家族信託・民事信託を活用すべき3つのケースとは!?設計方法がわかる家族信託活用事例

この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに350件以上の家族信託をはじめ、相続・生前対策を取り組んでいる。年間60件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

実際に我が家では家族信託の導入が必要なのだろうか?という疑問はありませんか?

家族信託は新しい制度のためわかりづらい部分があるかもしれません。
今回の記事は、家族信託・民事信託を活用すべき3つのケースを事例を元に紹介していきます。様々な家族のお話を聞かせていただき、正直、家族信託には向いていないというご家族があったことも事実です。そこで、我が家で検討するときには、このようなところを頭に入れつつ検討すると、制度のミスマッチを少なくすることができます。

これを読むことで、家族信託が使えるシーンが理解できるようになります。また、家族信託導入のメリットデメリットについても理解することができるはずです。

1.家族信託・民事信託を活用すべき3つのケース

家族信託3つの設計方法

家族信託は、家族ごとに生前の財産管理から相続後の資産承継までオーダーメイドに設計ができる生前対策方法です。
いざ信託に取り組もうとすると、信託の設計次第でどんな種類もどんな対策もできるようにでき、その手法は無数につくることができてしまいます。

家族信託は、組み合わせ次第でオーダーメイドで無限に手法をつくることができます。この方法を活用することで、多くのご家族にあった対策ができるのですが、それでは自分の家族にどのように使ったらいいのか、わからなくなってしまいがちです。
そこで、実際のご家庭に導入することで、財産管理がしやすくなる 下記の3つのパターンについて解説していきます。

(1)認知症対策
(2)数次相続対策(受益者連続型)
(3)共有対策

2.認知症対策を家族信託・民事信託で行う

家族信託

多くのお客様の相談事例の中で一番多いのが、高齢の両親が所有している財産の管理、認知症対策です。本人が認知症など、判断能力を喪失すると預貯金の管理、不動産の管理など各種の財産管理を行うことができなくなります。

そこで、親が元気な時に子との間で信託契約をし、財産の名義を子に変更することで、信託契約後の財産管理を受託者である子が行うことができます。

2-1.活用事例 高齢の親が所有する実家を管理したい

認知症対策を家族信託・民事信託で行う 事例1

現在、古い一軒家に一人暮らしをしている母(84歳)が心配な長女からの相談でした。父は他界しており、母には、長女と次女がいます。母の足腰が最近悪くなってきており、将来高齢者施設への入居を考えております。財布や預金通帳がどこにあったかわからなくなったりするなど、母の物忘れが最近増えており、認知症が心配です。

2-2.家族信託・民事信託を活用した対策

母の年齢と現在の状態から、数年後に認知症など、判断能力がなくなってしまう状態になる可能性があり、その場合には例えば施設へ入居するための自宅の管理、処分などができなくなるリスクがあります。

現在、近くに住んでいる長女が母の様子を見に、週1、2回訪問していること、今後、母の介護をしていく長女に任せる意向が母にあることから、長女に母の財産を託す家族信託を提案しました。

家族信託を利用することで、徐々に意思判断能力が低下し、判断できなくなりつつある状態でも、数年にわたっての日常生活費の送金、自宅の管理や修繕、高齢者施設へ入所後の処分などの行為も信託契約で決めた目的に従い、長女の判断で母の財産を自由に処分、活用することができます。

認知症対策を家族信託・民事信託で行う 設計

信託スキーム設計
委託者   母
受託者   長女
受益者   母
信託財産  自宅、現金
終了事由  母の死亡
帰属権利者 母の法定相続人

2-3.結果

円満な相続対策、とりわけ家族信託は、家族全員の理解と協力が必要なため、その仕組みと今後の母の介護のこと、生前対策のことを母、長女、次女を交えて説明し、家族会議を経て、今回の対策を実行することになりました。

3.数次相続対策を家族信託・民事信託で行う

数次相続対策

既に認知症の配偶者がいる、子がいない夫婦、高齢者同士の再婚など、家族を取り巻く環境は戦後、大きく変わってきています。そういった複雑な家族構成には既存の生前対策方法では対応することが難しくなってきました。

子がいない長男夫婦に財産を相続させたいが、自分の血をつながった次男の子に相続させたい、そういった特殊な事情がある家族構成の方については、自分が亡き後、認知症である妻に遺産を相続させる、その後、妻が亡くなった場合は、残った財産を長男へ、そして長男亡き後は、孫へ相続させたい、といった要望をいただくことが多くあります。

