相続放棄できなくなる可能性がある?故人の入院費や葬儀費用を支払う前に注意すべきこと

この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)


司法書士法人勤務後、2013年独立開業。
司法書士としての法律知識だけではなく、「親子の腹を割った話し合い、家族会議」を通じて家族の未来をつくるお手伝いをすることをモットーに、これまでに200件以上の家族信託をはじめ、相続・生前対策を取り組んでいる。年間50件以上のセミナーを全国各地で行い、家族信託の普及にも努めている。

相続では被相続人が残した権利義務を相続人が承継することになりますが、その対象は借金などマイナスの財産も含まれます。マイナスの財産が多い場合、そのまま相続すると相続人が借金の弁済に追われることになるので、相続放棄を検討しなければいけせん。

故人が亡くなった後、入院費や葬儀費用など支払いをしていかないとまずは支払わなければならないと多くの方が考えます。しかし、この相続放棄、例えば故人の入院費を支払うなど悪気なく行った行為のために認められなくなってしまうこともあります。

今回の記事のポイントは下記のとおりです。

  • 故人の入院費などお金回りの請求は取りあえず手を付けないのが安全
  • どうしても支払いたいなら相続財産ではなく自分の財産から支出する
  • 形見分けの風習が問題になることもあるので遺品の持ち帰りはしない
  • 相続財産調査は念入りに行う
  • 判断に迷ったときやトラブルになりそうな時はすぐ専門家に相談する
  • 後からでも相続放棄が認められる可能性があるので諦めない

この記事では相続放棄を考える時にやってはいけないことや、注意すべきポイントについて見ていきますので、ぜひ参考になさってください。

故人の入院費を支払うと相続放棄ができなくなる!?その理由とは

亡くなった方がお世話になっていた病院の入院費について、相続発生後に家族が請求を受けることはよくある話です。家族としては看取ってくれた医療スタッフの方との関係もあり、速やかに支払っておきたいと思うでしょう。
しかしこの行為、場合によっては相続放棄ができなくなる理由になってしまうので要注意なのです。

相続のルールとして、民法上、相続発生後に残された相続財産を勝手に処分してしまうと、「相続財産を自分のものとして扱う意思がある=相続を認めた」とみなされます。
相続を認めることを単純承認といい、単純承認をしたとみなされると相続放棄が認められなくなってしまうのです。

民法
(法定単純承認)
第921条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

例えば、亡くなった方が持っていた財布や預金口座からお金を支弁して入院費などの支払いに充てると、相続財産に手を付けたということで相続放棄が認められなくなる可能性があります。

単純承認

民法第921条の“相続財産の全部又は一部を処分したとき”に該当するかどうかが解釈のポイントになります。厳密にいうと、故人の入院費用について弁済期限が到来したもの(債務が確定したもの)については、民法第921条の但し書き以降に規定される、”保存行為”として相続財産から支払っても問題ないという見解もありますが、専門家によっても判断が分かれます。

弁済の期限が到来していない=債務が確定していないのに勝手に支払いをすると、相続財産に手を付けたとして確実に問題になるので、安全のためにも相続財産には一切手を付けないのが理想です。

入院費の支払いの他に相続放棄をしたい方がやってはいけない注意すべきこと

入院費用の支払いの他にも、相続放棄を考える方がやってはいけない行為、注意すべき行為は色々あります。以下で具体的に確認していきます。
深く考えずやってしまいそうな行為もあるので、うっかり落とし穴にはまらないように注意してくださいね。

① 借金の支払い

相続放棄をするのであれば、故人が残した借金は一切弁済する必要はありません。もし相続財産を用いて故人が残した借金を弁済すると単純承認したとして相続放棄が認められなくなる可能性があります。
督促が来ても弁済せず、相続放棄を予定している旨を伝えてください。

