後見人という言葉を耳にしたことはありますか?
この言葉が関わる制度は、高齢化社会や多様な家庭形態が増える現代において、ますます重要性を増しています。
しかし、後見人になるとはどういうことなのか、どのように選ぶのか、どんな手続きが必要なのか、そしてそれにかかる費用はどれくらいなのか。これらは一般的にはあまり知られていないことばかりです。
今回の記事のポイントは、以下のとおりです。
- 後見人とは、他人の法的な代理人として財産管理や身上監護などを行う人物を指し、成年者を保護する成年後見人、未成年者を保護する未成年後見人、予め契約で指定する任意後見人の3種類がある
- 後見人になるための資格はないので誰でもなれるが、未成年者や過去に後見人を家庭裁判所によって解任された者、後見人として不適切な経歴を持つ者はなれない
- 後見人は成年後見人は家庭裁判所、未成年後見人は親権者の遺言で指定又は家庭裁判所が選任するが、任意後見人は予め契約で定まる
- 成年後見には財産管理や身上監護に関するメリットがあるが、後見人や後見監督人への報酬の支払いや、財産の積極的な運用ができないなどのデメリットも存在する
- 任意後見制度は本人の意志に基づいて後見人が選ばれ、財産の管理対象を柔軟に設定できる
- 任意後見には法律専門家が監督人として選任されることが多く、その報酬が必要であるなどのデメリットもある
- 成年後見と任意後見の選択は、本人の状況や将来の生活設計に密接に関わるため、慎重な選択が必要である
この記事では、後見人についての基本的な知識から、具体的な選び方、手続きの流れ、役割、そして費用に至るまで、司法書士がわかりやすく解説します。後見人を選ぶ際、または自分自身が後見人になる可能性がある方、後見人について関心をお持ちの方々に向けて、この記事が一助になれば幸いです。
目次
1.後見人とは
後見人とは、他人の法的な代理人として、その人の財産や法的な権利、義務に関する事務を行ったり、その人の福祉を守る役割を果たす人物を指します。後見人は主に成年後見人、未成年後見人、任意後見人の3つのカテゴリに分けられます。それぞれのカテゴリには特有の役割と責任があります。
1-1.成年後見人
成年後見人は、成年者(20歳以上)が精神的な障害や高齢などの理由で、自分の意志を適切に表現できなくなった場合に、その人の法的な代理人となります。成年後見人は、裁判所の審査を経て選任され、財産管理や医療判断、契約締結など、本人に代わって多くの法的手続きを行います。
1-2.未成年後見人
未成年後見人は、未成年者(18歳未満)が親や保護者を失い、自分自身で法的な手続きができない場合に選任される後見人です。未成年後見人は、未成年者の財産を管理したり、学校や医療機関との契約など、未成年者にとって重要な法的手続きを代行します。
1-3.任意後見人
任意後見人は、成年者が自らの意志で選んだ後見人です。
この制度は、まだ自分自身で意志をしっかりと表現できるが、将来的にはその能力が低下する可能性があると考えている人々にとって、非常に有用です。任意後見人は、本人が判断できなくなったときに、家庭裁判所に任意後見人を監督する任意後見監督人が選任された時点で初めて効力が発生し、任意後見人として活動します。
なお、弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、ご家族に合わせた後見制度、その他の対策について、無料相談を承っております。
ぜひ、お気軽にお問合せください。
2.後見人の選び方は?
