遺言書を作る方法として、多くの方は自筆で遺言を作成するのか公正証書で遺言(公正証書遺言)を作成するかの二択で悩まれると思います。一般的に公正証書遺言を勧められることが多いと思いますが、強みやメリットを理解しておかないとせっかくの利点を生かせないことになるかもしれません。
今回の記事のポイントは下記のとおりです。
- 自筆証書遺言よりは安全性・確実性の高い遺言書を作ることができる
- 絶対に遺言内容が実現できるとは限らない
- 作成にはかなりの手間がかかるが、専門家が間に入れば手間を任せられる
- 作成に必要な手数料は相続財産の多寡によって変わる
- 遺言書でカバーできない問題は他の生前対策で
今回の記事では公正証書遺言の効力や注意点の理解を進めながら、メリット・デメリットについて自筆証書遺言との比較をしていきたいと思います。
目次
1.公正証書で遺言を作ると、何かいいの?
個別のメリットについては後述する自筆証書遺言との比較の項に譲るとして、公正証書の利点を大枠で確認しましょう。
遺言書の作成には形式的なルールがあり、書き方によっては無効になってしまう恐れがありますが、公正証書遺言では公証人が関与することで無効にならない確実性の高い遺言を準備できます。
また後でトラブルが起きないように配慮した遺言内容とすることができ、原本が公証役場に保管されるので偽造や変造の心配も要りません。
自筆証書遺言では自由度が高い反面、トラブルの種を残してしまったり、関係者に偽造・変造を許すチャンスを与えてしまうことがあります。
また、相続開始後も公正証書遺言があればすぐに預金や不動産の名義変更が可能で、自筆証書遺言に比べて手続面の負担を減らすことができます。
詳しくは以下の章で見ていきましょう。
2.公正証書遺言と自筆証書遺言、それぞれのメリット・デメリット
ここでは公正証書遺言と自筆証書遺言について、メリット・デメリットを表にして比べてみます。
※1 検認とは、相続発生後に遺言書を家庭裁判所に持ち込み内容を確認してもらう手続きで、偽造や変造を防止する意味があります。遺言の有効、無効を判断するものではありません。
※2 証人は二人以上必要で、遺言者が用意する場合は報酬無しでも構いませんが、証人を用意できない時は公証役場側で用意するので、その場合は報酬が必要になります。
※3 自筆証書遺言を法務局で保管してもらうことができる仕組みが2020年7月10日から施行されています。この制度を利用すれば検認が不要になりますが一定の手数料がかかります。
※4 財産目録については手書き以外の資料の添付が認められるようになりましたが、遺言書本体は自筆で作成する必要があります。
全体として、公正証書遺言は手間や費用が必要だけれど、安全で確実性の高い遺言書を作成できる強みがあります。自筆証書遺言は他人の関与を受けず、思い立った時に作成でき基本的に費用も掛からないのが強みですが、安全性、確実性の面では劣ります。
遺言書保管制度ができたことから、自筆証書遺言も一部のデメリットをカバーすることができるようになりましたが、公正証書遺言と自筆証書遺言のどちらを選択すべきかは状況次第です。
なお、弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、公正証書遺言を活用した相続対策をはじめ、生前贈与や親の認知症対策としての財産管理と資産承継対策のための家族信託など、ご家族ごとに必要な対策の無料相談をさせていただいております。必要な手続きのサポートをさせていただきますので、お気軽にお問合せください。
3.公正証書遺言を作る際の流れや必要書類
公正証書遺言は公証人の関与の下で作りますが、実際は遺言内容を一から公証人に相談しながら進めるのはハードルが高いです。遺言内容はあらかじめ依頼者側で考え、また必要な資料等をそろえ、事前相談として公証人と綿密な打ち合わせが必要になります。
この作業に大体半月~1か月程度を要します。
全ての条件が整ったところで、日程調整をして公証役場に出向き、実際の公正証書遺言を作り上げます。多くのケースでは司法書士などの専門家が間に入り、遺言内容の原案作成や公証役場との調整を行うので、依頼者の負担はかなり軽減されます。
ケースによって細かい進め方が若干変わりますが、大体の流れをまとめると以下のようになります。
①遺言内容の原案を考える
②必要な資料を収集する
③証人を用意する(できなければ公証役場に依頼)
④手紙やメール、FAX等で公証役場とやり取りし、遺言内容や資料等の確認を行う
⑤公証役場に出向く日程を調整する
⑥期日に公証役場に出向き、本人確認や必要な質問を受ける
⑦遺言者が公証人に対し遺言内容を口述する
⑧公証人が遺言内容を筆記し、遺言者と証人に読み聞かせ、間違いないことを確かめる
⑨遺言者本人と証人が署名押印する
⑩公証人が民法所定の方法に従い作成されたことを付記して署名押印する
⑪公正証書遺言の正本と謄本の交付を受ける(原本は公証役場で保管)
公正証書遺言作成にかかり必要となる資料はケースによって、また公証人によっても若干変わります。
概ね以下の資料が必要になりますが、実際のケースでは公証役場に確認が必要です。
・遺言者の本人確認書類(免許証など)
・遺言者本人の印鑑証明書と実印
・遺言者と相続人の関係が分かる戸籍謄本
・遺贈する場合は受遺者の住民票
・相続財産を確認できる資料
Ex、不動産の登記簿謄本や固定資産評価証明書、預貯金の通帳コピー、株式など有価証券に関して証券会社から受け取る報告書等、自家用車の車検証、貴金属などの動産はそれらを確認できる資料、借金があれば債務を確認できる契約書や請求書等
・遺言者が証人を用意する場合は証人の住所・職業・氏名・生年月日が分かる資料
Ex、証人の運転免許証や会社の名刺など
・証人のハンコ(認印でよいこともありますが、実印を求められることもある)
公証人に対する手数料は遺言書に記載する相続財産の金額によって変わります。
上記が基本の手数料額になりますが、一定の加算金が付加されることもあります。
手数料に関して詳しくは以下のサイトで確認できます。
日本公証人連合会
>>http://www.koshonin.gr.jp/business/b01
公証人は忙しいことが多く、じっくりと相談するのは難しい場合があります。司法書士など専門家が間に入れば、専門家を通じて必要書類や費用の見積もりなど細かいこともじっくりと相談、確認することができます。
当事務所も普段から公証人とはやりとりをして事情に精通していますので、スムーズな手続き進行が可能になるよう手配させて頂きます。
3‐1.公正証書遺言の証人は誰に依頼すればいいの??