家庭裁判所に相続放棄の手続きをした後であれば「相続放棄申述受理通知書」を受け取れますから、これを提示すればほとんどの債権者は納得します。

②アパートの清掃や滞納家賃の処理

故人が賃貸物件に住んでいた場合、大家さんや管理業者から部屋の清掃をお願いされたり、滞納している家賃の清算などを要求されることがあります。

部屋の清掃については、ゴミ出し程度であれば問題ありませんが、家財道具や遺品の持ち出しはしないようにしてください。これらは相続する権利のある人にわたるべき物ですので、勝手に持ち出すと単純承認したとみなされる可能性があります。特に換価価値のある品物については絶対に持ち出さないようにしましょう。

相続放棄できないアパートの清掃や滞納家賃の処理

納している家賃の支払いについても、相続放棄をする人が対応する必要はありません。大家さんや管理業者に対しては相続放棄を予定している旨を真摯に説明し理解を求めましょう。

ただし、同居していた配偶者には民法上、日常家事債務についての連帯責任があるため、相続放棄をするとしても滞納家賃の支払い義務は生じます。この場合は配偶者が自己の財産から滞納分の家賃を支払う必要があります。

民法
(日常の家事に関する債務の連帯責任)
第761条 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

③過度の形見分け

上の②にも関連しますが、部屋の掃除をしている中で故人の形見の品がでてくることもあるでしょう。

財産的価値が無いものであれば、形見分けとして人にあげたり、自分で持ち帰ることができるとする考えもあります。裁判例では、一般的財産的価値のない物、例えば着古してもはや価値のない衣服などは相続財産としては扱わず、持ち帰っても良いとした事例があります。

相続放棄できなくなる過度の形見分け

一方で新品に近い衣服や毛皮製品などは財産的価値があり相続財産に含めるべきで、これを持ち帰ったり形見分けとして処分し単純承認したとみなされたケースもあります。
実際のケースで判断が分かれますが、安全を考えるならば遺品には一切手を付けない方が安全です。

④債権を回収し、収受する行為

故人が誰かにお金を貸していて、その借金を取り立てて自ら収受すると相続財産に手を付けたと解され単純承認したとみなされる可能性があります。ただし債務者に対して支払いの請求を行うだけであれば、財産の処分にはあたらず相続放棄は可能と考えられます。

⑤預金の引き出し

故人の口座に入っている財産は相続財産ですので、これを勝手に引き出すと相続財産に手を付けたとして単純承認とみなされる可能性があります。遺産の分配が終了するまでは故人の預金には手を付けないのが基本です。

なお、死亡した人の口座は金融機関が感知することで凍結されますが、一定の条件下で葬儀代などの支払いに充てるために少額の払い戻しができることもあります。故人の預金口座の扱いや勝手に引き出した場合のリスク等について、こちらで詳しく解説していますので参考になさってください。

⑥葬儀費用の支払い

では、故人の葬儀費用を、故人の預金口座(相続財産)から支払った場合はどうなるのでしょうか?
故人の身分に相応し、一般的に許容される範囲内で葬儀を行った場合の費用を、故人の相続財産から支払っても単純承認には当たりません。

ですが、身分に相応しない、不相応に盛大な葬儀を行った場合には相続放棄が認められない場合があります。具体的な金額は明確にされていませんが、相場感を大きく超える場合には認められない可能性があるので注意をしてください。

相続放棄できなくなる葬儀

どうしてもお世話になった医療機関など故人にかかった費用を支払いをしたい場合

相続放棄を検討している方で、どうしてもお世話になった医療機関などに費用を支払いたいというのであれば、入院費などの支払いを相続財産からではなく、相続人の固有資産(ポケットマネー)から支払うのはどうでしょうか。この場合は相続財産に手を付けたわけではないので、単純承認とはみなされず、相続放棄を行うことができます。

ただしトラブルにならないよう、領収書の宛名は亡くなった方(被相続人)の名前ではなく、お金を出した相続人の名前で受け取るようにしてください。もし、相続財産を調査した後に相続放棄をする必要がないと判断した場合に、本人の代わりに立て替えた費用として証拠を残しておきましょう。

後日、相続人間で行う遺産分割協議の際に、立て替えた費用として協議を行うことができます。

遺産分割協議をした後に借金があることが分かったら相続放棄できる?できない?

