親の会社の相続、知らなきゃ損する注意点と対策|経営権を守る自社株の引き継ぎ方

親が経営する会社について、将来、ご自身が引き継ぐことを考えたとき、まず何が頭に浮かぶでしょうか。多くの場合、それは「株式」「役員の地位」といった、会社の経営に関わる権利の承継、すなわち「会社の相続」の問題でしょう。

その一方で、この問題を前にしたとき、「そもそも何から手をつければ良いのか」「誰に相談すれば良いのか」と、具体的な一歩を踏み出せずにいる方もいらっしゃるかもしれません。

記事のポイントは下記のとおりです。

  • 会社の財産は相続できず、相続するのは「株式」「個人保証」
  • 経営権を握るには「3分の2以上」の株式確保が絶対条件
  • 役員の地位は相続されないため、株主総会での就任手続きが必須
  • 株式の分散を防ぐには、遺言・生前贈与・家族信託が有効
  • 相続税の計算方法は時価と異なり、複雑な評価が必要
  • 相続手続きは全部で「8ステップ」、期限管理が重要

親の会社を相続する際の基本的な知識を押さえていきますので、ぜひ参考になさってください。

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1.会社の相続とは?個人の相続との3つの決定的違い

会社の相続は、単に「社長の財産を相続すること」ではありません。ご自宅や預貯金といった個人の財産相続とは、その性質が根本的に異なります。この違いを理解することが、円満な事業承継への第一歩です。

特に重要な違いは、以下の3点です。

項目 個人の相続
会社の相続
主な財産 不動産、預貯金、有価証券など 自社株式(会社の支配権そのもの)
財産の評価
路線価や預金残高等で比較的明確 会社の業績や資産に基づき、複雑な計算が必要
分割の影響 財産が減少する 株式の分散により経営権を失うリスクがある

個人の相続が「資産の分配」であるのに対し、会社の相続は「経営権の承継」という極めて重要な側面を持つのです。

2.会社の相続で今すぐ検討すべき3つの選択肢

会社の承継は、ある日突然始まる相続手続きのことだけを指すのではありません。それは、親が元気なうちに、会社の未来について下す「決断」から始まります。

何も決めないまま相続を迎えることは、実は「会社の未来を、法律と相続人たちの協議に委ねる」という一つの決断を下したことと同じです。その結果、多くの場合、会社は「① 親族内承継」を辿りますが、それが必ずしも最善の道とは限りません。

会社の歴史にどのような幕引きを用意するのか。あるいは、次の時代へどう繋いでいくのか。経営者である親自身が会社の未来を選択することこそ、残される家族や従業員に対する、最後の大きな責任と言えるでしょう。

これからご紹介する3つの選択肢は、そのための道筋です。

 選択肢① 親族内承継

ご子息などの親族に会社を引き継ぐ方法です。多くの経営者が最初に思い描く、最も自然な形かもしれません。以下のようなケースでは親族内承継を検討したほうがいいでしょう。

  • 明確な後継者候補が親族内にいて、本人にも強い意欲と覚悟がある。
  • 会社の理念や文化など、目に見えない価値を家族の手で守り、後世に伝えたいという想いが強い。
  • 従業員や取引先が、創業家による経営の継続を望んでいる、または自然に受け入れられる環境がある。

最も重要なのは、後継者本人に会社を背負う強い意志と資質があるかです。その上で、会社を継がない他の相続人の理解を得て、感情的なしこりを残さないための配慮(遺留分対策など)ができているか、慎重に判断する必要があります。

 選択肢② 親族外承継(M&Aなど)

従業員や役員、あるいは外部の第三者や他の会社に事業を引き継いでもらう方法です。近年、後継者不在の解決策として急速に広まっています。

  • 親族内に適当な後継者がいない。
  • 会社自体は黒字であり、事業に将来性や独自の強み(技術・顧客基盤など)がある。
  • 経営者個人としては、会社を売却した資金で引退後の生活を豊かにしたいと考えている。
  • 自分の代で終わりにするのではなく、従業員の雇用や取引先との関係を守りたいという想いが強い。

