認知症の親の口座をコソコソせず堂々と管理する方法|今なら間に合う!死亡・認知症での口座凍結に備えた仕組みづくり


親の判断能力が著しく低下して引き出しができなくなった口座のために、法定成年後見人の選任申立てをせざるを得ない例は後を絶ちません。こうした口座凍結の事態を未然に防ぐ方法があります。
認知症の親の口座から、法定成年後見人を就けることなく堂々と現金を引き出せる仕組みづくりをしておくことです。

仕組みづくりができるのは、親の判断能力が「著しく低下するまで」ですので、早めの対策をお勧めしますが、認知症と診断されたからと言ってあきらめるのはまだ早いかもしれません。
認知症後の対応については、下記の記事をご参照ください。

》金融機関に認知症と知られなければ使っていいの?~親の預貯金~|死亡や認知症による銀行の口座凍結のタイミングと勝手に使うリスク

また、口座凍結というと、親の死亡時を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
令和元年7月1日、相続法改正により、親の死亡後に口座が凍結してしまっても、一定の額の仮払いが受けられるようになりました。これは、口座凍結後解除までの数か月間、子世代の相続人が葬儀費用や医療費などを立て替えなければならなかったり、それによって相続人同士の争いに発展したりと大きな問題になっていたからです。

死亡による口座凍結に備える方法の1つに、親に「遺言を書いておいてもらうこと」があげられます。なぜそれが備えになるのか、本編で触れていきます。

今回の記事のポイントは下記のとおりです

  • 判断能力の著しい低下によって引き出しができなくなった口座(口座凍結)を解凍するには、法定成年後見制度を使う以外、方法がない!!
  • 口座凍結を未然に防ぐ方法がある!
    ・銀行のシステムの中での対策
    ・任意後見制度の利用
    ・家族信託制度の利用
  • 口座凍結を予防し、本人のために適切に使う仕組みづくりができるのは、本人の判断能力が「著しく低下していない」段階のみ。認知症だから・・・とあきらめるのはまだ早いかも!?
  • 相続法の改正によって、令和元年7月1日以降、遺産分割協議中であっても相続人の1人から、銀行に直接一定額までの仮払いの請求ができるようになった。
  • 遺言を書くことは死亡時の口座凍結の迅速な解凍対策になる!

自分はどんな方法で口座凍結に備えることができるのか。親の口座を堂々と使うために最善の対策を講じていきましょう。

認知症の親の口座が凍結!!引き出すにはどうしたらよい?

すでに認知症が進み、判断能力がかなり低下している場合、銀行がその事実を知れば口座を凍結します。
以後出金、契約内容の変更(定期預金の解約など)は、家族であってもすることはできません。

2020年3月10日の日本経済新聞の記事で、全国銀行協会の認知症患者の預金引き出しについての対応に関する記事が掲載されました。

認知症患者の預金を家族が引き出しやすくなるよう、全国銀行協会は3月中にも各銀行に通達をだす。戸籍抄本などで家族関係が証明され、施設や医療機関の請求書で使途が確認できれば口座からお金を引き出せるよう業界統一の対応を促す。高齢化で認知症患者の金融資産が増えるなか、銀行業界は預金の安全性保護と顧客の利便性向上との両立を探る。

今後の一定の条件、手続きを経れば、施設や医療費の支払いについてはご家族が預金口座の引き出しに対応できる可能性がありますが、どの範囲までの引き出しが認められるか、どんな手続きが必要かは個別に確認が必要です。

認知症(判断能力の著しい低下)による口座凍結はいつまで続くの?

銀行の判断で口座凍結されてしまったら、原則名義人が亡くなり相続手続きが終わるまで、払い戻しができないことになります。(死亡時の口座凍結とは違い、出金・契約内容の変更ができなくなるが、引き落としや振り込みはそのまま続く。年金振込口座が凍結されて困ることも多い。)
しかし、判断能力が低下してから亡くなるまでの介護期間が長くなることも多く、その間名義人本人の口座から年金や貯金が下ろせないのは非常に困ります。家族にとって深刻な事態に発展することも多く、近年相談が増えています。

ここでは、すでに認知症がかなり進んでおり、口座が実際に凍結してしまった場合と、まだ認知症ではない(又は判断能力の低下が著しくない)場合に分けて、採りうる対策を説明します。

法定成年後見制度の利用

すでに認知症がかなり進んでおり、実際に凍結されてしまった口座を解凍するには、法定成年後見制度を使う以外方法がありません。つまり、本人のために、本人の財産を管理する法定代理人として法定成年後見人の選任の申立てをするのです。

