家族信託を弁護士に依頼するメリットと注意点|失敗しない資産管理方法を解説

家族信託は、認知症などによる資産凍結リスクを回避するための、極めて有効な法的手段です。しかし、その信託設計は高度な専門性を要し、特に「将来起こりうる紛争を、契約によっていかに予防するか」という視点が不可欠となります。

多くの専門家が家族信託を手掛ける中で、なぜ弁護士への依頼が有力な選択肢となるのか。それは、弁護士が持つ「紛争解決」「紛争予防」における深い知見に根差しています。

記事のポイントは下記のとおりです。

  • 専門家選びの基準は「紛争性の有無」「財産の種類」
  • 不動産がなく紛争性もなければ行政書士、不動産があり紛争性がなければ司法書士、税務が主目的なら税理士も選択肢ですが、少しでも懸念があれば弁護士への相談が最も安全
  • 弁護士の真価は、紛争予防設計、リスク分析、遺留分対策、そして万一の際のサポート対応にある
  • 家族信託には、判例不足や遺留分など、専門家でなければ対応困難な法務リスクが存在する
  • 弁護士選びは、専門分野の確認を大前提とし、実績やリスク説明の姿勢などを見極めることが重要。

本記事では、弁護士に依頼する具体的なメリットや法務リスクの観点から論理的に解説し、費用や専門家の選定基準に至るまで、家族信託を検討する上で必要な情報を網羅的に提供します。

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1.家族信託は弁護士に相談すべき?ケース別のおすすめ専門家

家族信託は、両親の資産を守るための強力な手段です。しかし、その手続きを進めるうちに、多くの方が「これは単なる手続きではなく、家族のルールを根本から作る、重要な法律行為なのではないか?」という本質的な視点に行き着きます。

その視点は、極めて的確です。だからこそ、専門家選びは慎重に行う必要があります。

弁護士・司法書士・税理士・行政書士の役割分担

専門家選びの全体像:家族信託は、法務(法律)と税務(税金)が複雑に絡み合うため、一人の専門家だけで完結するケースはむしろ稀です。まずは、それぞれの専門家の得意分野を理解しましょう。

弁護士 紛争予防と解決のプロ
将来の家族間トラブルを予測し、それを防ぐための契約書を設計します。万一の紛争時には、代理人として交渉や訴訟も担当できます。
司法書士 登記と書類作成のプロ
不動産を信託する際の「信託登記」や、法的な書類作成を正確に行います。手続きを滞りなく進めるための専門家です。
行政書士 契約書など書類作成のプロ
信託契約書の作成を主な業務とします。ただし、不動産の登記代理や、具体的な紛争案件に関与することは法律上できません。
税理士
税務のプロ
家族信託に伴って発生する可能性のある、贈与税、相続税、所得税といった税務申告を担当し、税務上のリスクを指摘します。

 ケース別・最初に相談すべき専門家の見つけ方

1)行政書士

財産構成や家族構成がシンプルなものであれば、行政書士への依頼を検討しましょう。

  • 信託財産が預貯金などの金銭のみ(不動産を一切含まない)。
  • 家族関係が非常に円満で、全員が信託に完全に同意している。
  • 将来の紛争の火種となる要素が全くなく、税務上の論点も一切ない。

※行政書士は、法律により不動産の登記代理や、具体的な紛争案件に関与することができません。そのため、あくまで「信託契約書の作成」という業務への関与です。

2)司法書士

財産に不動産が含まれるものの、以下の条件を満たすシンプルなケースでは、まず手続きの専門家である司法書士に相談するのが合理的です。

  • 家族関係が非常に円満で、全員が信託に完全に同意している。
  • 認知症対策資産承継対策として家族信託を検討している。
  • 家族信託を設計したことによる、家族間の将来的な紛争が発生する可能性が低い

※行政書士は、法律により不動産の登記代理や、具体的な紛争案件に関与することができません。そのため、あくまで「信託契約書の作成」という業務に限定した場合の目安です。

3)税理士

以下のように、税務面が信託の大きなテーマとなる場合は、まず税理士に相談するのが賢明です。

  • 相続税対策が、家族信託の主な目的である。
  • 信託財産に、多額の収益を生むアパートや、自社株式が含まれる。
  • 贈与税など、税務上の影響を最小限に抑えたい。

※税理士に相談した場合でも、最終的な契約書の作成や登記には、弁護士や司法書士との連携が不可欠です。

4)弁護士

上記のシンプルなケースに当てはまらず、少しでも以下のような「紛争の可能性」「複雑な要素」がある場合は、最初から全体の司令塔となりうる弁護士に相談するのが、最も安全で確実な道です。

