認知症の初期症状が見られると、家族としては一人暮らしの親が安全に生活できるか心配になります。特に、火災や事故、金銭トラブルといった心配はつきません。
本記事では、認知症の人が一人暮らしを続ける限界や、そのリスクについて詳しく解説します。また、生前対策を始めるべきポイントや具体的なサポート方法についても紹介します。
今回の記事のポイントは以下のとおりです。
- 認知症の一人暮らしは症状進行で難しくなるため、早めの判断とサポートが必要である
- 一般的に、認知機能の低下や年齢83〜84歳が、一人暮らしが限界となる目安とされる
- 認知症の生前対策は、財産管理や遺産分割、相続税の対策が必要である
- 元気なうちに、本人の希望を尊重して財産管理対策や相続税対策を始める必要がある
目次
1.認知症の一人暮らしはいつまでできる?
認知症の症状が進行すると、一人暮らしが難しくなることもあります。個人差はあるものの、一般的には安全に生活を続けられるかどうかが一つの目安です。
特に、日常生活での判断力や記憶力が低下してくると、火災や事故、金銭トラブルなどのリスクが増加します。そのため、認知症の一人暮らしはいつまで可能かを早めに判断し、必要なサポート体制を整えることが大切です。
1-1.年齢の目安は83~84歳
高齢者の独居生活は、平均して83〜84歳で中断することが多いとされています。この年齢になると、認知機能の低下や身体の不調が進行し、一人での生活が難しくなるケースも増えてきます。
特に物忘れがひどくなったり、日常のルーチンがこなせなくなったりする場合は、一人暮らしを継続することが安全かどうかを確認する必要もあるでしょう。
家族やサポートする人が、日常生活の中での変化に気づき、適切な支援を提供することが重要です。認知症の初期段階であれば、見守りサービスやホームヘルパーの利用を検討することで、安心して暮らせる環境を整えられます。
参考:J-STAGE|【認知症の有無による高齢者の独居生活中断時の心身の状態と社会資源の利用】
1-2.誰かの助けがなければ安全に暮らせないことも目安
認知症の人が一人暮らしを続ける上で、誰かの助けが必要になることも一つの重要な目安です。お金の管理や火の始末がきちんとできない場合は、特に注意が必要です。例えば、光熱費の支払いを忘れることや、ガスを消し忘れることが増えてきた場合、それは一人での生活が難しくなりつつあるサインかもしれません。
また、日常生活においても、食事の準備や服薬管理ができない場合も、サポートが必要となるでしょう。これらの状況に早めに気づき、適切なサポートや見守りサービスを利用することが、本人の安全を守るために欠かせません。家族や周囲の人々と相談し、必要な支援体制を整えるようにしましょう。
2.認知症の方が一人暮らしをするリスク
認知症の方が一人暮らしをするリスクとして、以下のものが挙げられます。
- 火災
- 事故や事件
- 金銭トラブル
- 食生活の乱れ・病気
- 近隣とのトラブル
以下で、それぞれについて解説します。
2-1.火災
認知症の人が一人暮らしをする際、火災のリスクが高まるため注意が必要です。
コンロの切り忘れや、タバコの不始末が原因で火災が発生する可能性もあります。また、洗濯物をこたつやヒーターで乾かすことや、暖房器具の不始末なども、火災の原因となります。
これらは、認知症による判断力の低下や記憶力の衰えが影響しているケースも多いです。火災は一瞬で命に関わる重大な事故に繋がるため、早急な対策が必要となります。
火災報知器の設置や、火を使わない調理器具の導入など、安全対策を講じることが重要です。また、見守りサービスを利用することで、火災のリスクを減らす手助けになるでしょう。安全に生活するための環境整備が重要です。
2-2.事故や事件
認知症の人が一人暮らしをしている場合、外出時に様々な事故や事件に巻き込まれるリスクがあります。
例えば、買い物や散歩で自宅を離れた際に、帰り道がわからなくなってしまうこともあります。このような場合、道に迷ってしまい、交通事故に遭う恐れもあるため注意が必要です。
また、知らない人に声をかけられた際に判断力が鈍ってしまい、詐欺や盗難といった犯罪に巻き込まれる可能性も考えられます。
これらのリスクを未然に防ぐためには、家族や地域の支援が不可欠です。見守りサービスの利用や、GPS機能のある携帯電話を持たせることによって、少しでも安全を確保し、安心して暮らせる環境を整えることが大切です。
