遺産分割協議書は、相続において重要な役割を果たします。特に親族が亡くなった後、相続手続きが始まると、家族間での意見の食い違いを避けるためにも協議書の作成が必要です。
協議書には具体的にどのような項目を盛り込むべきか、また作成時の注意点は何かを知ることは、スムーズな相続手続きを進めるうえで非常に重要です。
記事のポイントは以下のとおりです。
- 遺産分割協議書は、銀行や法務局への「証拠」として提出する公的な契約書であり、家族間のトラブル防止に役立つ。
- ひな形の利用には注意が必要で、不動産なら「登記簿謄本通り」に、預金なら「口座番号まで」具体的に記載し、相続人全員の「実印」押印が必須である。
- 一度成立すると原則として「やり直しはできない」法的な拘束力を持つため、全員が納得したうえで慎重に作成する必要がある。
- 「代償分割の記載」や「後日判明財産条項」など、実務的な条文を盛り込むことで、将来の手間やトラブルを回避し、書類の有効性を確保できる。
本記事では、遺産分割協議書とは何か、どのように作成するか、具体的な流れや書き方について解説します。
目次
1.遺産分割協議書とは
遺産分割協議書(いさんぶんかつきょうぎしょ)とは、「誰が、どの遺産を、どれだけ相続するか」を相続人全員で話し合って合意した内容を、正式に記録した「契約書」のことです。
相続が発生した瞬間、亡くなった方(被相続人)の財産(預貯金、不動産、株式など)は、法律上、相続人全員の「共有状態」となります。この「共有状態」のままでは、預金をおろすことも、不動産を売ることもできません。 そこで、「この預金はAさん」「この不動産はBさん」というように、財産の帰属を「共有」から「単独」へ変更する必要があります。
この話し合いを「遺産分割協議」といい、その結果を書面にしたものが「遺産分割協議書」です。
なぜ重要?作成しない場合の3つのリスク
「うちは家族仲が良いし、口約束だけで大丈夫」と考える方もいるかもしれませんが、それは非常に危険です。遺産分割協議書を作成しない場合、以下の3つの重大なリスクがあります。
リスク1:銀行・法務局の手続きが一切できない
これが最大のリスクです。 銀行や法務局は、相続手続きにおいて「相続人全員の合意」を客観的に証明する書類を求めます。それは、金融機関や法務局には、故人様の大切な資産を適正に管理・保護し、間違いなく正当な相続人様へ承継させるという、法律上・社会的な重い責任があるからです。
金融機関・法務局の立場について
金融機関や法務局は、あくまで「中立」な立場にあります。そのため、家族間の合意内容を口頭で確認したり、一部の相続人の言葉だけを信じて手続きを進めたりすることはできません。
万が一、後から「この合意には関知していない」という別の相続人様が現れた場合、故人の資産や他の相続人様全員の権利を危険にさらす重大なトラブルに発展してしまいます。そのため、相続人全員が確かに合意したという「公式な証拠」として、『遺産分割協議書』(と全員の実印・印鑑証明書)が不可欠となるのです。
この客観的な証拠書類が揃わない限り、預金の払い戻しや不動産の名義変更といった重要な手続きは、法律上・実務上、進めることができない(=ストップする)ことになります。
リスク2:後から「言った・言わない」のトラブルになる
合意した時点では円満でも、数年後、相続人の誰かの経済状況が変わったり、家族関係が変化したりすることはよくあります。
- 「あの時、本当はあっちの土地が良かった」
- 「預金をもらう約束だったはずだ」
口約束だけでは証拠が残らないため、深刻な「争族」に発展する火種となります。遺産分割協議書は、将来のトラブルを防ぐための「契約書」としての役割も持つのです。
リスク3:相続税の優遇措置(特例)が使えない
