「後見人」という言葉を耳にしたことはありますか?この言葉が関わる成年後見制度は、高齢化社会や多様な家庭形態が増える現代において、ますます重要性を増しています。
しかし、後見人には誰がなれるのか、費用や手続きの方法など具体的なやり方を知っていなければ、実際に利用するかどうか判断することができません。
記事のポイントは、以下のとおりです。
- 後見人とは、他人の法的な代理人として財産管理や身上監護などを行う人のこと。
- 成年後見制度には、既に判断能力が低下している人のための「法定後見」と将来の判断能力低下に備えて契約を結ぶ「任意後見」がある。
- 後見人になるための資格はないので、基本的には誰でもなれる。ただし、未成年など責任がとれない人は対象外となる者もいる。
- 成年後見人は家庭裁判所(未成年後見人は親権者の遺言で指定も含む)が選任するが、任意後見人は予め契約で定まる
- 成年後見と任意後見の選択は、本人の状況や将来の生活設計に密接に関わるため、慎重な選択が必要である
この記事は、後見人を選ぶ際、または自分自身が後見人になる可能性がある方、後見人について関心をお持ちの方に対し、後見人の役割やできる範囲、手続きや費用をお伝えします。
目次
1.後見人ってどんな人?
後見人とは、認知症や知的障害などにより十分な判断能力を持たない人々の支援を行うために、家庭裁判所によって指名される人のことを指します。主に成年後見人と未成年後見人の二種類がありますが、基本的に「後見人」というと前者を指します。
後見人は、認知症や脳の障害などで、普通の生活やお金の管理が難しい人を「身上監護」と「財産管理」の面から支援します。身体障害がある方については対象外です。
【注意】よく出てくる他の役割
なお、成年後見制度は複雑で、役割ごとに権限が異なります。似たような名称があるので気を付けましょう。
被後見人
後見開始の審判を受けた人は「被後見人」と呼ばれます。これは、自己の財産管理や日常生活に関する重要な決定を行う際に、後見人の支援を受ける人であることを意味します。
成年後見監督人
「成年後見監督人」は、後見人が適切に職務を遂行しているかを監督する役割を担います。後見人をご家族が行うケースで、被後見人の権利と利益を守るために選任されます。
2.成年後見制度とは?
成年後見制度は、判断能力の低下した人々をサポートするための法的な枠組みです。この制度は大きく「法定後見」と「任意後見」の2つに分類されます。
法定後見
法定後見は、既に判断能力が低下している人のための制度です。家庭裁判所がこの人たちをサポートする「法定後見人」を選びます。申立ての際、候補者を提案することは可能ですが、最終的には裁判所が本人の状況を考慮して決定します。
法定後見人のことを成年後見人と表現することも多々あるのですが、厳密には「成年後見人」「保佐人」「補助人」の3種類があります。これらは本人の判断能力の低下具合によって異なります。最も判断能力が低下している場合には「成年後見人」が選ばれ、財産管理や医療判断、契約締結など、本人に代わって多くの法的手続きを行います。
どのタイプが適切かは、医師の診断や本人との面談を基に裁判所が判断します。
また、「成年後見」「保佐」「補助」とは異なる類型のものとして、「未成年後見」があるということを知っておきましょう。
任意後見
任意後見は、まだ判断能力が保たれているうちに、将来の判断能力低下に備えて契約を結ぶ制度です。本人は、将来のサポートを行う「任意後見人」と事前に契約します。
契約後は本人が健康な間は通常の生活を続け、判断能力が低下した際に、家庭裁判所で「任意後見監督人」を選任することで、任意後見人によるサポートが始まります。
法定後見は、すでに判断能力が低下している状況に対応するため、本人の契約に取消権があります。一方、任意後見は本人の意思に基づいて後見人を選ぶため、本人の意思を尊重することに重きを置いているため、本人が不利益な契約をしても、任意後見人は取消権を行使できません。
このように、成年後見制度は、判断能力が低下した人々の生活と権利を守るために設計されています。法定後見と任意後見は、それぞれ異なる状況とニーズに応じて設計されているのです。
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3.後見人には誰がなれる?