最高裁判所事務総局家庭局の統計では、平成30年の法定成年後見人の選任の申立ての動機第一位は、断トツで預貯金の管理・解約をするためとなっています。

ただし、法定成年後見人に親族が就けるとは限らず、専門職が就くことも多いのです。仮に、金融資産が多い方などは、親族が就任しても、後見監督人として専門職を就任させる、または、日常生活に必要な預貯金以外は全て家庭裁判所の指示がないと引き出しができない「成年後見制度支援信託」や「成年後見制度支援預金」の制度の利用を求められることが多いです。

これは、本人の財産の適切な管理と相続人間での争いを未然に防ぐため、中立な第三者による管理とご家族が自由に引き出しができないような仕組みをつくることを目的にしています。

仮に専門職後見人が就任した場合、報酬が発生し、月2~5万円(総資産による)となり、本人が亡くなるまで続きます。また、法定成年後見人の選任の申立てから選任までに通常数か月かかるので、凍結解除までにはそれなりに時間を要します。

そのため、出来れば、この段階に至る前に(判断能力がまだ、ある段階で)何らかの対策を講じておくことが望ましいと言えます。
成年後見制度について詳しく知りたい方は、下記をご参照ください。

>>成年後見・遺言と家族信託って具体的にどう違うの?|信託実績100件超の司法書士が事例を遺言と成年後見制度の限界を解説します!

>>【2019年】成年後見|最高裁の親族後見人を認める方針変更の影響は!?|司法書士の立場から見る後見解決事例

まだ認知症ではない親の口座、将来に備えて今何ができる?

まだ認知症になっていない、または認知症の診断を受けていても判断能力の著しい低下がない場合、事前に口座を凍結させないために採れる有効な手段があります。

①銀行のシステムの中での対策

まず考えられるのは、各銀行のシステムの中で対策を講じておくということです。ただし、あくまで出金のみに関する対策であることに注意が必要です。

一番簡単なのは、親本人に定期預金の解約など、将来考えうる契約内容の変更を予めしておいてもらい、キャッシュカードの在りかと暗証番号を教えておいてもらうことでしょう。

しかし、この方法だと、キャッシュカードの紛失や磁気不良のような場合には、親本人が直接銀行とやり取りする必要があるため、認知症が進んだ後にリスクが残ることがあります。
兄弟間で1人だけがキャッシュカードを持つことで後々争いの原因にならないとも限りません。

そこで、代理人カード(家族が持つことのできるキャッシュカード。複数枚作成できることも多い)を作っておくのもよいでしょう。
ただし、こちらも家族ができるのは出金のみであり、親本人が認知症になった時に使用することを想定していない為、やはりカードの紛失・磁気不良の問題など認知症が進んだ後にリスクは残ります。

また、銀行によっては、「代理人指名」のシステムがあり、本人の判断能力のあるうちに出金の代理人をあらかじめ指名しておき、指名された家族は本人の判断能力低下後も窓口で出金ができるシステムを作っています(出金限度額あり)。
判断能力の低下後も、堂々と出金ができる制度なので、検討するのもよいでしょう。

ただし、あくまでできることは窓口出金のみであり、その際本人の通帳と届出印の提示が必要であるため、これらの紛失があると、以降指名された受取人でも出金はできなくなるので注意が必要です。

②任意後見制度を利用する

まだ判断能力があるうちに、将来認知症などで判断能力が著しく低下した時に備えて、信頼できる家族(任意後見人となる人)との間で、財産の管理や身上監護をしてもらえるよう予め契約を結んでおく制度です。本人の判断能力が著しく低下した段階で、家庭裁判所へ後見監督人の選任の申立てをし、そこから任意後見人の権限が発動します。

任意後見人は、本人の財産管理ができるので、銀行に届け出れば本人の口座を本人のために使い続けることができます。任意後見契約で予め定めた範囲の代理権を持つことになり、入出金はもちろん、口座の契約内容の変更、貸金庫の契約に関することなどもできることになります。

任意後見人への報酬は無償として契約をすることも可能です。ただし、第三者である専門職が任意後見監督人に就任するため、任意後見監督人への報酬は発生しますが、報酬額は法定成年後見人のおおむね半分程度であることが多いようです。

また、任意後見人には任意後見監督人への報告が義務付けられているため、後々相続人間で使途不明金等の問題は出にくく、その点も安心だと言えますが、定期的な任意後見監督人への生活費の支払、預貯金の管理状況などの報告など、任意後見人となるご家族に負担感が残ってしまうことは否めません。