後見人を選ぶ際には、多くの要因が考慮されるべきです。
後見人が果たす役割は重要であり、選ばれた後見人が適切な判断と行動を取ることが求められます。この章では、後見人になれる人の条件と、成年後見人、未成年後見人、任意後見人を選び方について解説します。
2-1.後見人になれる人
成年後見人、未成年後見人、任意後見人になる資格は特定の職業に限られていないため、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門資格は必須ではありません。しかし、後見人になるには家庭裁判所の手続きが必要であり、その審理の過程で特定の条件に該当する人は後見人になれないとされています。
具体的には、民法により以下のような人々は後見人になる資格がありません。
- 未成年者
- 家庭裁判所によって法定代理人、保佐人、または補助人の資格を解任された人
- 破産者
- 被後見人(本人)と訴訟関係にある、または過去にあった人、その配偶者及び直系血族
- 行方不明者
- 不正行為やその他後見人として不適切な経歴を持つ人
さらに、上記の条件に該当しなくても、被後見人(本人)と後見人候補者の住所が遠く離れている場合や、過去に本人の財産を不正に使用したなどの事実がある場合も、後見人として不適切と判断される可能性があります。
以上のような条件を考慮して、後見人は選ばれます。
2‐2.後見人の選び方
後見人を選ぶ際には、いくつかの重要なポイントがあります。以下では、成年後見人、未成年後見人、任意後見人を選ぶ際の考慮点を詳しく説明します。
成年後見人の選び方
成年後見人を選ぶ際には、先述した後見人となれる要件を考慮して家庭裁判所が最終的な決定を下します。申し立てをするときには、申立人から候補者を提示することができますが、その人が必ず選ばれるわけではありません。
裁判所は、候補者の信頼性や専門性、そして本人や家族の状況を総合的に考慮して選びます。下記のようなケースでは、親族以外の専門家が選任されることが多いです。
- 本人が所有する財産が多額で、管理が難しい
- 親族間で本人の財産管理方針に対立がある
- 親族が後見人となることについて、他の親族からの同意が得られない
- 成年後見人となる候補者の経歴に問題がある
未成年後見人の選び方
未成年後見人の選び方には、基本的に二つの方法があります。
一つは親権者の遺言によって、もう一つは家庭裁判所に申し立てをする方法です。裁判所は、未成年者の年齢や心身の状態、財産状況などを考慮して選任します。また、複数の後見人を選任することも可能で、特に複雑なケースでは法人が選ばれることもあります。
任意後見人の選び方
任意後見人は、本人との間で結んだ任意後見契約に基づいて選ばれます。
この契約により、本人は自由に後見人を選ぶことができるため、信頼関係が非常に重要です。信頼できる家族や友人、または専門家を選ぶことが一般的です。特に、同世代の人を選ぶよりも一世代下を選ぶことが推奨されています。また、専門家に依頼するケースとしては、専門家の報酬はかかりますが、身寄りがいない、本人の近くに親族が住んでいないといった場合などがあります。
なお、弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、ご家族に合わせた後見制度、その他の対策について、無料相談を承っております。
ぜひ、お気軽にお問合せください。
3.後見人の種類、役割と職務内容
後見人は、成年後見人、未成年後見人、任意後見人といった種類に分かれ、それぞれ異なる役割と職務内容があります。以下でそれぞれ詳しく解説します。
3-1. 成年後見人の役割と職務内容
成年後見人は、判断能力を喪失した方などの成年者の法的な代理人として、財産管理と身上保護を行います。
財産管理では、本人の資産を適切に管理し、契約の締結や金融取引を代行します。具体的には、年金や預貯金の管理、不動産の維持・処分、税金や公共料金の支払いなどが含まれます。
身上保護では、本人の生活や健康に関わる契約を代行します。これには、医療機関での治療契約や介護施設への入所契約が含まれます。ただし、日常生活の世話や本人にしかできない特定の法律行為は含まれません。
成年後見人は、職務を適切に行っているかを確認するため、年に一度は家庭裁判所に報告書を提出する義務があります。報告書には、財産の状況や行った法律行為、収支報告などが含まれます。
成年後見人ができないこと
日常生活における単純な事実行為や、特定の身分法上の行為が含まれます。具体的には、日用品の購入や食事の提供、病院への送り迎えなどの日常的な事実行為は代行できません。また、保証人になることや、婚姻届や離婚届の提出も成年後見人の職務には含まれません。
3-2.未成年後見人の役割と職務内容
未成年後見人は、未成年者の法的な代理人の役割を担います。
主な職務は財産管理と身上監護です。財産管理では、未成年者の資産を適切に管理し、必要な契約を代行します。身上監護では、未成年者の居住場所や教育内容を決定します。
