判断能力が衰えた方の生活を支える重要な支援策として、わが国には成年後見制度(法定後見制度、任意後見制度)があります。
認知症などで判断能力が衰えた家族を抱える方にとっては非常に大切な制度ですが、後見人に支払う費用面が心配だという声もよく聞きます。後見人の費用として大きくかかってくるのは、後見人に対する報酬です。
今回の動画では家族や親族が後見人となった場合でも報酬の支払いが必要かどうか、報酬の相場や支払いが難しい場合の公的支援策などと共に見ていきますので、ぜひ参考になさってください。
以下に本章のポイントをまとめておきます。
- 法定後見では親族後見人が報酬付与の申し立てをしなければ無報酬となる
- 任意後見では当事者同士の話し合いで無報酬とすることができる
- 有償の場合、法定後見では2万円~6万円、任意後見では1万円~3万円程度が親族後見人に対する報酬の相場となる
- 法定後見では特別な後見事務を行った場合に付加報酬が発生する可能性がある
- 法定後見において報酬の支払いが難しい場合は「成年後見制度利用支援事業」を検討できる
目次
1.親族が後見人になった場合の報酬について
まず、親族が後見人となった場合に報酬の支払いが必要かどうかについて見ていきます。法定後見制度と任意後見制度では報酬に関する運用、ルールが異なるのでそれぞれ確認します。
1-1.法定後見制度の報酬
法定後見制度においては、後見人が親族である場合も弁護士等の専門家である場合も、報酬をもらいたい場合には家庭裁判所で報酬付与の申し立て手続きを取る必要があります。
逆に言えば、報酬付与の申し立てをしなければ報酬の支払いが行われないということです。専門家は報酬の受け取りを希望するので申し立てをするでしょうが、親族であれば後見人本人が手続きをとらなければ結果的に無報酬となります。
1-2. 任意後見制度の報酬
任意後見の方ですが、こちらは報酬に関する約束は全て契約で管理され、家庭裁判所が報酬について関与することはありません。報酬の有無や金額は当事者の話し合いで決められ、契約書に盛り込まれます。
話合いで無報酬の約束とすることができれば、任意後見人への報酬の支払いは不要です。
2.後見人の報酬相場は?
専門家が就任するため報酬の支払いが必要な場合、あるいは親族であっても後見人が報酬の支払いを希望する場合、金額の相場がどの程度なのか気になりますね。
2-1.法定後見人の報酬の目安
家庭裁判所は後見人の報酬についてある程度の目安を示しており、報酬が本人の財産から支弁されることから、財産の額が多ければ報酬も上がるようになっています。
例えば東京家庭裁判所では月額の報酬を2万円程度としながらも、被後見人が保有する財産の価額が1000万円を超え5000万円以下の場合には月額3万円~4万円、財産額が5000万円を超える場合には月額5万円~6万円を目安として挙げています。
成年後見人等の報酬額のめやす
https://www.courts.go.jp/tokyo-f/vc-files/tokyo-f/file/0102.pdf
(出典:裁判所|申立てにかかる費用・後見人等の報酬について 東京家庭裁判所後見センター)
後見人は被後見人の財産を管理しなければなりませんので、管理の対象が大きくなれば難度が上がる分、報酬も上げるというスタンスです。家庭裁判所が示す報酬 相場は地域によって違いが出ることもあるので、お住まいの地域の最寄りの家庭裁判所が示す報酬相場を調べてみることをお勧めします。
なお、法定後見制度を利用する場合は家庭裁判所に申し立て手続きが必要です。その際には後見人に対する報酬とは別に、申し立てに関係する様々な費用がかかります。こちらも個々のケースで費用額に違いが出ますが、成年後見制度の利用にあたりどのような費用がどれくらいかかるのか、こちらの記事で詳しく解説していますので参考になさってください。
2-2.任意後見人の報酬相場
法定後見の方に関しては家庭裁判所が示す上記額が報酬の目安となりますが、任意後見の方に関しては、報酬金額は全て個々の当事者間の話し合いベースで任意後見契約の中で決められるため、目安というものが厳密には存在しません。
親族を任意後見人とする場合には、無償とする場合や月額1万円~3万円程度と定める場合もあります。
弁護士や司法書士など外部の専門家にお願いする場合は、法定後見における報酬とそれほど乖離の無い額に落ち着くことが多く、月額3万円~5万円程度になることが多いでしょう。
2-3.任意後見監督人の報酬
任意後見制度には、必ず任意後見監督人が就くことになります。それは、家族等の親族ではなく、家庭裁判所によって士業などの専門家(第三者)が選任されることがほとんどです。
ですから、任意後見人は前述の通り話し合いによって自由に報酬額を決めることができますが、任意後見監督人の報酬については、法定後見の成年後見監督人の規制が適用されますので家庭裁判所が審判により決定します。
もし、専門家が任意後見監督人に選任された場合、公表されている報酬額の目安では管理財産額が5000万円以下の場合には月額1万円~2万円,管理財産額が5000万円を超える場合には月額2万5000円~3万円程度となります。
詳しくは、以下の記事に詳細が書いてありますので、チェックしてみてください。
3.報酬が支払われる時期は?