2-3.金銭トラブル
認知症の初期症状と思われる人が一人暮らしを続けると、判断力の低下により金銭トラブルに巻き込まれるリスクがあります。
詐欺に遭いやすくなるほか、必要のない高額商品を購入してしまうことも考えられます。これらのトラブルは、本人だけでなく家族にも大きな負担をもたらすため、早めの対策が必要です。
認知症の疑いがある場合は、信頼できる家族や友人が財産管理をサポートする体制を整え、安全な生活環境を確保しましょう。
2-4.食生活の乱れ・病気
認知症の初期症状が見られる一人暮らしの人にとって、食生活の乱れは深刻な問題です。特に、持病の服薬を忘れることが多くなり、必要な薬を適切に摂取できないことで健康リスクが高まります。
また、食事が偏りがちになり、栄養不足による免疫力の低下も懸念されます。これらの状況は、病気の発症や悪化を招くおそれがあるため、家族やサポートスタッフによる注意深い見守りが重要です。見守りサービスを利用して、食事の準備や服薬の確認を行うことも一つの対策です。
2-5.近隣とのトラブル
認知症の方が一人暮らしを続けると、隣近所とのコミュニケーションが難しくなり、関係が悪化することもあります。
例えば、何かが盗まれたと誤解してしまうことや、ゴミの出し方がルールに従っていないといったことでトラブルが生じることもあるでしょう。
こうしたことが重なることにより、近隣住民との信頼関係が損なわれ、孤立感が深まることもあります。トラブルを未然に防ぐためには、家族や地域のサポートが重要で、定期的な見守りやコミュニケーションを心掛けることが大切です。
また、地域の見守りサービスを活用することで、安心して暮らせる環境が整います。
3.一人暮らしの方が認知症になる前に行っておきたいこと
一人暮らしの親が認知症になる可能性を考えると、事前の準備が重要です。まず、中心になってサポートする人を決めておくことで、緊急時にもスムーズに対応できます。
さらに、近隣の人との繋がりを作ることで、日常生活の中での見守りも期待できます。資産状況の確認や、職場の介護休暇制度について調べておくことも、後々役立つでしょう。
これらの準備を通じて、安心して暮らせる環境を整えておくことが大切です。
3-1.中心になってサポートする人を決める
認知症の方が安全に一人暮らしを続けるためには、まず中心になってサポートする人を決めておくことが重要です。
中心になってサポートする人は、日常生活の支援や緊急時の対応、医療機関との連絡役などを担います。また、家族の中で率先して介護の計画を立てたり、他の家族や専門家と協力しながらサポート体制を整えたりする役割を果たします。
早めにこの役割を決めておくことで、認知症が進行しても安心して暮らせる環境が整うでしょう。
また、このサポートする人が中心となることで、他の家族や近隣の人々との連携もスムーズに進むため、支援の質が向上します。
3-2.近隣の人との繋がりを作る
家族だけで介護をするには限界があります。認知症の初期段階では特に、近隣の人々との繋がりが大切です。
近所付き合いがあれば、日常の中での小さな変化や異変に気づく可能性が高くなります。例えば、毎日のように顔を合わせることで、体調の変化や様子に異常があるかどうかを早期に察知できます。
早期の気づきにより、深刻なトラブルを未然に防ぐことが可能です。また、地域コミュニティに参加することで、緊急時に助け合える関係を築けるため、安全で安心な生活を維持しやすくなります。
家族が遠方に住んでいる場合や、頻繁に訪問できない場合でも、近隣の協力を得ることで、一人暮らしの親の見守り体制が整います。
3-3.資産状況を確認しておく
認知症が進行する前に、親の資産状況をしっかりと把握しておくことが重要です。銀行口座や不動産などの資産を事前に確認しておくことで、認知症により判断能力が低下した場合でも、資産が凍結されるリスクを回避できます。
資産が凍結されると、生活費の引き出しや不動産の管理に支障が出るおそれもあるため、早めの対応が求められます。家族が協力して、親の資産を整理し、必要に応じて法的な手続きを検討することが大切です。
弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、ご家族の財産管理のご相談を随時承っております。ご相談をお考えの方はぜひ無料相談をご利用ください。
