相続手続きの流れと進め方は?|事前準備から10ヶ月後までの全プロセス

人生には避けられない出来事があります。その中でも相続は、多くの人にとって複雑で心理的にも負担の大きいプロセスです。しかし、適切な知識と準備があれば、この困難な時期を乗り越えることができます。

相続手続きは、人生で何度も経験するものではありません。また、ご家庭ごとに状況が異なるため、具体的な手続きの内容や進め方も様々です。しかし、基本的な流れや注意点を知っておくことで、いざという時に慌てることなく対応できるでしょう。

記事のポイントは下記の通りです。

  • 相続手続きは亡くなった直後から始まるため、事前に全体を把握しておくことが重要
  • 相続手続きの事前準備をしておくと、手続きが簡素化され、家族の絆が守られる
  • 一般的な手続きの流れはあるが、ご家族の状況によって必要な手続きが異なるので注意
  • 相続手続きの期限を守らないと権利喪失や税負担のリスクがある
  • 相続手続きを専門家に依頼する場合は、相続発生後早めの相談をするといい

本記事では、相続手続きの流れと進め方について、事前準備から相続開始後10ヶ月までの全プロセスを詳しく解説します。

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1. 相続手続きの全体像

相続手続きは複雑で多岐にわたりますが、全体像を把握することで、この大切な過程をより円滑に進めることができます。以下の表は、主要な相続手続きとその期限、概要をまとめたものです。

手続き 期 限 概 要
死亡届の提出 亡を知った日から7日以内 故人の死亡を市区町村に届け出る手続き。これにより戸籍が閉鎖され、相続が開始する。
相続人の確定 できるだけ早く 戸籍謄本などを用いて法定相続人を特定する作業。相続手続きの基礎となる重要なステップ。
遺言書の
有無確認
できるだけ早く 故人が遺言書を残していたかを確認する。遺言書がある場合、故人の最終意思を尊重し、その内容に従って相続が進められる。
相続財産
の調査
できるだけ早く 故人が所有していた財産(不動産、預貯金、株式等)を調べる作業。相続税申告や遺産分割の基礎となる。
相続放棄・
限定承認
相続開始を知った日から3ヶ月以内 相続を放棄するかどうか、または限定的に受け入れるかを決める手続き。特に債務が多い場合に重要。
遺産分割協議 なし(相続税申告期限までに) 相続人間で相続財産の分け方を話し合い、決定する過程。円滑な相続のために重要。
名義変更 できるだけ早く
(不動産は期限あり)
相続した財産(不動産、預貯金など)の所有者名義を故人から相続人に変更する手続き。これにより相続人が正式に財産を管理・処分できるようになる。
準確定申告 相続開始を知った日から4ヶ月以内 故人の死亡時点までの所得税を確定させる手続き。故人の最後の納税義務を果たすために必要。
相続税申告・
納付
相続開始を知った日から10ヶ月以内 相続財産の総額が基礎控除額を超える場合に必要な手続き。国に対して相続税を申告し、納付する。
相続登記
(不動産)
相続を知った日から3年以内 2024年4月1日以降に施行された相続登記の義務化。正当な理由なく遅れると過料が科される可能性があり。

これらの手続きを適切に行うことで、故人の意思を尊重しつつ、法的にも問題なく相続を完了させることができます。相続手続きは一般的にこの流れで進みますが、個々の状況によって異なる場合があります。複雑な財産状況や家族関係がある場合は、早い段階で専門家に相談することが賢明です。

 相続前に準備できること

相続手続きを円滑に進めるために事前準備を行うことで、相続発生時の混乱や負担を大幅に軽減することができます。

これらの準備は、手続きの簡素化だけでなく、故人の意思を尊重し、家族の絆を守ることにもつながります。時間と労力を要しますが、将来の大きな負担を軽減するための重要な投資と考えることができるでしょう。

❶家族との話し合い

相続に関する家族との事前の話し合いは、将来の紛争リスクを大きく軽減します。自身の相続に関する考えや希望を伝え、家族の意向も聞くことで、相互理解を深められます。特に、事業承継や居住用不動産の相続など、特定の相続人に大きな影響を与える可能性のある事項については、早めに話し合うことが重要です。

