親の財産管理を考えたとき、「家族信託」という選択肢が浮かぶ方は多いでしょう。しかし、それと同時に「本当に私たちの家族に必要なのだろうか」という本質的な疑問も生じているはずです。
認知症による資産凍結への対策として、家族信託の有効性が広く語られています。ですが、ご家庭の資産状況や家族関係によっては、家族信託が不要、あるいは不適切であるケースも確実に存在します。
記事のポイントは下記のとおりです。
- 家族信託は万能ではなく、ご家庭の状況によっては不要、または不適切な場合もある。
- 遺言や後見制度との違いを理解し、家庭の目的に合う最適な方法を選択することが肝要。
- 財産管理を心から託せる家族の存在が、家族信託を成功させるための絶対的な前提条件です。
- 不動産や自社株の管理など、明確な目的がある場合に家族信託は大きな効果を発揮する。
- 親が元気で意思が明確な「今」が、対策を講じることができる唯一のタイミング。
本記事では、その「不要なケース」を明確化し、最適な代替案と共に、後悔しないための判断基準を専門的に詳説します。
目次
- 1.あなたの家族信託「必要度」チェック
- 2.家族信託を安易に選んではいけない7つのケース
- CASE❶ 家族に争いや不信感がある
- CASE❷ 財産管理を信頼して任せられない
- CASE❸ 財産が「年金と預貯金」のみ
- CASE❹ 財産管理より「身の回りの世話心配」が心配
- CASE➎ 生前贈与で財産移転している
- CASE❻ 親の認知症リスクが低い
- CASE❼ 親の不動産売却や施設費用を支払う予定がない
- 3.あなたの状況に合う最適な代替案3選
- 代替案①:遺言|「亡くなった後」の財産承継に特化した最終意思
- 代替案②:任意後見制度|生前の財産管理と身上監護の“お守り”
- 代替案③:生前贈与|最もシンプルで確実な生前の財産移転
- 4.家族信託が必要なケースとは?
- 5.動画解説|家族信託が不要なケース
- 6.まとめ
1.あなたの家族信託「必要度」チェック
「そもそも、私たちの家族に家族信託は本当に必要なのだろうか?」その疑問に答えるため、まず最初のステップとして、ご自身の状況を客観的に把握することが不可欠です。
以下の7つの質問は、私たちがご相談を受ける際に、お客様の状況を把握するために実際に確認している項目を基に作成しました。「はい」「いいえ」で直感的に答えるだけで、あなたの家族にとっての家族信託の必要度が見えてきます。
一つひとつの質問が、なぜ重要なのかという簡単な解説も添えました。ご自身の家族の顔を思い浮かべながら、じっくりとチェックしてみてください。
1-1.家族信託の必要度を測る7つの質問
直感的に「はい」「いいえ」で答えていただくだけで、あなたの家族にとっての家族信託の必要度が見えてきます。
また、各質問のタイトル部分をクリック(タップ)すると、その質問がなぜ重要なのかという解説が表示されます。ご自身の家族の顔を思い浮かべながら、じっくりとチェックしてみてください。
不動産は、名義人である親の判断能力が失われると、たとえ家族であっても売却や担保提供(リフォームローンの設定など)が一切できなくなります。これが「資産凍結」の最も典型的な例です。
親の預金は、判断能力の低下を銀行が把握した時点で口座ごと凍結されるリスクがあります。定期預金の解約なども当然できなくなり、介護費用が計画通りに引き出せなくなる可能性があります。
家族信託と同様に認知症対策となる「成年後見制度」では、家庭裁判所が選んだ後見人が財産を管理し、裁判所の監督下に置かれます。家族信託は、裁判所の関与なく、契約内容に基づき家族だけで柔軟な管理が可能です。
家族信託は、財産を託す「委託者(親)」と、託される「受託者(子など)」の強固な信頼関係が全ての土台です。この信頼がなければ、制度そのものが成り立ちません。
会社のオーナー経営者の判断能力がなくなると、会社の意思決定が完全にストップしてしまいます。家族信託は、議決権を後継者に託すことで、円滑な事業承継を実現する有効な手段となります。
家族信託の契約内容は、特定の相続人に有利な内容とならないよう、家族全員が納得することが理想です。オープンな話し合いができない関係性の場合、将来「争族」の火種となる可能性があります。
共有不動産は、共有者の一人でも判断能力を失うと、共有者全員の合意形成ができなくなり、売却も活用もできなくなります。この「共有者リスク」は非常に見落とされがちです。
7つの質問、お疲れ様でした。ご自身の家族の状況を具体的にイメージできたのではないでしょうか。
1-2.【診断結果】家族信託はあなたに必要?
