不動産を相続したときは、登記や相続税の申告・納付などの手続きが必要です。相続税の申告・納付は相続が生じた翌日から10か月以内と定められているため、あまりゆっくりとしている時間はありません。
今回の記事のポイントは以下のとおりです。
- 遺言がなく相続人が2人以上いるときは遺産分割協議が必要
- 遺産分割には現物分割と代償分割、換価分割、共有名義の4つの方法がある
- 相続した不動産には登記(相続登記)が必要
- 相続税の極端な節税は追徴課税の対象となることがある
本記事では、不動産の相続について知っておきたいことを解説します。2024年4月1日から義務化される相続登記の流れや、遺産分割の方法も説明します。
また、相続税を節税することは大切ですが、実情とかけ離れた価格で不動産を評価することで追徴課税が実施されることもあるため注意が必要です。正しく相続税を申告・納付するためにも、ぜひご覧ください。
目次
1.不動産の相続手続きの流れ
相続財産に不動産が含まれている場合は、相続手続きが必要になります。以下の手順で相続手続きを進めていきましょう。
- 遺言の確認
- 相続人の確定
- 相続財産の確定
- 遺産分割協議
- 不動産の相続登記
- 相続税の申告・納付
各ステップを順を追って解説します。
1-1.遺言の確認
まずは被相続人(相続財産の元々の持ち主、故人)が遺言を遺していなかったか確認します。顧問弁護士が預かっていることや、自室に置いていることなどがあるため、探しておきましょう。遺言書があり、なおかつ法的にも有効なものであるときは、原則として遺言どおりに相続を進めます。
遺言書がない場合には、法定相続人で遺産分割協議をおこない、相続手続きを進めていきます。ただし、遺言があっても、次の全員が遺言どおりに相続を進めることに反対するときは、遺産分割協議による相続が可能です。
- 法定相続人全員
- 受遺者(遺言で相続を約束されていた人)
- 遺言執行者(被相続人が指名した人)
法定相続人全員が遺言書どおりの相続に反対することがあっても、受遺者や遺言執行者が遺言書の内容に異議を唱えることはないと考えられます。そのため、基本的には遺言があるときは遺言どおり、遺言がないときには遺産分割協議によって相続が決まります。
1-2.相続人の確定
相続人とは、遺産の一部あるいは全てを相続する人のことです。遺言書に相続人の指定がある場合は、それに従います。ただし、遺言書の内容がほかの法定相続人にとって不利なときなどは、遺留分の主張ができます。
例えば、法定相続人が被相続人の配偶者と子ども1人の合計2人としましょう。すべての財産を配偶者に遺すという遺言書があっても、子どもは本来の法定相続分(1/2)の半分に該当する1/4を遺留分として遺留分に相当する金銭をよこせと主張できます。
遺言書がないときは、法定相続人が相続人です。被相続人の戸籍などで、相続人の人数と氏名を確認しておきましょう。
1-3.相続財産の確定
相続人を確定したあとで、相続財産を調べます。銀行や証券会社の口座などもすべて確認しておきましょう。また、不動産の場合は、固定資産税の納税通知書などで確認できます。
固定資産税の納税通知書が見つからないときは、市区町村役場で名寄せを依頼します。名寄せとは特定の人物が所有する不動産をすべて照会する作業のことで、被相続人が複数の不動産を所有していたときなども簡単に調べられて便利です。
ただし、ほかの自治体にある不動産については名寄せはできません。不動産を所有していると思われる自治体の目星がついているときは、自治体の窓口に出かけて名寄せを依頼しましょう。
1-4.遺産分割協議
遺言書によらずに遺産相続を進める場合は、遺産分割協議をおこないます。ただし相続人が1人の場合、遺産分割協議は必要ありません。相続人が2人以上のときに遺産分割協議を実施してください。
遺産分割協議は、必ず相続人全員で協議します。話し合った内容は遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が署名し、実印を押印したうえで、印鑑証明書を提出します。
1-5.相続登記
遺産分割協議によって不動産を相続した場合は、相続登記をおこないます。2024年4月1日からは相続登記が義務化されるため、相続した不動産をそのまま放置することはできません。
