ここが盲点!司法書士が語る土地境界トラブル事例|遺言・家族信託をしても不動産が売却できない!!

この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに350件以上の家族信託をはじめ、相続・生前対策を取り組んでいる。年間60件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

相続の際に大きな割合を占めるのが土地や建物などの不動産ですね。不動産は、分けづらい・お金に換えづらい・価値が分かりにくい等の特徴があります。また、大きなトラブルのひとつに、「土地の境界」があります。

土地の境界は明治時代から平成17年に、土地の一部を分割(分筆)して売却する際などに求められる測量方法や法務局に境界を特定してもらう境界特定制度が創設されるなど、時代の変化に伴い土地の境界の制度が変わりました。ですから「どこが境界線なのか?」が明確ではないことはまれにあります。

都市部では、境界線の位置が数センチ違うだけで、価値が大きく変わるものでもありますから、土地を売ろうと思って土地の大きさをお隣さんとの間で確認する際、お互いの認識に齟齬があると大きなトラブルにもなるのです。

今回の記事のポイントは下記の通りです。

  • 信託契約や遺言をつくったとしても、境界問題の解決にはならない
  • 境界には、筆界、所有権界、占有界の3つがある
  • 境界を確定させる「境界確定測量」は、原則、隣接地の所有者全員との調整が必要
  • 境界確定は、親が元気なうちに解決しておくことが大切

事例をもとに、境界問題の対処方法について解説していきたいと思います。

1.事例:親の認知症対策として家族信託をしても自宅が売却できない!

父の認知症対策のために家族信託を行った子からの相談です。当初、高齢になった父の財産管理を家族だけで行えるよう、父の自宅・預貯金を信託財産と設定し、子が管理できるような仕組みをつくりました。

認知症対策として財産管理をするための仕組みの家族信託については、下記のページで詳しく解説していますので、チェックしてください。

信託契約締結後、順調に信託財産を管理し、2年が過ぎたころ、父が認知症になり、自宅が空き家になりました。親の生活費や介護費を考えて、信託財産である自宅を売却したいという相談でした。

自宅は売却するにあたって老朽化していること、解体費用などの負担の問題から、不動産業者に売却する事になりました。

1‐1.隣地との間にある境界標がないことが問題に

そこで、不動産業者から確定測量を求められました。
土地家屋調査士を介して境界を復元することになり、土地を測りなおして隣地所有者との交渉を行ったら、「自分の本当の境界は、おたくが言ってきた線より5センチ先にあるはずだ、そのことはおたくのお父さんと過去話をしており、将来自宅を建て替えや売却するときに境界を直すと話をしていた」というのです。
想定外の一言に事態が難航することになりました 。

受託者である子供では状況がわからず、購入時の経緯を父に確認しようにも、親も今は施設で住んでおり、物忘れが進み昔のことを覚えている状況ではありません。

売却するためにやむをえなく、隣地所有者のいう通り、境界を相手方の主張を認めて売却することにしたのです。その結果、当初予定した売却金額よりも価格を大幅に値下げるよう買主である不動産業者に求められてしまい、父の財産を減らしてしまう結果となってしまったのです。

2.なぜ、対策したのに売却できない?見落としがちな境界問題

ここで知っておいていただきたいことは、信託契約や遺言等で不動産を特定して財産管理や資産承継の対策をしていたとしても、それはあくまで不動産の登記簿の表示に基づいて物件を特定するだけだ、ということです。
不動産売却をするには、土地の売買価格も左右することから、土地の正確な面積が求められます。書類上、面積は表記されていたとしても実際には差異があることもあるので、確認が必要です。

特に相続した土地での境界問題は、購入した当時の所有者とは違う子が当事者となるため、当時の事情がわからないことから、お隣り同士お互いが意見を主張しぶつかり合ってしまって、境界を明確にできずトラブルになるケースが多くあります。同様に事例のような家族信託をしたとしても、親が認知症を発症し施設に入ってしまった場合、事実確認をとることもできないということが発生してしまうのです。

結果、受託者になっている子供は、認知症後の親の生活費や介護費について、自宅を売った資産でまかなう予定だったにもかかわらず、手元の資産だけでは足りない可能性もでてきてしまいました。

信託や遺言でも境界問題は解決できません。別途、受託者や相続人が個別に対応する必要があるのです。

境界問題は、専門性が高いものです。弊社リーガルエステートでは境界問題も含めた生前対策のご相談を承っております。初回相談は無料ですので、ぜひご利用ください。

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3.知っておきたい「筆界」「所有権界」「占有界」3つの境界知識

境界には、3つの種類があります。

・公法上の境界→筆界
・私法上の境界→所有権界
・事実上の境界→占有界

ひとつの土地に、意味合いが異なる境界が複数存在し、存在を知らないとそれらを混同しがちです。一つ一つ明確にしていきましょう。

3‐1.筆界とは?

