【2019年12月司法書士が解説】アパートローンを組んで建築した収益物件を家族信託するには?|抵当権付不動産の信託手続のポイント

アパートローンを組んで建築した収益物件を家族信託するには?|抵当権付不動産の信託手続のポイント


相続対策を検討する高齢の親にとって、家族信託を構成する信託財産で占める割合が多いのが不動産です。
相続対策のため、金融機関からアパートローンを既に組んでおり、金融機関の抵当権が設定されている収益物件を家族信託・民事信託をしたいという相談を多く受けます。

家族信託・民事信託は委託者である親と受託者であるご家族の契約でできるので、一見すると当事者だけでできるように思われますが、金融機関との間の既存ローンの取り扱いなどが関わってくるため、家族信託・民事信託によってどのような影響が生じるのか事前に知っておく必要があります。

今回の記事は下記のとおりです。

  • アパートローンがある不動産を家族信託するには、金融機関の承諾が必要であり、承諾がない場合、契約違反となり一括返済を求められる可能性がある
  • 家族信託後の既存アパートローンの対応方法としては、①何もせず、既存ローンはそのままにする、②委託者である親から受託者である家族に債務引受をする、③既存のアパートローンを完済し、新規で借入する(借換する)の3つがある
  • 何もせず、既存ローンはそのままにする方法は親他界後の相続手続きが、通常と変わらないので法務税務ともに相続時の相続税の債務控除のリスクが少ないが、親の口座から返済を続ける必要があり、親の判断能力喪失後の契約見直しができない
  • 既存のアパートローンを受託者が信託財産から支払うべき信託財産責任負担債務とするには、当該ローンを信託契約の定めにより信託財産責任負担債務として規定し、別途、受託者がアパートローンを引き継ぐための債務引受を行う必要がある
  • 免責的債務引受では、信託財産から返済を行うことができ、契約見直しも受託者の判断で行うことができるが、ローンは親にないことから親の相続時の債務控除ができるか論点がある
  • 重畳的(併存的)債務引受では、信託財産からローンの返済を行うことができるが、委託者もローンを負っているため、委託者の判断能力の低下に伴う契約条件の見直しができず、委託者死亡時における相続税の債務控除の適用の論点については、免責的債務引受よりも疑義が少ない

この記事を読むことで、アパートローンを組んで建築した収益物件を家族信託・民事信託する際に、どのような影響がでてくるのか、そして、実際に我が家で家族信託・民事信託を勧めるべきか検討材料になるはずです。

家族信託・民事信託を活用した融資の基本的な仕組みについては、下記の記事で詳しく解説していますので、確認してみてください。

>>家族信託を活用したアパート建築・融資の方法|信託内借入と信託外借入とは!?

事例 借入がある不動産オーナーが相続対策を継続的に行えるようにしたい

高齢の父(84歳)の相続対策のため、今後、所有する不動産の相続対策を検討している長男(58歳)からの相談です。過去に建築した貸しビルのローンが残っており、今後、他の収益物件も含め売却、購入など資産組換を検討している状態です。今後、父の認知症等が進み、相続対策を遂行できなくなるリスクを心配しています。

親族図

何もしなかった場合

認知症などで父の判断能力が喪失した場合には、父の相続対策を遂行することができなくなります。

成年後見制度を使った場合

父に資産があるため、親族は成年後見人になれず、司法書士、弁護士等の専門家が成年後見人になる可能性が高く、その場合、父にとって意味のある合理的な理由のある支出しか認められません。また、融資を活用した収益物件の建築、資産の売却、購入などをすることができなくなります。