  • “人”に関するトラブルが既にある、または予想される。
  • “財産や設計”が複雑で、将来の対立を生む可能性がある
  • 信託制度の“法的な不確実性(グレーゾーン)”への対策が必要

弁護士は、これらの複雑な問題を整理し、必要に応じて司法書士や税理士とチームを組んで、あなたのご家族にとって最適な信託を実現します。

 弁護士の専門性が必要となる2つの判断基準

次に、現在はトラブルがなくても、将来のために弁護士の知見が強く推奨されるケースです。これには大きく2つの「紛争の種」が考えられます。

判断基準①:”人”に関するトラブルが既に発生している

まず大前提として、以下のような状況では、選択の余地なく弁護士への依頼が必須となります。

  • 信託の内容に反対している家族がいる
  • 疎遠であったり、仲が悪く、話し合いが難しい親族がいる
  • 行方不明、あるいは音信不通の相続人がいる
  • 相続人の中に、判断能力に不安がある人がいる

これは、代理人として法的な交渉や、家庭裁判所での手続きを行えるのが弁護士だけである、という手続き上の理由に加え、より深刻なリスクがあるからです。

同意を得ずに信託を進めた場合、後からその事実を知った他の相続人が「自分の最低限の相続権(遺留分)が侵害された」と主張し、訴訟を起こしてくる可能性があります。そして最大の問題は、この訴訟の”結果”が、判例の蓄積不足により、誰にも確実には予測できないという点です。

「結果が読めない裁判」に家族の未来を委ねるリスクを冒してでも家族信託をやりたい、という強いご希望がある方は、弁護士と万一の訴訟に備えた盤石な設計にし、その後何があってもフォローしてもらえる体制を築くべきでしょう。

判断基準②:信託契約が「法律のグレーゾーン」に触れる

次に、現在はトラブルがなくても、将来のために弁護士の知見が強く推奨されるケースです。これには大きく2つの「紛争の種」が考えられます。

(1)財産の”特性”が将来の対立を生む

アパート経営や自社株といった財産は、その特性上、将来の運営・評価・処分を巡って家族の意見が分かれるリスクを内包しています。例えば、「大規模修繕の費用負担をどうするか」「経営に興味のない相続人から株の買取を要求されたらどうするか」といった問題は、事前に具体的なルールを決めておかなければ、将来の深刻な対立に発展しかねません。

(2)信託制度の”不確実性(グレーゾーン)”に触れる

ご家族や財産に複雑な点がなくても、信託制度そのものが持つ法的な不確実性から、弁護士の知見が必要となるケースです。家族信託は比較的新しい制度のため、法律や判例がまだ確立していない「グレーゾーン」が存在します。その代表例が、相続人の最低限の権利である「遺留分」と信託の関係です。

「この設計は、遺留分を侵害するとして将来訴訟を起こされないか?」
「裁判になった場合、裁判所はどう判断する可能性が高いか?」

こうした法的な”見立て“は、紛争解決の最前線にいる弁護士でなければ極めて困難です。安全だと思って作った信託が、数年後に裁判でひっくり返るリスクを回避するためには、こうしたグレーゾーンに対する深い知見と、紛争になった場合の結果を予測する能力が不可欠となります。

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2.家族信託を弁護士に依頼する4つのメリット

弁護士に依頼することで得られるメリットは、単に「法律に詳しい」というだけではありません。ここでは、ご家族の未来を守る上で特に重要となる、弁護士ならではの4つの本質的なメリットを解説します。

メリット① 紛争予防設計|”法的に戦える”契約書を作成できる

家族信託の契約書作成は、ゴールではなくスタートです。最も重要なのは、将来、万が一の事態が起きた際に、その契約書がご家族を守る「盾」として機能するかどうかです。

弁護士は、常に紛争の現場に身を置き、多くの裁判例に精通しています。そのため、作成する契約書の一文一文に、過去の裁判で争点となった経験が反映されています。

例えば、「この条文の書き方では、将来、解釈を巡って争われるリスクがある」「このケースでは、受託者の権限をより具体的に定めておかないと、権限濫用を問われる可能性がある」といった、紛争を未然に防ぐための視点です。

メリット② 最適化提案|法的なリスクを分析し、安全な実現方法を提示できる

「親の面倒を最後まで見てくれた長男に、全ての財産を渡したい」といったご希望は少なくありません。しかし、その想いをそのまま契約書に反映させることが、将来、深刻なトラブルを招く危険性を内包している場合があります。