なお、相続登記は、相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内におこないます。正当な理由なく相続登記をしなかった場合は、10万円以下の過料の対象となるため注意してください。詳しくは次の記事をご覧ください。
なお、弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、相続登記義務化に伴い、今所有している相続不動産についてどのような形で相続登記が必要か、相続登記に必要な書類と手続きの流れ、相続登記後に必要な不動産の管理処分方法などの無料相談をさせていただいております。どのような対策が今ならできるのかアドバイスと手続きのサポートをさせていただきますので、お気軽にお問合せください。
1-6.相続税の申告・納付
相続により得た財産などの価値を計算し、相続税を算出します。相続税の申告と納付は、相続が生じたのを知った翌日(通常は被相続人の死亡の翌日)から10か月以内に実施しなくてはいけません。
10か月は長いようで短いものです。相続人が多い場合や遠く離れて住んでいるときなどは、遺産分割協議に時間がかかり、なかなか各相続人の相続財産が確定しないこともあります。
10か月を過ぎて相続税の申告・納付をする場合、延滞税などがかかる可能性もあります。話し合いがうまくまとまらないときや、スムーズに税申告・納税を進めたいときは、遺産分割や相続を専門とする司法書士などのサポートを受けるようにしましょう。
相続不動産の評価方法
相続する不動産は、相続税申告のために正しく価値を評価する必要があります。相続税の申告・納付は、いずれも相続した不動産の価値をベースに進めていくため、早めに評価をしておきましょう。
建物
建物の価値は、基本的には「固定資産税評価額」と同じとして評価します。固定資産税評価額は、自治体から送付される固定資産税納税通知書に記載されています。
相続した不動産の固定資産税納税通知書が見つからないときは、自治体の窓口で固定資産評価証明書を発行してもらいましょう。自治体によっては郵送で対応していることもあります。
土地
土地の価値は、路線価方式と倍率方式のいずれかで評価することが一般的です。市街地の土地は路線価が定められているため、路線価と面積、道路からの奥行による補正などから計算してください。
また、市街地から外れる場所や山林などは路線価がないため、倍率方式で計算します。計算が難しいときは、専門家に依頼しましょう。
2.遺産分割の方法
遺産がすべて現金なら、分割は簡単です。それぞれの相続分に従って金額を分けるだけで、分割は完了します。例えば、遺産が1億円あり、被相続人の配偶者と子2人が法定相続分に従って分けるとしましょう。配偶者は5,000万円、子はそれぞれ2,500万円ずつ受け取れば完了です。
しかし、遺産に不動産が含まれているときは、分割が少し複雑になることがあります。主な分割方法としては、次のものが挙げられます。
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
- 共有名義
それぞれの方法について、具体的に見ていきましょう。
2-1.現物分割
現物分割とは、不動産をそのままの形で相続することです。
例えば、相続財産として投資用マンション2室と自宅があり、被相続人の配偶者と子2人が相続人とします。マンションAは長子、マンションBは次子、自宅は配偶者のように財産を現物分割すれば、複雑なやり取りがなくシンプルに分けられます。
2-2.代償分割
代償分割とは、現物分割では不公平になるときに、多く相続する人が少なく相続する人に代償となる財産を支払うことです。
例えば、相続財産として投資用マンション2室と自宅があり、被相続人の配偶者と子2人が相続人とします。配偶者が自宅を相続するという点はすんなりと決まったとしましょう。しかし、投資用マンションAの価値は1億円、マンションBの価値が1,000万円ならどうでしょうか。現物分割にすると不公平になってしまいます。
そこで検討できるのが代償分割です。マンションAを受け取る長子が、マンションBを相続する次子にいくらかの現金を渡し、相続が公平におこなわれるようにします。
2-3.換価分割
換価分割とは、すべて現金化して遺産分割することです。
