不動産の家族信託|売却時の注意点から費用・税金まで専門家が解説

大切な不動産の将来を守り、ご家族の希望を形にするための有効な選択肢として、近年「家族信託」が注目されていますが、いざ家族信託を検討しようとしても、手続きや費用、税金の問題など具体的な疑問は尽きません。アパートなどを貸している不動産オーナーの方は、特に事前の対策が重要です。

今回の記事のポイントは以下のとおりです。

  • 家族信託は、信頼できる家族に不動産などの財産管理を託し、将来の認知症リスクなどに備えつつ、指定した人が利益を受け取る制度
  • 家族信託の最大の利点は、認知症などによる資産凍結を防ぎ、遺言では難しい二次相続以降の柔軟な資産承継を実現できること
  • 信託契約書に売却権限を明記しておけば、受託者が信託された不動産を売却し、その代金を受益者のために活用できる
  • 受託者の重い責任や契約変更の難しさ、ローン付き不動産や税務上の制約(損益通算不可など)を理解しておく必要がある
  • 不動産の信託は、信託契約書を公正証書で作成し、信託登記信託口口座開設をする必要がある
  • 家族信託では登録免許税や固定資産税、所得税、相続税などが関係するが、直接的な節税対策にはならない

この記事では、家族信託の仕組みや不動産相続を行うメリット、注意点などを解説します。

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1.不動産の家族信託の仕組みは?

家族信託の「信託」とは、預貯金や不動産、株式といった財産を信頼できる人に託し、その運用や管理を代行してもらう制度です。特に高齢化や認知症リスクが高まる中で、不動産の管理や相続対策として注目されています。

信託契約を交わした場合、委託者・受託者・受益者という3者関係が生じます。

委託者:自分の財産を託す人
受託者:委託者から託された財産の管理や運用、処分を代行する人
受益者:受託者の管理や運用によって出た利益を受け取る人(委託者や受託者と同じ人がなることもある)

例えば、お父さん(委託者)が、将来認知症などで判断能力が衰えてしまったときに備えて、長男(受託者)に自宅不動産の管理や、必要になったときの売却を任せたいと考えたとします。そして、その家賃収入や売却代金は、お父さん自身(受益者)の生活費や介護費用に充てる、というような形です。

このように、財産を「託す人」託されて「管理する人」、そしてその財産から「利益を得る人」という3つの役割分担で、大切な不動産を守り、活用していくのが家族信託の基本的な仕組みです。

1-1.不動産の家族信託が注目される理由

高齢化が進む日本では、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると推計されています。認知症などで判断能力が低下すると、不動産の売却や賃貸、修繕などの契約行為ができなくなり、いわゆる「資産凍結」状態に陥ります。

この状態になると、たとえご家族であっても本人の代わりに不動産を動かすことができません。成年後見制度を利用する方法もありますが、手続きが煩雑で、家庭裁判所の許可が必要になるなど柔軟な対応が難しいのが現実です。

家族信託を活用すれば、あらかじめ信頼できる家族(受託者)に不動産の管理や売却の権限を託しておくことができるため、認知症になってもスムーズに必要な手続きを進められます。

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2.不動産を家族信託する4つのメリット

大切な不動産を家族信託にすることで、具体的にどのような安心や価値が得られるのでしょうか?「家族信託って難しそう…」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、実はあなたの将来やご家族の暮らしを守るための、たくさんのメリットが詰まっています。

ここでは、特に知っておきたい4つの大きなメリットを、わかりやすくご紹介します。

メリット❶:資産凍結リスクを回避|将来も不動産を柔軟に動かせる安心感

もし認知症などで判断能力が低下してしまうと、たとえご自身の不動産であっても、売却したり、大規模なリフォームをしたり、賃貸契約を結んだりといった法律行為ができなくなってしまいます。これが「資産凍結」と呼ばれる状態です。

そうなると、介護費用を捻出するために自宅を売りたくても売れない、空き家になった実家を放置するしかない、といった事態に陥りかねません。

家族信託を設定しておけば、あなたが元気なうちに信頼できる家族(受託者)に不動産の管理や処分の権限を託しておくことができます。これにより、万が一、あなたの判断能力が低下した後でも、受託者である家族があなたの想いに沿って、スムーズに不動産の売却や管理を行えるようになります。

