【司法書士が警告】自分で家族信託の契約書を作る場合はココが落とし穴・押さえておくべき5つのチェックポイント

この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに150件以上の家族信託や生前対策を取り組んでいる。年間50件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

家族信託を実際にやろうと思っても、費用が高いという声を聞くことも多くあります。なんとか自分の力で家族信託の契約書ができないかということで、書籍を購入したり、家族信託のセミナーに参加したりして情報収集して作ろうと考えている方も中にはいるのではないでしょうか。

自分の家族のために家族信託を利用するにあたって、司法書士、行政書士、弁護士などの国家資格がなければ家族信託契約に伴う登記手続きや税務申告ができないということもありません。ご自身で契約書をつくることは実際には法的な面で見ても可能です。

しかし、家族信託の作り方は多種多様。正解がありません。
ご家族で相談しあって決めた要望をたくさんつめこんで難しい契約書になると、想定外の問題が発生したり、設計後ご家族が財産を管理すること自体が難しくなったりするため、ご自身で作成する際は慎重さが必要です。

今回の記事のポイントは、下記の通りです。

  • 法的には、家族信託手続きをご自身で行うことができるが、大きなリスクがある。
  • 家族信託を設計するには、事前に①目的②信託財産③受託者の権限④当事者⑤期間の検討が重要。
  • 目的には5つのポイントがあり、それぞれで契約内容が全く異なるため事前に固めておくとよい。
  • 「終わらせ方」や「当事者をだれにするか」は、将来を見据えて設計する必要がある

これからご自身で家族信託の契約書をつくろうと考えている人に、どのように設計をしたらいいかという視点とそのリスクについてお伝えしたいと思います。

信託契約書を自分で設計できるのか!?

家族信託は、親が認知症を発症したりや判断能力がなくなったと判断されたときでも子供が親の財産を管理・運用・処分できる制度です。
そして、なにより注目度が高くなった理由の一つは「自由に契約書で設計することができること」です。それぞれのニーズやご家族状況に合わせて契約書の内容を構築・運用できるのは魅力的ですから、年々家族信託を利用する方は増えていっているのが現状です。

実際、前述でお伝えしましたが、法的に家族のために自分で家族信託の契約書をつくり、手続きをすることは可能です。資格は必要ありません。

しかし、適正に運用できるような家族信託をつくることは、知識と経験が必要な面も存在します。また、他人の財産を管理できるような大きな権限を与える行為を可能にする契約書をつくるのは、難しいと言わざるを得ません。

家族信託を利用して財産管理をする期間は、1~2年など短期間の場合もありますが、長期間にわたる内容になることもあるでしょう。まだ制度として新しい家族信託は、判例などがまだあまりないため、その運用が今後どのようになっていくのかがわからない状況なのです。

ですから、契約した後も、実際の法務や税務、金銭を管理するための口座の金融機関での運用状況など実務の動向を見ておく必要があったりと、ご自身だけで家族信託を設計すると、費用が抑えられる代わりに大きなリスクもあること知ったうえで考える必要があります。

自分で家族信託を設計するためには、何が必要?

家族信託をご自身でするためには、契約書の内容をどうするか検討する必要があります。検討材料として、下記の5つをそれぞれ解説していきたいと思います。

① 家族信託の目的
② 信託財産
③ 家族信託を使って何をするのか(受託者の権限)
④ 家族信託の当事者を決める
⑤ いつまで家族信託を続けるのかを決める

この内容は、ご自身で設計する人はもちろんのこと、専門家に任せる方も専門家に要望を伝える一つの指針として見ていただければと思います。

家族信託は何から始めるか!まずは「目的を明確」にすることが重要

家族信託を利用しようと考えるとき、「誰に任せるか」「どの財産を任せるのか」ということが先行して考えられますが、実際は「最終的に何がしたいのか」が非常に重要です。

実際、家族信託を活用するうえでは、大きな方向性として、下記5つのパターンにわかれます。

1) 認知症対策
2) 生前の財産管理対策
3) 遺産分割対策
4) 共有財産対策
5) 数次相続対策

どの目的で家族信託を行うかによって、契約内容が全く異なるので、事前に明確にしておくことをオススメします。多くは、ご両親が認知症になったら、不動産売却やお金に困らないようにしたい(認知症対策)という目的で、家族信託を活用することがほとんどです。

1)~5)のどれか一つというわけではなく、これらを組み合わせて、ご家族にとっての最良の対策にしていきます。きっかけは、認知症対策で最初は考えていたとしても、後で不動産が複数人での所有(共有)だったことが発覚し、共有財産対策も加えて対策する等、委託者になる方の情報、ご家族の意向等、情報を総合的にみて判断する必要があります。

詳しくはこちらの記事にあるので、チェックして下さい。基本の認知症対策、共有財産対策、数次相続対策の3パターンについて詳しく掲載しています。

「信託財産」と「その他の財産」の考え方

信託目的がイメージできたら、次に行うのは、信託契約に組み込む財産と組み込まない財産を決めます。ここで信託財産にするかしないかで何が違うのか、明確にしておきましょう。
家族信託は、信託財産に対して適用する契約です。ですから、委託者である親の財産が「信託財産」「その他の財産」の2つに分かれます。