3-4.職場の介護休暇・介護休業制度について調べておく
介護を行う際には、職場の介護休暇や介護休業制度について事前に調べておくことが重要です。多くの企業が介護支援制度を導入しており、介護支援制度を利用することで介護を行う家族の負担を軽減できます。
介護休暇とは、家族の介護が必要となった際に一定期間仕事を休める制度で、一方の介護休業は、より長期間の休業を可能にするものです。
事前に介護休暇・介護休業の制度が職場で利用可能か確認しておくことで、いざという時に、スムーズに対応できます。介護の準備として、職場の福利厚生担当者に相談し、必要な手続きや条件を把握しておくようにしましょう。
4.認知症に備える生前対策
認知症になると、自身の財産管理や日常生活が困難になることがあります。そのため、事前に生前対策を行うことが重要です。財産管理対策としては、任意後見制度や成年後見制度、家族信託、遺言書の作成などがあります。
これらの制度を活用することで、本人の意思を尊重しながら財産を適切に管理できるでしょう。また、遺産分割対策や相続税対策も考慮しておくことで、亡くなった後の財産をスムーズに相続できます。認知症になる前に、これらの対策を検討し、安心して暮らせる環境を整えていきましょう。
4-1.財産管理対策
認知症に備えて財産管理を行うためには、以下の生前対策が有効です。
- 任意後見制度
- 成年後見制度
- 家族信託
- 遺言書
以下で、それぞれ見ていきましょう。
任意後見制度
任意後見制度は、本人の判断能力が不十分になる前に、支援者と支援内容を事前に契約しておく制度です。この制度を活用することで、認知症の進行に備え、安心して暮らせる環境を整えられます。
例えば、財産管理や生活支援をどのように行うかを具体的に決めておくことで、本人の意思を尊重した支援が可能になります。任意後見制度は、本人がまだ判断能力を有するうちに契約を結ぶ必要があるため、早めの対策が重要です。
任意後見制度により、一人暮らしの親が認知症の初期症状を示した場合でも、適切なサポートを受けつつ安全に暮らせます。
成年後見制度
成年後見制度は、判断能力が低下した人の財産管理や身上保護を支援する制度です。成年後見制度を利用することで、後見人が被後見人の財産を適切に管理し、生活のサポートを行えます。
認知症の進行により判断能力が低下した場合でも、成年後見制度を活用することで、被後見人の財産や生活の安定を図れます。特に一人暮らしの高齢者の場合、財産管理の不安を軽減し、安心して生活を続けるために有効な選択肢の一つとなります。
成年後見制度の利用を検討することは、認知症初期症状が見られる方にとって重要な生前対策の一つと言えるでしょう。
家族信託
家族信託は、信頼できる家族に自分の財産の管理や運用、処分を任せられる制度です。家族信託制度を利用することで、自身が認知症になった場合でも、信託契約に基づいて財産の管理を続けられます。
例えば、親が認知症の初期症状を示している場合、家族信託を活用することで、財産管理の負担を軽減しつつ安全に生活を続けられるでしょう。
さらに、家族信託は財産管理だけでなく、相続対策も一括で行えるため、将来的な不安を減少できる手段となります。
家族信託制度を検討することで、家族間の信頼関係を基盤とした柔軟な資産運用が可能となる一方、法律や契約に基づいた安心感も得られます。
遺言書
認知症になる前に遺言書を作成しておくことで、本人の希望する相続内容を確実に実現できます。遺言書の作成には判断能力が必要なため、認知症の症状が進行する前に準備することが重要です。
遺言書により、残された家族間でのトラブルを未然に防ぎ、スムーズな資産分割が可能となります。特に、一人暮らしの親の物忘れが多くなっている場合は、早めに専門家に相談し、遺言書の作成をおすすめします。
4-2.遺産分割対策
遺産分割対策は、相続時のトラブルを未然に防ぐために重要です。まず、遺言書の作成をおすすめします。遺言書は、遺産の分割方法を明確に示すことで、相続人間の争いを防ぐ手段となります。
「死亡保険金」の受取人を指定することにより、遺産分割のバランスをとることや、「相続型信託」で万が一の場合に、家族が一定の金額を受け取るといった対策をとることも有効な手段です。
生前にこうした対策を講じることで、家族の負担を軽減し、安心して生活を続けられるでしょう。