メリット❷:二次相続以降の承継先も指定可能|あなたの想いを孫、さらにその先へ

「この家は長男に、そして長男が亡くなったら孫の〇〇に継いでほしい」。そんな風に、ご自身の財産を誰に、どのように引き継いでいきたいかという想いは、一代限りではないことも多いでしょう。しかし、一般的な遺言書では、基本的に一代先(例:子)までの相続しか指定できません。

家族信託の大きな魅力の一つが、「二次相続」(例:子が亡くなった後)や、さらにその先の世代の承継者まで指定できる「後継遺贈型受益者連続信託」という仕組みがあることです。これにより、例えば「妻が亡くなった後は長男へ、長男が亡くなった後は長男の子(孫)へ」といった形で、あなたの不動産を誰に引き継いでいってもらうかを、長期的な視点で設計することができます。

メリット❸:共有名義不動産の「売れない・貸せない」問題を解消|スムーズな管理で不動産を有効活用

不動産を兄弟姉妹など複数人で共有しているケースは少なくありません。しかし、共有名義の不動産は、共有者全員の同意がなければ売却したり、大規模な修繕をしたり、賃貸に出したりすることができません。もし共有者の一人が認知症になったり、行方不明になったり、あるいは単純に意見がまとまらなかったりすると、不動産が「塩漬け」状態になってしまうリスクがあります。

家族信託を活用すれば、共有者全員が委託者となり、信頼できる一人の代表者(または法人など)を受託者として、不動産の管理・処分権限を集中させることができます。これにより、共有者間の意見調整の手間が省け、迅速な意思決定が可能になります。

メリット❹:収益不動産の安定経営とスムーズな事業承継をサポート

アパートやマンション、駐車場などの収益不動産をお持ちの方や、事業を経営されている方にとって、ご自身の判断能力が低下した後も、その収益性や事業をどう維持していくかは大きな課題です。

家族信託を利用すれば、あなたが元気なうちに、これらの収益不動産や事業用資産の管理・運営権限を信頼できる後継者(例えば子など)に託すことができます。受託者となった家族は、信託契約に基づいて家賃の回収、物件の修繕、新規の賃貸契約、さらには物件の売却や建て替えといった積極的な管理運営を行えるようになります。その間も、あなたは受益者として家賃収入などの利益を受け取り続けることができるため、生活の安定も図れます。

3.【事例紹介】不動産を信託したほうがいいケース

「家族信託」って、どんな場合に活用できるの?いまいちピンと来ない… 、という方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、家族信託が特に役立つ3つのケースを、具体的な例を交えてご紹介します。

CASE❶:施設入所で空き家になる実家を子どもに託したい

こんなお悩みありませんか?

高齢のお父様が、老人ホームなどの施設に入居することになり、これまで住んでいた実家が空き家になる。将来的に、その家を売却するかもしれないし、賃貸に出すかもしれない。しかし、お父様はすでに高齢で、認知症の症状も出始めており、不動産の手続きをご自身で行うのは難しい…。

家族信託で解決!

お父様(委託者兼受益者)と、息子さん(受託者)で家族信託契約を結びます。契約の中で、息子さんはお父様の代わりに、実家の管理・売却・賃貸などの権限を持つことを明確にします。

これにより、お父様の判断能力が低下した後でも、息子さんはご自身の判断で、実家を売却したり、賃貸に出したりすることができます。売却代金や家賃収入は、信託契約に基づいて、お父様の生活費や施設への入居費用などに充てることができます。

CASE➋:賃貸アパートの経営をスムーズに引き継ぎたい

こんなお悩みありませんか?

長年、賃貸アパートを経営してきたお母様。高齢になり、日々の管理業務が大変になってきた。そろそろ息子さんに経営を引き継ぎたいけれど、相続となると税金もかかるし、手続きも煩雑。それに、もしお母様が認知症になってしまったら、アパートの管理や契約更新などがストップしてしまうのではないかと心配…。

家族信託で解決!