相続税の申告が必要な場合、遺産分割協議書がないと、税額を大幅に軽減できる特例(例:配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例など)が利用できません。これらの特例は「誰がどの財産を取得したか」が確定していることが前提だからです。
実際、申告期限(死亡から10ヶ月)までに協議がまとまらない場合、これら特例を受けられず本来より高い税金を納めるリスクがあります。後日分割がまとまってから3年以内に所定の書類を提出すれば特例を遡って適用する救済措置もありますが、手続きが煩雑になるため早めの協議成立が望ましいでしょう。
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2.遺産分割協議書が必要なケース・不要なケース
「うちは遺言書があるけど、それでも必要?」 「法律で決まった割合(法定相続分)で分けるなら不要?」こうした疑問に答えるため、必要なケースと不要なケースを明確に整理します。
2-1.遺産分割協議書が【必要】なケース
上記で「必要」と説明した4つの手続きは、相続手続きの代表者が銀行や役所といった「第三者」に対して行う手続きです。
① 不動産の相続登記(名義変更)
亡くなった親名義の土地や建物(実家など)を、相続する方(例:長男)の名義に公式に書き換える(=登記する)手続きです。法務局が管理する「登記簿」は、不動産の権利を社会に示す“公の帳簿”です。この帳簿を書き換えることは、「この土地は、今日からAさんのものです」と国が証明することを意味します。
そのため、法務局は「間違いが絶対に許されない」という立場で、「相続人全員が、この不動産をAさんに相続させることに間違いなく合意した」と証明する、最も厳格な証拠(=実印+印鑑証明書が揃った遺産分割協議書)を要求します。
手続の方法を知りたい方は以下のブログをチェックしてください。
② 預貯金の解約・名義変更
亡くなった親名義の預金口座を解約し、相続人が現金を受け取る(または自分の口座に移す)手続きです。銀行が最も恐れるのは、「お金を払い出した後で、他の相続人から『私は同意していない!』とクレームをつけられる」ことです。 銀行は、あなたの家族関係や合意内容の真偽を知る術がありません。
そのため、「免罪符」として、「相続人全員が、この解約に同意し、Aさんが代表して受け取ることを認めます」と証明する遺産分割協議書を要求し、将来の紛争リスクを回避するのです。
③ 有価証券(株式など)の名義変更
亡くなった親が保有していた株式や投資信託を、相続する方(例:次女)の証券口座に移す手続きです。
理由は銀行と全く同じです。証券会社も、金融資産を扱うプロとして「後日の紛争」に巻き込まれることを極端に嫌います。 特に株式は日々価値が変動するため、「誰が、どのタイミングで(どの株価で)相続したか」を明確にするためにも、協議書による日付と合意内容の特定が不可欠です。
④ 相続税の申告
遺産総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合に、死亡後10ヶ月以内に相続税を申告・納税する手続きです。
税務署は、「最終的に、誰が、いくらの財産を取得したのか」に基づいて、各相続人の納税額を正確に計算する必要があります。そのため、その「分割の最終結果」を証明する遺産分割協議書の(コピー)提出が必要です。
特に「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例(実家の評価額を8割引する特例)」といった強力な節税策を使うには、「申告期限までに分割協議が確定している」ことが絶対条件であり、その証明として協議書が必須となります。
2-2.遺産分割協議書が【不要】なケース
❶ 有効な遺言書(特に公正証書遺言)がある場合