弁護士は、依頼者の想いを最大限に尊重しつつも、それが法的にどのようなリスクを孕んでいるかを客観的に分析し、指摘する役割を担います。

メリット③ 遺留分対策|紛争の火種を消す、戦略的な対策を講じられる

「遺留分」は、家族信託における最大の紛争原因であり、最も専門的な知識が求められる領域です。

弁護士は、遺留分を請求する側・される側の両方の代理人として、数多くの交渉や訴訟を経験しています。その経験から、「どのような場合に紛争が顕在化しやすいか」「裁判所はどのような点を重視するか」といった、紛争のリアルな実態を熟知しています。

この実務経験に基づき、単に遺留分を侵害しないという形式的なレベルに留まらず、遺留分を主張されにくくするための付言事項の活用や、代償財産の準備といった、一歩踏み込んだ戦略的な対策を講じることが可能です。

メリット④ 一貫対応|万一の紛争時もスムーズに代理人として関与できる

これが、弁護士と他の専門家を分ける、最も決定的な違いと言えるでしょう。万が一、信託契約の内容を巡って紛争が発生し、裁判にまで発展した場合、依頼者の代理人として法廷に立ち、その利益を守るために法的な主張・立証活動を行うことができるのは、法律上、弁護士だけです。

信託の設計段階から弁護士が関与していれば、その契約書を作成した弁護士が、そのまま代理人として、交渉から訴訟まで一貫して対応することが可能となります。

信託の目的、家族の想い、そして契約書の条文に込めた意図のすべてを熟知した専門家が、万一の際に「最後の砦」として機能する。この「最後まで代理人として関与できる」という事実は、他の専門家にはない絶対的な安心感をもたらします。

3.家族信託の法務リスクと未確立な部分

家族信託が、認知症による資産凍結対策などにおいて非常に有効な制度であることは間違いありません。しかし、そのメリットである「設計の自由度の高さ」「制度としての新しさ」ゆえに、専門家でさえ見落としがちな法務リスクが存在します。

この章では、そうしたリスクについて正直にお伝えします。なぜなら、リスクを事前に知ることこそが、それを回避し、本当に安全な家族信託を組むための第一歩だからです。

リスク①:制度の「新しさ」がもたらす、判例不足という不確実性

まず理解しておくべき最も基本的なリスクは、家族信託が比較的新しい制度であるという点です。

現在のように広く利用されるようになったのは、2007年の信託法改正以降のことです。100年以上の歴史を持ち、膨大な裁判例(判例)が積み重なっている相続(民法)の世界と比べると、家族信託を巡るトラブルの判例は、まだ圧倒的に少ないのが実情です。

判例が少ないことの、本当の意味とは?

これは、もし信託契約の内容を巡って裁判になった場合、裁判所がどのような判断を下すのか、その指針となる過去の判断例が乏しいということを意味します。法的な予測が立てにくい状況では、想定外の判断が下されるリスクを常に考慮しなければなりません。

だからこそ、あらゆる紛争の可能性を想定し、契約書の条文解釈に疑義が生じないよう、法的に盤石な設計を行うことが極めて重要になるのです。過去のあらゆる相続紛争の知見を基に、考えうる限りのリスクを想定して契約書を作成する必要があります。

リスク②:相続紛争の王道、「遺留分」との複雑な関係

家族信託が注目される理由の一つに、「遺言よりも柔軟な財産承継が可能」という点があります。このことから、「信託を使えば、遺留分への対策としても有効なのではないか」という期待が生まれることがあります。

しかし、この期待に安易に依存することは、将来の紛聞を招く大きなリスクを伴います。遺留分とは、法律で定められた相続人の最低限の取り分のことであり、相続紛争の最大の原因です。そして、この遺留分と家族信託の関係は、最も専門的な判断が求められる、まさに「法律のグレーゾーン」と言えます。

信託財産も遺留分の対象に

近年の最高裁判所の判例では、信託された財産も遺留分を計算する際の基礎に含まれる、という考え方が示されています。つまり、「信託したから大丈夫」とは言えません。

信託自体が無効になるリスク

遺留分を侵害することだけを目的としたような、社会的に見て不相当な内容の信託契約は、公序良俗に反するとして、信託契約そのものが無効と判断されるリスクがあります。

対策には高度な知見が必要

遺留分対策は、単に形式を整えるだけでは不十分です。将来、遺留分を請求されることまで想定し、法的に対抗できる理論構成と、それを裏付ける条文を契約書に落とし込むという、極めて戦略的なアプローチが不可欠です。