4-3.相続税対策
相続税対策としては、いくつかの方法があります。まず、生命保険を契約することです。生命保険金は相続税の非課税枠が設定されており、一定の条件下で相続税の負担を軽減できます。
また、生前贈与を行うことも有効です。年間110万円までの贈与は非課税となるため、計画的に贈与を行うことで相続税の対象となる財産の減額が可能です。
さらに、「相続時精算課税制度」を活用する方法もあります。相続時精算課税制度とは、子や孫などの受贈者が、贈与者から最大2,500万円までの財産を贈与税なしで受け取れる制度です。その後、贈与者が亡くなった際に、贈与時の財産価額と相続財産を合算し、相続税としてまとめて納税します。2024年1月以降、新たに年間110万円の基礎控除が設けられました。この基礎控除は、特別控除(2,500万円)とは別に適用され、相続が発生しても相続財産に加算されることはありません。
これらの方法を組み合わせて、効果的な相続税対策を行いましょう。
5.生前対策を始める際のポイント
生前対策を考える際には、まず本人の希望を明確にすることが重要です。本人の意思を尊重し、生活の質を維持するために、どのようなサポートが必要かを話し合いましょう。
また、様々な選択肢を比較検討することで、適した方法を見つけられます。生前対策は元気なうちに始めることが理想的です。早めに準備を進めることで、将来の不安を軽減し、安心して暮らせる環境を整えられるでしょう。
5-1.本人の希望を明確にする
認知症の進行に備えて生前対策を行う際は、まず本人の希望をしっかりと確認することが重要です。本人の意見や希望を事前に聞いておくことで、本人の意思を尊重した選択が可能になります。
例えば、どのような介護サービスを利用したいか、財産の管理を誰に任せたいか、医療や生活に関する希望について具体的に話し合っておくとよいでしょう。
具体的に話し合うことにより、家族やサポートする人が本人の意思を理解し、安心して見守る体制が整います。この過程は本人の尊厳を守り、家族にとっても貴重な指針となるでしょう。
5-2.様々な選択肢を比較検討する
生前対策を行う際には、様々な選択肢を比較検討することが重要です。それぞれの方法には独自のメリットとデメリットがあります。
例えば、任意後見制度は本人の意思を尊重しやすい一方で、手続きが複雑になる点はデメリットといえるでしょう。
成年後見制度は法的な保護としては強固ですが、本人の意思が反映されにくい場合もあります。家族信託は資産管理の柔軟性が高いものの、信託の設定に専門的な知識が必要です。
また、遺言書の作成は比較的簡単ですが、効力が発生するのは本人の死後となります。これらの選択肢を理解し、家族の状況や本人の希望に適した方法を選びましょう。
5-3.元気なうちに対策を開始する
物忘れが進行し始めると、生前対策の選択肢が限られてしまいます。特に認知症の初期症状が見られる場合、早めに対策を講じることが重要です。
元気なうちに対策を開始することで、本人の希望に沿った形で計画を立てられ、後からのトラブルを避けられるでしょう。また、家族やサポートする人とのコミュニケーションが円滑に進むため、皆が安心して暮らせる環境を整えられます。
生前対策は早期に始めることで、より多くの選択肢を検討でき、計画を柔軟に見直せます。
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6.まとめ
本記事では、認知症の一人暮らしの限界や生前対策を始めるポイントについて解説しました。内容をまとめると、以下のとおりです。
- 認知症の一人暮らしは症状進行で難しくなるため、早めの判断とサポートが必要である
- 一般的に、認知機能の低下や年齢83〜84歳が、一人暮らしが限界となる目安とされる
- 認知症の生前対策は、財産管理や遺産分割、相続税の対策が必要である
- 元気なうちに、本人の希望を尊重して財産管理対策や相続税対策を始める必要がある
認知症の一人暮らしには様々なリスクが伴うものの、適切な生前対策を講じることで、安全かつ安心な生活を続けることが可能です。
特に、本人の希望を尊重し、早めに対策を始めることが重要です。家族や周囲の人々との連携を深め、必要なサポートを整えることで、認知症の方がより充実した人生を送るための準備をしっかりと行いましょう。