原則として、故人が有効な「遺言書」を残していた場合、遺産分割協議書は不要です。遺言書は故人の最終的な意思であり、相続人間の話し合い(協議)よりも優先されるためです。
特に、公証役場で作成された「公正証書遺言」は、それ自体が非常に強力な公文書ですので、そのまま不動産の名義変更や預金解約の手続きに使用できます。
「自筆証書遺言」(故人が自分で書いた遺言書)が見つかった場合は、その保管場所によって注意が必要です。もし自宅(金庫や仏壇など)で保管されていた場合、封筒に入っていても勝手に開封してはいけません。まず家庭裁判所に提出し、「検認(けんにん)」という手続きを受ける必要があります。この検認手続きを経ないと、その遺言書は相続手続きに使用できません。
⚠️ 法務局の「自筆証書遺言保管制度」を利用していた場合
故人がこの制度を使って法務局に遺言書を預けていた場合、家庭裁判所での検認は不要となり、そのまま手続きに使用できます。相続が開始したら、まずはこの制度の利用がなかったか法務局に確認することも重要です。
❷ 相続人が1人しかいない場合
遺産分割協議は、相続人が複数いる場合に必要な「話し合い」です。 はじめから相続人が1人しかいない場合は、話し合う相手がいないため協議書は不要です。ご自身が唯一の相続人であることを証明する「戸籍謄本一式」で手続きを進めます。
❸ 法定相続分通りに分ける場合
法律で決まった割合(法定相続分)で分けるなら話し合い(協議)が不要なため、原則として協議書も不要です。しかし、遺産に「不動産(実家など)」が含まれる場合、この方法は全くお勧めできません。
なぜなら、不動産を法定相続分で分けると、その不動産は「相続人全員の共有名義」になってしまうからです。
⚠️ 「共有名義」の主なリスク
【売れない・使えない】
将来、その不動産を売却したり、リフォームしたりするには、共有者全員の同意(実印)が必要になります。
【権利関係が複雑化する】
もし共有者の一人(例:姉)が亡くなったら、その権利はさらにその子供(甥・姪)へと引き継がれます。関係者が増えれば増えるほど、全員の合意を得るのは絶望的に困難になります。
こうした将来の「争族」の火種を避けるため、結局は「遺産分割協議」を行い、「この不動産は長男が単独で相続する」といった形で合意し、協議書を作成するのが最も安全な方法です。
3.遺産分割協議書の書き方・ひな形
相続人が3名いて、それぞれが預貯金・不動産・有価証券に分けて相続する場合の、遺産分割協議書のひな形例を紹介します。
⚠️ひな形ご利用時の最重要注意点⚠️
以下にご提供するひな形は、実務で使われることの多い「代償分割(だいしょうぶんかつ)」や「後日判明財産」の条項も盛り込んだテンプレートです。
ただし、これはあくまで「基本形」であり、このひな形をそのまま利用できるケースは稀です。 ご家族の財産状況に合わせて、条文を正しく「カスタマイズ(修正)」しなければ、銀行や法務局で差し戻される原因となります。
- 不動産は「記」の「2.」のように登記簿通りに細かく書く必要があるのか
- あなたのケースで「4. 代償」の条項は本当に必要か
- もし「5. 後日判明財産」の条項がなかったら、将来どれだけ面倒なことになるのか
万が一、ご自身のケースに合わないひな形をそのまま使ってしまうと、手続きが差し戻されるだけでなく、ご家族間の新たなトラブルや予期せぬ贈与税が発生するリスクさえあります。
ご自身での作成に少しでも不安があれば、その書類に実印を押す前に、まずはお気軽に当事務所の無料相談をご利用ください。