リスク③:受託者の権限と義務を巡る、家族間の解釈の違い

実務上、非常に多く見られるのが、財産を管理する「受託者」の行動を巡るトラブルです。以下のようなトラブルのほとんどは、信託契約書の中で、受託者の権限の範囲や、家族に対する報告義務などが具体的に定められていないことが原因で起こります。

権限の濫用(あるいはその疑い)

受託者が「親の介護費用のため」と称して信託財産を売却したが、他の兄弟から「本当に必要だったのか?自分のために使ったのではないか?」と疑われ、関係が悪化する。

職務の怠慢

受託者が忙しさなどを理由に、信託されたアパートの管理を怠り、資産価値を大きく下げてしまう。

報告義務の不履行

受託者が他の家族に財産の状況を一切報告せず、不信感が募り、「財産を隠しているのではないか」という疑念に発展する

4.仲の悪い家族で家族信託を行うと失敗する?具体的な注意点

では、そもそも家族の関係性があまり良好でない場合、家族信託を組むことはできるのでしょうか。また、それは失敗に終わってしまうのでしょうか。

結論から申し上げると、専門家のサポートなしに、関係性が良好でないご家族が家族信託を組成・運営することは、極めて高い確率で失敗、あるいは新たな紛争の火種となります。なぜなら、家族信託は、その名の通り家族間の「信頼関係」を土台として成り立つ制度だからです。

4-1. なぜ「仲の悪い家族」の信託は、高い確率で失敗するのか

信頼関係が希薄なご家族の場合、信託の各段階で以下のような問題が発生しやすくなります。

① 設計段階での「合意形成」が不可能に近い

家族信託を始めるには、まず「誰に財産管理を任せるか(受託者の選定)」「どのような方針で管理・処分するか」といった、根幹となるルールを決めなければなりません。

しかし、関係性が悪いと、このスタートラインに立つことすら困難を極めます。

  • 受託者の選定での対立:
    「なぜ兄さんだけが任されるのか。不公平だ」
  • 管理方針での対立:
    「実家は売却すべき」「いや、残すべきだ」
  • 疑心暗鬼による停滞:
    「自分に不利な契約にされるのではないか」

という疑念が生まれ、話し合いが全く進まなくなります。

② 運営段階での受託者への「絶え間ない監視と不信感」

仮に契約まで漕ぎつけても、本当の苦労はここから始まります。受託者のあらゆる行動が、他の家族からの厳しい監視の目にさらされることになるからです。

「兄さん(受託者)は、親の財産を自分のために使っているのではないか?」
「報告された内容は、本当に正しいのか?通帳を全部見せろ」

このような疑念が絶えず、受託者は精神的に追い詰められ、疲弊してしまいます。第三章で触れた「報告義務」などが少しでも曖昧であれば、それは即座に攻撃の材料となり、紛争へと発展します。

③ 終了段階(相続発生時)での「紛争の激化」

信託が終了し、最終的な財産の分配を行う相続の段階で、それまで溜まっていた不満や不信感が爆発します。

「信託契約そのものが無効だ」
「受託者の管理に問題があったせいで財産が減った。損害を賠償しろ」

といった、信託制度そのものを根本から争う、より深刻で解決困難な訴訟に発展するリスクが非常に高くなるのです。

4-2. それでも行う場合に、最低限守るべき3つの注意点

上記のリスクを踏まえても、他に有効な手段がなく、どうしても家族信託を組成する必要がある場合もあるでしょう。その場合は、もはや通常の家族信託ではなく、「紛争管理を前提とした特殊な信託」を組むという覚悟が必要です。

その際に、最低限守るべき3つの鉄則をご紹介します。

注意点①:弁護士を交渉の代理人・調整役として立てる

当事者同士での話し合いは不可能です。必ず、第三者であり、法律と交渉の専門家である弁護士を間に入れるべきです。弁護士が各人の代理人として、あるいは全体の調整役として参加することで、感情的な対立を避け、法的な論点に基づいた公平なルール作りを進めることができます。

注意点②:信託監督人・受益者代理人を必ず設置する

受託者一人の判断に委ねることは絶対に避けるべきです。受託者の業務が適切に行われているかをチェックする「信託監督人」や、受益者(親)の権利を守る「受益者代理人」を、契約段階から必ず設置しましょう。

これらの役割には、関与している弁護士や他の専門家が就任するのが一般的です。第三者の専門家が監督することで、運営の透明性が確保され、他の家族の不信感を和らげる効果が期待できます。