「はい」の数によって、あなたの家族が今どのような準備段階にいるのか、客観的な目安がわかります。早速、ご自身のタイプに合った結果を確認してみましょう。
2.家族信託を安易に選んではいけない7つのケース
診断チェックの結果はいかがでしたでしょうか。たとえ必要度が「中」や「高」と出た方でも、一度立ち止まっていただきたいのがこの章です。
家族信託は、認知症などによる資産凍結を防ぐための非常に強力なツールです。しかし、その強力さゆえに、ご家庭の状況に合わないまま進めてしまうと、問題を解決するどころか、かえって新たな火種を生むことにもなりかねません。
ご自身の状況と冷静に照らし合わせながら、確認していきましょう。
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CASE❶ 家族に争いや不信感がある
⚠️ 家族間の不信は、家族信託を失敗させる最大の原因となります。
家族信託の大きな利点は、裁判所の監督を受けずに、家族の判断で柔軟に財産を管理できる点にあります。しかし、この利点は家族間に利害の対立や感情的な不和が存在しない場合にのみ成立します。
もし、ご家族の中にすでに対立や不信感がある場合、家族信託の手続きを進めることで、その問題はさらに深刻化します。
実際にあったご相談ケース
80代の母親と同居する長女が、認知症対策として家族信託を準備。しかし、遠方に住む長男が「姉が母の財産を独占するつもりだ」と主張し、手続きへの協力を拒否。結果として、財産管理の話がきっかけで、姉弟間の対立は決定的なものになりました。
このような状況では、信託が新たなトラブルの原因に
もし、ご家族の間に以下のような状況が一つでもある場合、家族信託の導入は極めて危険です。
- 信託を検討する以前の状況
– 特定の家族・親族間の仲が良くない。
– 親の財産について、子たちの間で意見が対立している。
– 親の介護方針などを巡って、すでに関係がこじれている。 - 信託を組成した結果起こりうる問題
– 「なぜ、あの人だけが財産を管理するのか」という不公平感が生まれる。
– 判断能力が衰えた親が、騙されて契約したのではないかと疑われる。
– 財産を管理する家族(受託者)による、財産の使い込みが疑われる。
法律上、家族信託は財産を託す親(委託者)と託される子(受託者)の合意だけで契約が可能です。しかし、他の家族の納得を得られない信託は、将来の深刻なトラブルに直結します。
🔀置換ケース
このような場合は、家庭裁判所が関与し、中立な専門家などが財産を管理する「成年後見制度」の方が、公平性を保てるため安全な選択肢と言えます。
CASE❷ 財産管理を信頼して任せられない
⚠️ 受託者の責任は法的に重く、長期間にわたります。
受託者に選ばれた家族には、信託法に基づき、以下のような法律上の極めて重い義務が課せられます。
- 善管注意義務 (信託法第29条):
職業として他人の財産を預かる専門家と同レベルの注意深さで、財産を管理する義務。 - 分別管理義務 (信託法第34条):
信託された財産を、自分自身の財産とは明確に分けて管理する義務。信託専用の口座(信託口口座)を開設するのはこのためです。 - 帳簿作成・報告・保存義務 (信託法第37条):
信託財産の収支や管理状況に関する帳簿や書類を作成し、受益者(親など)からの求めに応じて報告する義務。
このように、受託者には時間的、精神的に大きな負荷がかかります。責任感や実務能力、そして他の家族からのプレッシャーに耐えうる人物でなければ、務め上げることは困難です。
実際にあったご相談ケース
父の財産管理を引き受けたものの、本業の傍ら、毎月の収支報告書を作成するのは大変な手間です。また、些細な支出についても他の兄弟から説明を求められることがあり、精神的な負担が非常に大きいと感じています。
🔀置換ケース
家族内に適任者がいない場合、無理に選任すべきではありません。この場合も、専門家が財産を管理する「成年後見制度」や、信託銀行等が提供する商事信託(遺言代用信託など)を検討することが現実的です。
CASE❸ 財産が「年金と預貯金」のみ
⚠️ 信託組成の費用と、得られるメリットのバランスを考える必要があります。
家族信託の組成を司法書士などの専門家に依頼した場合、信託財産額に応じたコンサルティング報酬(財産評価額の1%前後、最低30万円~が目安)が必要となります。 それに加えて、以下の実費が必ずかかります。
- 公正証書作成手数料:
信託契約書を公正証書にするための費用で、信託財産の価額に応じて数万円~十数万円程度。 - 登録免許税:
不動産を信託財産に含める場合の登記費用。土地は固定資産税評価額の0.3%、建物は0.4%がかかります(※税率は特例措置の期限により変動の可能性あり)。
このように、専門家報酬と実費を合わせると、総額は数十万円から、高額な不動産を含む場合は100万円を超えることも珍しくありません。この費用をかけてでも守るべき主要な財産は、認知症によって名義人が意思表示できなくなると売却や契約が不可能になる「不動産」や、議決権が行使できなくなる「自社株式」です。