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遺産分割協議書 令和〇年〇月〇日、〇〇県〇〇市〇〇町〇〇番地 東京 一郎の死亡によって開始した相続の共同相続人である東京 太郎、埼玉 花子および千葉 温子は、本日、その相続財産について、次のとおり遺産分割の協議を行った。 相続財産のうち、下記の不動産は、法務一郎が相続する。 この協議を証するため、本協議書を3通作成して、それぞれに署名、押印し、各自1通を保有するものとする。 令和〇年〇月〇日 東京都〇〇区〇〇町〇〇番地 東京 太郎 実印 記 1.預貯金 2.不動産 所 在 〇〇市〇〇町〇丁目〇〇番地 3.有価証券 〇〇証券 〇〇支店 口座番号〇〇〇〇 4.埼玉 花子は、土地と建物の遺産を取得する代償として、千葉 温子に〇〇〇〇年〇〇月〇〇日までに、金〇〇〇〇万円を支払う。 5.本協議書に記載されていない遺産や、後に判明した遺産および負債については、相続人である東京 太郎がすべて引き継ぐものとする。 |
※相続登記をする場合にのみ活用できるひな形であれば、以下のブログからダウンロードできます。あくまでひな形になりますので、ご自身の状況に合わせてご活用ください。
4.【司法書士監修】遺産分割協議書の正しい書き方
ここからは、そのひな形が「なぜ」あの書き方になっているのか、その「本質的な理由」を徹底的に解説します。
各条文の意味を正しく理解し、ご自身の状況に合わせて正しく修正しなければ、銀行や法務局の窓口で「差し戻し」を受け、ご兄弟に「ごめん、もう一度実印を…」と頭を下げる「二度手間」が発生します。そうならないための「正しい書き方」を、一つずつ見ていきましょう。
書き方❶:遺産分割協議書に記載すべき9つの必須項目
- 表題(タイトル):「遺産分割協議書」とはっきり書きます。
- 被相続人の情報:誰の遺産か(氏名、死亡日、最後の住所・本籍)を特定します。
- 協議の合意(前文):「相続人全員で話し合い、合意した」という事実を宣言します。
- 相続人全員の情報:誰が合意したか(全員の住所、氏名)を明記します。
- 財産リストと分割内容:【最重要】どの財産を、誰が、どのように取得するかを具体的に記載します。
- 協議が成立した日付:相続人全員が合意した日付を記載します。
- 相続人全員の署名:自筆での署名が望ましいです。
- 相続人全員の実印:【超重要】認印や三文判では銀行や法務局で受付されません。
- 作成通数と保管:協議書を何通作成し、誰が保管するかを記載します。
書き方❷:【ケース別】財産ごとの正しい書き方と失敗例
ここが、差し戻し(二度手間)が発生する最大の原因です。 銀行や法務局は、「曖昧な表現」を絶対に認めません。なぜなら、彼らにとっての「財産のID」が間違っていると特定できないからです。
① 預貯金(金融機関名・支店名・口座番号まで特定する)
銀行は、相続人側で「この口座番号の、この預金」とID(識別情報)で正確に指定して初めて、銀行は「間違いなくこの口座について合意がなされた」と納得し、解約に応じます。
❌ ダメな例
「〇〇銀行の預金はAが相続する」
(↑ どの支店? どの口座? 特定できません)
「〇〇銀行〇〇支店の預金」
(↑ 普通預金? 定期預金? 複数の口座があるかもしれません)
⭕ 完璧な例
第〇条 相続人Aは、以下の預貯金を取得する。
(1) 〇〇銀行 〇〇支店
普通預金 口座番号:1234567
(2) ゆうちょ銀行
記号:12345 番号:67890
② 不動産(「登記簿謄本」通りに記載しないと登記できない)
これが最難関であり、最大の失敗ポイントです。 法務局(登記所)は、私たちが普段使う「住所」では手続きを受け付けてくれません。
なぜなら、法務局が不動産を管理・識別するために使っているIDは、この「住所」とは全く別のシステムで管理されているからです。法務局が使う不動産の公式IDは、「登記簿謄本(登記事項証明書)」に記載されている、以下の情報です。
- 土地の場合 → 「地番(ちばん)」
- 建物の場合 → 「家屋番号(かおくばんごう)」