お母様(委託者兼受益者)と、息子さん(受託者)で家族信託契約を結びます。契約の中で、息子さんはお母様の代わりに、アパートの管理・修繕、入居者との契約、家賃の集金などの権限を持つことを明確にします。

これにより、お母様がご存命のうちから、息子さんはアパートの経営を引き継ぎ、スムーズな事業承継を進めることができます。家賃収入はお母様の生活費として活用し、万が一、お母様の判断能力が低下した後でも、息子さんはアパートの経営を継続することができます。

CASE❸:障がいのある子に、安定した財産を残したい

こんなお悩みありませんか?

障がいのある息子さんの将来が心配。自分たちが亡くなった後、息子さんがきちんと生活していけるように、十分な財産を残してあげたい。しかし、息子さん自身で財産を管理するのは難しいし、もしものことがあった場合に、財産が適切に使われるかどうかも不安…。

家族信託で解決!

ご両親(委託者)と、信頼できる親族や専門家(受託者)で家族信託契約を結び、息子さん(受益者)を受益者とします。契約の中で、受託者は息子さんの生活費や医療費などを、定期的に支払うことを明確にします。

これにより、ご両親が亡くなった後でも、受託者は信託契約に基づいて、息子さんのために財産を管理し、必要な費用を支払うことができます。万が一、息子さんが亡くなった場合には、残った財産を誰に引き継ぐか(例えば、兄弟姉妹や福祉施設など)も、事前に決めておくことができます。

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4.不動産信託の前に知っておくべきデメリットと注意点

家族信託は多くのメリットがある一方で、知っておかなければならないデメリットや注意点も存在します。これらを理解せずに進めてしまうと、「こんなはずじゃなかった…」と後悔することにもなりかねません。

大切な不動産を託す前に、以下の5つのポイントをしっかり確認しておきましょう。

注意点1:受託者の責任と負担を踏まえた選定が必要

家族信託では、財産を託される「受託者」の役割が非常に重要です。受託者は、信託契約に基づいて財産を管理・運用・処分する大きな権限を持ちますが、それと同時に重い責任も負います。

したがって、受託者には、以下の責任と負担を理解し、適切に役割を果たせる能力と誠実さを持った人を選ぶことが極めて重要です。

無限責任のリスク

信託財産の管理費用(修繕費など)や、信託財産から生じた債務(例えば、信託された賃貸マンションの経営が悪化し、修繕費用を借り入れた場合の返済など)について、信託財産だけで賄いきれない場合、受託者が自身の個人財産で支払う「無限責任」を負う可能性があります。これは受託者にとって大きな精神的・経済的負担となり得ます。

多岐にわたる義務

受託者には、善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)信託財産を自身の財産と分別して管理する義務(分別管理義務)帳簿作成・報告義務など、法律で定められた様々な義務があります。これらを適切に果たすには、相応の時間と労力が必要です。

注意点2:契約内容の目的や権限範囲を明確に

家族信託の成功は、「信託契約書」の内容にかかっていると言っても過言ではありません。この契約書が、信託の目的、受託者の権限、財産の管理方法、信託の終了条件など、すべてを定める設計図となるからです。

専門家とよく相談し、ご自身の家族の状況や希望に合わせた、オーダーメイドの契約書を作成することが不可欠です。

信託目的の明確化

「何のために信託をするのか」という信託目的は特に重要です。信託財産は、契約書に記載された目的に沿った使い方しかできません。目的が曖昧だと、いざという時に受託者が適切な判断を下せなかったり、他の家族から異議が出たりする可能性があります。

権限範囲の具体化

受託者にどこまでの権限を与えるのか(例:不動産の売却、大規模修繕、新規の借り入れなど)を具体的に定めておく必要があります。権限が不足していれば必要な対応ができず、逆に広すぎると濫用のリスクも生じます。

将来の変更も見据えて

契約内容は原則として委託者、受託者、受益者の合意がなければ変更できません。将来起こりうる状況の変化(受託者の死亡や病気、家族関係の変化など)も考慮し、柔軟に対応できるような条項を盛り込むことも検討しましょう。