ただし、相続の話題はデリケートなため、適切なタイミングと方法で行い、家族間の良好な関係を維持しながら、オープンで建設的な対話を心がけましょう。

❷財産目録やエンディングノート作成

財産目録の作成は、相続手続きの基礎となる重要な準備です。不動産、預貯金、有価証券、生命保険、借入金など、すべての資産と負債を記録しておくことで、相続発生時の財産調査の手間を大幅に削減できます。また、財産目録作成時に相続税の試算も行うと、将来的な相続税納税の可能性を事前に把握できます。

エンディングノートには、財産情報に加えて、希望する葬儀の形式、大切にしている物の行き先、伝えたい思いなどを記しておくことで、残された家族の負担を軽減し、自身の意思を尊重した相続を実現しやすくなります。

❸遺言書の作成

遺言書は、自身の財産分配の意思を法的に有効な形で残すことができる重要な文書です。法定相続分と異なる分配を希望する場合や、特定の財産を特定の相続人に相続させたい場合に特に有効です。遺言書があることで、相続人間の紛争を未然に防ぎ、スムーズな相続手続きを実現できる可能性が高まります。

❹専門家との関係構築

相続に関する法律や税制は複雑で、頻繁に改正されるため、信頼できる専門家(弁護士、税理士、司法書士など)との関係を事前に構築しておくことが有益です。専門家に相談することで、自身の状況に応じた適切なアドバイスを受けられ、効果的な相続対策を立てることができます。

特に、財産が複雑な場合や相続税の納付が予想される場合は、早い段階からの相談をおすすめします。信頼できる専門家を見つけるには、知人からの紹介や専門家団体の紹介サービスを利用するのも一つの方法です。

2.相続手続きの重要な期限

相続手続きには、法律で定められた重要な期限があります。これらの期限を守ることは、相続人の権利を保護し、円滑な相続手続きを進める上で非常に重要です。ここでは、特に注意が必要な期限について説明します。

2-1.基本的な期限

  • 死亡届の提出: 死亡を知った日から7日以内
    市区町村役場に提出する必要があります。この届出により、法律上の相続開始となります。
  • 遺言書の開封: 相続開始を知った後、できるだけ速やかに
    自筆証書遺言の場合、家庭裁判所での検認手続きが必要です。
  • 相続税の申告と納付: 相続開始を知った日から10ヶ月以内
    相続財産の総額が基礎控除額を超える場合に必要です。期限内に申告・納付しないと、加算税や延滞税が課される可能性があります。

2-2.相続放棄・限定承認の申し立て (3ヶ月以内)

相続放棄や限定承認は、相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。この期限は非常に重要で、延長は原則認められません。

相続放棄: 相続財産を一切相続しない選択です。被相続人の債務も引き継ぎません。
限定承認: 相続財産の範囲内でのみ被相続人の債務を弁済する選択です。

これらの選択は、被相続人に多額の債務がある場合や、相続財産の内容が不明確な場合に検討されます。3ヶ月の期限を過ぎると、原則として相続を単純承認したものとみなされ、被相続人の債務も含めてすべてを相続することになります。

2-3.遺留分侵害額請求の手続き (1年以内)

遺留分とは、一定の相続人に保障された最低限の相続分のことです。遺言や生前贈与によってこの遺留分が侵害された場合、相続人は遺留分侵害額請求権を行使できます。この権利行使には、二つの重要な期限があります。

■ 請求期限: 相続開始を知った時から1年以内
これは、権利を行使するための期限です。相続の開始を知ってから1年以内に請求しないと、権利を失います。
■ 最終期限: 相続開始から10年
これは「除斥期間」と呼ばれる最終的な期限です。相続開始から10年が経過すると、たとえ相続の事実を知らなかったとしても、権利が完全に消滅します。この期間は延長や中断ができません。

遺留分侵害額請求権を行使するには、まず遺留分を侵害している受遺者や受贈者に対して請求の意思表示をする必要があります。その後、話し合いで解決できない場合は、裁判所に調停や訴訟を申し立てることになります。

3. 死亡直後の手続き (7日以内)

大切な人との別れは心身ともに大きな負担となりますが、死亡直後には重要な手続きを迅速に行う必要があります。これらの手続きは、主に死亡から7日以内に完了させることが法律で定められています。

