家族信託すると相続税はどうなる?相続が発生したときの相続税や手続きを解説

この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに200件以上の家族信託をはじめ、相続・生前対策を取り組んでいる。年間50件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

家族信託は家族が高齢になることで生じる認知症対策として財産を家族で管理するために利用されることが多く、認知症後の問題にも柔軟に対応できることから検討する人が増えています。
タイミング的には相続を考える時期と重なることが多く、家族信託を運用中に相続が起きたら信託財産や相続税はどうなるのか?という疑問を持たれる方が多いので、今回は主に家族信託と相続税の関係について解説します。

すでに家族信託を運用中で相続が起きた際の対応の仕方に不安がある方や、家族信託の利用を検討中で相続発生の際にどうなるのか知りたいという方はぜひ参考になさってください。

今回の記事のポイントは下記のとおりです。

  • 家族信託そのものには相続税の節税効果はない
  • 信託財産や受益権が他人に承継されるタイミングで相続税が発生する
  • 相続発生により家族信託が終了するか継続するかは信託の契約内容による
  • 家族信託が終了する場合も継続する場合も信託財産と受益者個人の財産の調査や名義変更など一定の手続きが必要になる
  • 信託終了時と受益者変更時に1か月以内に税務署での手続きが必要。相続税申告期限10か月よりも税務手続きの期限が早いので注意

目次

1.「家族信託」は相続税対策になるのか?

最初に税金対策の視点から見た家族信託の有効性について確認します。

1‐1.家族信託の仕組み

自分の老後の生活や介護などに必要な資金・不動産の管理などを信頼できる家族(受託者)に託し、本人のために管理や処分を任せる仕組みです。税金の仕組みを理解するにあたっては、まずは、4つのキーワードを理解する必要があります。

委託者受託者受益者信託財産4つです。委託者が財産を所有する人、管理を任せる相手が受託者、財産の権利を持つ人が受益者、管理対象の財産が信託財産です。

家族信託では信託契約で定めた信託財産を、受託者が管理、運用します。家族信託では財産管理を託した委託者自らが受益者となり、受託者に財産管理を託す制度であることから、信託財産は受益者である本人が有することになります。

そのため、家族信託をして財産の名義が受託者に移ったとしても贈与税などの税務の負担はなく、不動産所得や金利収入も受益者本人の所得として税務申告する必要があります。

1-2 .家族信託は節税にはならない

家族信託をしても実質は本人が信託財産を有することから、課税関係は今まで通り変わりません。そのため、まず知っておいていただきたいのは、家族信託は基本的に節税効果を期待する性質のものではないということです。

受託者に信託報酬を支払う定めを信託契約に定めることにより、信託財産を減らすという仕組みをつくり、結果的にいくらかの節税作用を生むこともありますが、基本的には家族信託そのものに節税効果はありません。

家族信託では積極的な節税効果を期待することはできず、試算組み換えなど他の節税対策を併用する必要があるということは覚えておいてください。

1-3.認知症対策として活用することで事後的な相続対策も可能

家族信託の強みは節税効果ではなく、認知症など家族の高齢化に伴う諸問題について柔軟かつ的確に対処できるということです。
財産運用についての利点が強く、成年後見制度など既存の制度では満足な対応が望めないケースでも有効な対策を打つことができます。

例えば認知症になってしまうと有効な法律行為が行えないため、本人の意思で不動産の売却はできなくなります。

成年後見制度を利用すれば成年後見人が不動産宅を売ることができますが、親族が後見人になれるかどうかは裁判所が決めることなので確約されません。
仮に親族が後見人になれたとしても後見監督人が設定される可能性もあり、外部の第三者が絡んでくれば被後見人が死亡するまで報酬の支払いが必要です。

事前に家族信託を利用しておけば、本人の財産は受託者に所有権が移るので本人が認知症になっても受託者の意思で売却や資産運用が可能です。
通常、相続対策は親自身が元気なうちに考え実行しなければなりませんが、家族信託ならば受託者に財産の所有権が移っているので、親が認知症になった後でも相続対策としての不動産の売却や購入が可能になります。

なお、弊社司法書士・行政書士事務所リーガルエステートでは、200件を超える信託形成の実績と日々のアップデートにより、適切な家族信託締結をサポートします。お客様からヒアリングした事項を基にご家族に一番合う生前対策をご提案しております。無料相談も随時行っておりますので、お気軽にお問合せください。

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2.家族信託契約中に相続が発生!相続税はどうなる?