後見人を選ぶ際には多くの要因が考慮されるべきですが、成年後見人、未成年後見人、任意後見人になる資格は特定の職業に限られていないため、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門資格は必須ではありません。しかし、後見人になるには家庭裁判所の手続きが必要であり、その審理の過程で特定の条件に該当する人は後見人になれないとされています。
具体的には、民法により以下のような人々は後見人になる資格がありません。
さらに、上記の条件に該当しなくても、被後見人(本人)と後見人候補者の住所が遠く離れている場合や、過去に本人の財産を不正に使用したなどの事実がある場合も、後見人として不適切と判断される可能性があります。
4.家族が後見人になるメリット・デメリット
後見人には特別な資格は必要ありませんが、家族が後見人になる場合は慎重な判断が求められます。
4-1.家族が後見人になるメリット
信頼関係に基づくケア
家族は被後見人にとって信頼できる存在であり、財産管理や身上監護を安心して任せられます。また、被後見人の性格や生活習慣を熟知しているため、本人の意向を反映しやすく望みに沿ったサポートが可能です。
コストの削減
家族が後見人になる場合、通常は報酬が発生しません。これにより、被後見人の財産的な負担を軽減できます。
4-2.家族が後見人になるデメリット
財産の使い込みリスク
家族間での緊張感の欠如が、財産の不適切な使用や使い込みのリスクを高める可能性があります。もしほかに兄弟がいる場合には、財産管理の透明性を確保しておかないと、後々争いになってしまう可能性もあるので注意が必要です。
事務作業の負担
後見人は定期的に財産目録や収支報告書を作成し、裁判所に提出する必要があります。これらの事務作業は、特に法律に詳しくない家族にとって大きな負担となることがあります。
5.専門家が後見人になるメリット・デメリット
後見人の選任では、法律の専門家に依頼するケースも多く検討されます。弁護士や司法書士などの専門家は、豊富な実務経験と法的知識を活かして後見業務を遂行します。しかし、専門家への依頼にも様々な考慮点があります。
5-1.専門家が後見人になるメリット
法的な専門知識と経験
司法書士や弁護士などの専門家は、使い込みのリスクを抑え、適切な財産管理を行います。また、裁判所への報告も専門家に任せることができ、手間を省くことができます。
トラブル防止と解決力
専門家は中立的な立場で後見業務を行うため、家族間のトラブルを避けることができます。
5-2.専門家が後見人になるデメリット
報酬の発生
専門家が後見人になる場合、報酬が必ず発生します。これは被後見人の財産から支払われるため、経済的な負担となります。
きめ細かな対応が難しい
専門家は被後見人と個人的な関係がないため、被後見人の個人的な希望やニーズを理解するのに時間がかかることがあります。
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6.後見人になるには?|職務・選任方法
後見人を選ぶ際には、いくつかの重要なポイントがあります。被後見人の種類別に職務や選任方法、役割は異なりますので、一つ一つ解説していきます。
① 成年後見人の場合
成年後見人は、精神障害や認知症により判断能力が著しく低下し、日常的な買い物や預貯金の管理も自分では難しい状態の方を支援する人をさし、本人の財産管理と身上保護について、最も広範な権限を持ちます。
成年後見人の役割と職務内容
財産管理
本人の資産を適切に管理し、契約の締結や金融取引を代行します。具体的には、年金や預貯金の管理、不動産の維持・処分、税金や公共料金の支払いなどが含まれます。
身上保護
本人の生活や健康に関わる契約を代行します。これには、医療機関での治療契約や介護施設への入所契約が含まれます。
ただし、日常生活の世話や本人にしかできない特定の法律行為は含まれません。
家庭裁判所に報告書を提出
成年後見人は、職務を適切に行っているかを確認するため、年に一度は家庭裁判所に報告書を提出する義務があります。報告書には、財産の状況や行った法律行為、収支報告などが含まれます。
成年後見人ができないこと
日常生活における単純な事実行為や、特定の身分法上の行為が含まれます。具体的には、日用品の購入や食事の提供、病院への送り迎えなどの日常的な事実行為は代行できません。また、保証人になることや、婚姻届や離婚届の提出も成年後見人の職務には含まれません。
成年後見人の選任方法
成年後見人を選ぶ際には、先述した後見人となれる要件を考慮して家庭裁判所が最終的な決定を下します。申し立てをするときには、申立人から候補者を提示することができますが、その人が必ず選ばれるわけではありません。
