積もりを相談してみることをお勧めします。
ご自身のケースでの費用は?
任意後見の費用は、ご状況によって様々です。相談実績6000件超の専門家がご家族に最適な資産管理の解決策をご提案いたします。
5.任意後見監督人の報酬を安く抑える3つのコツ
任意後見監督人への報酬額そのものを、直接交渉して引き下げることはできません。しかし、いくつかのポイントを事前に押さえておくことで、将来にわたるトータルの支出を、賢く、そして合法的に抑える方法が存在します。
コツ❶:信頼できる親族等を任意後見人の候補者にする
任意後見人自体を弁護士や司法書士などの専門家に依頼すると、その専門家への報酬も別途発生します(月額2万円〜)。信頼できるご家族が任意後見人になることで、この「任意後見人への報酬」を無報酬にでき、トータルコストを大幅に削減できます。
コツ❷:財産管理をシンプルにしておく
監督人の報酬は、管理する財産の複雑さに応じて変動します。今のうちから不要な銀行口座を解約・集約したり、使っていない不動産を売却したりして財産を整理しておけば、監督人の業務負担が減り、結果的に報酬が低く算定される可能性が高まります。
コツ❸:専門家へは早めに相談する
一見費用がかかるように思えますが、これが最も効果的な節約術になる場合も少なくありません。「財産整理のアドバイス」や「付加報酬が発生しにくい契約書の作成」など、専門家だからこそできる先回りの対策で、将来の予期せぬ高額な出費を防ぐことに繋がります。
6.【注意点】報酬に関するよくある失敗とリスク回避策
ここでは、任意後見監督人の報酬に関して実務上よくある失敗例と、その対策を具体的にご紹介します。「知らなかった」では済まされないケースもあるため、ぜひ参考にしてください。
ケース1:想定より報酬が高額になってしまった
「親の財産は預貯金だけだと思い、報酬は月額1万円だろう」と安易に考えていた。しかし、制度開始後に貸金庫から大量の美術品が見つかり、その査定や管理業務が「特別な業務」とみなされ、高額な付加報酬が上乗せされてしまった。
リスク回避策
親が元気なうちに、必ず財産の全容を一緒に確認・把握しておくことが不可欠です。エンディングノートなどを活用し、預貯金以外の財産(不動産、有価証券、保険、貴金属など)もリストアップしておきましょう。
ケース2:申立て時に推薦した候補者が選任されなかった
監督人の候補者として、長年付き合いのある税理士を推薦して申立てを行った。しかし、家庭裁判所から「本人と過去に取引関係があり、中立性に疑義がある」と判断され、裁判所がリストから選んだ全く面識のない弁護士が監督人に選任されてしまった。
リスク回避策
監督人の候補者は、本人や任意後見人と利害関係のない、中立的な立場の人を選ぶ必要があります。家庭裁判所の判断基準を熟知している司法書士や弁護士に事前に相談し、適切な候補者選びのアドバイスをもらうのが最も確実です。
7.任意後見制度が不安なら「家族信託」も有効な選択肢
ここまで任意後見制度について解説してきましたが、中には「うちのケースだと、少し使い勝手が悪いかもしれない…」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。
任意後見制度は、ご本人の財産を守るための非常に優れた公的な制度ですが、
- 本人の判断能力がはっきりと低下しないとスタートできない
- あくまで「財産保全(守り)」が目的のため、積極的な資産活用(投資や不動産の建て替えなど)は難しい
- 監督人への報酬など、継続的なコストがかかる
といった側面も持っています。
もしあなたが、「親が元気なうちから、もっと柔軟に財産管理を手伝いたい」「実家の不動産を有効活用したり、相続対策まで見据えたい」といった、より積極的な希望をお持ちなら、「家族信託」という、もう一つのパワフルな選択肢が有効になります。
任意後見?家族信託?
あなたに最適なのはどちら?
どちらの制度にもメリット・デメリットがあり、最適な選択はご家庭によって全く異なります。相談実績6000件超の専門家がご家族に最適な資産管理の解決策をご提案いたします。
7-1.家族信託の具体的なメリットとは?