注意点③:契約書で”裁量の余地”を徹底的に排除する

「適切に」「必要な範囲で」といった曖昧な文言は、将来の紛争の元です。契約書では、考えうるあらゆる事態を想定し、誰が読んでも解釈が一つしかない、極めて具体的で厳格なルールを定めなければなりません。

  • 受託者は、四半期ごとに本信託に関する財産目録及び収支計算書を作成し、受益者に対して書面で報告しなければならない
  • 年間100万円以上の支出を伴う契約を締結する場合、事前に信託監督人の書面による同意を得なければならない
  • 受託者が受け取れる報酬は、信託財産純資産額の年率〇%を上限とする

関係性が良好でないご家族における家族信託は、もはや単なる財産管理ではなく「紛争管理そのもの」です。そのため、紛争管理の専門家である弁護士のサポートなしに進めることは、極めて無謀な挑戦と言えるでしょう。

5.弁護士に依頼した場合のリアルな費用相場

実際に依頼を検討する上で、やはり最も気になるのは「費用」ではないでしょうか。弁護士費用は決して安くはありません。しかし、その内訳と「何に対する対価」なのかを正しく理解することで、その費用がご自身の家族にとって妥当なものか、冷静に判断できるようになります。

5-1.家族信託にかかる費用の全体像と弁護士費用の内訳

家族信託を組成するには、大きく分けて「専門家への報酬」と、税金などの「実費」がかかります。

弁護士費用は、単なる「書類作成代」ではありません。それは、将来数百万~数千万円かかるかもしれない「争続」を防ぐための保険料であり、家族の「未来の安心」を手に入れるための投資と考えることができます。

具体的には、以下のような費用が発生します。

(1)専門家への報酬(弁護士費用など)

相談料:0円~1万円/時間

初回相談は無料としている法律事務所が多数です。まずは無料相談を活用し、信頼できる専門家か見極めましょう。

信託コンサルティング料:信託財産額の0.5~1.5%程度(最低報酬額30万円~)

これが弁護士費用の中心部分です。ご家族の状況のヒアリング、最適な信託プランの設計、そして法的に盤石な信託契約書の作成まで、すべてのコンサルティングに対する報酬です。財産額に応じて変動しますが、多くの事務所で最低報酬額(30~50万円程度)が設定されています。

信託監督人などの報酬:月額1万円~5万円程度

第四章で解説したように、受託者を監督する「信託監督人」などを置く場合の費用です。弁護士などの専門家が就任する場合に限ります。

(2)実費

公正証書作成費用:5万円~15万円程度

作成した信託契約書を、公証役場で「公正証書」にするための手数料です。信託する財産の価額に応じて、法律で定められた手数料がかかります。

登録免許税:不動産の固定資産税評価額の0.3~0.4%

不動産を信託する際に、法務局へ支払う税金です。税率は土地と建物で異なり、軽減措置が適用されます(2026年3月31日まで、土地:評価額の0.3%、建物:評価額の0.4%)。

その他:数千円程度

戸籍謄本や固定資産評価証明書などの取得費用として、数千円程度かかります。

(3)(外注費)司法書士への報酬:10万円~15万円程度

信託した不動産の登記手続きは、司法書士が行います。弁護士が窓口となり、提携する司法書士へ依頼するのが一般的です。その際に司法書士へ支払う報酬です。

5-2.【モデルケース】費用の総額シミュレーション

では、実際に総額でどれくらいかかるのか、2つのモデルケースで見ていきましょう。

ケース1:財産構成がシンプルな場合

信託財産: 自宅(評価額3,000万円)、預貯金(1,000万円)
財産総額: 4,000万円

費用項目 費用の相場 備 考
①信託コンサルティング料 40万円~ 財産額の1%と仮定
②公正証書作成費用 5万円 財産額5,000万円以下の場合
③登録免許税 12万円  

土地評価額3,000万円×0.4%と仮定

④司法書士報酬 12万円~20万円
合計の目安 69万円~

ケース2:財産構成が複雑な場合

信託財産: 自宅・アパート(評価額計6,000万円)、預貯金(2,000万円)
財産総額: 8,000万円

費用項目 費用の相場 備 考
①信託コンサルティング料 80万円~ 財産額の1%と仮定
②公正証書作成費用 7万円 財産額1億円以下の場合
③登録免許税 24万円  