そのため、必ず「登記簿謄本(登記事項証明書)」を手元に用意し、そこに書かれている情報を一言一句、スペースや記号に至るまで、そのまま正確に書き写す必要があります。
❌ ダメな例
東京都〇〇区〇〇 1-2-3 の実家
(↑ これは「住所」です。法務局はこのIDを使いません)
⭕ 完璧な例
第〇条 相続人Bは、以下の不動産を取得する。
【土地】
所 在: 〇〇市〇〇町〇〇丁目
地 番: 〇〇番
地 目: 宅地
地 積: 〇〇.〇〇平方メートル
【建物】
所 在: 〇〇市〇〇町〇丁目〇〇番地
家屋番号: 〇〇番
種 類: 居宅 …(以下、登記簿の通りにすべて記載)
③ 有価証券(証券会社名・銘柄・株数を明記)
預貯金と考え方は同じです。どの証券会社の、どの銘柄かを特定します。
⭕ 完璧な例
第〇条 相続人Cは、以下の有価証券を取得する。
(1) 〇〇証券 〇〇支店 口座番号〇〇〇〇
〇〇〇〇株式会社 普通株式〇〇〇〇株
④ 債務・負債(住宅ローンや借金)
亡くなった方に借金やローンがあった場合、これも遺産分割の対象となります。 ここで、法律上、非常に重要な注意点があります。
遺産分割協議書に「住宅ローンは、実家を相続する長男Aがすべて引き継ぐ」と記載すること自体は可能です。これは、相続人間の「内部的な役割分担」を決める合意として有効です。
(例)第〇条 相続人Aは、被相続人が〇〇銀行に対して負う下記住宅ローン債務を相続(承継)する。
しかし、この合意を銀行や消費者金融といった債権者(お金を貸した側)に主張(対抗)することはできません。法的な観点から言えば、債権者(銀行)の「(法定相続人全員に対して)返済を請求する権利」は、相続人同士の合意によって一方的に変更することができないためです。
したがって、たとえ協議書で「Aさんが債務を全額承継する」と決めたとしても、もしAさんが返済を怠れば、銀行は他の相続人(BさんやCさん)に対しても、法律に基づき「(あなたの法定相続分に応じて)返済してください」と請求する権利を持ち続けます。
この協議書の条項は、「万が一、BさんやCさんが銀行に返済した場合、その分をAさんに対して『あなたが払う約束でしたよね』と後から請求できる」という、相続人間の内部的な責任関係を明確にするためのもの、と理解するのが正確です。
書き方❸:手続きが二度手間になる2つの落とし穴
ここからは、ひな形をご自身の状況に合わせてより万全なものにするため、実務上きわめて重要な「2つの条文」を解説します。紹介したひな形にも例として含まれていましたが、なぜこれらの条文が必要なのか、その「法的な意味」をここで詳しく見ていきましょう。
この意味を理解して正しく条文を整えておくことが、将来の手続きをスムーズにし、余計な手間や潜在的なトラブルを未然に防ぐ鍵となります。
落とし穴1:遺産の記載漏れ
協議書が完成し、全員が実印を押した後で、押入れから「〇〇信金の通帳(残高50万円)」など、協議書に記載していない遺産が見つかるケースは少なくありません。
もしこのような財産が見つかった場合、原則として、その50万円の分け方を決めるためだけに、もう一度「遺産分割協議書」を作り直し、相続人全員から実印をもらい直す必要があります。
こうした将来の「二度手間」を防ぐために役立つのが、ひな形の「記 5.」にもあった「後日判明財産」の条項です。
条文例:後日判明財産
第〇条 本協議書に記載されていない遺産や、後に判明した遺産および負債については、相続人である [特定の誰か] がすべて取得(承継)するものとする。
この一文があるだけで、「万が一、後から見つかった財産は、全部Aさんがもらいます」という合意が成立していることになります。そのため、新たな通帳が見つかっても、Aさんがこの協議書を持っていけば銀行は解約に応じてくれます。
落とし穴2:代償分割の記載が不十分(贈与税の対象に?)
