親が認知症気味で将来の介護費用が心配…。「いつか」の実家売却のために今からできる3つの対策

万が一、親が病院や介護施設に入ることになった場合、「入院費用」や「介護費用」をどうしようか?というお金の問題は、どのご家族も一度は直面する問題だと思います。

「当面は、手元の現金で頑張ろう。どうしても足らなくなったら、実家を売却して親のための介護費用として使うしかないかも・・・。でも、今は親も住んでいることだし、今すぐの実家売却は考えられない…」
この様に考えるご家族も多いのではないでしょうか?

残念ながら、現行の法制度では、親が認知症になってしまった「後」で実家を売却することは、そう簡単なことではありません。しかし、完全な認知症になる「前」であれば、選べる選択肢は格段と増えてきます。

今回は、今ではない「いつか」の将来のために、実家を売却して親の介護費用に充てる可能性があるご家族向けに、親が完全な認知症になる「前」ならできる対策をご紹介していきます。

親が完全な認知症になった「後」だと、選べるカードは1つ

親が完全な認知症になった「後」では、「成年(法定)後見制度」を利用する以外は、お母さま名義の実家を売却することはできなくなります。しかし、「成年(法定)後見制度」は、本人保護の度合いが強すぎるが故に、実家売却だけを目的とした場合、使い勝手が悪い面があります。

成年(法定)後見制度を使った際のメリット・デメリットについて、下記の記事に詳しくかいてありますので、気になる方はご参照ください。

≫親が認知症気味に…。介護費用ために使いたいのに、実家売却はできない?|成年後見制度を活用した場合

親が元気な内であれば、将来のために選べるカードは増えます

親が認知症等に判断能力を失う前であれば、将来の実家売却のために備える手段はいくつかあります。
今回は、下記の手段について、順次ご紹介していきます。

☑ 生前贈与
☑ 任意後見契約
☑ 家族信託

説明の便宜上、下記のようなご家族をモデルケースとします。

「思い立ったが吉日」 生前贈与

生前贈与とは、その名の通り、お母さまが元気な内に、実家の名義をお母さまから、例えばご長男にうつす手段です。この場合、実家の所有権は、完全にご長男にうつるため、ご長男の判断で実家をいつでも売却することができます。法律関係的にはとてもスッキリしますが、下記について注意が必要です。

注意点1 お母さまを不安にさせてしまう危険性がある

自分が元気であるのにも関わらず、自分が築き上げた大事な財産(実家)を手放すということは、例えその相手が家族だったとしても、大なり小なり不安なことだと思います。

「もしかしたら家を勝手に売られて、自分の居場所がなくなるかもしれない。怖い。」とお母さまが感じてしまったとしても責めることはできないでしょう。

注意点2 贈与税・登録免許税・不動産取得税が発生する

贈与が行われた場合、一般的には下記の税金が発生します。

相続で実家の名義をうつす場合は、贈与税ではなく相続税が課税されます。一般的には、相続税の方が基礎控除額の額が多く、税率も低いいため、贈与税よりも安く済む場合が多いです。
また、相続の場合、不動産取得税は課税されません。それに加えて、相続時の方が登録免許税の税率も低く設定されています。もちろん、贈与税にも、活用すべき非課税制度がいくつかありますが、場合によっては、相応の税金を負担する可能性があることはご注意ください。

参考URL
≫贈与税の計算と税率(国税庁HPより)
≫不動産取得税(東京都主税局HPより)
≫登録免許税(国税庁HPより)

注意点3 安易な生前贈与は、相続トラブルにつながる可能性がある

今回の事例では実家がほぼ唯一の財産であることから、実家をご長男名義にしてしまった場合、ご長女には、実質何の相続財産も残らないことになります。ご長女が納得できていれば問題はありませんが、最悪の場合、ご長女から遺留分侵害額請求権(旧:遺留分減殺請求権)を行使される可能性があります。

この様に、生前贈与は、将来的な実家の売却を容易にする反面、お母さま本人や他の相続人の気持ちを配慮する必要がある上に、税金面での負担も覚悟する必要があります。

生前贈与は、ご自身で対策をする際に一番入りやすいものだと思います。ただ、税金面や定期贈与など気を付ける点があります。気になる方は下記の記事をご覧ください。

≫【2019年7月】民法・相続法改正対応|5分でわかる生前贈与・贈与税の4つのポイントとは!?

「家族、時々他人」 任意後見契約

任意後見契約とは、成年後見制度における「成年後見人」を裁判所が選ぶのではなく、お母さまご自身で選ぶことができる制度です。お母さまが選んだ任意後見人(例えばご長女)は、お母さまに代わり実家を売却する契約書にハンコを押すことができます。

事情を知らない赤の他人が後見人になるよりは、家族の誰かが後見人となる方が、いろいろな物事がスムーズに進むかもしれません。しかし、実家売却を目的に任意後見契約を結ぶ場合は下記について注意が必要となります。

注意点1 実家売却を任意後見監督人に反対される場合がある

任意後見契約では、通常任意後見監督人(弁護士・司法書士等)が選任されます。任意後見監督人の役目は、ありていに言えば、「任意後見人が不正なことをしていないか?」を監督することです。