注意点3:損益通算はできない!税務上の留意点

不動産経営をしている場合、その所得が赤字になった際に、給与所得など他の黒字の所得と相殺して全体の所得税を軽減する「損益通算」という制度があります。

しかし、家族信託した不動産から生じた赤字(損失)は、原則として他の所得と損益通算することができません。これは、税法上、信託財産から生じる所得は他の所得とは区分して計算されるためです。

例えば、アパート経営を個人で行っていて赤字が出た場合、給与所得があれば損益通算で節税できる可能性があります。しかし、そのアパートを家族信託した場合、同様の赤字が出ても給与所得とは通算できないため、税負担が結果的に増えるケースも考えられます。この点は、特に収益不動産を信託する際には重要な注意点となります。

注意点4:長期的な視点が必要|関係者の拘束と契約変更の難しさ

家族信託は、一度契約すると数年から数十年という長期間にわたって継続することが一般的です。その間、委託者、受託者、受益者といった関係者は契約内容に拘束されます。長期的な視点に立ち、将来起こりうる様々な可能性を考慮して契約内容を慎重に決定することが求められます。

契約変更のハードル

将来、家族の状況や経済情勢が変化し、契約内容を見直したいと思っても、変更は簡単ではありません。原則として、委託者、受託者、受益者全員の合意が必要です。関係者の誰か一人でも反対すれば、変更は難しくなります。

予測不能な事態への対応

長い契約期間中には、当初想定していなかった事態(例えば、受託者が先に亡くなる、受益者との関係が悪化するなど)が発生する可能性もゼロではありません。契約書作成時に、こうした不測の事態にもある程度対応できるような定め(例:予備の受託者を指定しておくなど)を検討しておく必要があります。

注意点5:ローン残債のある不動産(抵当権付き不動産)の信託は要注意

住宅ローンやアパートローンなどの返済が残っている不動産(抵当権が付いている不動産)を家族信託する場合、特に注意が必要です。ローン付き不動産を信託したい場合は、必ず事前に金融機関に相談し、承諾を得る手続きを進める必要があります。この手続きは専門的な知識を要するため、専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めましょう。

金融機関の承諾が必須

不動産を信託すると、その所有権は形式上、委託者から受託者に移転します。多くの金銭消費貸借契約(ローン契約)では、「担保不動産の所有権を移転する際には金融機関の承諾を得ること」という条項が含まれています。そのため、事前に金融機関の承諾を得ずに信託登記を行うと、契約違反となり、ローンの一括返済を求められる(期限の利益を喪失する)リスクがあります。

承諾を得るのが難しい場合も

金融機関によっては、家族信託に対する理解がまだ十分でなかったり、前例が少なかったりして、承諾を得るのが難しい場合があります。また、承諾にあたって、受託者が新たに債務者となることを求められる(債務引受)など、複雑な手続きが必要になることもあります。

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5.家族信託と任意後見、認知症後の不動産管理にはどちらが適切?

認知症などで判断能力が低下してしまった後、大切な不動産をどう管理していくのか。この課題への備えとして、「家族信託」「任意後見制度」という2つの制度がよく比較されます。どちらも将来の安心のための重要な選択肢ですが、仕組みや特徴、そして不動産管理における適性が異なります。

「うちの場合はどちらがいいの?」と迷われる方のために、ここでは両者の違いを分かりやすく解説し、特に不動産管理の観点からどちらが向いているのかを考えていきましょう。

5-1.2つの制度、目的の違いとは?

まず、それぞれの制度が何を目指しているのか、基本的な目的が異なります。

家族信託
主な目的は「財産の管理・運用・承継を、信頼できる家族に託すこと」です。契約内容を比較的自由に設計できるため、不動産の売却や建て替え、賃貸経営といった積極的な資産活用も視野に入れられます。
任意後見制度
主な目的は「本人の判断能力が低下した後の生活や療養看護、そして財産の保護」です。身上監護(生活や介護に関する契約など)もカバーできるのが特徴ですが、財産管理については「本人の財産を現状のまま守る」という保全的な側面が強く、積極的な運用や処分には制限があります。