親の財産が、公的年金と生活費・医療費を賄うための預貯金のみである場合、高額な費用を投じて信託契約を結ぶ経済的合理性は低いと言えます。
🔀代替案
この場合、財産の承継については「遺言」で備え、生前の生活費の管理については「任意後見制度」の利用や、社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」などを検討する方が合理的です。
CASE❹ 財産管理より「身の回りの世話心配」が心配
⚠️ 家族信託は財産管理の制度であり、身上監護は行えません。
親の将来を考える際、財産と同じくらい重要なのが、生活や医療に関する法律行為です。具体的には、以下のような手続きが挙げられます。
- 介護施設への入所契約
- 病院への入院手続き、手術や延命治療に関する医療同意
- 要介護認定の申請や更新手続き
これらの法律行為を本人に代わって行う権限を「身上監護権(しんじょうかんごけん)」と呼びます。家族信託の契約に、この身上監護権を含めることは法律上できません。
🔀代替案
法律上、財産管理と身上監護の両方の権限を第三者に託せるのは「任意後見制度」だけです。
⚠️ 専門家からのワンポイント
ただし、実際には、近親者(子など)がいる場合、多くの病院への入院手続きや施設への入所契約は、法的な代理権がなくとも「家族」として署名することで対応できるケースがほとんどです。そのため、身上監護のためだけに任意後見制度を必ずしも選ぶ必要はありません。ご家族の状況に合わせて、どちらが最適か検討しましょう。
CASE➎ 生前贈与で財産移転している
⚠️ 目的が達成されているなら、新たな手続きは不要です。
親が元気なうちに、自宅不動産など主要な財産を、将来任せたい子へすでに生前贈与している場合、財産の名義は子に移転しています。
そのため、親の判断能力が低下してもその財産が凍結されることはなく、管理・処分は新しい名義人である子が行えます。この場合、目的はすでに達成されているため、新たに家族信託を組成する必要はありません。
CASE❻ 親の認知症リスクが低い
⚠️ 不必要に早い段階での対策は、管理負担の長期化につながります
親が60代などで心身ともに健康であり、認知症のリスクが客観的に低い状況で、焦って家族信託を組成する必要はありません。
家族信託は一度開始すると、契約で定めた終了事由が発生するまで継続し、その間、受託者には財産管理の責任が伴い続けます。まだ必要性のない段階から始めると、受託者である子の負担期間が不必要に長引くことになります。
🔀代替案
この段階でまず着手すべきは、相続に関する親の意思を法的に有効な形で残す「公正証書遺言」の作成です。これにより、相続発生時の手続きは大幅に簡略化されます。家族信託の具体的な検討は、既に作成した遺言と併用して行うことも可能です。親の健康状態に変化が見られた時点からで十分間に合います。
CASE❼ 親の不動産売却や施設費用を支払う予定がない
⚠️ 財産を「動かす」必要がない場合、信託のメリットは発揮されません。
家族信託が持つ最大の機能は、本来であれば名義人本人しか行えない法律行為(売却、賃貸など)を、受託者が代行できる点にあります。したがって、親が所有する不動産について、
- 将来にわたって売却や賃貸に出す具体的な予定がない(子が住み続けるなど)
- 親の介護費用は、年金や預貯金で十分に賄える見込みである
という場合、財産を「動かす」必要性がありません。高額な費用をかけて信託を組成しても、その機能が使われる場面がなく、宝の持ち腐れとなってしまいます。
🔀代替案
この場合、財産の承継先の指定は「遺言」で行うのが最もシンプルで確実な方法です。
3.あなたの状況に合う最適な代替案3選
完璧な制度というものは存在しません。大切なのは、それぞれの制度が持つ「得意なこと」と「苦手なこと」を正しく理解し、ご自身の家族が解決したい課題に最も適したツールを選ぶことです。
この章では、家族信託の代替案として特に有効な「遺言」「任意後見制度」「生前贈与」の3つを取り上げ、それぞれの特徴を深掘りしていきます。
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代替案①:遺言|「亡くなった後」の財産承継に特化した最終意思
遺言とは、本人が亡くなった後に、ご自身の財産を誰に、どのように承継させるかを指定する、法的に保護された最終的な意思表示です。法律で定められた相続のルール(法定相続)よりも、本人の意思を優先させることができるため、相続を円滑に進め、「争族」を防ぐための最も基本的かつ重要な対策となります。
こんな方におすすめです
- 相続人同士の無用な争いを防ぎたい方
- 法定相続人以外の人(お世話になった息子の嫁など)にも財産を遺したい方
- 各相続人の取得分を、法律で定められた割合(法定相続分)とは違う配分にしたい方
- 生前の財産管理には特に不安がない方
遺言のメリット
- 手続きが比較的シンプルで費用も安い:
専門家が作成する「公正証書遺言」でも10万円~20万円程度が一般的で、家族信託より費用を抑えられます。 - 相続手続きがスムーズになる:
遺言があれば、相続人全員での遺産分割協議が不要となり、不動産の名義変更や預金の解約が円滑に進みます。 - 親の最終的な意思を明確に残せる:
財産配分に親の明確な意思が示されることで、残された家族の納得感を得やすくなります。
【最重要】遺言の注意点・デメリット
遺言は、あくまで「亡くなった後」に初めて効力を発揮するものです。したがって、家族信託が目的とする「生きている間の認知症による資産凍結」には、全く効果がありません。
親が遺言を書いていても、認知症になってしまえば、その親名義の預金を引き出すことも、不動産を売却することもできないという事実は、絶対に覚えておいてください。
⚠️ 専門家からのワンポイント
遺言には自分で書く「自筆証書遺言」と、公証役場で作成する「公正証書遺言」があります。自筆証書遺言は手軽ですが、形式不備で無効になったり、紛失や改ざんのリスクがあったりします。特別な事情がない限り、法的効力が確実で、原本が公証役場に保管される「公正証書遺言」の作成を強くお勧めします。
代替案②:任意後見制度|生前の財産管理と身上監護の“お守り”
任意後見制度とは、本人がまだ元気で判断能力が十分あるうちに、将来、認知症などで判断能力が不十分になった場合に備えるための制度です。
信頼できる人物(任意後見人)と事前に「任意後見契約」を公正証書で結んでおくことで、財産の管理や、介護・医療に関する契約(身上監護)を、自分の希望に沿って行ってもらうことができます。
こんな方におすすめです
- 財産管理だけでなく、介護施設への入所契約など(身上監護)も任せたい方
- 家族信託を組むほどではないが、預貯金の凍結などには備えておきたい方
- 信頼できる家族に任せたいが、第三者(裁判所)のチェック機能も欲しい方
- おひとり様や、お子さんがいないご夫婦
任意後見制度のメリット
- 身上監護も任せられる:
財産管理だけでなく、介護や医療に関する契約手続きも代理してもらえる、唯一の制度です。 - 本人の意思で後見人を選べる:
誰に何を任せるか、自分の意思で決められます。(判断能力低下後に裁判所が選任する「法定後見」とは異なります) - 公的な監督で安心:
契約の効力発生後、任意後見監督人(主に弁護士など)が家庭裁判所によって選任され、後見人の仕事ぶりをチェックするため、財産の不正利用を防げます。
任意後見制度の注意点・デメリット
最大の注意点は、家庭裁判所の継続的な監督下に置かれることです。財産の使い道は本人の生活維持のために厳しく制限され、積極的な資産活用(例えば、相続税対策のための不動産売却など)は原則として認められません。また、後見監督人への報酬が、本人が亡くなるまで継続的に発生します。
⚠️ 専門家からのワンポイント
家族信託が「家族による、柔軟な財産管理」を目指すのに対し、任意後見制度は「公的な監督のもと、本人の財産を堅実に守る」ことを目的とします。その自由度と監督の厳しさが、両者を分ける最も大きな違いと覚えておくと良いでしょう。
代替案③:生前贈与|最もシンプルで確実な生前の財産移転
生前贈与とは、所有者が生きているうちに、ご自身の財産(不動産、現金など)を、特定の相手に無償で譲り渡すことです。
贈与契約が成立し、不動産の名義変更などが完了した時点で、その財産の所有権は完全に相手に移転します。相続を待たずに、特定の財産を特定の相手へ確実に渡すことができる、最も直接的な方法です。
こんな方におすすめです
- 渡したい財産と相手が明確に決まっている方
- 親の生活資金は、贈与する財産以外で十分に確保されている方
- 相続税対策を計画的に進めたい方
生前贈与のメリット
- 確実に財産を移転できる:
贈与契約を結び、名義変更すれば、財産は完全に受け取った人のものになります。親の将来の判断能力に左右されません。 - 手続きが比較的シンプル:
家族信託や任意後見に比べ、契約内容はシンプルです。
生前贈与の注意点・デメリット
最も大きなデメリットは、一度贈与したら、親はもうその財産について一切の権利を主張できなくなることです。例えば、自宅を長男に生前贈与した後、「やはり売却して施設費用にしたい」と親が思っても、所有者である長男の同意がなければ不可能です。
また、高額な贈与税がかかる可能性があります。年間110万円の基礎控除は有名ですが、それを超える贈与、特に不動産のような高額な財産を贈与する際は、税理士への相談が不可欠です。
⚠️ 専門家からのワンポイント
2024年1月1日以降の贈与については、相続開始前7年以内に行われたものが相続財産に加算(持ち戻し)されるルールに段階的に移行しています。 ただし、延長された4年分(相続開始前3年超~7年以内)の贈与については、合計100万円まで加算の対象外となる控除が設けられています。 「相続税対策」を目的とした安易な生前贈与は、かえって納税額を増やすことにもなりかねません。必ず税理士などの専門家にご相談ください。
4.家族信託が必要なケースとは?