万が一、任意後見監督人が実家売却を「不適切なこと」と判断した場合は、任意後見監督人は、家庭裁判所に任意後見人の解任請求をすることができます。

注意点2 実際に実家を売却できる様になるまで、一定の時間が必要

実際に任意後見人がお母さまに代わって売却手続きを行える様になるためには、裁判所より任意監督人が選任されている必要があります。
任意監督人の選任は、任意後見人が裁判所に申立することにより審判が開始されます。選任の審判は、お母さまが元気な内に締結した任意後見契約に基づいてされるため、手続き期間は、法定の成年後見よりは短くてすみますが、それでも通常は、1ヶ月程度必要となります。

注意点3 お母さまがお亡くなりになるまで、報酬(費用)が発生し続ける

任意後見契約の場合、成年後見人(ご長女)への報酬は、無償・有償どちらもでも、自由に設定できます。しかし、任意後見監督人には、2~3万円/月の報酬を支払う必要があります。そして、この報酬については、お母さまがお亡くなりになるまで発生する費用となります。

このように、任意後見は、法定後見と比べ、家族の中で柔軟に選択できる幅が広がります。しかし、完全に第三者の監督を排除することはできません。

≫【親の老後のために必見!】任意後見人の権限、手続き、費用のこと|ご家族で財産管理が可能に

「家族の、家族による、家族のための契約」 家族信託

お母さま(委託者兼受益者)が元気な内に、信頼できる相手(受託者)に、自分の財産の管理や処分する権限を託すのが家族信託です。お母さまの判断能力が低下したとしても、受託者(例えば、ご長男)の判断で実家を売却することができます。

各制度と対比して考える家族信託の良いところ

今まで説明してきた対策と比較しながら、家族信託で何ができるのか、そのメリットをお伝えしていきます。

【VS生前贈与】お母さまの実家の名義は完全にはなくならい

名実ともに、実家の所有権がご長男にうつってしまう生前贈与に比べ、家族信託では、表向きの「名」はご長男(受託者)にうつりますが、「実」はお母さまに残ります。

信託契約において、目的を「お母さまが心身共に安心して健やかに過ごせる環境を整えること」と設定すれば、ご長男の権限は、本目的内に限定されます。そのため、ご長男は、「お母さまが元気なのに、自分勝手な理由で実家を売却する」という様な暴挙はできなくなります。万が一、ご長男が暴走した場合は、お母さまは単独でご長男を受託者から解任することも可能です。

また、ご長女をご長男が暴走しない様に監視する役目(受益者代理人や信託監督人)として設定することもできます。

このように、家族信託では、お母さまが「失敗だった!」と思ったら、いつでも引き返す道が残っているため、お母さまの不安を和らげることができる制度となっています。

【VS生前贈与】贈与税・所得税は発生しない

家族信託の場合は、実家の実質的な名義はお母さまに残るため、信託契約締結時には、贈与税・不動産取得税は発生しません。お母さまがお亡くなりになったタイミングで相続税が発生します。

【VS成年後見】第三者の干渉を受けることなく、家族の中だけで完結できる

成年後見と比べて、家族信託は、第三者が干渉することはありません。家族の判断だけで実家売却の判断ができます。
そのほか家族信託について詳しく知りたい方は、下記をご参照ください。

≫家族信託・民事信託を活用すべき3つのケースとは!?設計方法がわかる家族信託活用事例

≫家族信託とは?今までの制度とどう違うの?素朴な疑問に答えます!実績100件超の司法書士が解説します! 

家族信託で押さえておくべき注意点

家族信託でも、良いところがある反面、下記に注意する必要があります。

注意点1 受託者(ご長男)に相応の責任が課される

他人(お母さま)の財産を管理する以上、受託者(ご長男)には相応の責任が課されます。最も重大な責任は、信託財産の事故等により第三者に損害を与えた場合は、受託者の個人財産で損害を賠償する可能性があるということです。

今回の案件の場合、例えば、台風等で吹き飛ばされた実家の雨戸によって、隣の家の門が壊れてしまった場合、信託財産内の財産では賠償しきれなかった場合は、ご長男の個人財産からお隣さんへの損害賠償金を支払うこととなります。

注意点2 初期費用が発生する

家族信託において、法定・任意後見の様な月額費用は発生しません。しかし、最初に信託契約の組成を専門家に依頼する場合、おおむね信託財産額の1.5%(約30万円~)の費用が発生します。
(一般的には、法定後見における成年後見人に対しては、約60万円/年程度、任意後見における任意監督人に対しては約24万円/年程度の報酬が発生します。報酬は、財産額によって変更するため、詳細は、家庭裁判所のHPをご参照ください)

そのほか、家族信託を考えるうえで見ておきたい記事をご参照ください。

≫家族信託・民事信託に向かないケースとは!?信託に潜む5つのデメリット

まとめ

将来の実家を売却するかもしれない場合に備えて、親が完全に認知症になる前であれば、選べる対策についてご紹介してきました。

  • 実家の名義を完全に家族にうつす「生前贈与」契約を結ぶ
  • 家族を後見人とした「任意後見」契約を結ぶ
  • 完全に家族の中で完結する「家族信託」契約を結ぶ

それぞれの対策にはメリット・デメリットがあり、どの対策を選ぶかは、家族の状況によって変わってきます。また、「認知症対策(実家売却)」だけはなく、「資産承継対策」も目的とした場合は、遺言等も視野に入れる必要があるでしょう。

極論を言ってしまえば、いろいろと比較した上で、「何もしない」というのも選択肢もあるかもしれません。ご家族について最適な選択をするためには、なるべく中立的な立場の専門家にご相談することをお勧めします。

 

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