22亡くなった被相続人から遺産を相続するとき、忙しい等の理由で相続登記を代理の方に任せたいと思われるかもしれません。この際に、相続登記申請書とともに法務局に提出しなければならないのが「委任状」です。司法書士や親族に相続登記の手続きを依頼する場合には委任状が必要になり、委任状を作成し法務局に提出しなければなりません。
今回の記事のポイントは以下の通りです。
- 司法書士や親族に相続登記の手続きを託すときは、相続登記申請書とともに委任状を法務局に提出しなければならない
- 本人以外が相続登記の手続きをする場合には原則として委任状が必要だが、法定相続分で相続し遺産分割する場合には委任状はなくても相続登記できる。しかし、委任状がない相続人については登記識別情報通知書は発行されない
- 親権者、成年後見人、遺言執行者などの法定代理人が本人にかわり相続登記を申請する際に、代理権を証明する書類を提出すれば、本人からの委任状は不要となる
- 被相続人が不動産を共有しているか否かや、相続人が複数人であるかどうかによって、委任状の記入内容が変わってくる
- 相続人が委任状に押印する印鑑は実印でなく認印でもよい。委任状が複数枚になる場合には契印でつなぐ
- 委任状を修正、変更するときは、訂正印又は捨印で対応できる。ただし、捨印は悪用される可能性もあるので代理人を信頼できる場合に限り使用すべき
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今回は、相続登記のどのようなケースで委任の方法、どのようなケースで委任状が必要となるのか、そして、ひな形(ダウンロード可)をもとに書き方や注意点について詳しく解説していきます。
1.相続登記の委任状とは
相続登記の委任状とは、被相続人から不動産の名義を引き継ぐ際の手続きを、司法書士や親族などに委任したことを記した書類です。委任状を作成し相続登記申請書に添付することで、相続登記を行う権限を本人以外の方に委任し、委任を受けた代理人が相続登記を申請できます。
だだし、後述するように、相続登記によって委任状を用意する必要がない場合もあります。
1-1.委任の方法
本人以外の方に相続登記の手続きを託すためには、委任したことを記入した委任状をその方に渡す必要があります。この際、委任状の作成は、本人でも相続登記を託した方でも構いません。しかし後述するように、本人が氏名の記入と押印を行わないと本人が委任状の内容を承認したかわからないので、無効になる恐れがあります。
委任状は、本人や相続登記を託した方が作成します。しかし、司法書士に相続登記を依頼すると、正しい記載方法による委任状を作成してもらうこともできます。
1‐2.司法書士、弁護士以外の者が業務として相続登記の代理申請を行うことはできない
司法書士法では、司法書士、弁護士以外による”業務”としての登記手続きの代理はできません。違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処せられます(司法書士法第73条、78条)。
業務として、すなわち報酬をもらわず、親族などのために相続登記を申請することはできますが、報酬などの対価を伴う業務として継続的に相続登記を代理することは許されません。これは、登記申請の過程で生じるトラブルや不利益を防ぎ、申請手続きを適切に行うことを確保するためです。
相続登記の手続き代行は司法書士・弁護士のみができる
最近では、相続登記のサポートを民間業者がウェブサービスで提供しています。しかし、サービスはあくまで相続登記申請書の作成や戸籍収集のサポートにとどまり、相続登記申請手続きは自分で行う必要があります。
そのため、きちんと相続登記サポートを提供する会社や業者が司法書士であるかどうかを把握し、相続登記申請まで代行してくれるか確認する必要があります。もしも、司法書士、弁護士資格を持たない個体や組織に依頼してしまうと、自分で相続登記をしなければならず、相続登記が最後まで登記が正しく行われないリスクを負う可能性がありますので注意しましょう。
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2.どのような場合に委任状が必要になる?