つまり、不動産を積極的に活用・売却したいなら家族信託身上監護も含めて生活全般のサポートと財産保護を重視するなら任意後見制度、というのが大まかな方向性になります。

5-2.不動産管理における「できること」の違い

特に不動産の売却や大規模修繕、賃貸経営といった場面では、両者の違いが顕著になります。

比較項目 家族信託 任意後見制度
不動産の
売却・活用
契約内容に基づき、受託者の判断で比較的自由に売却や賃貸、建て替えなどが可能 原則として現状維持が基本。自宅の売却など大きな処分には家庭裁判所の許可が必要な場合が多く、ハードルが高い
管理の
柔軟性
契約で定めた範囲内で、機動的かつ柔軟な管理が可能 家庭裁判所が選任する「任意後見監督人」の監督下で管理。自由度は低い
効力発生の
タイミング
契約締結後すぐ、または判断能力低下時など、契約で自由に設定可能 本人の判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した後に効力発生
身上監護
(生活支援)
原則としてできない できる(介護契約、施設入所契約など)
家庭裁判所
の関与
原則として関与なし(契約の自由度が高い) 任意後見監督人を通じて家庭裁判所が監督(安心感はあるが、手続きや報告が必要)

もし将来、介護費用を捻出するために自宅を売却したい、空き家になった実家を賃貸に出したい、収益物件の経営を続けたい、といった具体的な不動産の活用や処分を考えているのであれば、家族信託の方が適していると言えるでしょう。任意後見制度では、これらの行為が「本人の財産を守る」という観点から制限されたり、家庭裁判所の許可を得るのに時間がかかったりする可能性があります。

5-3.費用面で考える:初期費用とランニングコスト

制度を利用する際の費用も重要な比較ポイントです。初期費用は家族信託の方が高くつくことが多いですが、任意後見制度は任意後見監督人への報酬が継続的に発生するため、契約期間が長くなるほど総費用は膨らみます。不動産管理を長期的に見据える場合、このランニングコストも考慮に入れる必要があります。

任意後見制度にかかる主なコスト
発生する費用 金額の相場
任意後見契約公正証書の作成 2.2万円~3.3万円
本人状態の鑑定費用 11万円まで
任意後見監督人への報酬 2.2万円~/月+付加報酬
任意後見人への報酬が発生する場合 1.1万円~3.3万円/月
家族信託にかかる主なコスト

手続き費用(自分で家族信託する場合)

発生する費用 金額の相場
公正証書に関する手数料 3.3万円~11万円
不動産登記にかかる登録免許税 固定資産評価額の0.3~0.4%

専門家へ依頼し別途報酬を支払う場合

発生する費用 金額の相場
コンサルティング報酬 信託財産評価の1.1%(最低33万円~)
信託契約書作成報酬 11~16.5万円
信託登記報酬 11~16.5万円

5-4.併用という選択肢も

実は、家族信託と任意後見制度は、それぞれのメリットを活かして併用することも可能です。

  • 不動産など積極的な管理・運用が必要な財産は「家族信託」で家族に託す。
  • 預貯金の管理や身上監護(介護サービス契約など)は「任意後見制度」で備える。

両制度を組み合わせることで、よりきめ細やかな対策を講じることができます。

6.信託した不動産は売却できる?|条件と具体的な手順

介護費用を捻出したい、空き家になった実家を整理したい、といった切実な理由がある場合、売却の可否や手順は最も気になるポイントの一つですが、結論から言えば、家族信託した不動産は売却できます。 

しかし、それにはいくつかの重要な「条件」と、踏むべき「手順」があります。

6-1.売却できる「大前提」:信託契約書がカギ

信託した不動産を売却できるかどうかの最初の関門は、「信託契約書」の内容です。この契約書に、不動産を売却するための「お墨付き」がきちんと書かれているかが、何よりも重要になります。

CHECK❶:信託契約書に「売買」や「処分」の権限条項があるか?

信託契約書の中に、受託者(財産を託された人)が信託不動産を「売買できる」「処分できる」といった内容の条項が含まれている必要があります。この条項があって初めて、受託者は法律上、不動産を売却する権限を持つことになります。

CHECK➋:売却権限が「信託目録」に記載されているか?