土地評価額6,000万円×0.4%と仮定

④司法書士報酬 15万円~25万円 不動産が2筆以上の場合
合計の目安 126万円~

※上記はあくまで一般的なモデルケースであり、事案の難易度や弁護士事務所の方針によって費用は大きく変動します。必ず、正式な見積もりを取得してください。

5-3.弁護士費用を少しでも抑えるための3つのポイント

最後に、費用を少しでも合理的に抑えるためのポイントを3つご紹介します。

❶ 複数の事務所から見積もりを取る

弁護士の報酬基準は事務所によって異なります。いくつかの事務所で初回無料相談を受け、サービス内容と見積もりを比較検討することが重要です。

ただし、安さだけで選ぶのではなく、その費用でどこまでサポートしてくれるのか、経験や実績は十分か、といった視点を持つことを忘れないでください。

❷ 事前に情報や資料を整理しておく

相談に行く前に、家族構成(家系図など)、財産の一覧(不動産の登記簿謄本、預金通帳のコピーなど)、そして「信託で何を実現したいか」という希望をメモにまとめておきましょう。情報が整理されていると相談がスムーズに進み、結果として余計な費用や時間の節約に繋がります。

❸ 信託する財産の範囲を検討する

必ずしも全ての財産を信託する必要はありません。例えば、主な目的が「実家の凍結防止」であれば、不動産と当面の生活費が入った預金口座のみを信託の対象とすることも考えられます。信託財産を絞ることで、コンサルティング料や登記費用を抑えられる場合があります。

6.失敗しない!家族信託に強い弁護士の選び方

家族信託の依頼先として弁護士を選定する場合、どの弁護士でも良いわけではありません。弁護士は、それぞれが注力する専門分野を持つため、まず「相続・家族信託」を主要な取扱分野とする弁護士・法律事務所を探すことが不可欠です。

その上で、法律相談などを通じて、依頼に値する専門性と信頼性を持つかを見極める必要があります。以下に、そのための具体的な判断基準を示します。

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チェック①:取扱分野の専門性の確認

相談を申し込む前に、候補となる法律事務所の専門性を客観的な情報から確認します。

公式サイトの記載内容

「取扱業務」として「相続」「遺言」「成年後見」「家族信託」が明記され、かつ詳細な説明や実績が掲載されているかを確認します。相続・家族信託に関する専門サイトを別途設けている場合は、より専門性が高いと判断できます。

弁護士の経歴・活動実績

相続関連分野におけるセミナーの講演歴、専門誌への論文寄稿、書籍の執筆実績などは、その弁護士が当該分野に深く精通している客観的な証拠となります。

チェック②:実績と経験があるか

過去の取扱件数といった抽象的な数字だけでなく、具体的な事例(守秘義務を遵守した範囲で)を基に、信託設計のポイントや注意点を論理的に説明できるかを確認します。多様なケースに対応してきた経験は、個別の事情に応じた最適な信託設計能力に直結します。

基準③:リスクやメリット・デメリットを伝えてくれるか

家族信託のメリットを強調するだけでなく、第三章で解説したような法務リスク(遺留分、判例不足、受託者の権限に関する問題など)についても、正面から説明し、その対策まで言及するかどうかは、専門家としての誠実さを測る上で重要な指標です。

基準④:料金体系を説明するか

弁護士費用について、その算出根拠と内訳を明確に説明し、書面による見積書を提示できるかは、基本的な信頼関係の構築において不可欠な要素です。費用に関する質問に対し、曖昧な回答に終始する事務所は避けるべきです。

基準⑤:専門用語を使わず説明するか

信託契約の内容や法的な論点について、専門用語を多用することなく、法律知識のない相談者でも理解できる平易な言葉で、論理的に説明する能力があるかを確認します。依頼者の完全な理解と納得は、適切な信託契約締結の前提条件です。

基準⑥:「この人になら任せられる」と思えるか

最終的には、担当となる弁護士が、一人の委任者として信頼に値するかどうかを判断する必要があります。高圧的な態度を取らず、こちらの意向を正確に汲み取り、長期的なパートナーとして任せられるかどうかという視点も、選定における合理的な判断基準の一つです。

7.相談から契約後まで|弁護士と進める家族信託の全ステップ

弁護士への依頼後、家族信託の組成はどのような流れで進むのか、その全体像を解説します。

一般的に、相談から信託の開始までには3ヶ月から半年程度の期間を要しますが、これは事案の複雑さやご家族間の調整にかかる時間によって変動します。各段階で専門家が関与し、法的なリスクを精査しながら進めていくことが、安全な信託を実現する上で不可欠です。

