任意後見制度とは、認知症や障害などにより判断能力が低下した場合に備えて、代わりに財産管理や契約などをおこなう任意後見人を決めておく制度です。任意後見契約が締結されたうえで「任意後見監督人」が選任されると、任意後見制度が効力を発揮します。任意後見監督人とは、その名のとおり、任意後見人を監督する役割を果たします。
記事のポイントは以下のとおりです。
- 任意後見監督人は、制度の信頼性を保つ「審判役」であり、必ず選任される。
- 任意後見人の配偶者、親、子、兄弟姉妹は、監督人には絶対になれない。
- 監督人は、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれるのが一般的。
- 費用は月額1万~3万円が相場で、ご本人の財産から支払われる。
- 将来のトラブルを防ぐには、契約内容を具体的にしておくことが何より重要。
本記事では、任意後見監督人の役割や就任までの流れについて知っておきたいことを解説します。任意後見制度を利用するうえで、任意後見監督人の選任は避けられません。正しく制度を利用するためにも、ぜひご覧ください。
目次
1.任意後見監督人とは?なぜ必要なのか
任意後見監督人とは、一言でいえば「任意後見人が、契約内容に従ってご本人のために正しく財産管理や身上保護を行っているかを監督する人」です。ご本人の判断能力が低下した後に、任意後見契約の効力を発生させる際、家庭裁判所によって必ず選任されます。
「信頼できる家族を後見人に選んだのだから、それで十分では?」と感じるかもしれません。しかし、任意後見人に全ての権限を委任するだけでは、ご本人やその大切な財産を守りきれないケースも想定されるのです。特に近年は、高齢化や一人暮らし世帯の増加に伴い、ご家族だけでなく、第三者の専門家が客観的な立場で関与する重要性がますます高まっています。
1-1.任意後見監督人の3つの重要な役割
役割❶:不正・横領の防止(第三者チェック)
任意後見人による財産の使い込みや、ご本人の意思に反する契約などを防ぎます。「誰かに見られている」という意識が、後見人の誠実な職務遂行を促します。
役割❷:透明性・客観性の担保
家庭裁判所が司法書士や弁護士などの専門職を監督人に選任することで、財産管理のプロセスが透明になり、客観的な視点でのチェックが可能になります。
役割❸:後見人のサポート役
監督人は単なる監視役ではなく、後見人が職務で悩んだ際の相談相手にもなります。法的な判断が必要な場面などで、後見人を支える役割も担います。
2.【結論】任意後見監督人になれる人・なれない人
では、具体的に誰が任意後見監督人になれて、誰がなれないのでしょうか。法律では、「任意後見監督人になることができない人」が明確に定められています。大きく分けて以下の2つのパターンがありますので、それぞれ詳しく見ていきましょう。
なれない人①:「欠格事由」に該当する人
まず、任意後見監督人自身の状況や経歴によって、そもそも候補者になれないケースがあります。これを法律用語で「欠格事由(けっかくじゆう)」と呼びます。
これは、ご本人の大切な財産や権利を守るという重大な任務を担う上で、適格性に欠けると考えられる人をあらかじめ除外するためのルールです。具体的には、以下のいずれかに該当する人は任意後見監督人になることができません。
なれない人②:任意後見人本人や、その近しい親族
上記①の欠格事由に当てはまらなくても、任意後見人との関係性によって監督人になれない場合があります。こちらの方が実務上はるかに重要で、多くの方が誤解しがちなポイントです。
法律では、任意後見人の利益とご本人の利益が衝突(利益相反)するのを防ぐため、以下の人は任意後見監督人になれないと明確に定めています。
- 任意後見人の配偶者
- 任意後見人の直系血族(親、子、孫など)
- 任意後見人の兄弟姉妹
たとえ任意後見人になるのが長男で、その弟が監督役をしたいと希望しても、法律上それは認められません。客観的な第三者によるチェック機能を確実に働かせるための、非常に重要なルールです。
【一覧表】任意後見監督人の適格性チェック
ここまでの内容をまとめたのが、以下のチェック表です。ご自身のケースで誰がなれて、誰がなれないのか、改めてご確認ください。
上記の表の通り、実務上は弁護士や司法書士、社会福祉士といった専門家が家庭裁判所によって選任されるのが一般的です。これにより、制度の信頼性と専門性が担保されています。
3.なぜ任意後見人の「親族」は監督人になれないのか?
