親の預貯金、金融機関に認知症と知られなければ使っていいの?|認知症による銀行の口座凍結のタイミングと勝手に使うリスク

この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに200件以上の家族信託をはじめ、相続・生前対策を取り組んでいる。年間50件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

「認知症と診断されたら銀行口座が凍結されるらしい」「本人の介護費用や生活費も引き出すことができなくなるようだ」という話を聞いたことはないですか?

認知症の親の介護をする子世代にとって、最も気になる問題の一つがお金についてでしょう。「銀行に知られなければ親のキャッシュカードを使っていてもいいですよね?」という質問もよく受けます。
確かに、暗証番号さえ知っていれば誰でも預貯金の引き出しをすることは可能ですよね。

今回は、家族による引き出しのリスクも含め、後ろめたさや不安を感じてはいるものの、具体的な対策を講じていない方が非常に多い「口座凍結」について、解説していきます。
※本文中、銀行などの金融機関全般について、便宜「銀行」と記載しております。

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1.口座凍結ってどういう状態?

銀行が口座を凍結する原因には、司法書士や弁護士など法律の専門家を通じて自己破産や借金の整理をした場合や、不正利用が発覚した場合などいくつかありますが、口座名義人が死亡した場合と比較して、認知症などによる判断能力が著しく低下した場合をまずは開設します。

1‐1.預金口座の名義人が死亡した場合には、口座凍結される

預金の口座名義人が死亡した場合、銀行は死亡の事実を知った時点でその名義人の同銀行内にある全ての口座を凍結します。入出金、振り込みや引き落とし、通帳の記帳など、全ての取引ができなくなる文字通りの「凍結」です。

銀行は、しかるべき手順・手続きできちんと受け取るべき相続人を確認し、払い渡すことで、相続争いに巻き込まれないように対策しています。

1‐2.認知症などで判断能力が著しく低下した場合には取引制限がかかる

判断能力の著しい低下が銀行に発覚した場合はどうでしょうか?

死亡時の「口座凍結」とは少し異なり、取引の多くの部分が制限されるイメージです。
具体的には、定期預金の解約や入院費用や介護費用等まとまったお金の払い戻しができなくなります。ただし、年金などの振り込みはそのまま続きます。困ったことに、その口座が年金振り込み口座だった場合、引き出せない口座に今後も年金が振り込まれ続けることになるのです(引き落としの取り扱いについては、銀行ごとに違いがあるので確認が必要です。)。

なぜ「取引を制限する」のでしょうか?
銀行は顧客から財産を預かっています。その本人の意思の確認ができない状態で、定期預金の解約や、大きなお金の引き出しをすることは銀行にとっても非常にリスクを伴うことになるからです。

親の認知症に伴う年金の管理対策については、下記の記事に詳しく解説していますので、興味ある方は是非確認してみてください。

2.認知症で銀行が口座を凍結するタイミングは?

口座が凍結されるタイミングは、具体的にはいつなのでしょうか?
それは、「口座の名義人の判断能力に著しい低下があることを知った時」です。

よく誤解されているのですが、認知症と診断されたからといって、銀行口座が即凍結されるわけではありません。
銀行側が認知症の発症などにより口座名義人の「判断能力が著しく低下していることを知った時点」で、銀行取引に大幅な制限がかかること(よく言われる認知症での口座凍結)となります。つまり、本人が暗証番号を記憶しており、ATMでキャッシュカードを使って入出金をしている状況では、銀行側は口座名義人の判断能力がどの程度のものであるか、知りようがありません。

しかし、暗証番号を忘れてしまったり、通帳やキャッシュカードを紛失してしまったような場合には、窓口での手続きが必要となります。また、他のご家族から認知症であることを銀行に伝えるといった事実があった場合に、ここで、銀行に「知られる」という事態が発生する可能性が出てくるわけです。

では、銀行側は何をもって、判断能力が著しく低下していると判断するのでしょうか。
多くの場合、手続きの意思確認の際、「本人が窓口まで来られるか。名前、生年月日を言えるか。直筆で署名ができるか。」を一つの判断基準としているようです。

つまり、認知症の診断を受けていても、本人が銀行に出向き、名前や生年月日を答えること、直筆で名前を書くことができれば、銀行側から積極的に凍結を促すということはできないと言えるでしょう。

※2021年2月18日に全国銀行協会から金融機関での認知症高齢者や親族が代わりに行う金融取引の指針が発表されました。後見制度の利用を基本としつつも、親族などが代わりに行う場合における金融機関の対応の考え方を示しています。詳細は別の記事で詳しく解説していますので、興味ある方は確認してみてください。

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3.認知症の親の預貯金、銀行に黙って引き出したら犯罪になる?

