任意後見制度とは、認知症や障害などにより判断能力が低下した場合に備えて、代わりに財産管理や契約などをおこなう任意後見人を決めておく制度です。任意後見契約が締結されたうえで「任意後見監督人」が選任されると、任意後見制度が効力を発揮します。
任意後見監督人とは、その名のとおり、任意後見人を監督する役割を果たします。今回の記事のポイントは以下のとおりです。
- 任意後見監督人は家庭裁判所で選任される
- 任意後見監督人は任意後見人を監督し、家庭裁判所に定期報告をおこなう
- 任意後見監督人の選任に対して不服があっても、申立の取り下げはできない
- 任意後見監督人に不正行為があったときは解任できる
本記事では、任意後見監督人の役割や就任までの流れについて知っておきたいことを解説します。任意後見制度を利用するうえで、任意後見監督人の選任は避けられません。正しく制度を利用するためにも、ぜひご覧ください。
なお、弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、ご家族に合わせた任意後見制度などの生前対策について、無料相談を承っております。
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目次
1.任意後見制度とは?
任意後見制度とは、認知症や精神障害などにより判断能力が衰えたときに備えて、判断能力が十分にあるうちに任意後見契約を締結しておく制度です。医師により判断能力の低下が診断され、任意後見監督人が家庭裁判所より選任されると、契約に基づき、任意後見人が本人の代わりに財産の管理や契約行為などを行えるようになります。
なお、任意後見制度は成年後見制度のひとつです。成年後見制度には、任意後見制度と法定後見制度の2つの制度があります。主な違いについては以下をご覧ください。
成年後見制度の種類 | 任意後見制度 | 法定後見制度 |
制度の利用 | 本人が十分な判断能力を有するときに、後見人や委任する内容を決め、任意後見契約を締結する | 本人の判断能力が十分ではなくなったときに、後見人などを家庭裁判所が決め、法律的に本人を支援する |
申立の手続き | 本人の判断能力が衰えたときに、後見監督人の選任を家庭裁判所に申し立てる | 本人の判断能力が衰えたときに、家庭裁判所に後見などを申し立てる |
申立できる人 | 本人、配偶者、四親等以内の親族、任意後見人 | 本人、配偶者、四親等以内の親族、市町村長、検察官など |
後見人の権限 | 任意後見契約で定めた範囲内 | 一定の範囲 |
後見制度発動後の本人の契約 | 後見人は取り消せない | 後見人は取り消せる |
後見監督人の選任 | 必要 | 必要に応じて選任 |
任意後見制度では、制度の効力が発生した後でも、本人は自由に不動産売却などの契約行為をおこなえます。契約において問題があると考えられるときも、原則として後見人は取り消せません。
ただし、任意後見人は取り消せませんが、本人であればクーリングオフ制度などを使って契約を解除できることがあります。本人が契約などでトラブルを抱えたときは、早めに適切なサポートを受けられるように弁護士などの専門家に相談しましょう。
2.任意後見制度の効力が発生する条件
任意後見契約を締結するだけでは、任意後見制度の効力は発生しません。次の3つの条件が充足されたときに制度を利用できるようになります。
- 任意後見契約と登記がされている
- 本人に判断能力の低下が見られる
- 任意後見監督人が家庭裁判所により選任される
それぞれの条件について説明します。
2-1.任意後見契約と登記がされている
任意後見監督人の選任申立てを行う前に、当事者間で任意後見契約が締結されている必要があります。
この契約が締結されている状態が選任申立ての前提条件であり、契約を先に締結してから選任申立てを行うのが一般的な手順です。契約がまだない場合、特に判断能力が衰える可能性がある場合は、早めに契約を結ぶことを推奨します。
また、任意後見契約は公正証書で作成する必要があります。口頭での合意や非公式な文書による契約は、法的に有効な任意後見契約とは認められません。任意後見契約後、公証人が法務局に任意後見の登記をします。