まず、買い手にとって魅力的だと思える独自の強みが自社にあるか、客観的に評価することが重要です。そして、従業員の雇用を守り、企業文化を尊重してくれる相手かを見極め、ご自身の希望する条件を実現するための専門家選びも欠かせません。

 選択肢③ 廃業・解散

会社の歴史に幕を閉じ、法律に則って法人格を消滅させる手続きです。これは決して「夜逃げ」のような無責任な行為ではなく、取引先や従業員への影響を最小限に抑えながら、社会的な責任を果たすための、法的な手続きに基づいた「最後の事業」と言えます。

  • 後継者もおらず、会社の事業内容や財務状況から、買い手を見つけることも困難である。
  • 事業が赤字続きで、将来的な回復の見込みが立たない。
  • 経営者自身が高齢で、心身ともに事業継続が困難だと感じている。

会社の資産で全ての負債を返済できるか(債務超過でないか)が、まず大前提となります。その上で、従業員や取引先への影響を最小限に抑え、社会的な責任を果たせるか、また廃業手続き自体の費用や手間も考慮して最終的な決断を下すべきです。

3.会社の相続財産と「自社株式」

会社の相続を考えるとき、多くの方が「会社の土地や建物、機械設備はどうなるのか?」と考えがちです。しかし、これは相続の本質を見誤る、非常によくある誤解の一つです。まず大前提として、相続財産の種類を正確に理解することから始めましょう。

3-1.相続財産は「社長個人の財産」だけ

相続とは、あくまで亡くなった個人(親)の財産を、相続人が引き継ぐ手続きです。会社の土地や建物、機械設備、運転資金といったものは、すべて「法人(会社)の財産」であり、社長個人のものではありません。したがって、これらは直接の相続対象にはなりません。

では、会社の相続における「社長個人の財産」とは何でしょうか。それは主に以下のものです。

  • プラスの財産:
    自宅不動産や預貯金といった、一般的な個人資産
    会社の相続において最も重要となる『自社株式』
  • マイナスの財産:
    社長個人の借入金など
    会社の借入金に対する『個人としての連帯保証債務』

つまり、会社の相続とは、突き詰めれば「社長個人が所有する自社株式と、個人として負っている保証債務をどう引き継ぐか」という問題に集約されるのです。

3-2.なぜ「自社株式」だけが重要なのか?

では、なぜ数ある相続財産の中で、この「自社株式」だけが別格の重要性を持つのでしょうか。それは、不動産や預貯金が単なる「資産そのもの」であるのに対し、自社株式は「会社そのものを支配する権利(経営権)」だからです。株式会社は、法律上、株主のものであり、会社の最終的な意思決定はすべて、株主が集まる「株主総会」で行われます。

社長や役員は、この株主総会の決議によって選ばれ、経営を任されているに過ぎません。つまり、自社株式を所有している者こそが、会社の真の所有者であり、社長を誰にするか、役員の給料をいくらにするか、そして会社の未来をどうするかという最終的な決定権を握っているのです。

3-3.経営権の正体=「議決権」

この会社の所有者としての権利の源泉が、株式の数に応じて与えられる議決権です。そして、法律では、この議決権の割合によって決定できることが明確に定められています。

議決権の割合 決議の種類
具体的な内容
過半数 普通決議 役員の選任・解任、役員報酬の決定など、日常的な経営判
3分の2以上
特別決議 定款の変更、事業の譲渡、会社の合併・解散など、会社の根幹に関わる重要判断

後継者が、親の想いを継いで会社を成長させていくためには、最低でも過半数、そして会社の未来を左右する大きな決断まで見据えるのであれば、「3分の2以上」の株式を確保できるかが、文字通り会社の生命線となるのです。

4.経営権を守り、円満相続を実現する3つの方法

では、具体的にどうすれば、その重要な株式を、他の相続人に分散させることなく、後継者一人に集中させることができるのでしょうか。

そのための法的な対策、すなわち「生前対策」には、主に3つの方法があります。これらはそれぞれ独立したものではなく、ご自身の会社の状況に合わせて組み合わせることで、初めて最大の効果を発揮します。