「銀行に知られなければ、認知症の親のキャッシュカードで下ろしたお金を使っていてもよいですよね?犯罪になりませんか?」という質問を受けます。死亡後や判断能力がない中での家族による引き出しは、本人の意思によるものではない為、本来ならいけない事ですが、事実上黙認されているケースは多いです。

では、実際に窃盗罪や横領罪等、刑法上の罪に問われる可能性はあるのでしょうか。親の介護をしている子供が、親の口座から勝手に介護費用を引き出した場合を例にとって考えてみましょう。

確かに、実体上は窃盗罪や横領罪が成立し得ます。介護費用として使うためであっても同じです。
しかし、刑法244条1項は、「配偶者、直系血族又は同居の親族」との間でこれらの罪又はその未遂罪を犯した者については、刑を免除する」と規定しています。


また、上記の例ですと親のために介護費用として使用しており、損害が生じていない為、親が被害届を出すことは考えにくく、警察の捜査が入る可能性も低いと言えます。
ただし 、子供が、親のためではなくて、例えば自分のための生活費や遊興費として使ってしまった場合、実体上は窃盗罪や横領罪が当然成立する可能性があるので、誤解はないようにしてください。

4.認知症を銀行に知らせず親のキャッシュカードを使用する大きなリスク

将来相続人間の争いに発展するリスクがあります。

判断能力が著しく低下した親の口座を子供の1人が管理し、キャッシュカードで引き出しをしているケースで、使用用途が不明確なものがある場合、他の兄弟が納得できずトラブルになることがあります。不信感が募り、その後の関係性が悪くなるのは明らかでしょう。
他の兄弟から口座凍結依頼の連絡を受けた銀行は争いのリスクを回避するため、凍結措置(口座取引に制限をかける措置)をとる可能性があります。

将来の相続人間(家族間)でも揉めてしまうと、その後の相続手続きが思うように進まず、非常に苦労します。家族としても、他の相続人からあらぬ疑いをかけられないよう、銀行に連絡し、取引に制限をかけてもらった方が良い場合もあるのです。

別記事で、親が認知症気味になった場合に、判断能力がなくやむを得ず成年後見制度をつかった事例を紹介していますので、ご興味ある方は下記も確認してみてください。

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5.まとめ

まとめ

本章では、銀行口座の凍結全般と、口座を凍結させず親の預貯金を子が引き出し続ける場合のリスクを見てきました。以下でポイントをまとめてみましょう。

  • 認知症だからといって必ず口座が凍結するわけではなく、銀行取引の中で銀行が知ることにより凍結される可能性がある
  • 親の預貯金を親の介護費用など本人のために使用するために銀行に黙って引き出しても、刑法上の犯罪になる可能性は少ない
  • 親の死亡後、預貯金を使うと相続放棄や限定承認ができなくなるリスクがある
  • 親の預貯金を勝手に使う一番のリスクは相続人間の争いを招くことである

親の預貯金の使用が、相続放棄や限定承認ができなくなる法定単純承認にあたるかどうかについては専門家に相談するのが安心でしょう。また、不安や後ろめたさを抱えながら親のキャッシュカードで引き出しを続けるより、堂々と使用するために事前に採ることができる対策もあります。(任意後見制度・家族信託制度など)
判断能力が著しく低下した後や死亡後は、法定成年後見制度を利用したり、遺産分割協議がまとまるまで待つのも一つの手です。

現状、どのような対策を講じるのが最適か、ぜひ専門家に相談してみてください。

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