2-2.本人に判断能力の低下が見られる
本人の判断能力が衰えたと判断されることが、制度効力発生の条件です。本人の言動などから判断能力の衰えを感じられるときは、主治医などに相談し、客観的に診断してもらうことが必要です。
2-3.任意後見監督人が家庭裁判所により選任される
主治医などにより本人の判断能力の衰えを客観的に診断してもらった後、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます。任意後見監督人が決まると、制度を利用できるようになります。
3.任意後見監督人とは
任意後見監督人は、家庭裁判所によって選任される任意後見人の監督人です。任意後見監督人の役割や選任される条件、報酬について説明します。
3-1.任意後見監督人の職務
任意後見監督人は、次の職務を果たします。
- 任意後見人を監督する
- 家庭裁判所に定期報告をおこなう
- 利益相反行為について本人の代理をする
- 任意後見人の代理をする
各職務を見ていきましょう。
3-1-1.任意後見人を監督する
任意後見監督人は、任意後見人が正しく職務をまっとうするか監督する役割を果たします。3ヶ月に1度は後見人から報告を受け、正しく後見人としての職務を果たしているか確認します。
3-1-2.家庭裁判所に定期報告をおこなう
任意後見人が正しく職務をまっとうしているか、年に1回、任意後見監督人は家庭裁判所に報告をします。つまり、後見人は監督人の監督を受け、監督人は裁判所の監督を受けることになります。
3-1-3.利益相反行為について本人の代理をする
たとえば任意後見人と本人が兄弟関係で、両者の親が亡くなったときなどは、両者ともに相続人となり、誰がどの財産を相続する決める遺産分割協議などの相続手続きにおいて利益相反行為が生じます。このようなケースでは、任意後見監督人が本人の代理を務めます。
3-1-4.任意後見人の代理をする
たとえば任意後見人が急病で倒れたなどの理由により、任意後見人が後見人としての職務に就けないときがあります。このような急迫の事情のあるケースでは、任意後見監督人が任意後見人の代理を務めます。
3-2.任意後見監督人の条件
以下のいずれかに該当する人は、任意後見監督人になれません。
- 任意後見受任者(任意後見人)
- 任意後見人の配偶者、直系血族および兄弟姉妹
- 本人に対して訴訟を起こしたことがある人
- 未成年者
- 破産者で復権していない者
- 裁判所から法定代理人などを解任された者
- 本人に対して訴訟を起こした者やその配偶者及び直系血族
- 行方不明者
任意後見監督人の候補を立てて、家庭裁判所に申し立てることはできますが、必ずしも候補者が選任されるとは限りません。
3-3.任意後見監督人の報酬相場
任意後見監督人には専門家が選任されることが多く、報酬が支払われることが一般的です。報酬は管理する財産によっても異なります。目安は以下をご覧ください。
- 5,000万円以下のときは月1万~2万円程度
- 5,000万円を超えるときは月2.5万~3万円程度
4.任意後見監督人の指名から就任までの流れ
任意後見監督人が就任するまでの流れは、以下のとおりです。
- 任意後見契約の締結
- 任意後見監督人の選任申立
- 任意後見監督人の選任
それぞれ順を追って見ていきましょう。
4-1.任意後見契約の締結(公正証書)
本人に判断能力が十分あるときに、任意後見契約を締結しておきます。任意後見契約は「任意後見契約書」を作成し、公正証書としておくことが必要です。
4-2.任意後見監督人の選任申立
任意後見監督人の選任を家庭裁判所に申し立てます。申立ができるのは、以下のいずれかに該当する人です。
- 本人(任意後見契約の本人)
- 本人の配偶者
- 本人の四親等内の親族
- 任意後見人
原則として、申立人が本人以外の場合は、その本人の同意が必須です。
本人の同意が必要なのは、任意後見契約自体が本人の意思によって作成されているからです。ただし、本人が判断能力を喪失しているなどの理由で意思表示が困難な場合は、本人の同意は不要となります。
4-2-1.申立先