先ほどの例では、マンションAを受け取る長子がマンションBを相続する次子に現金を渡すことで、相続をスムーズに進めました。しかし長子の貯金がほとんどなく、次子に適切な金額を渡せないケースもありえるでしょう。また長子・次子の両者が、マンションを相続したくない可能性もあります。
このようなときに利用できるのが換価分割です。マンションを売却し、現金化した後に2人で分けます。
2-4.共有名義
共有名義とは、不動産を複数の相続人が所有することです。
不動産の名義人は一人とは限られていないため、財産を分けずに相続する全員が名義人になります。ただし、共有名義にすると将来売却するときに名義人全員の同意が必要になるなど、手続きが複雑化することは多いです。できれば避けるようにしましょう。
3.不動産の相続登記を申請する
不動産の相続登記には必要な書類をそろえて、法務局に提出する必要があります。
3-1.相続登記の必要書類
次の書類が必要です。スムーズな手続きのためにも、早めに準備しておきましょう。なお、被相続人が引っ越しなどを繰り返している場合は、除籍謄本を集めるのに時間がかかることがあります。
遺言書があるとき | 遺言書がないとき |
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3-2.相続登記の費用
相続にかかるお金は相続税だけではありません。不動産を相続するときは相続登記をするため、登記費用がかかります。登記費用には、次のものが含まれます。
- 登録免許税
- 書類発行費用
- 専門家報酬
それぞれの費用目安を紹介します。
3-3.登録免許税
登録免許税は、不動産の名義を書き換えるとき(所有権移転登記)に必要な税金で、法務局で納めます。以下の計算式で求めます。
- 固定資産税評価額(千円単位)×0.4%=登録免許税額(百円単位)
例えば相続した不動産の固定資産税評価額が5,000万円であれば、登録免許税額は5,000万円×0.4%=20万円です。
3-4.書類発行費用
登記手続きをするときは、戸籍謄本や印鑑証明書などの書類が必要です。自治体の役場などで各書類を発行するときに1通あたり数百円の費用がかかります。
1通ごとの費用は高くありませんが、登記をする不動産が多いときなどは書類もそれぞれに必要になるため、高額になることがあります。
3-5.専門家報酬
登記手続きを司法書士に依頼する場合は、専門家報酬がかかります。ケースによっても報酬額は変わりますが、一般的には5万~8万円程度です。ただし、書類発行に離れた地域まで出張する必要があるときは、別途交通費などが請求されることもあります。
4.【2023年最新情報】不動産を購入して相続税を節税するのは有効?
節税は大切だが、やりすぎには注意が必要です。
一般的に、不動産の価値は路線価や固定資産税評価額によって求めます。しかし、路線価や固定資産税評価額が実勢価格を反映していないときは、実勢価格を反映して相続税を計算することが必要です。
意図的に自分にとって都合のよい価格で相続税などを計算すると、場合によっては追徴課税となることもあります。実際に路線価が実勢価格の4倍程度であった相続案件において、路線価で相続税を計算したところ、最高裁で違法だと判決された例もあります。不安なときは、専門家に相談して不動産の価値を評価しましょう。
5.相続登記にお困りの方は一度ご相談ください
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6.動画解説|不動産を相続した時の手続き
7.まとめ
本記事では、不動産の相続について解説しました。内容をまとめると、以下のとおりです。
- 遺言がなく相続人が2人以上いるときは遺産分割協議が必要
- 遺産分割には現物分割と代償分割、換価分割、共有名義の4つの方法がある
- 相続した不動産には登記(相続登記)が必要
- 相続税の極端な節税は追徴課税の対象となることがある
不動産の相続には登記が必要なため、相続財産が現金だけのときよりも手続きが複雑になります。不動産は分割できないことも多く、相続人が複数人いるときは、さらに複雑になることがあります。
被相続人が元気なうちから、相続について話し合っておくことで、兄弟争いなどのトラブルを防げるかもしれません。また、相続をきっかけに疎遠になることがないよう、相続についての知識を深めておきましょう。
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