遺産分割協議の財産調査中

ここで、一つ厄介なケースを挙げてみましょう。

被相続人の相続財産調査をして、借金が無いと思いこんで遺産分割協議を行い遺産の分配を確定したものの、実際には借金が残っていて債権者から取り立てを受けた、というケースです。こういうことは稀にあり、実は債権者の側もお金を貸した相手が死亡したことを知った上で、あえて一定期間督促を行わず、遺産分割協議が済んだ頃を見計らって督促をかけてくることがあります。

相続放棄をされると相続人に対して債務が引き継がれませんが、遺産分割協議が済み相続が承認されると、相続人に対して取り立てをすることができるようになるからです。相続人にとっては非常にマズイ事態ですね。

相続人に落ち度がなければ相続放棄できたケースもある

この場合、個別のケースで状況にもよりますが、遺産分割協議は「錯誤による無効」と解し、裁判所が単純承認の効果を認めなかった事例もあります。単純承認が認められないということは、相続放棄をできる可能性がある、とうことですね。
「こんなに多額の借金があることが分かっていれば、当初から相続放棄の手続きをとっていただろう」と認められれば、後からでも相続を放棄できる可能性はあるのです。

錯誤によって相続放棄できる可能性あり

ただし、相続人が故人の財産調査をしっかりやらなかったために借金の存在に気付けなかったなど、相続人側の落ち度が強いような場合には、また違った判断になる可能性はあります。被相続人の財産調査をいい加減にしてしまうと上記のような事態は十分起こり得ます。また亡くなる方も借金については家族に話さないこともよくあることです。

遺言書に借金の存在を残してくれれば対処しやすいですが、亡くなる本人も忘れている債務があるかもしれませんし、遺言書の準備をせずに亡くなってしまうことだってあります。
どんな事案でも、「もしかしたら借金があるかもしれない」という前提に立って相続財産調査を行う必要があると認識しておきましょう。マイナスの相続財産調査は経験とコツが必要ですので、素人の方では漏れが生じやすいため注意が必要です。

財産調査は相続事案に強い司法書士などの専門家にお願いしましょう。

これだけは注意しておくと安心!大切な3つの考え方

ここでは相続放棄を考える場合の心得として、注意すべきポイントをまとめてみましょう。

相続放棄の注意ポイント

家族としての心情から、故人がお世話になった入院先などから支払いの要求があるとつい応じてしまいそうになります。しかし相続放棄とは故人の権利義務の一切の引き継がない決断をすることですから、安全を優先するのであれば心を鬼にして故人に関することには一切手を付けず、どんな請求を受けても取りあえず無視するのが一番です。

お金の支払いに関することでどうしても支払いたいという時は、相続財産からではなく必ず自分のお金を使い、領収書は自分宛てで受け取るようにしてください。もし自分がしてしまった行為で相続放棄ができなくなる恐れがあったとしても、専門家に相談すれば覆すことができる余地があるかもしれません。

諦めずに相続事案に強い司法書士などの専門家に相談しましょう。

まとめ

この回では相続放棄を考える際にやってはいけないこと、注意すべきポイントについて見てきました。本章の内容をまとめてみましょう。

  • 故人の入院費などお金回りの請求は取りあえず手を付けないのが安全
  • どうしても支払いたいなら相続財産ではなく自分の財産から支出する
  • 形見分けの風習が問題になることもあるので遺品の持ち帰りはしない
  • 相続財産調査は念入りに行う
  • 判断に迷ったときやトラブルになりそうな時はすぐ専門家に相談する
  • 後からでも相続放棄が認められる可能性があるので諦めない

特に一度相続を承認した後でも、事案によっては後から相続放棄ができることもあるということはぜひ覚えておいてください。当事務所では相続問題に特に力を入れていますので、どんな事案でも全力でサポートさせて頂きます。困った時にはぜひ早めにご相談くださいね。

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