未成年後見人も、年に一度は家庭裁判所に財産目録や収支予定表を提出する必要があります。親族が未成年後見人になる場合、多くは未成年者と一緒に住んで実際に監護養育を行います。専門家が未成年後見人になる場合は、未成年者と一緒には住まず、主に財産管理や進学先の決定が職務内容となります。
3-3.任意後見人の役割と職務内容
任意後見人の主な職務は財産管理と身上監護ですが、これは任意後見人候補者との間で交わした契約によって異なる具体的な内容を定めます。財産管理では、本人の預貯金や不動産を適切に管理します。身上監護では、本人の生活や健康に関する支援を行います。
任意後見人は、任意後見監督人に対して報告をする義務を負います。
任意後見人ができないこと
任意後見人は、本人との任意後見契約に基づいて行動しますが、その範囲には制限があります。例えば、本人の代わりに結婚や離婚などの行為をしたり、任意後見契約に違反する行為は許されません。また、成年後見人と異なり、本人の意思で締結した契約を一方的に取り消すこともできません。
4. 後見人の手続きの流れと費用
後見人になるためには、いくつかの手続きが必要です。また、その手続きには費用がかかります。
以下では、利用数が多い成年後見人と任意後見人の手続き、それぞれの制度にかかる費用を中心に説明します。
4‐1. 成年後見人の手続きと費用
成年後見人の手続きの流れと費用は次の通りです。
成年後見制度の手続きの流れ
申立人と裁判所の確認
成年後見制度を利用する場合、最初のステップは家庭裁判所に申し立てを行うことです。申し立てが可能なのは、本人、配偶者、または四親等以内の親族です。申し立てを行う前に、家庭裁判所の場所と、申し立てが可能な人物を確認しておくことが重要です。
医師による診断書の作成
次に、医師に診断書を作成してもらいます。この診断書は、被後見人の判断能力を評価するために必要です。診断書以外にも、多くの書類が必要とされるので、事前にしっかりと準備しておくことが求められます。
面接日程の予約と審査
書類が整ったら、家庭裁判所で面接の日程を予約します。面接では、申し立ての内容や被後見人の状況について詳しく聞かれます。面接が終わると、裁判官による審査が始まります。審査には時間がかかる場合もあるので、余裕を持って手続きを進めることが推奨されます。
成年後見人の選任
審査が終わると、成年後見人が正式に選任されます。選任された成年後見人は、成年被後見人の財産管理や身上監護などの活動を開始します。この段階で、成年後見人としての仕事が本格的に始まります。
成年後見制度の費用
申立費用
成年後見制度の費用は、いくつかの項目に分かれます。基本的な費用としては、申し立て手数料、後見登記手数料、診断書作成料などがあります。これらの費用は合計で約2万円前後が一般的です。
さらに、特定のケースでは追加の費用が発生する可能性があります。例えば、裁判所が鑑定を必要と判断した場合、その鑑定費用が5~10万円程度かかることもあります。
専門職後見人の報酬
専門家が成年後見人に選任された場合は、その報酬も考慮する必要があります。報酬はケースによって異なりますが、管理する財産額に応じて月額2~6万円程度、更に特別な事情があった場合には、基本報酬額の50%以内で付加報酬が支払われます。事前にしっかりと確認しておくことが重要です。
成年後見人としての活動が長期にわたる場合、その間に発生する費用も考慮する必要があります。成年後見人に報酬を支払う必要がある場合、その総額はかなり大きくなる可能性があります。
4‐2.任意後見人の手続きと費用
任意後見人の手続きの流れと費用は次の通りです。
任意成年後見制度の手続きの流れ
任意後見契約の内容を決める
最初のステップとして、将来にわたる具体的な生活設計、通称「ライフプラン」を策定することが重要です。このライフプランは、任意後見人が将来的にどのような判断をすべきかの指針となる文書です。具体的な金額や期間もしっかりと記載しておくことが推奨されます。
そして、任意後見人に何を依頼するのかを決めます。任意後見人に具体的にどのようなことを依頼するかは、契約当事者同士の自由な契約によります。任意後見契約で委任することができる(代理権を与えることができる)内容は、財産管理のほか、医療や介護サービス締結といった療養看護に関する事務や不動産の売却や金融取引などの法律行為です。ライフプランに基づき依頼する内容を決めます。
公正証書の作成と内容
契約内容が決まったら、本人と任意後見人候補は最寄りの公証役場で公正証書を作成します。この公正証書には、報酬やその他の条件、任意後見人が行う具体的な業務内容、任意後見監督人に関する希望などが詳細に記載されます。
任意後見監督人の申立てとその重要性
判断能力が低下した場合には、任意後見監督人の選任を申し立てる必要があります。この監督人が選任されると、任意後見契約が法的に有効となり、任意後見人はその業務を開始できます。任意後見監督人は、任意後見人が適切に業務を遂行しているかを監視する役割を果たします。
任意後見制度の費用
報酬とその設定方法
任意後見人への報酬は、本人と任意後見人間で自由に設定できます。無償とすることもできます。専門家に依頼した場合には、財産額に応じて2~6万円前後の報酬が相場ですが、業務の内容や負担度に応じて変動する場合もあります。