死亡後の主な手続きは以下の2つに集約されます。

3-1.死亡診断書(死体検案書)の受け取り

死亡診断書は、医師が作成する公的書類で、死亡の事実と原因を証明します。この書類は死亡届に必要なので、大切に保管しましょう。

  • 病院で死亡した場合:担当医師から直接受け取ります。
  • 自宅で死亡した場合:かかりつけ医や救急で駆けつけた医師に作成を依頼します。

参考:死亡診断書(死体検案書)について(厚生労働省HP

3-2.市区町村役場での手続き【死亡を知った日から7日以内】

死亡を知った日から7日以内に、死亡地、届出人の住所地、または本籍地の市区町村役場(戸籍担当)で以下の手続きを行います。

提出する書類

– 死亡診断書(死体検案書)
– 届出人の印鑑
– 亡くなった方の保険証や年金手帳など

取得する書類

死亡届
死亡の事実を行政に届け出る公的書類
火葬許可証 火葬を行うために必要な許可証
埋葬許可証
遺骨を埋葬するために必要な許可証

多くの場合、葬儀社がこれらの手続きを代行してくれます。自分で行う場合は、火葬許可証を火葬場に持参し、埋葬許可証は火葬後の遺骨を埋葬する際に使用します。両許可証は重要書類なので、紛失しないよう大切に保管してください。

取得しておくと便利な書類

死亡診断書のコピー(5通程度)
各種手続きで必要になることが多い
死亡届受理証明書 死亡届提出の証明として後の手続きで必要になることがある
籍謄本または戸籍抄本
相続手続きや各種名義変更で必要
住民票の除票
亡くなった方の最後の住所地証明として必要になることがある
火葬許可証のコピー 原本は火葬場に提出するため、控えとして保管
埋葬許可証のコピー
遺骨の埋葬時に必要となるため、控えとして保管

取得した書類は、相続手続きや保険金の請求など、今後の様々な手続きで必要となる可能性があるため、整理して保管しておきましょう。

これらの書類を早めに取得しておくことで、今後の手続きをスムーズに進めることができます。不明な点がある場合は、市区町村の担当窓口に相談することをおすすめします。

4. 初期の手続き (1ヶ月以内)

1か月以内にすべき初期の手続きは、故人の状況によって異なる場合があります。不明な点がある場合は、各窓口に確認することをおすすめします。また、手続きの際には、故人の死亡診断書や戸籍謄本、印鑑などが必要となることが多いので、事前に準備しておくとスムーズに進めることができます。

4-1.年金受給者死亡届の提出

年金を受けている方が亡くなった場合、「受給権者死亡届(報告書)」の提出が必要です。ただし、日本年金機構に個人番号(マイナンバー)が収録されている方は、原則として提出を省略できます。

以下、提出先と必要書類になります。

提出先 – 年金事務所
– 街角の年金相談センター
– 地方公務員共済組合(特定の条件に該当する場合)
必要書類 – 死亡診断書
– 戸籍謄本
– 住民票
– その他(詳細は確認が必要)

提出はできるだけ早く行うことが重要です。提出が遅れると、年金の過払いが発生し、後で返還が必要になる場合があります。

また、未支給年金の請求をしても、亡くなった方の口座が解約されていないと入金される可能性があるため注意が必要です。さらに、未支給年金は受取人の一時所得となり、確定申告が必要になる場合があることも覚えておきましょう。

参考:年金を受けている方が亡くなったとき(日本年金機構)

4-2.保険証の返却

故人の保険証の返却は、死亡後の重要な手続きの一つです。保険の種類によって手続きが異なりますが、基本的には14日以内に行う必要があります。以下に主な保険証の返却手続きをまとめました。

提出する書類

– 死亡診断書(死体検案書)
– 届出人の印鑑
– 亡くなった方の保険証や年金手帳など

取得する書類

保険の種類 返却・手続き 提出先
国民健康保険 保険証返却・資格喪失届提出 市区町村の国民健康保険課。
後期高齢者医療保険 保険証返却 市区町村の後期高齢者医療担当窓口
介護保険
被保険者証返却 市区町村の介護保険課
会社の健康保険 で保険証返却 勤務先の人事部門

注意すべき重要な点として、亡くなった方の保険証を使用して医療機関を受診した場合、後日返還請求される可能性があります。そのため、速やかに保険証を返却し、関係者全員に故人の死亡を伝えることが大切です。

4-3.世帯主の変更【世帯主の死亡後14日以内】

世帯主が亡くなった場合、世帯主変更届の提出が必要になることがあります。以下に手続きの概要と注意点をまとめます。

提出先 お住まいの市区町村の役場窓口(戸籍担当)
提出者 新しい世帯主となる人、または世帯員
必要書類 – 住民異動届(多くの自治体で使用)
– 本人確認書類(運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど)
– 印鑑