例えば、「実家(3,000万)は長男が相続する。その代わり、長男は妹(次女)に現金1,500万円を支払う」という内容で合意(=代償分割)するケースは非常に多くあります。
この時、もし遺産分割協議書に「長男が不動産を取得する」としか書かず、長男が自分のポケットマネーから妹に1,500万円を渡した場合、どうなるでしょう。 税務署から見れば、それは「長男から妹への贈与」とみなされ、高額な贈与税が課される危険があります。
この重大なリスクを法的に回避するのが、ひな形の「記 4.」にもあった「代償」の条項です。
条文例:代償分割
第〇条 相続人Aは、第〇条記載の不動産を取得する代償として、相続人Bに対し、金〇〇〇〇万円を支払うものとする。
「代償として」と明記することで、この1,500万円のやり取りが「贈与」ではなく、遺産分割の一環であったことを税務署に対して法的に証明できます。これにより、贈与税のリスクを回避することができます。
書き方❹:署名押印のルール(実印・契印・割印)
書類の内容が完璧でも、最後の署名押印で失敗するとすべて台無しです。
① 署名と「実印」
署名
相続人全員の「住所」と「氏名」を記載します。PCで印字しても構いませんが、法的な証拠力を高めるため、自筆での署名(サイン)が最も望ましいです。住所は印鑑証明書の通りに正確に記載してください。
押印
必ず「実印(市区町村に登録した印鑑)」を押します。銀行・法務局は、提出された「印鑑証明書」と「押された印影」を照合することで、「間違いなく本人が、本人の意思で合意した」ことを確認します。実印でなければ、その証明ができません。
② 契印(けいいん)と割印(わりいん)
遺産分割協議書では、署名・実印のほかに「契印」と「割印」という印鑑の押し方があります。この2つはよく混同されますが、役割が全く異なります。
契印(けいいん)
契印は、法律で明記されてはいませんが、実務上は「ほぼ必須」です。契印がない複数ページの協議書は「文書の一体性」を証明できないため、法務局(登記申請)や金融機関から差し戻し(受付拒否)の対象となる可能性が高くなってしまいます。
- 目的:
協議書が複数ページ(2枚以上)にわたる場合に、そのページが連続しており、途中で差し替えられたり、抜き取られたりしていないこと(=文書の一体性)を証明するために押します。 - 方法:
(ホチキス留めの場合) 全ページを見開きにし、両ページにまたがるように、相続人全員が実印を押します。これをすべての見開きページで行います。
(製本テープで袋とじした場合) テープと協議書本体の紙にまたがるように、相続人全員が実印を押します。(通常、裏表紙のどちらかで行います)
割印(わりいん)
手続き自体は、割印のない原本1通でも受理されることがほとんどです。しかし、割印を押しておかないと、将来「自分の持っている控え(原本)と、銀行に提出された原本は本当に同じものか?」といったトラブルになった際、その同一性を証明することが難しくなります。将来の紛争防止のために、押しておきましょう。
- 目的:
同じ内容の協議書を複数部(例:相続人A用、B用、銀行提出用など)作成した場合に、それらがすべて同時に作成された同一の文書であること(=文書の同一性)を証明するために押します。 - 方法:作成した協議書の「原本」すべて(例:3通なら3通とも)を少しずつずらして重ねます。 その重ねた書類すべてにまたがるように、相続人全員が実印を押します。
書き方➎:作成した協議書は何通必要?
最低でも「相続人の人数分」は作成します(例:相続人が3人なら、3通作成)。 これら全てに全員が署名・実印を押し、割印をした「原本」を、各自が1通ずつ大切に保管します。
手続きでの使い方
銀行や法務局での手続きには、この「原本」を持参します。 多くの場合、窓口担当者が原本を確認し、コピーを取った上で「原本還付(げんぽんかんぷ)」といって、その場で返却してくれます。 (※一部、原本の提出が必要な機関もあります)
5.遺産分割協議書作成の流れ
遺産分割協議書作成の流れは、以下のとおりです。
以下で、それぞれ見ていきましょう。
step❶ 遺言書の有無の確認
まず最初に、故人が遺言書を残していないかを確認します。 もし有効な遺言書があり、そこに財産の分け方がすべて指定されていれば、原則としてその内容が優先されるため、遺産分割協議は不要となる場合があります。
- 公正証書遺言: 公証役場で作成されたもので、そのまま手続きに使えます。全国の公証役場で検索・確認が可能
- 自筆証書遺言: 故人が自分で書いたもの
法務局の保管制度を利用していた場合:家庭裁判所の「検認」は不要で、そのまま使えます。
自宅などで見つかった場合:勝手に開封せず、家庭裁判所で「検認」の手続きが必要です。
