大きな資産である不動産は日本の相続では必ずと言ってもいいほど相続財産に含まれてきます。不動産は誰か一人が単独所有にすることもできますが、複数人で共有することも可能です。
一般的に不動産の共有は避けた方が良いとされていますが、諸事情で仕方なく共有となることもありますし、いくつかのメリットを考えてあえて共有とすることもあります。
今回は、共有状態の不動産について取り上げ、問題点を捉えつつ活用法や処分方法を見ていきます。コラムのポイントは下記の通りです。
- 共有不動産は自由利用が制限され、利用勝手が悪くなる
- 共有者に相続が起きれば、相続人が共有関係に入ってくるため権利関係が複雑になる
- 共有不動産の売却は共有者全員の合意が必要
- 第三者に対する持分売却なども選択肢
- 共有についてのメリットとして税金対策はあるが、将来の争族対策を考えて検討すべき
- 共有不動産のリスク対策に家族信託の活用を検討することができる
今話題の家族信託を利用した運用方法もお伝えしますから、ぜひ参考になさってくださいね。
1.共有名義不動産となるのはどんな時?
まず、不動産がどういうシーンで共有状態になりやすいかを考えてみます。よくあるのが不動産を購入する時と、相続で承継される時です。
購入場面では特に夫婦で新居を購入するような場合に見られます。お互いに資金を出し合って購入するので、持ち分を半分ずつにしよう、という具合です。
相続による共有も非常によく見受けられます。遺言書がなく遺産分割協議がまとまらないため不動産が共有になってしまったり、現預金など分割しやすい財産がないため、仕方なく共有とするなど理由は色々あります。
では共有状態となった不動産はどのような問題をはらむことになるのか、見てみましょう。
2.共有名義不動産の問題点
共有状態の不動産では以下のような問題が起きます。
2-1.問題①:利用しづらい
一般的に所有者が複数いる不動産で利用勝手が悪くなると言えば、例えば共同所有者の兄弟同士で仲が悪く、「お前はこの部屋に入るな」とか「うるさいから夜中に騒ぐな」など、個々人の日常的な自由利用が制限されるという意味で捉える方が多いです。
もちろんその意味もあるのですが、ここでいう利用勝手というのは法的な意味合いによるものです。
日本の民法では共有についても規定があり、その法律的なルールの縛りを受けるため、不動産の利用勝手が悪くなるのです。共有不動産には各所有者の「持分」が設定されますが、民法では持分割合に応じてできることが制限されています。
保存行為というのは、その不動産の価値を維持する行為で、必要な修理や補修などの行為です。管理行為は、例えば居住用不動産を人に貸し出して家賃を得るなどの行為です。変更行為は具体例で言えば売却などの行為を指します。
また長期間の賃貸借も管理行為ではなく変更行為に含まれることがあります。
保存行為はいいとして、例えば共有者のうち誰かが転勤でその不動産を使えなくなった場合に、「自分が住めないのだから人に貸して家賃を得たい」と思っても、他の共有者が反対して持分価格の過半数の賛同を得られなければ、目的を達成できません。
最も多いトラブルが、売却したいのにできないというケースです。
上の例のように自分では使えない不動産をお金に代えたい、あるいは何らかの資金需要が発生し、まとまったお金が欲しいといったときに不動産を売りたくても、共有者のうち一人でも「売りたくない」と言えば売却することができず、お金を工面できません。
2-2.問題②:(共有者が増え)権利関係が複雑になる
例えば兄弟のABCで共有している不動産があったとして、Aが不動産を売りたければBとCの承諾を取る必要があります。「いざとなれば承諾は取れるだろう」と思っていると、Bが死亡し相続が起き、Bの共有持分がBの配偶者Dと二人の子E、Fに引き継がれます。AはDとE、Fの承諾を取り付けなければならず、交渉が面倒になります。
さらに、共有持ち分は譲渡することができるので、持分買い取りを手掛ける不動産業者に売ってしまうかもしれません。
D、E、Fに相続が起きればさらにその相続人に持分が引き継がれるので、共有者がどんどん増えて交渉が困難になることもあります。私の事務所でも、相続手続きが長い間されておらず、最終的に共有者が100名となってしまった案件もありました。
そうなってしまうと、共有者の同意を取り付けるのに数年かかってしまう…そんな状況が実際に起こっています。
最近問題視されているのが、相続登記がされないまま相続が続き、共有者がいったい誰なのか分からない、所有者不明の不動産が増えている問題です。いざ何かの利用を考えた時、また売却しようとした時など、共有者が分からなければ相談や交渉すらできず、何にも活用できないといった事例が散見されます。
所有者不明の不動産については、国内の不動産資源の有効活用が妨げられるとして、国レベルの問題となっています。
3.共有名義不動産を売却する方法
共有不動産の売却は共有者全員の合意が必要なため難度が高くなりますが、いくつかの工夫が可能なので本項で見ていきます。
3-1.共有者の同意を得る(個別交渉を行う)
すんなり共有者の合意が取れれば良いですが、反対する者がいる場合はその者の反対の意思を翻意させるための交渉を行います。
例えば、本来共有不動産の売却によって得るお金は持分に従って分けられますが、反対する者の取り分を幾らか増やすなどの交渉によって合意を取り付けることができないか検討します。
3-2.持分を売却する
持分そのものを売買の対象にすることもできます。ただし持分は自由利用が制限される権利ですから、一般市場では通常買ってくれるお客さんはいません。
持ち分を専門に買い取る不動産業者もいるので相談する価値はあるでしょう。また他の共有者に持分を買い取ってもらうことも検討できます。例えばその家に住み続けて利用したい共有者が売却に反対しているのであれば、その者に自分の共有持分を買い取ってもらえる可能性が高いです。
なお、弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、共有状態の不動産についての活用法や処分方法などについて、無料相談をさせていただいております。共有不動産について心配な点がありましたら、お気軽にお問合せください。
4.共有名義不動産を持つメリットはあるの?