しかし、民法上、遺言は遺言者である本人の財産の承継先を決めるものであるため、自分が亡き後の後継者の財産まで効力を及ぼすことはできません

家族信託・民事信託の制度がなかった時代は、今まで、そういった相談に対して対応してきた方法として、本人と妻、長男に遺言を作成してもらうといったことをしてきました。しかし、遺言はいつでも撤回できるため(民法第1022条)、後継者が後で気が変わってしまった場合には、当初想定したいたように進まないことや、他の相続人からの遺留分請求の問題もあります

ここで活用できるのが家族信託・民事信託です。家族信託・民事信託は契約であるため、撤回をできない内容にすれば当初の意思は変更できません。

3-1.活用事例 認知症の配偶者に財産を承継させたい

数次相続対策を家族信託・民事信託で行う 事例②

重度の認知症の母が施設に入所しており、実家で父(87歳)が一人暮らしをしています。子は長男のみです。今まで母の施設の費用や日常生活費の支払いはすべて父が行ってきましたが、最近父が出先で転倒し一時入院しました。実家の名義や収益物件、金融資産の名義はすべて父であり、父が高齢で今後のこともあり心配です。

3-2.家族信託・民事信託を活用した対策

父の年齢と現在の状態を鑑みると、数年後に認知症など、意思判断能力が失われる状態になってしまう可能性があり、その場合には施設へ入居するため、自宅の管理、処分などができなくなるリスクがあること、父他界後に父の財産の遺産分割をする場合には、母の意思判断能力がないときには成年後見制度を活用する必要があり、柔軟な財産管理と遺産分割ができなくなるリスクがあります。。

現在、近くに住んでいる長男夫婦が父と母の様子を見に、週1、2回訪問していること、今後、家族全体のことを長男に任せる意向が父にあることから、長男に父の財産を託す家族信託を提案しました。

家族信託を利用することで、徐々に意思判断能力が低下し、判断できなくなりつつある状態でも、数年にわたっての日常生活費の送金、自宅の管理や修繕、高齢者施設へ入所後の処分などの行為も信託契約で決めた目的に従い、長男の判断で父財産を自由に処分、活用することができ、父他界後の第二受益者として母を定めることで、長男が受託者として母のために父から母が承継した財産(受益権)を管理できます。

信託スキーム設計
委託者   父
受託者   長男

受益者   父
第二受益者 母
信託財産  自宅、アパート、現金
終了事由  父及び母の死亡
帰属権利者 長男 

3-3.結果

父と長男に家族信託の概要と仕組みを説明し、今後の財産管理と母の介護のことなど家族会議を経て、今回の対策を実行することになりました。父他界後、母が認知症になったとしても、母は所有権ではなく、受益者として受益権を有するだけなので、母の判断能力の有無にかかわらず、受託者である長男が財産管理を継続することができます。そして、母他界後、信託財産を長男が最終的に承継することができます。

4.共有対策を家族信託・民事信託で行う

共有財産

先代の相続で不動産や自社株式を共有で相続したといった、既になってしまった共有関係を整理したいというケースはよく見受けられます。共有状態を解消するには、売買・交換・生前贈与・遺言といった方法で対応することもできます。

売買・交換で対策を取ろうとする場合には、他の方が有する共有持分を購入するための対価が必要ですし、税金負担(不動産取得税、登記費用など、譲渡所得が生じることもある。)も考慮しなければなりません。生前贈与であれば贈与税遺言であれば相続税のほかに、先述したとおり撤回のリスクもあります。

その対応策の一つとして共有者が持っている共有持分について受託者を特定の1名とする信託契約をそれぞれすることにより、名義を1本化し、受益権とする方法があります。そうすることにより、名義は受託者1名となり受託者の判断で信託財産となった共有財産を管理・処分することができます。受益者は受益権を持っているので、信託財産が収益物件であれば賃料収入を、売却した場合には売却代金を按分で取得することができます。

4-1.活用事例 相続後の共有トラブルを回避

現在、自宅を長男長女2名で所有している長男の子供からの相談でした。先代の相続を経緯に、共有になっているとのことです。長女の子夫婦には子供がいなく、長女亡き後は長男の子に自宅の権利を譲ってもよいと考えています。今後、兄妹のうち誰かが認知症になった場合、他界した場合、どうなってしまうのか心配です。