公正証書関連の費用とその内訳
公正証書の作成にはいくつかの費用が発生します。基本手数料は11,000円、登記嘱託手数料は1,400円、印紙代は2,600円となっています。これ以外にも、正本の発行費用や郵送費用などが発生する場合があります。
任意後見監督人の報酬とその基準
任意後見監督人に支払う報酬は、家庭裁判所が決定します。管理財産額に応じて、月額1万円から3万円が一般的です。
5.成年後見のメリット・デメリット
成年後見制度は、特に高齢者や認知症患者などの判断能力が低下した人にとって、生活を安全かつ安心して送るための重要な選択肢の一つです。しかし、この制度にはメリットだけでなくデメリットも存在します。以下で詳しく解説します。
5-1. 成年後見のメリット
成年後見制度は、本人に代わって財産管理や身上監護に関する行為を行う包括的な代理権を後見人に与えるため、非常に便利です。このような代理権があることで、例えば、介護サービスや医療に関する契約の手続きがスムーズに行えます。さらに、後見が開始された後に本人が行った特定の法律行為を取り消す能力も後見人にはあります。これは、特に認知症などで判断能力が低下した場合に有用です。
5-2.成年後見のデメリット
一方で、成年後見制度にはいくつかのデメリットもあります。
たとえば、後見人として法律専門家が関与することが多く、その報酬が発生します。また、後見人が財産を積極的に運用することは原則としてできず、財産の現状維持が主な目的となります。さらに、一度後見人が選任されると、本人が亡くなるまでその地位から退くことは基本的にできません。これは、長期的なコミットメントが必要であるという点で、慎重な選定が求められます。
6.任意後見のメリット・デメリット
任意後見制度は、本人の意志により選ばれた後見人が支援を行う制度であり、成年後見よりも柔軟性があります。しかし、その柔軟性が逆にリスクを生む場合もあり、そのメリットとデメリットをしっかりと理解することが重要です。以下で詳細を説明します。
6-1.任意後見のメリット
任意後見制度の最大のメリットは、本人が自分で希望する人物を後見人として選べる点です。また、任意後見の場合、財産の管理対象や代理権の範囲を、管理を任せたい財産や行為、任せたくない財産、行為といったように自由に定められます。
柔軟に設定できるため、創業者の例えば、本人が支配株主である場合、その株式を管理対象に含めるかどうかを選べます。
さらに、施設に入居するタイミングなど、本人が居住する不動産売却時に、成年後見と異なり、家庭裁判所の許可を得る必要がないため、売却の手続きをスムーズに行えます。
6-2.任意後見のデメリット
しかし、任意後見制度も万能ではありません。
任意後見監督人として法律専門家が選任されることが一般的で、その報酬が必要です。また、任意後見受任者やその近親者は、監督人にはなれない制限があります。そして、何らかの理由で任意後見が本人の利益にならないと判断された場合、法定後見に移行する可能性があります。これは、本人の自己決定権が制限される可能性があるという点で注意が必要です。
以上のように、成年後見と任意後見、それぞれにはメリットとデメリットが存在します。どちらの制度を選ぶかは、本人の状況やニーズ、そして将来にわたる生活設計に密接に関わっています。
よく理解し、慎重に選択することが重要です。
7.まとめ
- 後見人とは、他人の法的な代理人として財産管理や身上監護などを行う人物を指し、成年者を保護する成年後見人、未成年者を保護する未成年後見人、予め契約で指定する任意後見人の3種類がある
- 後見人になるための資格はないので誰でもなれるが、未成年者や過去に後見人を家庭裁判所によって解任された者、後見人として不適切な経歴を持つ者はなれない
- 後見人は成年後見人は家庭裁判所、未成年後見人は親権者の遺言で指定又は家庭裁判所が選任するが、任意後見人は予め契約で定まる
- 成年後見には財産管理や身上監護に関するメリットがあるが、後見人や後見監督人への報酬の支払いや、財産の積極的な運用ができないなどのデメリットも存在する
- 任意後見制度は本人の意志に基づいて後見人が選ばれ、財産の管理対象を柔軟に設定できる
- 任意後見には法律専門家が監督人として選任されることが多く、その報酬が必要であるなどのデメリットもある
- 成年後見と任意後見の選択は、本人の状況や将来の生活設計に密接に関わるため、慎重な選択が必要である
以上が、後見人と各制度の違いについての解説です。どの制度もそれぞれの状況やニーズに応じて有用ですが、デメリットも確実に存在します。そのため、後見人制度を利用する際は、しっかりとした計画と理解が必要です。
もし、後見制度についての疑問や不明点があれば、お気軽に無料相談をご利用ください。専門のアドバイザーがあなたの状況に合った最適なアドバイスを提供いたします。
後見制度は人生の大きな転機とも言える選択です。しっかりとした知識と準備で、安心した未来を手に入れましょう。お問い合わせをお待ちしております。