任意後見契約の締結にあたっては代理権の範囲や、見守り契約や財産管理委任契約とセットで締結するかなど、検討すべき点がいくつかあるので、締結前に一度専門家に相談されることをお勧めします。
任意後見制度の進め方や注意点についてもっと知りたい方は、下記をご参照ください。

>>【親の老後のために必見!】任意後見人の権限、手続き、費用のこと|ご家族で財産管理が可能に

③家族信託(金銭信託)制度を利用する

口座の名義人(親)が、信頼できる家族(子)に、認知症になる前から、信託財産として現金の管理を任せることができる契約です。具体的には、親(委託者)の口座から、子(受託者)名義の信託口口座に現金を移し、子は信託契約で定められた目的に従ってその現金を使うことになります。

親の認知症が進んでしまった後も信託口口座は凍結しない為、引き続き子供が口座取引をすることができます。(親の独自の口座=信託財産ではない口座は凍結するので、定期預金の解約、年金口座からの送金等、できることはあらかじめ済ませておく必要があります)

契約締結時から子に金銭の管理を任せることになりますが、少額から始め、判断能力の不安が出てきた時に全ての現金を信託口口座に移動させることもできます。
認知症になった時のために対策をしておきたいが、全財産の管理を子に任せるのは嫌だという方も、比較的抵抗感なく利用できる制度と言えるでしょう。

受託者には金銭を信託管理用口座で管理し、帳簿を作成する義務があるので使途不明金を未然に防ぐことも可能です。また、信託契約では親が亡くなった後の信託財産(ここでは信託口口座内の預貯金)の帰属権利者を定めるので、遺言機能もあり相続手続きもスムーズに行えます。

信託契約には、複雑な点も多く、また銀行によって信託口口座を開設する条件や内容も異なるので、利用を考えている方は一度専門家に相談されることをお勧め致します。
家族信託は最近普及し始めた制度ですので、聞きなれない方もいるかもしれません。詳しくは、下記の記事も合わせてお読みください。

>>家族信託・民事信託を活用すべき3つのケースとは!?設計方法がわかる家族信託活用事例

>>家族信託とは?今までの制度とどう違うの?素朴な疑問に答えます!実績100件超の司法書士が解説します!

>>信託口口座と信託専用口座とは!?口座開設方法をお伝えします

ここまで、認知症による口座凍結への対策についてお話してきました。これらを利用することで、タイトル通り、「認知症の親の口座を堂々と使う」ことができます。
ただし、「親のために適切に使うこと」が大前提であることを忘れないでください。自分の為に勝手に使うようなことがあると、後々相続人間の争いに発展することが大いに考えられます。くれぐれもその点を忘れないでください。

ここからは、死亡による口座凍結への対策について考えていきます。

名義人の死亡による口座凍結はいつ解除されるのか?

凍結された口座が、亡くなった方の口座として再び復活することはありません。
相続人や、遺言によって、もらい受ける受遺者への適切な払戻しができるよう、金融機関所定の書類が揃った時、口座の凍結は解除されます。この「所定の書類を揃える」という作業がなかなか厄介です。

戸籍の他、例えば遺言がない場合には、銀行所定の書類又は遺産分割協議書に、全ての法定相続人の署名と捺印・印鑑証明書の提出が必要になります。疎遠になっている相続人がいる場合、なかなか協力してもらえないこともありますし、相続人が海外にいる場合、領事館まで出向いてサイン証明書や在留証明書を取ってもらう必要があり、手続きに時間がかかります。

また、相続人のうち、認知症などで署名捺印が有効にできない方がいる場合には、その相続人に法定成年後見人を就ける必要が出てくるなど、かなり大変な手続きになることもあります。
必要書類を揃えるのには、手間と時間がかかるということを認識してください。

ちなみに、遺産分割協議がまとまらないまま銀行の場合は5年で、信用金庫や信用組合の場合は10年経過すると、預金口座の払い戻し請求権が時効により消滅してしまうこともありますので、注意が必要です。

死亡による口座凍結への対応策は?どのように引き出せばよいの?