7-1.家族信託組成の全体像(一般的なフロー)

成年後見制度の9つのデメリット一覧
STEP❶ 法律相談(初回相談)
STEP❷ 委任契約の締結・方針決
STEP❸ 財産調査および関係者の確定
STEP❹ 信託設計(契約書原案の作成)および家族会議
STEP❺ 信託契約書の確定および公正証書化
STEP❻ 信託の実行(財産の名義移転手続き)
STEP❼ 信託の運用開始とアフターフォロー

ステップ①:法律相談(初回相談)

まず、弁護士との法律相談から始まります。この段階では、ご家族の状況、財産の概要、家族信託で実現したい希望などをヒアリングします。弁護士は、その内容に基づき、家族信託の基本的な仕組みや潜在的なリスク、おおよその費用、今後の進め方について説明します。

ステップ②:委任契約の締結・方針決定

法律相談の内容に納得した場合、弁護士との間で正式に委任契約を締結します。この契約に基づき、弁護士は依頼者の代理人として、家族信託の組成に向けた具体的な業務を開始します。

ステップ③:財産調査および関係者の確定

弁護士は、依頼者から提供された資料(不動産の登記簿謄本、預金通帳など)を基に、信託する財産の詳細を法的に調査・確認します。同時に、戸籍謄本などを取り寄せることで、法律上の相続関係者を正確に確定させます。これは、後の紛争を避けるための重要な作業です

ステップ④:信託設計(契約書原案の作成)および家族会議

調査結果と依頼者の希望を踏まえ、弁護士が信託契約の具体的な内容を設計します。

  • 信託の目的
  • 委託者、受託者、受益者
  • 信託する財産
  • 受託者の権限と義務
  • 信託の終了事由と残余財産の帰属先

これらの項目を盛り込んだ信託契約書の原案を作成します。この原案を基に、必要に応じて弁護士も同席の上で家族会議を開き、関係者の意思統一を図ります。

ステップ⑤:信託契約書の確定および公正証書化

家族会議での調整を経て、全員が合意した内容で信託契約書を最終化します。その後、公証役場にて公証人の面前で当事者が契約内容を確認し、公正証書として作成します。公正証書にすることで、契約書の証明力と安全性が格段に高まります。

ステップ⑥:信託の実行(財産の名義移転手続き)

公正証書化された契約書に基づき、具体的な財産の移転手続きを行います。

金銭

受託者が信託契約に基づき、銀行で「信託口口座」を開設し、信託する金銭をその口座へ移動させます。

不動産

法務局にて、不動産の名義を委託者から受託者へ移す「所有権移転登記」と、信託の目的などを公示する「信託登記」を同時に申請します。この登記手続きは、通常、弁護士と連携する司法書士が担当します。

ステップ⑦:信託の運用開始とアフターフォロー

上記の手続きが全て完了した時点で、信託契約の効力が発生し、受託者による財産管理が開始されます。契約後も、運用上の疑問点の解消や、将来の法改正、家族状況の変化に応じた契約内容の見直しなどについて、弁護士による継続的な法的サポートを受けることが可能です。

7-3.紛争性がある場合の進め方

一部の相続人が信託に反対するなど、当初から紛争性があるケースの場合、護士は以下のような、より専門的なアプローチを取ります。

① 交渉(協議)

まず、弁護士が依頼者の代理人として、反対している関係者と直接交渉を行います。なぜ信託が必要なのか、その目的やメリットを法的な観点から丁寧に説明し、理解を求めます。

また、相手方の懸念(例:財産が不透明になる、自分の取り分が減るなど)をヒアリングし、それを払拭するための契約内容の修正案(例:信託監督人の設置、遺留分への配慮)を提示することで、合意の道を探ります。

② 法的手続き(調停・審判・訴訟)

交渉での合意が困難な場合、次の手段として法的手続きを検討します。

家族信託の組成そのものを強制する直接的な法的手続きはありませんが、例えば、遺産分割が未了であるなど他の問題と絡んでいる場合には、家庭裁判所での調停の場で、相続問題全体の解決策の一つとして信託の必要性を主張していくことがあります。

③ 訴訟リスクを想定した上での信託組成

最終的な手段として、どうしても同意が得られない関係者を除外し、協力的な家族だけで信託を組成するという選択肢もあり得ます。

ただし、この方法は、将来、同意しなかった相続人から遺留分侵害額請求訴訟などを提起されるリスクを伴います。そのため、弁護士は、その訴訟リスクを十分に想定し、裁判になっても耐えうる盤石な契約書を作成した上で実行するという、極めて高度な判断と設計を行います。

8.家族信託の法務に関するFAQ

ここまで、税金の基本ルールと失敗例を見てきました。最後に、これまでの内容を踏まえ、家族信託の税務に関してよく寄せられる質問とその回答をまとめます。

Q1. 受託者(財産を管理する人)は、誰でもなれますか?