住民基本台帳法により、期限内に提出しないと過料が科される可能性があります。また、同じ住所でも世帯が異なる場合(例:二世帯住宅)、委任状が必要になることがありますのでご自身の状況にあわせて対応しましょう。

4-4.葬祭費の申請

国民健康保険の加入者が死亡した場合、葬祭を行った方(喪主)に葬祭費が支給されます。申請期限は葬儀を行った日の翌日から2年以内ですが、初期手続きに含める理由として、必要書類が揃いやすく、他の手続きと同時に効率的に進められるためです。

以下に申請の概要をまとめます。

支給額 3万円~5万円
(自治体により異なる)
申請先 故人が住民登録していた市区町村の役所(国保年金課等)
必要書類 – 葬祭費支給申請書
– 申請者本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証等)
– 喪主であることが確認できる書類(葬儀の領収書、会葬礼状等)
– 振込先の預金通帳またはキャッシュカードのコピー
– 故人の健康保険証(返却していない場合)
– 印鑑

申請から支給までは1~2ヶ月程度かかることが一般的です。また、提出された書類は返却されないため、必要に応じてコピーを取っておいたほうがいいです。また、葬祭費の申請は、他の相続手続きと並行して行うことができます。期限内に申請を忘れずに行い、故人のために使用した費用の一部を補填しましょう。

4-5.金融機関への口座凍結連絡

故人名義の口座は、金融機関に死亡の連絡をすることで凍結されます。この手続きは法的義務ではありませんが、不正利用防止や相続手続きの適正化のために推奨されています。

以下に申請の概要をまとめます。

連絡先 故人が取引していた全ての金融機関の窓口に直接訪問
連絡者
相続人、または相続人から依頼を受けた人
必要書類 – 故人の通帳・証書、キャッシュカード等
– 死亡診断書のコピー
– 相続人の本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
– 相続人と故人の関係がわかる戸籍謄本

口座凍結後は原則として引き出しができなくなるため、生活費や葬儀費用など緊急の出金が必要な場合は、金融機関に相談し、仮払い制度などを利用できる可能性があります。また、相続放棄や限定承認を検討している場合は、預金を引き出さないよう注意が必要です。

4-6.公共料金等の解約(名義変更)

公共料金の契約者が亡くなった場合、電気、ガス、水道などの解約または名義変更の手続きが必要です。多くの場合、電話やインターネットで手続きが可能ですが、会社によって対応が異なるため、事前に各契約先に確認することをおすすめします。

名義変更の場合は新しい名義人の口座情報が必要になることがあり、解約の場合はほとんど特別な書類は不要です。ただし、故人の口座から引き落とされていた場合は、新しい支払い方法の設定が必要になります。

4-7.生命保険金の請求

生命保険金の請求は、契約している保険会社に対して行います。以下に主な必要書類をまとめます。

– 保険金請求書
– 死亡証明書または死亡診断書
– 戸籍謄本または住民票
– 受取人の本人確認書類
– 保険証券

提出した書類は返却されないため、必要に応じてコピーを取っておきましょう。また、保険会社によってはオンラインでの手続きが可能な場合もあります。事前に確認すると便利です。

5. 相続の準備 (2ヶ月以内)

相続手続きを円滑に進めるためには、以下の3つの準備が重要です。これらの作業は、相続開始後2ヶ月以内に行うことが望ましいです。

  • 遺言書の有無の確認
  • 相続人の確定
  • 相続財産の調査

2ヶ月以内に行うことが推奨される理由は、相続放棄の熟慮期間(3ヶ月)内に判断するための情報収集や、相続税の申告期限(10ヶ月)を見据えた準備時間の確保、そして遺産分割協議をスムーズに進めるための基礎情報の収集のためです。

これは法的な期限ではありませんが、葬儀や死亡直後の手続きが一段落したら、できるだけ早くこれらの準備に着手することをおすすめします。

5-1.遺言書の有無の確認

遺言書が存在している場合、その内容に従って相続手続きを進める必要があります。遺言書には以下の種類があり、それぞれ確認方法が異なります。

遺言書の種類 確認方法 注意点
公正証書遺言 公証役場で検索可能 全国どこの公証役場でも照会できる
自筆証書遺言(自己保管) 自宅や貸金庫などを探す 検認手続きが必要
自筆証書遺言(法務局保管)
法務局で情報証明書を請求 検認不要
秘密証書遺言 自宅や貸金庫などを探す 公証役場で申述されている場合も