上記の図にある通り、あくまで信託で託された財産を管理する子(受託者)は「信託財産に属する財産」の管理又は処分等の権限しか持たないということになります。

一方で、その他の財産は、一般原則通り民法の規定に従うことになりますので、受託者はその他の財産を管理することはできません。もし、管理・運用・処分を考えるなら、生前であれば任意後見、亡き後は遺言、生命保険などの対策を検討する必要があるのです。

例えば、不動産のみを信託財産をしたいという人もいると思いますが、その不動産の管理費用などをどこから捻出するのかという問題が発生してしまうので、要注意です。
家族信託をすると、固定資産税の納税通知書は、不動産の名義人である「受託者」に送付されることになります。また、収益物件であれば賃料収入が発生してそれで賄える場合もありますが、自宅の場合には特に収益源がありません。ですから、不動産の修繕費用等を捻出する必要があることから、不動産管理費用として金銭も併せて信託させる必要があります。

金銭を信託財産として組み込むことで、信託契約の定めに従い、自宅の管理修繕費用や施設の費用、生活費など、親の身の回りの世話のための費用も受託者の判断で支払うことができるようになり、預貯金の認知症対策としても有用です。

受託者に託す権限(やってもらいたいこと)をどこまで与える?

家族信託を使って何をしたいのか、具体的に内容を決めます。

不動産であれば、管理修繕、賃貸、売買、建替え、測量・分筆、担保設定など、どこまで行えるようにするのか。金銭についても施設など日常生活費の支払いや、借入金があればローンの支払いまで行うのか。中小企業のオーナーが有する自社株であれば議決権行使等、受託者に具体的に何をしてもらうのかということを検討していきます。

一方で、受託者が扱える権限は、制限を加えることができます。家族だとしても他人の財産を管理するというのは、それなりの義務と責任が伴います。
それを吟味したうえで、家族信託で対策のために、何をできるようにするのかを考えていくことが重要です。

受託者の権限、責任などについて詳しく書かれているコラムもありますので、チェックしてくださいね。

家族信託の当事者になる人を誰にすると効果的?

家族信託の当事者は、委託者、受託者と受益者です。この3人が家族信託のメインプレーヤーであり、それぞれを決めていきます。前章で述べた通り、受託者は大きな権限を与えられる変わりに、責任や義務が伴います。

ですから、その権限を与えるに値する方がいなければ、家族信託を活用するのは困難です。

また、ほかにも受益者を保護するために、信託監督人、受益者代理人を付けるかどうかなど、家族構成や目的、終了期間等を考慮して考えていく必要があるのです。詳しくは下記のコラムをご参照ください。

家族信託の「終わらせ方」には注意が必要!

何事も、始まりがあれば、当然終わりもあります。家族信託についても、期間を設定することができ、終わらせ方を考えることは非常に重要です。

信託の終了に伴って、信託財産は、信託契約で定めた当事者(帰属権利者といいます)のものとなります。ですから、信託が終了するときに、その帰属権利者が認知症、行方不明、相続問題の紛争に巻き込まれているといった状況にあると、事態をより複雑にしてしまうことにもなりかねません。

そのため、信託設定時にご家族の状況を踏まえ、いつまで信託を継続するかということを考える必要があるのです。

ほとんどの家族信託は、本人の財産管理対策として活用することが多いので、「委託者兼受益者(親)の死亡まで」となるでしょう。しかし、例えば、認知症の母が心配で父と子供間で父亡きあと母の財産管理まで視野にいれて家族信託を行う場合などは、父が先に亡くなったときのために「父及び母の死亡」まで家族信託を続ける契約でもよいでしょう。

ただ、自分で期間を決められるからといって、数十年以上の長期間の契約にしておくと、ご家族の状況や家族信託の運用状況など実務も変わっていることが考えられますので、あまりにも長い期間家族信託を締結するのは得策とはいえないでしょう。

家族信託の終了時に信託財産を誰に取得させるのか、その方法と考え方については、下記の記事で詳しく解説していますので確認してみてください。

まとめ

  • 法的には、家族信託手続きをご自身で行うことができるが、大きなリスクがある。
  • 家族信託を設計するには、事前に①目的②信託財産③受託者の権限④当事者⑤期間の検討が重要。
  • 目的には5つのポイントがあり、それぞれで契約内容が全く異なるため事前に固めておくとよい。
  • 「終わらせ方」や「当事者をだれにするか」は、将来を見据えて設計する必要がある

この内容を知っておくと、ご自身で行う場合だけではなく、家族信託について専門家にしっかりと要望を伝えることでき、より自信の希望に沿った契約書を作ることができるはずです。

今回のコラムでは、契約書を作るうえでの考え方についてお伝えしましたが、ご自身で手続きをするのであれば、進め方や現金を信託する場合の銀行の手続き等も出てきます。そのことについては、詳しく別記事に掲載されているので、そちらを確認してみてください。

ただし、ご自身で契約書作成は相応のリスクがあることは述べた通りです。適切な一文を入れなかっただけで、その後争族になったり相続税が多くかかってしまうケースもありますので、十分に注意する必要があります。
失敗しない信託契約書を作成するには、ご家族の要望をしっかりとヒアリングし実務に長けた専門家に任せることをオススメします。

家族信託をご自身でやりたいという方、士業・専門家にしっかりと家族信託を理解したうえで要望をお伝えしたい方のための最新情報をお届けするメルマガも配信しているので、そちらもぜひご活用くださいね。

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