信託不動産の場合、不動産登記簿に「信託目録」というものが添付されます。この信託目録には、信託契約の重要な内容が記載されます。受託者が不動産を売却する権限を持っている場合、その旨が信託目録に記録されていることが、第三者(買主など)に対して受託者の権限を証明するために重要です。

CHECK❸:売却を禁止する条項や、特別な条件はないか?

逆に、信託契約書で「この不動産は売却してはならない」といった売却禁止の条項が定められていれば、原則として売却はできません。また、「売却するには〇〇さんの同意が必要」といった特別な条件(第三者の同意条項)が定められている場合は、その条件を満たさなければ売却手続きを進めることができません。

ポイント|今、売却予定がなくても「売却権限」は入れておくのがベター!
「今は売るつもりはないから…」と思っていても、将来状況が変わることは十分にあり得ます。後から契約内容を変更するのは手間も費用もかかりますし、委託者の判断能力によっては変更自体が難しくなることも。そのため、信託契約を結ぶ際には、将来的な売却の可能性も考慮し、あらかじめ受託者に売却権限を与えておくことを強くおすすめします。

6-2.信託不動産を売却する2つの方法

信託不動産を売却する方法には、大きく分けて2つのアプローチがあります。

方法1:不動産そのものを売却する(一般的)

最も一般的なのは、受託者(財産を託された人)が売主となり、信託された不動産自体を第三者に売却する方法です。

売却によって得られたお金は、原則として信託財産となり、受託者が管理する信託口口座(信託専用の銀行口座)に入金されます。このお金は、信託契約の目的に従って、受益者(利益を受ける人、多くは委託者)のために使われます(例:生活費、介護費用など)。

認知症対策や将来の資産管理を目的とする家族信託では、ほとんどがこの方法で不動産を売却します。

方法2:受益権を売却する(特殊なケース)

もう一つは、不動産そのものではなく、その不動産から生じる利益を受け取る権利である「受益権」を受託者(財産を託された人)が売主となり売却する方法です。

受益権を買った人が新たな受益者となり、不動産の管理は引き続き受託者が行い、不動産から得られる収益(家賃など)を新しい受益者に渡していく形になります。

この方法は、主に投資目的の信託などで使われることがあり、一般的な認知症対策としての家族信託ではあまり用いられません。

6-3.信託不動産売却ステップ

「不動産そのものを売却する」場合の具体的な流れは、通常の不動産売買と大きくは変わりません。ただし、売主が受託者であること、そして登記手続きに特徴がある点がポイントです。

【準備】信託契約書と信託目録の確認
受託者に不動産売却の権限があるか、特別な条件はないかを信託契約書と登記簿の信託目録で再確認。
【ステップ1】相談・依頼
受託者が不動産仲介会社に売却の相談をし、媒介契約を結ぶ。買取会社に直接買い取ってもらう方法もある。
【ステップ2】交渉
不動産会社を通じて買い手を探す。買い手が見つかったら、売却価格や引き渡し時期などの売買条件を交渉。
【ステップ3】契約締結
条件がまとまったら、受託者(売主)と買主との間で不動産売買契約を締結。事前に委託者や他の家族(他の受益者など)の理解を得ておくとよい。
【ステップ4】引き渡し準備
土地の境界線の確認や、権利関係の整理など、不動産の引き渡しに必要な準備を行う。
【ステップ5】決済・引き渡し
買主から売買代金を受領し、不動産(鍵など)を引き渡す。売買代金は、受託者名義の信託口口座に振り込んでもらう。
【ステップ6】登記手続き
買主へ所有権を移転する「所有権移転登記」と、この不動産が信託財産ではなくなったことを示す「信託登記の抹消登記」を同時に法務局に申請。司法書士に依頼するのが一般的。

別のポイントとして、不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、所得税住民税がかかります。この納税義務を負うのは、実際に売買契約を行った受託者ではなく、信託財産から利益を受ける「受益者」です。間違えないようにしましょう。

7.不動産信託の手続きの流れ

いざ家族信託の手続きを進めようとすると、たくさんの疑問や不安が出てきますよね。この章では、不動産を含む家族信託を始める際の具体的なステップ、重要な登記手続き、気になる費用、そして事前に準備すべき書類について、わかりやすく解説します。