家族信託とは、ご自身の財産を、信頼する家族に託し、ご自身が定めた目的(自分の生活費、子の教育費など)のために管理・運用してもらう制度です。任意後見制度にはない、以下のような大きなメリットがあります。
メリット1:判断能力が元気なうちから始められる財産管理
任意後見は、本人の判断能力が低下し、家庭裁判所が監督人を選任して初めてスタートします。一方、家族信託は契約後すぐに効力を発生させることができます。
例えば、「最近、銀行での手続きが少し億劫になってきたな」と感じたお父様が、そのタイミングで息子さんにキャッシュカードを渡し、信託契約に基づいて生活費の引き出しや支払いを任せる、といったスムーズな管理の移行が可能です。医師の診断書や家庭裁判所への申立てといった、大掛かりな手続きは必要ありません。
メリット2:「攻め」も可能な「柔軟な財産活用」
任意後見制度の目的は、あくまで本人の財産を「守る」ことです。そのため、リスクのある資産運用や、不動産の大規模なリフォーム、建て替えなどは、家庭裁判所や監督人から許可されにくいのが実情です。
一方、家族信託では、あらかじめ信託契約書に定めておくことで、
■ 収益アパートを建て替えて、賃料収入を増やす
■ 保有する株式を売却し、別の金融商品に投資する
■ 相続税対策のために、生前贈与を計画的に実行する
といった、積極的な財産活用(攻めの資産承継)も可能になります。
7-2.任意後見と家族信託の違い
両者の違いを改めて表で比較してみましょう。特に「身上監護」ができるかどうかは、制度を選ぶ上で非常に重要なポイントです。
7-3.「使い分け」と「併用」という選択肢
ここまで読むと、「では、うちはどっちを選べばいいの?」と悩んでしまうかもしれません。専門家としての結論は、「ご家庭の状況と、何を最も重視するかによって、最適な設計図は全く異なる」ということです。
- 財産管理を重視し、柔軟な対策をしたい
→「家族信託」が中心 - 介護施設の契約や入院手続きといった身上監護を重視したい
→「任意後見」が中心
そして、実はこの2つの制度は、互いの弱点を補い合う「併用」という形で、最強の生前対策を構築することも可能です。
【ハイブリッド設計】任意後見と家族信託の併用
例えば、以下のような組み合わせが考えられます。
- 不動産や預貯金など、主要な財産の管理・活用・承継は、柔軟性の高い「家族信託」で行う。
- 信託できない年金の受け取りや、介護・医療に関する契約(身上監護)は「任意後見」でカバーする。
このハイブリッド設計により、「柔軟な財産管理」と「万全の身上監護」を両立させることが可能になります。
8.任意後見監督人に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 任意後見監督人は解任できますか?
監督人に不正な行為や任務を著しく怠るなどの「正当な理由」があり、家庭裁判所がそれを認めた場合に限り、解任を請求することが可能です。ただし、「何となく相性が悪い」「報酬が高い」といった理由だけで一方的に解任することはできません。
手続きは非常に厳格ですので、まずは専門家にご相談ください。
Q2. 報酬は経費にできますか?医療費控除の対象になりますか?
いいえ、任意後見監督人への報酬は、所得税の計算上、必要経費にも医療費控除の対象にもなりません。 あくまでご本人の財産から支出される費用という位置づけになります。
Q3. 本人の財産が少なく、報酬を支払えない場合はどうなりますか?
報酬の支払いが困難な方のために、国や自治体による助成制度(成年後見制度利用支援事業)があります。資産や所得が一定基準以下であることなどの要件がありますが、報酬の一部または全部を助成してもらえる可能性があります。まずはお住まいの市区町村の役所や、地域包括支援センターにご相談ください。
9.まとめ
- 報酬は「家庭裁判所」が決定する公的な費用であり、交渉はできない。
- 相場は月額1〜3万円だが、財産の複雑さで変動する。
- 費用を抑える鍵は「財産のシンプル化」と「後見人の選び方」。
- 不安があれば「家族信託」という別のパワフルな選択肢もある。
最も重要なのは、この報酬が不透明なものではなく、家庭裁判所が定めることで公平性が保たれ、あなたの大切な財産を守るための「公的で必要な仕組み」だということです。
それでも、ご家庭ごとの最適な設計や手続きに不安を感じる際は、一人で抱え込まず専門家に相談することが、後悔しないための確実な一歩です。正しい知識を力に変え、あなたとご家族の未来のために、最適な準備を進めていきましょう。






司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士















































































































