全ての対策に共通する「遺留分」への配慮

遺留分とは、法律で保障された、各相続人の最低限の遺産取得分を主張できる権利です。たとえ遺言書で「全株式を長男に」と書いても、他の兄弟は「自分の遺留分に相当するお金を支払ってほしい」と後継者に請求する権利があります。

この請求を無視すれば、深刻な紛争に発展し、後継者が多額の金銭を支払うために、結局は会社の資産を切り売りするような事態になりかねません。これを防ぐには、あらかじめ他の相続人の遺留分がいくらになるかを計算し、その後継者が支払うための資金(代償金)を準備しておくことが絶対条件となります。その資金源として、親を受取人を後継者とする生命保険に加入しておく、といった対策が非常に有効です。

この「遺留分対策」を念頭に置いた上で、具体的な3つの方法を見ていきましょう。

 方法❶:遺言書|親の最終意思を法的に示す

最も基本的かつ強力な対策が、親が元気なうちに「遺言書」を作成しておくことです。遺言書がない場合、法律(法定相続)に従って相続人全員で財産を分けることになり、会社の生命線である株式が分散してしまうリスクが非常に高くなります。

遺言書には、「会社の株式はすべて長男〇〇に相続させる」というように、誰に、どの会社の株式を、どれだけ相続させるのかを明確に記載します。これにより、親の「会社はこの後継者に託す」という強い意思を、法的な形で残すことができます。

ただし、自筆の遺言書は形式の不備で無効になるリスクや、発見されないリスクも伴います。相続手続きを最も安全・確実に進めるためには、公証役場で作成する「公正証書遺言」という形式で残しておくことを強くお勧めします。

 方法❷:生前贈与|計画的に次世代へ株式を移転する

相続が発生するのを待つのではなく、親が元気なうちに、後継者へ計画的に株式を渡していく「生前贈与」も有効な手段です。

毎年少しずつ贈与していくことで、将来の相続税負担を軽減できる可能性があるだけでなく、「親が後継者としてこの子を認めている」という意思を、他の相続人や従業員に対して明確に示すことができます。後継者自身も、株主としての自覚と責任感を早期に持つことができ、経営者としての経験を積ませる「ソフトランディング」が可能になることも大きな利点です。

ただし、一度に多くの株式を贈与すると高額な贈与税がかかるため、長期的な計画が必要です。一定の要件を満たせば、贈与税や相続税の納税が猶予される「事業承継税制」という国の優遇措置も利用できますが、適用には専門的な知識が不可欠です。

「黄金株」の活用で、経営権を確保しながら承継を進める

「生前贈与で株式を後継者に渡したいが、完全に経営の実権を渡してしまうのは不安だ…」という経営者の方もいらっしゃるでしょう。そうした不安を解消する強力な手段が、「黄金株(拒否権付株式)」と呼ばれる種類株式の活用です。

黄金株とは、たった1株でも、取締役の解任など、会社の重要な議案に対して拒否権を行使できる特別な株式のことです。具体的には、会社の定款を変更して黄金株を発行し、その1株だけを親が保有し続け、それ以外の全ての普通株式を後継者に生前贈与します。

これにより、後継者は会社のオーナーとして経営経験を積みながらも、親は「最後の切り札」として経営への関与を維持できます。後継者による経営方針の暴走や、万が一の親子関係の悪化から、ご自身の役員の地位などを守ることができる、非常に有効な防衛策となります。

ただし、黄金株の発行には定款変更などの専門的な法的手続きが不可欠です。ご興味のある方は、ぜひ一度ご相談ください。

 方法❸:家族信託|柔軟な財産管理で経営権をロックする

近年、事業承継の切り札として注目されているのが「家族信託」です。これは、親(委託者)が持つ株式を、信頼できる後継者(受託者)に託し、財産の管理・運用を任せる仕組みです。

家族信託を活用すると、株式の名義だけを先に後継者へ移すことができます。これにより、後継者は受託者として安定して議決権を行使でき、会社の経営権を完全に「ロック」できます。一方で、株式から生じる配当などの利益は、親(受益者)が引き続き受け取ることができるため、親の生活資金を確保しながら、スムーズな事業承継の準備を進められるのです。