ところで、公正証書遺言作成に立ち会ってもらう証人ですが、誰でもなれるわけではありません。
民法上では、以下の者は証人になることができないと定められています。
・未成年者
・推定相続人、受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
・公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
上記以外にも署名押印ができない人は実務上証人になることはできません。 もし、欠格事由がある方が証人になっていた場合の遺言は無効になる可能性もあるので、証人を依頼する際には注意が必要です。
親しい身内が証人になれないことから準備が難しいことも多いので、その場合は、弁護士や司法書士などの専門家に依頼して証人になってもらう、または、公証役場に頼んで用意してもらいましょう。
4.公正証書遺言には絶対効力は、ある?ない?
公正証書遺言を作れば必ずその内容が実現されるのかというと、残念ながら100%絶対ということは言い切れません。
例えば、公正証書遺言作成時には公証人が遺言者の判断能力の有無を簡易的にチェックすることがありますが、正確な判断は医師でも難しいので、的確に見抜けないこともあり得ます。後から遺言者本人の判断能力がなかったとして争いが生じれば、裁判の末に遺言が無効となってしまう可能性はあります。
また証人として参加した人物について、後から欠格事由に該当していたことが分かったり、証人が席を外している時に遺言書が作成されたなどの事情があれば遺言が無効になる可能性があります。
以上は公正証書作成にかかる手続き上の話ですが、公正証書遺言であっても自筆証書遺言であっても、相続人全員の合意があれば遺言内容とは異なる遺産分配とすることは可能です。公正証書遺言作成当時とは状況が大きく変わっていて、遺言の内容が現状にそぐわないなどの事情があれば、相続人全員の合意の下で別途の取り決めをすることができます。
また、公正証書遺言作成にあたっては遺留分に十分配慮して進められますが、事情があってどうしても遺留分を侵害する内容としなければならないこともあります。
公証人から十分に説明は受けると思いますが、それを承知で遺留分を侵害する内容の公正証書遺言とした場合、相続後に遺留分権利者が遺留分侵害額請求を行うことも考えられます。
可能性としては少ないながら手続き面での不備が生じる可能性はあること、そして相続人の行動如何では遺言内容がその通りに実現されない可能性があることは承知しておく必要があります。
4‐1.公正証書遺言を作ったとしても、油断してはならない
「遺言を作っておけば安心」と思っていらっしゃる方が多くいます。確かに、何もしないより遺言を作っておけば、相続時にもめることは少なくなります。また、対策として専門家に頼らなくてもできる制度なので、相続入門として親に依頼しやすいものでしょう。
しかし、遺言だけではカバーができないことがあることも、知っておくことは重要なことです。例えば、遺言は相続を契機に効力が発生する制度ですので、亡くなる前に認知症になってしまった場合の対策にはなりませんし、本人が亡きあとの配偶者の二次相続以降の対策にはなりません。
詳しくは記事になっているのでチェックしてみてください。
素人だけで考えるとトラブルの火種を作ってしまうことも多いので、専門家に相談しながら進めることをオススメします。当事務所では遺言書だけでなく、家族信託など生前対策全般をお客様の状況にあわせて提案させて頂いております。
重要なのは、相続後にどんな未来を手に入れたいのかということです。遺言書だけはカバーできない問題にも細かく対応できる生前対策が可能ですので、お気軽にご相談頂ければ幸いです。
5.どんな形で遺言を作成すればいいのか、無料相談受付中
当サイトでは、ご家庭にとってどんな形で遺言を作ればいいのか、無料相談が可能です。累計4000件を超える相続・家族信託相談実績をもとに、専門の司法書士・行政書士がご連絡いたします。
遺言書をつくればいいのか、どのような内容にすればいいのかなど、何ができるのかをご説明いたします。自分の家族の場合は何が必要なのか気になるという方は、ぜひこちらから無料相談をお試しください。
6.まとめ
この回では公正証書遺言の効力や注意点などについて見てきました。本章の内容をまとめてみましょう。
- 自筆証書遺言よりは安全性・確実性の高い遺言書を作ることができる
- 絶対に遺言内容が実現できるとは限らない
- 作成にはかなりの手間がかかるが、専門家が間に入れば手間を任せられる
- 作成に必要な手数料は相続財産の多寡によって変わる
- 遺言書でカバーできない問題は他の生前対策で
費用面で問題ないのであれば、自筆証書遺言よりも公正証書遺言がお勧めできますが、現実の問題は遺言書だけではカバーしきれないものが多いのも事実です。遺言書だけでなく総合的な相続対策を講じることで、家族の安心を守ることにつながります。
当事務所では長年相続問題に取り組み、様々な事案に対処できるノウハウを蓄積しております。ご家族皆様に安心して頂ける相続対策を提供して参りますので、ぜひお気軽にご相談くださいませ。