法律上は、未成年者や破産者などでなければ、個人(ご家族など)でも法人でも受託者になることができます。実務上は、委託者の配偶者や子供が就任するケースが多数です。

しかし、その責任は非常に重いものであると認識する必要があります。受託者は、信託法に基づき、専門家と同等の注意義務(善管注意義務)や、受益者のために行動する義務(忠実義務)などを負います。

単に「長男だから」といった理由で安易に選任すると、財産管理の能力や時間的な余裕がなく、かえって家族間のトラブルの原因となることがあります。財産を託すに足る信頼と能力、そして他の家族からの納得がある人物を、慎重に選任することが不可欠です。

Q2. 一度結んだ信託契約の内容を、途中で変更したり、やめたりすることはできますか?

はい、変更・終了ともに可能です。ただし、それには原則として、委託者(親)、受託者、受益者という主要な関係者全員の合意が必要となります。

ここで最も注意すべき点は、委託者・受益者である親御さんの判断能力が低下してしまった後では、本人の有効な「合意」が得られないため、原則として契約内容の変更や終了(合意解除)はできなくなるという点です。

将来の法改正や、ご家族の状況変化に対応できるよう、信託契約書の中に、あらかじめ「特定の状況下では、受益者の同意のみで契約内容を変更できる」といった条項を盛り込んでおくなどの、専門的な設計が求められます。

Q3. 家族信託を組んだら、成年後見制度はもう必要ありませんか?

必ずしもそうとは言えません。家族信託と成年後見制度は、担う役割が異なります。

家族信託

契約で定めた「財産管理」に特化した制度です。身上監護(介護サービスの契約、病院の入退院手続きなど)に関する代理権はありません。

成年後見制度

財産管理と身上監護の両方を行えますが、家庭裁判所の監督下に置かれ、資産の売却や活用には裁判所の許可が必要など、柔軟な財産管理が難しいという側面があります。

実務上、最も万全な対策とされているのは、柔軟な財産管理のために「家族信託」を組成し、身上監護のために「任意後見契約」を併せて締結しておくという組み合わせです。これにより、判断能力が低下した後も、財産面と生活面の両方で、ご家族の希望に沿ったサポートを実現できます。

Q4. 家族信託を組むと、相続税対策になりますか?

必ずしも、直接的な節税に繋がるわけではありません。家族信託は、資産を円滑に承継し、凍結を防ぐための「財産管理」の制度であり、信託を組んだだけで相続税が安くなる、というものではありません。

ただし、二次相続以降の承継者を指定できる機能などを活用し、長期的な視点で資産承継の計画を立てることで、結果的に相続税の負担を軽減できる可能性はあります。また、収益不動産を信託する際の所得税の課税方法など、専門的な税務知識が不可欠です。

節税を主目的とする場合は、必ず税理士にも相談し、税務上のメリット・デメリットを十分に検討する必要があります。

9.まとめ

  • 専門家を弁護士にするかの基準は「紛争性の有無」紛争性がなければ司法書士、税務が主目的なら税理士も選択肢だが、少しでも懸念があれば弁護士への相談が最も安全
  • 弁護士の真価は、紛争予防設計、リスク分析、遺留分対策、そして万一の際のサポート対応にある
  • 家族信託には、判例不足や遺留分など、専門家でなければ対応困難な法務リスクが存在する
  • 弁護士選びは、専門分野の確認を大前提とし、実績やリスク説明の姿勢などを見極めることが重要。

家族信託の成功は、将来の紛争リスクを予測し、裁判例に裏付けられた盤石な設計を行える弁護士への相談が鍵となります。家族信託の重要性をご理解いただいても、実際に行動へ移すには勇気が必要です。

しかし、時間は待ってくれません。認知症対策は、親御さんがお元気で、ご自身の意思を明確に示せる「今」しか、その機会はありません。「あの時、相談しておけばよかった」と後悔しないために。大切なご家族の笑顔と資産を守り抜くために無料相談を活用しつつ、専門家に相談するところから始めてみてはいかがでしょうか。

この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに400件以上の家族信託をはじめ、相続・生前対策を取り組んでいる。年間60件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

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