そして、親が亡くなった後は、あらかじめ定めておいた通りに、株式そのものが後継者(帰属権利者)のものとなります。生前から相続後まで、経営権を揺るがせることなく、円滑に承継を実現できるのが家族信託の最大の強みであり、当事務所が特に力を入れている分野でもあります。

社長の認知症への備えも

もし社長が認知症などで意思判断能力を失うと、個人資産が凍結されるだけでなく、会社の重要な融資契約や、後継者を役員に選任するための株主総会での議決権行使もできなくなり、経営が完全に停止してしまうリスクがあります。この状態になってからでは、遺言や生前贈与の準備をしようにも、本人の意思能力がないため手遅れです。

しかし、家族信託を元気なうちに契約しておけば、万が一親が認知症になっても、後継者である受託者がその権限に基づき、滞りなく議決権を行使して経営を続けることができます。

5.会社の相続手続き|発生から名義変更までの8ステップ

会社の相続が発生した場合、手続きは複雑なプロセスを辿ります。一つ一つのステップを着実に進めることが、円満な事業承継の鍵となります。ここでは、その全体像と各ステップで「何をすべきか」「誰に相談すべきか」「何に注意すべきか」を具体的に解説します。

※個人の相続については別の記事で紹介していますのでこちらをご参照ください。

ステップ1:相続の発生(親の逝去)

親の逝去により、相続は法的に開始されます。悲しみの中ではありますが、会社とご家族のために、冷静かつ迅速な初動が求められます。まず、死亡診断書の取得と死亡届の提出を行い、関係各所へ連絡を取ります。

ポイント:金融機関の口座凍結

金融機関が名義人の死亡を知った瞬間に口座は凍結され、会社の運転資金や当面の葬儀費用であっても引き出しが一切できなくなります。これは会社の存続に直結する問題であり、不測の事態に備え、例えば受取人を後継者とした生命保険に加入し、当面の運転資金を確保しておくといった法的な対策を講じておくことが極めて重要です。

ステップ2:遺言書の確認と検認

次に、親が遺言書を残しているかを確認します。遺言書は故人の最終意思であり、その後の手続きを大きく左右するため、最優先で捜索すべきです。

自筆の遺言書などが見つかった場合、家庭裁判所で「検認」という手続きが必要になりますが、ここで絶対にしてはならないことがあります。それは、封印されている遺言書を、検認手続きの前に勝手に開封してしまうことです。 たとえ相続人であっても、これを破ると法律上のペナルティ(過料)が課せられる可能性があります。

遺言書を見つけても決してその場で開かず、必ず専門家へ相談し、法的な手続きを遵守してください。

ステップ3:相続人の調査と確定

誰が法的な相続人であるかを、戸籍上で正確に確定させる、非常に重要なステップです。「家族は皆わかっているから」という思い込みは禁物であり、ここでの見落としは、後々すべての手続きを無に帰す可能性があります。

この調査では、亡くなった親の「出生から死亡まで」の全ての連続した戸籍謄本等を取り寄せます。なぜなら、万が一、把握していなかった相続人(例えば、前妻の子や認知した子など)が一人でも存在した場合、それまでに行った遺産分割協議そのものが法的に無効になってしまうからです。このリスクを避けるためにも、戸籍の収集と相続人の確定は、司法書士に依頼するのが最も確実な方法です。

ステップ4:相続財産の調査と評価

相続する財産全体を把握し、その価値を評価します。会社の相続では、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も徹底的に調査しなければなりません。そして、多くの後継者が後からその存在に気づき、窮地に立たされる最大の落とし穴が、亡くなった親の「個人保証」です。

会社の借入金に対する経営者の個人保証は、マイナスの財産として相続人にそのまま引き継がれます。これを見落としたまま安易に相続してしまうと、後継者が会社の債務を個人として背負うことになりかねません。財産調査とは、この隠れたリスクを発見するために行うものだと心に刻んでください。