家族信託を自分でやる6つの手順
STEP❶ 家族信託の目的と内容を話し合う
STEP➋ 家族信託契約書を作成する
STEP❸ 信託契約書を公正証書にする
STEP❹ 信託不動産の登記を行う(所有権移転登記 + 信託登記)
STEP❺ 信託口口座を開設する
STEP❻ 信託財産の管理・運用を開始

STEP❶:家族信託の目的と内容を話し合う

「何のために信託をするのか」「誰に何を託し、誰が利益を受けるのか」「不動産を将来どうしたいのか」など、家族全員でしっかりと意思疎通を図り、信託の目的や大枠の内容を具体的に決めます。これが最も重要なスタート地点です。

STEP➋:家族信託契約書を作成する

話し合った内容を基に、法的な効力を持つ「信託契約書」を作成します。契約書には、信託の目的、委託者・受託者・受益者、信託財産(不動産の詳細情報を含む)、受託者の権限、信託期間、終了事由などを詳細に定めます。

この契約書が家族信託の設計図となるため、専門家(司法書士や弁護士など)に相談しながら作成するのが一般的です。

STEP❸:信託契約書を公正証書にする

作成した信託契約書を、公証役場で「公正証書」として作成します。必須ではありませんが、公正証書にすることで契約書の証明力や信用力が高まり、紛失のリスクもなくなります。また、後の信託口口座開設手続きがスムーズに進むことが多いです。

公証人による内容のチェックも入るため、より安心です。

STEP❹:信託不動産の登記を行う(所有権移転登記 + 信託登記)

信託財産に不動産が含まれる場合、法務局で「不動産の名義を受託者に変更する登記(所有権移転登記)」「この不動産が信託財産であることを公示する登記(信託登記)」の2つを同時に行います。これは受託者の義務とされています。

この登記により、不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)に受託者の氏名や信託の目的などが記載された「信託目録」が添付されます。

登記の際に必要な書類は以下の通りです。

  • 登記申請書(所有権移転及び信託登記用)
  • 信託契約書(公正証書が望ましい)
  • 固定資産評価証明書、または固定資産税課税明細書
  • 不動産の権利証、または登記識別情報通知
  • 委託者の印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの)と 実印
  • 受託者の住民票 と 認印(場合によっては実印と印鑑証明書)
  • 信託目録に記載する情報
  • (場合により)関係者の戸籍謄本、委任状など

STEP❺:信託口口座を開設する

受託者は、信託された金銭や不動産から生じる収益(家賃など)を管理するために、信託専用の銀行口座「信託口口座」を開設します。これにより、受託者個人の財産と信託財産が明確に区別され、適切に分別管理できます。

開設できる金融機関は限られているため、事前に確認が必要です。公正証書があれば開設がスムーズな場合があります。

STEP❻:信託財産の管理・運用を開始

上記の準備が整ったら、受託者は信託契約書の内容に従って、不動産やその他の信託財産の管理・運用を開始します。

8.不動産の「信託登記」とは?なぜ必要?

不動産を家族信託する場合、「登記」は避けて通れない重要な手続きです。これを行わないと、せっかく結んだ信託契約の効力を第三者(例えば、不動産の買主や金融機関など)に主張できなくなる可能性があります。

具体的には、「所有権移転登記」「信託登記」を同時に申請します。

  • 所有権移転登記
    不動産の名義を、委託者(元の所有者)から受託者(託される人)へ変更します。ただし、これは売買や贈与とは異なり、あくまで「信託契約に基づき管理を託すため」の移転です。
  • 信託登記
    その不動産が信託財産であること、信託の目的、受託者の権限といった信託契約の主要な内容を公示します。この内容は「信託目録」として登記記録に記載されます。

不動産を信託財産とする場合、この信託登記を行うことは法律で定められた受託者の義務です。

登記簿に信託の内容が記載されることで、その不動産が誰によって、どのような目的で管理されているのかが第三者にも明らかになります。これにより、受託者が不正に不動産を処分したりすることを防ぐ効果も期待できます。