遺言書が見つからなかった場合に、初めて次のステップである相続人全員での協議に進みます。
step❷ 法定相続人・相続財産の確定
遺産分割協議書を作成する上で、最も重要で時間のかかるステップです。 この調査を怠ると、作成した協議書が無効になったり、後で大きなトラブルになったりする可能性があります。
法定相続人の確定
協議は「相続人全員」で行う必要があります。一人でも欠けていると、その協議は無効です。 そのため、故人の「出生から死亡まで」の全ての戸籍謄本(戸籍・除籍・改製原戸籍)を取得し、法的に相続権を持つ人を全員特定します。
相続財産の確定
プラスの財産(不動産、預貯金、有価証券など)だけでなく、マイナスの財産(借金、ローンなど)もすべて調査し、「財産目録(リスト)」を作成します。財産が漏れていると、後で協議のやり直しが必要になるため、徹底的に調査します。
このステップは専門的な知識と多大な労力がかかるため、不安な場合は司法書士など専門家へ相談することをおすすめします。
step❸ 遺産分割協議の実施
ステップ2で確定した相続人全員で、作成した「財産目録」をもとに、誰がどの遺産を取得するかを具体的に話し合います。
全員の合意が必須
直接全員で集まるのが理想ですが、電話やメール、手紙などでのやり取りでも構いません。重要なのは、相続人全員がその分割内容に納得し、合意することです。
財産リストが交渉の土台
事前に財産リストを全員で共有し、それぞれの希望を整理しておくことで、協議がスムーズに進みます。特に不動産など価値の大きな財産については、慎重に話し合いを重ねましょう。
step❹ 遺産分割協議書の作成
相続人全員の合意がまとまったら、その内容を「遺産分割協議書」という正式な書面にします。 この書類が、後の銀行や法務局での手続きの「証拠」となります。
合意内容を正確に記載
誰が、どの財産を(不動産なら登記簿通りに、預金なら口座番号まで)取得するのか、全員の合意内容を漏れなく、正確に記載します。
遺言と異なる合意も可能
遺言書がある場合でも、相続人全員が合意すれば、遺言とは異なる内容で分割することも可能です。その場合も、合意内容を記した遺産分割協議書を作成します。
協議がまとまらない場合
もし当事者間での話し合いで合意できない場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」や「審判」を申し立て、法的な解決を目指すことになります。
遺産分割協議書の作成
にお悩みの方へ
相続手続きや遺産分割について6000件以上の相談実績を持つ専門家が、あなたに最適な解決策をご提案します。相続手続きが複雑で、どこから手を付けたらよいか分からない場合には、ぜひご相談ください。
6.遺産分割協議書の作成時期と有効期限
遺産分割協議書の作成を進めるにあたり「いつまでに作ればいいのか?」という期限、そして「一度作ったら、いつまで有効なのか?」という効力は、非常に重要なポイントです。
特に、相続税の申告が関わる場合は、事実上のタイムリミットが存在します。ここでは、協議書作成の「時期」と「効力」について解説します。
6-1. いつまでに作成すべきか
遺産分割協議書の作成自体には、法律上の「期限」は設けられていません。しかし、事実上の期限として強く推奨されるタイミングが2つあります。
❶相続税の申告期限(死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内)
これが、実務上最も重要な期限です。 もし遺産総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超え、相続税の申告が必要な場合、この10ヶ月以内に遺産分割協議書を完成させる必要があります。
申告期限までに協議がまとまらず、協議書が提出できないと、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例(実家の評価額を大幅に減額する特例)」といった、税額を大幅に軽減できる特例が適用できなくなってしまいます。その結果、本来払う必要のない高額な税金を(少なくとも一時的に)納めることになりかねません。
❷不動産の相続登記の期限(取得を知った日から3年以内)
これまで任意だった不動産の名義変更(相続登記)ですが、2024年4月から義務化されました。 相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に、法務局で名義変更の手続きをしなければなりません。
この相続登記の申請にも遺産分割協議書は必須となるため、この3年という期限も意識しておく必要があります。
6-2.遺産分割協議書に有効期限はあるか?