ステップ5:遺産分割協議

もし、親が遺言書などの生前対策を何も行わずに亡くなった場合、この「遺産分割協議」が、会社の運命を左右する最初の、そして最大の山場となります。

これは、第4章で解説した「生前対策」という事前の準備をしない場合、何のルールもない状態で、相続人全員が会社の未来を決める権利を持ってしまったという、極めて不安定な状況です。後継者にとっては経営権を死守するための交渉の場ですが、他の相続人にとっては、法律で認められた自らの権利(法定相続分)を主張する正当な場となります。

ポイント:ここでの交渉は「遺留分対策」よりも遥かに困難

この協議で後継者が経営権(議決権の3分の2以上)を確保するための唯一の道は、やはり「代償分割です。つまり、自分が株式を全て相続する代わりに、他の相続人には法定相続分に相当する現金を支払う、という提案をすることになります。

しかし、これは生前対策で準備する「遺留分」への配慮とは、似て非なるものです。遺留分対策が、親の意思を基にした「紛争予防」であるのに対し、遺産分割協議での代償分割は、既に紛争が始まっている中での「事後交渉です。そこには相続人それぞれの感情が絡み、より多くの金銭を要求されたり、そもそも提案を拒否されたりするリスクが格段に高まります。

ステップ6:株式の名義書換と役員変更登記

遺産分割協議がまとまったら、その内容を法的に実現させるための名義変更手続きに移ります。これらは全て、私たち司法書士が専門家として代行できる手続きです。

会社の相続で主に必要となる名義変更は、以下の3つです。

① 自社株式の名義変更

会社の「株主名簿」を、亡くなった親から後継者へと書き換える手続きです。後継者が、会社(株式の発行会社)に対して名義書換を請求します。これにより、後継者は法的に株主としての権利を行使できるようになります。

一般的に、以下の書類が必要となります。

  • 株式名義書換請求書(会社所定の様式)
  • 遺産分割協議書または遺言書
  • 相続人全員の戸籍謄本、印鑑証明書
  • 株券(株券発行会社の場合)
② 事業用不動産の名義変更(相続登記)

会社が所有する土地や建物ではなく、親(個人)が所有し、会社に貸していた事業用の土地や工場などがある場合は、その不動産の名義を後継者へ変更する「相続登記」が必要です。

③ 役員変更登記

親の死亡による退任と、後継者の新たな代表取締役就任を法務局に届け出ます。この登記は役員の変更から2週間以内という厳格な期限があるため、特に迅速な対応が必要です。

  • ❶ 株主総会の開催:
    新たな株主となった後継者が株主総会を招集し、自身を取締役に選任する決議を行います。
  • ❷ 取締役会(または代表取締役の選定):
    取締役会設置会社であれば、取締役会で後継者を代表取締役に選定します。
  • ❸ 登記申請:
    決議から2週間以内に、法務局へ役員変更登記を申請します。

ステップ7:各種許認可の承継手続き

会社が特定の事業を行うために行政から得ている「許認可」。代表者が亡くなった場合、この許認可の承継手続きを忘れると、最悪の場合、事業が継続できなくなるという致命的な事態を招きます。

具体的にどのようなものがあるか、イメージしにくいかもしれませんので、いくつか代表的な例をご紹介します。

宅地建物取引業免許

亡くなった親が唯一の専任宅地建物取引士だった場合は、30日以内に新たな専任取引士を選任し、免許権者(都道府県知事等)へ変更届を提出しなければなりません。

飲食店営業許可

この許可は施設に対して発給されますが、営業者(法人代表者)が死亡した場合は、10日以内(自治体によりおおむね10〜15日)に所轄保健所へ「営業者地位承継届」などを提出し、代表者変更の手続きを行います。

産業廃棄物収集運搬業許可

代表者や役員に変更があったときは、変更後30日以内に許可権者(都道府県知事等)へ変更届を提出する義務があります。

ステップ8:相続税の申告と納付

最後に、相続税の申告と納付を行います。相続した財産の総額が基礎控除額を超える場合に、この手続きが必要となります。この最終ステップには、絶対的な期限が待ち構えています。