このように何もしないでいると、上記のリスクが発生するため、家族信託・民事信託を活用した対策を検討する必要があるのです。

アパートローンがある不動産を家族信託するには、金融機関の承諾が必要

アパートローンがついている不動産の場合、金融機関との間で融資を受ける際に作成した金銭消費貸借契約書には、担保不動産の譲渡・処分等をする場合には金融機関の承諾が必要な旨の条項が入っています。そのため、ローン付不動産を信託する場合には、金融機関との関係に不備がないよう、事前の説明と承諾を得る必要があり、そのローンの取り扱いをどのようにするかなど、金融機関も交えて協議を行っていく必要があります。

金銭信託

仮に金融機関の承諾を得ないで家族信託・民事信託を進めてしまうと、契約違反となり、最悪一括返済を求められる可能性があります。そして、金融機関と協議を行うにあたって、家族信託・民事信託を行うと既存のローンはどのような影響をうけるかという点について理解しておく必要があります。

家族信託・民事信託を実行時の既存アパートローンの対応方法

古いアパート

既存アパートローンがある不動産について、家族信託・民事信託を行う場合の対応方法のマニュアルがある金融機関、マニュアルがなく顧客ごとに判断を行う金融機関など対応方法は現時点では金融機関ごとに異なります。そのため、事前に金融機関への確認が必要です。
上記で述べた通り、金融機関よって既存ローンの対応方法が異なりますが、大きく分けると下記3つの対応をとることが多いです。

①何もせず、既存ローンはそのままにする
②委託者である親から受託者である家族に債務引受をする
③既存のアパートローンを完済し、新規で借入する(借換する)

それぞれのメリット・デメリットを比較し、それでも家族信託・民事信託を進めていくのか検討の上、金融機関と協議の上、手続きを行っていく必要があります。

①何もせず、既存ローンはそのままにする

家族信託・民事信託の対象財産は、不動産、金銭、有価証券などプラスの財産に限られ、ローン、保証債務などマイナスの財産は家族信託・民事信託の対象となりません。そのため、信託契約によりローン付不動産を信託したとしても、信託財産となるのはアパート等収益物件のみであり、ローンは委託者自身の債務のままであり、ローンの対象財産も信託前と同様に委託者である親個人の財産のみとなります。

債務引受をしない場合

家賃収入は受託者である家族が管理する信託口口座に入金されますが、ローンは委託者自身の債務のままなので、委託者個人の口座から引き続きローンの返済を行う必要があり、返済資金相当額を信託配当として受託者から委託者個人の口座に送金する必要があります。
税務の観点からいうと、既存ローンをそのままにしておくということは、後述する債務引受と異なり、債務が委託者に帰属していることが明らかであり、法務税務の考え方もシンプルであるため、委託者死亡時相続税を計算する際に債務控除ができなくなるという論点の疑義が発生しづらく、親相続時のローンを相続財産から差し引くことができるという債務控除の点では否認されるリスクが少ない方法です。

ローンはそのまま

しかしながら、ローンの名義は委託者のままであるため、委託者の判断能力の低下が進んだ場合には、ローンの契約条件の見直しなどには委託者の関与が必要なため、契約変更などができなくなるリスクがあります。また、金融機関側からみると、ローンが延滞した場合、ローンは委託者のままであり、受託者が信託財産から支払うべき信託財産責任負担債務でないため、受託者が有する信託口口座から相殺により差し引いて回収することも、信託口口座に対する差押え等も行うことができません。

また、ローン(債務)は法定相続人全員に法定相続されるるため、委託者他界後に信託契約で受益権(信託財産)を取得する後順位受益者又は帰属権利者とローンを引き継ぐ者を一致させるには、別途、法定相続人及び金融機関との間で債務引受手続きを行う必要があります。

②委託者である親から受託者である家族に債務引受をする

既存の委託者のローンを受託者が信託財産から支払うべき信託財産責任負担債務とするには、当該ローンを信託契約の定めにより信託財産責任負担債務として規定し(信託法21①三)、別途、受託者がアパートローンを引き継ぐための債務引受を行う必要があります。つまり、委託者の有する収益物件(プラスの財産)と合わせてローン(マイナスの財産)を債務引受することで、収益事業全体(収益物件+ローン)を信託したと同じ状態をつくることができるのです。
この手続きを経ることにより、信託財産である収益物件の賃料等を管理する信託口口座からローンの返済を行うことができるようになります。また、ローンが延滞した場合も、相殺の要件を満たしていれば、相殺による回収、信託口座に対する差押え等を行うことができます。