不動産登記法上の地番と地番の境界をさします。つまり、不動産登記法上での境界です。

不動産登記法
第百二十三条 この章において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 筆界 表題登記がある一筆の土地(以下単に「一筆の土地」という。)とこれに隣接する他の土地(表題登記がない土地を含む。以下同じ。)との間において、当該一筆の土地が登記された時にその境を構成するものとされた二以上の点及びこれらを結ぶ直線をいう。

条文上「土地が登記された時」と定められています。これは、明治6年の地租改正によりできたときの筆界(原始的筆界)のことを指します。この筆界は固定され、隣地の所有者との合意(土地を一部譲渡など)のみで自由に変更することができません。その後、不動産登記法の手続きにそって分筆や合筆を行うことにより新たな筆界(後発的筆界)ができていきます。

筆界は、法務局にある公図や地積測量図等を参考に調べることができます 。

3‐2.所有権界とは?

その土地の所有者の権利が及ぶ範囲のことを「所有権界」といいます。言い換えれば、隣地所有者の所有権との境目です。

ブロック塀や境界標など、現地で物理的に表示されており、通常は筆界と所有権界は一致していますが、常に一致しているとは限りません。筆界は法務局にある公図や地積測量図で確認できますが、その筆界と現在の土地の所有権界が一致しないことがあります。

たとえば、親の代にお隣り同士Aさん、Bさんの合意で、Bさんの土地の一部を譲渡しました。それにも関わらず、分筆登記と所有権移転登記をしていないとなると、国が管理している記録と実際の現場の状況は全く異なるわけです。

このように、土地を一部譲渡していたけど登記をしていなかったなどの理由により、筆界と所有権界が一致していないという状態が発生してしまう可能性もあるのです 。

3‐3.占有界とは?

土地の実際の占有(利用)状態の堺のことを言います。

時効取得で所有権は持っていないものの、隣地を越境して使用している状況です。台風や地震、津波などの自然災害により境界標がなくなってしまい、自分の土地をいつの間にか他人が利用(占有)してしまっているようなケースです。

所有権は自分がもっているものの、他人が占有(利用)している場合にはその占有(利用)部分の境目が占有界です。他人の利用(占有)をそのまま放置していると、民法で定める期間の経過(10年~)により、その利用(占有)されている場合には、その後の時効取得によりその土地の所有権を占有者に取得されてしまう可能性があるので注意が必要です 。

他人に占有されている土地は、時効取得されないように是正を求める必要があります。

4.書類上の境界と現地の境界が異なる可能性がある

境界の測り方は、その時代時代で変化してきました。そして、所有者も相続や売買によって変わっていった結果、お隣り同士の土地の境界について認識が異なっていることも知らない状況が、売買によって発覚し、問題になってしまうのです。

登記簿上の記録(筆界)と、所有状況(所有権界)が一致していないということは、その土地が特定されておらず、資産価値として保全がなされていない、という意味になります。将来的に隣接地所有者との間で境界紛争が生じる可能性があるリスクの高い土地を購入しようとする買主はいません。

ですから、将来の不動産を売却するような生前対策を行う場合、境界問題もその時に解決をしておくと効果的でしょう。

5.境界を確定させるにはどうしたらいいの?

境界を確定させるには「境界確定測量」を行います。そして、原則、隣接地の所有者全員とこの境界確定測量を行う必要があります。

隣接地というのは、その土地が接する土地のすべての土地のことですから、例えば、隣接する土地が共有名義であれば共有者全員となりますし、亡くなった人(被相続人)名義であればその相続人全員との間で境界を確定させる必要があります。

たとえば、隣接地の一つの土地が亡くなった人の名義だったり、行方不明者がいる土地だったりすると、その相続人を特定する、行方不明者を捜索するなど境界を確定させる必要があるなど作業が難航します。

特に、隣接地との関係が元々こじれているという問題があったり、代替わりがあった場合には要注意です。その境界確定のための円滑に協力を得られない可能性があるということは注意をしておく必要があります。

信託で受託者が財産管理を行っていたとしても、受託者である子と隣地所有者の人間関係が円滑でない場合には、協力を得られない可能性もありますし、遺言で相続できた場合でも、相続後に売却を行う際には隣接地全員との境界確定を行っておく必要があるのです。特に、先代同士ではご近所付き合いがあっても子世代ではないということも想定されるので、隣接地との人間関係がある方が境界問題は解決しておくべきなのです。

もし、隣接地所有者の協力が得られない場合には、境界確定訴訟や筆界特定制度の利用が必要となり、期間と費用の問題も発生してしまいますので、可能であれば、親が元気なうちに解決しておくといいでしょう。

6.まとめ

  • 信託契約や遺言をつくったとしても、境界問題の解決にはならない
  • 境界には、筆界、所有権界、占有界の3つがある
  • 境界を確定させる「境界確定測量」は、原則、隣接地の所有者全員との調整が必要
  • 境界確定は、親が元気なうちに解決しておくことが大切

境界問題対策は、信頼できる当事者間で円滑に事前におこなっていくことが大切です。当事者の認知症や死亡によって問題が生じる前の段階で、この問題を解消できれば、スムーズな不動産売却が可能になります。

また、この境界問題は、特に専門性の高いものですので、誰に相談するかが大きなカギを握っています。しっかり現地を見て対策をとれる専門家と一緒に、生前対策をご検討されるのが得策といえるでしょう。


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