裁判所は、候補者の信頼性や専門性、そして本人や家族の状況を総合的に考慮して選びます。下記のようなケースでは、親族以外の専門家が選任されることが多いです。
- 本人が所有する財産が多額で、管理が難しい
- 親族間で本人の財産管理方針に対立がある
- 親族が後見人となることについて、他の親族からの同意が得られない
- 成年後見人となる候補者の経歴に問題がある
② 保佐人の場合
保佐人は、判断能力が著しく不十分で、重要な財産管理や契約行為について適切な判断ができない方を支援します。日常的な判断は可能ですが、重要な財産管理には保佐人の同意が必要となります。
保佐人の役割と職務内容
保佐人は、被保佐人(保佐を受ける人)の法律行為に対して、同意権、取消権、代理権を持ちます。これらの権限により、被保佐人が不利益な取引や詐欺などのリスクから守られるようにします。
同意権・取消権
被保佐人が重要な法律行為を行う際、保佐人の同意が必要です。これには、不動産取引、貸借、訴訟行為などが含まれます。もし被保佐人が保佐人の同意なしにこれらの行為を行った場合、保佐人はその行為を取り消すことができます。
代理権
通常、保佐人には代理権はありませんが、特定の状況下で家庭裁判所の審判により代理権が付与されることがあります。代理権がある場合、保佐人は被保佐人に代わって法律行為を行うことができます。
保佐人の選任方法
保佐人の選任は、家庭裁判所によって行われます。候補者は、本人やその家族、関係者から提案されることが一般的です。適切な保佐人の選定は、被保佐人の安全と利益を守る上で非常に重要です。
保佐人は、被保佐人の経済的な取引や日常生活における重要な決定に関わるため、信頼性と適切な判断能力を持つことが求められます。また、被保佐人の状況やニーズを理解し、その最善の利益を考慮して行動できる人物が望ましいです。
③ 補助人の場合
補助人は、判断能力が不十分ながらも、日常生活は概ね自立しており、重要な契約や財産管理の一部でサポートが必要な方を支援します。本人の自己決定権を最大限に尊重しながら、特定の法律行為について支援を行います。
補助人の役割と職務内容
補助人は、被補助人(補助を受ける人)の法律行為に対してサポートを提供します。補助人の主な役割は、被補助人が行う一部の法律行為について同意を与えることです。これにより、被補助人が自己の判断で行動できる範囲を保ちつつ、重要な決定において適切なサポートを受けることができます。
同意権・取消権
補助人は、被補助人が行う家庭裁判所の審判により定められた特定の法律行為に対して同意権を持ちます。もし、被補助人が不適切な法律行為を行った場合、取消権を行使できますが、補助人が同意した行為についてのみと限定的です。
保佐人と異なり、補助人の同意権・取消権はより限定的であり、家庭裁判所の審判に基づくものです。
代理権
補助人には原則として代理権は付与されませんが、特定の状況下で家庭裁判所が代理権を認めることがあります。これは、被補助人が特定の法律行為を行うのが難しい場合に限られます。代理権が付与されると、補助人は被補助人に代わって法律行為を行うことができますが、これには被補助人の同意が必要です。
被補助人の自立を尊重するために、補助人の代理権は保佐人のそれよりさらに限定的でとなっています。
補助人の選任方法
補助人の選任は、家庭裁判所によって行われます。候補者は、本人やその家族、関係者から提案されることが一般的です。適切な補助人を選ぶことは、被補助人の自立と保護のバランスを取る上で重要です。
補助人には、被補助人の日常生活や法律行為に関する知識と理解が求められます。また、被補助人の意向と利益を尊重し、そのニーズに応じて適切なサポートを提供できる能力が必要です。
④ 未成年後見人の場合
未成年後見人は、親権者が死亡や失踪などにより不在となった未成年者の財産管理や身上監護を行います。親権者に代わって18歳未満の未成年者の生活全般を支える重要な役割を担います。
未成年後見人の役割と職務内容
未成年後見人は、成年後見人とは異なり親権者と同等の権限を持ちます。これには、子どもの監護や教育内容、居住地の決定などが含まれます。成年後見人が主に法律行為に関わるのに対し、未成年後見人は子どもの日常生活に関わる広範な権限を持つ点が大きな違いです。
財産管理
未成年後見人の主要な職務の一つは、未成年者の財産を管理することです。これには、預貯金の管理、不動産や有価証券の保有状況の監督、必要に応じた財産の運用などが含まれます。未成年者の財産を適切に管理し、将来にわたってその利益を最大化することが求められます。