遺言書が見つかった場合、自筆証書遺言や秘密証書遺言は家庭裁判所で「検認」が必要です。検認前に開封すると過料が科されるため注意してください。公正証書遺言や法務局保管制度を利用した遺言書は検認不要でスムーズに手続きを進められます。

5-2.相続人の確定

相続人を確定するには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を収集する必要があります。この作業は法定相続人を特定するために必須です。

法定相続人を確認 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
続柄や代襲相続人を確認
相続人全員の現在戸籍

戸籍謄本は様式や記載内容が異なる場合があるため、読み取りには注意が必要です。複雑な家族関係の場合は専門家への相談をおすすめします。

5-3.相続財産の調査

相続財産には、不動産、預貯金、有価証券、生命保険などがあります。これらを漏れなく調査することが重要です。

不動産 名寄帳請求、登記簿確認
預貯金
通帳・キャッシュカード確認、金融機関への照会
有価証券 証券会社から配当金案内等を確認
借金・負債 信用情報機関への照会

ただし、すべての財産を一括で調べる方法はないため地道な作業となります。また、調査結果によっては相続放棄や限定承認を検討する必要があり注意が必要です。

6.遺産分割と名義変更 (3ヶ月以内)

相続手続きの次のステップとして、遺産分割と名義変更が重要です。これらの手続きは、相続開始後3ヶ月以内に行うことが一般的です。

相続の準備段階(2ヶ月以内)に行うべき準備では、「何があるのか」「誰が相続する権利を持っているのか」を確認する作業が主な目的でした。一方で、この3ヶ月目以降の段階では、「その財産をどう分けるか」「どのように分配するか」という具体的な話し合いと、それに基づく手続きが進められます。

遺産分割は、相続人全員の合意が必要な重要なプロセスです。話し合いによって分割方法を決定した後は、それに基づいて遺産分割協議書を作成し、各財産の名義変更手続きを行います。この段階では、実際に財産を受け取るための具体的な手続きが中心となります。

6-1.単純承認・相続放棄・限定承認の選択

相続人は、以下の3つの選択肢から選ぶ必要があります。

単純承認 全ての遺産を承認し、債務も含めて相続します。
相続放棄
遺産を全て放棄し、債務も免除されます。
限定承認 遺産を債務と比較して承認し、債務を超える部分のみ相続します。

相続放棄を検討している場合、遺産の扱いには特に注意が必要です。単純承認とは、故人の財産や債務を全て引き継ぐことを意味します。相続放棄を希望していても、以下のような行為をすると単純承認とみなされる可能性があります。

  • 遺産を使ってしまう:故人の預金から葬儀費用や病院代を支払う場合など。
  • 故人の財産を処分する:不動産や車などを売却したり、現金化する行為。
  • 故人の債務を返済する:借金や未払い金を故人名義の口座から支払う。

これらの行為は、相続財産を「受け入れた」とみなされるため、相続放棄ができなくなる可能性があるため注意してください。

6-2.遺産分割協議の開始と協議書の作成

相続人は全員で協議し、遺産をどのように分割するかを決定します。この過程で、以下の手順を踏みます。

①協議の開始

相続人全員が集まり、遺産の分割方法を話し合います。遺言書がある場合は、その内容を尊重しつつ進めます。

②協議書の作成

合意した内容を遺産分割協議書に記載します。この書類には、相続人のリスト、遺産のリスト、分割方法などが含まれます。

協議が難航する場合は、調停や裁判を利用することも可能です。また、不動産や有価証券などは、具体的な分割方法を記載する必要があるので注意しましょう。

6-3.相続財産の名義変更手続き

分割された財産の名義を新しい相続人に変更する必要があります。

不動産 登記簿の変更手続き
預貯金
口座名義変更手続き
有価証券 株主名簿の登録変更

各種手続きには必要書類が異なるため、事前に確認することをおすすめします。

7.税務関連の手続き (4ヶ月〜10ヶ月)

遺産分割と名義変更が終わった後、残すは「税務関連の手続き」が待っています。この段階では、準確定申告相続税申告の準備が必要です。税務関連の手続きにおいて、以下の点に注意しましょう。