4-2.家族信託・民事信託を活用した対策

長男及び長女の年齢と現在の状態から、数年後に認知症など、意思判断能力が失われる状態になってしまう可能性があり、その場合には自宅の管理などができなくなるリスクがあります。また、どちらかに相続が発生した場合、共有持分が更に次の世代へと相続され、持分が更に細分化される可能性もあり、資産の修繕・管理、建替え、売却時には共有者全員の合意を必要とする事態となれば、状況は複雑化するリスクも生じます。

兄妹の考えとしては、今後、長男の子供に長男の子の管理を任せ、最終的には自宅を継いでいかせたいという意向があることから、権利関係が複雑になってしまうことがないよう、長男の子供に自宅を信託財産として託す家族信託・民事信託を提案しました。

家族信託・民事信託を利用し、名義を受託者である長男の子供に1本化することで、どちらか一方が徐々に意思判断能力が低下し、判断できなくなりつつある状態で受託者である長男の子供の判断で自宅の管理をすることができます。

信託スキーム設計1
委託者    長男
受託者    長男の子
受益者    長男
信託財産   自宅(長男持分)、現金
信託終了事由 長男の死亡
帰属権利者  長男の子 

信託スキーム設計2
委託者    長女
受託者    長男の子
受益者    長女
信託財産   自宅(長女持分)、
現金(管理費用)

信託終了事由 長女の死亡
帰属権利者  長男の子

4-3.結果

家族信託・民事信託の仕組みを長男、長女及びその家族に説明し、家族信託・民事信託契約を締結することにしました。
その結果、自宅の名義を受託者である長男の子供に変更することで、以後受託者である長男の子供が長男の代わりに自宅の管理を継続しすることができるようになりました。また、長男分の信託契約では金融資産の管理もできるよう多めの現金を信託し、長女分の信託契約では自宅管理費用として少額の現金に留め、長女の残りの金融資産については長女の子供に相続させるということで信託財産には組み入れないことにしました。

5.まとめ

まとめ

  • 家族信託・民事信託を活用すべき3つの基本設計は①認知症対策、②数次相続対策、③共有対策の3つ
  • 信託を活用することで、遺言ではできない二次相続対策を行うことができる
  • 3つの対策を中心に、自分の家族にとって必要な対策を考え、設計していくことが必要

上記のように家族信託は経営者でも資産家でもなく、一般の方でも利用できる仕組みです。しかも、家庭裁判所が関与をすることなく、今まで家族間で行っていた財産管理を、信託法という法律を介して信頼できる家族間の信託契約で作ることができる仕組みなのです。
成年後見制度のように全般的な代理権はありませんが、生前の財産管理対策として成年後見制度に代わる、または併用できる選択肢です。

認知症対策の高齢の親の実家管理対策の事例で、もし長女が夫の転勤に伴い引越しをする事情等で母の身の回りのことが看られなくなってしまったとしても、母の意思判断能力喪失時に成年後見制度を併用することにより、重要な財産は長女が受託者として財産管理し、成年後見人等が母の身上監護を家庭裁判所の監督のもとで行うという役割分担をすることができます。

そして、信託監督人や受益者代理人という仕組みをつかうことによって、例えば、受託者の業務を監督する信託監督人・受益者代理人として受託者として任せた長女以外の長女をを設定することで家族全体で高齢の親の財産管理をしていく仕組みをつくることもできます。

信託監督人・受益者代理人の役割については、下記の記事で詳しく解説していますので、興味ある方は確認してみてください。

家族信託・民事信託という制度を応用して活用していくと、今まで対策ができなかった下記のような事例の「認知症発症後の不動産の建設・管理」「認知症発症後の空き家の処分、有効活用」等で悩んでいる相談者に対しての対策ができるようになってきます。

・建物建設中に認知症が発生する不安があるため、その後の手続きを息子に任せたい
・認知症発症後も継続的に相続税対策をしたい
・収益物件の管理・処分を認知症発症後も積極的に行いたい

設計次第でどんな対策もとれるようにみえる家族信託。今日の3つのパターンが我が家に当てはまっている!と感じた方は一度、制度の導入を検討してもいいかもしれません。検討することで、我が家の選択肢が一つでも増えて将来の不安が、安心へと変わっていくことと思います。


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