身上保護
未成年者の日常生活や健康、教育に関する面倒を見ることも未成年後見人の重要な職務です。これには、適切な住居の確保、教育機関への入学手続き、必要な医療サービスの提供などが含まれます。未成年者が安全で健全な環境で成長できるようにサポートすることが求められます。
家庭裁判所に報告書を提出
未成年後見人も、年に一度は家庭裁判所に財産目録や収支予定表を提出する必要があります。親族が未成年後見人になる場合、多くは未成年者と一緒に住んで実際に監護養育を行います。専門家が未成年後見人になる場合は、未成年者と一緒には住まず、主に財産管理や進学先の決定が職務内容となります。
このように、未成年後見人は子どもたちの安全と福祉を守るために非常に重要な役割を果たします。適切な人選は、子どもたちの未来に大きな影響を与えるため、慎重に行われる必要があります。
未成年後見人の選任方法
この制度は、子どもたちが親権者を持たない、または親権者がその役割を果たせない特定の状況下で活用されます。
例えば、子どもの両親が亡くなった場合や、離婚により親権者がいなくなった場合、さらには親権者が虐待などの理由で親権を失った場合などがこれに該当します。しかし、実際には、親権者がいない場合でも、親族などが子どもの面倒を見ていることもあります。
未成年後見人の選任が特に重要になるのは、以下のような状況です。
- 子どもに財産があり、それを管理する必要がある場合
- 子どもを養子に出す際に、法的な同意が必要な場合
- 相続財産の分割に関わる必要がある場合
未成年後見人の選任方法には、主に二つの方法があります。一つは、親権者が遺言で指定する方法です。もう一つは、家庭裁判所に請求して選任する方法です。
7.判断能力があるなら「任意後見人」に
任意後見制度は、将来的に判断能力が低下することを予測して、事前にサポート体制を整えるための制度です。この制度では、本人が自ら選んだ「任意後見人」が重要な役割を果たします。
任意後見制度の大きな特徴は、任意後見契約書によって、積極的な資産運用が可能であることです。本人が判断能力が十分なうちに、自身の意思で契約内容を決定し、受任者の同意を得ることで、違法でない限り自由に資産運用を行うことができます。
7-1.任意後見人の役割と職務内容
任意後見人の主な職務は、財産管理と身上監護の二つに大別されます。
財産管理
これは、被後見人の財産、例えば預貯金や不動産などの管理を意味します。ただし、後見人は本人の利益になることのみに権限を使います。そのため、相続税対策としての生前贈与や積極的な資産運用は通常行いません。
身上監護
被後見人の日常生活の安定や、医療・介護サービスの利用に関わる法律行為を行います。住居の確保、介護施設の利用手続き、医療費の支払いなどがこれに含まれます。
任意後見監督人への報告義務
また、任意後見人は、任意後見監督人に対して報告をする義務を負います。「任意後見監督人」とは、任意後見人の後見事務を監督するために選任される人で、任意後見人が本人の利益に沿って適切に職務を遂行しているかを監視するための措置です。
任意後見監督人について詳しく解説している記事もあるので、気になる方はチェックしてください。
7-2.任意後見人ができないこと
任意後見人は、本人との任意後見契約に基づいて行動しますが、その範囲には制限があります。例えば、本人の代わりに結婚や離婚などの行為をしたり、任意後見契約に違反する行為は許されません。また、成年後見人と異なり、本人の意思で締結した契約を一方的に取り消すこともできません。
7-3.任意後見人の選任方法
任意後見人は、本人との間で結んだ任意後見契約に基づいて選ばれます。この契約により、本人は自由に後見人を選ぶことができるため、信頼関係が非常に重要です。信頼できる家族や友人、または専門家を選ぶことが一般的です。特に、同世代の人を選ぶよりも一世代下を選ぶことが推奨されています。また、専門家に依頼するケースとしては、専門家の報酬はかかりますが、身寄りがいない、本人の近くに親族が住んでいないといった場合などがあります。
8.【徹底比較】法定後見人と任意後見人
法定後見人と任意後見人は、それぞれ異なる状況やニーズに対応するために設計されています。
8-1.「法定後見人」と「任意後見人」を8項目から比較
以下の8項目で両者を徹底的に比較します。
この比較から、法定後見人は本人の判断能力が低下した後の保護に重点を置き、任意後見人は本人の意思を尊重しつつ、将来的なサポートを計画することが分かります。それぞれの制度は、異なる状況とニーズに応じて選択されるべきです。
8-2.どっちがいい?|メリット・デメリット