ポイント:10ヶ月という申告・納付期限

相続税の申告・納付は、相続開始を知った日の翌日から「10ヶ月以内」という厳格な期限があります。この期限から逆算し、早い段階で税理士に相談して納税額の概算を把握し、申告までのスケジュールを立てておくことが、ペナルティを避けるための必須行動です。

6.自社株の評価と相続税の基本

会社の相続を考える上で、避けて通れないのが「自社株式の評価」と、それにかかる「相続税」の問題です。なぜなら、自社株の評価額は、単に納税額を決めるだけの数字ではないからです。それは、他の相続人に支払うべき代償金の金額を左右し、遺留分の計算の基礎となり、ひいては遺産分割協議そのものを円滑に進められるかどうかの鍵を握る、極めて重要な指標なのです。

上場企業の株式であれば、証券取引所で日々株価が公開されているため、その価値は誰の目にも明らかです。しかし、日本の中小企業のほとんどを占める非上場会社の場合、株式を売買する市場が存在しません。そのため、「うちの会社の株は、一体いくらの価値があるのか?」を、国税庁が定めた特別なルール(財産評価基本通達)に基づいて、一から計算する必要があるのです。これが、自社株の評価が複雑と言われる所以です。

6-1.自社株の評価方法

評価方法は会社の規模などに応じて細かく分かれますが、ここではその根底にある基本的な考え方を2つご紹介します。

純資産価額方式|「もし今、会社を解散したら?」という考え方

これは、会社の「今現在の価値」に着目する方法です。具体的には、会社の総資産(土地、建物、預金など)から、全ての負債(借入金など)を差し引いた、純粋な資産(純資産)を基に株価を評価します。

帳簿上の価格ではなく、相続開始時点の時価で再評価するため、含み益のある不動産などを持っていると、評価額が跳ね上がることがあります。

類似業種比準価額方式|「似ている上場会社と比べたら?」という考え方

これは、会社の「将来の収益力」に着目する方法です。事業内容が似ている上場企業の株価を参考に、「配当」「利益」「純資産」という3つの要素を自社と比較して、株価を評価します。一般的に、利益を多く出している会社ほど、評価額は高くなる傾向にあります。

💡 会社の規模によって、評価方法は変わる
実際には、多くの会社でこの2つの方式が組み合わされて評価されます。会社の規模(従業員数、総資産価額など)に応じて、どちらの方式をどのくらいの割合で使うかが決められています。
大会社: 主に「類似業種比準価額方式」で評価
小会社: 主に「純資産価額方式」で評価
中会社: 上記2つの方式を、会社の規模に応じてミックス(併用)して評価

6-2.会社の相続税、基本的な計算の仕組み

算出された自社株の評価額に、他の個人資産(不動産、預貯金など)を加えたものが、相続財産の総額となります。この総額から、法律で定められた基礎控除額を差し引いた金額に対して、相続税が課税されます。

相続税の基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)

会社の経営が順調であればあるほど、自社株の評価額だけで数千万円、数億円になるケースは珍しくなく、多くの会社で相続税の課題が現実のものとなります。

(計算例)相続人が妻と子供2人(計3人)の場合

基礎控除額:3,000万円+(600万円×3人)= 4,800万円

この場合、相続財産の総額が4,800万円以下であれば、相続税はかかりません。

💡 納税資金の準備を怠るリスク
納税資金を捻出するために、相続したばかりの自社株や、会社にとって必要な事業用資産を売却せざるを得なくなれば、その後の経営に深刻な影響を及ぼします。そうなる前に、生前のうちから納税額を予測し、生命保険の活用などで計画的に納税資金を準備しておくことが不可欠なのです。

7.会社の相続でよくある失敗事例と解決策

ここでは、私たちが実際に目の当たりにしてきた会社の相続における失敗事例と、司法書士がどのように問題を解決できるかをご紹介します。

ケース1:後継者候補が複数いて揉めてしまった

製造業を営むA社長には、会社で働く長男と、会社を手伝っていない次男がいました。A社長は「兄弟仲良く会社を継いでほしい」とだけ言い残し、対策なく逝去。遺産分割協議で、次男が法定相続分として株式の半分を要求し、経営が停滞してしまいました。