では家族信託を運用中に相続が起きた場合、相続税はどうなるのか見ていきましょう。

2-1.「信託財産(受益権)」が相続税の対象になる

家族信託でも必要な税金はしっかり課税されるとお話ししましたが、相続税は財産的価値が他者に移るタイミングで課税されます。
信託された財産は便宜上受託者に所有権が移りますが、受益者は家族信託により受益権を有することになります。

受益者が死亡すると受益権は相続財産となり相続税の対象財産となります。財産を信託財産とした場合の受益権の評価は、通常の金銭や不動産と同じ評価方法で計算されるので、所有権が信託財産となり受益権となったとしても、評価額に変わりはありません。

なお、受益権の場合であっても、家族信託をしない場合の通常の財産と同じく小規模宅地の特例や配偶者控除などを活用することができます。

2-2.家族信託で相続税が発生した場合には誰に相続税が課税される?

受益者が死亡したことにより、信託財産(受益権)が他者に承継されれば、そのタイミングで当該財産を承継した人物に相続税が課税されます。
受益者が死亡した場合の財産の引継ぎ方法については、信託契約の定め方によって異なります。

①受益者の死亡により信託契約を終了させ、帰属権利者に引き継ぐ方法
②受益者の死亡により信託契約は終了させず、受益権として引き継ぐ方法

受益者死亡により、信託契約の定めにより信託契約が終了する場合には、信託契約で定めた帰属権利者が信託財産を所有権として取得することになるため、帰属権利者が取得する財産に対して相続税が課税されます。

また、受益者の死亡により信託契約が継続する場合には、受益権が相続税の対象財産となるため、受益者の死亡により受益権を新たに取得する第二受益者に対して相続税が課税されます。

3.受益者死亡により家族信託を終了させるケース

では具体的なケースを想定して相続発生時に家族信託でどのような対応や手続きが必要になるか見てみましょう。
まずは相続発生に伴い信託が終了する場合です。

3-1.「委託者兼受益者死亡」が一般的な家族信託契約

家族信託は個別のケースで実に多種多様な組成形態となりますが、実務上で最も多く運用されているのが委託者=受益者となる自益信託です。

例えば高齢となった父親が、不動産経営を子どもに任せるために家族信託を利用するようなケースです。
この自益信託における一般的なケースで委託者兼受益者の父親が死亡するとどうなるのか確認します。

3-2.信託財産と受益者個人の財産の財産調査と相続手続きを行う

自益信託で委託者兼受益者の死亡によって信託契約が終了する場合、信託終了時の信託財産について、信託契約内で承継者(帰属権利者)の定めがあればその者が財産を取得することになり、取得した財産が相続税の対象になります。

手続上の大きなポイントとしては、信託財産だけでなく、信託財産以外の受益者個人名義の固有財産(所有権財産)について両方の財産がどれだけあるのかを調べ、財産目録を作成することです。なぜならば、信託財産も受益者個人名義の所有権財産もいずれも相続税の課税対象になるからです。

信託財産については例えば不動産などが売却され、金銭として形を変えて存在している財産や、借り入れの担保に使用されている財産もあるので、借り入れの額なども正確に把握しなければなりません。
これは受益者個人の所有権財産についても同様で、信託財産と所有権財産を合わせてどんな財産がどれだけあり、負債がどれだけ残っているのかをはっきりさせる必要があります。

相続税の計算のために上記の両財産の調査と相続税評価が必須になるので、難しければ専門家にお願いすることになります。また、受益者個人の所有権財産については民法の定めに従い相続されるため、遺言書が用意されていない場合は遺産分割協議が必要になることもあります。

遺言書があり遺言執行者が設定されていれば所有権財産については遺言執行者が、信託財産については清算受託者がそれぞれ担当して、遺言で定めた受遺者、信託契約で定めた帰属権利者に財産を引き継ぐという処理を行っていきます。また、財産調査の結果、相続税申告が必要な場合には、相続開始から10か月以内に相続税申告を行います。

3-3.受益者死亡後の不動産名義変更時に登録免許税と不動産取得税が課税される

家族信託終了時、残余財産となった信託財産については、清算受託者が信託契約に基づきその所有権を信託契約で取得する者と定めた帰属権利者に移転させる作業が発生します。

金銭など金融資産については財産引継ぎ手続き時に課税はされませんが、信託終了時に不動産を帰属権利者に移転させる場合には税金が発生します。

残余財産として不動産を帰属権利者に引き継ぐ際、信託登記の抹消と、帰属権利者に所有権を移転するための登録免許税、そして帰属権利者が不動産を取得するための不動産取得税が発生します。

  • 信託登記抹消分として不動産の個数×1000円の登録免許税
  • 受託者から帰属権利者へ所有権移転登記分として固定資産評価額の2%
  • 不動産取得税として固定資産評価額の3~4%

ただし、上記は原則の値であり、登録免許税と不動産取得税については、本人(委託者兼受益者)の相続人を帰属権利者として定めた場合など、一定の要件を満たすことにより軽減減措置の適用を受けることができます(登録免許税法第7条、地方税法第73条の7)。詳細な要件は専門家に確認をしてみてください。