成年後見と任意後見、それぞれにはメリットとデメリットが存在します。どちらの制度を選ぶかは、本人の状況やニーズ、そして将来にわたる生活設計に密接に関わっています。よく理解し、慎重に選択することが重要です。
成年後見人になるメリット
成年後見制度は、本人に代わって財産管理や身上監護に関する行為を行う包括的な代理権を後見人に与えるため、非常に便利です。このような代理権があることで、例えば、介護サービスや医療に関する契約の手続きがスムーズに行えます。
さらに、後見が開始された後に本人が行った特定の法律行為を取り消す能力も後見人にはあります。これは、特に認知症などで判断能力が低下した場合に有用です。
成年後見人になるデメリット
たとえば、後見人として法律専門家が関与することが多く、その報酬が発生します。また、後見人が財産を積極的に運用することは原則としてできず、財産の現状維持が主な目的となります。
さらに、一度後見人が選任されると、本人が亡くなるまでその地位から退くことは基本的にできません。これは、長期的なコミットメントが必要であるという点で、慎重な選定が求められます。
任意後見人になるメリット
任意後見制度の最大のメリットは、本人が自分で希望する人物を後見人として選べる点です。そして、財産の管理対象や代理権の範囲を、管理を任せたい財産や行為、任せたくない財産、行為といったように自由に定められます。柔軟に設定できるため、例えば本人が支配株主である場合、その株式を管理対象に含めるかどうかを選べます。
さらに、施設に入居するタイミングなど、本人が居住する不動産売却時に、成年後見と異なり、家庭裁判所の許可を得る必要がないため、売却の手続きをスムーズに行えます。
任意後見人になるデメリット
デメリットとしては、本人に判断能力の低下が見られると選任される任意後見監督人の存在が挙げられるでしょう。基本的には、法律専門家が選任されることが一般的で、その報酬が必要です。また、任意後見受任者やその近親者は、監督人にはなれない制限があります。
そして、何らかの理由で任意後見が本人の利益にならないと判断された場合、法定後見に移行する可能性があります。これは、本人の自己決定権が制限される可能性があるという点で注意が必要です。
8-3.成年後見人になったほうがいいパターン
任意後見制度は、その自由度の高さから魅力的に感じられることが多いです。しかし、すべての状況において最適な選択とは限りません。では、成年後見制度を選ぶべき状況とはどのようなものでしょうか?
上記でもお伝えした通り、任意後見制度の最大の魅力は、財産管理の方法を本人が自由に選択できる点にあります。しかし、この制度には限界も存在します。特に、任意後見人の権限は契約書で定められた範囲に限られるため、本人が行った法律行為を取り消すことはできません。
任意後見制度では対応できない状況が生じた場合、成年後見制度への移行が必要になることがあります。例えば、本人が不適切な法律行為を行った場合や、任意後見契約で定めた代理権の範囲を拡張する必要がある場合です。任意後見制度が発効している最中でも、本人の利益を守るために特に必要がある場合には、制度の変更が可能です。
本人の行為を取り消す必要がある場合や、より広範な保護が必要な場合には、成年後見制度への移行が適切な選択となるでしょう。どちらの制度を選ぶかは、本人の状況やニーズに応じて慎重に判断する必要があります。
9.後見人手続きの流れと費用
後見人になるためには、いくつかの手続きが必要です。また、その手続きには費用がかかります。以下では、利用数が多い成年後見人と任意後見人の手続き、それぞれの制度にかかる費用を中心に説明します。
9‐1.成年後見人の手続きと費用
成年後見人の手続きの流れと費用は次の通りです。
成年後見制度の手続きの流れ
①申立人と裁判所の確認
成年後見制度を利用する場合、最初のステップは家庭裁判所に申し立てを行うことです。申し立てが可能なのは、本人、配偶者、または四親等以内の親族です。申し立てを行う前に、家庭裁判所の場所と、申し立てが可能な人物を確認しておくことが重要です。
②医師による診断書の作成
次に、医師に診断書を作成してもらいます。この診断書は、被後見人の判断能力を評価するために必要です。診断書以外にも、多くの書類が必要とされるので、事前にしっかりと準備しておくことが求められます。
③面接日程の予約と審査
書類が整ったら、家庭裁判所で面接の日程を予約します。面接では、申し立ての内容や被後見人の状況について詳しく聞かれます。面接が終わると、裁判官による審査が始まります。審査には時間がかかる場合もあるので、余裕を持って手続きを進めることが推奨されます。
④成年後見人の選任