一度、相続人全員が適法に合意し、実印を押して成立した遺産分割協議書には、法律上の有効期限は設けられていません。何年経ってもその効力は失われず、例えば10年前に作成した協議書であっても、それを使って不動産登記や預金解約の手続きを行うことができます。
ただし、ここが非常に重要なポイントです。 「有効期限がない」ということは、裏を返せば「一度有効に成立した遺産分割協議書の内容は、原則として変更できない」ということです。
それほど強力で、法的に拘束力を持つ「最終的な契約書」なのです。 後から「やっぱり気が変わった」「地価が上がったから分け直したい」といった、一部の相続人による一方的な変更は一切認められません。
もちろん、相続人全員が改めて合意すれば、一度成立した協議を解除し、新たな遺産分割協議書を作成すること自体は可能です。 ただし、その変更後の内容によっては、当初の相続とは別に「贈与税」など、新たな税務上の課題が生じる場合があるため、極めて慎重な判断が必要です。
だからこそ、実印を押す前の「作成段階」で、内容に漏れや間違いがないか、全員が本当に納得しているかを、慎重に確認する必要があるのです。
7.遺産分割協議書に関するトラブルと対処法(Q&A)
最後に、遺産分割協議書にまつわる「よくあるトラブル」について、Q&A形式で回答します。
Q1.遺産分割協議書の内容を守らない相続人がいます
🅰️ 協議書は「法的拘束力」を持つ契約書です。
合意を守らない相続人に対しては、家庭裁判所に「調停」や「審判」を申し立てるか、地方裁判所に「訴訟(合意内容の履行を求める訴え)」を起こすことができます。 協議書が「勝訴判決を得るための強力な証拠」となります。
Q2.協議に応じてくれない・連絡が取れない相続人がいます
🅰️ 家庭裁判所の「遺産分割調停」を利用します。
協議は「全員」の合意が必要です。一人でも非協力的(無視、法外な要求など)な人がいて協議書が作れない場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てます。 調停委員という中立な第三者を介して話し合い、合意を目指します。 もし調停でもまとまらなければ、自動的に「審判」に移行し、裁判官が遺産の分割方法を決定します。
Q3.作成後に内容を変更・やり直しはできますか?
🅰️ 原則として「一切できません」。
ただし、例外的にやり直し(合意解除)が認められるケースはあります。 それは、「相続人全員が、全員の合意で」やり直す場合です。 一人でも「やり直しには応じない」と言えば、不可能です。
また、やり直すことで、当初の分割内容によっては「贈与税」や「不動産取得税」が余計にかかるリスクもあり、非常に複雑です。
Q4.遺産分割協議書を紛失・なくしたら?
🅰️ 他の相続人に「原本のコピー」をもらってください。
通常、銀行や法務局の手続きでは「原本(実印が押されたもの)」を提示し、コピーを提出します。 もしあなたの手元の原本をなくしても、他の相続人が持っている原本を使えば手続きは可能です。
最悪のケース
もし全員が原本を紛失し、1通も残っていない場合… 残念ながら、もう一度ゼロから作成し直し、全員の実印をもらい直す必要があります。複数通作成し、大切に保管することが重要なのです。
8.まとめ
- 遺産分割協議書は、銀行や法務局への「証拠」として提出する公的な契約書であり、家族間のトラブル防止に役立つ。
- ひな形の利用には注意が必要で、不動産なら「登記簿謄本通り」に、預金なら「口座番号まで」具体的に記載し、相続人全員の「実印」押印が必須である。
- 一度成立すると原則として「やり直しはできない」法的な拘束力を持つため、全員が納得したうえで慎重に作成する必要がある。
- 「代償分割の記載」や「後日判明財産条項」など、実務的な条文を盛り込むことで、将来の手間やトラブルを回避し、書類の有効性を確保できる。
家族を失った悲しみの中、慣れない相続手続きを取り仕切るのは精神的・時間的に大きな負担です。遺産分割協議書の作成は注意点が多く大変ですが、本記事のガイドを参考に一つひとつ確認しながら進めてみてください。
不安な場合は私たち専門家に遠慮なくご相談ください。あなたとご家族が安心して円満に相続手続きを終えられるよう、全力でサポートいたします。
















司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士















































































































