  • 期限厳守:準確定申告は4ヶ月以内、相続税申告は10ヶ月以内に行う必要があります。
  • 正確な財産評価:相続税申告では、財産の正確な評価が求められます。
  • 控除や減免の確認:相続税では、特定の条件下で控除や減免が適用されることがあります。

これらの税務関連の手続きは、専門家の助言を得ながら進めることが重要です。不明な点がある場合は、早めに税理士に相談し、スムーズに手続きを進めましょう。

7-1.準確定申告 (4ヶ月以内)

準確定申告は、被相続人が死亡した年の1月1日から死亡日までの所得について行う確定申告です。被相続人が死亡した場合、その年の所得を確定するために必要な手続きです。相続人が被相続人の所得を相続するため、その所得に対する税金を計算する必要があります。

この手続きは、相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内に行う必要があります。その際に用意する書類は以下の通りです。

– 確定申告書(AまたはB)
– 所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(相続人が2人以上いる場合)
– 給与所得の源泉徴収票
– 年金の源泉徴収票
– 医療費の領収書(年間10万円以上の場合)
– 保険等の控除証明書(生命保険、社会保険など)
– 相続人全員の本人確認書類(マイナンバーカードなど)

相続人全員が連名で申告する必要があり、被相続人が自営業や不動産賃貸をしていた場合など、所得があった場合は必須です。医療費控除や社会保険料控除などの所得控除も適用可能です。

7-2.相続税申告 (10ヶ月以内)

相続税申告は、相続財産の総額が基礎控除額を超える場合に行う必要があります。基礎控除額は、法定相続人の数によって異なり、3000万円に相続人一人につき600万円が加算されたもの(3000万円+600万円×相続人の数)となります。例えば、相続人が1人の場合は3,600万円、2人の場合は4,200万円、3人の場合は4,800万円です。

用意する書類は以下の通りです。

– 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡までのもの)
– 相続人全員の戸籍謄本
– 預貯金の残高証明書
– 不動産の固定資産税評価証明書
– 有価証券の残高証明書
– 生命保険の支払通知書
– 遺言書または遺産分割協議書
– 相続税申告書(第1表~第15表)

準確定申告は所得に対する税金を計算するため、相続税申告は財産に対する税金を計算するためです。ですから、準確定申告では所得証明書類が中心ですが、相続税申告では財産評価書類が必要です。

相続税申告は複雑な手続きであるため、税理士に相談しながら進めることをおすすめします。

8.相続登記 (相続を知った日から3年以内)

相続登記は、不動産を相続した際に、その名義を前の所有者から新しい所有者に変更するための手続きです。2024年4月1日から相続登記が義務化され、不動産を相続した場合、相続を知った日から3年以内に登記を行う必要があります。正当な理由がないまま義務に違反すると、10万円以下の過料が科される可能性があります。

詳細な手続きや必要書類については、以下のブログを参考にしてください。

9. 相続手続きの注意点

相続手続きは複雑で、多くの法的な期限や手続きが伴います。以下に、相続手続きにおいて注意すべき重要な点をまとめます。

9-1.期限を守ることの重要性

相続手続きには、いくつかの重要な期限があります。これらを守らないと、相続の権利を失ったり、税負担が増加したりするリスクがあります。

■相続放棄の期限:相続開始を知った日から3ヶ月以内
期限を過ぎると、相続放棄はできなくなります。
■準確定申告の期限:相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内
所得税の確定申告を怠ると、罰金が科される可能性があります。
■相続税申告の期限:相続開始後10ヶ月以内
期限を過ぎると、延滞税や罰金が発生する可能性があります。

期限を守ることで、不必要なトラブルや追加の費用を防ぐことができます。不明な点がある場合は、早めに専門家に相談することをおすすめします。

9-2.専門家の相談先とタイミング

相続手続きは複雑で、専門家の助言が必要です。相談すべき専門家とタイミングについては以下の通りです。

  • 司法書士:遺産分割協議書や相続登記などで活躍しますが、手続き全般対応可能です。
  • 行政書士:遺言書の作成や相続手続きのサポートを行います。
  • 弁護士:相続問題や手続き全般で最も幅広く対応可能で、特に紛争になりそうな場合は弁護士に相談しましょう。
  • 税理士:税務関連の手続きや節税策についての相談が可能です。

相続手続きは時間がかかるため、早く相談することで無駄なく進めることができます。具体的には、葬儀後から四十九日法要までの間に相続の相談を始めるのがベストとされています。