基本的に不動産の共有は避けるべきというのが一般的な考えですが、共有することのメリットもいくつかあります。以下で見てみましょう。
4-1.住宅ローン控除を二重に受けられる
例えばマイホーム購入の際に夫婦で共有とする場合、税制上用意されている優遇策「住宅ローン控除」を夫婦二人分利用することができます。住宅ローン控除は、一定の条件を満たして住宅ローンを利用しマイホームを購入した場合、ローン残高に応じた金額が一定期間所得税から控除される減税施策です。
4-2.売却益にかかる特別控除を人数分受けられる
不動産の売却益にかかる不動産譲渡所得税の負担を軽減する3000万円特例がありますが、これは共有者それぞれが利用することができます。利用するには個々人がそれぞれ条件を満たしている必要がありますが、うまくいけば譲渡益を共有者で分散させて税負担を軽くすることができます。
4-3.収益不動産の公平性を確保できる
賃貸経営をされていた被相続人から引き継いだ収益用不動産について、相続人が共有することで安定した収入を公平に分配、確保することができます。
5.共有名義不動産に対する家族信託の活用
ここで、共有不動産に対する家族信託の活用例を見てみます。家族信託は柔軟性に富む法的スキームで、様々なケースで事情に応じた活用を検討することができます。
ここでは一例として、前項④の収益不動産の共有ケースとしましょう。
法人向けテナントビル一棟の賃貸経営をしていた被相続人が亡くなり、長男、次男、三男の3人の子が相続人となり当該物件を引き継ぎました。現状では賃貸収入も比較的安定していますが、法人向けのビジネスは経済事情や社会情勢に大きく左右されるので、三男は今後について不安を感じています。
三男自身も60代後半で段々と体の衰えを感じていますが、長男は70代後半、次男も70代で健康状態も良くなく、最近は物忘れもひどくなっています。
認知症が進んで判断能力がさらに低下すれば、意思疎通も難しくなり話し合いがスムーズにいかなくなるだけでなく、いざ不動産を売却しようとした際にも契約当事者になることができず、スムーズな売却が難しくなるのではないかと不安を感じています。
また誰かに相続が起きれば、その相続人が共有関係に入ってくるので、そのリスクも感じています。
このような場合、3人の兄弟に信頼できる親族がいれば、その人に経営しているビルを信託することが考えられます。例えば長男の子どもと信託契約を結び、3人の兄弟が委託者兼受益者となり、長男の子には受託者となってもらい不動産経営の実務を任せます。
家族信託のスキームは下記のとおりです。信託契約をそれぞれ、長男の子と行います。
【信託契約1】
□委託者 長男
□受託者 長男の子
□受益者 長男
□信託財産 テナントビル持分
【信託契約2】
□委託者 次男
□受託者 長男の子
□受益者 次男
□信託財産 テナントビル持分
【信託契約3】
□委託者 三男
□受託者 長男の子
□受益者 三男
□信託財産 テナントビル持分
賃貸収入は受益者となる兄弟3人が今まで通り受け取ることができ、名義(所有権)は信託契約の下で受託者に移転しているので、面倒な物件管理やテナント契約などの交渉は長男の子に任せることができます。もし将来売却する必要が生じた時も、受託者が契約当事者となって進めることができるので、委託者の誰かが認知症などで契約当事者となることができなくても問題ありません。
また3人兄弟のうち誰かが死亡し相続が発生したとしても、その受益権だけが相続人に引き継がれることになるので、権利関係が複雑になる心配もありません。
以上は家族信託の一例ですが、他にも様々なケースで有効ですから、共有不動産について何か不安を感じている人は、ぜひ私たちのような専門家に相談して頂ければと思います。詳しい家族信託の活用方法については、下記のブログを参考にしてみてください。
6.まとめ
今回の記事では共有不動産のリスクや問題点、対策方法などについて見てきました。本章の内容をまとめてみましょう。
- 共有不動産は自由利用が制限され、利用勝手が悪くなる
- 共有者に相続が起きれば、相続人が共有関係に入ってくるため権利関係が複雑になる
- 共有不動産の売却は共有者全員の合意が必要
- 第三者に対する持分売却なども選択肢
- 共有についてのメリットとして税金対策はあるが、将来の争族対策を考えて検討すべき
- 共有不動産のリスク対策に家族信託の活用を検討することができる
基本的に不動産の共有は避けた方が安心ですが、税金面等のメリットもあり、また何らかの理由で仕方なく共有となることもあるでしょう。
管理が大変でリスクを感じているなど、何らかの対策が必要な場合は家族信託が有効なケースが多いです。
当事務所ではこれまで多くの事例で家族信託を利用し問題を解決してきましたので、もし共有不動産で何か心配な点がありましたら、お気軽に当事務所までご相談頂ければ幸いです。