家族信託契約で金銭、不動産、株式などを信託財産と定めると、受託者になった者(主に子供を指定する)が高齢の親のお金や不動産、株式などを管理できるようになります。そのため、信託契約後に親が認知症になったとしても受託者である子供は、信託契約で定めた内容に従い、親のお金を管理をすることができます。
今回の記事のポイントは、下記の通りです。
- 信託契約が作成したからといってすぐに受託者が財産管理できるわけではない
- 受託者は本人の代理人でなく、託された財産の管理権限のみを持つ
- 信託した親のお金の管理方法として、信託口口座を開設するか、受託者名義の個人口座で管理するという2つの方法がある
- 財産の分別管理方法として信託口口座の開設がおすすめだが、口座が開設できるかどうか事前に金融機関に確認が必要
- 管理用口座に金銭を移動することにより金銭管理がスタートする
信託契約で定めた金銭は具体的にどのように管理していけばよいのか、信託口口座の活用方法についてお伝えします。
目次
1.信託契約があれば親のお金を管理できるは大間違い!?
過去、不動産会社の勧めで、家族信託契約を結んだというご相談を受けました。
でも、受託者である子供が専門家に依頼して作成した信託契約書を銀行に持参しても、親の預金口座について銀行窓口で引き出せないし、振込もできないと言われてしまったとのことでした。
多くの人が誤解するのですが、信託契約書で親の預貯金口座を特定しても、受託者は銀行窓口で払い戻し手続きができません。
家族信託・民事信託と同じく、親の財産管理を行う制度として成年後見制度があります。
成年後見制度や遺言など、相続について勉強されてから相談にいらっしゃるお客様が増えており、なかなか鋭い質問をされることのしばしばですが、成年後見制度と家族信託・民事信託を同じイメージでとらえている方が非常に多いです。
そこで、改めて成年後見制度との違いをお伝えします。
1-1.従来制度との違い
家族信託・民事信託と同じく、親の財産管理を行う制度として成年後見制度があります。成年後見人は本人の代理人として財産管理を行うため、全般的な代理権があります。
そのため、成年後見人の権限として、銀行取引、不動産売買、その他取引全般について家庭裁判所の監督のもと、代理することができます。親の代理人として、成年後見人の権限で、預貯金の払い戻し、振り込みができるのです。
成年後見人の権限や仕組みについて知りたい方は下記記事をご参照ください。
2.家族信託の受託者は親の代理人ではない!?専門家によるミスも?
ここで注意をしなければいけないのは、家族信託の受託者は親の代理人ではなく、契約で定めた財産管理権限しかないことです。
そのため、受託者のもとに財産の名義を移さなければ管理をスタートすることはできないのです。
預金口座を契約書で特定したとしてもそれでは受託者は管理できませんし、何ら代理権は有しません。また、金融機関で預金口座を記載された信託契約書を提示しても、上記の通り、受託者は何ら代理権を有しないので、払い戻し手続きに応じることもできません
信託の実務経験が少ない専門家は似た制度である成年後見や遺言と勘違いしてしまい、成年後見と同じような対策をしておけば大丈夫だろうと思って手続きをしてしまい、ミスをするケースが多数見受けられます。
これは家族信託の考え方を理解するとしっくりしますので、ぜひ下記の記事を見てみてください。
3.信託契約で定めた親のお金の管理方法とは!?