「なぜ、信頼している家族同士で監督し合ってはいけないのか?」という疑問は、当然のものです。その理由は、法律用語でいう「利益相反」を防ぎ、監督の客観性を担保するためです。
利益相反とは、一方の利益になることが、もう一方の不利益になってしまう状態のことを指します。任意後見の場合、後見人自身の利益(例:親の財産を自分の事業に使いたい)と、ご本人の利益(例:財産を堅実に守ってほしい)がぶつかってしまう可能性があるのです。
3-1.身内だからこそ、客観的な監督が難しい理由
想像してみてください。後見人である長男が、母親(ご本人)の預金から「少しだけなら…」と自分のお店の運転資金を借りようとしたとします。この時、監督人が長男の妻だったら、強く「NO」と言えるでしょうか?
「いつもお世話になっているから」「夫婦喧嘩になるのは嫌だ」といった家族だからこその情や遠慮が働き、客観的で厳格な判断が鈍ってしまう可能性は否定できません。こうした、必ずしも悪意があるわけではない「身内の情」が、結果的にご本人の財産を危険に晒すことになりかねないのです。
だからこそ、法律はあらかじめ利害関係のない第三者を監督人として関与させることで、個人的な感情に左右されない公平な監督を行い、ご本人の利益を最優先で守る仕組みを設けています。
4.任意後見監督人の選任手続きの流れと必要書類
任意後見監督人は、ご本人の判断能力が低下した際に、自動的に選任されるわけではありません。ご家族などが家庭裁判所に申立てを行うことで、初めて手続きがスタートします。
ここでは、その申立てから監督人が選任され、制度が正式に発動するまでの流れを、ステップごとに詳しく見ていきましょう。
任意後見制度は、本人が元気な時に任意後見受任者と「任意後見契約」を結んでおく制度です。任意後見監督人の選任は、判断能力喪失した際、任意後見をスタートさせるときに行います。詳細は以下のブログを確認ください。
STEP1:家族などが家庭裁判所に必要書類を提出(申立て)
最初のステップは、家庭裁判所への「任意後見監督人選任の申立て」です。この申立ては、ご本人の判断能力が低下し、任意後見契約で定めた後見事務を開始する必要が生じたタイミングで行います。
申立ては、法律で定められた申立人、すなわちご本人、配偶者、四親等内の親族(子、孫、兄弟姉妹、甥、姪、いとこ等)、そして任意後見人になる予定の任意後見受任者が行うことができます。
これらの申立人が、ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ、以下の必要書類一式を提出することで、手続きが始まります。
- 申立書
- 申立事情説明書
- ご本人の戸籍謄本、住民票
- 任意後見受任者(後見人になる人)の住民票
- 任意後見契約公正証書の写し
- ご本人の財産に関する資料(預貯金通帳のコピー、不動産登記事項証明書など)
- ご本人の判断能力に関する医師の診断書
- 収入印紙、郵便切手
事案や裁判所によって追加の書類を求められる場合があります。必ず事前に管轄の家庭裁判所にご確認ください
STEP2:裁判所の調査官が関係者と面談・状況調査(審理)
申立てが受理されると、家庭裁判所は直ちに監督人を選任するわけではありません。本当に監督人が必要な状況か、どのような人が監督人としてふさわしいかを見極めるため、「審理(しんり)」という調査期間に入ります。
この審理では、主に家庭裁判所の「調査官」が中心となって、関係者から事情を聞き取ります。
面談の対象者
通常、申立人(申立てをした人)と任意後見受任者(後見人になる人)が裁判所に呼ばれ、面談が行われます。また、ご本人の状況を確認するため、調査官がご自宅や施設を訪問し、ご本人と直接面談することもあります。
調査内容
面談では、ご本人の心身の状態、生活や財産の状況、任意後見契約を結んだ経緯、任意後見受任者が後見人として適格か、といった点について詳しく質問されます。
STEP3:選任・審判の告知
調査官による調査結果をもとに、裁判官が最終的な判断を下します。これを「審判(しんぱん)」と呼びます。
審判の結果、任意後見をスタートさせることが相当と判断されると、家庭裁判所は最も適任と考える人物を任意後見監督人に選任します。前述の通り、多くは地域の弁護士や司法書士などが候補者名簿から選ばれます。
決定内容は「審判書」という正式な書面にまとめられ、その謄本(コピー)が申立人、任意後見人、そして選任された任意後見監督人に郵送で送られてきます。この審判書を受け取った日から、2週間以内に不服申立て(即時抗告)がなければ、審判の内容が法的に確定します。
STEP4:登記手続きと制度の発動
審判が確定しても、すぐに任意後見がスタートするわけではありません。最後の仕上げとして「登記」という手続きが必要です。
登記とは、「〇〇さんが任意後見監督人に選任されました」という情報を、法務局が管理する公的な記録(後見登記等ファイル)に登録することです。この登記手続きは、家庭裁判所の書記官が職権で(自動的に)法務局へ依頼してくれます。ご家族が別途手続きをする必要はありません。
この登記が完了したことをもって、任意後見人は正式な代理権を得て活動を開始でき、任意後見監督人もその監督業務を正式にスタートします。
5.任意後見監督人の費用・報酬の相場は?