後見人に報酬が支払われる場合はその時期についても知っておきたいところですね。成年後見と任意後見とでは報酬の支払い時期が異なります。
3-1.法定後見人の報酬の支払い時期
法定後見の場合は先述の通り家庭裁判所で報酬付与の申し立て手続きをすることになりますが、この申し立ては後見人に就任し実務を開始してから1年経ってから行うのが一般的です。
また後見人の役割を終えた時は随時の手続きがなされるでしょう。
3-1.任意後見人の報酬の支払い時期
任意後見制度では報酬の額だけでなく支払い時期についても当事者の話し合いベースで決定されます。任意後見契約で報酬の支払い時期を定めることになるので個々のケースで違いが出ますが、例えば毎月月末に支払うこととする、などと取り決めることが考えられます。
もしくは半年分、1年分をまとめて一定時期に支払うということもでき、任意後見ならではの柔軟性を発揮することができます。
4.付加報酬が支払われる場合
後見制度においては、基本的な報酬とは別に付加報酬が支払われることもあります。
一般的な後見事務とは別に、特別に手間のかかる後見業務を担った場合に、これを手当てするために支払われるのが付加報酬です。
4-1.法定後見制度では特別な行為があった場合に付加報酬が発生する
法定後見制度では、例えば以下のような場合、後見人の基本的な報酬額の50%を上限にして、相当と思われる額が付加報酬として加算されます。
- 成年被後見人が収益不動産を多数所有しているなどで財産管理の難度が高い場合
- 親族間で意見の対立があり調整を必要とする場合
- 前任の成年後見人の不正が発覚し、その対応を後任の成年後見人が担う場合
また以下のような場合も、ケースに応じて相当と考えられる額が加算されて支払われることがあります。
- 成年被後見人が受けた不法行為に対して起こした訴訟で勝訴し、賠償金を得た場合
- 成年被後見人が関係する遺産分割調停を成立させ、当人の財産を増額させた場合
- 成年被後見人の不動産を売却し、療養看護の費用を確保した場合
4-2.任意後見制度での付加報酬の支払いは任意後見契約の定めに従う
なお上記は法定後見に関してであり、任意後見においては上記のようなシステムはありません。特別な貢献に事務に関して特別な報酬を設定したい場合は、当事者の取り決めにより任意後見契約書に明記することになります。
なお、弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、ご家族ごとにどのような形で成年後見や任意後見、家族信託を設計し、活用すればいいのか、無料相談をさせていただいております。成年後見制度の利用方法や家族信託、任意後見契約書の作成、その後の運用の相談などトータルでサポートさせていただきますので、お気軽にお問合せください。
5.成年後見人の報酬額の決め方
法定後見においては上述の通り家庭裁判所が後見人の報酬額に関して一定の目安を公表していますが、あくまで目安であって必ずその額になるとは限りません。いっそ法律で決められていれば分かりやすいような気もしますが、後見業務は個々のケースで難度や手間等が異なるため一律に設定するのはなじみません。
現状では法律による規定がなく、個々の事案を見て家庭裁判所が事情を勘案し後見人の報酬額を決定しています。最終的な報酬額を導き出す大きな要素は二つあり、一つは成年被後見人の財産額、もう一つは後見事務の難度や手間です。
財産の額が大きいほど、後見事務の難度が高いほどに報酬額は上昇に傾き、逆の場合は報酬額も下がるように、家庭裁判所で金額を調整することになります。
5-1.成年後見人が報酬付与申立てに必要な書類
個々の事案でどの程度の難度の後見事務が行われているかを確認するため、報酬付与の申し立てにおいては以下のような各種資料の提出を求められます。
・申立書
・報酬付与申立事情説明書
・後見等事務報告書
・財産目録
・財産目録記載の財産についての裏付け資料
上記のうち報酬付与申立事情説明書には付加報酬の支払いを求めるかどうかの申し出欄があり、行った後見事務の種類に応じて別途説明資料の添付が必要になります。
6.成年後見人の報酬が払えない場合
法定後見の利用において必要となる各種支払いのための財力がない場合、「成年後見制度利用支援事業」の利用を検討しましょう。
この事業は費用的な問題で成年後見制度の利用ができなくなることがないように、費用面での助成を行うのが事業内容の一つとなっています。助成が行われるのは成年後見制度の利用申し立てにかかる費用の他、成年後見人に支払う報酬も対象になります。
当事業は市区町村単位で実施されており、自治体によって運用が異なる点があるので、利用に関する相談は最寄りの市区町村の窓口に問い合わせが必要です。
大きく高齢者を対象とした支援と障害者を対象とした支援があるので、窓口で相談する際にどちらを希望するか伝えてください。自治体によって運用のルールや利用の条件が異なることがあるので、例えば支援を要する本人の財産が一定額以下でなければ利用できないなどの条件が付くこともあります。条件を満たせるかどうか個別に確認が必要ですので、まずは最寄りの役所に電話をかけて担当部署を聞き出し、大方の条件について電話で確認してみましょう。可能性がありそうであれば、窓口での本格的な相談につなげるとスムーズにいきます。
なお任意後見制度は本事業の対象となりません。
弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、後見制度のために、法的に適切な対処が行えるかについて、無料相談をさせていただいております。後見手続きから、新たな後見人の選定の相談などサポートさせていただきますので、お気軽にお問い合わせください。
7.まとめ
この回では親族が後見人となった場合でも報酬の支払いが必要かどうか、報酬の相場や支払い時期、実際の報酬の決め方や報酬の支払いが難しい場合の公的支援策などと共に見てきました。
本章のポイントをまとめてみましょう。
- 法定後見では親族後見人が報酬付与の申し立てをしなければ無報酬となる
- 任意後見では当事者同士の話し合いで無報酬とすることができる
- 有償の場合、法定後見では2万円~6万円、任意後見では1万円~3万円程度が親族後見人に対する報酬の相場
- 法定後見では特別な後見事務を行った場合に付加報酬が発生する可能性がある
- 法定後見において報酬の支払いが難しい場合は「成年後見制度利用支援事業」を検討できる
以上、法定後見及び任意後見における後見人の報酬に関して一通り見てきました。
親族が後見人となる場合は法定後見においては報酬付与を求めないことで、任意後見においては話し合いで無報酬とすれば費用は発生しません。
後見制度の利用を検討する際には参考になさってください。