多くの事務所が事務所、オンライン面談などで無料相談を提供しているため、気軽に相談してみることをお勧めします。

9-3.相続手続きの費用

相続手続きの費用は、依頼する専門家や財産の種類によって異なります。以下に主な専門家とその費用相場をまとめます。

  • 司法書士:費用相場:66,000円~15万円(不動産の価値によって変動)
  • 行政書士:費用相場:3万円~15万円
  • 弁護士:着手金で20~30万円、総額は事案や事務所によって異なる
  • 税理士:費用相場:遺産総額の0.5%~1%(例:5,000万円の場合、25~50万円)
  • 銀行:最低110万円以上

相続手続きをパッケージで依頼することで、費用の計算がシンプルになります。一般的には60万~80万円程度が目安です。ただし、相続トラブルの可能性が高い場合は追加料金がかかることがあります。

自分で相続手続きを行うと費用は抑えられますが、時間や手間がかかります。特に財産が多様で複雑な場合は、専門家に依頼することをおすすめします。

9-4.協力的でない相続人がいる場合

相続手続きにおいて、協力的でない相続人がいることがあります。連絡を拒否する相続人がいる場合、遺産分割協議や手続きが難航すると、預金の引き出しや不動産の名義変更ができなかったり、相続税申告が遅れ延滞税や罰金を支払うことになってしまいます。

その場合、対処としては以下の方法が挙げられます。

調停 仲裁人を通じて話し合いを進める方法です。家庭裁判所で調停を申し立てることで、相続人全員の合意を得ることができます。
裁判
最終的手段として法的手続きを利用することも可能です。裁判では、裁判官が遺産分割の方法を決定します。
専門家の仲介 弁護士や司法書士が仲介役を務めることもあります。これにより、話し合いを促進し、スムーズな手続きを進めることができます。

協力的でない相続人がいる場合、早めに専門家に相談し、適切な対策を講じることが重要です。

10.相続手続きに関するQ&A

10-1.市区町村役場で行う手続き一覧は?

市区町村役場で行う手続きには、以下のようなものがあります。

  • 死亡届の提出:死亡を知った日から7日以内に死亡者住所地の市区役所で行います。
  • 住民票の除籍:死亡者名義の住民票を除籍します。
  • 世帯主変更届:世帯主が死亡した場合、世帯主を変更するための届け出を行います。
  • 年金や保険の停止:死亡者名義の年金や保険を停止します。

10-2.相続手続きは自分でできますか?

相続手続きは自分で行うことができます。自分で手続きを行うことで、手続きの全体像を把握しやすく、費用を節約できます。

しかし、特定の専門家に任せるべき部分もあります。例えば、相続税申告や相続登記、相続放棄に関して時間や労力がかかるため、税理士や司法書士に依頼することが推奨されます。

10-3.相続人が海外在住の場合の手続きは?

相続人が海外在住の場合、以下のような手続きが必要です。

委任状の作成

海外在住の相続人が署名できない場合、委任状を作成し、代理人を通じて手続きを行います。委任状には、代理人が行う具体的な権限を記載する必要があります。

公証人による認証

海外で作成した書類は、公証人によって認証されなければなりません。これにより、日本国内での法的効力が保証されます。

在留証明書の提出

海外在住の相続人が日本国内で手続きを行う場合、在留証明書を提出する必要があります。

日本国内の代理人

日本国内に代理人を置くことで、手続きをスムーズに進めることができます。代理人は、相続人に代わって必要な書類を提出し、手続きを進めます。

各国で税制なども異なりますので、複雑な手続きになります。海外の方が相続人にいる場合は、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

9.まとめ

  • 相続手続きは亡くなった直後から始まるため、事前に全体を把握しておくことが重要
  • 相続手続きの事前準備をしておくと、手続きが簡素化され、家族の絆が守られる
  • 一般的な手続きの流れはあるが、ご家族の状況によって必要な手続きが異なるので注意
  • 相続手続きの期限を守らないと権利喪失や税負担のリスクがある
  • 相続手続きを専門家に依頼する場合は、相続発生後早めの相談をするといい

このブログを読んでいただくことで、相続手続きの全体像を理解し、事前に準備を進めることができます。特に、専門家に依頼する場合は、相続発生後早めに相談を開始することをお勧めします。早めの準備と相談により、ストレスを軽減し、円滑に手続きを進めることができます。

この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに400件以上の家族信託をはじめ、相続・生前対策を取り組んでいる。年間60件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

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