家族信託契約を遺言の代わりとして使う!?それで問題はないのか??

遺言代用信託
この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに350件以上の家族信託をはじめ、相続・生前対策を取り組んでいる。年間60件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

遺言の代わりに家族信託・民事信託を活用したい、、、そういった相談を受けることがよくあります。一般的な制度である遺言と比較して家族信託・民事信託を検討するというケースが増えてきています。

信託を活用すると、契約で定めた帰属権利者に遺産分割協議をすることなく、信託した財産を帰属させるという機能があります。相続人間で争いがある、遺産分割協議を行うのが難しいというご家庭にとって、遺言や生命保険と同じく、財産を指定した相続人に帰属させることができます。

そのため、信託契約を遺言の代わりに利用するといった事例も増えてきています。だ、遺言代わりに本当に家族信託・民事信託を活用していいのか??ここについては、検討が必要です。家族信託・民事信託を理解するにあたって、信託と近い制度から考える、、、これは物事を理解するのに重要です。

ですが、そもそもの本質的な考え方を誤ると間違ったアウトプットとその活用をしてしまいます。そこで、遺言と信託の違いを踏まえて、出口戦略から家族信託・民事信託と遺言の違いを考察していきたいと思います。

1.相談事例から考えてみる信託設計

相談風景

こんな相談がありました。

相談者は長男。高齢の父から財産の管理を任されつつあります。母は他界しており、子は長男、長女の二人です。父の所有財産は横浜市内にある自宅兼貸しビルの他、アパート2棟、預貯金1億円があります。

財産の承継希望は下記のとおりです。

自宅兼貸しビル → 長男
アパート2棟  → 長女
金銭      → 均等に相続させる

この相談事例をもとにどのように設計方法があるのかということを考察していきます。

2.遺言代用信託の代わりに信託、、、本当にそれでいい??

上記のような相談を一般の方をはじめ、同業の司法書士、税理士の先生、相続コンサルタントの方からよく受けることがあります。僕自身も家族信託・民事信託に取り組み始めたときはそう思っていましたし、多くの相談を受けていると、これから信託を取り組まれる方の共通認識で遺言の延長線で信託を考えている方が非常に多いです。

お客様の意向をそのままに、遺言の延長線で信託を考えると下記のようなスキームを設計ができます。

信託の設計

委託者 父
受託者 長男
受益者 父
信託終了事由 父の死亡
信託財産
① 自宅兼貸しビル ② アパート2棟 ③ 金銭
帰属権利者
①は長男、②は長女、
③は長男長女に均等割合

上記の内容で信託契約をつくることはできますが、
その出口戦略を考えて本当にこの内容でよいのか、と一度立ち止まって考えていくことが必要です。

3.信託の本質とは!?そこから考える活用方法

選択肢

民法を学んだ経験がある方だと、一番イメージしやすいのは、「信託 ≒ 根抵当権」です。イメージだけの話なので、法律的には全く別の制度ですので、そこは留意したうえで、この先を読んでください。

抵当権は特定の債権を担保します。だから、その抵当権を担保する債務(住宅ローンなど)を完済されると消滅します。根抵当権は枠だから「特定債権」が無くても消滅せず、根抵当権の枠は消滅しません。

また、法律で抵当権・根抵当権ということを学んだことがない方は、クレジットカードの限度額をイメージするとよりわかりやすいです。クレジットカードは限度額いっぱいまで利用できます。その限度額の範囲内で繰り返し利用できます。それと信託は同じイメージです。

信託財産として定めた「箱(枠組み)」の中でその不動産を売却を行う、売却した金銭で他の財産を購入したりと繰り返し取引を行うことができます。途中で信託財産が変わったとしても、その枠組みの範囲内で他の種類の財産として受託者は管理し続けるのです。

僕は信託をお客様に説明する際は信託という箱をつくり、信託契約の中でどんな財産を入れるのかを決めていきますという話をします。箱なので、信託財産を売却しても、金銭に変わるだけで信託は継続します。