では、どのような場合に委任状が必要になるのでしょうか。
2-1.相続登記を司法書士に依頼する場合
相続登記の委任状は、不動産の名義を引き継ぐ際に必要な手続きを、誰かに依頼することを証明する書類です。そのため、司法書士に依頼する場合でも、必要書類とともに委任状を法務局に提出しなければいけません。
この場合の、委任状は司法書士が作成するので、依頼者は委任状を作成する必要はありません。司法書士が用意した委任状に依頼者が署名捺印します。
2-2.相続人の親族などが相続人の代理人として相続登記する場合
原則として、不動産の相続人本人以外の第三者が相続登記を行うのであれば、委任状は必要となります。親族などに相続登記を依頼する場合には、委任状が必要です。
ただし、相続人が複数人存在し、代表者が相続手続きを進めていく場合には、相続登記の進め方によって、委任状を提出しなくてもよいケースがあります。
法定相続分での相続登記は委任状は提出しなくてもよいが、登記識別情報通知書が発行されない
相続登記する不動産の割合が法律で定められた分割割合である「法定相続分」通りであれば、委任状がなくても登記が可能です。しかし、相続登記を申請した相続人のみ登記識別情報通知書が発行されますが、委任状を提出しない相続人は登記申請に関与していないため受領することは出来ません。
法定相続分で相続する場合に委任状を提出すれば、登記識別情報通知書が発行される
共同相続登記で申請する場合でも、司法書士や代表して相続登記をする相続人に相続登記を委任する委任状を提出できます。委任状を提出すれば、相続登記完了時に「登記識別情報通知書」が発行されます。
「登記識別情報通知書」は、売却や贈与といった「所有権移転登記」や、住宅ローンなど抵当権の設定などで必要な書類です。登記識別情報通知がないと売却などの手続きで余分な費用がかかったり手続きが複雑になることがあります。不動産を相続する方全員に届けられるのが望ましいので、法定相続分通りであっても委任状を作成したほうがよいでしょう。
2-3.法定代理人が登記するときは委任状が不要となる
法定相続分での登記以外にも、例外的に委任状が不要なケースがあります。法律上の代理権が認められる「法定代理人」が相続人本人の代わりに登記申請を行う以下のケースでは、わざわざ委任状を作成する必要はありません。
親が未成年者の代わりに相続登記を申請するケース
親が未成年者の子の代わりに相続登記の申請をするときには、相続人である子本人の委任状は不要です。この場合には、親と子の関係を証明する戸籍謄本の提出が必要となります。ただし子が成人すると親権はなくなるので、子が自分で登記申請するか、親に任せる場合には委任状が必要になってきます。
後見人が被後見人の代わりに相続登記を申請するケース
判断能力が衰えた方の財産管理や身上保護を支援する「成年後見人」にも代理権が認められるので、相続人である成年被後見人本人の委任状がなくても成年後見人が相続登記を申請できます。この場合には、成年後見人の成年後見登記事項証明書を提出します。ただし家庭裁判所から保佐や補助だと判定された場合には、原則として保佐人や補助人には代理権が付与されないので、登記申請を代理できません。
このほか、親権者など身寄りがない未成年者に対しては、未成年後見人が未成年者に代わって委任状がなくても相続登記が可能です。
遺言執行者が相続登記を申請するケース
遺言書によって遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者が不動産を相続する相続人の代わりに相続登記をすることができます。この場合には、相続人本人から遺言執行者に対する委任状は不要です。遺言執行者であることがわかる遺言書を提出することで、遺言執行者が相続登記を申請できます。
遺言執行者は「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(民法第1012条1項)」ためです。
3.相続登記の委任状の作成方法
相続登記の委任状には、相続人から引き継ぐ不動産の情報を記入しなくてはいけません。そのため、相続した不動産の登記事項証明書を法務局で取得する必要があります。
3-1.相続登記の委任状のひな型(ダウンロード可)
相続登記申請書と違い、法務局は委任状の書式を用意していません。ただし、委任状の書式は決まっています。