任意後見監督人の選任については、家庭裁判所に申し立てます。本人の住所又は居住地(住民票住所と異なる場合)を管轄する家庭裁判所に次の書類を提出してください。
4-2-2.提出書類
任意後見監督人の選任を申し立てるときは、以下の書類の提出が必要です。
家庭裁判所でもらう申立手続書類一式
家庭裁判所からもらう申立手続書類一式に、必要な事項を記入の上、準備します。
- 申立書
- 申立事情説明書
- 診断書
- 本人情報シート
- 任意後見受任者事情説明書
- 親族関係図
- 収支予定表
- 財産目録
本人・任意後見受任者に関する書類
法務局や役所で取得し、準備します。
- 任意後見契約公正証書の写し
- 本人の戸籍謄本
- 本人の住民票または戸籍の附票
- 本人の後見登記事項証明書
- 本人の成年被後見人等の登記がされていないことの証明書
- 任意後見受任者の住民票または戸籍の附票
- 本人の財産に関する書類
任意後見監督人を選考する過程において、上記の書類以外が必要になることがあります。家庭裁判所から追加書類の提出を求められたときは、速やかに提出してください。
4-2-3.申立費用
申立には、以下の費用がかかります。
- 申立手数料:800円
- 登記手数料:1,400円
- 家庭裁判所から連絡を受けるときに必要な郵便切手代
各手数料は収入印紙で支払うことが原則です。ただし、登記印紙を持っている場合は、登記手数料を支払う際に利用できることがあります。また、本人の精神状況を鑑定する必要があるときは、申立人に精神鑑定にかかった費用が請求されます。
4-3.任意後見監督人の選任
家庭裁判所から任意後見監督人が選任されます。申立の際に親族などを監督人の候補者として立てられますが、推薦した人物が選ばれるとは限らない点に注意しましょう。
5.任意後見監督人の注意点
任意後見監督人について、次の3点を確認しておきましょう。
- 候補者が選任されるとは限らない
- 選任された人物を不服とした申立の取り下げは不可
- 不正行為などがあるときは任意後見監督人を解任できる
それぞれの注意点を説明します。
5-1.候補者が選任されるとは限らない
任意後見監督人の候補者を立てることは可能ですが、候補者が選任されるとは限りません。一般的に、弁護士や司法書士などの第三者が選ばれる傾向にあります。
5-2.選任された人物を不服とした申立の取り下げは不可
選任された人物が不服という理由で、任意後見監督人の選任申立を取り下げることはできません。任意後見制度は、判断能力が衰えた本人の利益を守る制度です。そのため、申立人の意向が反映されることはありません。
5-3.不正行為などがあるときは任意後見監督人を解任できる
任意後見監督人は、本人や任意後見人の一存で解任できません。しかし、以下に該当するときは、解任できることがあります。
- 監督人が不正行為をしたとき
- 監督人としての任務に適さないと判断されるとき
上記のときは、本人か本人の親族、検察官が解任を申し立てます。また、任意後見監督人が複数いるときは、ほかの監督人が解任を申し立てることも可能です。
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7.動画解説|任意後見監督人とは?
7.まとめ
本記事では、任意後見監督人について解説しました。内容をまとめると、以下のとおりです。
- 任意後見監督人は家庭裁判所で選任される
- 任意後見監督人は任意後見人を監督し、家庭裁判所に定期報告をおこなう
- 任意後見監督人の選任に対して不服があっても、申立の取り下げはできない
- 任意後見監督人に不正行為があったときは解任できる
認知症や精神障害などによって、判断能力が低下する可能性は誰にでもあります。万が一に備えるためにも、任意後見制度について正確に理解しておくことが必要です。
なお、任意後見制度は財産管理などに活用できるよい方法ですが、財産管理の方法は任意後見制度だけではありません。家族信託や民事信託など、ほかの方法と比較してから希望にあうものを選択するようにしましょう。
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