解決策

このような事態は、生前に「全株式を長男に相続させる」という遺言書を作成しておくことで防げました。さらに、次男の遺留分に配慮し、生命保険金を活用して代償金を支払う準備をしておけば、より円満な解決が可能でした。

ケース2:相続税の納税資金が用意できなかった

B社長の会社は業績好調で、自社株の評価額が数億円にまで上がっていました。相続が発生し、後継者である長女は多額の相続税を課されましたが、納税資金が用意できず、やむなく会社の資産や、相続したばかりの自社株の一部を売却せざるを得ませんでした。

解決策

生前のうちに株価評価を行い、納税額をシミュレーションしておくべきでした。その上で、役員退職金を計画的に準備したり、生命保険を活用したりすることで、納税資金対策を講じることが可能です。

ケース3:借入金の個人保証を忘れていた

C社長は、会社の運転資金を借り入れる際に、個人として連帯保証人になっていました。C社長の死後、相続人である妻と子供たちは、会社の株式や預貯金だけでなく、数千万円の連帯保証債務も相続していることを後から知りました。

解決策

相続が開始したら、速やかに相続財産調査を行い、プラスの財産だけでなく、借金や保証債務といったマイナスの財産も正確に把握することが重要です。もし債務超過であれば、家庭裁判所で「相続放棄」の手続きを行う選択肢もあります。

8.会社の相続・事業承継でよくあるご質問(FAQ)

Q1. 遺言で全株式を後継者に相続させても、他の兄弟から文句を言われませんか?

遺留分を侵害している場合、他の相続人から「遺留分侵害額請求」として、金銭の支払いを求められる可能性があります。遺言書を作成する際は、他の相続人の遺留分にも配慮した内容にすることが、争いを防ぐ鍵となります。

Q2. 会社の相続が終わった後、役員の変更登記はいつまでに必要ですか?

役員に変更があった場合、2週間以内に法務局へ変更登記を申請する義務があります。これを怠ると過料(罰金のようなもの)の対象となる可能性があるため、速やかな手続きが必要です。

Q3. 相談したいのですが、何から話せば良いかすら分かりません。

全く問題ございません。多くの方が同じ状況からご相談にいらっしゃいます。まずはご家族の状況や、今感じている漠然とした不安をお聞かせください。私たちが法的な観点から問題点を整理し、やるべきことを明確にします。

Q4. 会社の財産を調べたら、資産よりも借金の方が多い「債務超過」でした。どうすれば良いですか?

会社の負債に対する個人保証なども含めて、プラスの財産よりマイナスの財産が多い場合は、家庭裁判所で「相続放棄」の手続きを検討します。

相続放棄をすれば、借金を引き継ぐ義務はなくなりますが、自社株式を含む全ての財産を相続する権利も失います。手続きは「相続の開始を知った時から3ヶ月以内」と期限が短いため、早急に司法書士などの専門家へ相談してください。

5.まとめ

  • 会社の財産は相続できず、相続するのは「株式」「個人保証」
  • 経営権を握るには「3分の2以上」の株式確保が絶対条件
  • 役員の地位は相続されないため、株主総会での就任手続きが必須
  • 株式の分散を防ぐには、遺言・生前贈与・家族信託が有効
  • 相続税の計算方法は時価と異なり、複雑な評価が必要
  • 相続手続きは全部で「8ステップ」、期限管理が重要

事業承継は、後継者の育成という実務面の課題もあることから、十分な余裕期間のあるうちに準備を始める必要があります。

今回ご紹介したポイントは、いわば会社の相続における地図のようなものです。しかし、地図を持っているだけでは目的地に着かないように、知識だけでは円満な事業承継は実現できません。

最も重要なことは、問題が起きる前に、専門家と共に最初の一歩を踏み出すことです。先延ばしにするだけ選択肢は狭まり、トラブルのリスクは上がっていきます。あなたの会社とご家族の未来を守るため、まずは現状を把握するためのご相談から始めてみませんか。

この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに400件以上の家族信託をはじめ、相続・生前対策を取り組んでいる。年間60件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

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