では、それでもなお、私たちが「この状況は、家族信託でしか解決できません」と強く推奨するのは、一体どのようなケースなのでしょうか。
それは、遺言や後見制度の“守備範囲”を超えた、より複雑で、より長期的な課題を抱えているご家庭です。この章では、家族信託が持つ真価が最大限に発揮される、4つの代表的なケースをご紹介します。
ケースA:裁判所の関与なしで、家族だけで柔軟に財産管理がしたい
《こんな課題ありませんか?》
親が認知症になった後の財産管理は、任意後見制度でもできると分かった。でも、家庭裁判所に毎年報告書を提出したり、財産の使い道にいちいち監督人の許可を得たりするのは、どうにも窮屈で面倒だ。もっと家族の判断で、迅速かつ柔軟に動きたいのに…
家族信託なら、こう解決できる
家族信託と任意後見制度は、どちらも生前の財産管理を行える有効な制度です。しかし、両者の間には「運営の自由度」において決定的な違いがあります。
任意後見制度は、家庭裁判所の監督下で本人の財産を「守る」ことに主眼が置かれます。そのため、例えば「親の介護費用を捻出するために、空き家になっている実家を売却する」といった比較的大きな財産処分を行う際にも、後見監督人への説明と家庭裁判所の許可が必要となり、時間がかかります。
一方、家族信託であれば、あらかじめ信託契約書に「親の介護費用が必要になった際は、受託者の判断で不動産を売却できる」と定めておけば、家庭裁判所の関与なく、ご家族のタイミングで迅速に手続きを進めることが可能です。
公的な監督がない分、受託者には重い責任が伴いますが、「家族のことは、家族で決めたい」という意思が強いご家庭にとっては、この自由度の高さが最大のメリットとなります。
ケースB:二次相続以降(孫の代など)の財産の承継先も決めたい
《こんな課題ありませんか?》
財産はまず、長年連れ添った妻に相続させ、生活に困らないようにしてあげたい。しかし、妻が亡くなった後は、私の兄の息子、つまり甥に財産を確実に引き継がせたい。遺言でそのように指定できるだろうか…
家族信託なら、こう解決できる
この課題の答えは、「遺言では不可能、しかし家族信託なら可能」です。
遺言で指定できるのは、ご自身の財産を次に受け取る「一次相続」の相手までです。一次相続で財産を受け取った人(上記の例では妻)が、その財産を最終的に誰に渡すかは、その人自身の意思(妻の遺言など)に委ねられ、元の所有者(夫)が法的に縛ることはできません。
しかし、家族信託には「受益者連続型信託」という機能があります。これにより、遺言では実現不可能な、長期的な資産承継のコントロールが可能になります。
このように、当初の受益者(自分)が亡くなった後、第二受益者(妻)、第三受益者(甥)へと、財産から生じる利益を受け取る権利(受益権)を、順番に承継させていくことができます。
- 先妻の子と後妻との関係が複雑な場合
- 財産を浪費しがちな子の代で終わらせず、その先の孫に確実に残したい場合
- 家業を継がない子には収益物件の家賃収入だけを渡し、最終的には家業を継いだ孫に不動産そのものを渡したい場合
このような、ご自身の死後、数十年先まで見据えた複雑な資産承継の希望がある場合、家族信託は唯一無二の解決策となります。
⚠️ 専門家からの注意点
ただし、この受益者連続型信託は未来永劫に承継先を指定できるわけではありません。信託法第91条により、信託が設定されてから30年を経過した後に発生する受益者の交代は1回限りという制限があります。長期的な設計を行う際は、この「30年ルール」を念頭に置く必要があります。
ケースC:会社の株式など、事業承継を円滑に進めたい
《こんな課題ありませんか?》
私は中小企業のオーナー社長だ。会社の資産も個人の資産も、その大半が自社の株式。もし私が認知症になったら、株主総会で議決権を行使できなくなり、会社の経営が完全に止まってしまう。どうすればいいだろうか…