監督人が必要となると、次に気になるのが費用です。費用は大きく分けて「①申立て時の実費」と「②選任後の監督人への報酬」の2つがあります。
監督人の報酬額は、監督人と後見人が勝手に決めるものではありません。ご本人の財産額や、監督業務の難易度に応じて、家庭裁判所が審判で決定します。
| 費用の種類 | 金額の目安 |
| ① 申立て時の実費 | 約1万円~2万円程度 |
| ② 監督人への報酬(月額) | 月額1万円~3万円 (管理財産額による) |
【計算例】年間でかかる費用のシミュレーション
例えば、管理財産額が5,000万円以下で、監督人の報酬が月額2万円と決定された場合…
- 月額2万円 × 12ヶ月 = 年間24万円
この報酬は、ご本人の財産の中から支払われます。 - 申立て自体の費用(収入印紙・郵便切手代など)
収入印紙: 800円
登記用収入印紙: 1,400円
郵便切手: 3,000円~5,000円程度(裁判所により異なる)
これらの実費に加え、申立て手続きを司法書士や弁護士に依頼する場合は、別途5万円~15万円程度の依頼費用がかかります。
ご自身のケースでの費用は?
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6.任意後見監督人をめぐる5つの失敗と回避策
ここでは、実務でよく見られる「任意後見監督人」をめぐる典型的な失敗例と、それを未然に防ぐための対策を解説します。
失敗❶「家族が監督人に選ばれる」という期待外れ
「いざとなったら、後見人である長男を、次男が監督すればいい」と思い込み、何の準備もしていなかったケース。実際に申立てをすると、裁判所から全く面識のない弁護士が監督人に選任され、「こんなはずでは…」と家族全員が戸惑ってしまいます。
回避策
「後見人の近親者は監督人にはなれない」という大原則を正しく理解することが第一歩です。契約時に専門家に相談し、監督人の候補者についての希望を家庭裁判所に伝える準備をしておくことが有効です。
失敗❷:任意後見人の業務内容が曖昧で、監督人から「待った」がかかる
任意後見契約書に「財産管理の一切を任せる」とだけ書かれていたケース。後見人になった子供が、親の預金から孫へ入学祝い(30万円)を渡そうとした際、監督人から「その支出は契約の範囲を超えています」と厳しく指摘され、親子関係までギクシャクしてしまいます。
回避策
契約書作成の段階で、「孫への祝い金は年間〇〇円まで」のように、お金の使い道を可能な限り具体的に定めておくことが、将来のトラブルを未然に防ぐ最大の防御策となります。
失敗❸:監督人への定期報告を怠り、信頼を失う
家族が後見人になった場合に特に多いのが、「これくらい言わなくても分かるだろう」と、監督人(専門家)への財産状況の報告を軽視してしまうケース。報告を怠ると、監督人は職務上、最悪の事態(横領など)を想定せざるを得ず、家庭裁判所へ厳しい内容の報告書を提出し、結果、信頼関係が崩壊します。
回避策
監督人は敵ではなく、ご本人を共に守るパートナーです。定められた報告(通常3ヶ月〜1年に一度)は必ず行い、誠実なコミュニケーションを心がけましょう。
失敗❹:監督人と後見人の相性が悪いケース
これは運の要素もありますが、選任された監督人が非常に厳格な性格で、後見人である家族の行動を細かく制限し、精神的に疲弊してしまうケースです。「お母さんのために良かれと思ってやったのに…」と、後見人自身が追い詰められてしまいます。
回避策
契約書作成の際に、「監督人の候補者」として、信頼できる専門家の名前を記載しておくことが考えられます。必ずその人が選ばれるわけではありませんが、家庭裁判所は候補者を尊重してくれる可能性があります。
失敗➎:監督人の報酬が負担になる
ご本人の財産がそれほど多くない場合、毎月1万~3万円の監督人報酬が、年金生活の中から払い続けるには重い負担となるケースです。結果、「こんなにお金がかかるなら、やらなければよかった」と後悔につながります。