審査が終わると、成年後見人が正式に選任されます。選任された成年後見人は、成年被後見人の財産管理や身上監護などの活動を開始します。この段階で、成年後見人としての仕事が本格的に始まります。
成年後見制度の費用
申立費用
成年後見制度の費用は、いくつかの項目に分かれます。基本的な費用としては、申し立て手数料、後見登記手数料、診断書作成料などがあります。これらの費用は合計で約2万円前後が一般的です。
さらに、特定のケースでは追加の費用が発生する可能性があります。例えば、裁判所が鑑定を必要と判断した場合、その鑑定費用が5~10万円程度かかることもあります。
専門職後見人の報酬
専門家が成年後見人に選任された場合は、その報酬も考慮する必要があります。報酬はケースによって異なりますが、管理する財産額に応じて月額2~6万円程度、更に特別な事情があった場合には、基本報酬額の50%以内で付加報酬が支払われます。事前にしっかりと確認しておくことが重要です。
成年後見人としての活動が長期にわたる場合、その間に発生する費用も考慮する必要があります。成年後見人に報酬を支払う必要がある場合、その総額はかなり大きくなる可能性があります。
9‐2.任意後見人の手続きと費用
任意後見人の手続きの流れと費用は次の通りです。
任意成年後見制度の手続きの流れ
①任意後見契約の内容を決める
最初のステップとして、将来にわたる具体的な生活設計、通称「ライフプラン」を策定することが重要です。このライフプランは、任意後見人が将来的にどのような判断をすべきかの指針となる文書です。具体的な金額や期間もしっかりと記載しておくことが推奨されます。
そして、任意後見人に何を依頼するのかを決めます。任意後見人に具体的にどのようなことを依頼するかは、契約当事者同士の自由な契約によります。任意後見契約で委任することができる(代理権を与えることができる)内容は、財産管理のほか、医療や介護サービス締結といった療養看護に関する事務や不動産の売却や金融取引などの法律行為です。ライフプランに基づき依頼する内容を決めます。
公正証書の作成と内容
契約内容が決まったら、本人と任意後見人候補は最寄りの公証役場で公正証書を作成します。この公正証書には、報酬やその他の条件、任意後見人が行う具体的な業務内容、任意後見監督人に関する希望などが詳細に記載されます。
任意後見監督人の申立てとその重要性
判断能力が低下した場合には、任意後見監督人の選任を申し立てる必要があります。この監督人が選任されると、任意後見契約が法的に有効となり、任意後見人はその業務を開始できます。任意後見監督人は、任意後見人が適切に業務を遂行しているかを監視する役割を果たします。
任意後見制度の費用
報酬とその設定方法
任意後見人への報酬は、本人と任意後見人間で自由に設定できます。無償とすることもできます。専門家に依頼した場合には、財産額に応じて2~6万円前後の報酬が相場ですが、業務の内容や負担度に応じて変動する場合もあります。
公正証書関連の費用とその内訳
公正証書の作成にはいくつかの費用が発生します。基本手数料は11,000円、登記嘱託手数料は1,400円、印紙代は2,600円となっています。これ以外にも、正本の発行費用や郵送費用などが発生する場合があります。
任意後見監督人の報酬とその基準
任意後見監督人に支払う報酬は、家庭裁判所が決定します。管理財産額に応じて、月額1万円から3万円が一般的です。
10.まとめ
- 後見人とは、他人の法的な代理人として財産管理や身上監護などを行う人のこと。
- 成年後見制度には、既に判断能力が低下している人のための「法定後見」と将来の判断能力低下に備えて契約を結ぶ「任意後見」がある。
- 後見人になるための資格はないので、基本的には誰でもなれる。ただし、未成年など責任がとれない人は対象外となる者もいる。
- 成年後見人は家庭裁判所(未成年後見人は親権者の遺言で指定も含む)が選任するが、任意後見人は予め契約で定まる
- 成年後見と任意後見の選択は、本人の状況や将来の生活設計に密接に関わるため、慎重な選択が必要である
以上が、後見人と各制度の違いについての解説です。どの制度もそれぞれの状況やニーズに応じて有用ですが、デメリットも確実に存在します。そのため、後見人制度を利用する際は、しっかりとした計画と理解が必要です。
もし、後見制度についての疑問や不明点があれば、お気軽に無料相談をご利用ください。専門のアドバイザーがあなたの状況に合った最適なアドバイスを提供いたします。
後見制度は人生の大きな転機とも言える選択です。しっかりとした知識と準備で、安心した未来を手に入れましょう。お問い合わせをお待ちしております。