家族信託なら、こう解決できる
これは、経営者にとって最も深刻なリスクの一つです。オーナー経営者が認知症などで意思能力を失うと、保有する自社株は「凍結」され、株主として最も重要な権利である「議決権」を行使できなくなります。
議決権が行使できなければ、
- 役員の選任・退任
- 銀行からの融資に必要な担保設定の承認
- 事業拡大のための重要な経営判断
といった、会社の根幹に関わる意思決定が一切できなくなり、経営は事実上ストップしてしまいます。
家族信託を活用すれば、この最悪の事態を回避できます。具体的には、オーナー社長(委託者)が、後継者である子など(受託者)に自社株を信託します。これにより、
- 議決権:
受託者(後継者)が、信託契約に基づき安定的・継続的に行使できる。 - 配当を受け取る権利:
受益者である親(オーナー社長)が引き続き受け取れる。
という形で、経営権と財産権を分離することが可能です。親である社長の判断能力に万が一のことがあっても、後継者は滞りなく会社の経営を続けることができ、円滑な事業承継への大きな一歩となります。
ケースD:共有不動産のリスクを避けたい
《こんな課題ありませんか?》
親から相続した実家を、兄弟3人の共有名義にしている。そろそろ誰も住まなくなったので売却したいが、兄弟の一人が認知症気味になってきた。もし、意思表示ができなくなったら、もう売ることはできないのだろうか…
家族信託なら、こう解決できる
その通りです。不動産を売却するには、共有者全員の同意と、実印の押印・印鑑証明書の提出が不可欠です。共有者の一人でも認知症などで意思能力を失うと、その要件を満たせなくなり、不動産全体が完全に凍結されてしまいます。
この「共有者リスク」は非常に高く、見過ごされがちです。このリスクを回避するために、家族信託が極めて有効です。
具体的には、共有者である兄弟全員が委託者となり、信頼できる代表者一人(例えば、一番しっかりしている末弟など)を受託者として、全員の共有持分を信託します。
こうすることで、万が一、兄や姉の判断能力が低下しても、受託者である末弟が単独の判断で、不動産全体の売却や賃貸の手続きを行えるようになります。共有者同士の仲が良い今のうちにこの対策をしておくことで、将来起こりうる最悪の事態を未然に防ぐことができるのです。
5.動画解説|家族信託が不要なケース
6.まとめ
- 家族信託は万能ではなく、ご家庭の状況によっては不要、または不適切な場合もある。
- 遺言や後見制度との違いを理解し、家庭の目的に合う最適な方法を選択することが肝要。
- 財産管理を心から託せる家族の存在が、家族信託を成功させるための絶対的な前提条件です。
- 不動産や自社株の管理など、明確な目的がある場合に家族信託は大きな効果を発揮する。
- 親が元気で意思が明確な「今」が、対策を講じることができる唯一のタイミング。
家族信託は、資産家のための特別な制度でも、あらゆる問題を解決する魔法の杖でもありません。「ご自身の家族が抱える課題に対し、最も的確に応える法的ツールは何か」という視点で冷静に選択すべきものです。
「私たちの家族の場合、どの制度が合っているのか客観的な意見が欲しい」と感じていらっしゃるなら、まずは専門家との無料相談をご活用ください。現状をヒアリングさせていただくだけで、考えられる選択肢とそのメリット・デメリットを整理し、進むべき方向性をご提示します。











































































































































