その結果、遺言によって相続人に遺産が承継されるのと同視することができるので、登録免許税は0.4%に軽減され、不動産取得税が非課税になります。

3-4.家族信託終了に伴い、税務署への手続きが別途必要

信託終了に伴い、受益者から帰属権利者が信託財産を取得するため、信託財産の相続税評価額が50万円以下である場合を除き、信託終了した月の翌月末日までに「信託に関する受益者別調書」、「信託に関する受益者別調書合計表」を所轄の税務署に提出が必要です。
この手続きは相続税申告とは別途必要な手続きで、通常の相続税申告期限は相続開始から10か月以内ですが、こちらの税務手続きは期限が早いので注意が必要です。

4.受益者死亡後も信託契約を継続するケース(受益者連続信託)

受益者連続信託といって、受益者が死亡しても信託を終了させずに継続させるケースもあるので、本項で見ていきます。

4-1.受益者連続信託とは?

例えば父親が当初委託者兼受益者となり、生存中は信託財産から発生する利益を享受しますが、自身が死亡した場合に信託を終了させず、第二、第三といった後に続く受益者に受益権を引き継がせるのが受益者連続信託です。

受益者連続型信託では、第一受益者の父親が死亡したら第二受益者の母親、母親が死亡したら第三受益者の息子に受益権を引き継がせるといったことが可能です。

遺言では一世代までしか相続財産の承継先を指示できないので、受益者連続信託が可能であることは家族信託の大きな特徴の一つと言えます。受益者連続信託も永久に続けられるわけではなく一定の制限がありますが、上手く設計することで、受益者死亡後に認知症の配偶者のための財産管理を継続したい、障害がある子のための財産管理をしたいなど、管理を継続し続ける相続対策が可能になります。

4‐2.受益権と受益者個人の財産の財産調査と相続手続きを行う

受益者連続信託では第一受益者の死亡によっても信託契約が終了せず継続しますが、受益権は次の受益者に権利が移る際に遺贈により取得したとみなされるため相続税の課税対象になります 第二受益者から第三受益者など、次の受益者に受益権が移る際も同様です。

受益権が相続税の課税対象となるため、受益者死亡により信託契約が終了した場合と同じく、受益権と受益者個人の所有権財産の調査と相続税評価を行う必要があります。財産調査の結果、相続税申告が必要な場合には、相続開始から10か月以内に相続税申告を行います。

受益権については信託契約の定めにより第二受益者へと承継されますが、受益者個人の所有権財産については民法の定めに従い相続されるため、遺言書が用意されていない場合は遺産分割協議が必要になります。

4-3.信託財産に不動産がある場合は、受益者の変更に伴う登記手続きが必要

信託契約の定めに従い受益権が第二受益者へ承継されることから、不動産については受益者と委託者の変更に伴う登記手続きが必要になります。登記の変更にかかる登録免許税として不動産の個数×1000円がかかります。

4-4.受益者変更に伴い、税務署への手続きが別途必要

受益者死亡により、受益権の移動があった場合には、受託者は受益権の相続税評価額が50万円以下を除き、受益者の死亡の翌月末までに、「信託に関する受益者別調書」及び「信託に関する受益者別調書合計表」を所轄の税務署に提出しなければなりません。

通常の相続税申告期限は相続開始から10か月以内ですが、こちらの税務手続きは期限が早いので注意が必要です。

5.その他にどんな税金を支払う必要がある?

ここでは相続税以外にかかってくる可能性がある税金について見ていきます。

5-1.受益者が対象となる税金は?

信託財産から発生する利益(家賃収入など)がある場合は受益者の所得として所得税の課税対象になります。 また不動産を売却した場合その売却益が不動産譲渡所得税の課税対象になるのでこちらの税務処理も必要です。

5-2.受託者が対象となる税金は?

受託者は信託財産を預かっている立場ですが、受託者の意思で売買取引などができるように便宜的に所有権を保持している状態です。そのため不動産にかかる固定資産税は受託者が納税義務を負います。
ただし通常は信託財産から納税資金をねん出することになるので、受託者自身の固有財産から支弁する必要はありません。

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7.まとめ

  • 家族信託そのものには相続税の節税効果はない
  • 信託財産や受益権が他人に承継されるタイミングで相続税が発生する
  • 相続発生により家族信託が終了するか継続するかは信託の契約内容による
  • 家族信託が終了する場合も継続する場合も信託財産と受益者個人の財産の調査や名義変更など一定の手続きが必要になる
  • 信託終了時と受益者変更時に1か月以内に税務署での手続きが必要。相続税申告期限10か月よりも税務手続きの期限が早いので注意

今回の記事では家族信託を運用中に相続が発生したらどうなるのか、特に相続税との関係に焦点を当てて見てきました。
相続発生時には家族信託でも法務上、税務上の一定の手続きが必要になります。
家族信託利用のケースでは手続きが若干複雑になることもあるので、適宜専門家の助力を得て進めるのが安心です。

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