回避策
任意後見契約を結ぶ前に、将来発生するコストを正確にシミュレーションしておくことが重要です。その上で、本当に任意後見制度が最適なのか、あるいは「家族信託」など他の制度も検討すべきか、専門家と相談しましょう。
「失敗しない」任意後見のために
ご紹介した失敗例は、誰にでも起こりうるものです。しかし、そのほとんどは専門家と事前に準備することで防ぐことができます。相談実績6000件超の専門家がご家族に最適な資産管理の解決策をご提案いたします。
7.任意後見監督人を解任・交代させたい時の手続き
「もし、不正を働くような監督人が選ばれたら?」「どうしても相性が合わない場合は?」――。そんな時のために、監督人を解任・交代させる手続きも知っておきましょう。
7-1.解任申立てが可能なケース
監督人に以下のような事実が発覚した場合、ご本人やその親族、任意後見人は、家庭裁判所に「任意後見監督人の解任申立て」をすることができます。
- 不正な行為(例:報酬の不正請求)
- 著しい不行跡(例:監督業務の放棄、報告義務の怠慢)
- その他、任務に適しない事由
家庭裁判所が調査の上、解任が相当と判断すれば、その監督人は解任され、新たな監督人が選任されます。
7-2.原則としてできないこと
「選ばれた監督人が気に入らない」「やはり家族がやりたい」といった主観的な理由で、一度行われた選任の審判自体を取り消すことは、原則としてできません。
これは、制度の安定性を保ち、ご本人の利益を守るためです。あくまで、監督人に明らかな問題行動があった場合にのみ、解任という手段が取られます。
8.任意後見監督人に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 任意後見監督人は必ず選ばないといけませんか?
はい、必ず選任されます。任意後見契約の効力が発生する(=ご本人の判断能力が低下して、家庭裁判所に申立てをする)際には、法律に基づき、家庭裁判所が必ず任意後見監督人を選任します。監督人を選任しない、という選択肢はありません。
Q2. 任意後見契約書で、監督人を指名できますか?
契約書で監督人を「この人にする」と指名(指定)することはできません。最終的な選任権限は家庭裁判所にあります。ただし、契約書に「監督人の候補者として、〇〇司法書士を希望します」と記載しておくことは可能です。
家庭裁判所はその希望を尊重してくれる可能性があります。
Q3. 任意後見監督人を途中で辞めさせられますか?
監督人に不正行為や任務の怠慢といった「正当な理由」があれば、家庭裁判所に解任を申立て、辞めさせることができます。しかし、「性格が合わない」「方針が気に入らない」といった理由だけでの解任は、非常に難しいのが実情です。
9.動画解説|任意後見監督人とは?
10.まとめ
- 任意後見監督人は、制度の信頼性を保つ「審判役」であり、必ず選任される。
- 任意後見人の配偶者、親、子、兄弟姉妹は、監督人には絶対になれない。
- 監督人は、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれるのが一般的。
- 費用は月額1万~3万円が相場で、ご本人の財産から支払われる。
- 将来のトラブルを防ぐには、契約内容を具体的にしておくことが何より重要。
認知症や精神障害などによって、判断能力が低下する可能性は誰にでもあります。万が一に備えるためにも、任意後見制度について正確に理解しておくことが必要です。
なお、任意後見制度は財産管理などに活用できるよい方法ですが、財産管理の方法は任意後見制度だけではありません。家族信託や民事信託など、ほかの方法と比較してから希望にあうものを選択するようにしましょう。
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