3-1.信託終了前に〇〇に帰属すると定めた信託財産を売却してしまった場合のリスク

信託終了時には、その時点に存在する信託財産が帰属権利者に引き継がれ、信託は終了(清算結了)します。
遺言の場合には、遺言で長男に相続させると定めた特定財産が生前に売却されると、その特定財産がなくなってしまうので、当該部分は遺言の条項と抵触し、撤回されたものとみなされて(民法1023条)、その売却代金は長男に相続されません。

信託終了時に例えば、アパートは長男に帰属させるという内容とした場合には、せっかくの枠という「信託」の機能を使わず、遺言と同じ形で相続させるという内容となります。

そのため、万が一、アパートを相続対策で売却したほうがいいというように将来判断した場合には、売却したアパートは信託終了時に存在しないことから、長男はアパートを相続できず、金銭として長男と長女の均等割合で相続することになります。このように、資産組換を行ってしまった場合には、その組み換え後の財産にはその効力が及ばない結果になってしまうのです。

将来の資産組換などが想定される事案では信託の「枠」機能を活用すべきなのです。

特定物を帰属させるという内容は、絶対に資産組換しないという従来の遺言と同じ使い方となるので、注意が必要です。

4.信託を「枠」として利用する場合の活用方法

資産組換を前提として、設計する場合には下記のようなスキームを設計します。

信託設計2

信託契約1
委託者 父
受託者 長男
受益者 父
信託終了事由 父の死亡
信託財産
① 自宅兼貸しビル ② 金銭
帰属権利者 長男

信託契約2
委託者 父
受託者 長女
受益者 父
信託終了事由 父の死亡
信託財産
① アパート2棟 ② 金銭
帰属権利者 長女

上記の契約スキームとするメリットは特定人に資産組換があったとしても、当初定めた箱(信託契約)の財産相当額(信託財産)で財産を帰属させることができることです。


そのため、それぞれの信託金銭の額の設定については割合を設定するにあたって留意が必要ですが、箱のまま帰属させることができるので、中身が変わったとしても問題がありません。

4-1.信託契約を複数にした場合のデメリットとは!?

デメリットとしては、契約が複数になるため、損益通算ができないことです。

例えば、ある年にAアパートの所得は600万円となり、Bアパートについては大規模修繕を行い、その年の所得は経費を支払った結果、-300万円となったとします。本来ならば、Aアパートの所得600万円と合算することができ、不動産所得は+300万円。課税も300万円に対しておこなわれます。

しかし、事例のように信託契約を複数にした場合には、Aアパートの利益である+600万円とBアパートの-300万円の損失を損益通算できないので、Aアパートの600万円の不動産所得に対して課税されるのです。一つの信託契約であれば、信託財産内での通算はできるので、+300万円に対する課税となりますが、上記のとおり信託複数型では、異なる信託としての取り扱いとなってしまいます 。

損益通算ができない

損益通算については下記の記事でも解説していますので確認してみてください。

信託については、法務の他、税務も複雑に関連してくるので、よく専門家と相談しながら、そのメリット・デメリットを考慮して、設計していくことが肝要です。

5.まとめ

  • 遺言の延長で家族信託・民事信託を考えないことが必要
  • 遺言と同じく特定物として帰属させるか、「枠」として帰属させるか検討が必要
  • 「特定物」「枠」での利用、それぞれのメリット、デメリットを考慮したうえで設計する

家族信託・民事信託を設計する際には、その最終的な出口戦略を考えて行う必要があります。

今後、親の財産を全くいじらず、そのまま相続させてるのか、それとも、資産の組換が予定されているかによってその設計方法が変わってくるのです。ご家族の今後の財産管理、資産承継をどのように行っていくのか、その出口戦略も含めて、ご家族、そして専門家と話し合いながら、組み立てをしてみてください。


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