9.不動産の家族信託にかかる税金の種類とタイミング

不動産を家族信託するとき、「どんな税金が、誰に、いつかかるの?」という疑問はとても多いです。家族信託は相続や贈与とは異なる独自の税務ルールがあるため、事前にしっかり把握しておくことが大切です。ここでは、主な税金の種類と課税タイミングをわかりやすく解説します。

9-1.家族信託で関係する主な税金

税金の種類 いつ発生する? 課税される人・ポイント
贈与税 信託設定時 原則「委託者=受益者」なら非課税。受益者が別人なら贈与税発生
不動産取得税 信託設定時 原則非課税(受託者が受益者のために取得する場合)
登録免許税 信託登記(所有権移転)時 不動産評価額×0.3%(土地)・0.4%(建物)
固定資産税 毎年1月1日 受託者が納税義務者。信託財産から支払う
所得税・
住民税
家賃収入などの収益発生時 受益者が納税。損益通算や繰越控除はできない
譲渡所得税 不動産売却時 受益者が納税。売却益に対し所得税・住民税が発生
相続税 委託者や受益者の死亡時 受益権の承継時に発生

9-2.税金ごとのポイントとタイミング

贈与税・不動産取得税(信託設定時)

家族信託を設定しても、委託者と受益者が同じ(自益信託)の場合は、贈与税も不動産取得税も原則かかりません。ただし、受益者が委託者以外の場合(例:親から子へ信託し、子が受益者)は贈与税が発生するので注意しましょう。

登録免許税(信託登記時)

信託登記で不動産の所有権を受託者に移す際、登録免許税がかかります。土地は評価額の0.3%(軽減税率適用時)、建物は0.4%が目安です。

固定資産税(毎年)

信託登記後は、受託者が固定資産税の納税義務者となります。実際の支払いは信託財産から行うのが一般的です。

所得税・住民税(家賃収入など)

信託した不動産から家賃収入などが発生した場合、その利益を受け取る「受益者」が所得税・住民税を支払います。ただし、損益通算や繰越控除はできませんので、赤字が出ても他の所得と相殺できない点に注意が必要です。

譲渡所得税(不動産売却時)

信託不動産を売却して利益が出た場合、譲渡所得税(所得税・住民税)が発生します。納税義務者は受益者です。売却益の計算方法や特例の適用可否も、一般の不動産売却と同様です。

相続税(死亡時)

委託者や受益者が亡くなり、受益権が相続人などに承継される場合、相続税が発生します。信託財産そのものではなく、「受益権」の評価額が課税対象となります。

10.まとめ

この記事では不動産の家族信託の概要やメリット、注意点、各種税金について見てきました。本章の内容をまとめてみましょう。

  • 家族信託は、信頼できる家族に不動産などの財産管理を託し、将来の認知症リスクなどに備えつつ、指定した人が利益を受け取る制度
  • 家族信託の最大の利点は、認知症などによる資産凍結を防ぎ、遺言では難しい二次相続以降の柔軟な資産承継を実現できること
  • 信託契約書に売却権限を明記しておけば、受託者が信託された不動産を売却し、その代金を受益者のために活用できる
  • 受託者の重い責任や契約変更の難しさ、ローン付き不動産や税務上の制約(損益通算不可など)を理解しておく必要がある
  • 不動産の信託は、信託契約書を公正証書で作成し、信託登記信託口口座開設をする必要がある
  • 家族信託では登録免許税や固定資産税、所得税、相続税などが関係するが、直接的な節税対策にはならない

任意後見制度や遺言書に代わる新しい認知症や相続対策として、家族信託は注目されています。財産の扱いについて柔軟に決められるため、本人の意思を反映したさまざまな対策が可能です。
しかし、財産管理以外の部分は対策が難しく、信託契約書の作成や受託者の決定などに関しても新しい問題が出てきます。委託者と受託者、受益者の関係を明確にしておかなければ、全員が納得できる信託契約を結ぶのは困難になるでしょう。

家族信託に関する知見や実績を持つ当事務所であれば、ご家族や不動産の状況にあわせたサポートや提案が可能です。不動産の家族信託についてお悩みの方はお気軽にご相談ください。

この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに400件以上の家族信託をはじめ、相続・生前対策を取り組んでいる。年間60件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

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