信託をしても、金銭についても親(委託者)個人のままの預貯金口座では、あくまで名義人が委託者個人であるため、受託者である子が入出金や振込みなどの手続きをとることができません。また、信託契約で通帳番号を特定してもあくまで名義人は委託者のままであるため、払戻し等の手続きはできません。
そのため、受託者の銀行印で届け出をし、受託者名義の信託金銭管理用口座を開設する必要があるのです。
この信託金銭管理用口座は、受託者個人の預金口座と委託者から信託を受けた金銭を分別管理することができる口座です。信託契約をすると、金銭に関しては通帳番号ではなく、「金〇〇〇万円」のように信託する金銭とその額を特定します。
委託者である親の口座から親自身が引出又は振込みをした後に、信託金銭管理用口座に信託契約で定めた金銭を入金すると、運用が開始されます。信託契約後の金銭や信託不動産(収益物件)からの家賃収入、経費の支払いなどは信託口口座で行うことにより受託者が円滑に手続きをとることができるようになります。
4.信託した金銭を管理した口座は、2つある
信託金銭を管理する口座は実務上、下記の2つの方法が用いられています。それぞれを見ていきましょう。
①受託者名義の個人の口座で代用する方法
②信託口口座を開設する
4-1.口座管理方法①受託者名義の個人の口座を代用する
これは、受託者名義の空の個人口座を用意し、その口座で信託した金銭を管理する方法です。
実務上は、対外的に信託財産であることがわからりませんね。ですから、法律上や税務上の問題が起きないようにするため、信託契約書の中で金融機関、支店、口座番号、口座名義まで明記して活用しています。
これは受託者個人の名義であるため、キャッシュカード、インターネットバンキングなど、通常の普通口座と同様に管理できます。
ただし、注意をしなければならないのは、あくまで“個人口座”のため、万が一、受託者が委託者より先に他界した場合や受託者個人が破産した場合などには、委託者の信託財産とはみなされず、受託者個人の財産として取り扱われる金融実務上のリスクがあります。
4-2.口座管理方法②信託口口座を開設する
信託口口座(しんたくぐちこうざ)とは、信託契約に基づき受託者が委託者から信託された金銭を管理するための口座です。信託した金銭は、委託者のものでもないし受託者のものでもありません。
そして、信託においては、信託財産について下記機能を果たす必要があります。
・受託者個人への債権者は信託財産に対して差し押さえはできない
・受託者死亡により口座は凍結しない
上記の機能を有する口座が“信託口口座”です。
信託口口座と受託者個人の口座を代用する信託専用口座の具体的な説明と信託口口座を開設できる金融機関の他、上場株式などの有価証券の信託口口座については下記の記事で詳しく解説していますので、興味ある方は是非ご覧ください。
信託口口座は受託者の個人財産ではないので、受託者が亡くなった際にも受託者の相続財産を構成しません。
知識が浅い金融機関の営業職員が「信託口口座を開設できます」と謳っていても、よくよく金融機関本部で話を聞いてみると相続で凍結されてしまう、という金融機関も少なくありません。
そこで事前に金融機関に対し、上記機能を有する信託口口座を開設できるかどうかを確認する必要があります。
4-3.信託口口座の名義人はどうなる?
口座の名義については、
「委託者○○受託者□□信託口」
「委託者○○信託受託者○○」
「受益者○○信託受託者○○」
「家族信託口A 受託者○○」
などがあります
上記機能を有する信託口口座を作成したいところですが、2019年3月現在、信託口口座開設に対応できる金融機関がまだまだ少ないのが現状です。
そのため、専門家と相談しながら、金銭の管理方法を決めていく必要があります。
5.金銭の移動~受託者の管理業務のスタート~
信託管理用口座を開設し、金銭を移動することによって受託者の金銭管理業務はスタートします。
受託者名義の信託管理用口座で管理することによって、親が認知症になっても、 預金が銀行窓口でおろせない状態になることを防ぎ、 生活、介護費用、その他実家管理費用なども 受託者の判断で管理することができるようになるのです。
親の手元に多額の財産を残さなければ、 高齢者を狙った振り込み詐欺なども未然に防ぐことができます。
ただし、信託していない金銭や年金は 親の個人の財産となるので注意が必要です。ある程度、年金など親の財産が増えてきたときには、専門家と相談し追加信託するなど対策を行うこともできます。
その他、信託契約には各機関との調整等もあります。気になる方は下記の記事からご確認ください。
6.自分の手元から金融資産がなくなることが不安な親への説明方法とは
信託契約は信頼できる子など受託者との間で締結します。
実際の相談事例の中でも、長男を信頼している、でも、自分の手元に金融資産が少なくなるのは不安だということを聞くことがあります。
6-1.150件以上の信託契約書を組成してきた実績から2つのアドバイス
そういったときには次のようなアドバイスをしています。
- 少額の金融資産で信託契約を結び、後日、安心して託せる状態になったときに、金銭の追加信託を行えるようなスキームとする
- 信託口口座を開設し、その口座に金銭を入金後、通帳とキャッシュカードなどは親に当面管理してもらい、安心して託せる状態になったときに受託者に渡す
追加信託については、下記の記事で詳しく解説しています。
7.まとめ
- 信託契約が作成したからといってすぐに受託者が財産管理できるわけではない
- 受託者は本人の代理人でなく、託された財産の管理権限のみを持つ
- 信託した親のお金の管理方法として、信託口口座を開設するか、受託者名義の個人口座で管理するという2つの方法がある
- 財産の分別管理方法として信託口口座の開設がおすすめだが、口座が開設できるかどうか事前に金融機関に確認が必要
- 管理用口座に金銭を移動することにより金銭管理がスタートする
親のお金を信託し、管理用口座に移すことで、受託者判断で金銭管理が行うことができます。
しかし、多額の金銭を信託してしまうと委託者個人で管理する財産が減少してしまうという結果、逆にご両親にとって不安な状態をつくってしまうことも想定されます。また、年金などは信託対象財産となりません。
両親が元気なうちに将来の財産の管理方法をどうするか、話をして管理方法をきめていってくださいね。