債務引受の方法としては、免責的債務引受重畳的(併存的)債務引受の2つの方法があります。民法上要求される契約当事者は免責的債務引受と重畳的(併存的)債務引受とで異なりますが、実務上は、いずれも債務者である委託者と引受人である受託者、そして金融機関との三者間で原則行います。

免責的債務引受と重畳的債務引受についても、効果に違いがあるため、信託を提案する専門家はそれぞれのメリット・デメリット踏まえてスキームを設計する必要があります。

免責的債務引受

今までの借入条件を維持したまま、債務を引受する方法です。
債務者である委託者の債務はなくなり、引受人である受託者が債務の負担を負い、責任財産が委託者個人の財産から信託財産と受託者の個人財産へと変わり、受託者は信託財産からローンの返済を行うことができます。そのため、委託者個人が債務を負わなくなるため、別途、委託者を連帯保証人にする、受益権に対して質権を設定するなどを金融機関から求められる場合があります。

免責的債務引受

免責的債務引受により、委託者には債務がなくなるため、委託者の判断能力の低下に伴う契約条件の見直しができなくなるリスクや委託者の死亡により、債務は相続されることはなく、以後の委託者死亡後の債務引受手続きを行う必要はなくなります。しかしながら、実務上の論点として、委託者の債務がなくなることから、委託者死亡時における相続税の計算において、債務控除が認められなくなる可能性も指摘されています。

重畳的(併存的)債務引受

従前の借入条件は維持したまま、債務者である委託者に債務を残し、引受人である受託者が連帯債務として債務を引受する方法です。
委託者に債務を残したまま、連帯債務となることから、責任財産が委託者個人の財産から委託者の個人財産のほか、信託財産と受託者の個人財産へと変わり、受託者は信託財産からローンの返済を行うことができます。

重畳的(併存的)債務引受

重畳的(併存的)債務引受により、委託者が債務を負っているため、委託者の判断能力の低下に伴う契約条件の見直しにおいては、委託者の関与も必要です。見直し時に委託者の判断能力がなければ契約条件の変更契約ができません。また、同様に委託者の死亡により、委託者の連帯債務は法定相続されるため、債務引受手続きを行う必要があります。なお、免責的債務引受と異なり、委託者に債務は残るため、委託者死亡時における相続性の債務控除の適用の論点については、免責的債務引受よりも疑義が少ないと考えられています。しかしながら、委託者と受託者が負担する連帯債務において、連帯債務者間の内部の負担は、特約がない限り、平等と推定されるため、委託者及び受託者間の連帯債務の負担割合について委託者100、受託者0とする合意を行い、債務控除を亡き委託者に確実に適用できるよう合意書を作成するなど対策をとっておく必要があります。

③既存ローンを完済し、新規で借入する(借換する)

既存ローンを完済し、新規で借入を行う方法です。既存機関で債務引受ができない場合やそもそも家族信託に対応することができない場合で、家族信託を遂行することを優先する場合には、家族信託の取り組みをしている他の金融機関への借り換えを検討します。

アパートローンの相続と債務控除の適用を考慮した上での家族信託設計方法とは?