銀行所定の必要書類が揃えば、銀行は払い戻しに応じてくれますが、それなりに時間がかかることは前述の通りです。それまでに葬儀費用等の支払いがあり、どうしても引き出したいということもあるでしょう。

名義人死亡による口座凍結への対応策として、スムーズな引き出し方法を3つご紹介します。(令和元年7月1日から遺産分割協議中であっても相続人の1人からの払い戻しに関する規制が緩和されました。②で説明します。)
時期によって採ることができる方法が違いますので注意が必要です。

①銀行に黙って引き出す【名義人死亡後、口座凍結前】

相続人から銀行に、口座名義人の死亡を知らせる前にキャッシュカードで預金の一部を引き出して、葬儀費用などに充てるという方法です。実際この方法で対処する方は多いのではないでしょうか。

ただし、明確に用途を証明できるようにしておかないと、後々相続人間での争いごとに発展することもあります。そもそもキャッシュカードの在りかや暗証番号を知らない場合にはできません。
また、引き出した現金の使用用途によっては、相続放棄の手続きができなくなる場合もあるので注意が必要です。

②仮払い制度を利用する【名義人死亡による口座凍結後、遺産分割協議成立前】

相続法の改正によって、2019年7月1日以降、遺産分割協議中であっても相続人の1人から、銀行に直接一定額までの仮払いの請求ができるようになりました。

これまでの制度では、死亡後凍結された口座は、相続人全員の同意がないと引き出せない仕組みになっていました。(基本的には現在も同じです)一方で、高額な葬儀費用や医療費の立替えだけでなく、生活費を故人の口座からやりくりしていた家族には、当面の生活にも困るような事態が生じ、問題となっていました。

これらの問題を解決するため、遺産分割協議前であっても、より簡単に一定の限度額までを仮払いとして引き出すことができるように改正されたのです。

この仮払い制度を使って引き出した額は、当該相続人が相続財産の一部を取得したとみなされ遺産分割の際に具体的な相続額から差し引かれます。

仮払い制度を使って引き出せる金額の条件は、簡単にいうと
「相続人1人につき、1つの金融機関において
* 相続開始時の預貯金残高×1/3×その相続人の法定相続分
* 150万円
の内、低い金額」です。
仮払いを銀行に申請した日付が令和元年7月1日以降であれば、それ以前に亡くなった方の口座にも適用があります。

また、何らかの事情により、この上限金額以上の金額を引き出したい場合には、家庭裁判所で遺産分割の審判又は調停を申立てた上で、仮払いを申立てることもできます。(家庭裁判所の保全処分による仮払いの制度)家庭裁判所の判断により、他の相続人の利益を侵さない範囲内で仮払いが認められることになります。

仮払いについてもその使用用途によっては、相続放棄の手続きができなくなる場合もあるので注意が必要です。民法改正について、ほかに詳しく知りたい方は、下記をご参照ください。

>>民法改正!改正相続法は実際にいつから適用される!?

③遺言を書いておく【生前(判断能力があるうち)に書いておく】

遺言書の中で、相続人または受遺者を明確にしておくことで、口座凍結解除のために相続人全員の署名捺印・印鑑証明書を揃えることを不要にすることができます。必要な書類を揃える手間が減り、口座凍結解除までの時間短縮となることが期待されます。遺言執行者を定めておくと、更に手続きが円滑に進みます。

遺言を書くことを勧めるのは家族でもなかなか難しいとは思いますが、非常に有効な手立てです。ただし、遺言は書き方によっては無効になるリスクもあるので、専門家にご相談されることをお勧めします。

まとめ

  • 判断能力の著しい低下によって引き出しができなくなった口座(口座凍結)を解凍するには、法定成年後見制度を使う以外、方法がない!!
  • 口座凍結を未然に防ぐ方法がある!
    ・銀行のシステムの中での対策
    ・任意後見制度の利用
    ・家族信託制度の利用
  • 口座凍結を予防し、本人のために適切に使う仕組みづくりができるのは、本人の判断能力が「著しく低下していない」段階のみ。認知症だから・・・とあきらめるのはまだ早いかも!?
  • 相続法の改正によって、令和元年7月1日以降、遺産分割協議中であっても相続人の1人から、銀行に直接一定額までの仮払いの請求ができるようになった。
  • 遺言を書くことは死亡時の口座凍結の迅速な解凍対策になる!

すでに認知症がかなり進んで凍結してしまった親の口座を解凍するには、法定成年後見人を就ける以外、方法がなくなってしまいます。今回はこれを防ぐ仕組みづくりを中心に、口座凍結の予防対策についてお話してきました。
これらの仕組みづくりをする場合には、家族の誰か一人が強引に進めるのではなく、家族でしっかり話し合い、後々相続人間で争いのもとにならないようしっかりした管理体制をつくって親の口座やお金を管理していくことが重要です。

そして、親のために適切にお金を使うことができるようにするための仕組みであることを忘れてはいけません。今からでも遅くない!と思われた方、ぜひ自分に合った仕組みづくりをしていきましょう。

 

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