冒頭で述べた事例について、具体的にどのように設計をしていくべきか、検討します。

債務引受をせずに家族信託を行った場合

信託財産である不動産については受託者長男が管理できるようになり、信託財産の相続対策をすすめることができます。しかしながら、ローンは父個人のままであるため、父の判断能力喪失により融資の条件交渉など契約見直しはできなくなります。また、父他界後、信託契約に基づく信託不動産の長男への帰属とは別に、法定相続したローンを長男に債務引受させる必要があります。

信託スキーム設計
委託者   父
受託者   長男
受益者   父
信託財産  実家、貸しビル、アパート、金銭
終了事由  父の死亡
帰属権利者 長男

債務引受をせずに家族信託を行った場合

家族信託及び債務引受(免責的債務引受)を行った場合

不動産を信託するとともに、父のローンは受託者長男に信託財産責任負担債務として免責的債務引受させることで、父の判断能力の低下に関わらず、受託者である長男が信託財産の相続対策をすすめることができます。父他界後、信託財産は受益権として第二受益者である長男に移動します。その後、適切な時期で信託を合意終了させ信託財産及びローンを長男に帰属させます。

信託スキーム設計
委託者   父
受託者   長男
受益者   父
第二受益者 長男
信託財産  実家、貸しビル、アパート、金銭
(父から免責的債務引受したローン)
終了事由  受託者及び受益者の合意
帰属権利者 信託終了時の最終の受益者

家族信託及び債務引受(免責的債務引受)を行った場合

上記は一例です。
ご家族の状況、そして、債務引受についての法務、税務のメリット・デメリットを考慮して専門家と相談しながら、実際のスキームを設計していく必要があります。

まとめ

  • アパートローンがある不動産を家族信託するには、金融機関の承諾が必要であり、承諾がない場合、契約違反となり一括返済を求められる可能性がある
  • 家族信託後の既存アパートローンの対応方法としては、①何もせず、既存ローンはそのままにする、②委託者である親から受託者である家族に債務引受をする、③既存のアパートローンを完済し、新規で借入する(借換する)の3つがある
  • 何もせず、既存ローンはそのままにする方法は親他界後の相続手続きが、通常と変わらないので法務税務ともに相続時の相続税の債務控除のリスクが少ないが、親の口座から返済を続ける必要があり、親の判断能力喪失後の契約見直しができない
  • 既存のアパートローンを受託者が信託財産から支払うべき信託財産責任負担債務とするには、当該ローンを信託契約の定めにより信託財産責任負担債務として規定し、別途、受託者がアパートローンを引き継ぐための債務引受を行う必要がある
  • 免責的債務引受では、信託財産から返済を行うことができ、契約見直しも受託者の判断で行うことができるが、ローンは親にないことから親の相続時の債務控除ができるか論点がある
  • 重畳的(併存的)債務引受では、信託財産からローンの返済を行うことができるが、委託者もローンを負っているため、委託者の判断能力の低下に伴う契約条件の見直しができず、委託者死亡時における相続税の債務控除の適用の論点については、免責的債務引受よりも疑義が少ない

既存アパートローン付不動産信託については、これまで述べてきた通り、多くの法務税務の論点があり、実際にまだ判例通達など実務運用が確立していない部分があります。また、実際に信託を行う際には、債務引受等のメリット・デメリットを踏まえて、金融機関と協議をしていかなければなりません。そのため、既存ローン付不動産信託においても、現時点において、対応できる金融機関がまだまだ少ないのが現状です。

今回は、既存アパートローンがある収益物件を信託する事例をもとにお伝えしましたが、家族信託を活用した新規融資の仕組みについては別の記事で詳しくまとめておりますので、興味ある方は下記の記事をご確認ください。
>>家族信託を活用したアパート建築・融資の方法|信託内借入と信託外借入とは!?
>>家族信託でアパートローンの債務控除ができる!?|信託融資(信託内借入・信託外借入)の活用方法とは

家族信託・民事信託はまだまだ新しい制度のため、法務・税務、そして、金融機関の取り扱いなど最新情報を入手しながら進めていく必要があります。しかも融資については、経験したことがない士業・専門家がほとんどです。実際に進めていく際には、家族信託・民事信託と融資の経験が多い専門家と相談しながら進めていってください。

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